(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176278
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】床下補強方法、及び床下補強構造
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20231206BHJP
E02D 37/00 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
E02D3/12 101
E02D37/00
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088475
(22)【出願日】2022-05-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-03-10
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)掲載アドレス(トップページ)https://reiwa-corp.net/ (発明掲載ページ)https://reiwa-corp.net/construction.html 令和3年7月1日掲載
(71)【出願人】
【識別番号】522216097
【氏名又は名称】麗和コーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 聡男
【テーマコード(参考)】
2D040
【Fターム(参考)】
2D040AA06
2D040AB01
2D040CA10
2D040CB03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】補強箇所の強度が向上した床下補強方法等の提供。
【解決手段】本発明の床下補強方法は、地盤2と、床1との間の空洞3を埋めることで床下を補強する床下補強方法であって、床1に、空洞3と繋がる貫通孔4を形成する工程と、貫通孔4から空洞3側に棒状のドリルを挿入して地盤2を掘り下げ、貫通孔4の真下に、空洞3から下方に延びた縦穴を形成する工程と、貫通孔4から空洞3及び縦穴に液状の地盤強化剤5を供給する工程と、貫通孔4から縦穴にドリルを挿入して縦穴内の地盤強化剤5を攪拌することにより、地盤強化剤5を縦穴の周囲の土壌に浸透させて、地盤強化剤5による硬化作用により、縦穴の形状を保持させる工程と、その後、貫通孔4から空洞3及び縦穴を埋めるように、発泡性樹脂を供給する工程と、空洞3及び縦穴が、発泡性樹脂で埋められた後、貫通孔4を塞ぐ工程とを備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤と、その地盤上に施工された所定の厚みを有する床との間に形成された空洞を埋めることで床下を補強する床下補強方法であって、
前記床に、厚み方向に貫通しつつ前記空洞と繋がる貫通孔を形成する貫通孔形成工程と、
前記貫通孔から前記空洞側に棒状のドリルを挿入して前記ドリルにより地盤を掘り下げることで、前記貫通孔の真下に、前記空洞から下方に延びた縦穴を形成する縦穴形成工程と、
前記貫通孔から前記空洞及び前記縦穴に液状の地盤強化剤を供給する第1供給工程と、
前記貫通孔から前記縦穴に前記ドリルを挿入して前記ドリルにより前記縦穴内の前記地盤強化剤を攪拌することにより、前記地盤強化剤を前記縦穴の周囲の土壌に浸透させて、前記地盤強化剤による硬化作用により、前記縦穴の形状を保持させる縦穴形状保持工程と、
前記縦穴形状保持工程の後、前記貫通孔から前記空洞及び前記縦穴を埋めるように、発泡性樹脂を供給する第2供給工程と、
前記空洞及び前記縦穴が、前記発泡性樹脂で埋められた後、前記貫通孔を塞ぐ閉塞工程とを備える床下補強方法。
【請求項2】
前記第2供給工程において、前記貫通孔に、前記発泡性樹脂を供給するノズルを挿入すると共に、前記貫通孔と前記ノズルとの間に形成される隙間を、液体を含ませた保水性シートで塞ぐ請求項1に記載の床下補強方法。
【請求項3】
前記閉塞工程において、前記第2供給工程で使用した前記保水性シートを、前記貫通孔に詰め込み、その詰め込んだ前記保水性シートを覆うように、セメント系材料で前記貫通孔を塞ぐ請求項2に記載の床下補強方法。
【請求項4】
地盤と、その地盤上に施工された所定の厚みを有する床との間に形成された空洞を埋める床下補強構造であって、
前記床に形成され、厚み方向に貫通しつつ前記空洞と繋がる貫通孔と、
前記貫通孔の真下に形成され、前記空洞から下方に延びつつ、周囲の土壌に浸透した地盤強化剤による硬化作用により、形状が保持される縦穴と、
前記空洞及び前記縦穴を埋める発泡性樹脂からなる発泡済み樹脂と、
前記貫通孔を塞ぐ栓と、を備える床下補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床下補強方法、及び床下補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
工場や倉庫等の床は、一般的に、コンクリート、モルタル等のセメント系材料により構成される。この種の床は、通常、地盤を覆うように、所定の厚みを有する層状(板状)に形成される。このような床は、強度や耐荷重等に優れるため、広く用いられている。
【0003】
ところで、この種の床の下側には、時間の経過と共に、空洞が形成されてしまうことが知られている。空洞は、主に、床上に設置された各種の機械装置(例えば、工作機械)や、床上を移動する移動体(例えば、フォークリフト)等から発生した振動が地盤に伝わることにより、地盤が緩んで沈下するために形成されると考えられている。このような空洞は、床と地盤との間に形成されるため、空洞が形成された部分の床は、地盤から離れて宙に浮いたような状態となる。つまり、空洞が形成された部分の床は、地盤で支えられていないため、それ自体の強度だけで、荷重を支えることになる。このような状態の床を、放置したままでいると、床にクラック等の破損が発生し、場合によっては、床が陥没してしまうこともあった。
【0004】
また、空洞内は湿気(水分)が溜まり易いため、床にクラック等が発生すると、そのクラック等から床の内部にまで、水分が入り込んでしまうことがあった。床の内部には、一般的に、補強等を目的とした鉄筋が埋設されているため、そのような鉄筋に水分が接触すると、時間の経過と共に、鉄筋に錆が生じつつ、その鉄筋の体積が膨張することになる。すると、更にクラック等が成長して、床が破壊されてしまう。
【0005】
従来、このような空洞が原因で床が破壊されてしまう前に、空洞を埋めて床下を補強する作業が行われている。
【0006】
例えば、特許文献1には、空洞が形成された部分のコンクリート床に、0.5cm~1.0cmの貫通孔を形成し、その貫通孔から空洞に水を注入して、地盤内に水を浸透させた後、その貫通孔に綿を詰めた状態で、その綿越しに、所定の樹脂を注入することが記載されている。このようにして注入された樹脂が、発泡して膨張することにより、空洞が樹脂で埋められる。なお、貫通孔は、最終的に、コンクリートで塞がれる。このような床下補強方法は、床を打ち替える必要がなく、施工が容易であり、しかもコスト的に有利であるため、近年、注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の床下補強方法には、改善の余地があった。例えば、時間の経過と共に、振動等の影響で、空洞を埋めた部分の樹脂が床や地盤に対して位置ずれすることにより、再び補強箇所に新たな空洞が形成されてしまう虞があった。そのため、この種の床下補強方法では、補修箇所の更なる強度の向上が望まれていた。
【0009】
本発明の目的は、補強箇所の強度が向上した床下補強方法等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> 地盤と、その地盤上に施工された所定の厚みを有する床との間に形成された空洞を埋めることで床下を補強する床下補強方法であって、前記床に、厚み方向に貫通しつつ前記空洞と繋がる貫通孔を形成する貫通孔形成工程と、前記貫通孔から前記空洞側に棒状のドリルを挿入して前記ドリルにより地盤を掘り下げることで、前記貫通孔の真下に、前記空洞から下方に延びた縦穴を形成する縦穴形成工程と、前記貫通孔から前記空洞及び前記縦穴に液状の地盤強化剤を供給する第1供給工程と、前記貫通孔から前記縦穴に前記ドリルを挿入して前記ドリルにより前記縦穴内の前記地盤強化剤を攪拌することにより、前記地盤強化剤を前記縦穴の周囲の土壌に浸透させて、前記地盤強化剤による硬化作用により、前記縦穴の形状を保持させる縦穴形状保持工程と、前記縦穴形状保持工程の後、前記貫通孔から前記空洞及び前記縦穴を埋めるように、発泡性樹脂を供給する第2供給工程と、前記空洞及び前記縦穴が、前記発泡性樹脂で埋められた後、前記貫通孔を塞ぐ閉塞工程とを備える床下補強方法。
【0011】
<2> 前記第2供給工程において、前記貫通孔に、前記発泡性樹脂を供給するノズルを挿入すると共に、前記貫通孔と前記ノズルとの間に形成される隙間を、液体を含ませた保水性シートで塞ぐ前記<1>に記載の床下補強方法。
【0012】
<3> 前記閉塞工程において、前記第2供給工程で使用した前記保水性シートを、前記貫通孔に詰め込み、その詰め込んだ前記保水性シートを覆うように、セメント系材料で前記貫通孔を塞ぐ前記<2>に記載の床下補強方法。
【0013】
<4> 地盤と、その地盤上に施工された所定の厚みを有する床との間に形成された空洞を埋める床下補強構造であって、前記床に形成され、厚み方向に貫通しつつ前記空洞と繋がる貫通孔と、前記貫通孔の真下に形成され、前記空洞から下方に延びつつ、周囲の土壌に浸透した地盤強化剤による硬化作用により、形状が保持される縦穴と、前記空洞及び前記縦穴を埋める発泡性樹脂からなる発泡済み樹脂と、前記貫通孔を塞ぐ栓と、を備える床下補強構造。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、補強箇所の強度が向上した床下補強方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】床と地盤との間に空洞が形成された状態を示す説明図
【
図5】縦穴形成工程により、地盤を掘り下げて形成された縦穴を示す説明図
【
図8】周囲の混合物が硬化して形状が保持された状態の縦穴を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔実施形態1〕
以下、本発明の実施形態1に係る床下補強方法を、
図1~
図11を参照しつつ説明する。
図1は、地盤2上に施工された床1の一例を示す説明図である。ここで、先ず、本実施形態の床下補強方法が施される床1について、簡単に説明する。床1は、コンクリート、モルタル等のセメント系材料を主材(母材)として構成された所定の厚みを有する層状(板状)の部材である。このような床1としては、例えば、コンクリート床、モルタル床等が挙げられる。また、床1の内部には、鉄筋等の補強部材が配設されていてもよい。床1は、工場、倉庫、店舗等の建築物の床である。
【0017】
なお、他の実施形態においては、本発明の目的を損なわない限り、建築物の床以外に、地盤上に形成される土木建築物の床や、道路、滑走路等の路面に対して、本実施形態の床下補強方法が適用されてもよい。
図1には、地盤2の表面2a上に、直接、床1が施工されている状態が示されている。なお、他の実施形態においては、本発明の目的を損なわない限り、地盤2の表面2aに、地盤強化等を目的とした他の層(例えば、砕石層)が形成されていてもよい。
【0018】
図1に示されるように、地盤2上に床1が施工された当初は、地盤2と床1との間に空洞はみられない。なお、以降の説明では、床1が、所定の厚み(0.5mm~20mm)を有する「コンクリート床」であるとする。
【0019】
図2は、床1と地盤2との間に空洞3が形成された状態を示す説明図である。時間の経過と共に、床1上に設置された振動源(工作機械、フォークリフト等)からの振動等の影響により、床1下の地盤2が緩んで沈下することがある。
図2には、このように地盤2が緩んで、床1の下面1bと、地盤2の表面2aとの間に、所定の深さの空洞3が形成された状態が示されている。本実施形態の床下補強方法は、このような床1下に形成された空洞3等を所定の樹脂(発泡性樹脂の硬化物)で埋めることで、床1下を補強するものである。
【0020】
このような本実施形態の床下補強方法は、主として、貫通孔形成工程、縦穴形成工程、第1供給工程、縦穴形状保持工程、第2供給工程及び閉塞工程を備える。
【0021】
貫通孔形成工程は、床1に、厚み方向に貫通しつつ空洞3と繋がる貫通孔4を形成する工程である。
図3は、貫通孔形成工程を示す説明図である。この貫通孔形成工程では、床1のうち、空洞3と上下方向で重なる部分に、ドリルDを使用して、床1の上面1a側から下面1b側に向かって貫通する所定の孔径(例えば、10mm~15mm程度)を備えた貫通孔4が形成される。貫通孔4は、床1の厚み方向(上下方向)に貫通しつつ空洞3と繋がっている。床1を上面1a側から平面視した際、貫通孔4は、空洞3と重なるように、床1に設けられている。通常、貫通孔4の大きさは、空洞3と比べて非常に小さい。このような貫通孔4は、床1の下側にある1つの空洞3に対して、1つだけ形成しても良いし、2つ以上形成してもよい。なお、補強箇所における強度の更なる向上等の観点より、貫通孔4は、1つの空洞3に対して、複数形成されることが好ましい。また、複数の貫通孔4を床1に形成する場合、隣り合った貫通孔4同士の間隔を、所定の大きさ(例えば、50cm~100cmの範囲)に設定することが好ましい。また、貫通孔形成工程において使用されるドリルDとしては、例えば、市販のコンクリート用ドリルが挙げられる。貫通孔形成工程により、床1に貫通孔4が形成された後、縦穴形成工程が行われる。
【0022】
縦穴形成工程は、貫通孔4から空洞3側に棒状のドリルDを挿入してドリルDにより地盤2を掘り下げることで、貫通孔4の真下に、空洞3から下方に延びた縦穴31を形成する工程である。
図4は、縦穴形成工程を示す説明図である。
【0023】
縦穴形成工程では、貫通孔4の真下に、空洞3に繋がる縦穴31が形成される。縦穴形成工程で使用されるドリルDとしては、貫通孔4に挿入された状態で、空洞3の深さよりも長く、かつ地盤2を掘り下げて空洞3の下側に所定の深さ(長さ)の縦穴31を形成できるものであれば、特に制限はない。そのため、通常は、上述した貫通孔形成工程で使用したドリルDが、そのまま縦穴形成工程で使用される。なお、他の実施形態においては、貫通孔形成工程で使用したドリルとは別に用意したドリルを、縦穴形成工程で使用してもよい。
図4には、貫通孔形成工程で使用したドリルDが示される。
【0024】
縦穴形成工程では、床1に設けられた貫通孔4に、所定の長さ有する棒状のドリルDが、床1の上面1a側から下面1b側に向かって挿入される。貫通孔4に挿入されたドリルDの先端を、貫通孔4の真下にある空洞3の底(つまり、地盤2の表面2a)に押し当てつつ、その状態のドリルDを回転させることにより、地盤2がドリルDにより掘り下げられて、空洞3と繋がった縦穴31が形成される。縦穴31は、全体的には、上方に開口した有底の筒型をなしている。縦穴31の深さ(上下方向の長さ)は、本発明の目的を損なわなリ限り、特に制限はないが、例えば、空洞3の深さ(上下方向の長さ)に対して、2倍~5倍程度の深さに設定されることが好ましい。縦穴31の深さは、例えば、10cm~30cmであることが好ましい。なお、縦穴31の内径は、床1に設けられた貫通孔4の孔径と略同じである。
【0025】
図5は、縦穴形成工程により、地盤2を掘り下げて形成された縦穴31を示す説明図である。縦穴31は、貫通孔4の真下にあり、空洞3と繋がっている。このように縦穴31が形成された後、第1供給工程が行われる。
【0026】
第1供給工程は、貫通孔4から空洞3及び縦穴31に液状の地盤強化剤5を供給する工程である。
図6は、第1供給工程を示す説明図である。地盤強化剤5は、液状であり、地盤2の表面2a等から、地盤2を構成する土壌2b中に浸透して、その浸透した部分の地盤2を固める。
図6に示されるように、地盤2には縦穴31が形成されているため、その縦穴31内にも地盤強化剤5が供給される。本実施形態では、土壌2b中等に含まれる水分と反応して硬化するタイプの地盤強化剤5が使用される。このような地盤強化剤5としては、例えば、イソシアネート系地盤強化剤(例えば、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート)等が挙げられる。なお、地盤強化剤5は、適宜、溶剤等を含んでもよい。
【0027】
第1供給工程において、地盤強化剤5の供給は、例えば、所定の吐出ノズル6を備えた供給装置(例えば、電動式ミニポンプ、最大吐出圧力:1.4MPa)を用いて行われる。この場合、長手状の吐出ノズル6の先端が、貫通孔4を介して空洞3内に入れられ、そして、その状態の吐出ノズル6から、液状の地盤強化剤5が吐出される。なお、地盤強化剤5を空洞3内に供給する方法は、これに限られず、目的に応じて、適宜、選択される。地盤強化剤5の供給量は、地盤2の状況(例えば、土壌2bの種類や水分量等)に応じて、適宜、設定される。
【0028】
第1供給工程により、空洞3及び縦穴31内に地盤強化剤5が供給された後、適宜、吐出ノズル6を貫通孔4から抜き出して、次の縦穴形状保持工程が行われる。
【0029】
縦穴形状保持工程は、貫通孔4から縦穴31にドリルDを挿入してドリルDにより縦穴31内の地盤強化剤5を攪拌することにより、地盤強化剤5を縦穴31の周囲(周面及び底面)の土壌に浸透させて、地盤強化剤5による硬化作用により、縦穴31の形状を保持させる工程である。
図7は、縦穴形状保持工程を示す説明図である。
【0030】
第1供給工程後の縦穴31内には、液状の地盤強化剤5が収容された状態となっている。そのような縦穴31内にドリルDを挿入して、ドリルDの回転により縦穴31内の地盤強化剤5を攪拌すると、地盤強化剤5が、地盤2を構成する土壌2bと混ざり合いながら、縦穴31の周囲(周面及び底面)の土壌に、強制的に浸透することになる。その際、地盤強化剤5は、縦穴31の周面等から外側に向かって広がるように効率よく浸透する。
【0031】
縦穴31内に挿入されて回転したドリルDの周囲には、地盤強化剤5と土壌2bとが混ざり合った混合物Mが存在している。そのような混合物Mが、縦穴31の周面及び底面を形成する。そのような状態において、地盤強化剤5の硬化作用により、混合物Mが固まると、地盤2の中において、形状が保持された縦穴31が得られる。
図8は、周囲の混合物Mが硬化して形状が保持された状態の縦穴31を示す説明図である。
【0032】
縦穴形状保持工程で使用されるドリルDは、上述した縦穴形成工程や貫通孔形成工程で使用したものと同じであっても良いし、別途用意した他のドリルを用いてもよい。なお、作業効率の向上等の観点より、縦穴形状保持工程では、縦穴形成工程や貫通孔形成工程で使用したものと同じドリルDを用いることが好ましい。
【0033】
第1供給工程後、ドリルDで攪拌しなくても、縦穴31内に収容された液状の地盤強化剤5は、縦穴31の周囲に存在する土壌中に浸透することになる。しかしながら、ドリルDによる攪拌を行わないと、空洞3の底側に存在する土壌が縦穴31内に流れ込むことや、縦穴31の形が崩れる等して、十分な大きさの縦穴31を確保できない場合がある。また、ドリルDによる攪拌を行わないと、地盤強化剤5の浸透が不均一になり易く、縦穴31の形が保持され難くなる場合がある。したがって、縦穴形状保持工程は、第1供給工程の後、縦穴31内の地盤強化剤5が土壌中に浸透してしまう前に、行う必要がある。
【0034】
第2供給工程は、縦穴形状保持工程の後、貫通孔4から空洞3及び縦穴31を埋めるように、発泡性樹脂8を供給する工程である。
図9は、第2供給工程を示す説明図である。発泡性樹脂8は、未硬化の状態では液状である。そのような未硬化の発泡性樹脂8が、発泡により体積が膨張して硬化することにより、固体状の樹脂(後述する発泡済み樹脂80)となる。
【0035】
発泡性樹脂8としてはこの種の空洞3を埋める方法で用いられる一般的なものを使用できる。発泡性樹脂8としては、例えば、主剤と触媒とから構成されるウレタン系発泡性樹脂が挙げられる。ウレタン系発泡性樹脂の主剤としては、例えば、メチレンビス(4,1-フェニレン)=ジイソシアネート等を含むものからなる。また、ウレタン系発泡性樹脂の触媒としては、例えば、ジメチルミリスチルアミン等を含むものからなる。ウレタン系発泡性樹脂は、このような主剤及び触媒が、それぞれ所定の割合で配合された液状の組成物からなる。なお、ウレタン系発泡性樹脂等の発泡性樹脂8は、適宜、溶剤等を含んでもよい。
【0036】
第2供給工程において、発泡性樹脂8の供給は、例えば、所定の吐出ノズル6Aを備えた供給装置を用いて行われる。この供給装置としては、例えば、上述した第1供給工程で用いたものと同様のもの(同様の吐出圧力を備えたもの)を用いることができる。
図9に示されるように、長手状の吐出ノズル6Aの先端が、貫通孔4を介して空洞3内に入れられ、そして、その状態の吐出ノズル6Aから、所定量の液状の発泡性樹脂8が吐出される。なお、発泡性樹脂8を空洞3内に供給する方法は、これに限られず、目的に応じて、適宜、選択される。
【0037】
このように吐出ノズル6Aを利用して発泡性樹脂8が供給されると、発泡性樹脂8は、縦穴31や空洞3に充填される。所定量の発泡性樹脂8が空洞3や縦穴3に供給された後、吐出ノズル6Aは、貫通孔4から適宜、抜き取られる。空洞3や縦穴3に供給された発泡性樹脂8は、時間の経過と共に発泡を伴った化学反応が進行して、体積が膨張しつつ硬化する。
【0038】
第2供給工程において、発泡性樹脂8を貫通孔4から空洞3内及び縦穴31内へ供給する際、貫通孔4から外側(床1の上面1a側)へ発泡性樹脂8が溢れ出さないように、適宜、処置が施されてもよい。例えば、貫通孔4に、吐出ノズル6Aを差し入れて、発泡性樹脂8の供給を行う場合、その貫通孔4と、吐出ノズル6Aとの間にできる隙間を、所定サイズの保水性シート(ウエスペーパー等)に水分等の液体を含ませたものからなる流出防止材7で塞いで、発泡性樹脂8が貫通孔4から外側に溢れるのを抑制してもよい。流出防止材7は、液体を含んだ状態の保水性シートを、貫通孔4を囲むように環状に形成されることが好ましい。
【0039】
閉塞工程は、空洞3及び縦穴31が、発泡性樹脂8で埋められた後、貫通孔4を塞ぐ工程である。
図10は、閉塞工程を示す説明図であり、
図11は、貫通孔4を塞ぐ栓9の拡大断面図である。この閉塞工程では、貫通孔4が、少なくともモルタル等のセメント系材料からなる栓9により塞がれる。なお、
図11に示されるように、閉塞工程では、先ず貫通孔4の下側部分に、上述した第2供給工程で使用した、流出防止材7(保水性シート)を丸めたものを詰めることが好ましい。次いで、その丸めた流出防止材7の上に、プラスチック製のスポンジ等からなる多孔性部材10を重ねる形で、貫通孔4に充填されることが好ましい。そして、その多孔性部材10の上に、重ねる形で、上述したセメント系材料からなる栓9が形成される。このように貫通孔4を栓9で塞ぐことにより、貫通孔4が形成された部分の床1の気密性及び水密性が保たれる。
【0040】
以上のような、貫通孔形成工程、縦穴形成工程、第1供給工程、縦穴形状保持工程、第2供給工程及び閉塞工程を経ることにより、床1下に形成された空洞3及び縦穴31を、発泡性樹脂8の硬化物である発泡済み樹脂80で埋めることで、床1下が補強される。したがって、発泡済み樹脂80により、床1の下側にある地盤2が補強されると共に、その補強された地盤2によって床1が下側から支えられることで、床1が補強される。
【0041】
特に、本実施形態の場合、発泡済み樹脂80が、床1下に形成された空洞3のみならず、その空洞3から下方に延びた縦穴31に充填された状態となる。そのため、発泡済み樹脂80のうち、空洞3に充填された部分からなる本体部81が、縦穴31に充填された部分からなる柱部82により、下方から支えられた状態となる。縦穴31は、上述したように、周囲の土壌2bに浸透した地盤強化剤5による硬化作用により形状が保持されたもの(つまり、地盤2を構成する土壌2bと地盤強化剤5との混合物Mが固まって形成されたもの)であり、そのような縦穴31の内部に、柱部82が収容されている。柱部82は、上下方向に延びた概ね円柱状をなしている。本体部81は、このような状態の柱部82により下方から支えられる形となるため、位置ずれや、地盤2と共に沈下し難い構造となっており、床1を支持する効果が高いと言える。このような床下補強方法によれば、従来法と比べて、補強箇所の強度が向上する。
【0042】
なお、床1の下面1b側に開口した隙間(クラック等)が形成されている場合、空洞3等に充填された発泡性樹脂8は、そのような隙間にも入り込むことができる。したがって、本実施形態の床下補強方法によれば、そのような隙間の補修も同時に行うことができる。
【0043】
なお、本実施形態の床下補強方法により、補強された床1下の構造を、床下補強構造100と称する。床下補強構造100は、地盤2と、その地盤2上に施工された所定の厚みを有する床1との間に形成された空洞2を埋める構造である。このような床下補強構造100は、床1に形成され、厚み方向に貫通しつつ空洞3と繋がる貫通孔4と、貫通孔4の真下に形成され、空洞3から下方に延びつつ、地盤2を構成する土壌2bと地盤強化剤5との混合物Mにより形状が保持される縦穴31と、空洞3及び縦穴31を埋める発泡性樹脂からなる発泡済み樹脂80と、貫通孔4を塞ぐ栓9とを備える。
【符号の説明】
【0044】
1…床、2…地盤、3…空洞、4…貫通孔、5…地盤強化剤、6,6A…吐出ノズル、7…流出防止材、8…発泡性樹脂、80…発泡済み樹脂、81…本体部、82…柱部、9…栓、100…床下補強構造、D…ドリル