(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176279
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】ステントデリバリー装置
(51)【国際特許分類】
A61F 2/966 20130101AFI20231206BHJP
【FI】
A61F2/966
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088476
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000200035
【氏名又は名称】SBカワスミ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】山辺 悦朗
(72)【発明者】
【氏名】福島 寛満
(72)【発明者】
【氏名】片山 貴博
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA44
4C267AA50
4C267AA54
4C267AA56
4C267BB06
4C267BB11
4C267BB12
4C267BB26
4C267BB40
4C267CC07
4C267CC09
4C267GG31
4C267HH14
(57)【要約】
【課題】ステントをアウターシースから露出させる動作を円滑にすることが可能なステントデリバリー装置を提供する。
【解決手段】ステントデリバリー装置は、インナーシースと、インナーシースの外周に取り付けられるステント2と、インナーシース及びステント2の外周を覆うように取り付けられたアウターシースと、ステント2の近位側への移動を制限する押さえ部材(プッシャー)と、を備える。アウターシースは、インナーシースに対して相対的に摺動可能に取り付けられており、ステント2を外部に露出可能に構成されている。ステント2は、ワイヤ21と樹脂カバー20とを一体化したカバードステントである。ステント2には、ステアリン酸塩の粉体である固体潤滑剤7がステント2の外周部に付着している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナーシースと、
該インナーシースの外周に取り付けられるステントと、
前記インナーシース及び前記ステントの外周を覆うように取り付けられたアウターシースと、
前記ステントの近位側への移動を制限する押さえ部材と、を備え、
前記アウターシースは、前記インナーシースに対して相対的に摺動可能に取り付けられており、前記ステントを外部に露出可能に構成されており、
前記ステントは、ワイヤと樹脂カバーとを一体化したカバードステントであり、ステアリン酸塩の粉体である固体潤滑剤が前記ステントの外周部に付着していることを特徴とするステントデリバリー装置。
【請求項2】
前記ステントを構成するワイヤの網目で区分けされた領域内において、
前記固体潤滑剤は、前記ワイヤで区分けされた領域の中央部分よりも前記網目の周縁部分に大きな密度で付着している請求項1に記載のステントデリバリー装置。
【請求項3】
前記ステントの外周面には径方向外側に突出する凸部と径方向内側に窪んだ凹部と、が形成されており、
前記固体潤滑剤は、前記凸部上よりも前記凹部上において厚く付着している請求項1又は2に記載のステントデリバリー装置。
【請求項4】
前記固体潤滑剤は、前記ステントの端部の内周面にも付着している請求項3に記載のステントデリバリー装置。
【請求項5】
前記固体潤滑剤は、前記ステントの外周面、前記ステントの前記端部の前記内周面、及び前記ステントの中央部の内周面の順で大きな密度で付着している請求項4に記載のステントデリバリー装置。
【請求項6】
前記固体潤滑剤は、ステアリン酸カルシウムで形成されており、
前記ステントの外周面に、1cm2あたり0.5mg以上2.5mg以下の密度で付着している請求項5に記載のステントデリバリー装置。
【請求項7】
前記ステントの前記樹脂カバーにおける前記固体潤滑剤が付着している部位が、少なくともPTFE樹脂によって形成されている請求項6に記載のステントデリバリー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体管内にステントを留置可能なステントデリバリー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用に体内に留置される留置具として、ステントがある。
ステントは、生体管腔内に生じた狭窄部や閉塞部、癒着部等に留置して用いられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、筒状のステントが外周面に取り付けられたインナーシースと、インナーシースに対して軸方向に相対移動可能であり、インナーシースとの間にステントを収容可能なアウターシースと、を備えるステントデリバリー装置が開示されている。
特許文献1には、ステントをインナーシースの所定位置に留めつつ、アウターシースをインナーシースに対して相対移動させて、ステントを適切に放出させるために、インナーシースの外周に溝部を設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のステントデリバリー装置においては、アウターシースをインナーシースに対して相対移動させる際に、ステントからアウターシースに摩擦力が加わる。
例えば、インナーシース及びステントを曲げた状態でアウターシースを展開する際に、この摩擦力は特に大きくなる。このため、当該摩擦力により、アウターシースの移動を阻害したり、アウターシースとともにステントが移動したりすることがあり、ステントの円滑な露出について改善の余地があった。
【0006】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであり、ステントをアウターシースから露出させる動作を円滑にすることが可能なステントデリバリー装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のステントデリバリー装置は、インナーシースと、該インナーシースの外周に取り付けられるステントと、前記インナーシース及び前記ステントの外周を覆うように取り付けられたアウターシースと、前記ステントの近位側への移動を制限する押さえ部材と、を備え、前記アウターシースは、前記インナーシースに対して相対的に摺動可能に取り付けられており、前記ステントを外部に露出可能に構成されており、前記ステントは、ワイヤと樹脂カバーとを一体化したカバードステントであり、ステアリン酸塩の粉体である固体潤滑剤が前記ステントの外周部に付着していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のステントデリバリー装置によれば、アウターシースをインナーシースに対して摺動させてステントをアウターシースから露出させる動作を円滑にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係るステントデリバリー装置を模式的に示す図であって、ステントの展開途中の状態を示す図である。
【
図3】
図2のIII部に係るステントの端部の断面を示す模式図である。
【
図5】潤滑剤が付着していない比較例のステントと潤滑剤が付着している実施例のステントをアウターシースから展開させる際に必要な展開荷重の差異を示す図である。
【
図6】第1変形例に係るステントの端部(
図3に対応する部位)の断面を示す模式図である。
【
図7】第2変形例に係るステントの端部(
図3に対応する部位)の断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係るステントデリバリー装置1を図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。すなわち、以下に説明する部材の形状、寸法、配置等については、本発明の趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
また、図面は、ステントデリバリー装置1を構成する部材の長さ、幅、高さといった寸法比を必ずしも正確に表すものではない。
なお、近位側(基端側)は、施術時に術者の近くに配置される側をいい、遠位側(先端側)は、施術時に術者の遠くに配置される側をいう。
また、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0011】
<<概要>>
まず、本実施形態に係るステントデリバリー装置1の概要について、
図1及び
図2を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るステントデリバリー装置1を模式的に示す図であって、ステント2の展開途中の状態を示す図、
図2は、ステント2を示す模式図である。
【0012】
図1に示すように、ステントデリバリー装置1は、インナーシース33と、インナーシース33の外周に取り付けられるステント2と、インナーシース33及びステント2の外周を覆うように取り付けられたアウターシース31と、ステント2の近位側への移動を制限する押さえ部材(プッシャー6)と、を備える。アウターシース31は、インナーシース33に対して相対的に摺動可能に取り付けられており、ステント2を外部に露出可能に構成されている。
図2に示すように、ステント2は、ワイヤ21と樹脂カバー20とを一体化したカバードステントである。ステント2には、ステアリン酸塩の粉体である固体潤滑剤7がステント2の外周部に付着している。
【0013】
プッシャー6は、インナーシース33とアウターシース31との間に配設され、ステント2と径方向において重なる位置にあり、ステント2よりも近位側に配設されていることにより、ステント2の近位側への移動を制限している。
また、具体的には、ステント2は、アウターシース31がステント2に対して近位側に移動することで、アウターシース31の遠位端から露出するように構成されている。
【0014】
上記構成によれば、ステアリン酸塩の粉体が付着していることで、アウターシース31をインナーシース33に対して摺動させる際に、ステント2から加わる摩擦抵抗(展開荷重)を低く抑えることができる。
【0015】
<全体構成>
ステントデリバリー装置1は、体管内(例えば消化器内)に、ステント2を供給するものである。ステントデリバリー装置1は、
図1に示すように、シース3と、シース3内に収容されたステント2と、ステント2の近位側への移動を制限するプッシャー6と、を備える。
シース3は、インナーシース33と、インナーシース33の外周に取り付けられたアウターシース31と、によって構成され、インナーシース33とアウターシース31との間にステント2が収容されている。
インナーシース33は、ガイドワイヤ34を通すことが可能なように、筒状に形成されており、インナーシース33の先端部には、先端チップ5が取り付けられている。
アウターシース31は、インナーシース33に対して長尺方向に摺動可能に取り付けられており、不図示の操作部によって近位側にけん引されたときに、ステント2を露出可能に構成されている。
【0016】
<ステント>
次に、本実施形態に係るステント2について、
図1に加え、
図2から
図5を参照して説明する。
図2は、ステント2を示す模式図、
図3は、
図2のIII部に係るステント2の端部2aの断面を示す模式図、
図4は、
図2のIV部を拡大して示す模式図である。
図5は、固体潤滑剤7が付着していない比較例のステント2と固体潤滑剤7が付着している実施例のステント2をアウターシース31から展開させる際に必要な展開荷重の差異を示す図である。
【0017】
本実施形態に係るステント2は、上記のように、ワイヤ21と樹脂カバー20とが一体的に形成されたストレートタイプのカバードステントである。ステント2は、カバードステントであるため、ステント2をアウターシース31から露出させるためにステント2に対してアウターシース31を近位側に移動させるときに、特にステント2からアウターシース31に摩擦による荷重がかかってしまう。この点に鑑み、ステント2には、
図3に示して後述するように、固体潤滑剤7が塗布されている。より具体的には、固体潤滑剤7は、ステント2の表面に塗布された後に外力が加えられることにより、ステント2の表面に対して圧接された状態にある。
【0018】
本実施形態に係るステント2の樹脂カバー20においては、内層20aがシリコーン樹脂で形成されており、外層20bがPTFE樹脂(具体的には、延伸ポリテトラフルオロエチレン樹脂)で形成されている。これらの層は例えば接着剤で接合されたうえで圧着されている。
本実施形態に係るワイヤ21は、メッシュ状に編み込まれており、樹脂カバー20の内層20aに内包されている。
【0019】
本実施形態に係る固体潤滑剤7は、ステアリン酸塩を主成分とする粉体である。ステアリン酸塩としては種々のものを用いることができるが、好ましくはステアリン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩である。より具体的にはステアリン酸カルシウム又はステアリン酸カリウムを好ましく用いることができる。ステアリン酸塩のうちステアリン酸カルシウムは生体安全性が高く、水溶解性が低く、良好な潤滑性を有するため特に好ましく用いることができる。
【0020】
固体潤滑剤7の粒子径は特に限定されないが、固体潤滑剤7は、固体潤滑剤7を例えばASTM E-11-61に規定されたメッシュ番号325に準拠したメッシュを通った大きさのものが用いられる。例えば固体潤滑剤7の最大外径が0.044mm以下であると樹脂カバー20への付着性に優れ、ステント2に対してインナーシース33を相対的に移動させる手技中に固体潤滑剤7が樹脂カバー20からこぼれ落ちることを良好に抑制できる。固体潤滑剤7の粒子径の好ましい下限値は特に限定されないが、粒子径が0.01mm以上であることが好ましい。かかる粒子径とすることで、固体潤滑剤7の過度な凝集を抑制して樹脂カバー20の表面に固体潤滑剤7を良好に分散させることができる。固体潤滑剤7としては、異種のステアリン酸塩を混合して用いてもよく、またステアリン酸塩以外の成分として他の脂肪酸塩を潤滑助剤として含んでもよい。
【0021】
ステント2を構成するワイヤ21の網目21aで区分けされた領域内において、固体潤滑剤7は、ワイヤ21で区分けされた領域の中央部分21bよりも網目21aの周縁部分21cに大きな密度で付着している。
【0022】
本実施形態に係るステント2においては、
図3に示すように、ワイヤ21は、内層20aに埋設されている。この場合、上記の「網目21aの周縁部分21c」には、網目21aを構成するワイヤ21を内包する部位の外面側であり、外層20bにおいてワイヤ21の周囲に盛り上がった凸部20eの周縁領域(凹部20fにおける凸部20eの近傍)が含まれるものとする。「凸部20eの周縁領域」としては、凸部20eで区切られた格子状の領域のうち、例えば、凹部20fの底から凸部20eの頂部の高さに対して、凸部20eの頂部側に近い側20パーセントの高さの領域である。
【0023】
例えば、ワイヤ21がステント2の外面に露出しているものであれば、「網目21aの周縁部分21c」は、樹脂カバー20の一部を基準とせず、ワイヤ21の直接の周縁領域となる。
上記構成によれば、アウターシース31との接触圧が高まりやすい網目21aの周縁部分21c(凸部20eの周縁領域)に固体潤滑剤7が大きな密度で付着していることで、凸部20e及びその周縁部分がアウターシース31の内面に摩擦力を加えることを抑制できる。
【0024】
図3に示すように、ステント2の外周面2cには、径方向外側に突出する凸部20eと径方向内側に窪んだ凹部20fと、が形成されている。固体潤滑剤7は、凸部20e上よりも凹部20f上において厚く付着している。
【0025】
なお、凸部20e上とは、凸部20eの最大突出部(頂部)上をいうものとし、それ以外を凹部20fというものとし、凹部20f上とは、凹部20fの最大窪み部(底部)上をいうものとする。
例えば、凹部20f上の固体潤滑剤7の平均厚さは、凸部20e上の固体潤滑剤7の平均厚さと比較して、3倍から10倍の厚さである。
上記構成によれば、凹凸部20d(凸部20e及び凹部20f)を固体潤滑剤7により平準化して(高低差を小さくして)、ステント2からアウターシース31に加わる摩擦抵抗を低くすることができる。
【0026】
図3に示すように、固体潤滑剤7は、ステント2の端部2aの内周面2bにも付着している。
「ステント2の端部2a」とは、円筒状に形成された長尺のステント2における、長尺方向の両端部の少なくとも一つを意味する。
上記構成によれば、ステント2の端部2aの内周面2bに固体潤滑剤7が付着していることで、ステント2を展開させる際に、ステント2の端部2aの内周面2b同士がくっつきあうことを制限でき、ステント2の端部2aが開きやすくなる。
【0027】
図3及び
図4に示すように、固体潤滑剤7は、ステント2の外周面2c、ステント2の端部2aの内周面2b、及びステント2の中央部2dの内周面2bの順で大きな密度で付着している。
例えば、ステント2の端部2aは、ステント2の軸方向における全体の長さに対して端側の5パーセントの領域であり、ステント2の中央部2dは、それ以外の領域をいうものとする。
【0028】
上記構成によれば、ステント2の外周面2cの方に、ステント2の端部2aの内周面2bよりも大きな密度で固体潤滑剤7が付着していることで、アウターシース31を摺動させる際の摩擦抵抗を小さく抑制できる。
【0029】
さらに、ステント2の端部2aの内周面2bに、中央部2dの内周面2bよりも大きな密度で固体潤滑剤7が付着していることで、ステント2を展開させる際に、端部2aを開きやすくしつつ、インナーシース33からステント2が不意に外れることを抑制できる。
つまり、ステント2を展開させる際に、端部2aにある内周面2b同士がくっつきあうことを固体潤滑剤7が付着していることで抑制できる。そして、内周面2bの中央部2dに付着する固体潤滑剤7の密度が端部2aに付着する固体潤滑剤7の密度よりも小さいことで、インナーシース33からステント2が不意に外れることを抑制できる。
【0030】
本実施形態の固体潤滑剤7は、上述したようにステアリン酸カルシウムで形成されている。固体潤滑剤7は、ステント2の外周面2cに、1cm2あたり0.5mg以上2.5mg以下の密度で付着している。
上記構成によれば、ステント2からアウターシース31に加わる摩擦力を好適に低減することができる。
【0031】
ステント2の樹脂カバー20における固体潤滑剤7が付着している部位(外層20b)が、少なくともPTFE樹脂によって形成されていると好ましい。
なお、本実施形態に係るステント2の樹脂カバー20においては、上記のように内層20aがシリコーン樹脂、外層20bがPTFE樹脂で形成されているが、このような構成に限定されない。例えば、後述するように樹脂カバー20がPTFE樹脂のみで形成されるものであってもよい。
上記構成によれば、PTFE樹脂に固体潤滑剤7を付着させることで、滑り性を効果的に高めることができる。
【0032】
また、樹脂カバー20は、後述するように、シリコーン樹脂のみで形成されるものであってもよく、長手方向に異なる材料で形成されるもの(例えば、中央部にPTFE樹脂、両端部にシリコーン樹脂で形成されるもの)であってもよい。
【0033】
図5に示すように、本実施形態に係るステントデリバリー装置1の固体潤滑剤7を塗布した実施例1から3についてのステント2と、固体潤滑剤7を塗布していない比較例1から3の不図示のステントとでは、展開荷重(ステント2を露出させるためにアウターシース31を牽引する際に必要な荷重)に大きな差異が生じた。実施例1から3および比較例1から3は、同一のステントデリバリー装置1を用いて、固体潤滑剤7の塗布の有無を相違させて各3回の展開荷重を測定したものである。
具体的には、展開荷重は、比較例1で43.6N、実施例1で20.9N、比較例2で42.4N、実施例2で17.1N、比較例3で40.1N、実施例3で26.1Nであった。したがって、固体潤滑剤7をステント2に塗布することにより展開荷重を概ね1/2まで大幅に低減できることが分かった。
【0034】
(第1変形例)
次に、本実施形態に係るステント2(樹脂カバー20)の第1変形例について、
図6を主に参照して説明する。
図6は、第1変形例に係るステント2の端部(
図3に対応する部位)の断面を示す模式図である。
上記のように樹脂カバー20については、各種構成を採用可能である。例えば、第1変形例に係る樹脂カバー30おいては、
図6に示すように、ワイヤ21の外周側に接着された外層20bのみによって構成されている。この場合、外層20bが柔軟な膜、例えばPTFE樹脂であれば、ワイヤ21に沿うように外層20bが形成されることとなる。このため、樹脂カバー20の外周面において、ワイヤ21に重なる部位が凸部20e(
図3参照)になる。
【0035】
そして、上記の実施形態において
図1、
図3及び
図4を参照して説明したように、アウターシース31との接触圧が高まりやすい網目21aの周縁部分21c(凸部20eの周縁領域)に固体潤滑剤7が大きな密度で付着していることで、凸部20eがアウターシース31の内面に摩擦力を加えることを抑制できる。
【0036】
(第2変形例)
次に、本実施形態に係るステント2(樹脂カバー20)の第2変形例について、
図7を主に参照して説明する。
図7は、第2変形例に係るステント2の端部(
図3に対応する部位)の断面を示す模式図である。
第2変形例に係る樹脂カバー40においては、
図7に示すように、樹脂カバー40内にワイヤ21が内包されている。換言すると、ワイヤ21の内周側及び外周側に樹脂カバー40が設けられている。本例に係る樹脂カバー40は、シリコーン樹脂製であるが、当然PTFE樹脂や、上記のその他の樹脂によって形成されるものであってもよい。
【0037】
この場合においても、樹脂カバー40の外周面において、ワイヤ21に重なる部位が凸部20e(
図3参照)になる。そして、上記の実施形態において
図1、
図3及び
図4を参照して説明したように、アウターシース31との接触圧が高まりやすい網目21aの周縁部分21c(凸部20eの周縁領域)に固体潤滑剤7が大きな密度で付着していることで、凸部20eがアウターシース31の内面に摩擦力を加えることを抑制できる。
【0038】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)
インナーシースと、
該インナーシースの外周に取り付けられるステントと、
前記インナーシース及び前記ステントの外周を覆うように取り付けられたアウターシースと、
前記ステントの近位側への移動を制限する押さえ部材と、を備え、
前記アウターシースは、前記インナーシースに対して相対的に摺動可能に取り付けられており、前記ステントを外部に露出可能に構成されており、
前記ステントは、ワイヤと樹脂カバーとを一体化したカバードステントであり、ステアリン酸塩の粉体である固体潤滑剤が前記ステントの外周部に付着していることを特徴とするステントデリバリー装置。
(2)
前記ステントを構成するワイヤの網目で区分けされた領域内において、
前記固体潤滑剤は、前記ワイヤで区分けされた領域の中央部分よりも前記網目の周縁部分に大きな密度で付着している(1)に記載のステントデリバリー装置。
(3)
前記ステントの外周面には径方向外側に突出する凸部と径方向内側に窪んだ凹部と、が形成されており、
前記固体潤滑剤は、前記凸部上よりも前記凹部上において厚く付着している(1)又は(2)に記載のステントデリバリー装置。
(4)
前記固体潤滑剤は、前記ステントの端部の内周面にも付着している(1)から(3)のいずれか一項に記載のステントデリバリー装置。
(5)
前記固体潤滑剤は、前記ステントの外周面、前記ステントの前記端部の前記内周面、及び前記ステントの中央部の内周面の順で大きな密度で付着している(4)に記載のステントデリバリー装置。
(6)
前記固体潤滑剤は、ステアリン酸カルシウムで形成されており、
前記ステントの外周面に、1cm2あたり0.5mg以上2.5mg以下の密度で付着している(1)から(5)のいずれか一項に記載のステントデリバリー装置。
(7)
前記ステントの前記樹脂カバーにおける前記固体潤滑剤が付着している部位が、少なくともPTFE樹脂によって形成されている(1)から(6)のいずれか一項に記載のステントデリバリー装置。
【符号の説明】
【0039】
1 ステントデリバリー装置
2 ステント
2a 端部
2b 内周面
2c 外周面
2d 中央部
3 シース
5 先端チップ
6 プッシャー(押さえ部材)
7 固体潤滑剤
20 樹脂カバー
20a 内層
20b 外層
20d 凹凸部
20e 凸部
20f 凹部
21 ワイヤ
21a 網目
21b 中央部分
21c 周縁部分
30 樹脂カバー
31 アウターシース
33 インナーシース
34 ガイドワイヤ
40 樹脂カバー