(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176215
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】ガス吸着システム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/32 20060101AFI20231206BHJP
C01B 32/50 20170101ALI20231206BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
B01D53/32
C01B32/50
C08L101/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088379
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001472
【氏名又は名称】弁理士法人かいせい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 翔太
(72)【発明者】
【氏名】大山 尚久
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 裕規
【テーマコード(参考)】
4G146
4J002
【Fターム(参考)】
4G146JA02
4G146JC25
4G146JC28
4G146JD02
4J002AA001
4J002BD141
4J002BD151
4J002CD001
4J002GD00
4J002GD02
4J002GF00
4J002GQ00
4J002GQ02
(57)【要約】
【課題】第1電極膜との間で電子の授受を行う第2電極膜の活物質を有効に利用すること。
【解決手段】ガス吸着システム100は、被回収ガスを含有する混合ガスから電気化学反応によって被回収ガスの吸着と脱離を行う第1電極膜132を含む。ガス吸着システム100は、第1電極膜132との間で電子の授受を行うための対極側活物質143と、対極側活物質143を保持すると共に導電性を有する対極側バインダ145と、を有する第2電極膜142を含む。対極側活物質143の粒径は、10μm以下である。製造においては、第2電極膜142を形成する形成工程を含む。形成工程では、少なくとも2種類の溶媒を混合することによって対極側活物質143及び対極側バインダ145に対する溶解度パラメータを調整した混合溶媒160に、対極側活物質143及び対極側バインダ145を混合する混合工程を含む。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被回収ガスを含有する混合ガスから電気化学反応によって前記被回収ガスの吸着と脱離を行う第1電極膜(132)と、
前記第1電極膜との間で電子の授受を行うための活物質(143)を有する第2電極膜(142)と、
を含み、
前記活物質の粒径は、10μm以下である、ガス吸着システム。
【請求項2】
被回収ガスを含有する混合ガスから電気化学反応によって前記被回収ガスの吸着と脱離を行う第1電極膜(132)と、
前記第1電極膜との間で電子の授受を行うための活物質(143)と、前記活物質を保持すると共に導電性を有するバインダ(145)と、を有する第2電極膜(142)と、
を含むガス吸着システムの製造方法であって、
前記第2電極膜を形成する形成工程を含み、
前記形成工程では、少なくとも2種類の溶媒を混合することによって前記活物質及び前記バインダに対する溶解度パラメータを調整した混合溶媒(160)に、前記活物質及び前記バインダを混合する混合工程を含む、ガス吸着システムの製造方法。
【請求項3】
前記混合工程では、前記活物質と前記混合溶媒とのハンセン距離が活物質用所定値以下となるように前記混合溶媒の溶解度パラメータを調整する、請求項2に記載のガス吸着システムの製造方法。
【請求項4】
前記混合工程では、前記活物質としてフェロセン骨格を持った化合物を用いる、請求項2または3に記載のガス吸着システムの製造方法。
【請求項5】
前記混合工程では、前記バインダと前記混合溶媒とのハンセン距離がバインダ用所定値以下となるように前記混合溶媒の溶解度パラメータを調整する、請求項2または3に記載のガス吸着システムの製造方法。
【請求項6】
前記混合工程では、前記バインダとしてポリフッ化ビニリデンを含むものを用いる、請求項2または3に記載のガス吸着システムの製造方法。
【請求項7】
前記混合工程では、前記活物質を溶解することが可能な第1溶媒(161)と、前記バインダを溶解することが可能な第2溶媒(162)と、を用いて、前記混合溶媒を作る、請求項2または3に記載のガス吸着システムの製造方法。
【請求項8】
前記混合工程では、前記第1溶媒として前記活物質と前記第1溶媒とのハンセン距離が第1溶媒用所定値以下となるものを用いると共に、前記第2溶媒として前記バインダと前記第2溶媒とのハンセン距離が第2溶媒用所定値以下となるものを用いる、請求項7に記載のガス吸着システムの製造方法。
【請求項9】
前記混合工程では、前記第1溶媒と前記第2溶媒とを混合したものに、前記第1溶媒及び前記第2溶媒の両方に可溶の第3溶媒(165)を混合することで前記混合溶媒を作る、請求項7に記載のガス吸着システムの製造方法。
【請求項10】
前記混合工程では、前記第1溶媒と前記第2溶媒とを混合したものに、前記第1溶媒及び前記第2溶媒の両方を親和させる界面活性剤(166)を混合することで前記混合溶媒を作る、請求項7に記載のガス吸着システムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス吸着システム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、活物質を含む電極層が集電体の表面に配置された構造が、例えば特許文献1で提案されている。電極層を製造するために、まず、活物質、バインダ、バインダが溶解しない第1溶媒、バインダが溶解しうる第2溶媒を混合することにより分散液を調製する。続いて、分散液から第2溶媒を除去することにより活物質スラリーを調製する。この後、得られた活物質スラリーを集電体の表面に塗工することにより塗膜を形成して、電極層を製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、電極層は、酸性ガスを吸着あるいは脱着させるセルの一部として構成されることが知られている。電極層は、第1電極膜、及び、第1電極膜との間で電子の授受を行う活物質を有する第2電極膜として構成される。
【0005】
発明者らは、バインダが溶解しうる第2溶媒に第2電極膜の活物質を混ぜた場合、活物質が第2溶媒に分散しないことを見出した。第2電極膜の活物質が第2溶媒に分散しないことで、活物質が凝集し、活物質の粒径が大きくなる。その結果、活物質のうちの導電パスに接触しない面積が大きくなる。このため、第2電極膜の活物質を有効に利用できず、セルの性能が低下してしまう。
【0006】
本発明は上記点に鑑み、第1電極膜との間で電子の授受を行う第2電極膜の活物質を有効に利用することができるガス吸着システムを提供することを第1の目的とする。また、ガス吸着システムの製造方法を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、被回収ガスを含有する混合ガスから電気化学反応によって被回収ガスの吸着と脱離を行う第1電極膜(132)と、第1電極膜との間で電子の授受を行うための活物質(143)を有する第2電極膜(142)と、を含む。活物質の粒径は、10μm以下である。
【0008】
これによると、第2電極膜の活物質の粒径が小さいので、第2電極膜の内部において導電パスに接触する面積が増える。これに伴い、活物質からの電荷供出量が向上する。このため、活物質から電荷を取り出しやすくなるので、第1電極膜における被回収ガスの吸着性能が向上する。したがって、第2電極膜の活物質を有効に利用することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明では、被回収ガスを含有する混合ガスから電気化学反応によって被回収ガスの吸着と脱離を行う第1電極膜(132)と、第1電極膜との間で電子の授受を行うための活物質(143)と、活物質を保持すると共に導電性を有するバインダ(145)と、を有する第2電極膜(142)と、を含むガス吸着システムの製造方法であり、第2電極膜を形成する形成工程を含む。
【0010】
形成工程では、少なくとも2種類の溶媒を混合することによって活物質及びバインダに対する溶解度パラメータを調整した混合溶媒(160)に、活物質及びバインダを混合する混合工程を含む。
【0011】
これによると、溶解度パラメータを調整した混合溶媒に活物質及びバインダを混合するので、バインダだけでなく活物質も混合溶媒に溶解することができる。これに伴い、活物質を混合溶媒に分散させることができる。このため、活物質の凝集を抑制でき、ひいては活物質の粒径が大きくなることを抑制することができる。その結果、活物質のうちの導電パスに接触しない面積を小さくすることできる。したがって、第2電極膜の活物質を有効に利用することができる。
【0012】
なお、この欄及び特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態に係るガス吸着システムに含まれる電気化学セルの断面を示した図である。
【
図2】
図1に示された第2電極膜の一部断面図である。
【
図3】対極側活物質として用いるポリビニルフェロセン(PVFc)を示した図である。
【
図6】NMPに対するシクロヘキサンの割合とハンセン距離との関係を示した図である。
【
図8】対極側活物質の最頻粒径と活物質利用率との関係を示した図である。
【
図9】第2実施形態に係る混合工程の内容を示した図である。
【
図10】第3実施形態に係る界面活性剤に付着した対極側活物質及び対極側バインダを示した図である。
【
図11】第3実施形態に係る混合工程の内容を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0015】
(第1実施形態)
本実施形態に係るガス吸着システムは、被回収ガスを含有する混合ガスから電気化学反応によって被回収ガスを回収する。被回収ガスは、例えばCO2、NOx、SOx等の酸性ガスである。混合ガスは、例えば大気である。本実施形態では、大気からCO2を回収する場合について説明する。
【0016】
図1に示されるように、ガス吸着システム100は、電気化学セル110及び制御電源120を含む。電気化学セル110は、電気化学反応によって大気からCO
2を吸着することでCO
2を回収する一方、CO
2を脱離することでCO
2を捕集可能とする装置である。
【0017】
電気化学セル110は、第1電極130、第2電極140、及びセパレータ150を有する。なお、電気化学セル110は、複数積層された電界セルスタックを構成する。
図1では、電界セルスタックを構成する複数の電気化学セル110のうちの1つが示されている。
【0018】
第1電極130、第2電極140、及びセパレータ150は、例えば板状に構成されている。第1電極130は、負極である。第2電極140は、正極である。
【0019】
第1電極130は、第1集電材131及び第1電極膜132を有する。第1集電材131は、制御電源120に接続されると共に、大気を通過させることができる多孔質状の導電性部材である。
【0020】
第1集電材131として、例えば炭素質材料や金属材料を用いることができる。第1集電材131を構成する炭素質材料として、例えばカーボン紙、炭素布、不織炭素マット、多孔質ガス拡散層(GDL)等を用いることができる。第1集電材131を構成する金属材料として、例えばAl、Ni、Ti、SUS等の金属をメッシュ状にした構造体を用いることができる。
【0021】
第1電極膜132は、CO2を含有する大気から電気化学反応によってCO2の吸着と脱離を行う作用極である。第1電極膜132は、CO2吸着材、作用極側導電助剤、及び作用極側バインダを有する。
【0022】
CO2吸着材は、電子を受け取ることでCO2を吸着し、電子を放出することで吸着していたCO2を脱離する。CO2吸着材として、例えばポリアントラキノンを用いることができる。あるいは、CO2吸着材として、カーボンや金属酸化物を用いることができる。
【0023】
作用極側導電助剤は、CO2吸着材への導電路を形成する導電物質である。作用極側導電助剤として、例えばカーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラフェン等の炭素材料を用いることができる。
【0024】
CO2吸着材と作用極側導電助剤との混合は、例えばNMP(N-メチルピロリドン)等の有機溶媒に作用極側導電助剤を溶解または分散させ、有機溶媒中で分散している作用極側導電助剤とCO2吸着材とを接触させれば良い。
【0025】
作用極側バインダは、接着力を有する保持材料である。作用極側バインダは、CO2吸着材及び作用極側導電助剤を第1集電材131に保持する。これにより、第1集電材131、CO2吸着材、及び作用極側導電助剤の間での電子の移動を確保できる。また、CO2吸着材が第1集電材131から剥離しにくくなり、電気化学セル110のCO2吸着量が経時的に低下することを抑制できる。
【0026】
作用極側バインダとして、流動性を有さない非流動性物質を用いることができる。非流動性物質として、ゲル状物質あるいは固体状物質を挙げることができる。ゲル状物質として、例えばイオン液体ゲルを用いることができる。固体状物質として、例えば固体電解質、あるいは導電性樹脂等を用いることができる。
【0027】
作用極側バインダとして固体電解質を用いる場合、CO2吸着材との接触面積を増大させるために、高分子電解質等からなるアイオノマを用いることが望ましい。作用極側バインダとして導電性樹脂を用いる場合、導電性フィラーとしてAg等を含有するエポキシ樹脂やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂等を用いることができる。
【0028】
そして、CO2吸着材、作用極側導電助剤、及び作用極側バインダの混合物が形成され、この混合物が第1集電材131に接着される。CO2吸着材及び作用極側導電助剤は、作用極側バインダに保持された状態となっている。このため、作用極側バインダによってCO2吸着材及び作用極側導電助剤を強固に保持することができる。また、CO2吸着材及び作用極側導電助剤が第1集電材131から剥離しにくくなる。
【0029】
第2電極140は、第2集電材141及び第2電極膜142を有する。第2集電材141は、制御電源120に接続される導電性部材である。第2集電材141は、第1集電材131と同じ材料を用いても良く、異なる材料を用いても良い。
【0030】
第2電極膜142は、第1電極膜132との間で電子の授受を行う対極である。
図2に示されるように、第2電極膜142は、対極側活物質143、対極側導電助剤144、及び対極側バインダ145を有する。
【0031】
対極側活物質143は、第1電極膜132のCO2吸着材との間で電子の授受を行う補助的な電気活性種である。対極側活物質143は、金属の価数変化やπ電子雲への電荷出入によって電子を出し入れすることができる物質である。
【0032】
対極側活物質143として、例えば金属イオンの価数が変化することで、電子の授受を可能とする金属錯体を用いることができる。このような金属錯体として、フェロセン、ニッケロセン、コバルトセン等のシクロペンタジエニル金属錯体、あるいはポルフィリン金属錯体等を挙げることができる。
【0033】
本実施形態では、対極側活物質143として、フェロセン骨格を持った化合物を用いる。
図3に示されるように、対極側活物質143として、フェロセンが重合化したポリビニルフェロセン(PVFc)を用いる。
【0034】
対極側導電助剤144は、対極側活物質143への導電路を形成する導電物質である。対極側導電助剤144は、対極側活物質143と混合して用いられる。対極側導電助剤144は、作用極側導電助剤と同じ材料を用いても良く、異なる材料を用いても良い。対極側導電助剤144は、例えば粒子状である。
【0035】
対極側バインダ145は、対極側活物質143及び対極側導電助剤144を第2集電材141に保持させることができ、かつ、導電性を有する材料である。対極側バインダ145は、作用極側バインダと同じ材料を用いても良く、異なる材料を用いても良い。
【0036】
セパレータ150は、第1電極膜132と第2電極膜142との間に配置される。セパレータ150は、第1電極膜132と第2電極膜142とを分離する。すなわち、セパレータ150は、第1電極膜132と第2電極膜142との物理的な接触を防ぐ。また、セパレータ150は、第1電極膜132と第2電極膜142との電気的短絡を抑制する。
【0037】
セパレータ150の材料として、セルロース膜やポリマ、ポリマとセラミックの複合材料等を用いることができる。セパレータ150として、多孔質体を用いても良い。
【0038】
なお、第1電極膜132とセパレータ150との間や第2電極膜142とセパレータ150との間にイオン伝導性部材が設けられていても良い。イオン伝導性部材は、CO2吸着材への導電を促進する。
【0039】
制御電源120は、ガス吸着システム100の電源装置である。制御電源120は、ガス吸着システム100の各装置に電源を供給する。また、制御電源120は、指令に従って、電気化学セル110に所定の電圧を印加することで、第1電極130と第2電極140との電位差を変化させる。
【0040】
ガス吸着システム100は、電気化学セル110の他に、電気化学セル110を収容する回収器、回収器に大気を導入する導入装置、回収器の内部を真空にする真空装置、脱離させたCO2を回収器からタンク等のCO2利用装置に捕集する捕集装置を備える。
【0041】
また、ガス吸着システム100は、回収器、電気化学セル110、導入装置、真空装置、及び捕集装置を制御する制御装置を備える。制御装置は、制御プログラムに従って制御電源120及び各装置の制御を行う。以上が、本実施形態に係るガス吸着システム100の全体構成である。
【0042】
次に、ガス吸着システム100の作動について説明する。ガス吸着システム100は、CO2をCO2利用装置に捕集するために、吸着工程、除去工程、脱離工程、及び回収工程を順に実行する。
【0043】
吸着工程では、制御装置は、制御電源120を制御することで電気化学セル110の第1電極130と第2電極140との間に吸着電位を印加する。これにより、第2電極膜142の対極側活物質143による電子供与と、第1電極膜132のCO2吸着材の電子求引と、を同時に実現できる。
【0044】
第1電極膜132と第2電極膜142との間に吸着電位が印加される際、第2電極膜142の対極側活物質143は電子を放出し、電子が第2電極膜142から第1電極膜132に供給される。第1電極膜132のCO2吸着材は、電子を受け取る。
【0045】
電子を受け取ったCO2吸着材はCO2の結合力が高くなり、大気に含まれるCO2を結合して吸着する。このように、電気化学セル110は、第1電極膜132と第2電極膜142との間に吸着電位が印加されることで、第2電極膜142から第1電極膜132に電子が供給され、CO2吸着材は電子が供給されることに伴ってCO2と結合する。よって、電気化学セル110は、大気からCO2を回収することができる。
【0046】
吸着工程の後、制御装置は、回収器の内部を掃気する除去工程を行う。これにより、回収器の内部が真空状態となる。
【0047】
除去工程の後、脱離工程では、制御装置は、制御電源120を制御することで脱離電位を電気化学セル110の第1電極膜132と第2電極膜142との間に印加する。これにより、第1電極膜132のCO2吸着材による電子供与と、第2電極膜142の対極側活物質143の電子求引と、を同時に実現できる。
【0048】
第1電極膜132のCO2吸着材は、電子を放出する。CO2吸着材は、CO2の結合力が低下し、CO2を脱離して放出する。第2電極膜142の対極側活物質143は、電子を受け取る。
【0049】
脱離工程の後、回収工程では、制御装置は、CO2吸着材から放出されたCO2を回収器から排出すると共に、配管を介してCO2利用装置に捕集する。この後、制御装置は、回収器の内部を大気に戻すと共に、上記のサイクルを繰り返す制御を行う。
【0050】
続いて、電気化学セル110の第2電極膜142を形成する形成工程について説明する。形成工程では、対極側活物質143及び対極側バインダ145を溶媒に溶かす混合工程を含む。
【0051】
ここで、
図4の上段に示されるように、対極側バインダ145が溶解する材料を第1溶媒として選択する場合、対極側バインダ145は第1溶媒に溶けるが、対極側活物質143は第1溶媒に溶けない。このため、第1溶媒における対極側活物質143の分散性が低下する。
【0052】
対極側活物質143は極性が少なく、極性溶媒には溶けにくい。したがって、対極側活物質143を溶解する極性溶媒には対極側活物質143が溶けにくい。例えば、第1溶媒として極性溶媒であるNMPを選択し、対極側活物質143としてPVFcを用いる場合、200倍以上の体積のNMPを用いたとしても対極側活物質143がNMPに溶解分散することはできない。このため、沈殿を有する懸濁液が作られるのみで、対極側活物質143の粒径は非常に大きい。このような状態で第2電極膜142の製膜を行うと、第2電極膜142の中で対極側活物質143が凝集して粒径が大きくなってしまい、電気化学セル110の性能を発揮できない。
【0053】
また、
図4の中段に示されるように、対極側活物質143が溶解する材料を第1溶媒として選択する場合、対極側活物質143は第1溶媒に溶けるが、対極側バインダ145は第1溶媒に溶けない。このため、第2電極膜142の膜強度を確保することが難しい。
【0054】
そこで、
図4の下段に示されるように、少なくとも2種類の溶媒を混合することによって対極側活物質143及び対極側バインダ145に対する溶解度パラメータを調整した混合溶媒160に、対極側活物質143及び対極側バインダ145を混合する。すなわち、対極側活物質143及び対極側バインダ145の両方が溶解する材料を混合溶媒160として用意する。
【0055】
本実施形態では、第1溶媒161及び第2溶媒162の2種類の溶媒を用いて、混合溶媒160を作る。第1溶媒161は、対極側活物質143を溶解することが可能な溶媒である。第1溶媒161は、疎水性を持った非極性溶媒である。第2溶媒162は、対極側バインダ145を溶解することが可能な溶媒である。第2溶媒162は、親水性を持った極性溶媒である。
【0056】
第1溶媒161として、エチルベンゼン、シクロヘキサノン、シクロヘキサン、芳香族系の高沸点炭化水素溶剤、p-シメンを用いることができる。例えば、シクロヘキサン(C6H12)は、以下の化学式(1)で表される。
【0057】
【化1】
あるいは、第1溶媒161として、安息香酸ベンジル、ジメチルシクロヘキサン、キシレン、メチルシクロヘキサンを用いることができる。例えば、安息香酸ベンジルは、以下の化学式(2)で表される。
【0058】
【化2】
あるいは、第1溶媒161として、安息香酸ブチル、ヘプタン、ヘキサンを用いることができる。例えば、安息香酸ブチルは、以下の化学式(3)で表される。
【0059】
【化3】
あるいは、第1溶媒161として、イソホロン、d-リモネン、シクロペンチルメチルエーテル、トリブチルリン酸、FAME、ジイソブチルケトン、メチルイソアミルケトン、オレイン酸メチル、アニソールを用いることができる。例えば、イソホロンは、以下の化学式(4)で表される。
【0060】
【化4】
あるいは、第1溶媒161として、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、酢酸アミル、イソソルビタン酸ジメチル、酢酸ブチル、プロピオン酸ブチル、イソ酪酸イソブチルを用いることができる。
【0061】
第2溶媒162として、非プロトン系極性溶剤を用いることができる。例えば、第2溶媒162として、NMPを用いることができる。NMPは、以下の化学式(5)で表される。
【0062】
【化5】
あるいは、第2溶媒162として、ジメチルアセトアミド(DMAc)を用いることができる。DMAcは、以下の化学式(6)で表される。
【0063】
【化6】
あるいは、第2溶媒162として、ジメチルホルムアミド(DMF)を用いることができる。DMFは、以下の化学式(7)で表される。
【0064】
【化7】
あるいは、第2溶媒162として、ジメチルスルホキシド(DMSO)を用いることができる。DMSOは、以下の化学式(8)で表される。
【0065】
【化8】
そして、対極側活物質143と混合溶媒160とのハンセン距離が活物質用所定値以下となるように混合溶媒160の溶解度パラメータを調整する。ハンセン距離は、2種類の物質の溶けやすさを表す値である。ハンセン距離の値が小さいほど、溶けやすい。
【0066】
図5に示されるように、ハンセン距離は、溶媒の分散項dD、分極項dP、水素結合項dHによって決まる。すなわち、ハンセン距離は、各材料のハンセン球の大きさに依存する。2つの溶媒を混合するので、ハンセン距離R
aは、以下の数式(1)で表される。
【0067】
【数1】
つまり、2つの溶媒の各項の数値が近いほどハンセン距離は小さくなるので、物質は溶けやすいと言える。
【0068】
このように、物質の溶解性は溶解度パラメータによってある程度見積もることができる。混合溶媒160の溶解度パラメータは、それぞれの溶媒のパラメータの体積平均となるため、溶媒の組み合わせとその比率を調整することで、混合溶媒160の溶解度パラメータを制御することが可能である。
【0069】
例えば、第1溶媒161としてシクロヘキサンを選択し、第2溶媒162としてNMPを選択し、対極側活物質143として
図3に示されたPVFcを用いるとする。この場合、
図6に示されるように、PVFcにおいて混合溶媒160との溶解度パラメータの差であるハンセン距離を、NMP単体とのハンセン距離である5.0以下とすることで溶解性の向上が可能である。例えば、NMPに対するシクロヘキサンの割合を20%から40%の範囲に設定することで、混合溶媒160に対極側活物質143であるPVFcを溶かすことができる。
【0070】
なお、ハンセン距離を所定値以下とすることは、他の溶媒、活物質の組み合わせでも同様に考えることができる。例えば、活物質用所定値の設定の考え方として、活物質用所定値は、混ぜ合わせる前のそれぞれの単体溶媒と溶かそうとする対極側活物質143のハンセン距離以下にすることができる。
【0071】
このように、PVFcについては、ハンセン距離の活物質用所定値を5.0以下とすることで、混合溶媒160に対する溶解性を向上させることができる。また、ハンセン距離の活物質用所定値を4.5以下とすることが好ましい。さらに、ハンセン距離の活物質用所定値を4.0以下とすることで、混合溶媒160に対して溶解状態とすることができる。
図6に示された例では、第2溶媒162であるNMPに第1溶媒161であるシクロヘキサンを26%混合した場合、ハンセン距離は3.178である。
【0072】
なお、第2溶媒162であるNMPに第1溶媒161である安息香酸ベンジルを42%混合した場合、ハンセン距離は3.351である。第2溶媒162であるNMPに第1溶媒161である安息香酸ブチルを48%混合した場合、ハンセン距離は3.351である。第2溶媒162であるNMPに第1溶媒161であるイソホロンを59%混合した場合、ハンセン距離は3.351である。
【0073】
また、混合溶媒160には対極側バインダ145も溶かしたいので、対極側バインダ145と混合溶媒160とのハンセン距離がバインダ用所定値以下となるように混合溶媒160の溶解度パラメータを調整する。例えば、対極側バインダ145としてPVDFを用いる場合、ハンセン距離のバインダ用所定値を10以下に設定することが好ましい。
【0074】
さらに、第1溶媒161と対極側活物質143とのハンセン距離や、第2溶媒162と対極側バインダ145とのハンセン距離が規定される。すなわち、第1溶媒161として、対極側活物質143と第1溶媒161とのハンセン距離が第1溶媒用所定値以下となるものを用いる。また、第2溶媒162として、対極側バインダ145と第2溶媒162とのハンセン距離が第2溶媒用所定値以下となるものを用いる。
【0075】
なお、ハンセン距離に対する各所定値は、混合溶媒160に対する値と、各溶媒161、162に対する値と、の少なくとも一方を満たしていれば良い。
【0076】
そして、
図7に示されるように、第1ステップとして、第1溶媒161に対極側活物質143を溶かした第1溶液163を用意する。また、第2溶媒162に対極側バインダ145を溶かした第2溶液164を用意する。
【0077】
なお、対極側導電助剤144は第1溶液163及び第2溶液164のどちらかに先に混ぜておくか、第1溶液163と第2溶液164の混合後に添加しても良い。例えば、カーボンを第1溶液163に添加することで、対極側活物質143が凝集しにくくなる。
【0078】
続いて、第2ステップとして、第1溶液163と第2溶液164を機械的に混合する。これにより、対極側活物質143及び対極側バインダ145が混合溶媒160に溶解した状態となる。
【0079】
なお、第1溶媒161と第2溶媒162を混ぜた混合溶媒160を作り、混合溶媒160に対極側活物質143を溶解し、対極側バインダ145は別途第2溶媒162に溶解した上で、混ぜ合わせても良い。その際、混合溶媒160に対極側活物質143を溶解した混合溶液に、カーボンを添加した上で、対極側バインダ145を溶解した第2溶媒162(第2溶液164)と混ぜ合わせても良い。カーボンと混ぜ合わせておくことで、混合溶液が第2溶媒162と混ざった際に、溶媒比率が変化することによる対極側活物質143の凝集を抑制することができる。
【0080】
混合工程の後、溶媒を濃縮させたペースト状態のものを第2集電材141に塗工する塗工工程を行う。また、ペースト状態の第2電極膜142を乾燥させる乾燥工程を行う。こうして、形成工程が終了する。
【0081】
発明者らは、上記の形成工程で得られた第2電極膜142を含む電気化学セル110のCO2の回収において、対極側活物質143の最頻粒径に対する活物質利用率を調べた。活物質利用率は、第2電極膜142の中に含まれている対極側活物質143に出入りする電子の数と、電気化学セル110に流れる電子の数と、の比で表される。
【0082】
また、サンプルとして、最頻粒径が10μm以下のサンプルA、最頻粒径が5μm以下のサンプルB、C、D、最頻粒径が1μm以下のサンプルDを用意した。その結果を
図8に示す。
【0083】
図8に示されるように、最頻粒径が10μm以下のサンプルAでは、活物質利用率は20%であった。20%という活物質利用率は、対極側活物質143が有効に活用されている割合である。
【0084】
最頻粒径が5μm以下のサンプルB、C、Dでは、サンプルAよりも活物質利用率が上昇した。さらに、最頻粒径が1μm以下のサンプルDの場合、活物質利用率が100%となった。よって、最終的な第2電極膜142の中の対極側活物質143の粒径が小さくなればなるほど、粒子表面と導電パスとの接触が良くなるので、対極側活物質143からの電荷供出量が向上して吸着性能が向上する。したがって、対極側活物質143の粒径を10μm以下、好ましくは1μm以下とすることで、電気化学セル110の十分な性能が得られる。
【0085】
以上説明したように、第2電極膜142を形成するに際し、溶解度パラメータを調整した混合溶媒160に対極側活物質143及び対極側バインダ145を混合する。これにより、対極側バインダ145だけでなく対極側活物質143も混合溶媒160に溶解することができる。よって、対極側活物質143を混合溶媒160に分散させることができるので、対極側活物質143の凝集を抑制できる。すなわち、第2電極膜142の中の対極側活物質143の粒径を小さくすることができる。
【0086】
このように、第2電極膜142の対極側活物質143の粒径が小さいので、対極側活物質143のうちの導電パスに接触しない面積を小さくすることできる。このため、対極側活物質143から電荷を取り出しやすくなる。したがって、第2電極膜142の対極側活物質143を有効に利用することができる。これに伴い、電気化学セル110におけるCO2の吸着性能を向上させることができる。
【0087】
なお、本実施形態の記載と特許請求の範囲の記載との対応関係については、対極側活物質143が特許請求の範囲の「活物質」に対応し、対極側バインダ145が特許請求の範囲の「バインダ」に対応する。
【0088】
(第2実施形態)
本実施形態では、主に第1実施形態と異なる部分について説明する。
図9に示されるように、混合工程において、第1溶媒161と第2溶媒162とを混合したものに、第3溶媒165を混合することで、混合溶媒160を作る。第3溶媒165を添加した後の混合溶媒160を濃縮させ、ペースト状態にしたものを第2集電材141に塗工する。なお、混合溶媒160は必ずしも濃縮させる必要はない。
【0089】
第3溶媒165は、第1溶媒161及び第2溶媒162の両方に可溶の両極性溶媒である。第3溶媒165は、対極側活物質143と対極側バインダ145とを近接して存在する状態を作ることができる。
【0090】
第3溶媒165として、メタノール(CH3-OH)、エタノール(CH3-CH2-OH)、プロパノール(CH3-(CH2)2-OH)、ブタノール等の低級アルコール類を用いることができる。これらはR-OHとして表される。Rが疎水基に対応し、OHが親水基に対応する。あるいは、第3溶媒165として、アセトン(C3H6O)等の低級ケトンを用いることができる。アセトンの場合、C3H6が疎水基に対応し、Oが親水基に対応する。
【0091】
このように、第3溶媒165を用いることで、対極側活物質143を混合溶媒160にさらに分散させやすくすることができる。また、対極側活物質143を混合溶媒160にさらに均一に混ぜることができる。
【0092】
(第3実施形態)
本実施形態では、主に第2実施形態と異なる部分について説明する。
図10及び
図11に示されるように、混合工程において、第1溶媒161と第2溶媒162とを混合したものに、界面活性剤166を混合することで混合溶媒160を作る。
【0093】
界面活性剤166は、第1溶媒161及び第2溶媒162の両方を親和させる物質である。
図10に示されるように、界面活性剤166は、疎水基167と親水基168を持つ。対極側活物質143を含む第1溶媒161の微粒子は、界面活性剤166の疎水基167に付着する。一方、対極側バインダ145を含む第2溶媒162の微粒子は、界面活性剤166の親水基168に付着する。
【0094】
したがって、
図11に示されるように、混合溶媒160においては、界面活性剤166に対極側活物質143が付着したミセル様の微粒子、対極側活物質143を含む第1溶媒161、対極側バインダ145を含む第2溶媒162が混在している。以上により、第2実施形態と同様の効果が得られる。
【0095】
(他の実施形態)
上記各実施形態で示されたガス吸着システム100の構成は一例であり、上記で示した構成に限定されることなく、本発明を実現できる他の構成とすることもできる。例えば、CO2含有ガスは大気に限られず、CO2等の酸性ガスを含むガスであれば良い。
【0096】
本明細書に開示されたガス吸着システムの特徴を以下の通り示す。
(項目1)
被回収ガスを含有する混合ガスから電気化学反応によって前記被回収ガスの吸着と脱離を行う第1電極膜(132)と、
前記第1電極膜との間で電子の授受を行うための活物質(143)を有する第2電極膜(142)と、
を含み、
前記活物質の粒径は、10μm以下である、ガス吸着システム。
(項目2)
被回収ガスを含有する混合ガスから電気化学反応によって前記被回収ガスの吸着と脱離を行う第1電極膜(132)と、
前記第1電極膜との間で電子の授受を行うための活物質(143)と、前記活物質を保持すると共に導電性を有するバインダ(145)と、を有する第2電極膜(142)と、
を含むガス吸着システムの製造方法であって、
前記第2電極膜を形成する形成工程を含み、
前記形成工程では、少なくとも2種類の溶媒を混合することによって前記活物質及び前記バインダに対する溶解度パラメータを調整した混合溶媒(160)に、前記活物質及び前記バインダを混合する混合工程を含む、ガス吸着システムの製造方法。
(項目3)
前記混合工程では、前記活物質と前記混合溶媒とのハンセン距離が活物質用所定値以下となるように前記混合溶媒の溶解度パラメータを調整する、項目2に記載のガス吸着システムの製造方法。
(項目4)
前記形成工程では、前記活物質としてフェロセン骨格を持った化合物を用いる、項目2または3に記載のガス吸着システムの製造方法。
(項目5)
前記混合工程では、前記バインダと前記混合溶媒とのハンセン距離がバインダ用所定値以下となるように前記混合溶媒の溶解度パラメータを調整する、項目2ないし4のいずれか1つに記載のガス吸着システムの製造方法。
(項目6)
前記形成工程では、前記バインダとしてポリフッ化ビニリデンを含むものを用いる、項目2ないし5のいずれか1つに記載のガス吸着システムの製造方法。
(項目7)
前記混合工程では、前記活物質を溶解することが可能な第1溶媒(161)と、前記バインダを溶解することが可能な第2溶媒(162)と、を用いて、前記混合溶媒を作る、項目2ないし6のいずれか1つに記載のガス吸着システムの製造方法。
(項目8)
前記混合工程では、前記第1溶媒として前記活物質と前記第1溶媒とのハンセン距離が第1溶媒用所定値以下となるものを用いると共に、前記第2溶媒として前記バインダと前記第2溶媒とのハンセン距離が第2溶媒用所定値以下となるものを用いる、項目7に記載のガス吸着システムの製造方法。
(項目9)
前記混合工程では、前記第1溶媒と前記第2溶媒とを混合したものに、前記第1溶媒及び前記第2溶媒の両方に可溶の第3溶媒(165)を混合することで前記混合溶媒を作る、項目7または8に記載のガス吸着システムの製造方法。
(項目10)
前記混合工程では、前記第1溶媒と前記第2溶媒とを混合したものに、前記第1溶媒及び前記第2溶媒の両方を親和させる界面活性剤(166)を混合することで前記混合溶媒を作る、項目7または8に記載のガス吸着システムの製造方法。
【符号の説明】
【0097】
132 第1電極膜
142 第2電極膜
143 対極側活物質
145 対極側バインダ
160 混合溶媒
161 第1溶媒
162 第2溶媒
165 第3溶媒
166 界面活性剤