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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176255
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】油温推定装置、及び、油温推定方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/12 20100101AFI20231206BHJP
   F16H 59/14 20060101ALI20231206BHJP
   F16H 59/44 20060101ALI20231206BHJP
   F16H 59/64 20060101ALI20231206BHJP
   F16H 59/72 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
F16H61/12
F16H59/14
F16H59/44
F16H59/64
F16H59/72
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088438
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100122770
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】和田 龍生
(72)【発明者】
【氏名】小林 大志
(72)【発明者】
【氏名】原田 純次
【テーマコード(参考)】
3J552
【Fターム(参考)】
3J552MA01
3J552MA06
3J552NA01
3J552NB01
3J552NB05
3J552NB08
3J552PA51
3J552PA61
3J552PB08
3J552RC14
3J552TA01
3J552TA10
3J552VB01W
3J552VC01W
3J552VC05W
3J552VD01W
3J552VE01W
(57)【要約】
【課題】油温を検出する油温センサを用いることなく(備えることなく)、駆動系の油温を推定することが可能な油温推定装置を提供する。
【解決手段】油温推定装置1を構成するECU80は、外気温(エンジン吸気温)Taおよび車速Vcarに基づいてサチュレート油温Tfinを求めるサチュレート油温取得部81と、サチュレート油温Tfinと推定油温の前回値Te(n-1)との油温偏差Tdifを求める油温偏差取得部82と、油温偏差Tdifおよび車速Vcarに基づいて油温フィードバック値Tfbを求める油温フィードバック値取得部83と、推定油温の前回値Te(n-1)と油温フィードバック値Tfbとに基づいて推定油温の今回値Te(n)を求める推定油温取得部84とを備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動系の油温を推定する油温推定装置であって、
車速を検出する車速センサと、
少なくとも車速を含む前記車両の走行状態に基づいて、該走行状態におけるサチュレート油温を求めるサチュレート油温取得部と、
前記サチュレート油温と推定油温の前回値との油温偏差を求める油温偏差取得部と、
前記油温偏差および車速に基づいて、油温フィードバック値を求める油温フィードバック値取得部と、
前記推定油温の前回値と前記油温フィードバック値とに基づいて、推定油温の今回値を求める推定油温取得部と、を備えることを特徴とする油温推定装置。
【請求項2】
外気温を検出する外気温センサを備え、
前記サチュレート油温取得部は、外気温および車速に基づいて、前記サチュレート油温を求めることを特徴とする請求項1に記載の油温推定装置。
【請求項3】
前記推定油温取得部は、外気温に基づいて、推定油温の初期値を求め、
前記油温偏差取得部、及び、前記推定油温取得部は、油温推定を開始する際に、推定油温の前回値として推定油温の初期値を用いることを特徴とする請求項2に記載の油温推定装置。
【請求項4】
エンジン吸入空気量を検出する吸気量センサと、
前記駆動系に入力されるエンジン負荷を積算する負荷カウンタと、
エンジン吸入空気量に基づいてエンジン負荷を求め、該エンジン負荷が所定値以上の高負荷領域にある場合には前記負荷カウンタを加算し、該エンジン負荷が所定値未満の低負荷領域にある場合には前記負荷カウンタを減算し、前記負荷カウンタの値が所定の油温推定開始しきい値以上となった場合に、油温推定を開始させる油温推定開始判定部と、を備えることを特徴とする請求項3に記載の油温推定装置。
【請求項5】
車両の駆動系の油温を推定する油温推定方法であって、
外気温センサにより外気温を検出する外気温検出ステップと、
車速センサにより車速を検出する車速検出ステップと、
外気温および車速に基づいて、サチュレート油温を求めるサチュレート油温取得ステップと、
前記サチュレート油温と推定油温の前回値との油温偏差を求める油温偏差取得ステップと、
前記油温偏差および車速に基づいて、油温フィードバック値を求める油温フィードバック値取得ステップと、
前記推定油温の前回値と前記油温フィードバック値とに基づいて、推定油温の今回値を求める推定油温取得ステップと、を備えることを特徴とする油温推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油温推定装置及び油温推定方法に関し、特に、車両の駆動系の油温を推定する油温推定装置及び油温推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、エンジン等で発生した駆動力は、変速機によって変換された後、デファレンシャルを介して車両の駆動輪に伝達される。ところで、例えば、高外気温や高エンジン負荷の環境下で長時間走行すると、変速機やデファレンシャル等の駆動系に用いられているオイルの温度(油温)が上昇する。そして、駆動系(変速機やデファレンシャル等)の油温が構成部品の耐久温度を超えて高くなると部品信頼性を損なう(部品の早期劣化等を招く)おそれが生じる。
【0003】
特に、デファレンシャルを構成するハイポイドギヤは、ギヤ摺動部の発熱による昇温が大きく、連続して高負荷の運転状態が続くと高温になりやすい。デファレンシャルが高温になり、オイルも高温になると、オイルの粘度が低下して油膜切れが起こり、ギヤ歯面の異常摩耗やスコーリングが発生するとともに、オイルの早期劣化による潤滑性能の低下や樹脂・ゴム部品の高温劣化による寿命低下を招くおそれがある。
【0004】
そこで、駆動系(変速機やデファレンシャル等)の過熱(ひいては部品信頼性の低下)を防止するために、駆動系の油温をモニタリング(検出)するための油温センサを設け、油温が所定温度(予め定められたしきい値)を超えた場合に(すなわち高油温時に)、例えばエンジン出力を制限(規制)して車速を低下させる技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
ここで、特許文献1には、油温センサによって検出された実油温Tnが所定値T1以上になった場合に、エンジン回転速度を低下させて駆動力を低下させる高油温制御を実行することで、油温のさらなる上昇を抑制し、自動変速機を保護する技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献1の技術では、油温センサの異常判定がなされた後において、異常判定後の自動変速機の放熱量Trと、異常判定後の自動変速機の発熱量Tgと、正常判定された実油温のうち最新の実油温Tnとに基づいて演算された自動変速機の演算油温Tcが所定以上になると、自動変速機を保護する高油温制御が実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-138357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、特許文献1の技術では、油温センサの正常時には、該油温センサの検出値(実油温)を用いて高油温制御を行い、油温センサの異常時には、油温センサが正常であったときの最後の検出値(実油温)を基準にして油温(演算油温)を推定し、高油温制御を行っている。すなわち、特許文献1の技術は、油温センサを備えていることが前提であり、油温センサを備えていない場合については考慮されていない。よって、油温を検出する油温センサを備えていない場合には高油温制御ができない。また、油温センサがないと(油温センサが正常に機能していたときの検出値がないと)油温の推定もできない。
【0009】
さらに、例えば、停車中に油温センサに異常が生じた場合や、油温センサに異常が生じた後、車両(エンジン)を停止し、実油温が低下した後、再度、走行を開始した場合など、そのときの油温と、油温センサが正常であったときの最後の検出値(実油温)とがずれている場合、特許文献1の技術では正確な油温を推定することができない。
【0010】
一方、構造やレイアウト等の制約により、油温センサを取り付けることができない場合がある。また、油温センサ等を新たに付加することはコストアップや工数増加等につながる。そこで、油温を検出する油温センサを用いることなく(備えることなく)、油温を推定する技術が求められていた。
【0011】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、油温を検出する油温センサを用いることなく(備えることなく)、駆動系の油温を推定することが可能な油温推定装置及び油温推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様に係る油温推定装置は、車両の駆動系の油温を推定する油温推定装置であって、車速を検出する車速センサと、少なくとも車速を含む車両の走行状態に基づいて、該走行状態におけるサチュレート油温を求めるサチュレート油温取得部と、サチュレート油温と推定油温の前回値との油温偏差を求める油温偏差取得部と、油温偏差および車速に基づいて、油温フィードバック値を求める油温フィードバック値取得部と、推定油温の前回値と油温フィードバック値とに基づいて、推定油温の今回値を求める推定油温取得部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、油温を検出する油温センサを用いることなく(備えることなく)、駆動系の油温を推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係る油温推定装置が搭載された後輪駆動車の構成を示すブロック図である。
図2】実施形態に係る油温推定装置による油温推定処理(油温推定方法)の処理手順を示すフローチャートである。
図3】外気温(吸気温)と車速とサチュレート油温との関係を示す図である。
図4】サチュレート油温マップの一例を示す図である。
図5】油温フィードバック値マップの一例を示す図である。
図6】推定油温初期値テーブルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0016】
まず、図1を用いて、実施形態に係る油温推定装置1の構成について説明する。図1は、油温推定装置1が搭載された後輪駆動車(以下、単に「車両」ということもある)4の構成を示すブロック図である。
【0017】
エンジン20は、どのような形式のものでもよいが、例えば水平対向型の筒内噴射式4気筒ガソリンエンジンである。エンジン20では、エアクリーナ(図示省略)から吸入された空気が、吸気管に設けられた電子制御式スロットルバルブ(以下、単に「スロットルバルブ」ともいう)により絞られ、インテークマニホールドを通り、エンジン20に形成された各気筒に吸入される。ここで、エアクリーナから吸入された空気の量はエアフローメータ91(特許請求の範囲に記載の吸気量センサに相当)により検出される。さらに、スロットルバルブには、該スロットルバルブの開度を検出するスロットル開度センサ92が配設されている。
【0018】
エンジン20の各気筒には、燃料を噴射するインジェクタが取り付けられている。また、各気筒には混合気に点火する点火プラグ、及び該点火プラグに高電圧を印加するイグナイタ内蔵型コイルが取り付けられている。エンジン20の各気筒では、吸入された空気とインジェクタによって噴射された燃料との混合気が点火プラグにより点火されて燃焼する。燃焼後の排気ガスは排気管を通して排出される。
【0019】
エンジン20のクランクシャフト21には、例えば、乾式クラッチ22を介して、エンジン20からの駆動力を変換して出力する手動変速機(MT)30が接続されている。手動変速機30は、変速操作を手動で行う変速機であり、例えば、入出力軸同心型のものが用いられる。手動変速機30としては、公知なもの、すなわち、各変速段の駆動ギヤと従動ギヤを2軸に配置するとともに、ギヤの隣に同期機構とそれを作動させるカップリングスリーブ、シフトフォーク、ストライキングロッドなどを配置し、シフトレバーと連結したものを用いることができる。なお、手動変速機(MT)30に代えて、例えば、有段自動変速機(ステップAT)や、無段変速機(CVT)、DCT(Dual Clutch Transmission)など、他の形式の変速機を用いてもよい。
【0020】
エンジン20から出力された駆動力は、手動変速機30で変換された後、手動変速機30の出力軸35から、例えば、プロペラシャフト46、リヤデファレンシャル(以下「リヤデフ」ともいう)47、左右のリヤドライブシャフト48L,48Rを介して車両4の左右後輪10RL,10RRに伝達される。ここで、手動変速機30、プロペラシャフト46、リヤデフ47、左右のリヤドライブシャフト48L,48Rは、特許請求の範囲に記載の駆動系に相当する。
【0021】
より具体的には、手動変速機30の出力軸35は、車両後方へ延在するプロペラシャフト46とつながれている。また、プロペラシャフト46は、リヤデフ47に接続されている。よって、手動変速機30で変換された駆動力は、出力軸35から、プロペラシャフト46を介してリヤデフ47に伝達される。
【0022】
リヤデフ47は、例えば、ベベルギヤ式の差動装置である。リヤデフ47には左後輪ドライブシャフト48L及び右後輪ドライブシャフト48Rが接続されている。左後輪ドライブシャフト48Lには左後輪10RLが接続されている。また、右後輪ドライブシャフト48Rには右後輪10RRが接続されている。よって、リヤデフ47からの駆動力は、左後輪ドライブシャフト48Lを介して左後輪10RLに伝達されるとともに、右後輪ドライブシャフト48Rを介して右後輪10RRに伝達される。
【0023】
上述したエアフローメータ91、スロットル開度センサ92に加え、エンジン20のカムシャフト近傍には、エンジン20の気筒判別を行うためのカム角センサが取り付けられている。また、エンジン20のクランクシャフト21近傍には、クランクシャフト21の位置を検出するクランク角センサが取り付けられている。これらのセンサは、後述するエンジン・コントロールユニット(以下「ECU」という)80に接続されている。また、ECU80には、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセル操作量センサ93、エンジン20の冷却水の温度を検出する水温センサ94、及び、外気温(エンジン吸気温)を検出する外気温(吸気温)センサ95等の各種センサも接続されている。
【0024】
ECU80は、演算を行うマイクロプロセッサ、該マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するEEPROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、バッテリによってその記憶内容が保持されるバックアップRAM、及び、入出力I/F等を有して構成されている。また、ECU80は、インジェクタを駆動するインジェクタドライバ、点火信号を出力する出力回路、及び、電子制御式スロットルバルブを開閉する電動モータを駆動するモータドライバ等を備えている。
【0025】
ECU80では、カム角センサの出力から気筒が判別され、クランク角センサの出力からクランク角速度およびエンジン回転数が求められる。また、ECU80では、上述した各種センサから入力される検出信号に基づいて、吸入空気量、吸気温(外気温)、アクセルペダル操作量、混合気の空燃比、及び、エンジン20の水温等の各種情報が取得される。そして、ECU80は、取得したこれらの各種情報に基づいて、燃料噴射量や点火時期、及び、スロットルバルブ等の各種デバイスを制御することによりエンジン20を総合的に制御する。
【0026】
ここで、エンジン20を総合的に制御するECU80は、CAN(Controller Area Network)100を介して、ビークルダイナミクス・コントロールユニット(以下「VDCU」という)70等と相互に通信可能に接続されている。
【0027】
VDCU70は、演算を行うマイクロプロセッサ、該マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するEEPROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、バッテリによってその記憶内容が保持されるバックアップRAM、及び、入出力I/F等を有して構成されている。
【0028】
VDCU70には、ブレーキペダルが踏まれているか否かを検出するブレーキスイッチ71や、ブレーキアクチュエータのマスタシリンダ圧力(ブレーキ油圧)を検出するブレーキ液圧センサ72が接続されている。また、VDCU70には、4つの車輪速センサ12FL,12FR,12RL,12RR(特許請求の範囲に記載の車速センサに相当)、ヨーレートセンサ73、加速度センサ74、及び、操舵角センサ16などが接続されている。
【0029】
車輪速センサ12FL,12FR,12RL,12RRは、例えば、車輪10FL,10FR,10RL,10RRの中心に取り付けられた歯車の回転を磁気ピックアップ等によって検出することにより、車輪10FL,10FR,10RL,10RRの回転状態を検出する。ヨーレートセンサ73は、車両4の重心点を通る鉛直軸まわりの回転角速度(ヨーレート)を検出する。加速度センサ74は、車両4に作用する加速度を検出する。また、操舵角センサ16は、ピニオンシャフトの回転角を検出することにより、操舵輪である前輪10FL,10FRの操舵角を検出する。
【0030】
VDCU70は、ブレーキペダルの操作量(踏み込み量)に応じてブレーキアクチュエータを駆動して車両4を制動するとともに、車両挙動を各種センサ(例えば車輪速センサ12FL,12FR,12RL,12RR、操舵角センサ16、ヨーレートセンサ73、加速度センサ74等)により検知し、自動加圧によるブレーキ制御等により、横滑りを抑制し、旋回時の車両安定性を確保する。
【0031】
VDCU70は、検出したヨーレート、操舵角、ブレーキスイッチ71やブレーキ液圧等の制動情報(ブレーキ操作情報)、車輪速(車速)、及び、車両加速度等をCAN100を介してECU80に送信する。
【0032】
特に、ECU80は、油温を検出する油温センサを用いることなく(備えることなく)、駆動系の油温を推定する機能を有している。そのため、ECU80は、サチュレート油温取得部81、油温偏差取得部82、油温フィードバック値取得部83、推定油温取得部84、油温推定開始判定部85、及び、負荷カウンタ86を機能的に有している。ECU80では、EEPROM等に記憶されているプログラムがマイクロプロセッサによって実行されることにより、サチュレート油温取得部81、油温偏差取得部82、油温フィードバック値取得部83、推定油温取得部84、油温推定開始判定部85、及び、負荷カウンタ86の機能が実現される。
【0033】
油温推定開始判定部85は、エンジン吸入空気量(吸気量)Gaに基づいて、駆動系に入力されるエンジン負荷を求め、該エンジン負荷が所定値以上の高負荷領域にある場合(所定時間継続した場合)には負荷カウンタ86を加算し、エンジン負荷が所定値未満の低負荷領域にある場合(所定時間継続した場合)には負荷カウンタ86を減算する。ここで、負荷カウンタ86は、駆動系に入力されるエンジン負荷を積算するカウンタである。負荷カウンタ86の加減算値は、例えば、エンジン吸入空気量(吸気量)Gaに応じて設定される。また、負荷カウンタ86の値(カウンタ値)が負の値にならないようにガードをかけることが好ましい。
【0034】
そして、油温推定開始判定部85は、負荷カウンタ86の値(カウンタ値)が所定の油温推定開始しきい値以上となった場合(すなわち、駆動系(油温)に熱が入力されて高温状態になっていると判定できる場合)に、油温推定を開始させる。より具体的には、油温推定開始判定部85は、例えば、油温推定開始要求(フラグ)を、サチュレート油温取得部81、油温偏差取得部82、油温フィードバック値取得部83、及び、推定油温取得部84に出力する。なお、上記所定の油温推定開始しきい値は適合等により設定される。
【0035】
ここで、例えば下り坂等で車速が高くなっていたとしても駆動系の油温を過熱させることはないため、上述したように、負荷カウンタ86のカウンタ値(積算値)が所定の油温推定開始しきい値以上となった場合に駆動系の油温推定を開始することにより、高い負荷がかかり続けている状態を狙って駆動系の高温保護(例えば車速制限)を実施することができる。
【0036】
ここで、推定油温取得部84は、油温推定を開始する際に(開始する前に)、外気温(エンジン吸気温)Taに基づいて、推定油温の初期値Te(ini)を求める。より具体的には、ECU80のEEPROM等には、予め、外気温(吸気温)Taと推定油温の初期値Te(ini)との関係を定めたテーブル(推定油温初期値テーブル)が記憶されており、ECU80(推定油温取得部84)では、検出された外気温(吸気温)Taに基づいて、推定油温初期値テーブルが検索されて、推定油温の初期値Te(ini)が取得される。
【0037】
ここで、推定油温初期値テーブルの一例を図6に示す。図6において、横軸(行)は外気温(吸気温)Ta(℃)である。推定油温初期値テーブルでは、外気温(吸気温)Taが高くなるほど、推定油温の初期値Te(ini)が高くなるように設定されている。なお、推定油温初期値テーブルのデータは、例えば、適合やシミュレーションによって得ることができる。油温推定開始時の初期値を外気温(吸気温)Taに応じて設定することで、テーブルデータの適合により、必要な領域でのみ駆動系の高温保護(例えば車速制限)を実施できるようになる。なお、外気温(吸気温)センサ95の異常時には、任意のフェイルセーフ(F/S)値を用いることができる。
【0038】
取得された推定油温の初期値Te(ini)は、油温偏差取得部82に出力される。油温偏差取得部82は、油温推定を開始する際に、推定油温の前回値Te(n-1)として、推定油温の初期値Te(ini)を用いる(詳細は後述する)。
【0039】
サチュレート油温取得部81は、例えば、外気温(エンジン吸気温)Taおよび車速Vcarに基づいて(すなわち、少なくとも車速を含む車両の走行状態に基づいて)、該走行状態におけるサチュレート油温(飽和油温、最終油温)Tfinを求める。ところで、加速時や高車速走行時には、エンジン20の熱や高い回転速度の影響により、駆動系の油温が上昇する。一方、高車速の走行状態が一定時間以上継続すると、油温の上昇(加熱)と、走行風による油温の低下(冷却)とが釣り合い、油温がサチュレート(飽和)する状態(サチュレート油温Tfin)に至る。よって、駆動系のサチュレート油温Tfinの変化(変移)は、図3に示されるように、車速Vcar及び外気温Taに応じた対数関数的なカーブを描く。
【0040】
ここで、サチュレート油温(飽和油温)Tfinの求め方について説明する。例えば、ECU80のEEPROM等には、外気温(吸気温)Taと、車速Vcarと、サチュレート油温Tfinとの関係を定めたマップ(サチュレート油温マップ)が記憶されており、外気温(吸気温)Taと車速Vcarとに基づいてこのサチュレート油温マップが検索されることによりサチュレート油温Tfinが求められる。
【0041】
ここで、サチュレート油温マップの一例を図4に示す。図4において、横軸は車速Vcar(km/h)であり、縦軸は外気温(吸気温)Ta(℃)である。サチュレート油温マップでは、外気温(吸気温)Taと車速Vcarとの組み合わせ(格子点)毎にサチュレート油温Tfin(℃)が与えられている。サチュレート油温マップでは、外気温(吸気温)Taが高くなるほどサチュレート油温Tfinが高くなるように、また、車速Vcarが高くなるほどサチュレート油温Tfinが高くなるように設定されている。なお、このサチュレート油温マップのデータは、例えば、適合やシミュレーションによって得ることができる。取得されたサチュレート油温Tfinは、油温偏差取得部82に出力される。
【0042】
油温偏差取得部82は、サチュレート油温Tfinと推定油温の前回値Te(n-1)との油温偏差Tdifを求める。上述したように、外気温Taと車速Vcarに依存して駆動系の油温がサチュレートする領域があり、油温の上昇幅及び下降幅は、サチュレート時の油温との温度差により異なるためである。
【0043】
より具体的には、油温偏差取得部82は、次式(1)に基づいて、油温偏差Tdifを求める。
油温偏差Tdif=サチュレート油温Tfin-推定油温の前回値Te(n-1)・・・(1)
なお、油温推定を開始する際には、油温偏差取得部82は、推定油温の前回値Te(n-1)として、推定油温の初期値Te(ini)を用いる。取得された油温偏差Tdifは、油温フィードバック値取得部83に出力される。
【0044】
油温フィードバック値取得部83は、油温偏差Tdifおよび車速Vcarに基づいて、油温フィードバック値Tfbを求める。ところで、車速による温度変移のカーブは一意に決定されるため、油温フィードバック値取得部83では、温度差Tdifと車速Vcarとに基づいて、油温フィードバック値Tfb、すなわち、推定油温の上昇又は下降のフィードバック量を求める。
【0045】
ここで、油温フィードバック値Tfbの求め方について説明する。ECU80のEEPROM等には、油温偏差Tdifと車速Vcarと油温フィードバック値Tfbとの関係を定めたマップ(油温フィードバック値マップ)が記憶されており、油温偏差Tdifと車速Vcarとに基づいてこの油温フィードバック値マップが検索されることにより油温フィードバック値Tfbが取得される。
【0046】
ここで、油温フィードバック値マップの一例を図5に示す。図5において、横軸(行)は車速Vcar(km/h)であり、縦軸(列)は油温偏差Tdif(℃)である。油温フィードバック値マップでは、油温偏差Tdifと車速Vcarとの組み合わせ(格子点)毎に油温フィードバック値(℃)が与えられている。なお、この油温フィードバック値マップのデータは、例えば、適合やシミュレーションによって得ることができる。取得された油温フィードバック値Tfbは、推定油温取得部84に出力される。
【0047】
推定油温取得部84は、推定油温の前回値Te(n-1)と油温フィードバック値Tfbとに基づいて、推定油温の今回値Te(n)を求める。より具体的には、推定油温取得部84は、次式(2)に基づいて、推定油温の今回値Te(n)を求める。
推定油温の今回値Te(n)=推定油温の前回値Te(n-1)+油温フィードバック値Tfb・・・(2)
なお、油温推定を開始する際には、推定油温取得部84は、推定油温の前回値Te(n-1)として、推定油温の初期値Te(ini)を用いる。
【0048】
そして、ECU80は、取得した推定油温の今回値Te(n)を用いて、駆動系の高温保護(過熱保護)を行う。より具体的には、ECU80は、例えば、推定油温Teが所定温度以上となった場合に、目標スロットル開度を下げ(すなわち、スロットル開度を絞り)、エンジン出力を制限(低下)することにより、車速を制限する(低下させる)。その結果、駆動系の油温の低下が図られる(すなわち、高油温化が防止される)。なお、駆動系の油温は車速に依存するため、車速を制限することにより、駆動系油温を低下させることができる。
【0049】
次に、図2を参照しつつ、油温推定装置1の動作(油温推定方法)について説明する。図2は、油温推定装置1による油温推定処理(油温推定方法)の処理手順を示すフローチャートである。本処理は、主としてECU80において、所定のタイミングで繰り返し実行される。
【0050】
ステップS100では、エンジン吸入空気量に基づいてエンジン負荷が求められる。続くステップS102では、エンジン負荷が所定値以上であるか否かについての判断が行われる。ここで、エンジン負荷が所定値以上の高負荷領域にある場合には、ステップS104において、負荷カウンタ86が加算され、その後、ステップS108に処理が移行する。一方、エンジン負荷が所定値未満の低負荷領域にある場合には、ステップS106において、負荷カウンタ86が減算された後、ステップS108に処理が移行する。
【0051】
ステップS108では、負荷カウンタ86の値(カウンタ値)が所定の油温推定開始しきい値以上であるか否かについての判断が行われる。ここで、負荷カウンタ86の値が所定の油温推定開始しきい値以上である場合には、油温推定が開始され、ステップS110に処理が移行する。一方、負荷カウンタ86の値が所定の油温推定開始しきい値未満であるときには、本処理から一旦抜ける。
【0052】
ステップS110では、外気温Taに基づいて、推定油温の初期値Te(ini)が求められる。なお、推定油温の初期値Te(ini)の取得方法については、上述したとおりであるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0053】
次に、ステップS112では、外気温Taおよび車速Vcarに基づいて、サチュレート油温Tfinが求められる(サチュレート油温取得ステップ)。なお、サチュレート油温Tfinの取得方法については、上述したとおりであるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0054】
続いて、ステップS114では、サチュレート油温Tfinと推定油温の前回値Te(n-1)との油温偏差Tdifが求められる(油温偏差取得ステップ)。なお、上述したように、油温推定の開始時には、推定油温の前回値Te(n-1)として、推定油温の初期値Te(ini)が用いられる。
【0055】
続くステップS116では、油温偏差Tdifおよび車速Vcarに基づいて、油温フィードバック値Tfbが求められる(油温フィードバック値取得ステップ)。なお、油温フィードバック値Tfbの取得方法については、上述したとおりであるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0056】
そして、ステップS118では、推定油温の前回値Te(n-1)と油温フィードバック値Tfbとに基づいて、推定油温の今回値Te(n)が求められる(推定油温取得ステップ)。なお、推定油温の今回値Te(n)の取得方法については、上述したとおりであるので、ここでは詳細な説明を省略する。また、上述したように、油温推定の開始時には、推定油温の前回値Te(n-1)として、推定油温の初期値Te(ini)が用いられる。
【0057】
続いて、ステップS120では、推定油温の今回値Te(n)が所定温度以上であるか否かについての判断が行われる。ここで、推定油温の今回値Te(n)が所定温度以上である場合には、ステップS122に処理が移行する。一方、推定油温の今回値Te(n)が所定温度未満であるときには、本処理から一旦抜ける。
【0058】
ステップS122では、スロットル開度が絞られ、車速が制限(規制)される。すなわち、駆動系の高温保護(過熱保護)が実行される。そして、その後、本処理から抜ける。
【0059】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、車速を含む車両の走行状態に基づいて該走行状態におけるサチュレート油温が求められ、該サチュレート油温と推定油温の前回値との油温偏差が求められ、該油温偏差および車速に基づいて油温フィードバック値が求められ、推定油温の前回値と油温フィードバック値とに基づいて推定油温の今回値が求められる。そのため、油温を検出する油温センサを用いることなく(備えることなく)、駆動系の油温を推定することができる。
【0060】
また、本実施形態によれば、外気温および車速に基づいて、サチュレート油温が求められるため、外気温及び車速に応じたサチュレート油温(飽和油温)を設定することができる。
【0061】
本実施形態によれば、外気温に基づいて推定油温の初期値が求められ、油温推定が開始される際に、推定油温の前回値として推定油温の初期値が用いられる。そのため、外気温に応じて推定油温の初期値を適切に設定することができる。
【0062】
本実施形態によれば、エンジン吸入空気量に基づいてエンジン負荷が求められ、該エンジン負荷が所定値以上の高負荷領域にある場合には負荷カウンタ86が加算される一方、該エンジン負荷が所定値未満の低負荷領域にある場合には負荷カウンタ86が減算され、負荷カウンタ86の値(カウンタ値)が所定の油温推定開始しきい値以上となった場合に、油温推定が開始される。そのため、駆動系が高負荷状態に置かれ、油温が上昇したとき(高温になったとき)、すなわち、駆動系の高温保護(過熱保護)を行う必要が生じると予想される場合に、油温推定を開始することができる。
【0063】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、駆動系として手動変速機30を備える車両4に適用した場合を例にして説明したが、手動変速機30に代えて、例えば、有段自動変速機(ステップAT)や、無段変速機(CVT)、DCT等を備える車両(駆動系)に適用してもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、本発明を、後輪駆動車(FR車)4に適用した場合を例にして説明したが、本発明は、全輪駆動車(AWD車)等にも適用可能である。
【0065】
さらに、上記実施形態では、駆動力源としてガソリンエンジン20を用いる車両4を例にして説明したが、駆動力源として、ガソリンエンジン20に代えて又は加えて電動モータなどを用いる車両に適用することもできる。すなわち、本発明は、HEV(ハイブリッド車)、PHEV(プラグイン・ハイブリッド車)、EV(電気自動車)、FCV(燃料電池車)などにも適用可能である。なお、その場合、負荷カウンタ86の積算において、エンジン負荷に代えて、又は加えて、モータ負荷が考慮される。
【0066】
また、システム構成は、上記実施形態の構成には限られない、例えば、上記実施形態では、エンジン20を制御するECU80と、VDCU50とをCAN100を介して接続する構成(互いに通信可能な構成)としたが、異なるシステム構成としてもよい。例えば、車輪速センサ(車速センサ)12をECU80に接続(入力)する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 油温推定装置
4 後輪駆動車
10FL 左前輪
10FR 右前輪
10RL 左後輪
10RR 右後輪
12FL,12FR,12RL,12RR 車輪速センサ(車速センサ)
16 操舵角センサ
20 エンジン
22 乾式クラッチ
30 手動変速機
35 出力軸
46 プロペラシャフト
47 リヤデファレンシャル
48L 左後輪ドライブシャフト
48R 右後輪ドライブシャフト
70 VDCU
71 ブレーキスイッチ
72 ブレーキ液圧センサ
73 ヨーレートセンサ
74 加速度センサ
80 ECU
81 サチュレート油温取得部
82 油温偏差取得部
83 油温フィードバック値取得部
84 推定油温取得部
85 油温推定開始判定部
86 負荷カウンタ
91 エアフローメータ(吸気量センサ)
92 スロットル開度センサ
93 アクセル操作量センサ
94 水温センサ
95 外気温(吸気温)センサ
100 CAN
図1
図2
図3
図4
図5
図6