IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ・ファインケミカル株式会社の特許一覧

特開2023-176261エチニル基を有する縮合多環芳香族化合物の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176261
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】エチニル基を有する縮合多環芳香族化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/10 20060101AFI20231206BHJP
   C07D 209/04 20060101ALI20231206BHJP
   C07D 231/12 20060101ALI20231206BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20231206BHJP
【FI】
C07F7/10 V
C07D209/04
C07D231/12 B
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088446
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000187046
【氏名又は名称】東レ・ファインケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】西川 健
【テーマコード(参考)】
4H039
4H049
【Fターム(参考)】
4H039CA29
4H039CD20
4H039CD90
4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ60
4H049VR24
4H049VS21
4H049VU36
4H049VW02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】窒素を有する縮合多環芳香族化合物を用いて、簡便でかつ安価にカップリング反応ができるエチニル基を有する芳香族化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】窒素を含有するヘテロ環とハロゲン置換ベンゼン環との縮合多環芳香族化合物と、エチニル化合物とのカップリング反応において、アミン存在下、パラジウム炭素、リン化合物、銅化合物と共に、窒素含有有機溶媒中でカップリング反応を行う下記一般式(3)で示すエチニル基を有する縮合多環芳香族化合物を製造方法である。

(式中、環状Nは窒素を含むヘテロ環、Aは水酸基を有する炭化水素基またはトリアルキルシリル基を示す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、環状Nは窒素を含むヘテロ環、Xはハロゲン原子を示す。)
で表される縮合多環芳香族化合物と、下記一般式(2)
【化2】

(式中、Aは水酸基を有する炭化水素基またはトリアルキルシリル基を示す。)
で表されるエチニル化合物とのカップリング反応において、アミン存在下、パラジウム炭素、リン化合物、銅化合物と共に、窒素含有有機溶媒中でカップリング反応を行う下記一般式(3)
【化3】

(式中、環状Nは窒素を含むヘテロ環、Aは水酸基を有する炭化水素基またはトリアルキルシリル基を示す。)
で表されるエチニル基を有する縮合多環芳香族化合物の製造方法。
【請求項2】
前記一般式(1)で表される縮合多環芳香族化合物が、イソインドール、インドール、または1H-インダゾールの誘導体である請求項1記載のエチニル基を有する縮合多環芳香族化合物の製造方法。
【請求項3】
前記ハロゲン原子が臭素、もしくはヨウ素である請求項1または2に記載のエチニル基を有する縮合多環芳香族化合物の製造方法
【請求項4】
前記窒素含有有機溶媒が、N,N-ジメチルアセトアミドまたはN-メチル-2-ピロリドンである請求項1または2に記載のエチニル基を有する縮合多環芳香族化合物の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチニル基を有する縮合多環芳香族化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ハロゲン化合物とパラジウム触媒を用いたカップリング反応は新規に炭素-炭素結合を形成する上で重要な反応である。例えば、薗頭カップリング反応においては、芳香族ハロゲン化合物とエチニル化合物とをパラジウム触媒を用いてカップリング反応させることで、芳香族環にエチニル化合物が結合したエチニルベンゼン化合物を合成することができる。ここで用いられるパラジウム触媒は、一般的にはジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムやテトラ(トリフェニルホスフィン)パラジウムなどの有機系パラジウムが用いられている。
【0003】
一方、窒素を含有するヘテロ環とベンゼン環との縮合多環は、例えば1H-インダゾール、3H-インダゾール、インドールなどに代表されるように様々な構造を有している。その縮合多環にハロゲン原子が結合している化合物とアセチレン化合物との薗頭カップリングは、医薬品の中間体などの用途に用いられている。
【0004】
例えば加齢黄斑性(AMD)の補体系の中間体として5-ブロモ-1H-インダゾールとエチニルトリメチルシランとの薗頭カップリングでは、パラジウム触媒は原料のインダゾールに対して2.78モル%と非常に多い量が使用されているにも関わらず、収率は49%と低く工業化には非常に大きな課題がある。ここで用いられているパラジウム触媒はジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムであり塩化パラジウムの構造を有しており、パラジウム触媒の安定性が悪く、水で容易に加水分解してしまうので反応での取り扱いが難しい触媒でもある。(特許文献1参照)
【0005】
また、乳癌治療薬の中間体である5-ブロモ-1H-インダゾールを2-テトラヒドロピランで保護した5-ブロモ-1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-1H-インダゾールを用いた薗頭カップリングにおいては、パラジウム触媒の使用量が原料に対し1.97モル%と多いにもかかわらず、収率が49%と低くこの報告例でも工業的な生産は困難だと思われる。ここで使用されているパラジウム触媒も先に記載した塩化パラジウム構造を有しており、安定性が悪く取り扱いが難しい触媒である。(特許文献2参照)
【0006】
このように、窒素を含むヘテロ環を有する縮合多環芳香族化合物のカップリング反応において、簡便でかつ安価に合成でき、しかも収率を高くしてエチニル基を導入する製造方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2015-522006号公報
【特許文献2】特表2018-516250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、窒素を含むヘテロ環を有する縮合多環芳香族化合物で、簡易な操作かつ高い収率でエチニル基を有する芳香族化合物を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記一般式(1)
【化1】
(式中、環状Nは窒素を含むヘテロ環、Xはハロゲン原子を示す。)
で表される縮合多環芳香族化合物と、下記一般式(2
【化2】
(式中、Aは水酸基を有する炭化水素基またはトリアルキルシリル基を示す。)
で表されるエチニル化合物とのカップリング反応において、アミン存在下、パラジウム炭素、リン化合物、銅化合物と共に、窒素含有有機溶媒中でカップリング反応を行う下記一般式(3)
【化3】
(式中、環状Nは窒素を含むヘテロ環、Aは水酸基を有する炭化水素基またはトリアルキルシリル基を示す。)
で表されるエチニル基を有する縮合多環芳香族化合物の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のエチニル基を有する縮合多環芳香族化合物の製造方法は、触媒としてパラジウム炭素を用いて薗頭カップリングを行うことで目的のエチニル基を有する縮合多環芳香族化合物を高い収率で合成することができ、簡易な操作で製造することができることから、工業的により安価に提供できる。
【0011】
また、本発明で得られたエチニル基を有する縮合多環芳香族化合物は、ファインケミカル、医農薬原料、樹脂・プラスチック原料、電子材料・光学材料の原料として用いることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の製造方法の詳細を記載する。なお、本明細書において、下記一般式を、「環状N」ということがあり、窒素を含むヘテロ環を示す。
【化4】
【0013】
本発明で使用する原料は、下記一般式(1)で表される窒素を含む縮合多環式芳香族化合物である。
【化5】
(式中、環状Nは窒素を含むヘテロ環、Xはハロゲン原子を示す。)
【0014】
ここで、一般式(1)で表される窒素を含む縮合多環芳香族化合物は、具体的にはイソインドール、3H-インドール、インドール、1H-インダゾール、イソキノリン、キノリン、イソキノリン、フタラジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン等の窒素を有するヘテロ環を含む芳香族化合物のハロゲン誘導体を示す。特にイソインドール、インドール、または1H-インダゾールのハロゲン誘導体が、原料入手が容易で安価であることから特に好ましい。
【0015】
Xはハロゲン原子を示し、塩素、臭素、ヨウ素を示す。カップリング反応の反応性は、一般的には塩素原子は反応性が低く、カップリング反応はほとんど進行しないことから、臭素、ヨウ素が好ましく、ヨウ素は反応性が高いいが高価であることから、Xとして臭素が特に好ましい。
【0016】
特に好ましい窒素を含む縮合多環式芳香族化合物として、5-ブロモイソインドール、6-ブロモイソインドール、5-ブロモインドール、6-ブロモインドール、5-ブロモ-1H-インダゾール、6-ブロモ-1H-インダゾールなどが挙げられる。
【0017】
本発明において、カップリング反応は、反応溶媒である窒素含有有機溶媒に、原料である窒素を含む縮合多環芳香族化合物、パラジウム炭素、リン化合物、銅化合物、およびアミンを加えた後、撹拌しながら下記一般式(2)で表されるエチニル化合物を滴下または投入し、加熱させることで反応が進行する。
【化6】
(式中、Aは水酸基を有する炭化水素基またはトリアルキルシリル基を示す。)
【0018】
ここで、反応溶媒として使用される窒素含有有機溶媒は、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルフォルムアミド、N-メチル-2-ピロリドンが好ましく、特に反応性の高いN,N-ジメチルアセトアミドがより好ましい。
【0019】
この窒素含有有機溶媒は、カップリング反応で生成するハロゲンアミン塩をスラリー状で撹拌させる必要があるため、原料である窒素を含む縮合多環芳香族化合物に対して3から10質量倍使用することが好ましく、特に3から7質量倍使用することが特に好ましい。窒素含有有機溶媒の使用量が3質量倍より少ないと、反応で使用するエチニル化合物同士がカップリングした二量体等の化合物が副生するため、好ましくない。
【0020】
カップリング反応で用いるパラジウム炭素は、活性炭を担体として、さらにその上にパラジウム(0価)を分散、担持させたものであり、パラジウムカーボンとも呼ばれる。パラジウム炭素は、含水していないドライ品、含水しているウェット品のどちらも使用することができる。パラジウム炭素のドライ品は空気中で容易に発火するため、工業的には含水しているウェット品を使用するのが好ましい。このパラジウム炭素の種類はカップリング反応の反応性に影響を与え、特に市販で販売されているエヌ・イーケムキャット社製のパラジウム炭素が、反応性が高く好ましい。さらにエヌ・イーケムキャット社製のパラジウム炭素の中でも、特に反応収率が高いTypeNE、TypeK、TypeEがより好ましい。なかでもパラジウム炭素の使用量が少なくできるTypeEが特に好ましい。
【0021】
パラジウム炭素は、高価な触媒であるため、窒素を含む縮合多環芳香族化合物のモル数に対して1.5モル%以下が好ましく、より使用量が少なく、安価に製造できる1.0モル%以下がさらに好ましい。
【0022】
カップリング反応で使用するリン化合物は、有機リン化合物が好ましく、汎用で入手できるトリフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリn-プロピルホスフィンなどの炭化水素系ホスフィン化合物が好ましく、一般的に安価で入手可能であり、粒状粉体として取り扱いやすいトリフェニルホスフィンが特に好ましい。リン化合物の使用量は、パラジウム炭素に対して4.0当量以上が好ましく、パラジウム錯体形成可能な4.0から8.0当量がより好ましい。
【0023】
銅化合物は反応開始剤として使用され、汎用で入手可能なヨウ化銅が好ましい。銅化合物の使用量はパラジウム炭素に対して0.1から1.0当量が好ましく、0.1から0.5当量がより好ましい。
【0024】
薗頭カップリング反応では、反応で副生するハロゲンをトラップするため、アミン類を添加して反応を行うが、アミンとしては、アルキルアミンが好ましく、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリn-プロピルアミン、トリn-ブチルアミンなどの第3級アミンや、ジイソブチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジエチルアミンなどの第2級アミンが好ましく、安価で入手が容易であり、沸点が低く濃縮での除去が可能なトリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソブチルアミンがより好ましい。
【0025】
アミンの投入量は、原料である窒素を含む縮合多環芳香族化合物に対して1.0から5.0当量が好ましく、1.0から3.0当量がより好ましい。
【0026】
エチニル化合物としては、前記下記一般式(2)で表される化合物を使用する。前記一般式(2)中のAが水酸基を有する炭化水素基であるとき、エチニル化合物としては、好ましくは下記一般式(4)
【化7】
(式(4)中、R、Rは水素原子または炭化水素基を示す)
で表される。一般式(4)において、R、Rは、互いに同じでも異なっていてもよい。R、Rは、好ましくは水素原子または炭素数1から5のアルキル基であり、例えば、水素、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基などが挙げられる。一般式(4)で表されるエチニル化合物の好ましい例として、2-プロピン-1-オール、2-メチル-3-ブチン-2-オール、3-ブチン-2-オール、3-メチル-4-ペンチン-3-オール、4-ペンチン-3-オール、4-メチル-5-ヘキシン-4-オール、5-ヘキシン-4-オール、等が挙げられる。
【0027】
また、前記一般式(2)中のAがトリアルキルシリル基であるとき、エチニル化合物としては、好ましくは下記一般式(5)
【化8】
(式(5)中、R,R,Rは炭化水素基を示す)
で表される。一般式(5)においてR,R,Rは、互い同じでも異なっていてもよい。R,R,Rは好ましくは炭素数1から5のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基などが挙げられる。一般式(5)で表されるエチニル化合物の好ましい例として、トリメチルシリルアセチレン、トリエチルシリルアセチレン、トリイソプロピルシリルアセチレン、等が挙げられる。
【0028】
また、工業的な入手の容易さから、前記一般式(2)で表されるエチニル化合物は、2-メチル-3-ブチン-2-オール、3-ブチン-2-オール、2-プロピン-1-オールがより好ましい。
【0029】
エチニル化合物の使用量は、原料である縮合多環芳香族化合物のハロゲンに対して1.0当量から5.0当量が好ましく、過剰になるとエチニル化合物同士が反応した、エチニル化合物の二量体等の化合物が過剰に副生するため、1.0から3.0当量がより好ましい。
【0030】
薗頭カップリング反応では、反応装置に溶媒である窒素含有化合物、原料である縮合多環芳香族化合物、触媒であるパラジウム炭素、反応開始剤である銅化合物、ハロゲンのトラップとしてアミンを投入後、エチニル化合物を滴下、投入して加熱することで反応が進行する。反応温度は反応が容易に進行する30℃以上が好ましく、より反応が進行する50℃以上がより好ましい。
【0031】
反応はガスクロマトグラフや高速液体クロマトグラフィーで分析しながらカップリング反応を追跡することが可能である。カップリング反応を行う反応時間は、1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましい。
【0032】
カップリング反応の終了後は冷却し、水を加えてアミン塩を溶解させ、トルエンや酢酸エチルなどの有機溶媒などで抽出することで、下記一般式(3)
【化9】
(式中、環状Nは窒素を含むヘテロ環を示し、Aは水酸基を有する炭化水素基またはトリアルキルシリル基を示す。)
で表されるエチニル基を有する縮合多環芳香族化合物を製造することができる。その際、反応で使用したパラジウム炭素はろ過により簡易に除去することが可能である。
【0033】
前記一般式(3)中のAは前記一般式(2)中のAと同じであり、説明を省略する。また、一般式(3)で表されるエチニル基を有する縮合多環芳香族化合物として、例えば、5-(3-ヒドロキシ-3-メチル-1-ブチン-1-イル)イソインドール、6-(3-ヒドロキシ-3-メチル-1-ブチン-1-イル)イソインドール、5-(3-ヒドロキシ-1-ブチン-1-イル)イソインドール、6-(3-ヒドロキシ-1-ブチン-1-イル)イソインドール、5-(トリメチルシリルエチニル)イソインドール、6-(トリメチルシリルエチニル)イソインドール、5-(3-ヒドロキシ-3-メチル-1-ブチン-1-イル)インドール、6-(3-ヒドロキシ-3-メチル-1-ブチン-1-イル)インドール、5-(3-ヒドロキシ-1-ブチン-1-イル)インドール、6-(3-ヒドロキシ-1-ブチン-1-イル)インドール、5-(トリメチルシリルエチニル)インドール、6-(トリメチルシリルエチニル)インドール、5-(3-ヒドロキシ-3-メチル-1-ブチン-1-イル)-1H-インダゾール、6-(3-ヒドロキシ-3-メチル-1-ブチン-1-イル)-1H-インダゾール、5-(3-ヒドロキシ-1-ブチン-1-イル)-1H-インダゾール、6-(3-ヒドロキシ-1-ブチン-1-イル)-1H-インダゾール、5-(トリメチルシリルエチニル)-1H-インダゾール、6-(トリメチルシリルエチニル)-1H-インダゾール等が挙げられる。
【0034】
本発明で得られた一般式(3)で表されるエチニル基を有する縮合多環芳香族化合物は、アルカリ条件などにすることにより容易にエチニル基の末端に結合した置換基Aを除去することが可能である。このように本発明では、パラジウム炭素を導入して薗頭カップリング反応させるだけで、エチニル基を有する縮合多環芳香族化合物を合成することが出来、有用なエチニル基を有する縮合多環芳香族化合物の提供が可能となる。
【実施例0035】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。
実施例において、前記一般式(3)で表されるエチニル基を有する芳香族化合物の反応収率(面積%)は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)を使用して下記の条件で分析を行い、全体のピーク面積から、窒素含有有機溶媒のピーク面積を除いた面積に対する、それぞれの化合物のピーク面積の分率として、面積%を測定した。
【0036】
ここで、一般式(3)で表されるエチニル基を有する芳香族化合物(以下の計算式において、「カップリング体」と記す。)の反応収率は、原料である一般式(1)で表される窒素を含む縮合多環芳香族化合物(以下の計算式において「原料」と記す。)から目的のカップリング体を得る反応がどれだけ進行したかを示したかを示した数値であり、次のように計算した。
カップリング体の面積%/(カップリング体の面積%+原料の面積%)×100(%)
<純度分析>
カラム:YMC-PackODS-AM(250×4.6mmI.D.)
溶離液:A液-アセトニトリル:B液-0.1%リン酸水溶液
分析温度:40℃
流量:1mL/分
移動相:
(1)2-メチル-3-ブチン-2-オール(MBYO)との反応液分析:A/B=30/70(10分ホールド)→70/30(30分までグラジエント)→70/30(10分ホールド)
(2)トリメチルシリルアセチレン(TMSA)との反応液分析:A/B=50/50(10分ホールド)→80/20(30分までグラジエント)→80/20(10分ホールド)
注入量:0.5μL
検出器:UV(254nm)
分析時間:40分
サンプル調製:サンプル0.1gを20mLのメスフラスコに秤量し、アセトニトリルでメスアップした。
また、実験に使用した試薬類は市販の試薬を用いた。また、エヌ・イーケムキャット社製パラジウム炭素(Pd/C)は市販の富士フイルム和光純薬の試薬から購入した。
【0037】
[実施例1]
パラジウム炭素を用いた5-(3-ヒドロキシ-3-メチル-1-ブチン-1-イル)インドールの合成
撹拌、冷却器を備えた200mLフラスコに、5-ブロモインドール(5-BID)5.0g(25.5mmol)、N、N-ジメチルアセトアミド(DMAc)25g(5質量倍/5-BID)、5%パラジウム炭素(Pd/C;TypeK、Pd含有率5.2質量%、44質量%含水)1.19g(0.255mmol、1.0mol%/5-BID)、トリフェニルホスフィン0.334g(1.28mmol)、ヨウ化銅(I)0.0607g(0.319mmol)、ジイソプロピルアミン5.16g(51.0mmol、2.0当量/5-BID)を加え、2-メチル-3-ブチン-2-オール4.29g(51.0mmol、2.0当量/5-BID)を20~30℃で滴下した。滴下終了後、オイルバスに入れ反応温度70~75℃で24時間反応させた。24時間後の反応液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した結果、目的の5-(3-ヒドロキシ-3-メチル-1-ブチン-1-イル)インドールの反応収率は88.7%であった。5-(3-ヒドロキシ-3-メチル-1-ブチン-1-イル)インドールのHPLCのリテンションタイムは15.8分、GC/MSの分析からm/z=199(HOが脱水した分子量)、シミラリティ検索から5-(3-ヒドロキシ-3-メチル-1-ブチン-1-イル)インドールと決定した。
【0038】
[実施例2]
パラジウム炭素を用いた5-(トリメトキシシリルエチニル)インドールの合成
撹拌、冷却器を備えた200mLフラスコに、実施例1に記載のとおり原料を仕込み、2-メチル-3-ブチン-2-オールの代わりにトリメチルシリルアセチレン5.01g(51.0mmol、2.0当量/5-BID)を20~30℃で滴下した。その後、実施例1と同様にして24時間反応させた。24時間後の反応液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した結果、目的5-(トリメトキシシリルエチニル)インドールの反応収率は86.0%であった。5-(トリメトキシシリルエチニル)インドールのHPLCのリテンションタイムは25.3分、GC/MSの分析からm/z=213、シミラリティ検索から5-(トリメトキシシリルエチニル)インドールと決定した。
【0039】
[実施例3]
パラジウム炭素を用いた5-(3-ヒドロキシ-3-メチル-1-ブチン-1-イル)-1H-インダゾールの合成
撹拌、冷却器を備えた200mLフラスコに、5-ブロモインダゾール(5-BIZ)5.0g(25.4mmol)、N、N-ジメチルアセトアミド(DMAc)25g(5質量倍/5-BIZ)、5%パラジウム炭素(Pd/C;TypeK、Pd含有率5.2質量%、44質量%含水)1.19g(0.254mmol、1.0mol%/5-BIZ)、トリフェニルホスフィン0.333g(1.27mmol)、ヨウ化銅(I)0.0604g(0.317mmol)、ジイソプロピルアミン5.14g(50.8mmol、2.0当量/5-BIZ)を加え、2-メチル-3-ブチン-2-オール4.27g(50.8mmol、2.0当量/5-BIZ)を20~30℃で滴下した。滴下終了後、オイルバスに入れ反応温度70~75℃で24時間反応させた。24時間後の反応液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した結果、目的の5-(3-ヒドロキシ-3-メチル-1-ブチン-1-イル)の反応収率は79.2%であった。5-(3-ヒドロキシ-3-メチル-1-ブチン-1-イル)-1H-インダゾールのHPLCのリテンションタイムは5.5分、GC/MSの分析からm/z=200、シミラリティ検索から5-(3-ヒドロキシ-3-メチル-1-ブチン-1-イル)-1H-インダゾールと決定した。
【0040】
[比較例1]
ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロライド(BTPD)を用いた5-(3-ヒドロキシ-3-メチル-1-ブチン-1-イル)インドールの合成
撹拌、冷却器を備えた200mLフラスコに、実施例1に記載のパラジウム炭素(Pd/C)を、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロライド(BTPD)0.179g(0.255mmol、1.0mol%/5-BID)に変更したことを除き実施例1と同様にして実験を行った。24時間後の反応液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した結果、目的の5-(3-ヒドロキシ-3-メチル-1-ブチン-1-イル)インドールの反応収率は67.9%であった。
【0041】
[比較例2]
ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロライド(BTPD)を用いた5-(トリメトキシシリルエチニル)インドールの合成
撹拌、冷却器を備えた200mLに、実施例2に記載のパラジウム炭素(Pd/C)を、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロライド(BTPD)0.179g(0.255mmol、1.0mol%/5-BID)に変更したことを除き実施例2と同様にして実験を行った。24時間後の反応液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した結果、目的の5-(トリメトキシシリルエチニル)インドールの反応収率は70.2%であった。
【0042】
[比較例3]
ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロライド(BTPD)を用いた5-(3-ヒドロキシ-3-メチル-1-ブチン-1-イル)-1H-インダゾール
撹拌、冷却器を備えた200mLに、実施例3に記載のパラジウム炭素(Pd/C)を、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロライド(BTPD)0.178g(0.254mmol、1.0mol%/5-BIZ)に変更したことを除き実施例3と同様にして実験を行った。24時間後の反応液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した結果、目的の5-(3-ヒドロキシ-3-メチル-1-ブチン-1-イル)-1H-インダゾールの反応収率は69.8%であった。
【0043】
実施例と比較例の結果を下記表にまとめた。パラジウム炭素を用いた場合の方が、薗頭カップリング反応で汎用品として用いられているビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロライド(BTPD)と比較しても反応収率が高く、工業的な生産に有利であることが分かる。
【0044】
【表1】
【0045】
上記表に示す通り、触媒としてパラジウム炭素を用いたものは、一般的に用いられるBTPD触媒と比較して反応収率が高く目的のエチニル化合物が合成できる。よって反応収率高く目的物が得られることで、より安価な製造が可能となる。
【0046】
カップリング反応後は冷却し、例えば酢酸エチルなどの非水有機溶媒で抽出し、水で洗浄を数回繰り返し、有機溶媒を濃縮後、再結晶や蒸留をおこなうことで目的の5-(3-ヒドロキシ-3-メチル-1-ブチン-1-イル)インドール、5-(トリメトキシシリルエチニル)インドール、5-(3-ヒドロキシ-3-メチル-1-ブチン-1-イル)-1H-インダゾールなどの芳香族エチニル化合物を取得することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のエチニル基を有する芳香族化合物の製造方法は、触媒としてパラジウム炭素を使用することで、高収率で薗頭カップリング反応を効率良く反応を進行させ、エチニル基を有する芳香族化合物を製造することができる。
【0048】
本発明のエチニル基を有する芳香族化合物は、医薬品の原料や、電子材料で有用なエチニル基を有する芳香族化合物を合成することが出来、ファインケミカル、医農薬原料、樹脂・プラスチック原料、電子情報材料、光学材料の原料として有用な化合物として使用できる。