IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本自動車部品総合研究所の特許一覧 ▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特開-ガス吸着システム及びその製造方法 図1
  • 特開-ガス吸着システム及びその製造方法 図2
  • 特開-ガス吸着システム及びその製造方法 図3
  • 特開-ガス吸着システム及びその製造方法 図4
  • 特開-ガス吸着システム及びその製造方法 図5
  • 特開-ガス吸着システム及びその製造方法 図6
  • 特開-ガス吸着システム及びその製造方法 図7
  • 特開-ガス吸着システム及びその製造方法 図8
  • 特開-ガス吸着システム及びその製造方法 図9
  • 特開-ガス吸着システム及びその製造方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176217
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】ガス吸着システム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/32 20060101AFI20231206BHJP
   F26B 3/04 20060101ALI20231206BHJP
   F26B 5/04 20060101ALI20231206BHJP
   F26B 25/00 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
B01D53/32
F26B3/04
F26B5/04
F26B25/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088381
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001472
【氏名又は名称】弁理士法人かいせい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 翔太
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 重彦
(72)【発明者】
【氏名】太田 篤人
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 裕規
(72)【発明者】
【氏名】松田 信彦
【テーマコード(参考)】
3L113
【Fターム(参考)】
3L113AA01
3L113AB02
3L113AB05
3L113AC07
3L113AC23
3L113BA34
3L113CA08
3L113CA10
3L113CA11
3L113CB05
3L113CB15
3L113CB23
3L113DA24
(57)【要約】
【課題】電極膜の表面の影響を低減することができるガス吸着システムの製造方法を提供する。
【解決手段】ガス吸着システム100は、被回収ガスを含有する混合ガスから電気化学反応によって被回収ガスの吸着と脱離を行うための各電極膜132、142と、各電極膜132、142が形成された各集電材131、141と、を有する。ガス吸着システムの製造方法は、溶媒を含むペースト状の各電極膜132、142を各集電材131、141に塗工する塗工工程と、塗工工程の後、溶媒を蒸発させることにより各電極膜132、142を乾燥させる乾燥工程と、を含む。乾燥工程では、時間の経過と共に乾燥速度を変化させて溶媒を蒸発させることにより各電極膜132、142を乾燥させる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被回収ガスを含有する混合ガスから電気化学反応によって前記被回収ガスの吸着と脱離を行う第1電極膜(132)と、
前記第1電極膜との間で電子の授受を行う第2電極膜(142)と、
前記第1電極膜の第1表面(133)と前記第2電極膜の第2表面(143)とに挟まれると共に、前記第1電極膜と前記第2電極膜とを分離するセパレータ(150)と、
を含み、
前記セパレータは、前記第1電極膜及び前記第2電極膜の厚み方向において、前記第1表面における最大谷深さから最大山高さまでの第1高さ、及び、前記第2表面における最大谷深さから最大山高さまでの第2高さのうちのいずれか高い方よりも厚い、ガス吸着システム。
【請求項2】
被回収ガスを含有する混合ガスから電気化学反応によって前記被回収ガスの吸着と脱離を行うための電極膜(132、142)と、前記電極膜が形成された集電材(131、141)と、を有するガス吸着システムの製造方法であって、
溶媒を含むペースト状の前記電極膜を前記集電材に塗工する塗工工程と、
前記塗工工程の後、前記溶媒を蒸発させることにより前記電極膜を乾燥させる乾燥工程と、
を含み、
前記乾燥工程では、時間の経過と共に乾燥速度を変化させて前記溶媒を蒸発させることにより前記電極膜を乾燥させる、ガス吸着システムの製造方法。
【請求項3】
前記乾燥工程は、前記乾燥速度が異なる第1ステップ及び第2ステップを含み、
前記第1ステップの乾燥速度は、前記第2ステップの乾燥速度よりも遅い、請求項2に記載のガス吸着システムの製造方法。
【請求項4】
前記乾燥工程は、前記第1ステップから前記第2ステップに移行する間の移行ステップを含み、
前記移行ステップの乾燥速度は、前記第1ステップの乾燥速度から前記第2ステップの乾燥速度に連続的に変化する、請求項3に記載のガス吸着システムの製造方法。
【請求項5】
前記乾燥工程では、前記第2ステップにおいて前記電極膜がさらされる真空度を、前記第1ステップにおいて前記電極膜がさらされる真空度よりも下げることにより、前記乾燥速度を変化させる、請求項3または4に記載のガス吸着システムの製造方法。
【請求項6】
前記乾燥工程では、前記第2ステップにおいて前記電極膜に印加される温度を、前記第1ステップにおいて前記電極膜に印加される温度よりも上げることにより、前記乾燥速度を変化させる、請求項3または4に記載のガス吸着システムの製造方法。
【請求項7】
前記乾燥工程では、前記第2ステップにおいて前記電極膜に与えられる風速を、前記第1ステップにおいて前記電極膜に与えられる風速よりも上げることにより、前記乾燥速度を変化させる、請求項3または4に記載のガス吸着システムの製造方法。
【請求項8】
前記乾燥工程では、前記第1ステップにおいて前記電極膜がさらされる真空度を前記溶媒の蒸気圧よりも低く制御し、前記第2ステップにおいて前記電極膜がさらされる真空度を前記溶媒の蒸気圧よりも高く制御する、請求項3または4に記載のガス吸着システムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス吸着システム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電極剤、バインダ、導電材、及び溶剤を含む電極材ペーストを金属シート上に塗布した電極塗膜の乾燥方法が、例えば特許文献1で提案されている。この乾燥方法では、初期段階において塗膜温度を速やかに上昇させる。この後、塗膜全体を加熱することで電極膜を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2011/105348号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の技術では、初期段階において塗膜温度を速やかに上昇させるので、電極塗膜の内部に蒸気が発生する。乾燥速度が速い場合、電極塗膜の内部で発生した蒸気が一つにまとまって大きな蒸気塊となると共に、電極塗膜から噴出する。そして、電極膜にクレーター様の噴出痕が発生してしまう。すなわち、電極膜の表面が凹凸状に荒らされてしまう。このため、乾燥後、電極膜の表面の平滑性が損なわれてしまう。
【0005】
ここで、電極膜は、酸性ガスを吸着あるいは脱着させるセルの一部として構成されることが知られている。電極膜は、第1電極膜、及び、第1電極膜との間で電子の供与または求引を行う第2電極膜として構成される。この場合、絶縁用のセパレータが第1電極膜と第2電極膜との間に配置される。
【0006】
しかし、電極膜の表面のうち噴出痕がある部分は突起となるため、突起がセパレータを突き破って電気的な不具合を発生させる原因となる。あるいは、クレーター様の噴出痕によって電極膜とセパレータとの間に隙間が形成されてしまうので、電極膜とセパレータとの間に電解液が浸透しにくくなる。つまり、電極膜とセパレータとの密着性が低下してしまう。このため、第1電極膜と第2電極膜との間で電荷の移動が妨げられるので、セルの性能が低下してしまう。
【0007】
本発明は上記点に鑑み、電極膜の表面の影響を低減することができるガス吸着システムを提供することを第1の目的とする。また、ガス吸着システムの製造方法を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、ガス吸着システムは、被回収ガスを含有する混合ガスから電気化学反応によって被回収ガスの吸着と脱離を行う第1電極膜(132)と、第1電極膜との間で電子の授受を行う第2電極膜(142)と、を含む。ガス吸着システムは、第1電極膜の第1表面(133)と第2電極膜の第2表面(143)とに挟まれると共に、第1電極膜と第2電極膜とを分離するセパレータ(150)を含む。
【0009】
セパレータは、第1電極膜及び第2電極膜の厚み方向において、第1表面における最大谷深さから最大山高さまでの第1高さ、及び、第2表面における最大谷深さから最大山高さまでの第2高さのうちのいずれか高い方よりも厚い。
【0010】
これによると、セパレータの厚みが、第1高さ及び第2高さのうちのいずれか高い方よりも厚いので、各電極膜(132、142)の各表面(133、143)がセパレータを突き破ることが無い。したがって、各電極膜の各表面の影響を低減することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明では、被回収ガスを含有する混合ガスから電気化学反応によって被回収ガスの吸着と脱離を行うための電極膜(132、142)と、電極膜が形成された集電材(131、141)と、を有するガス吸着システムの製造方法である。
【0012】
ガス吸着システムの製造方法は、溶媒を含むペースト状の電極膜を集電材に塗工する塗工工程と、塗工工程の後、溶媒を蒸発させることにより電極膜を乾燥させる乾燥工程と、を含む。乾燥工程では、時間の経過と共に乾燥速度を変化させて溶媒を蒸発させることにより電極膜を乾燥させる。
【0013】
これによると、電極膜を一定の乾燥速度で乾燥させるのではなく、乾燥速度を変化させて乾燥させるので、電極膜に蒸気塊を形成することなく溶媒を乾燥させることができる。このため、電極膜の表面(133、143)が凹凸状に荒らされることを防止することができる。すなわち、電極膜の表面の平滑性を向上させることができる。したがって、電極膜の表面の影響を低減することができる。
【0014】
なお、この欄及び特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係るガス吸着システムに含まれる電気化学セルの断面を示した図である。
図2】乾燥工程の第1ステップ及び第2ステップを説明するための図である。
図3】圧力制御によって乾燥速度を変化させる内容を説明するための図である。
図4】温度制御によって乾燥速度を変化させる内容を説明するための図である。
図5】第2電極膜の表面の凹凸及びセパレータの一部を示した断面図である。
図6】各電極膜の各表面に突沸痕が形成された場合と形成されていない場合とでCO吸着量を比較した結果を示した図である。
図7】第2実施形態に係る移行ステップを示した図である。
図8】移行ステップにおいて圧力を連続的に変化させる場合を示した図である。
図9】移行ステップにおいて温度を連続的に変化させる場合を示した図である。
図10】第1ステップ及び第2ステップにおいて設定値が変動する内容を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0017】
(第1実施形態)
本実施形態に係るガス吸着システムは、被回収ガスを含有する混合ガスから電気化学反応によって被回収ガスを回収する。被回収ガスは、例えばCO、NO、SO等の酸性ガスである。混合ガスは、例えば大気である。本実施形態では、大気からCOを回収する場合について説明する。
【0018】
図1に示されるように、ガス吸着システム100は、電気化学セル110及び制御電源120を含む。電気化学セル110は、電気化学反応によって大気からCOを吸着することでCOを回収する一方、COを脱離することでCOを捕集可能とする装置である。
【0019】
電気化学セル110は、第1電極130、第2電極140、及びセパレータ150を有する。なお、電気化学セル110は、複数積層された電界セルスタックを構成する。図1では、電界セルスタックを構成する複数の電気化学セル110のうちの1つが示されている。
【0020】
第1電極130、第2電極140、及びセパレータ150は、例えば板状に構成されている。第1電極130は、負極である。第2電極140は、正極である。
【0021】
第1電極130は、第1集電材131及び第1電極膜132を有する。第1集電材131は、制御電源120に接続されると共に、大気を通過させることができる多孔質状の導電性部材である。
【0022】
第1集電材131として、例えば炭素質材料や金属材料を用いることができる。第1集電材131を構成する炭素質材料として、例えばカーボン紙、炭素布、不織炭素マット、多孔質ガス拡散層(GDL)等を用いることができる。第1集電材131を構成する金属材料として、例えばAl、Ni、Ti、SUS等の金属をメッシュ状にした構造体を用いることができる。
【0023】
第1電極膜132は、COを含有する大気から電気化学反応によってCOの吸着と脱離を行う作用極である。第1電極膜132は、CO吸着材、作用極側導電助剤、及び作用極側バインダを有する。
【0024】
CO吸着材は、電子を受け取ることでCOを吸着し、電子を放出することで吸着していたCOを脱離する。CO吸着材として、例えばポリアントラキノンを用いることができる。あるいは、CO吸着材として、カーボンや金属酸化物を用いることができる。
【0025】
作用極側導電助剤は、CO吸着材への導電路を形成する導電物質である。作用極側導電助剤として、例えばカーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラフェン等の炭素材料を用いることができる。
【0026】
CO吸着材と作用極側導電助剤との混合は、例えばNMP(N-メチルピロリドン)等の有機溶媒に作用極側導電助剤を溶解または分散させ、有機溶媒中で分散している作用極側導電助剤とCO吸着材とを接触させれば良い。
【0027】
作用極側バインダは、接着力を有する保持材料である。作用極側バインダは、CO吸着材及び作用極側導電助剤を第1集電材131に保持する。これにより、第1集電材131、CO吸着材、及び作用極側導電助剤の間での電子の移動を確保できる。また、CO吸着材が第1集電材131から剥離しにくくなり、電気化学セル110のCO吸着量が経時的に低下することを抑制できる。
【0028】
作用極側バインダとして、流動性を有さない非流動性物質を用いることができる。非流動性物質として、ゲル状物質あるいは固体状物質を挙げることができる。ゲル状物質として、例えばイオン液体ゲルを用いることができる。固体状物質として、例えば固体電解質、あるいは導電性樹脂等を用いることができる。
【0029】
作用極側バインダとして固体電解質を用いる場合、CO吸着材との接触面積を増大させるために、高分子電解質等からなるアイオノマを用いることが望ましい。作用極側バインダとして導電性樹脂を用いる場合、導電性フィラーとしてAg等を含有するエポキシ樹脂やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂等を用いることができる。
【0030】
そして、CO吸着材、作用極側導電助剤、及び作用極側バインダの混合物が形成され、この混合物が第1集電材131に接着される。CO吸着材及び作用極側導電助剤は、作用極側バインダに保持された状態となっている。このため、作用極側バインダによってCO吸着材及び作用極側導電助剤を強固に保持することができる。また、CO吸着材及び作用極側導電助剤が第1集電材131から剥離しにくくなる。
【0031】
第2電極140は、第2集電材141及び第2電極膜142を有する。第2集電材141は、制御電源120に接続される導電性部材である。第2集電材141は、第1集電材131と同じ材料を用いても良く、異なる材料を用いても良い。
【0032】
第2電極膜142は、第1電極膜132との間で電子の授受を行う対極である。第2電極膜142は、対極側活物質、対極側導電助剤、及び対極側バインダを有する。
【0033】
対極側活物質は、第1電極膜132のCO吸着材との間で電子の授受を行う補助的な電気活性種である。対極側活物質は、金属の価数変化やπ電子雲への電荷出入によって電子を出し入れすることができる物質である。
【0034】
対極側活物質として、例えば金属イオンの価数が変化することで、電子の授受を可能とする金属錯体を用いることができる。このような金属錯体として、フェロセン、ニッケロセン、コバルトセン等のシクロペンタジエニル金属錯体、あるいはポルフィリン金属錯体等を挙げることができる。
【0035】
対極側導電助剤は、対極側活物質への導電路を形成する導電物質である。対極側導電助剤は、対極側活物質と混合して用いられる。対極側導電助剤は、作用極側導電助剤と同じ材料を用いても良く、異なる材料を用いても良い。対極側導電助剤は、例えば粒子状である。
【0036】
対極側バインダは、対極側活物質及び対極側導電助剤を第2集電材141に保持させることができ、かつ、導電性を有する材料である。対極側バインダは、作用極側バインダと同じ材料を用いても良く、異なる材料を用いても良い。
【0037】
セパレータ150は、第1電極膜132と第2電極膜142との間に配置される。セパレータ150は、第1電極膜132の第1表面133と第2電極膜142の第2表面143とに挟まれると共に、第1電極膜132と第2電極膜142とを分離する。すなわち、セパレータ150は、第1電極膜132と第2電極膜142との物理的な接触を防ぐ。また、セパレータ150は、第1電極膜132と第2電極膜142との電気的短絡を抑制する。
【0038】
セパレータ150の材料として、セルロース膜やポリマ、ポリマとセラミックの複合材料等を用いることができる。セパレータ150として、多孔質体を用いても良い。
【0039】
なお、第1電極膜132とセパレータ150との間や第2電極膜142とセパレータ150との間にイオン伝導性部材が設けられていても良い。イオン伝導性部材は、CO吸着材への導電を促進する。
【0040】
制御電源120は、ガス吸着システム100の電源装置である。制御電源120は、ガス吸着システム100の各装置に電源を供給する。また、制御電源120は、指令に従って、電気化学セル110に所定の電圧を印加することで、第1電極130と第2電極140との電位差を変化させる。
【0041】
ガス吸着システム100は、電気化学セル110の他に、電気化学セル110を収容する回収器、回収器に大気を導入する導入装置、回収器の内部を真空にする真空装置、脱離させたCOを回収器からタンク等のCO利用装置に捕集する捕集装置を備える。
【0042】
また、ガス吸着システム100は、回収器、電気化学セル110、導入装置、真空装置、及び捕集装置を制御する制御装置を備える。制御装置は、制御プログラムに従って制御電源120及び各装置の制御を行う。以上が、本実施形態に係るガス吸着システム100の全体構成である。
【0043】
次に、ガス吸着システム100の作動について説明する。ガス吸着システム100は、COをCO利用装置に捕集するために、吸着工程、除去工程、脱離工程、及び回収工程を順に実行する。
【0044】
吸着工程では、制御装置は、制御電源120を制御することで電気化学セル110の第1電極130と第2電極140との間に吸着電位を印加する。これにより、第2電極膜142の対極側活物質による電子供与と、第1電極膜132のCO吸着材の電子求引と、を同時に実現できる。
【0045】
第1電極膜132と第2電極膜142との間に吸着電位が印加される際、第2電極膜142の対極側活物質は電子を放出し、電子が第2電極膜142から第1電極膜132に供給される。第1電極膜132のCO吸着材は、電子を受け取る。
【0046】
電子を受け取ったCO吸着材はCOの結合力が高くなり、大気に含まれるCOを結合して吸着する。このように、電気化学セル110は、第1電極膜132と第2電極膜142との間に吸着電位が印加されることで、第2電極膜142から第1電極膜132に電子が供給され、CO吸着材は電子が供給されることに伴ってCOと結合する。よって、電気化学セル110は、大気からCOを回収することができる。
【0047】
吸着工程の後、制御装置は、回収器の内部を掃気する除去工程を行う。これにより、回収器の内部が真空状態となる。
【0048】
除去工程の後、脱離工程では、制御装置は、制御電源120を制御することで脱離電位を電気化学セル110の第1電極膜132と第2電極膜142との間に印加する。これにより、第1電極膜132のCO吸着材による電子供与と、第2電極膜142の対極側活物質の電子求引と、を同時に実現できる。
【0049】
第1電極膜132のCO吸着材は、電子を放出する。CO吸着材は、COの結合力が低下し、COを脱離して放出する。第2電極膜142の対極側活物質は、電子を受け取る。
【0050】
脱離工程の後、回収工程では、制御装置は、CO吸着材から放出されたCOを回収器から排出すると共に、配管を介してCO利用装置に捕集する。この後、制御装置は、回収器の内部を大気に戻すと共に、上記のサイクルを繰り返す制御を行う。
【0051】
続いて、電気化学セル110の各電極膜132、142を形成する形成工程について説明する。
【0052】
形成工程では、まず、溶媒を含むペースト状の各電極膜132、142を用意する混合工程を行う。すなわち、第1電極膜132を構成するCO吸着材、作用極側導電助剤、及び作用極側バインダを第1溶媒に溶かす。また、第2電極膜142を構成する対極側活物質、対極側導電助剤、及び対極側バインダを第2溶媒に溶かす。そして、各溶媒を濃縮させたペースト状態のものをそれぞれ作る。
【0053】
混合工程の後、塗工工程を行う。塗工工程では、第1集電材131を用意すると共に、溶媒を含むペースト状の第1電極膜132を第1集電材131に塗工する。この場合、例えば、第1電極膜132に対応する部分が開口したマスクを第1集電材131の上に配置する。そして、ペースト状の第1電極膜132をマスクの開口部に塗工する。同様に、第2集電材141を用意すると共に、溶媒を含むペースト状の第2電極膜142を第2集電材141に塗工する。
【0054】
なお、塗工工程では、ペースト状の第1電極膜132を、第1集電材131ではなく、セパレータ150に塗工しても良い。同様に、ペースト状の第2電極膜142を、第2集電材141ではなく、セパレータ150に塗工しても良い。
【0055】
これにより、各電極膜132、142は厚みが0.1mm前後の非常に薄い集電材131、141に製膜された状態にある。ガス吸着においては体積当たりのガス吸着性能を向上させるために分厚い電極膜を使用する場合が多い。また、カーボン系材料を使用するためにペースト粘度も比較的高くなりやすく、塗工安定性のために溶媒の使用量が多くなる傾向にある。
【0056】
塗工工程の後、乾燥工程を行う。乾燥工程では、各溶媒を蒸発させることにより各電極膜132、142を乾燥させる。
【0057】
ここで、乾燥工程では、時間の経過と共に乾燥速度を変化させて溶媒を蒸発させることにより各電極膜132、142を乾燥させる。具体的には、乾燥工程は、乾燥速度が異なる複数のステップを含む。本実施形態では、乾燥工程は、乾燥速度が異なる第1ステップ及び第2ステップを含む。
【0058】
図2に示されるように、第1ステップの乾燥速度は、第2ステップの乾燥速度よりも遅い。各電極膜132、142が厚い場合、各電極膜132、142の内側から蒸発が発生するとうまく抜けきらずに大きな蒸気塊となる。蒸気塊は、膜から噴出して各電極膜132、142の各表面133、143にクレーター様の凹凸を形成する。凹凸は、セパレータ150を突き破り短絡の元になる他、セパレータ150と各電極膜132、142との密着性を損なう原因となる。そこで、乾燥の初期段階で各電極膜132、142をゆっくりと乾燥させることで、蒸気塊を形成することなく溶媒を乾燥させることができる。
【0059】
なお、塗工工程が完了した時点で各電極膜132、142の乾燥が始まっている。よって、塗工工程の完了後に各電極膜132、142を放置する状態を第1ステップとすることができる。また、第1ステップにおいて蒸気塊が各電極膜132、142に形成されなければ、第1ステップの乾燥速度は第2ステップの乾燥速度よりも速くても構わない。
【0060】
乾燥速度を変化させる方法として、例えば、各電極膜132、142に対する圧力、温度、風速を制御する方法がある。圧力は、各電極膜132、142がさらされる真空度に対応する。温度は、各電極膜132、142に対する加熱温度である。風速は、各電極膜132、142に与えられる風の速度である。
【0061】
図3は、温度及び圧力に対する溶媒の蒸気圧の変化を示した図である。溶媒の蒸気圧のラインに対して左上の領域では乾燥速度が遅い。これに対し、溶媒の蒸気圧のラインに対して右下の領域では乾燥速度が速い。
【0062】
そして、圧力制御によって乾燥速度を変化させる場合、第2ステップにおいて各電極膜132、142がさらされる真空度を、第1ステップにおいて各電極膜132、142がさらされる真空度よりも下げることにより、乾燥速度を変化させる。
【0063】
例えば、各電極膜132、142に印加される温度を100℃に固定した状態で、第1ステップの真空度をP1に設定する。この後、第2ステップの真空度を、P1よりも低いP2に設定する。このように真空度を下げることにより、乾燥速度を速くすることができる。
【0064】
ここで、溶媒が蒸発するかどうかは、雰囲気圧力が溶媒の蒸気圧を超えるか超えないかで決まる。そこで、第1ステップにおいて各電極膜132、142がさらされる真空度を溶媒の蒸気圧よりも低く制御する。また、第2ステップにおいて各電極膜132、142がさらされる真空度を溶媒の蒸気圧よりも高く制御する。これにより、乾燥の初期段階で各電極膜132、142に蒸気塊が形成されることを防止することができる。
【0065】
圧力制御ではなく、温度制御によって乾燥速度を変化させることもできる。図4に示されるように、第2ステップにおいて各電極膜132、142に印加される温度を、第1ステップにおいて各電極膜132、142に印加される温度よりも上げることにより、乾燥速度を変化させることができる。
【0066】
例えば、各電極膜132、142がさらされる真空度を100kPaに固定した状態で、第1ステップの温度をT1に設定する。この後、第2ステップの温度を、T1よりも高いT2に設定する。高圧環境では、温度の調整幅が大きい。
【0067】
あるいは、各電極膜132、142がさらされる真空度を0.1kPaに固定した状態で、第1ステップの温度をT1に設定する。この後、第2ステップの温度を、T1よりも高いT3に設定する。低圧環境では、温度の調整幅が小さい。このように温度を上げることにより、乾燥速度を速くすることができる。
【0068】
圧力制御や温度制御ではなく、各電極膜132、142に与えられる風速を変化させることで乾燥速度を変化させることもできる。第2ステップにおいて各電極膜132、142に与えられる風速を、第1ステップにおいて各電極膜132、142に与えられる風速よりも上げることにより、乾燥速度を変化させることができる。このように風速を上げることにより、乾燥速度を速くすることができる。
【0069】
なお、乾燥速度の変更は段階的に行っても良い。すなわち、乾燥速度は各ステップにおいて一定でなくても良い。つまり、各ステップにおいて乾燥速度を段階的あるいは連続的に変化させても良い。
【0070】
上記の圧力制御、温度制御、風速制御の他に、赤外線光量や雰囲気気体を変更することによっても乾燥速度を変化させることができる。さらに、これらの方法を組み合わせることができる。
【0071】
以上のように、第1ステップにおいて乾燥速度の遅い乾燥を実施し、ある程度乾燥して各電極膜132、142の多孔構造を形成する。そして、溶媒の排出ルートができた後に第2ステップにおいて乾燥速度の速い乾燥を実施することで、各電極膜132、142の各表面133、143を凹凸状に荒らさらずに乾燥させることができる。すなわち、各電極膜132、142の各表面133、143の平滑性を向上させることができる。よって、短時間での確実な乾燥と、膜表面の平滑性と、を両立することができる。こうして、形成工程が終了する。
【0072】
上記のように形成された各電極膜132、142の各表面133、143は、蒸気塊に起因する凹凸が少ないものの、多少の凹凸は形成される。このため、本実施形態では、各電極膜132、142の厚みと、セパレータ150の厚みと、を規定する。
【0073】
まず、各集電材131、141、各電極膜132、142、セパレータ150の積層方向を、各電極膜132、142の厚み方向と定義する。また、厚み方向において、第1電極膜132の第1表面133における最大谷深さから最大山高さまでの高さを第1高さと定義する。同様に、厚み方向において、第2電極膜142の第2表面143における最大谷深さから最大山高さまでの高さを第2高さと定義する。
【0074】
なお、第1高さ及び第2高さは、各表面133、143の粗さ曲線から所定の方向に基準長さだけを抜き取り、抜き取った部分における最も高い山頂部から最も低い谷底部までの距離、すなわち高さ寸法を採用している。粗さ曲線は、平坦面に垂直な断面の描く断面曲線から所定の長さ以上の波長に成分を除去した曲線である。第1高さ及び第2高さとして、複数の山頂部の標高の平均値と複数の谷底部の標高の平均値を合計した平均距離を採用しても良い。平均距離は、例えば、十点平均粗さである。
【0075】
そして、セパレータ150は、厚み方向において、第1高さ及び第2高さのうちのいずれか高い方よりも厚い。これにより、例えば図5に示されるように、第2電極膜142の第2表面143のうち、最大山高さに対応する山部144の先端がセパレータ150を突き破ることが無い。第1電極膜132の第1表面133における最大山高さに対応する山部についても同様である。これにより、各電極膜132、142の各表面133、143の影響を低減することができる。
【0076】
発明者らは、各電極膜132、142の各表面133、143に蒸気塊に起因する突沸痕が形成された場合と形成されていない場合とで電気化学セル110におけるCO吸着量を調べた。その結果を図6に示す。
【0077】
図6に示されるように、一定時間の経過後におけるCO吸着量は、突沸痕ありの場合が突沸痕なしの場合と比較して-64%となった。言い換えると、各電極膜132、142の各表面133、143を平滑化したことで、電気化学セル110の性能が約3倍上昇した。この結果から、上述の各電極膜132、142の形成方法によって、電気化学セル110の性能に対する各電極膜132、142の各表面133、143の影響を低減できることがわかる。
【0078】
特に、第2電極膜142は第1電極膜132に対する電荷供給のバランス上目付量が多いので、例えば100μm以上の厚膜にすることが望ましい。このような厚膜の第2電極膜142は製膜時に蒸気塊に起因する突沸痕が形成されやすい。しかし、上記の製膜方法によって、突沸痕の形成を回避できると共に、電気化学セル110の性能を向上させることができる。
【0079】
(第2実施形態)
本実施形態では、主に第1実施形態と異なる部分について説明する。本実施形態では、図7に示されるように、乾燥工程は、第1ステップから第2ステップに移行する間の移行ステップを含む。移行ステップの乾燥速度は、第1ステップの乾燥速度から第2ステップの乾燥速度に連続的に変化する。
【0080】
圧力制御によって乾燥速度を変化させる場合、図8に示されるように、第1ステップにおける圧力P3から第2ステップにおける圧力P4まで、移行ステップにおいて圧力を連続的に変化させる。例えば、炉の中に各電極膜132、142を配置して大気圧で第1ステップの乾燥を行う。この後、移行ステップにおいて炉内の圧力を連続的に変化させても良い。このように、第1ステップでは大気圧でゆっくり乾燥させることができる。
【0081】
あるいは、第1ステップにおいて各電極膜132、142を大気中で乾燥させた後、各電極膜132、142を炉の中に配置し、炉内の圧力を下げていき、第2ステップにおいて各電極膜132、142を所定の真空度で乾燥させる。この場合、炉内の圧力を下げる工程が移行ステップに対応する。
【0082】
また、温度制御によって乾燥速度を変化させる場合、図9に示されるように、第1ステップにおける温度T4から第2ステップにおける温度T5まで、移行ステップにおいて温度を連続的に変化させる。例えば、炉の外に各電極膜132、142を配置して室温で第1ステップの乾燥を行う。この後、各電極膜132、142を炉内に配置し、移行ステップにおいて炉内の温度を上げても良い。このように、第1ステップでは室温でゆっくり乾燥させることができる。
【0083】
あるいは、各電極膜132、142を炉内に配置して第1の温度で第1ステップの乾燥を行い、この後、移行ステップにおいて炉内の温度を連続的に上昇させ、第2の温度で第2ステップの乾燥を行っても良い。
【0084】
風速制御の場合、例えばファンのモータの回転数を連続的に変化させる。また、ファンの回転数を連続的ではなく段階的に変化させても良い。赤外線光量の場合、光の強度を連続的に変化させる。雰囲気気体の場合、複数の気体の割合を連続的に変化させる。
【0085】
ここで、第1ステップ及び第2ステップにおいて、乾燥速度に対応する圧力や温度等の設定値に制御しようとすると、設定値から外れることがある。例えば、図10に示されるように、第2ステップに対応する設定温度まで加熱する場合、設定温度に達した後、温度が下がることがある。あるいは、設定温度に達した後、温度が上がることもある。
【0086】
これは、温度制御において目標となる設定値に到達させるための制御で起こる。また、温度が上下することは、温度を所定の範囲内に維持するための制御で起こる。圧力等の他の設定値についても同様である。第1ステップにおいても同様である。
【0087】
したがって、乾燥速度に対応する設定値は、第1ステップ及び第2ステップの各区間における平均値と同等あるいは平均値を含む所定の範囲内であれば良い。このように、第1ステップ及び第2ステップの各区間における乾燥速度は一定でなくても良い。
【0088】
(他の実施形態)
上記各実施形態で示されたガス吸着システム100の構成は一例であり、上記で示した構成に限定されることなく、本発明を実現できる他の構成とすることもできる。例えば、CO含有ガスは大気に限られず、CO等の酸性ガスを含むガスであれば良い。
【0089】
本明細書に開示されたガス吸着システムの特徴を以下の通り示す。
(項目1)
被回収ガスを含有する混合ガスから電気化学反応によって前記被回収ガスの吸着と脱離を行う第1電極膜(132)と、
前記第1電極膜との間で電子の授受を行う第2電極膜(142)と、
前記第1電極膜の第1表面(133)と前記第2電極膜の第2表面(143)とに挟まれると共に、前記第1電極膜と前記第2電極膜とを分離するセパレータ(150)と、
を含み、
前記セパレータは、前記第1電極膜及び前記第2電極膜の厚み方向において、前記第1表面における最大谷深さから最大山高さまでの第1高さ、及び、前記第2表面における最大谷深さから最大山高さまでの第2高さのうちのいずれか高い方よりも厚い、ガス吸着システム。
(項目2)
被回収ガスを含有する混合ガスから電気化学反応によって前記被回収ガスの吸着と脱離を行うための電極膜(132、142)と、前記電極膜が形成された集電材(131、141)と、を有するガス吸着システムの製造方法であって、
溶媒を含むペースト状の前記電極膜を前記集電材に塗工する塗工工程と、
前記塗工工程の後、前記溶媒を蒸発させることにより前記電極膜を乾燥させる乾燥工程と、
を含み、
前記乾燥工程では、時間の経過と共に乾燥速度を変化させて前記溶媒を蒸発させることにより前記電極膜を乾燥させる、ガス吸着システムの製造方法。
(項目3)
前記乾燥工程は、前記乾燥速度が異なる第1ステップ及び第2ステップを含み、
前記第1ステップの乾燥速度は、前記第2ステップの乾燥速度よりも遅い、項目2に記載のガス吸着システムの製造方法。
(項目4)
前記乾燥工程は、前記第1ステップから前記第2ステップに移行する間の移行ステップを含み、
前記移行ステップの乾燥速度は、前記第1ステップの乾燥速度から前記第2ステップの乾燥速度に連続的に変化する、項目3に記載のガス吸着システムの製造方法。
(項目5)
前記乾燥工程では、前記第2ステップにおいて前記電極膜がさらされる真空度を、前記第1ステップにおいて前記電極膜がさらされる真空度よりも下げることにより、前記乾燥速度を変化させる、項目3または4に記載のガス吸着システムの製造方法。
(項目6)
前記乾燥工程では、前記第2ステップにおいて前記電極膜に印加される温度を、前記第1ステップにおいて前記電極膜に印加される温度よりも上げることにより、前記乾燥速度を変化させる、項目3ないし5のいずれか1つに記載のガス吸着システムの製造方法。
(項目7)
前記乾燥工程では、前記第2ステップにおいて前記電極膜に与えられる風速を、前記第1ステップにおいて前記電極膜に与えられる風速よりも上げることにより、前記乾燥速度を変化させる、項目3ないし6のいずれか1つに記載のガス吸着システムの製造方法。
(項目8)
前記乾燥工程では、前記第1ステップにおいて前記電極膜がさらされる真空度を前記溶媒の蒸気圧よりも低く制御し、前記第2ステップにおいて前記電極膜がさらされる真空度を前記溶媒の蒸気圧よりも高く制御する、項目3ないし7のいずれか1つに記載のガス吸着システムの製造方法。
【符号の説明】
【0090】
131 第1集電材
132 第1電極膜
133 第1表面
141 第2集電材
142 第2電極膜
143 第2表面
150 セパレータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10