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  • 特開-セメント系材料の性状評価方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176290
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】セメント系材料の性状評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/00 20060101AFI20231206BHJP
   G01N 11/00 20060101ALI20231206BHJP
   G01N 33/38 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
G01N3/00 M
G01N11/00 E
G01N33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088497
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 文博
(72)【発明者】
【氏名】村田 哲
(72)【発明者】
【氏名】木ノ村 幸士
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 真一
(72)【発明者】
【氏名】河野 克哉
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA11
2G061AB04
2G061BA01
2G061CA08
2G061DA01
2G061EA02
2G061EA03
2G061EA10
2G061EC02
(57)【要約】
【課題】セメント系材料の積層安定性を評価することのできるセメント系材料の性状評価方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係るセメント系材料の性状評価方法は、積層体を形成するセメント系材料の性状評価方法であって、前記セメント系材料のベーンせん断強さを測定する測定工程と、前記積層体に発生するせん断応力を算出する算出工程と、前記ベーンせん断強さと前記せん断応力とを比較して、前記ベーンせん断強さの値の方が大きい場合に、前記セメント系材料は積層安定性に優れると評価する第1評価工程と、を含むことを特徴とする。
【選択図】図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層体を形成するセメント系材料の性状評価方法であって、
前記セメント系材料のベーンせん断強さを測定する測定工程と、
前記積層体に発生するせん断応力を算出する算出工程と、
前記ベーンせん断強さと前記せん断応力とを比較して、前記ベーンせん断強さの値の方が大きい場合に、前記セメント系材料は積層安定性に優れると評価する第1評価工程と、
を含むことを特徴とするセメント系材料の性状評価方法。
【請求項2】
前記セメント系材料は、3Dプリンタ用のセメント系材料であることを特徴とする請求項1に記載のセメント系材料の性状評価方法。
【請求項3】
前記せん断応力であるτは、以下の式に基づいて算出されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のセメント系材料の性状評価方法。
τ=1/2・K・ρgh・n
(K:セメント系材料の施工係数、ρ:セメント系材料の密度(kg/m)、g:9.8(m/s)、h:1層の高さ(m)、n:積層の層数)
【請求項4】
前記測定工程で測定した前記セメント系材料の最終攪拌直後のベーンせん断強さが1.0kPa以下である場合に、前記セメント系材料は流動保持性に優れると評価する第2評価工程を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のセメント系材料の性状評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント系材料の性状評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セメント系材料を積層させることによって構造物を形成する3Dプリンティングに関する技術開発が進められている。そして、この3Dプリンティングにおいて、構造物を形成するセメント系材料が極めて重要な要素となることから、当該材料の性状を評価する方法について、様々な技術が提案されている。
例えば、特許文献1では、セメント系材料である供試体に対して重錘で荷重を付与し、供試体の側方への変位量を測定し、その測定値に基づいて供試体の評価を行う装置を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-6767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
3Dプリンティングによって構造物を形成する際、セメント系材料を所定の高さとなるまで積層する必要がある。したがって、使用するセメント系材料について、どの程度の高さまで形状を維持して積層できるかという指標(適宜「積層安定性」(Buildability:ビルダビィリティー)という)は、非常に重要なパラメータであると言える。
ここで、特許文献1に記載の技術は、セメント系材料の評価を行うに際して、特殊な装置が必要となることから、使用可能な状況や場面が非常に限定され、汎用性の乏しい技術であると言える。
よって、本発明者らは、積層安定性を評価するにあたり、特殊な装置を必須とすることのない簡便な評価方法を新たに創出したいと考えた。
【0005】
そこで、本発明は、セメント系材料の積層安定性を簡便に評価することのできるセメント系材料の性状評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための本発明に係るセメント系材料の性状評価方法は、積層体を形成するセメント系材料の性状評価方法であって、前記セメント系材料のベーンせん断強さを測定する測定工程と、前記積層体に発生するせん断応力を算出する算出工程と、前記ベーンせん断強さと前記せん断応力とを比較して、前記ベーンせん断強さの値の方が大きい場合に、前記セメント系材料は積層安定性に優れると評価する第1評価工程と、を含む。
本発明によれば、測定工程で測定したベーンせん断強さと、算出工程で算出したせん断応力とを比較することで、特殊な装置を用いることなく、積層安定性を簡便に評価することができる。そのため、本発明によれば、評価対象であるセメント系材料について、どの程度の高さまで適切に積層できるか(積層高さ)を確認することができる。加えて、本発明によれば、簡便に実施できるベーンせん断試験の結果(ベーンせん断強さ)と算出結果(せん断応力)とに基づいて評価できることから、事前の材料評価に適用できるだけではなく、現場で使用している材料に対するリアルタイムでの評価にも適用でき、汎用性が高い評価方法と言える。
【0007】
本発明に係るセメント系材料の性状評価方法においては、前記セメント系材料が、3Dプリンタ用のセメント系材料であるのが好ましい。
また、本発明に係るセメント系材料の性状評価方法において、前記せん断応力であるτは、以下の式に基づいて算出されるのが好ましい。
τ=1/2・K・ρgh・n(K:セメント系材料の施工係数、ρ:セメント系材料の密度(kg/m)、g:9.8(m/s)、h:1層の高さ(m)、n:積層の層数)
本発明によれば、せん断応力を所定の式に基づいて算出することによって、より正確に積層安定性を評価することができる。
【0008】
本発明に係るセメント系材料の性状評価方法は、前記測定工程で測定した前記セメント系材料の最終攪拌直後のベーンせん断強さが1.0kPa以下である場合に、前記セメント系材料は流動保持性に優れると評価する第2評価工程を含む。
本発明によれば、第2評価工程を含むことから、積層安定性だけではく、流動保持性も適切に評価することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るセメント系材料の性状評価方法によれば、積層体を形成するセメント系材料について、積層安定性を簡便に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】各試料のモルタルフロー試験の結果を示すグラフである。
図2A】ベーンせん断強さの測定結果とせん断応力の算出結果を示すグラフであって、10℃試料の結果を示すグラフである。
図2B】ベーンせん断強さの測定結果とせん断応力の算出結果を示すグラフであって、20℃試料の結果を示すグラフである。
図2C】ベーンせん断強さの測定結果とせん断応力の算出結果を示すグラフであって、30℃試料の結果を示すグラフである。
図3】ベーンせん断強さ比とフロー値比との相関性を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
最初に、本性状評価の対象である「セメント系材料」について説明する。
[セメント系材料]
セメント系材料は、積層体を形成する材料であって、3Dプリンタ用の材料(フィラメント)である。そして、セメント系材料は、(1)結合材、(2)細骨材、(3)混和剤、(4)水等を含む。
【0012】
(1)結合材
結合材は、特に限定されず、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント(A~C種)、フライアッシュセメント(A~C種)、シリカセメント(A~C種)、エコセメント等から選択される1種以上を用いることができる。また、結合材として、前記した各種セメント以外にも、ジオポリマーなどを用いてもよい。ただし、結合材は、3Dプリンタ用の材料として速硬性を有するものが好ましい。
(2)細骨材
細骨材(砕砂、微粉末)は、特に限定されず、山砂、川砂、海砂、砕砂、硅砂、石灰砂等から選択される1種以上を用いることができる。ただし、セメント系材料は、ポンプにより圧送されてノズルから吐出されるものであるため、細骨材は、最大径が小さい方が好ましい。そして、細骨材と結合材との質量比(細骨材/結合材比)は、好ましくは120~240%、より好ましくは150~200%である。
(3)混和剤
混和剤は、従来公知の材料を使用すればよく、例えば、分離低減剤、減水剤、消泡剤、凝結遅延剤、凝結促進剤、AE剤、AE減水剤等を用いることができる。そして、混和剤と結合材との質量比(混和剤/結合材比)は、好ましくは1~10%、より好ましくは2~7%である。
(4)水
水は、特に限定されず、水道水、スラッジ水等を用いることができる。そして、水と結合材との質量比(水/結合材比)は、好ましくは20~50%、より好ましくは30~45%である。
(5)その他
セメント系材料は、その他にも一般的に使用される物質、例えば、フライアッシュ、シリカフューム、及び、高炉スラグ微粉末といった混和材等を含んでもよい。
なお、セメント系材料の「3Dプリンタ用」とは、3Dプリンタ(立体造形システム、3Dプリンティングシステムとも言う)に使用するものという用途を示している。そして、3Dプリンタとは、材料をノズルから吐出する供給ヘッドと、材料を供給ヘッドに圧送するポンプと、を備え、材料を一層ずつ積層することによって立体的な造形物を形成する装置である。
【0013】
次に、本実施形態に係るセメント系材料の性状評価方法について説明する。
[セメント系材料の性状評価方法]
本実施形態に係るセメント系材料の性状評価方法は、測定工程と算出工程と第1評価工程とを含む。また、本実施形態に係るセメント系材料の性状評価方法は、測定工程の後に、第2評価工程を含んでもよい。
【0014】
(測定工程)
測定工程は、セメント系材料のベーンせん断強さを測定する工程である。
ベーンせん断強さであるτは、一般的なベーン試験機を用いて、地盤工学会 地盤調査規格・基準委員会:地盤調査の方法と解説-二分冊の1-、pp404~419、2013.3地盤工学会基準(JGS 1411-2012)の「原位置ベーンせん断試験方法」に規定されている方法で測定することができる。
積層安定性を評価する場合、3Dプリンティングの実施時間を考慮して評価する必要があるため、測定工程では、「最終攪拌」(練り上がり、又は、練り上がり後に1回以上の再攪拌を行った場合は最後に実施した再攪拌)の後から所定時間間隔(数分、数十分間隔)で攪拌しない静置状態のセメント系材料のベーンせん断強さを測定すればよい。ただ、例えば、練り上がり後25分後に積層を開始する場合であって、積層開始後30分での積層安定性を評価する際には、練り上がり25分後から30分静置したセメント系材料のベーンせん断強さ(つまり、練り上がりから55分経過したベーンせん断強さ)をピンポイントで測定してもよい。
一方、流動保持性を評価する場合、最終撹拌直後の性状を確認するため、測定工程では、最終攪拌直後(例えば、最終攪拌から1分以内)のセメント系材料のベーンせん断強さを測定すればよい。
【0015】
(算出工程)
算出工程は、積層体に発生するせん断応力を算出する工程である。
積層体に発生するせん断応力であるτは、「τ=1/2・K・ρgh・n」との式に基づいて算出することができる。
上記式において、Kはセメント系材料の施工係数(-)であり、ρはセメント系材料の密度(kg/m)であり、gは9.8(m/s)であり、hは1層の高さ(m)であり、nは積層の層数(-)である。
詳細には、上記式は、既存のフィラメント(本実施形態ではセメント系材料)の層に生じる圧縮応力が、当該層の上に積層したフィラメントの自重によって生じると仮定するとともに、地盤材料試験分野において短期安定問題に対して軟弱な粘性土地盤の非排水せん断強度(せん断応力)の推定値として一軸圧縮強さの1/2の値が使用されることを考慮して(地盤工学会 地盤調査規格・基準委員会:地盤調査の方法と解説-二分冊の1-、pp404~419、2013.3)、上記式を設定した。
そして、上記式のセメント系材料の施工係数であるKは、セメント系材料を使用して実際に積層できた積層高さと理論高さから算出することができ、一例として、既往の実験結果に基づいて本発明者らが導き出した「0.64」を使用すればよい。セメント系材料の密度であるρは、一般的な密度測定装置で測定することができる。1層の高さhは、使用する3Dプリンタの設定に基づいて決定される。積層の層数であるnは、時間経過によって増加する変数であって、例えば、1層/minで積層する場合、積層開始から5分後の値は5となる。
【0016】
なお、セメント系材料の施工係数であるKは、以下のように算出してもよい。
まず、前記したように、地盤材料試験分野の知見に基づくと、せん断応力τと一軸圧縮強さσの関係式として「τ=1/2σ」(式1)を導くことができ、一軸圧縮強さσは「σ=(ρ・S・h)・g・n/S=ρ・h・g・n」(式2)と表すことができる。これらの式1と式2から「n=2τ/ρgh」(式3)を算出することができる。そして、所定のセメント系材料についてベーンせん断試験機を用いて測定したせん断応力τを式3に代入し、nを算出する。加えて、所定のセメント系材料を用いて実際に積層試験を行い、積層できた層数n´を確認する。最後に、所定のセメント系材料の施工係数であるKを「K=n/n´」で算出すればよい。
【0017】
(第1評価工程)
第1評価工程は、測定工程で得られたベーンせん断強さと算出工程で得られたせん断応力とを比較して、セメント系材料の積層安定性を評価する工程である。
ここで、「積層安定性」(Buildability:ビルダビィリティー)とは、3Dプリンタのノズルから排出された材料(フィラメントとも言う)の上に次々と材料が積層しても、立体的な形状を維持できるという性状である。そして、第1評価工程における「積層安定性」の評価によれば、いかなる高さまで立体的な形状を維持しつつ積層できるかについて確認できることから、「積層限界高さ」を判断することができる。なお、積層安定性が悪いと、材料を積層した際に立体的な形状を維持することができずに、傾斜したり、倒れたり、といった不具合が発生することとなる。
【0018】
セメント系材料のベーンせん断強さは、最終攪拌され積層を開始した後は(具体的には、3Dプリンタの供給ノズルに圧送(再攪拌)されて吐出された後は)、攪拌を受けない静置した状態が続くため数値が上昇することから、第1評価工程では、このような事情を勘案して、ベーンせん断強さとせん断応力とを比較する必要がある。
例えば、練り上がりのX分後に積層を開始する場合であって、積層後t分経過時のベーンせん断強さを「τ(X,t)」とし、せん断応力を「τ(X,t)」と定義すると、「τ(X,t)」>「τ(X,t)」となる場合に、積層安定性に優れる(言い換えると、少なくとも積層後t分経過時の高さまでは安定して積層できる)と評価する。
具体的には、練り上がりの20分後に積層を開始する場合であって、積層後10分経過時の積層安定性を評価する場合、練り上がりから30分経過時のベーンせん断強さ「τ(20,10)」の測定値と、積層開始から10分経過時の積層数nをτ=1/2・K・ρgh・nに代入して得られるせん断応力「τ(20,10)」の算出値を比較して積層安定性を判定することになる。
なお、ベーンせん断強さを測定する時間間隔、及び、せん断応力を算出する時間間隔は、特に限定されず、要求される精度レベルに応じて、5分間隔、15分間隔、30分間隔のように適宜設定すればよい。また、ベーンせん断強さを測定する期間、及び、せん断応力を算出する期間も、特に限定されず、3Dプリンタを稼働させる時間に応じて、最終攪拌から30分経過まで、60分経過まで、90分経過までのように適宜設定すればよい。また、前記したとおり、第1評価工程では、ベーンせん断強さとせん断応力をピンポイントで比較(例えば、練り上がりから30分後に積層を開始する場合であって、積層後t分経過時点のτ(30,t)とτ(30,t)のみ比較)してもよい。あるいは、簡易に事前評価したい場合には、前記したτ(30,t)に代えて、練り上がり直後から積層した場合のベーンせん断強さであるτ(0,t)を用いてもよい。
【0019】
(第2評価工程)
第2評価工程は、測定工程で得られたベーンせん断強さに基づいて、セメント系材料の流動保持性を評価する工程である。
ここで、「流動保持性」とは、3Dプリンタにおける定常的なポンプ圧送およびノズル押出において、材料の流動性を所定の時間適切に保持できる性質である。したがって、流動保持性が悪いと、ポンプ圧送の際に材料の吐出量が少なくなったり、配管やノズルが閉塞したり、といった不具合が発生することとなる。
第2評価工程では、最終攪拌直後(例えば、最終攪拌から1分以内)のセメント系材料のベーンせん断強さτが1.0kPa以下である場合(τ≦1.0)に流動保持性に優れると評価する。
【0020】
(その他)
測定工程と算出工程とは、いずれを先に実施してもよく、同時に実施してもよいが、事前にベーンせん断強さを算出しておく場合は、算出工程→測定工程の順序となる。
なお、各評価工程において、各性状が優れるとの評価が得られなかった場合は、材料の配合の再調整、材料の再攪拌、施工の停止などの処置を適宜実施すればよい。
【実施例0021】
[各試験に使用した試料]
現場における3Dプリンティングの様々な環境温度を考慮し、10℃の環境下での使用を想定した「10℃試料」、20℃の環境下での使用を想定した「20℃試料」、30℃の環境下での使用を想定した「30℃試料」の3種の材料を、表1に示す配合で準備した。
使用した結合材(P)は、初期の反応性を高めた速硬性を有するセメントであり、密度3.08g/cm、比表面積3970cm/gであった。細骨材としては、砕砂(S1)及び微粉末(S2)を併用した。砕砂(S1)の密度は、2.71g/cm、最大粒形は2mm、粗粒率は2.86であった。微粉末(S2)は、密度2.71g/cm、比表面積8160cm/g、45μ残分4.0%のものを使用した。混和剤としては、水溶性の分離低減剤(V)(密度1.32g/cm)、ポリカルボン酸系高性能減水剤(SP)、消泡剤(De)及びオキシカルボン酸系の凝結遅延剤(Re)を用いた。また、20℃試料を基準として、凝結遅延剤(Re)や微粉末(S2)の使用量などを微調整することによって10℃試料と30℃試料を作成した。
なお、各試料の練混ぜには、JISR5201:2015に規定されるミキサを用いて、粉体を低速で15秒空練りし、注水後に低速で2分練り混ぜ、かき落としの後、低速で更に2分練り混ぜた。
【0022】
【表1】
【0023】
[事前試験:モルタルフロー試験]
(モルタルフロー試験の内容)
モルタルフロー試験は、JISR5201:2015の「セメントの物理試験方法」に準拠し、各試料(10℃試料、20℃試料、30℃試料)について、フローコーンを取り去った直後のフロー値(適宜「0打フロー値」という)と、15秒間に15回の落下運動を与えた後に測定したフロー値(適宜「15打フロー値」という)とを測定した。そして、後記するベーンせん断試験のケース(a)に併せるために、各試料について、練り上がり時、25分後、55分後、85分後、115分後における2つのフロー値を測定した。また、モルタルフロー試験では、練り上がり直後の測定以外は、測定直前にホバートミキサで低速20秒の練返しを行い、再攪拌した各試料に対して測定を実施した。
なお、モルタルフロー試験は、各試料に応じて、それぞれ10℃、20℃、30℃の恒温恒湿室(70%RH)において実施した。この点、後記するベーンせん断試験も同様である。
【0024】
(モルタルフロー試験の結果の検討)
まず、本発明者らは、既往の検討において、材料の0打フロー値が115±15mm、15打フロー値が170±20mmの範囲である場合、良好な3Dプリンティングが実施できることを確認している(3Dプリンティングに適した短繊維補強モルタルの配合および押出性に関する実験的検討、コンクリート工学年次論文集、Vol.43、No.1、pp1373~1378、2021)。
図1は、上記の方法で実施した各試料のモルタルフロー試験の結果である。
図1に示す結果によると、10℃試料と30℃試料の各フロー値は、練り上がりから経時115分以内で許容範囲(良好な3Dプリンティングの実施が確認できている範囲)に入っており、特に30℃試料の結果はほとんど許容範囲の中心値近傍に分布していることが確認できた。
一方、20℃試料は練り上がりから経時85分以内で許容範囲を満足していたが、経時115分において0打フロー値と15打フロー値が急激に増加して許容範囲の上限値を大幅に超えた。この点について、実際に試験した際、フロー値が伸びた後に試料がすぐに流動性を失って固まり始めたことを確認しており、凝結遅延剤の効果が喪失したのが原因であると考えられる。そのため、後記する20℃試料の練り上がりから経時115分でのベーンせん断試験の結果が得られなかった。
つまり、図1の結果から、各試料は、一部の例外(20℃試料の練り上がりから経時115分)を除くと、良好な3Dプリンティングが実施できる試料であり、当然、流動保持性にも優れた試料であることが確認できた。
【0025】
[実施例]
(ベーンせん断試験の内容)
ベーンせん断試験は、地盤工学会基準(JGS1411-012)の「原位置ベーンせん断試験方法」に規定されている方法に準拠し、せん断強さの測定限界が16.2kPaである押込み式ベーンせん断試験機を使用した。そして、安定した結果を得るために、挿入後のベーン先端の深さは、試料表面からベーン直径の4倍とし、ベーンの回転速度は毎秒15°に統一した。また、ベーンせん断強さは、試料内における異なる箇所においてブレードを押し込んで回転させた際の3回の回転抵抗の平均値より算出した。
そして、実際の3Dプリンティングでは、一括で練り上げた材料が徐々に消費されるため、練り上がりから積層開始まで材料が所定時間静置されるケースも想定される。したがって、以下に示すように攪拌タイミングの異なる4つのケースの各試料に対してベーンせん断試験を実施した。
(a)練り上がり→25分経過時に攪拌→55分経過時に攪拌→85分経過時に攪拌→115分経過時に攪拌
(b)練り上がり→静置(攪拌せずに静置を継続)
(c)練り上がり→25分経過時に攪拌(その後、攪拌せずに静置)
(d)練り上がり→55分経過時に攪拌(その後、攪拌せずに静置)
図2A~2Cは、上記の方法で実施した各試料のベーンせん断試験の結果を示すグラフであり、図2Aは10℃試料の結果、図2Bは20℃試料の結果、図2Cは30℃試料の結果である。
なお、図2において、「×」との標記は、その時点での測定結果を示しているが、その次の測定で測定限界である16.2kPaを超えたことを意味する。
また、図2A~2CのM1、M4、M7は、(b)のケースの測定結果を繋いだ折れ線であり、M2、M5、M8は、(c)のケースの測定結果を繋いだ折れ線であり、M3、M6、M9は、(d)のケースの測定結果を繋いだ折れ線である。
【0026】
(せん断応力の算出方法)
せん断応力τは、「τ=1/2・K・ρgh・n」に基づいて算出した。
上記式において、Kはセメント系材料の施工係数として「0.64」、ρは各試料の密度(kg/m)、gは「9.8」(m/s)、hは1層の高さ「0.01」(m)、nは積層の層数(-)であり、積層スピードを1層/minと仮定した。
なお、図2A~2CのL1、L4、L7は、練り上がり直後から積層を開始した場合のせん断応力の算出結果を示す直線であり、L2、L5、L8は、練り上がりから25分経過時に積層を開始した場合のせん断応力の算出結果を示す直線であり、L3、L6、L9は、練り上がりから55分経過時に積層を開始した場合のせん断応力の算出結果を示す直線である。
【0027】
(実施例の結果の検討:流動保持性)
図2A~2Cに示す各試料のケース(a)の結果に着目すると、経時115分で20℃試料を計測できなかった以外、いずれの試料においてもベーンせん断強さは1.0kPaよりも低く、比較的小さい範囲内に収まっていることが確認できた。そして、前記したモルタルフロー試験(図1)で得られた結果(各試料が優れた流動保持性を発揮するとの結果)を考慮すると、撹拌後の試料のベーンせん断強さが1.0kPa以下である場合に流動保持性に優れるとの判断基準は適切であると確認できた。
【0028】
図3は、試料ごとに練り上がり直後のフロー値とベーンせん断強さの測定値とを基準として、それぞれ最終攪拌直後の測定値の比を算出し、フロー値比とベーンせん断強さ比との相関性を示したグラフである。詳細には、例えば、練り上がりから25分経過時のプロットは、「練り上がりから25分経過した再攪拌直後のフロー値/練り上がり直後のフロー値」によって算出したフロー値比と、「練り上がりから25分経過した再攪拌直後のベーンせん断強さ/練り上がり直後のベーンせん断強さ」によって算出したベーンせん断強さ比を基にプロットしたものである。
そして、0打フロー値比Rf(0)とベーンせん断強さ比Rv、15打フロー値比Rf(15)とベーンせん断強さ比Rvについて、それぞれ直線回帰し、得られた回帰式を以下の式(1)と式(2)として示す。
式(1):Rf(0)=-0.09Rv+108.67、R=0.73
式(2):Rf(15)=-0.15Rv+113.39、R=0.87
今回の試験から得られたデータ数が少ないものの、ベーンせん断強さ比が54~181 の検討範囲では、特に15打フロー値比Rf(15)とベーンせん断強さ比との相関性が認められた。この結果から、モルタルフロー試験よりも簡便なベーンせん断試験によって材料の流動保持性を適切に評価できることが確認できた。
【0029】
(実施例の結果の検討:積層安定性)
図2A~2Cに示したケース(b)、(c)、(d)において、各試料は最終攪拌後、静置時間が経過するに従ってベーンせん断強さが上昇する。
一方、このようなベーンせん断強さの増加に対し、積層への繰り返しによって上層荷重も増加し続けるため、L1~L9に示すとおり、発生するせん断応力も大きくなる。
図2A~2Cの結果によると、ケース(b)、(c)、(d)のほとんどの場合、ベーンせん断強さが上層荷重によって発生するせん断応力よりも大きくなった。
詳細には、図2Aのベーンせん断強さM1上の各プロットがせん断応力L1よりも大きな値となり、図2Aのベーンせん断強さM2上の各プロットがせん断応力L2よりも大きな値となり、図2Aのベーンせん断強さM3上の各プロットがせん断応力L3よりも大きな値となった。
また、図2Bのベーンせん断強さM4上の各プロットがせん断応力L4よりも大きな値となり、図2Bのベーンせん断強さM5上の各プロットがせん断応力L5よりも大きな値となった。
また、図2Cのベーンせん断強さM7上の各プロットがせん断応力L7よりも大きな値となり、図2Cのベーンせん断強さM8上の各プロットがせん断応力L8よりも大きな値となり、図2Cのベーンせん断強さM9上の各プロットがせん断応力L9よりも大きな値となった。
以上より、ベーンせん断強さがせん断応力よりも大きい場合に積層安定性に優れるとの判断基準は適切であると確認できた。
図1
図2A
図2B
図2C
図3