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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176280
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】吸着用部材
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20231206BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20231206BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
H01L21/68 P
H01L21/304 622H
H01L21/78 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088477
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】富田 大樹
【テーマコード(参考)】
5F057
5F063
5F131
【Fターム(参考)】
5F057FA13
5F063FF04
5F131AA02
5F131BA31
5F131BA39
5F131BA42
5F131BA43
5F131CA09
5F131CA12
5F131CA13
5F131CA32
5F131DA33
5F131DA42
5F131EA02
5F131EA05
5F131EB01
5F131EB03
5F131EB56
5F131EB78
5F131EB79
(57)【要約】
【課題】被吸着体に対して優れた吸着性を有し、被吸着体の裏面を損傷しにくく、洗浄効率の高い吸着用部材を提供する。
【解決手段】本開示に係る吸着用部材は、被吸着体を吸着するための吸着面を有する第1膜と、第1膜を支持する多孔質基体とを含む。吸着面の粗さ曲線における算術平均傾斜角(RΔa)の平均値は、15°以上45°以下である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被吸着体を吸着するための吸着面を有する第1膜と、
該第1膜を支持する多孔質基体と、
を含み、
前記吸着面の粗さ曲線における算術平均傾斜角(RΔa)の平均値は、15°以上45°以下である、
吸着用部材。
【請求項2】
前記吸着面を囲繞する環状面を有する第2膜と、該第2膜を支持し、前記多孔質基体を収容する有底環状体を有する支持部とを、さらに備える、請求項1に記載の吸着用部材。
【請求項3】
前記吸着面および前記環状面は、半導電性を有する、請求項2に記載の吸着用部材。
【請求項4】
前記第2膜は、前記有底環状体よりも破壊靭性が高く、前記有底環状体の外周面の延長上に位置する前記第2膜の外周部の厚みは、前記第1膜の厚みよりも大きい、請求項2に記載の吸着用部材。
【請求項5】
前記吸着面は黒色を呈し、
波長域360nm~740nmにおける10nm間隔毎の波長と、前記吸着面の反射率R(λ)(但し、λは、前記波長域内の波長(nm))とが正の相関を有し、
対数近似して得られる回帰式の傾きが、2以下である、
請求項1または2に記載の吸着用部材。
【請求項6】
前記環状面は黒色を呈し、
波長域360nm~740nmにおける10nm間隔毎の波長と、前記環状面および前記吸着面の少なくともいずれかの反射率R(λ)(但し、λは、前記波長域内の波長(nm))とが正の相関を有し、
対数近似して得られる回帰式の傾きが、2以下である、
請求項2に記載の吸着用部材。
【請求項7】
前記吸着面は黒色を呈し、前記吸着面内の色差が3以下(但し、0を除く)である、請求項1または2に記載の吸着用部材。
【請求項8】
前記環状面は黒色を呈し、前記環状面内の色差が3以下(但し、0を除く)である、請求項2に記載の吸着用部材。
【請求項9】
請求項1または2に記載の吸着用部材を備える、加工装置。
【請求項10】
請求項1または2に記載の吸着用部材を備える、検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着用部材、ならびにこの吸着用部材を用いた加工装置および検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、メモリ、IC(集積回路)などの製造工程において、半導体ウエハなどの被吸着体を吸着および保持するために、吸着用部材が用いられている。このような吸着用部材としては、例えば、特許文献1に記載のような、多孔質部材を用いた真空吸着部材が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-12757号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多孔質部材を用いた真空吸着部材は、多孔質部材を構成している粒子が脱粒し、真空吸着部材の吸着面と被吸着体の裏面との間に、脱粒して浮遊している粒子が挟み込まれる場合がある。このような浮遊している粒子が、真空吸着部材の吸着面と被吸着体の裏面との間に挟み込まれると、被吸着体の裏面が損傷する。
【0005】
本開示の課題は、被吸着体に対して優れた吸着性を有し、被吸着体の裏面を損傷しにくく、洗浄効率の高い吸着用部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示に係る吸着用部材は、被吸着体を吸着するための吸着面を有する第1膜と、第1膜を支持する多孔質基体とを含む。吸着面の粗さ曲線における算術平均傾斜角(RΔa)の平均値は、15°以上45°以下である。
【0007】
(2)上記(1)に記載の吸着用部材において、吸着面を囲繞する環状面を有する第2膜と、第2膜を支持し、多孔質基体を収容する有底環状体を有する支持部とを、さらに備える。
(3)上記(2)に記載の吸着用部材において、吸着面および環状面は、半導電性を有する。
(4)上記(2)または(3)に記載の吸着用部材において、第2膜は、有底環状体よりも破壊靭性が高く、有底環状体の外周面の延長上に位置する第2膜の外周部の厚みは、第1膜の厚みよりも大きい。
(5)上記(1)~(4)のいずれかに記載の吸着用部材において、吸着面は黒色を呈し、波長域360nm~740nmにおける10nm間隔毎の波長と、吸着面の反射率R(λ)(但し、λは、波長域内の波長(nm))とが正の相関を有し、対数近似して得られる回帰式の傾きが、2以下である。
(6)上記(2)~(5)のいずれかに記載の吸着用部材において、環状面は黒色を呈し、波長域360nm~740nmにおける10nm間隔毎の波長と、環状面および吸着面の少なくともいずれかの反射率R(λ)(但し、λは、前記波長域内の波長(nm))とが正の相関を有し、対数近似して得られる回帰式の傾きが、2以下である。
(7)上記(1)~(6)のいずれかに記載の吸着用部材において、吸着面は黒色を呈し、吸着面内の色差が3以下(但し、0を除く)である。
(8)上記(2)~(7)のいずれかに記載の吸着用部材において、環状面は黒色を呈し、環状面内の色差が3以下(但し、0を除く)である。
【0008】
(9)本開示に係る加工装置は、上記(1)~(8)のいずれかに記載の吸着用部材を備える。さらに、(10)本開示に係る検査装置は、上記(1)~(8)のいずれかに記載の吸着用部材を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る吸着用部材は、上記のように、吸着面の粗さ曲線における算術平均傾斜角(RΔa)の平均値は、15°以上45°以下である。したがって、本開示に係る吸着用部材は、被吸着体に対して優れた吸着性を有し、被吸着体の裏面を損傷しにくく、洗浄効率も高い。
【0010】
さらに、本開示に係る加工装置および検査装置は、本開示に係る吸着用部材を備える。したがって、本開示に係る加工装置および検査装置は、被吸着体に対して優れた吸着性を有し、被吸着体の裏面を損傷しにくく、洗浄効率も高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の一実施形態に係る吸着用部材を示す斜視図である。
図2図1に示すX-X線で切断した断面を示す説明図である。
図3】本開示の他の実施形態に係る吸着用部材の断面を示す説明図である。
図4図3に示す領域Yの種々の実施形態を説明するための説明図である。
図5図1に示す吸着用部材を備えた本開示の一実施形態に係る検査装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の一実施形態に係る吸着用部材を、図1および2に基づいて説明する。図1および2に示すように、一実施形態に係る吸着用部材1は、第1膜2、多孔質基体3および支持部4を含む。図1は一実施形態に係る吸着用部材1を示す斜視図であり、図2図1に示すX-X線で切断した断面を示す説明図である。
【0013】
第1膜2は被吸着体を吸着するための吸着面2aを有する。第1膜2を形成している原料としては限定されず、例えば、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、炭化珪素、チタン、窒化チタン、炭化チタン、炭窒化チタンまたは化学量論組成から酸素が欠損した酸化チタンもしくはチタン酸アルミニウムなどが挙げられる。第1膜2は、例えば、0.5μm以上3μm以下の厚みを有し、後述する多孔質基体3と対向する面から吸着面2aまで貫通する貫通孔を有する。第1膜2に、このような貫通孔が存在することによって、多孔質基体3側から吸引すると、被吸着体が吸着面2aに吸着される。第1膜2に存在する貫通孔の平均径は、例えば、30μm以上70μm以下である。第1膜2は、上記の貫通孔を有していれば、多孔質膜であってもよく、緻密質膜であってもよい。
【0014】
一実施形態に係る吸着用部材1において、第1膜2の吸着面2aの粗さ曲線における算術平均傾斜角(RΔa)の平均値は、15°以上45°以下である。算術平均傾斜角(RΔa)の平均値が15°以上であると、吸着面2aが被吸着体の裏面に接触する面積が減少する。そのため、浮遊する粒子が、吸着面2aと裏面との間に挟み込まれにくくなる。その結果、被吸着体の裏面が損傷しにくくなる。一方、算術平均傾斜角(RΔa)の平均値が45°以下であると、後述する支持部4の有底環状体41の裏面側から逆洗しても、通気抵抗が上昇しにくくなる。その結果、第1膜2および多孔質基体3が支持部4から外れにくく、効率的に洗浄することができる。
【0015】
算術平均傾斜角(RΔa)は、JIS B 0601:2001に準拠し、形状解析レーザ顕微鏡((株)キーエンス製、超深度カラー3D形状測定顕微鏡(VK-X1100またはその後継機種))を用いて測定することができる。具体的には、照明方式を同軸落射、倍率を240倍、カットオフ値λsを無し、カットオフ値λcを0.08mm、カットオフ値λfを無し、終端効果の補正を有り、測定対象とする吸着面から1か所当たりの測定範囲を、1420μm×1070μmに設定すればよい。各測定範囲に、測定範囲の長手方向に沿って測定対象とする線を略等間隔に4本引いて、線粗さ計測を行えばよい。測定の対象とする線1本当たりの長さは、1282μmとする。測定範囲は、円周方向に沿って略等間隔に6箇所設定し、測定対象とする線は合計24本とする。算術平均傾斜角(RΔa)の平均値は、この24本の線から得られる測定値の平均値である。
【0016】
第1膜2の吸着面2aは、半導電性を有していてもよい。本明細書において「半導電性」とは、表面抵抗値が10Ω以上1011Ω以下であることを意味する。第1膜2の吸着面2aが半導電性を有していると、吸着面2aから被吸着体を取り外す際に生じやすい剥離帯電による急激な放電の発生を、より緩和することができる。表面抵抗値は、二針電気抵抗計(PROSTAT社製、PRS-802)を用い、端子間距離を10mm、印加電圧を100Vとして求めればよい。
【0017】
第1膜2の吸着面2aは、黒色を呈していてもよい。第1膜2の吸着面2aが黒色の場合、波長域360nm~740nmにおける10nm間隔毎の波長と、吸着面2aの反射率R(λ)(但し、λは、波長域内の波長(nm))とが正の相関を有し、対数近似して得られる回帰式の傾きが、2以下であってもよい。回帰式の傾きが2以下であれば、回帰式の傾きは小さく、波長が大きい領域でも反射率が収束する傾向を示す。そのため、小さい波長域における反射率と大きい波長域における反射率との差が小さくなる。その結果、色むらが生じにくくなり、被吸着体の検出および識別がしやすくなる。特に、目視による検出および識別がしやすくなる。
【0018】
第1膜2の吸着面2aが黒色の場合、吸着面2a内の色差が3以下(但し0を除く)であってもよい。吸着面2a内の色差が3以下であれば、色むらがより小さくなる。色むらが小さくなることによって、吸着用部材1の商品価値も向上する。
【0019】
吸着面2aの反射率R(λ)および色差は、例えば、分光測色計(コニカミノルタ(株)製、CM-2600dまたはその後継機種)を用い、測定条件は、光源をCIE標準光源D65、視野角を2°に設定することで求められる。色差を求める場合、まず、吸着面2aの円周方向に沿って、測定点を略等間隔に、例えば、5点とする。この5点の測定点のうち、任意の1点を基準測定点、他を比較測定点とし、色差(ΔE*ab)は、以下の数式(A)で求めればよい。
【0020】
ΔE*ab=((ΔL*)+(Δa*)+(Δb*)))1/2・・・(A)
ΔL*:基準測定点に対する比較測定点の明度指数L*の差
Δa*:基準測定点に対する比較測定点のクロマティクネス指数a*の差
Δb*:基準測定点に対する比較測定点のクロマティクネス指数b*の差
【0021】
多孔質基体3は、第1膜2を支持するための部材である。多孔質基体3に第1膜2を支持する方法は限定されない。多孔質基体3は、第1膜2を支持し得る大きさであれば、特に限定されない。多孔質基体3は、例えば、5mm以上20mm以下の厚みを有する。多孔質基体3は、例えば、70mm以上203mm以下の直径を有する。
【0022】
多孔質基体3は、例えば、セラミックスで形成されている。このようなセラミックスの原料としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化珪素などの酸化物を主成分とするセラミックス原料が挙げられる。本明細書において多孔質基体3とは、水銀圧入法で求められる気孔率が20体積%以上の基体を意味する。水銀圧入法とは、水銀圧入型ポロシメータを用いて、多孔質基体3(試料)の気孔に水銀を圧入(水銀圧入法)し、気孔率を求める方法であり、JIS R 1655-2003に準拠して求めればよい。
【0023】
多孔質基体3は、厚み方向に連通する気孔を含み、多孔質基体3に含まれる気孔の気孔率は、20体積%以上であれば限定されない。多孔質基体3に含まれる気孔の気孔率は、例えば、28体積%以上38体積%以下であってもよい。気孔率がこのような範囲であれば、機械的強度を低下させることなく、通気抵抗をより低くすることができる。多孔質基体3に存在する気孔の平均径は、例えば30μm以上70μm以下である。
【0024】
多孔質基体3に含まれる気孔と第1膜2に含まれる少なくとも一部の貫通孔とは、連通している。気孔と貫通孔とが連通していることによって、多孔質基体3側から吸引すると、第1膜2の吸着面2aに被吸着体が吸着される。
【0025】
図1に示すように、一実施形態に係る吸着用部材1において、第1膜2を支持している多孔質基体3は、支持部4に収容されている。支持部4は、多孔質基体3を収容するための有底環状体41を有し、底部の外縁部には、加工装置、検査装置などの各種装置に取り付けるための取り付け穴4aが形成されている。支持部4は、緻密質のセラミックスからなる。緻密質のセラミックスとは、相対密度が、例えば、94%以上のセラミックスをいう。
【0026】
この相対密度は、セラミックスの理論密度に対するJIS R 1634:1998に準拠して求められたセラミックスの見掛密度の百分率である。セラミックスの理論密度については、セラミックスを構成するそれぞれの含有量をICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法または蛍光X線分析法により求め、各成分はCuKα線を用いたX線回折法によって同定すればよい。
【0027】
図2に示すように、支持部4の底部には、取り付け穴4a以外に、底部の厚み方向に位置する吸引路4bが形成されており、吸引路4bと多孔質基体3との間には、溝4cが位置している。支持部4に形成された吸引路4bおよび溝4cは、多孔質基体3に含まれる気孔と連通している。そのため、多孔質基体3が支持部4に収容されていても、支持部4の底部から吸引することによって、第1膜2の吸着面2aに被吸着体を吸着することができる。吸引路4bおよび溝4cは、少なくとも1つ形成されていればよく、例えば、複数の吸引路4bおよび溝4cが同心円状に形成されていてもよく、列状や格子状など直線状に形成されていてもよく、ランダムに形成されていてもよい。
【0028】
図3に示すように、支持部4の有底環状体41の上面41aには、第2膜5が支持されていてもよい。図3は、本開示の他の実施形態に係る吸着用部材1’の断面を示す説明図である。図1および図2に示す部材と同じ部材については、同一の符号を付しており、詳細な説明は省略する。
【0029】
吸着用部材1’において、第2膜5は第1膜2の吸着面2aを囲繞する環状面5aを有する。第2膜5の環状面5aと第1膜2の吸着面2aとは、略面一となるように位置している。支持部4の有底環状体41の上面41aに第2膜5が支持されていることによって、被吸着体を加工する際に生じる熱を、第1膜2から第2膜5に速やかに逃がすことができる。
【0030】
第2膜5の環状面5aは、第1膜2の吸着面2aと同様、半導電性を有していてもよい。半導電性については上述の通りであり、詳細な説明は省略する。第2膜5の環状面5aが半導電性を有していると、吸着面2aから被吸着体を取り外す際に生じやすい剥離帯電による急激な放電の発生を、より緩和することができる。
【0031】
第2膜5を形成している原料としては限定されず、第1膜2と同様、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、炭化珪素、チタン、窒化チタン、炭化チタン、炭窒化チタンまたは化学量論組成から酸素が欠損した酸化チタンもしくはチタン酸アルミニウムなどが挙げられる。第2膜5は、第1膜2と一体的に形成されていてもよく、第1膜2と別に形成されていてもよい。例えば、第1膜2と第2膜5とが一体的に形成されていると、第1膜2の吸着面2aと第2膜5の環状面5aとが略面一になりやすい。
【0032】
第1膜2や第2膜5がダイヤモンドライクカーボン(DLC)を主成分とする場合、ラマン分光分析装置で同定することができる。具体的には、ラマン分光分析装置によって測定するとグラファイトのピーク位置である1555cm-1の近傍とダイヤモンドのピーク位置である1333cm-1の近傍にそれぞれピークを有する。ダイヤモンドライクカーボン(DLC)を主成分とする場合、ラマン分光スペクトルにおいて、波数が1500~1640cm-1の範囲にGバンドが、波数が1300~1400cm-1の範囲にDバンドが観測される。第2膜5は、ラマン分光スペクトルにおいて、1500~1640cm-1に存在するピークのうち最も強度の強いピーク強度をH、波数が1300~1400cm-1の範囲に存在するピークのうち最も強度の高いピーク強度をHとしたとき、H>Hであるとよい。この関係を満足していると、第2膜5の緻密性を維持することができる。第1膜2や第2膜5は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)以外、例えば、Feを0.05質量ppm以下、Niを0.01質量ppm以下含んでいてもよい。
【0033】
第1膜2や第2膜5が炭化珪素などの無機物を主成分とする場合、CuKα線を用いたX線回折装置によって同定することができる。各成分の含有量は、例えばICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置または蛍光X線分析装置により求めることができる。第1膜2および第2膜5における主成分とは、それぞれの膜を構成する成分の合計100質量%中、90質量%以上を占める成分をいう。
【0034】
第2膜5は、支持部4の有底環状体41よりも、高い破壊靭性を有していてもよい。第2膜5の破壊靭性が、有底環状体41の破壊靭性よりも高いと、有底環状体41の上面41aが高い破壊靭性を有する第2膜5によって被覆される。その結果、有底環状体41の上面41aの端部から粒子が脱離しにくくなり、浮遊する粒子を低減することができる。
【0035】
第2膜5の破壊靭性と、有底環状体41の破壊靭性との差は、例えば1MPa・m1/2以上であるとよい。例えば、第2膜5の破壊靭性は、4.5MPa・m1/2以上11MPa・m1/2以下であり、有底環状体41の破壊靭性は、3MPa・m1/2以上4MPa・m1/2以下である。第2膜5が薄いため、破壊靭性は、第2膜5、有底環状体4ともISO 14577ー1に準拠し、ナノインデンテーション法を用いて求めればよい。
【0036】
図4に示すように、第2膜5の厚みは均一であってもよく、有底環状体41の外周面41bの延長上に位置する第2膜5の外周部5bの厚みは、第1膜2の厚みよりも大きくてもよい。図4は、図3に示す領域Yの種々の実施形態を説明するための説明図である。第2膜5の外周部5bの厚みが、第1膜2の厚みよりも大きい場合、第2膜5が有底環状体41の上面41aから剥離しにくくなる。第2膜5の外周部5bの厚みは、例えば、第1膜2の厚みの1.1倍以上1.5倍以下である。
【0037】
第2膜5の環状面5aは、黒色を呈していてもよい。第1膜2の吸着面2aが黒色の場合、波長域360nm~740nmにおける10nm間隔毎の波長と、環状面5aおよび吸着面2aの少なくともいずれかの反射率R(λ)(但し、λは、波長域内の波長(nm))とが正の相関を有し、対数近似して得られる回帰式の傾きが、2以下であってもよい。
【0038】
回帰式の傾きが2以下であれば、回帰式の傾きは小さく、波長が大きい領域でも反射率が収束する傾向を示す。そのため、小さい波長域における反射率と大きい波長域における反射率との差が小さくなる。その結果、色むらが生じにくくなり、被吸着体の検出および識別がしやすくなる。特に、目視による検出および識別がしやすくなる。環状面5aの反射率R(λ)は、上述した吸着面2aの反射率R(λ)を求めた方法と同じ方法で求めればよい。
【0039】
第2膜5の環状面5aが黒色の場合、環状面5a内の色差が3以下(但し0を除く)であってもよい。環状面5a内の色差が3以下であれば、色むらがより小さくなる。色むらが小さくなることによって、吸着用部材1の商品価値も向上する。環状面5aの色差は、上述した吸着面2aの色差を求めた方法と同じ方法で求めればよい。
【0040】
次に、本開示に係る吸着用部材の製造方法について説明する。本開示に係る吸着用部材の製造方法は限定されず、例えば、次のような手順で製造される。
【0041】
まず、多孔質基体の製造方法について説明する。多孔質基体を形成しているセラミックスの主成分が酸化アルミニウムである場合、酸化珪素が16質量%以上22質量%以下、酸化チタンが2質量%以上3.4質量%以下、水酸化マグネシウムが1質量%以上1.6質量%以下、炭酸カルシウムが0.7質量%以上1.1質量%以下、残部が酸化アルミニウムである混合粉末を調製する。調製した混合粉末には、合計で3質量%以下であれば不純物が含まれていてもよい。
【0042】
次いで、得られた混合粉末と溶媒とを、湿式で混合および粉砕してスラリーを得る。混合および粉砕は、例えば、バレルミル、回転ミル、振動ミル、ビーズミル、アトライターなどを用いて行われる。
【0043】
得られた混合粉末100質量部に対して、気孔形成材として球状樹脂を30質量部以上70質量部以下の割合で添加してもよい。球状樹脂は、粉末ポリエチレン、酢酸ビニール、セルロース、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂などが挙げられる。これらの気孔形成材は、後述する焼成工程で焼失して、気孔を形成する。球状樹脂の平均粒径は限定されず、例えば、50μm以上106μm以下であれば、後述する焼成によって、平均気孔径が40μm以上85μm以下である多孔質基体を得ることができる。
【0044】
次いで、噴霧乾燥装置を用いてスラリーを噴霧乾燥することにより造粒した顆粒を得る。この顆粒を、例えば圧力を80MPaとして静水圧プレス成形装置により成形した後、必要に応じて切削加工を施して円板状の成形体を得ることができる。得られた成形体を、大気雰囲気中で1500℃以上1600℃以下の温度、例えば1550℃程度で焼成することによって、気孔率が35体積%以上40体積%以下である多孔質体(多孔質基体)が得られる。
【0045】
次に、得られた多孔質基体を収容し得る有底環状体を有する支持部を準備する。有底環状体を有する支持部を形成するセラミックスの主成分が酸化アルミニウムである場合、酸化アルミニウム粉末(純度が99.9質量%以上)と、水酸化マグネシウム、酸化珪素および炭酸カルシウムの各粉末とを粉砕用ミルに溶媒(イオン交換水)および分散剤とともに投入して、粉末の平均粒径(D50)が1.5μm以下になるまで粉砕した後、有機結合剤、可塑剤および離型剤を添加、混合してスラリーを得る。
【0046】
上記粉末の合計100質量%における水酸化マグネシウム粉末の含有量は0.43質量%以上0.53質量%以下、酸化珪素粉末の含有量は0.039質量%以上0.041質量%以下、炭酸カルシウム粉末の含有量は0.020質量%以上0.071質量%以下であり、残部が酸化アルミニウム粉末および不可避不純物である。
【0047】
有機結合剤としては、例えばアクリルエマルジョン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイドなどが使用可能である。
【0048】
次に、スラリーを噴霧造粒して顆粒を得た後、静水圧プレス成形装置により円板状に成形した後、切削加工を施して凹部を形成する。次に、切削加工後、焼成温度を1500℃以上1650℃以下、保持時間を4時間以上6時間以下として、成形体を焼成することによって支持部が得られる。
【0049】
有底環状体の内周面および底面にペースト状のガラスを塗布し、多孔質基体を有底環状体の内部(凹部)に収容し、厚み(上下)方向から加圧する。ペースト状のガラスの厚みは、例えば、40μm以上200μm以下となるように塗布する。ペースト状のガラスは、例えば、それぞれ酸化物換算でSiを30質量%以上65質量%以下、Alを10質量%以上40質量%以下、Bを10質量%以上20質量%以下、Caを4質量%以上5質量%以下、Mgを1質量%以上5質量%以下、Tiを5質量%以下(0質量%を除く)になるように調整された原料粉末と有機溶剤とを含むものである。この加圧状態で、例えば、大気雰囲気中または真空雰囲気中で、900℃以上1400℃以下、1時間以上10時間以下保持することによって、多孔質基体が支持部に接合された接合体を得る。
【0050】
次いで、得られた接合体の上面(被吸着体が吸着される面)を研削する。研削には、例えばロータリー研削盤が使用される。研削で用いるダイヤモンド砥石の粒度番号は、JIS R 6001-1:2017(ISO 8486-1(MOD))で定める粒度番号として、例えばF150~F220が挙げられる。
【0051】
次いで、多孔質基体の上面に第1膜、支持部の有底環状体の上面に第2膜を形成する。第1膜および第2膜の主成分がいずれもDLCである場合、処理容器内の所定位置に接合体を配置し、例えば、1.3kPa以下になるまで排気する。その後、アルゴンガス、窒素ガスなどの非酸化性ガス雰囲気中または高真空中で、接合体を100℃以上450℃以下に加熱する。次いで、非酸化性ガス雰囲気中または不活性ガス雰囲気中で、接合体に高周波電力と負のバイアス電圧とを給電して放電プラズマを発生させ、接合体の上面にイオン照射する。このイオン照射により、接合体の上面に被着している酸化被膜および付着物は除去される。
【0052】
処理容器内にDLC膜形成用原料ガスを供給し、放電プラズマを発生させることによって、DLCを主成分とする膜を、接合体の上面に形成することができる。この膜のうち、多孔質基体の上面に形成される膜が第1膜であり、有底環状体の上面に形成される膜が第2膜である。DLC膜形成用原料ガスとしては、例えば、メタン、アセチレン、トルエンなどの炭化水素ガスが挙げられる。DLC膜形成用原料ガスには、必要に応じて水素が含まれていてもよい。
【0053】
第1膜および第2膜の主成分がいずれも炭化珪素である場合、処理容器内の所定位置に接合体を配置し、例えば、1.3kPa以下になるまで排気する。その後、キャリアガスである水素ガスまたはアルゴンガスと一緒に、SiCHCl、SiHCl、SiHなどのシラン系ガスおよびCH、C、CClなどの炭化水素ガスを、体積比で5%以上20%以下となるように供給する。シラン系ガスおよび炭化水素ガスを含む雰囲気中で、接合体を1100℃以上1500℃以下に加熱することによって、炭化珪素を主成分とする膜を主面に形成することができる。この膜のうち、多孔質基体の上面に形成される膜が第1膜であり、有底環状体の上面に形成される膜が第2膜である。
【0054】
本開示に係る吸着用部材は種々の産業用装置に採用される。このような産業用装置としては、例えば、切断装置、研磨装置、加工装置、検査装置などが挙げられる。
【0055】
図5は、図1に示す吸着用部材を備えた本開示の一実施形態に係る検査装置を示す模式図である。検査装置10は、吸着用部材1と、吸引手段としての真空ポンプ11と、光照射手段としての照射部12と、撮像手段としてのCCDカメラ13とを備えている。図5に記載の吸着用部材1については、図1に記載の吸着用部材1よりも、吸引路4bおよび溝4cの数を省略している。
【0056】
照射部12は、真空ポンプ11の吸引によって吸着面に吸着、保持された被吸着体Wの外縁部表面および支持体4の表面に、反射ミラー14を介して光を照射する。CCDカメラ13は、被吸着体Wの外縁部表面および支持体4の表面から正反射された光を受光し、その光をもとに画像を撮像して、画像処理部14に出力する。CCDカメラ13は、外縁部表面および支持体4の表面から拡散反射された光を受光しにくい位置に設けられている。
【0057】
画像処理部15はCCDカメラ13から入力した画像に所定のしきい値で2値化処理を施して、2値画像を得る。この2値画像から被吸着体Wの輪郭を抽出して、被吸着体Wの中心位置を抽出する。画像処理部15は、抽出した被吸着体Wの中心位置を制御部16に出力することにより、様々な制御を施されるようにされている。
【0058】
本開示の加工装置(図示しない)は、例えば、検査装置10を備えた、被吸着体Wを格子状に切断する切断装置、あるいは、被吸着体Wの表面を研磨する研磨装置である。切断装置は、検査装置と、被吸着体を格子状に切断する切断ブレードと、この切断ブレードを回転駆動させる駆動手段とを備えている。研磨装置は、検査装置と、被吸着体の表面を研磨する研磨板と、この研磨板と被吸着体Wとを相対的に摺動させる回転駆動させる駆動手段とを備えている。
【0059】
このような加工装置は、被吸着体Wの輪郭の誤認識を防止することができる本開示の吸着装置を用いているので、被吸着体Wを精度よく加工することができる。
【0060】
本開示に係る吸着用部材は、上述の一実施形態および他の実施形態に限定されない。例えば、上述の吸着用部材1、1’において多孔質基体3は、支持体4に収容されている。しかし、本開示に係る吸着用部材は、多孔質基体が支持体に収容されていなくてもよい。
【0061】
例えば、上述の吸着用部材1、1’は、上面視した場合に、第1膜2も多孔質基体3も円形状を有している。しかし、第1膜および多孔質基体は円形状に限定されず、例えば、所望の用途などに応じて、上面視した場合に、楕円形状であってもよく、三角形状、四角形状、五角形状、六角形状などの多角形状を有していてもよい。
【0062】
さらに、上述の吸着用部材1、1’は、上面視した場合に、第1膜2および多孔質基体3は同一の形状を有している。しかし、第1膜および多孔質基体は、上面視した場合に、同一の形状である必要はない。多孔質基体は第1膜を支持し得る形状であれば、多孔質基体の形状は限定されない。
【実施例0063】
多孔質基体を、下記の手順によって作製した。まず、酸化珪素が19質量%、酸化チタンが2.7質量%、水酸化マグネシウムが1.3質量%、炭酸カルシウムが0.9質量%、残部が酸化アルミニウムである混合粉末を得た。得られた混合粉末に含まれる不純物は、合計1質量%以下であった。
【0064】
次いで、得られた混合粉末と溶媒とをバレルミルに入れて、湿式で混合および粉砕してスラリーを得た。得られたスラリーに、混合粉末100質量部に対して、気孔形成材として球状樹脂を50質量部の割合で添加した。球状樹脂としては、32.5μm平均粒子径を有する粉末ポリエチレンを使用した。
【0065】
次いで、噴霧乾燥装置を用いてスラリーを噴霧乾燥することにより造粒した顆粒を得た。この顆粒を、圧力を80MPaとしてCIP法により成形した後、必要に応じて切削加工を施して円板状の成形体を得た。得られた円板状の成形体を、大気雰囲気中、1550℃程度で焼成することによって、気孔率が35体積%である円板形状の多孔質体(多孔質基体)を得た。
【0066】
次いで、得られた多孔質基体の上面(被吸着体が吸着される面)を研削した。研削は、表1に示す粒度番号のダイヤモンド砥石を用い、ロータリー研削盤を用いて行った。粒度番号については、JIS R 6001-1:2017(ISO 8486-1(MOD))で定められている。
【0067】
次いで、研削された多孔質基体の上面に、DLCを主成分とする第1膜を形成した。通気抵抗の測定の際に、支持部の影響を考慮しなくてもいいように、支持部は使用していない。
【0068】
DLCを主成分とする第1膜を、次の手順によって形成した。処理容器内の所定位置に、研削された多孔質基体を配置し、1.3kPa以下になるまで排気した。その後、アルゴンガス雰囲気中で、研削された多孔質基体を300℃に加熱する。次いで、アルゴンガス雰囲気中で、研削された多孔質基体に高周波電力と負のバイアス電圧とを給電して放電プラズマを発生させた。研削された多孔質基体の上面にイオン照射した。
【0069】
次いで、処理容器内にDLC膜形成用原料ガスを供給し、放電プラズマを発生させることによって、DLCを主成分とする膜を、研削された多孔質基体の上面に形成した。このようにして、DLCを主成分とする第1膜が、研削された多孔質基体の上面に形成された試料(試料No.1~5)を得た。
【0070】
得られた試料No.1~5について、算術平均傾斜角(RΔa)を測定した。算術平均傾斜角(RΔa)は、JIS B 0601:2001に準拠し、形状解析レーザ顕微鏡((株)キーエンス製、超深度カラー3D形状測定顕微鏡(VK-X1100)を用いて測定した。具体的には、まず、照明方式を同軸落射、倍率を240倍、カットオフ値λsを無し、カットオフ値λcを0.08mm、カットオフ値λfを無し、終端効果の補正を有り、測定対象とする吸着面から1か所当たりの測定範囲を、1420μm×1070μmに設定した。そして、各測定範囲に、測定範囲の長手方向に沿って測定対象とする線を4本引いて、線粗さ計測を行った。測定の対象とする線1本当たりの長さは、1282μmとした。測定範囲は、円周方向に沿って略等間隔に6箇所設定し、測定対象とする線は合計24本とした。算術平均傾斜角(RΔa)の平均値は、この24本の線から得られる測定値の平均値である。試料No.1~5について、算術平均傾斜角(RΔa)の平均値を表1に示す。
【0071】
次に、得られた試料No.1~5の第1膜の吸着面における通気抵抗を測定した。通気抵抗は、次の手順で測定した。まず、真空ポンプに接続する吸引管の先端に取り付けられたゴムパッドを第1膜の吸着面に設置した。吸引管の途中には真空計が装着されており、通気抵抗を表す減圧値を読み取ることができる。減圧値は、マイナスの値で表示され、その絶対値が小さいほど、通気抵抗が小さく、裏面から吸着面に向かって逆洗する場合の洗浄効率が高いことを示す。ゴムパッドは、設置側が開口するラッパ状の吸着口を有しており、50mmの開口径を有する。ゴムパッドを第1膜の吸着面に設置した後、真空ポンプを作動させて、真空計が示す減圧値を読み取った。試料No.1~5について、減圧値を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
次に、被吸着体の裏面に与える傷の数を計測した。まず、上述の手順で円板形状の多孔質体(多孔質基体)を得た。得られた多孔質基体を収容し得る有底環状体を有する支持部を準備した。有底環状体の内周面および底面にガラスを塗布し、多孔質基体を有底環状体の内部(凹部)に収容し、厚み(上下)方向から加圧した。この加圧状態で、大気雰囲気中、1200℃で3時間保持することによって、多孔質基体が支持部に接合された接合体を得た。
【0074】
次いで、得られた接合体の上面(被吸着体が吸着される面)を研削した。研削は、表2に示す粒度番号のダイヤモンド砥石を用い、ロータリー研削盤を用いて行った。粒度番号については、上述の通りである。
【0075】
次いで、DLCを主成分とする膜を、次の手順によって形成した。処理容器内の所定位置に、研削された接合体を配置し、1.3kPa以下になるまで排気した。その後、アルゴンガス雰囲気中で、研削された接合体を300℃に加熱する。次いで、アルゴンガス雰囲気中で、研削された接合体に高周波電力と負のバイアス電圧とを給電して放電プラズマを発生させた。研削された接合体の上面にイオン照射した。
【0076】
次いで、処理容器内にDLC膜形成用原料ガスを供給し、放電プラズマを発生させることによって、DLCを主成分とする膜を、研削された接合体の上面に形成した。このようにして、DLCを主成分とする第1膜および第2膜が、研削された接合体の上面に形成された試料(試料No.6~10)を得た。
【0077】
次いで、被吸着体として半導体ウエハを用い、半導体ウエハの脱着を100回繰り返した後、半導体ウエハの裏面を目視で観察し、目視可能な傷の数を計測した。試料No.6~10について、算術平均傾斜角(RΔa)の平均値および目視可能な傷の数を表1に示す。算術平均傾斜角(RΔa)の平均値の求め方については、上述の通りである。
【0078】
【表2】
【0079】
表1および2に示すように、試料No.2~4および7~9については、算術平均傾斜角(RΔa)の平均値が15°以上45°以下である。したがって、試料No.2~4および7~9については、被吸着体(半導体ウエハ)の裏面の傷は少なく、通気抵抗も抑制され洗浄効率が高いことがわかる。
【0080】
一方、資料No.1および6については、算術平均傾斜角(RΔa)の平均値が45°を超えている。そのため、通気抵抗は抑制されているものの、半導体ウエハの裏面には、多くの傷が存在していることがわかる。資料No.5および10については、算術平均傾斜角(RΔa)の平均値が15°未満である。そのため、半導体ウエハの裏面の傷は少ないものの、通気抵抗が高く洗浄効率が悪いことがわかる。
【符号の説明】
【0081】
1 吸着用部材
2 第1膜
2a 吸着面
3 多孔質基体
4 支持部
4a 取り付け穴
4b 吸引路
4c 溝
41 有底環状体
41a 有底環状体の上面
41b 有底環状体の外周面
5 第2膜
5a 第2膜の環状面
5b 第2膜の外周部
10 検査装置
11 真空ポンプ
12 照射部
13 CCDカメラ
14 反射ミラー
15 画像処理部
16 制御部
図1
図2
図3
図4
図5