(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176274
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】クリーンルーム用空調機・吹出ユニット
(51)【国際特許分類】
F24F 3/167 20210101AFI20231206BHJP
F24F 7/06 20060101ALI20231206BHJP
F24F 8/108 20210101ALI20231206BHJP
【FI】
F24F3/167
F24F7/06 C
F24F8/108 210
F24F8/108 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088466
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】390018474
【氏名又は名称】新日本空調株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】深谷 良丸
(72)【発明者】
【氏名】長島 晃
【テーマコード(参考)】
3L053
3L058
【Fターム(参考)】
3L053BB03
3L053BB05
3L053BD03
3L058BD02
3L058BF02
(57)【要約】
【課題】クリーンルームにおける生産活動に影響を与えることなく、高性能フィルタの交換が行えるようにする。
【解決手段】空調機1の筐体3内部に、上流側から順に高性能フィルタ7、熱処理用コイル6、吹出口5が配置されるとともに、前記高性能フィルタ7の上流側に隣接して、前記高性能フィルタ7の交換時に作業員が入り込んで作業可能な空間9が形成され、かつ前記空調機1の筐体3に、前記空間9に連通し、高性能フィルタ7が出し入れ可能な点検口10が設けられている。前記点検口10は、空調機1の背面及び側面のいずれか一方又は両方に設けられている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリーンルームに清浄化された空気を供給するクリーンルーム用空調機・吹出ユニットであって、
前記空調機・吹出ユニットの筐体内部に、上流側から順に高性能フィルタ、熱処理用コイル、吹出口が配置されるとともに、前記高性能フィルタの上流側に隣接して、前記高性能フィルタの交換時に作業員が入り込んで作業可能な空間が形成され、かつ前記空調機・吹出ユニットの筐体に、前記空間に連通し、前記高性能フィルタが出し入れ可能な点検口が設けられていることを特徴とするクリーンルーム用空調機・吹出ユニット。
【請求項2】
前記吹出口が設けられた面を前記空調機・吹出ユニットの正面としたとき、前記点検口は、前記空調機・吹出ユニットの背面及び側面のいずれか一方又は両方に設けられている請求項1記載のクリーンルーム用空調機・吹出ユニット。
【請求項3】
前記空間に、作業用の足場が仮設可能とされるか、常設されている請求項1記載のクリーンルーム用空調機・吹出ユニット。
【請求項4】
前記熱処理用コイルは金属製である請求項1記載のクリーンルーム用空調機・吹出ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HEPAフィルタ等の高性能フィルタを用いて清浄化した空気を室内に供給するクリーンルーム用の空調機・吹出ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工場や食品加工工場等に設けられるクリーンルームでは、高度な清浄空気が必要とされ、空気中の微粒子を非常に高い性能で捕集できるHEPAフィルタやULPAフィルタ等の高性能フィルタが空調機や吹出ユニットに組み込まれている。
【0003】
前記高性能フィルタは、圧力損失が大きくなるので、ファンの吹出側に設置されるのが一般的である。例えば下記特許文献1~4には、クリーンルームの空調において、高性能フィルタがクリーンルームに吹き出す直前(空調機側から見て流路の最下流)に取り付けられることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-16086号公報
【特許文献2】特開2012-78071号公報
【特許文献3】特開2004-108631号公報
【特許文献4】特開平9-53848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記高性能フィルタは、空調機の運用時間の経過とともに、捕集した微粒子が堆積して圧力損失が増加するため、定期的に交換する必要がある。
【0006】
図4に示されるように、室内に設置される横吹出し型の従来の空調機50の場合、高性能フィルタ51は、空調機50の正面側、すなわち空調空気をクリーンルームに吹き出す吹出口52の直ぐ裏側に配置されている。このため、この高性能フィルタ51の交換作業を行う際は、クリーンルーム内の空調機50の正面側周辺に作業スペースを設け、この作業スペース内に仮設足場55などの作業用機器を設置した上で、吹出口52を取り外して高性能フィルタ51を交換するという手順で行われていた。なお、
図4中の符号53は空調機の熱処理用コイル、54は送風機である。
【0007】
このとき、クリーンルーム内に作業スペースを設けなければならないため、クリーンルームの生産活動に必要な製品搬送通路の導線を塞ぎ、製品搬送通路に設置された床搬送装置や天井搬送装置と製造装置との間の製品のやりとりができなくなるため、製造作業の中断や変更を余儀なくされるなど、生産活動に影響を与える問題があった。
【0008】
特に、床設置型の横吹出し空調機の場合、吹出口が設けられた空調機の正面側に製造装置やこの製造装置と製品のやりとりをする製品搬送装置などが設置される場合が多いため、空調機正面側での作業を極力無くし、背面側や側面側で作業を行うことが、クリーンルームの生産活動に支障を与えないためには大変重要となる。
【0009】
そこで本発明の主たる課題は、クリーンルームにおける生産活動に影響を与えることなく、高性能フィルタの交換が行えるようにしたクリーンルーム用空調機・吹出ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、クリーンルームに清浄化された空気を供給するクリーンルーム用空調機・吹出ユニットであって、
前記空調機・吹出ユニットの筐体内部に、上流側から順に高性能フィルタ、熱処理用コイル、吹出口が配置されるとともに、前記高性能フィルタの上流側に隣接して、前記高性能フィルタの交換時に作業員が入り込んで作業可能な空間が形成され、かつ前記空調機・吹出ユニットの筐体に、前記空間に連通し、前記高性能フィルタが出し入れ可能な点検口が設けられていることを特徴とするクリーンルーム用空調機・吹出ユニットが提供される。
【0011】
上述の通り従来の空調機では上流側から熱処理用コイル、高性能フィルタ、吹出口の順で配置されていたものを、上記請求項1記載の発明では、上流側から高性能フィルタ、熱処理用コイル、吹出口の順で配置している。このため、高性能フィルタの交換の際は、従来のように空調機・吹出ユニットの正面側で作業を行わなくても、空調機・吹出ユニットの筐体内部に作業員が入り込んで作業を行うことができるため、クリーンルームにおける生産活動に影響を与えることなく、高性能フィルタの交換が行えるようになる。
【0012】
また、空調機・吹出ユニットの筐体内部には、高性能フィルタの上流側に隣接して、高性能フィルタの交換時に作業員が入り込んで作業可能な空間が形成されるとともに、空調機・吹出ユニットの筐体には、前記空間に連通し、高性能フィルタが出し入れ可能な点検口が設けられているため、空調機・吹出ユニットの筐体内部に作業員が入り込んで高性能フィルタの交換作業が行えるようになっている。
【0013】
請求項2に係る本発明として、前記吹出口が設けられた面を前記空調機・吹出ユニットの正面としたとき、前記点検口は、前記空調機・吹出ユニットの背面及び側面のいずれか一方又は両方に設けられている請求項1記載のクリーンルーム用空調機・吹出ユニットが提供される。
【0014】
上記請求項2記載の発明では、前記点検口を空調機・吹出ユニットの背面及び/又は側面に形成しているため、空調機・吹出ユニットの前面に作業スペースを設ける必要がなくなり、クリーンルームにおける生産活動に与える影響を確実に抑えることができる。
【0015】
請求項3に係る本発明として、前記空間に、作業用の足場が仮設可能とされるか、常設されている請求項1記載のクリーンルーム用空調機・吹出ユニットが提供される。
【0016】
上記請求項3記載の発明では、前記空間内で高性能フィルタの交換作業を行う際、上方の高い所にも簡単に手が届くように、前記空間に仮設又は常設の作業用の足場を設置している。
【0017】
請求項4に係る本発明として、前記熱処理用コイルは金属製である請求項1記載のクリーンルーム用空調機・吹出ユニットが提供される。
【0018】
上記請求項4記載の発明では、本発明に係る空調機・吹出ユニットでは、高性能フィルタが吹出口の直前に配置されず、熱処理用コイルの上流側に配置しているため、熱処理用コイルとして、発塵のない金属製のものを用いている。
【発明の効果】
【0019】
以上詳説のとおり本発明によれば、クリーンルームにおける生産活動に影響を与えることなく、高性能フィルタの交換が行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る空調機1を示す、背面側からの斜視図である。
【
図3】高性能フィルタ7の交換作業を示す縦断面図である。
【
図4】従来の高性能フィルタ51の交換作業を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0022】
以下の実施形態例では、内蔵された送風機によって圧送された空気を、温湿度の調整及び清浄化を行った上でクリーンルームに吹き出す空調機を例に挙げて説明するが、送風機が内蔵されず、別途備えられた機器からダクトなどを通じて圧送された空気を、温湿度の調整及び清浄化を行った上でクリーンルームに吹き出す吹出ユニットについても同様に適用が可能である。
【0023】
本発明に係る空調機1は、
図1及び
図2に示されるように、クリーンルーム2に温湿度の調整及び清浄化を行った空気を供給するものであり、箱形の筐体3、送風機4、吹出口5、熱処理用コイル6及び高性能フィルタ7を備えている。
【0024】
前記筐体3は、空調機1の外形を構成する外装体であり、略直方体で形成されている。具体的には、前記吹出口6が設けられた正面壁部3aと、これと対向配置された背面壁部3bと、一対の側壁部3c、3cと、上面部3d及び底面部3eとで構成されている。本空調機1はクリーンルーム2内に配置されるため、前記筐体3としては、内外面とも発塵のない金属製又は樹脂製の板材で形成するのが好ましい。
【0025】
前記筐体3の内部は、高さ方向の中間部に配置された仕切板8によって、上段側空間及び下段側空間の上下2段に仕切られており、その上段側空間内に送風機4が配置されている。上段側空間には、外部からの空気、例えばクリーンルーム2からの還気や外気などが流入する図示しない開口部が設けられている。上段側空間内の空気は、前記仕切板8に設けられた開口8aを通じて送風機4によって下段側空間に送られる。
【0026】
前記送風機4は、シロッコファンなど一般の空調機に使用されるファンが用いられる。ケーシングは、発塵しない金属製又は樹脂製のものが用いられ、ベルト駆動式ではなく、直動式のものが好ましい。前記送風機4は、図示例では筐体3内部に収納されているが、空調機1の外部に配置され、この外部に配置された送風機4と空調機1とがダクトで接続されるようにしてもよい。
【0027】
筐体3内部の前記下段側空間では、送風機4によって圧送された空気が前記開口8aから前記吹出口6に向けて流れる気流が形成され、その上流側から順に、高性能フィルタ7、熱処理用コイル6、吹出口5が配置されている。
【0028】
前記吹出口5、熱処理用コイル6及び高性能フィルタ7は、互いに対向するように、縦向きに平行して配置され、これらを横方向に空気が通過するようになっている。
【0029】
前記吹出口5は、筐体3の正面壁部3aに設けられた開口3fを覆うように配置され、クリーンルーム2に吹き出す風向をガイドする複数の羽根が備えられている。この吹出口5は、発塵のない金属製または樹脂製のものが用いられ、フィルタなどの発塵のおそれのあるものは一切取り付けられていない。
【0030】
前記吹出口5の上流側に設けられる前記熱処理用コイル6としては、空気の冷却や除湿が可能な冷水コイルや空気を加熱する温水コイル、空気の冷却及び加熱の両方を行うことが可能な冷温水コイルなどを用いることができる。また、空気の湿度を調整する除湿装置や加湿装置を設けてもよい。本発明に係る空調機1では、熱処理用コイル6の下流側に高性能フィルタが配置されないため、熱処理用コイル6として、発塵のない金属製のものが用いられ、発塵するおそれのあるものは一切付属していない。
【0031】
前記熱処理用コイル6の上流側に設けられる前記高性能フィルタ7は、空気中の塵埃や浮遊する微粒子を非常に高い性能で捕集するフィルタであり、具体的にはHEPAフィルタ、ULPAフィルタ、静電フィルタ等が用いられる。前記高性能フィルタ7は、筐体3の内部において前記熱処理用コイル6と反対側の上流側から取り付け・取り外しができる構造となっている。前記高性能フィルタ7は、作業員が簡単に持ち運び可能な大きさに分割可能となっており、個々の高性能フィルタ7の周縁には、発塵しない金属製又は樹脂製の枠が取り付けられている。
【0032】
前記高性能フィルタ7の上流側に隣接して、前記高性能フィルタ7の交換時に作業員が入り込んで作業可能な空間9が形成されている。この空間9は、作業員が入り込んで高性能フィルタ7の交換作業が行える程度の大きさを有しており、前記高性能フィルタ7が配置される下段側空間の上下方向のほぼ全長に亘って形成されている。前記空間9の上部には、前記送風機4からの空気が供給される開口8aが設けられており、高性能フィルタ7前段のチャンバとしても機能している。
【0033】
また、前記空調機1の筐体3には、前記空間9に連通し、前記高性能フィルタ7が出し入れ可能な1又は複数の点検口10が設けられている。前記点検口10は、作業員が出入り可能な大きさで形成されるとともに、適当な大きさに分割された前記高性能フィルタ7を出し入れ可能な大きさで形成されている。この点検口10には、扉11が備えられており、空調機1の運転時における気密性が保持されている。
【0034】
前記点検口10は、筐体3の任意の位置に少なくとも1箇所設けられていればよいが、
図1及び
図2に示されるように、筐体3の背面壁部3b及び少なくとも一方の側壁部3cのいずれか一方又は両方に設けられるようにするのが好ましい。また、作業性の観点から、背面壁部3b及び側壁部3cそれぞれの上部及び下部に設けるのが好ましい。
【0035】
図2に示されるように、本空調機1は、前記空間9に、作業用の仮設の足場12が設置可能となっている。また、筐体3の内面に、前記仮設の足場12を設置するための支持部13が設けられている。前記支持部13は、図示例では、筐体3に固設された断面L字形の鋼材によって形成されているが、筐体3から突出する軸部材や筐体3に設けられた開孔など、空間9の高さ方向中間部に足場12が設置可能であればどのような形態でもよい。前記足場12を設置することにより、この足場12に乗って作業員が作業できるため、空間9の高い所にも作業員の手が届き、高性能フィルタ7の交換作業がしやすくなる。
【0036】
前記足場12は、高性能フィルタ7の交換作業時に必要に応じて設置する仮設でもよいし、パンチングメタルやグレーチングなど、送風の妨げにならない部材で構成すれば、常設としてもよい。
【0037】
前記点検口10を上部及び下部の上下2箇所に設ける場合、上部の点検口10は前記足場12より上方側に設置し、下部の点検口10は前記足場12より下方側に設置することにより、上部の点検口10から空間9内に入り込んで足場12の上に上がれるようにするのがよい。
【0038】
空調機1内の空気の流れは、上述したように、送風機4によって空間9内に供給された空気が、高性能フィルタ7を通過することによって空気中の塵埃等が除去されて清浄化された後、熱処理用コイル6を通過することによって温湿度が調整され、その後吹出口5を通ってクリーンルーム2内に供給される。
【0039】
次に、前記高性能フィルタ7の交換方法について
図3に基づいて説明する。交換作業を行う前に、送風機4の運転を停止して、空調機1内の空気の流れを停止する。また、作業前の準備として、空調機1の背面又は側面に仮設足場20を設置し、その周囲をパイロン21などで仕切って作業スペースを確保する。
【0040】
このとき、床設置型の横吹出し空調機の場合、吹出口5が設置された正面側に製造装置やこの製造装置と製品をやりとりする製品搬送装置などが設置されるため、従来のように、吹出口を取り外して正面側から高性能フィルタを交換する場合には、製品搬送通路に作業スペースを設けなければならず、クリーンルームにおける生産活動に支障が生じていたが、本発明に係る空調機1では、空調機1の背面や側面に作業スペースを設け、空調機1の正面には何ら影響を与えずに空調機1内で高性能フィルタ7の交換作業が行えるため、クリーンルーム2における生産活動に影響を与えることがない。
【0041】
次いで、扉11を開けて、点検口10を開放し、作業員が空調機1の空間9内部に入り込む。なお、足場12が仮設の場合はこれを設置した上で、仮設足場20を上って上部の点検口10から空調機1の空間9内部に入り込む。
【0042】
その後、作業員が空間9内で高性能フィルタ7の交換作業を行う。前記足場12が備えられることにより、高所の作業も簡単に行えるようになる。
【0043】
交換作業が完了したら、必要に応じて足場12を撤去し、全ての扉11を閉めて、送風機4の運転を再開する。
【符号の説明】
【0044】
1…空調機、2…クリーンルーム、3…筐体、4…送風機、5…吹出口、6…熱処理用コイル、7…高性能フィルタ、8…仕切板、9…空間、10…点検口、11…扉、12…足場