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特開2023-176216電気化学セル、電気化学セルを備えるガス回収システム、および電気化学セルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176216
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】電気化学セル、電気化学セルを備えるガス回収システム、および電気化学セルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/32 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
B01D53/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088380
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001472
【氏名又は名称】弁理士法人かいせい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 篤人
(72)【発明者】
【氏名】木下 翔太
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 裕規
(72)【発明者】
【氏名】松田 信彦
(57)【要約】
【課題】電極性能を向上できる電気化学セル、電気化学セルを備えるガス回収システム、および電気化学セルの製造方法を提供する。
【解決手段】作用極130と対極140とを有するとともに、作用極130と対極140との間に電圧が印加されることで、対極140から作用極130に電子が供給され、作用極130は電子が供給されることに伴って標的種を捕捉する電気化学セルにおいて、作用極130および対極140の少なくとも一方を構成する電極膜142は、活物質143、導電助剤144およびバインダ145を有しており、活物質143の少なくとも一部は、電極膜142中で複数凝集した凝集塊として含有されており、凝集塊の最大径が10μm以下である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作用極(130)と対極(140)とを有するとともに、前記作用極と前記対極との間に電圧が印加されることで、前記対極から前記作用極に電子が供給され、前記作用極は電子が供給されることに伴って標的種を捕捉する電気化学セルであって、
前記作用極および前記対極の少なくとも一方を構成する電極膜(142)は、活物質(143)、導電助剤(144)およびバインダ(145)を有しており、
前記活物質の少なくとも一部は、前記電極膜中で複数凝集した凝集塊として含有されており、
前記凝集塊の最大径が10μm以下である電気化学セル。
【請求項2】
前記活物質は、前記電極膜を構成する部材(144、145)の少なくとも一つに対して、分子間力による結合または化学結合によって結合されている請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記活物質は、前記導電助剤とシランカップリング剤を介して結合されている請求項2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載の電気化学セルを備えるガス回収システム。
【請求項5】
作用極(130)と対極(140)とを有するとともに、前記作用極と前記対極との間に電圧が印加されることで、前記対極から前記作用極に電子が供給され、前記作用極は電子が供給されることに伴って標的種と結合する電気化学セルの製造方法であって、
前記電気化学セルは、前記作用極および前記対極の少なくとも一方を構成するとともに、活物質(143)および導電助剤(144)を有する電極膜(142)を有しており、
前記電極膜を形成するための電極膜ペーストを調整するペースト調整工程を備え、
前記ペースト調整工程は、
前記活物質を前記導電助剤に担持する担持工程と、
前記導電助剤に担持された前記活物質を、前記電極膜を構成する他の構成物質(145)に混合する混合工程と、を有する電気化学セルの製造方法。
【請求項6】
前記他の構成物質は、バインダ(145)である請求項5に記載の電気化学セルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気化学セル、電気化学セルを備えるガス回収システム、および電気化学セルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1では、電気化学セルを備え、電気化学反応によって二酸化炭素含有ガスから二酸化炭素を吸着して回収するガス回収ステムが提案されている。電気化学セルの電極には、活物質および導電助剤が含まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2018-533470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記特許文献1のようなガス回収システムでは、電気化学セルにおける活物質の移動および凝集により吸着性能(すなわち、セルの電極性能)が低下するおそれがある。これに対し、本発明者らは、活物質の移動を抑制するために、活物質を高分子化することを検討した。
【0005】
しかしながら、活物質を高分子化すると、分子間力の増大により活物質が凝集しやすくなる。また、大気から二酸化炭素を吸着して回収するガス回収システムに適用した場合、高分子化した活物質が酸化分解により低分子化してしまう。さらに、電極の動作中に活物質が電気泳動によって移動することにより、電極性能が低下する可能性がある。
【0006】
本開示は、上記点に鑑みて、電極性能を向上できる電気化学セル、電気化学セルを備えるガス回収システム、および電気化学セルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の電気化学セルは、作用極(130)と対極(140)とを有するとともに、作用極と対極との間に電圧が印加されることで、対極から作用極に電子が供給され、作用極は電子が供給されることに伴って標的種を捕捉する電気化学セルにおいて、
作用極および対極の少なくとも一方を構成する電極膜(142)は、活物質(143)、導電助剤(144)およびバインダ(145)を有しており、
活物質の少なくとも一部は、電極膜中で複数凝集した凝集塊として含有されており、
凝集塊の最大径が10μm以下である。
【0008】
これによれば、活物質(143)の凝集塊の径が小さいので、電極膜(142)の内部において導電パスに接触する面積が増える。これに伴い、活物質(143)からの電荷供出量が向上するので、活物質(143)から電荷を取り出しやすくなる。このため、電極性能を向上させることが可能となる。
【0009】
また、請求項5に記載の電気化学セルの製造方法は、作用極(130)と対極(140)とを有するとともに、作用極と対極との間に電圧が印加されることで、対極から作用極に電子が供給され、作用極は電子が供給されることに伴って標的種を捕捉する電気化学セルの製造方法において、
電気化学セルは、作用極および対極の少なくとも一方を構成するとともに、活物質(143)および導電助剤(144)を有する電極膜(142)を有しており、
電極膜を形成するための電極膜ペーストを調整するペースト調整工程を備え、
ペースト調整工程は、
活物質を導電助剤に担持する担持工程と、
導電助剤に担持された活物質を、電極膜を構成する他の構成物質(145)に混合する混合工程と、を有する。
【0010】
これによれば、導電性を有しており電気泳動の影響を受けにくい導電助剤(144)に、予め活物質(143)を結合させるので、電気化学セルの作動時に、電気泳動により活物質(143)が移動して凝集することを抑制できる。その結果、活物質(143)の粒径が大きくなることを抑制できるので、活物質(143)のうちの導電パスに接触する面積を大きくすることできる。したがって、電極性能を向上させることが可能となる。
【0011】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態における二酸化炭素回収システムの全体構成を示す概念図である。
図2】第1実施形態における二酸化炭素回収装置を示す斜視図である。
図3】第1実施形態における複数の電気化学セルが積層された状態を示す斜視図である。
図4】第1実施形態における電気化学セルを示す断面図である。
図5図1に示された対極側電極膜の一部断面図である。
図6】第1実施形態における混合溶媒を説明するための説明図である。
図7】対極側活物質の最頻粒径と活物質利用率との関係を示す図である。
図8】比較例における混合溶媒を説明するための説明図である。
図9】比較例における電極膜中の対極側活物質の状態を説明するための説明図ある。
図10】第1実施形態における電極膜中の対極側活物質の状態を説明するための説明図ある。
図11】実施形態および比較例の製造方法により製造された電気化学セルの吸着性能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0014】
(第1実施形態)
本開示における第1実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態は、本開示におけるガス回収システムを、二酸化炭素を含有する混合ガスから二酸化炭素を分離して回収する二酸化炭素回収システム1に適用している。したがって、本実施形態の回収対象ガス(すなわち標的種)は、二酸化炭素である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態の二酸化炭素回収システム1は、二酸化炭素回収装置10、ポンプ11、流路切替弁12、二酸化炭素利用装置13および制御装置14を備えている。
【0016】
二酸化炭素回収装置10は、供給ガスから二酸化炭素を分離して回収する装置である。二酸化炭素回収装置10は、二酸化炭素を吸着および脱離する吸着部100を有している。
【0017】
供給ガスは、二酸化炭素を含有する二酸化炭素含有ガスである。供給ガスは、二酸化炭素以外のガスも含有している。供給ガスは、例えば大気や内燃機関の排気ガスや工場からの排出ガスを用いることができる。本実施形態では、供給ガスとして大気を用いている。
【0018】
二酸化炭素回収装置10は、供給ガスが供給され、供給ガスから二酸化炭素が回収された後の排出ガス(以下、二酸化炭素除去ガスともいう)、あるいは供給ガスから回収した二酸化炭素を排出する。二酸化炭素回収装置10および吸着部100の構成については、後で詳細に説明する。
【0019】
ポンプ11は、供給ガスを二酸化炭素回収装置10に供給し、二酸化炭素または排出ガスを二酸化炭素回収装置10から排出する。図1に示す例では、二酸化炭素回収装置10のガス流れ方向の下流側にポンプ11が設けられているが、二酸化炭素回収装置10のガス流れ上流側にポンプ11が設けられていてもよい。
【0020】
流路切替弁12は、二酸化炭素回収装置10から排出される出ガスの流路を切り替える三方弁である。流路切替弁12は、二酸化炭素回収装置10から排出ガス(すなわち、二酸化炭素除去ガス)が排出される場合は、出ガスの流路を大気側に切り替え、二酸化炭素回収装置10から二酸化炭素が排出される場合は、出ガスの流路を二酸化炭素利用装置13側に切り替える。
【0021】
二酸化炭素利用装置13は、二酸化炭素を利用する装置である。二酸化炭素利用装置13としては、例えば二酸化炭素を貯蔵する貯蔵タンクや二酸化炭素を燃料に変換する変換装置を用いることができる。変換装置は、二酸化炭素をメタン等の炭化水素燃料に変換する装置を用いることができる。炭化水素燃料は、常温常圧で気体の燃料であってもよく、常温常圧で液体の燃料であってもよい。
【0022】
制御装置14は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成されている。制御装置14は、ROM内に記憶された制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、各種制御対象機器の作動を制御する。本実施形態の制御装置14は、二酸化炭素回収装置10の作動制御、ポンプ11の作動制御、流路切替弁12の流路切替制御等を行う。
【0023】
次に、本実施形態の二酸化炭素回収装置10を図2図4を用いて説明する。図2図4において、紙面上下方向がセル積層方向である。
【0024】
図2に示すように、二酸化炭素回収装置10は、吸着部100および収容部110を備えている。収容部110は、箱状に形成されており、例えば金属材料を用いて構成することができる。
【0025】
吸着部100は、電気化学セル101を有している。電気化学セル101は、収容部110に収容されている。二酸化炭素回収装置10は、電気化学セル101の電気化学反応によって二酸化炭素の吸着および脱離を行い、供給ガスから二酸化炭素を分離して回収する。
【0026】
収容部110は、2つの開口部を有している。これら2つの開口部は、供給ガスを内部に導入させる導入部110aと、排出ガスや二酸化炭素を内部から排出させる排出部(図示せず)である。ガス流れ方向は、供給ガスが収容部110を通過する際の流れ方向であり、収容部110の導入部110aから排出部に向かう方向である。
【0027】
図2において、供給ガスは、紙面手前側から紙面奥側に向かって流れるようになっている。このため、収容部110は、図中の手前側が導入部110aとなっており、図中の奥側が排出部となっている。なお、収容部110の導入部110aおよび排出部には、それぞれを開閉する開閉部材(図示せず)が設けられている。
【0028】
収容部110の内部には、複数の電気化学セル101が積層して配置されている。複数の電気化学セル101が積層されているセル積層方向は、ガス流れ方向に直交する方向となっている。個々の電気化学セル101は板状に構成されており、板面がセル積層方向と交わるように配置されている。
【0029】
図3は、複数の電気化学セル101が積層された状態を示している。図4は、1個の電気化学セル101を示している。作用極側集電材131などの電気化学セル101の構成要素は、接するように積層して配置されている。
【0030】
図3に示すように、隣接する電気化学セル101の間には、所定の隙間が設けられている。隣接する電気化学セル101の間に設けられた隙間は、供給ガスが流れるガス流路102を構成している。
【0031】
図3および図4に示すように、電気化学セル101は、作用極130、対極140、及びセパレータ150を有する。電気化学セル101は、作用極130と対極140との間に電圧が印加されることで、対極140から作用極130に電子が供給され、作用極130は電子が供給されることに伴って標的種である二酸化炭素を捕捉する。なお、電気化学セル101は、複数積層された電界セルスタックを構成する。
【0032】
作用極130は、作用極側集電材131及び作用極側電極膜132を有する。作用極側集電材131は、制御電源120に接続されると共に、大気を通過させることができる多孔質状の導電性部材である。
【0033】
作用極側集電材131として、例えば炭素質材料や金属材料を用いることができる。作用極側集電材131を構成する炭素質材料として、例えばカーボン紙、炭素布、不織炭素マット、多孔質ガス拡散層(GDL)等を用いることができる。作用極側集電材131を構成する金属材料として、例えばAl、Ni、SUS等の金属をメッシュ状にした構造体を用いることができる。
【0034】
作用極側電極膜132は、二酸化炭素を含有する大気から電気化学反応によって二酸化炭素の吸着と脱離を行う作用極である。作用極側電極膜132は、二酸化炭素吸着材、作用極側導電助剤、及び作用極側バインダを有する。
【0035】
二酸化炭素吸着材は、電子を受け取ることで二酸化炭素を吸着し、電子を放出することで吸着していた二酸化炭素を脱離する電気活性種である。二酸化炭素吸着材としては、例えば、カーボン材、金属酸化物、ポリアントラキノン等を用いることができる。
【0036】
作用極側導電助剤は、二酸化炭素吸着材への導電路を形成する導電物質である。作用極側導電助剤として、例えばカーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラフェン等の炭素材料を用いることができる。
【0037】
二酸化炭素吸着材と作用極側導電助剤との混合は、例えばNMP(N-メチルピロリドン)等の有機溶媒に作用極側導電助剤を溶解させ、有機溶媒中で分散している作用極側導電助剤と二酸化炭素吸着材とを接触させれば良い。
【0038】
作用極側バインダは、接着力を有する保持材料である。作用極側バインダは、二酸化炭素吸着材及び作用極側導電助剤を作用極側集電材131に保持する。これにより、作用極側集電材131、二酸化炭素吸着材、及び作用極側導電助剤の間での電子の移動を確保できる。また、二酸化炭素吸着材が作用極側集電材131から剥離しにくくなり、電気化学セル101のCO吸着量が経時的に低下することを抑制できる。
【0039】
作用極側バインダとして、流動性を有さない非流動性物質を用いることができる。非流動性物質として、ゲル状物質あるいは固体状物質を挙げることができる。ゲル状物質として、例えばイオン液体ゲルを用いることができる。固体状物質として、例えば固体電解質、あるいは導電性樹脂等を用いることができる。
【0040】
作用極側バインダとして固体電解質を用いる場合、二酸化炭素吸着材との接触面積を増大させるために、高分子電解質等からなるアイオノマを用いることが望ましい。作用極側バインダとして導電性樹脂を用いる場合、導電性フィラーとしてAg等を含有するエポキシ樹脂やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂等を用いることができる。
【0041】
そして、二酸化炭素吸着材、作用極側導電助剤、及び作用極側バインダの混合物が形成され、この混合物が作用極側集電材131に接着される。二酸化炭素吸着材及び作用極側導電助剤は、作用極側バインダの内部に保持された状態となっている。このため、作用極側バインダによって二酸化炭素吸着材及び作用極側導電助剤を強固に保持することができる。また、二酸化炭素吸着材及び作用極側導電助剤が作用極側集電材131から剥離しにくくなる。
【0042】
対極140は、対極側集電材141及び対極側電極膜142を有する。対極側集電材141は、制御電源120に接続される導電性部材である。対極側集電材141は、作用極側集電材131と同じ材料を用いても良く、異なる材料を用いても良い。
【0043】
対極側電極膜142は、作用極側電極膜132との間で電子の授受を行う。図5に示されるように、対極側電極膜142は、対極側活物質143、対極側導電助剤144、及び対極側バインダ145を有する。
【0044】
対極側活物質143は、二酸化炭素吸着材との間で電子の授受を行う補助的な電気活性種である。対極側活物質143は、金属の価数変化やπ電子雲への電荷出入によって電子を出し入れすることができる物質である。対極側活物質143の少なくとも一部は、対極側電極膜142中で複数凝集した凝集塊として含有されている。
【0045】
対極側活物質143として、例えば金属イオンの価数が変化することで、電子の授受を可能とする金属錯体を用いることができる。このような金属錯体として、フェロセン、ニッケロセン、コバルトセン等のシクロペンタジエニル金属錯体、あるいはポルフィリン金属錯体等を挙げることができる。
【0046】
本実施形態では、対極側活物質143として、フェロセン骨格を持った化合物を用いる。具体的には、対極側活物質143として、フェロセンが重合化したポリビニルフェロセン(PVFc)を用いる。
【0047】
対極側導電助剤144は、対極側活物質143への導電路を形成する導電物質である。対極側導電助剤144は、対極側活物質143と混合して用いられる。対極側導電助剤144は、作用極側導電助剤と同じ材料を用いても良く、異なる材料を用いても良い。対極側導電助剤144は、例えば粒子状である。
【0048】
対極側バインダ145は、対極側活物質143及び対極側導電助剤144を対極側集電材141に保持させることができ、かつ、導電性を有する材料である。対極側バインダ145は、作用極側バインダと同じ材料を用いても良く、異なる材料を用いても良い。
【0049】
対極側活物質143は、対極側電極膜142を構成する部材(すなわち、対極側導電助剤144および対極側バインダ145)の少なくとも一つに対して、分子間力による結合または化学結合によって結合されている。
【0050】
図4に戻り、セパレータ150は、作用極側電極膜132と対極側電極膜142との間に配置される。セパレータ150は、作用極側電極膜132と対極側電極膜142とを分離する。すなわち、セパレータ150は、作用極側電極膜132と対極側電極膜142との物理的な接触を防ぐ。また、セパレータ150は、作用極側電極膜132と対極側電極膜142との電気的短絡を抑制する。
【0051】
セパレータ150として、セルロース膜やポリマ、ポリマとセラミックの複合材料等からなるセパレータを用いることができる。セパレータ150として、多孔質体のセパレータを用いても良い。
【0052】
なお、作用極側電極膜132とセパレータ150との間や対極側電極膜142とセパレータ150との間にイオン伝導性部材が設けられていても良い。イオン伝導性部材は、二酸化炭素吸着材への導電を促進する。本実施形態では、イオン導電性部材として、電解液が設けられている。電解液は、イオン液体を用いることができる。イオン液体は、常温常圧下で不揮発性を有する液体の塩である。
【0053】
制御電源120は、二酸化炭素回収システム1の電源装置である。制御電源120は、二酸化炭素回収システム1の各装置に電源を供給する。また、制御電源120は、指令に従って、電気化学セル101に所定の電圧を印加することで、作用極130と対極140との電位差を変化させる。作用極130は負極であり、対極140は正極である。
【0054】
電気化学セル101は、作用極130と対極140の電位差を変化させることで、作用極130に二酸化炭素を吸着させる吸着工程と、作用極130から二酸化炭素を脱離させる脱離工程を切り替えて作動することができる。吸着工程は電気化学セル101を充電する充電工程であり、脱離工程は電気化学セル101を放電する放電工程である。
【0055】
吸着工程では、作用極130と対極140の間に第1電圧V1が印加され、対極140から作用極130に電子が供給される。第1電圧V1では、作用極電位<対極電位となっている。第1電圧V1は、例えば0.5~2.0Vの範囲内とすることができる。
【0056】
脱離工程では、作用極130と対極140の間に第2電圧V2が印加され、作用極130から対極140に電子が供給される。第2電圧V2は、第1電圧V1と異なる電圧である。第2電圧V2は、第1電圧V1より低い電圧であればよく、作用極電位と対極電位の大小関係は限定されない。つまり、脱離工程では、作用極電位<対極電位でもよく、作用極電位=対極電位でもよく、作用極電位>対極電位でもよい。
【0057】
次に、本実施形態の電気化学セル101の対極側電極膜142を形成する形成工程について説明する。形成工程は、対極側電極膜142を形成するための電極膜ペーストを調整するペースト調整工程を含んでいる。
【0058】
ペースト調整工程では、まず、対極側活物質143を対極側導電助剤144に担持する担持工程を行う。担持工程では、対極側活物質143を対極側導電助剤144に結合させる。本実施形態では、対極側活物質143としてポリビニルフェロセン(PVFc)を用いるとともに、対極側導電助剤144としてカーボンブラック(CB)を用いている。
【0059】
ここで、対極側導電助剤144であるカーボンブラックに対極側活物質143を化学結合させるには、カーボンブラックの表面に官能基を付加し、当該官能基によって対極側活物質143と結合させることが有効である。このとき、カーボンブラックの表面に付加する官能基としては、カルボキシル基、ヒドロキシ基、キノン基、アルデヒド基、カルボニル基等を例示できる。そして、カーボンブラックの表面に付加した官能基と対極側活物質143とによりエステル結合やアミド結合を形成させることによって、カーボンブラックに対極側活物質143を結着させる。
【0060】
また、対極側導電助剤144であるカーボンブラックに対極側活物質143を分子間力により結合させるには、カーボンブラックの表面に不対電子やラジカル等の活性反応点を作る手法が有効である。
【0061】
上述したような官能基や活性反応点をカーボンブラックの表面に形成する方法としては、酸処理、高温加熱酸化、放射線グラフト、電子線グラフト等を例示できる。
【0062】
続いて、対極側導電助剤144に担持された対極側活物質143を、対極側電極膜142を構成する他の構成物質である対極側バインダ145に混合する混合工程を行う。混合工程では、対極側活物質143が担持された対極側導電助剤144を、有機溶媒(すなわち溶剤)147および対極側バインダ145と混合する。これにより、図6に示すように、有機溶媒147および対極側バインダ145が混合された混合溶媒中に、対極側活物質143が担持された対極側導電助剤144を分散させる。その後、混合溶媒を濃縮させて電極膜ペーストが調整される。本実施形態では、有機溶媒147としてN-メチルピロリドン(NMP)を用いるとともに、対極側バインダ145としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いている。
【0063】
ペースト調整工程の後、電極膜ペーストを対極側集電材141に塗布する塗布工程を行う。また、電極膜ペーストを乾燥させる乾燥工程を行う。こうして、形成工程が終了する。
【0064】
ここで、本発明者らは、上記の形成工程で得られた対極側電極膜142を含む電気化学セル101を用いた二酸化炭素の回収において、対極側活物質143の最頻粒径に対する活物質利用率を調べた。活物質利用率は、対極側電極膜142の中に含まれている対極側活物質143に出入りする電子の数と、電気化学セル101に流れる電子の数と、の比で表される。
【0065】
また、サンプルとして、最頻粒径が10μm以下のサンプルA、最頻粒径が5μm以下のサンプルB、C、D、最頻粒径が1μm以下のサンプルDを用意した。その結果を図7に示す。
【0066】
図7に示されるように、最頻粒径が10μm以下のサンプルAでは、活物質利用率は20%であった。20%という活物質利用率は、対極側活物質143が有効に活用されている割合である。
【0067】
最頻粒径が5μm以下のサンプルB、C、Dでは、サンプルAよりも活物質利用率が上昇した。さらに、最頻粒径が1μm以下のサンプルDの場合、活物質利用率が100%となった。よって、最終的な対極側電極膜142の中の対極側活物質143の粒径が小さくなればなるほど、粒子表面と導電パスとの接触が良くなるので、対極側活物質143からの電荷供出量が向上して吸着性能が向上する。したがって、対極側活物質143の凝集塊の最大径を10μm以下、好ましくは1μm以下とすることで、電気化学セル101の十分な性能が得られる。
【0068】
以上説明したように、本実施形態の電気化学セル101では、対極側電極膜142において対極側活物質143が、対極側電極膜142中で複数凝集した凝集塊として含有されているとともに、当該凝集塊の最大径が10μm以下である。これによれば、対極側活物質143の凝集塊の径が小さいので、対極側電極膜142の内部において導電パスに接触する面積が増える。これに伴い、対極側活物質143からの電荷供出量が向上するので、対極側活物質143から電荷を取り出しやすくなる。このため、対極140の電極性能を向上させることが可能となる。
【0069】
また、本実施形態の電気化学セル101では、対極側活物質143は、対極側電極膜142を構成する部材である対極側導電助剤144および対極側バインダ145の少なくとも一つに対して、分子間力による結合または化学結合によって結合されている。具体的には、本実施形態では、対極側活物質143は、対極側導電助剤144であるカーボンに化学結合により結合されている。これによれば、対極側活物質143は対極側導電助剤144等とともに分散するので、移動や凝集を抑制することができる。
【0070】
さらに、電荷が移動する対極側導電助剤144に対極側活物質143が結合されているので、対極側活物質143の反応が生じやすくなる。これにより、過電圧の低減を図ることが可能となる。
【0071】
また、本実施形態では、対極側電極膜142を形成するに際し、対極側導電助剤144に、予め対極側活物質143を担持させる。対極側導電助剤144は、導電性を有しており、電気泳動の影響を受けにくい。したがって、対極側導電助剤144と結合している対極側活物質143も電気泳動の影響を受けにくくなる。これにより、電気化学セル101の作動時に、電気泳動により対極側活物質143が移動して凝集することを抑制できる。その結果、対極側活物質143の粒径が大きくなることを抑制できるので、対極側活物質143のうちの導電パスに接触する面積を大きくすることできる。したがって、電極性能を向上させることが可能となる。
【0072】
ここで、本発明者らは、本実施形態における対極側電極膜142を形成する形成工程の効果を従来技術による形成工程で対極側電極膜142を形成した場合と比較した。以下に、比較例における対極側電極膜142の形成工程について説明する。
【0073】
比較例では、図8に示すように、対極側活物質143を、有機溶媒147および対極側バインダ145の混合溶液に分散させた後、対極側導電助剤144を混合して、電極膜ペーストを調整する。その後、本実施形態と同様に、塗布工程および乾燥工程を行う。
【0074】
比較例では、本実施形態と同様に、対極側活物質143としてPVFcを用い、対極側導電助剤144としてCBを用い、有機溶媒147としてNMPを用い、対極側バインダ145としてPVDFを用いている。
【0075】
比較例における対極側電極膜142の形成工程では、対極側活物質143が対極側導電助剤144に結合されないため、対極側活物質143が移動して凝集してしまう。これにより、対極側活物質143の粒径が大きくなり、対極側活物質143のうちの導電パスに接触しない面積が大きくなる。このため、電極性能が低下して、ひいては二酸化炭素の吸着性能が低下する。
【0076】
また、比較例の形成工程により形成された対極側電極膜142を有する電気化学セル101では、図9に示すように、対極側活物質143が対極側電極膜142から作用極側電極膜132に流出してしまい、対極側電極膜142が劣化する可能性がある。また、作用極130側に対極側活物質143が移動すると、二酸化炭素吸着材ではなく移動した対極側活物質143に電子が授受され、二酸化炭素吸着能力が低下する可能性がある。
【0077】
これに対し、本実施形態の形成工程により形成された対極側電極膜142を有する電気化学セル101では、図10に示すように、対極側活物質143が対極側導電助剤144に結合している。対極側導電助剤144および作用極側導電助剤134として共にカーボンを用いているので、濃度拡散の影響を受けにくい。このため、対極側活物質143が結合された対極側導電助剤144が、対極側電極膜142から作用極側電極膜132に移動することが抑制される。これにより、対極側活物質143が対極側電極膜142から作用極側電極膜132に流出することによる対極側電極膜142の劣化を抑制できる。
【0078】
そして、比較例の形成工程および本実施形態の形成工程によって形成した対極側電極膜142を有する電気化学セル101について、二酸化炭素の吸着性能を比較したものを図11に示す。図11に示されるように、本実施形態の形成工程で対極側電極膜142を形成した電気化学セル101は、比較例の形成工程で対極側電極膜142を形成した電気化学セル101に対して、1.5倍の吸着性能を有している。
【0079】
(第2実施形態)
次に、本開示における第2実施形態について説明する。本第2実施形態は、上記第1実施形態と比較して、電気化学セル101の対極側電極膜142を形成する形成工程のペースト調整工程における担持工程が異なる。
【0080】
本実施形態の担持工程では、対極側活物質143を、対極側導電助剤144であるカーボンブラックとシランカップリング剤を介して結合させている。
【0081】
本発明者らの検討によると、対極側活物質143は、対極側導電助剤144等のその他構成部との結合を形成するのが困難であり、収率が悪くなる可能性がある。これに対し、本実施形態のようにシランカップリング剤を用いると、より反応性の高い官能基を結合部の部材表面に付加することが可能となり、収率を向上させることができる。また、反応性の高い官能基を用いることで、結合条件も容易になり、より安価な物質を対極側活物質143として用いることができる。その結果、電気化学セル101の製造コストを低減できる。
【0082】
(他の実施形態)
本開示は上述の実施形態に限定されることなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。また、上記各実施形態に開示された手段は、実施可能な範囲で適宜組み合わせてもよい。
【0083】
(1)例えば、上述した実施形態では、対極側電極膜142において、対極側活物質143の少なくとも一部を凝集塊として含有させるとともに、凝集塊の最大径を10μm以下とした例について説明したが、この態様に限定されない。例えば、作用極側電極膜において、活物質の少なくとも一部が凝集塊として含有されているとともに、凝集塊の最大径を10μm以下としてもよい。なお、作用極側電極膜における活物質として、例えば二酸化炭素吸着材や触媒を用いてもよい。
【0084】
(2)また、上述した実施形態では、本開示に係る電気化学セルの製造方法を、対極側電極膜142の形成工程に適用した例について説明したが、これに限らず、作用極側電極膜132の形成工程に適用してもよい。
【符号の説明】
【0085】
130 作用極
140 対極
142 対極側電極膜(電極膜)
143 対極側活物質(活物質)
144 対極側導電助剤(導電助剤)
145 対極側バインダ(バインダ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11