(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176309
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】異常検知装置、異常検知方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
G05B23/02 302R
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088524
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】軽海 貴博
(72)【発明者】
【氏名】小西 圭睦
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223BA05
3C223CC02
3C223DD03
3C223EA06
3C223EB01
3C223EB02
3C223EB03
3C223FF04
3C223FF45
3C223HH02
3C223HH29
(57)【要約】
【課題】設備の異常に関連する因子を正確に推定し、設備の異常を高精度に検知する。
【解決手段】異常検知装置は、所定の作業領域内に複数の設備が設置された環境において設備の異常を検知するための処理を行う異常検知装置であって、複数の設備のそれぞれに設置されたセンサから出力されたセンサデータを取得する取得部と、センサデータに含まれる変数を静的変数と静的変数より時間経過に伴う値のばらつき度合いが大きい動的変数とに分類し、動的変数を変動させる因子のうち作業領域内に設置された複数の設備に共通する全体変動因子と、動的変数を変動させる因子のうち設備毎に固有の固有変動因子とを推定する変数分析部と、設備の異常の発生以前に出力されたセンサデータから抽出された異常に関連する因子の候補としての候補因子、全体変動因子及び固有変動因子に基づいて、設備の異常に関連する異常関連因子を推定する異常分析部と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の作業領域内に複数の設備が設置された環境において前記設備の異常を検知するための処理を行う異常検知装置であって、
複数の前記設備のそれぞれに設置されたセンサから出力されたセンサデータを取得する取得部と、
前記センサデータに含まれる変数を静的変数と前記静的変数より時間経過に伴う値のばらつき度合いが大きい動的変数とに分類し、前記動的変数を変動させる因子のうち前記作業領域内に設置された複数の前記設備に共通する全体変動因子と、前記動的変数を変動させる因子のうち前記設備毎に固有の固有変動因子とを推定する変数分析部と、
前記設備の異常の発生以前に出力された前記センサデータから抽出された異常に関連する因子の候補としての候補因子、前記全体変動因子及び前記固有変動因子に基づいて、前記設備の異常に関連する異常関連因子を推定する異常分析部と、
を備える異常検知装置。
【請求項2】
前記異常関連因子に基づいて前記設備の異常が発生する前に現れる前記センサデータの変動の特徴を示す前兆情報を生成する前兆分析部、
を更に備える請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項3】
リアルタイムに取得される前記センサデータと前記前兆情報とに基づいて前記設備の異常の発生を予測する異常状態検知部、
を更に備える請求項2に記載の異常検知装置。
【請求項4】
前記動的変数は、第1動的変数と、前記第1動的変数よりばらつき度合いが大きい第2動的変数とを含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載の異常検知装置。
【請求項5】
所定の作業領域内に複数の設備が設置された環境において前記設備の異常を検知する方法であって、
複数の前記設備のそれぞれに設置されたセンサから出力されたセンサデータを取得する工程と、
前記センサデータに含まれる変数を静的変数と前記静的変数より時間経過に伴う値のばらつき度合いが大きい動的変数とに分類する工程と、
前記動的変数を変動させる因子のうち前記作業領域内に設置された複数の前記設備に共通する全体変動因子と、前記動的変数を変動させる因子のうち前記設備毎に固有の固有変動因子とを推定する工程と、
前記設備の異常の発生以前に出力された前記センサデータから抽出された異常に関連する因子の候補としての候補因子、前記全体変動因子及び前記固有変動因子に基づいて、前記設備の異常に関連する異常関連因子を推定する工程と、
を含む異常検知方法。
【請求項6】
所定の作業領域内に複数の設備が設置された環境において前記設備の異常を検知するための処理を行うコンピュータに、
複数の前記設備のそれぞれに設置されたセンサから出力されたセンサデータを取得する処理と、
前記センサデータに含まれる変数を静的変数と前記静的変数より時間経過に伴う値のばらつき度合いが大きい動的変数とに分類する処理と、
前記動的変数を変動させる因子のうち前記作業領域内に設置された複数の前記設備に共通する全体変動因子と、前記動的変数を変動させる因子のうち前記設備毎に固有の固有変動因子とを推定する処理と、
前記設備の異常の発生以前に出力された前記センサデータから抽出された異常に関連する因子の候補としての候補因子、前記全体変動因子及び前記固有変動因子に基づいて、前記設備の異常に関連する異常関連因子を推定する処理と、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、異常検知装置、異常検知方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
工場やプラントに設置された複数の設備の異常を各設備に設置されたセンサから取得されるセンサデータに基づいて検知するシステムが開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-145846号公報
【特許文献2】特許第5048625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなシステムにおいて、センサデータの解析結果に基づいて設備の異常に関連する因子を推定することにより、異常の発生を高精度に検知できる。しかしながら、従来技術においては、異常に関連する因子を正確に推定することが困難であった。
【0005】
そこで、本発明の実施形態は、設備の異常に関連する因子を正確に推定し、設備の異常を高精度に検知可能な異常検知装置、異常検知方法及びプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態としての異常検知装置は、所定の作業領域内に複数の設備が設置された環境において設備の異常を検知するための処理を行う異常検知装置であって、複数の設備のそれぞれに設置されたセンサから出力されたセンサデータを取得する取得部と、センサデータに含まれる変数を静的変数と静的変数より時間経過に伴う値のばらつき度合いが大きい動的変数とに分類し、動的変数を変動させる因子のうち作業領域内に設置された複数の設備に共通する全体変動因子と、動的変数を変動させる因子のうち設備毎に固有の固有変動因子とを推定する変数分析部と、設備の異常の発生以前に出力されたセンサデータから抽出された異常に関連する因子の候補としての候補因子、全体変動因子及び固有変動因子に基づいて、設備の異常に関連する異常関連因子を推定する異常分析部と、を備える。
【0007】
上記構成によれば、各設備の異常に関連する異常関連因子を正確に推定でき、各設備の異常を高精度に検知できる。
【0008】
また、上記構成において、異常検知装置は、異常関連因子に基づいて設備の異常が発生する前に現れるセンサデータの変動の特徴を示す前兆情報を生成する前兆分析部、を更に備えてもよい。
【0009】
上記構成によれば、設備の異常の発生を予測するための前兆情報を生成できる。
【0010】
また、上記構成において、異常検知装置は、リアルタイムに取得されるセンサデータと前兆情報とに基づいて設備の異常の発生を予測する異常状態検知部、を更に備えてもよい。
【0011】
上記構成によれば、前兆情報を利用して設備の異常の発生を予測できる。
【0012】
また、上記構成において、動的変数は、第1動的変数と、第1動的変数よりばらつき度合いが大きい第2動的変数とを含んでもよい。
【0013】
上記構成によれば、時系列的な値のばらつき度合いの大きさに応じて異常関連因子をより高精度に推定でき、設備の異常をより高精度に検知できる。
【0014】
また、本発明の他の実施形態としての異常検知方法は、所定の作業領域内に複数の設備が設置された環境において設備の異常を検知する方法であって、複数の設備のそれぞれに設置されたセンサから出力されたセンサデータを取得する工程と、センサデータに含まれる変数を静的変数と静的変数より時間経過に伴う値のばらつき度合いが大きい動的変数とに分類する工程と、動的変数を変動させる因子のうち作業領域内に設置された複数の設備に共通する全体変動因子と、動的変数を変動させる因子のうち設備毎に固有の固有変動因子とを推定する工程と、設備の異常の発生以前に出力されたセンサデータから抽出された異常に関連する因子の候補としての候補因子、全体変動因子及び固有変動因子に基づいて、設備の異常に関連する異常関連因子を推定する工程と、を含む。
【0015】
また、本発明の他の実施形態としてのプログラムは、所定の作業領域内に複数の設備が設置された環境において設備の異常を検知するための処理を行うコンピュータに、複数の設備のそれぞれに設置されたセンサから出力されたセンサデータを取得する処理と、センサデータに含まれる変数を静的変数と静的変数より時間経過に伴う値のばらつき度合いが大きい動的変数とに分類する処理と、動的変数を変動させる因子のうち作業領域内に設置された複数の設備に共通する全体変動因子と、動的変数を変動させる因子のうち設備毎に固有の固有変動因子とを推定する処理と、設備の異常の発生以前に出力されたセンサデータから抽出された異常に関連する因子の候補としての候補因子、全体変動因子及び固有変動因子に基づいて、設備の異常に関連する異常関連因子を推定する処理と、を実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施形態の異常検知システムの構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態の異常検知装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、本実施形態の変数分析部の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、実施形態の静的変数、第1動的変数及び第2動的変数の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、実施形態の変数分類部による変数の分類方法の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、実施形態の変動因子推定部の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、実施形態の動的変数、全体変動成分及び固有変動成分の関係の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、実施形態の推定部による処理の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、実施形態の異常分析部の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図10】
図10は、実施形態の変数分析部による処理の一例を示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、実施形態の異常分析部による処理の一例を示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、実施形態の前兆分析部による処理の一例を示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、実施形態の異常状態検知部による処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、並びに当該構成によりもたらされる作用、結果、及び効果は、一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によりも実現可能であるとともに、基本的な構成に基づく種々の効果や派生的な効果のうち、少なくとも一つを得ることが可能である。
【0018】
図1は、実施形態の異常検知システム1の構成の一例を示す図である。本実施形態の異常検知システム1は、工場10(作業領域の一例)内に設置された複数(本実施形態では4機)且つ同種の設備11A~11Dの異常を検知するためのシステムである。設備11A~11Dの種類は特に限定されるべきものではないが、例えば、鋳造機、鍛造機、熱処理炉等であり得る。
【0019】
異常検知システム1は、センサ群12,13、異常検知装置21及びネットワーク25を含む。
【0020】
センサ群12は、各設備11A~11Dに設置され、複数のセンサ12A,12B,…を含む。センサ群13は、工場10に設置され、複数のセンサ13A,13B,…を含む。センサ群12に含まれる複数のセンサ12A,12B,…の種類の組み合わせは、複数の設備11A~11D間で共通している。センサ12A,12B,…,13A,13B,…の種類は特に限定されるべきものではないが、例えば、温度センサ、湿度センサ、気圧センサ、溶接電流値センサ、レーザ出力センサ、真空度センサ、冷却水量センサ、冷却水元圧センサ、機械油塗布量センサ、供給電力センサ等であり得る。
【0021】
異常検知装置21は、ネットワーク25を介して入力されるセンサ群12,13からのセンサデータに基づいて、各設備11A~11Dの異常を検知するための各種処理を実行する情報処理装置である。本実施形態の異常検知装置21は、CPU(Central Processing Unit)31、RAM(Random Access Memory)32、ROM(Read Only Memory)33、ストレージ34、通信I/F(Interface)35、ユーザI/F36等を含むコンピュータを利用して構成される。CPU31は、ROM33やストレージ34に記憶されたプログラムに従いRAM32を作業領域として使用して所定の演算処理を実行する。ストレージ34は、SSD(Solid State Drive)、HDD(Hard Disk Drive)等の不揮発性メモリであり、プログラム、CPU31の処理に必要なデータ、CPU31の処理により生成されたデータ等の書き込み及び読み出しを可能にする。通信I/F35は、ネットワーク25を介して接続された外部デバイス(センサ12A,12B,…,13A,13B,…等)とのデータの送受信を可能にするデバイスである。ユーザI/F36は、ユーザ(工場10の管理者等)からの入力の受け付け、ユーザへの情報の出力等を可能にするデバイスであり、例えばキーボード、ポインティングデバイス、タッチパネル機構、ディスプレイ、スピーカ、マイク等であり得る。CPU31、RAM32、ROM33、ストレージ34、通信I/F35及びユーザI/F36は、データバスを介して接続されている。なお、異常検知装置21のハードウェア構成は上記に限定されるものではなく、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等を利用して構成されてもよいし、複数のコンピュータが連携して動作する構成であってもよい。
【0022】
ネットワーク25は、センサ群12,13と異常検知装置21との間の通信を可能にするものであり、例えば、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)等を含んで構成される。
【0023】
図2は、実施形態の異常検知装置21の機能構成の一例を示すブロック図である。本実施形態の異常検知装置21は、取得部101、変数分析部102、変数分析結果記憶部103、異常分析部104、異常分析結果記憶部105、前兆分析部106、前兆分析結果記憶部107、異常状態検知部108及び出力部109を有する。これらの機能部101~109は、例えば
図1に例示されるような異常検知装置21のハードウェア要素及びソフトウェア要素(プログラム等)の協働により実現され得る。また、これらの機能部101~109の一部又は全部が専用のハードウェア(回路等)により構成されてもよい。
【0024】
取得部101は、センサ群12,13から出力された多次元時系列データであるセンサデータを取得する。取得部101は、センサデータに対してフィルタ処理、欠損値処理、PCA(Principal Component Analysis)等の前処理を行ってもよい。また、取得部101は、リサンプリング等によりセンサデータの時間断面を一致させる同期処理等を行ってもよい。
【0025】
変数分析部102は、センサデータに含まれる変数を静的変数と、静的変数より時間経過に伴う値のばらつき度合いが大きい動的変数とに分類する。センサデータに含まれる変数とは、各センサ12A,12B,…,13A,13B,…により測定され時系列で変化する所定の測定値であり、例えば動作時間、タクトタイム、温度、湿度、気圧、真空度、冷却水流量、機械油塗布量、溶接電流値、レーザ出力値等であり得る。また、変数分析部102は、動的変数を変動させる因子のうち複数の設備11A~11Dに共通する全体変動因子と、動的変数を変動させる因子のうち設備11A~11D毎に固有の固有変動因子とを推定する。
【0026】
図3は、本実施形態の変数分析部102の機能構成の一例を示すブロック図である。本実施形態の変数分析部102は、変数分類部201及び変動因子推定部202を有する。
【0027】
変数分類部201は、センサデータに含まれる変数を静的変数と、静的変数より時間経過に伴う値のばらつき度合いが大きい第1動的変数と、第1動的変数より時間経過に伴う値のばらつき度合いが大きい第2動的変数とに分類する。すなわち、本実施形態では、動的変数をそのばらつき度合いに応じて第1動的変数と第2動的変数とに分類する。
【0028】
図4は、実施形態の静的変数、第1動的変数及び第2動的変数の一例を示す図である。
図4に示されるように、静的変数は、時間経過(横軸の値)に伴う測定値(縦軸の値)のばらつき度合いが比較的(所定の閾値より)小さい変数であり、例えば、動作時間、タクトタイム等であり得る。第1動的変数は、時間経過に伴う測定値のばらつき度合いが静的変数より大きく且つ第2動的変数より小さい変数であり、例えば、温度、湿度、気圧等であり得る。第2動的変数は、時間経過に伴う測定値のばらつき度合いが第1動的変数より大きい変数であり、例えば、溶接電流値、レーザ出力値等であり得る。
【0029】
図5は、実施形態の変数分類部201による変数の分類方法の一例を示す図である。
図5に示されるように、本実施形態の変数分類部201は、対象となる変数に対して所定の滑走窓Wを設定して局所的な統計量(平均値、標準偏差等)を算出し、当該統計量の差に基づいて当該変数を静的変数、第1動的変数又は第2動的変数に分類する。例えば、平均値の差及び標準偏差の差が共に閾値以下である変数を静的変数に分類し、平均値の差が閾値以上であり且つ標準偏差の差が閾値以下である変数を第1動的変数に分類し、平均値の差及び標準偏差の差が共に閾値以上である変数を第2動的変数に分類してもよい。なお、上記変数の分類方法は一例であり、これに限定されるものではない。
【0030】
変動因子推定部202(
図3)は、上記のように分類された動的変数(第1動的変数及び第2動的変数)を変動させる因子のうち複数の設備11A~11Dに共通する全体変動因子と、動的変数を変動させる因子のち設備11A~11D毎に固有の固有変動因子とを推定する。
【0031】
図6は、実施形態の変動因子推定部202の機能構成の一例を示すブロック図である。本実施形態の変動因子推定部202は、成分分解部211及び推定部212を有する。成分分解部211は、動的変数の変動に関わる成分を全体変動成分及び固有変動成分に分解する。全体変動成分とは、複数の設備11A~11Dに対して共通に作用する成分であり、例えば、工場10内の温度、湿度、気圧等であり得る。固有変動成分とは、各設備11A~11Dに対して個別に作用する成分であり、例えば、チャンバ内の真空度、冷却水流量、供給電力等であり得る。
【0032】
成分分解部211による成分の分解は、例えば下記のような算出方法により実現され得る。
【0033】
動的変数に対応するセンサデータの生データをXraw、工場10全体の変動をXoverall、各設備11A~11Dに固有の変動をXuniq、生データのサンプル数をN、変数の数をMとするとき、下記式(1)~(4)が成り立つ。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
上記式(4)を標準空間に写像すると下記式(5)が導出される。e1~eMはXuniqに起因する誤差を示している。
【0039】
【0040】
そして、各変数に共通する成分の推定値を抽出することにより、下記式(6)のように全体変動成分(x(ハット)overall)を抽出できる。
【0041】
【0042】
そして、Norm(Xraw)から全体変動成分を減算することにより、下記式(7)のように誤差(e1,e2,…,eM)が各設備11A~11Dの固有変動成分として抽出される。
【0043】
【0044】
図7は、実施形態の動的変数、全体変動成分及び固有変動成分の関係の一例を示す図である。
図7において、各設備11A~11Dに対応する動的変数(例えばチャンバ内の真空度等)の変動に関わる成分が成分分解部211により全体変動成分(例えば工場10内の気圧等)と固有変動成分(例えばチャンバ内の真空度等)とに分解された状態が例示されている。また、
図7には、設備11Bにおいて時刻tに異常Errが発生した場合が例示されている。
図7に示されるように、本例では、時刻t以前において全体変動成分に特徴的な変動F1が現れ、時刻t以前において設備11Bの固有変動成分に特徴的な変動F2が現れている。
【0045】
推定部212(
図6)は、上記のように分解された全体変動成分及び固有変動成分のそれぞれについて、全体変動成分に関連する因子である全体変動因子と、固有変動成分に関連する因子である固有変動因子とを推定する。
【0046】
図8は、実施形態の推定部212による処理の一例を示す図である。ここでは、全体変動成分(例えば気圧)に対応する全体変動因子が湿度である場合が例示されている。推定部212による推定方法は特に限定されるべきものではないが、例えば、相関分析、統計的因果推論、統計的因果探索、ベイジアンネットワーク等の手法を利用して実現され得る。固有変動成分に対応する固有変動因子も同様に推定され得る。
【0047】
図2に戻り、変数分析結果記憶部103は、変数分析部103により推定された全体変動因子及び固有変動因子を含む情報を記憶する。
【0048】
異常分析部104は、ある設備11A~11D(例えば設備11B)に異常が発生する以前(例えば
図7における時刻t以前)に出力されたセンサデータから異常に関連する因子の候補としての候補因子を抽出する。また、異常分析部104は、候補因子、全体変動因子及び固有変動因子に基づいて、設備11A~11D(例えば設備11B)の異常に関連する異常関連因子を推定する。
【0049】
図9は、実施形態の異常分析部104の機能構成の一例を示すブロック図である。本実施形態の異常分析部104は、要因候補抽出部301、比較部302及び要因推定部303を有する。
【0050】
要因候補抽出部301は、異常発生以前に出力されたセンサデータから候補因子を抽出する。例えば、センサデータに現れる特徴的な変動(例えば
図7における変動F1,F2)に対応する因子を候補因子として抽出する。
【0051】
比較部302は、要因候補抽出部301により抽出された候補因子と、変数分析結果記憶部103に記憶された全体変動成分及び固有変動成分とを比較する。
【0052】
要因推定部303は、比較部302による比較結果に基づいて、候補因子の中から設備11A~11D(例えば設備11B)の異常に関連する因子である異常関連因子を推定する。要因推定部303は、例えば、複数の候補因子のうち、全体変動因子(例えば
図7における変動F1に対応する因子)に該当するものを除外し、異常が発生した設備11A~11D(例えば設備11B)に固有の固有変動因子(例えば
図7における変動F2に対応する因子)に該当するものを異常関連因子とする。なお、異常関連因子の推定方法はこれに限定されるものではない。
【0053】
図2に戻り、異常分析結果記憶部105は、異常分析部104により推定された異常関連因子を含む情報を記憶する。
【0054】
前兆分析部106は、異常分析結果記憶部105に記憶された異常関連因子に基づいて、異常が発生した設備11A~11D(例えば設備11B)に設置されたセンサ群12から取得されるセンサデータにおいて異常発生以前に現れる特徴的な変動である前兆変動(例えば
図7に示される変動F2)を推定する。そして、前兆分析部106は、当該前兆変動に関する前兆情報を生成する。
【0055】
前兆分析結果記憶部107は、前兆分析部106により生成された前兆情報を記憶する。
【0056】
異常状態検知部108は、リアルタイムに取得されるセンサデータと前兆分析結果記憶部107に記憶された前兆情報とに基づいて、各設備11A~11Dの異常の発生を予測する。異常状態検知部108は、既に発生した異常を検知してもよい。
【0057】
出力部109は、異常状態検知部108により検知された異常を示す情報を所定の形式で出力する。所定の形式とは、例えば、ディスプレイへの警告画面の表示、警報音の出力、工場10の管理者への通知等であり得る。
【0058】
図10は、実施形態の変数分析部102による処理の一例を示すフローチャートである。取得部101がセンサデータを取得すると(S101)、変数分析部102(変数分類部201)は取得されたセンサデータに含まれる変数を静的変数又は動的変数(第1動的変数及び第2動的変数を含む)に分類する(S102)。その後、変数分析部102(変動因子推定部202)は動的変数の全体変動因子及び固有変動因子を推定し、変数分析結果記憶部103に記憶させる(S103)。
【0059】
図11は、実施形態の異常分析部104による処理の一例を示すフローチャートである。ある設備11A~11D(例えば設備11B)に異常が発生すると、取得部101は当該異常が発生する以前に出力されたセンサデータを取得する(S201)。その後、異常分析部104(要因候補抽出部301)は取得された異常発生以前のセンサデータから候補因子を抽出する(S202)。その後、異常分析部104(比較部302及び要因推定部303)は、抽出された候補因子と、変数分析結果記憶部103に記憶された全体変動因子及び固有変動因子との比較結果に基づいて、当該異常に関連する異常関連因子を推定し、異常分析結果記憶部105に記憶させる(S203)。
【0060】
図12は、実施形態の前兆分析部106による処理の一例を示すフローチャートである。ある設備11A~11D(例えば設備11B)に異常が発生すると、取得部101は異常発生以前に当該設備11A~11D(例えば設備11B)に設置されたセンサ群12から出力されたセンサデータを取得する(S301)。その後、前兆分析部106は異常分析結果記憶部105に記憶された異常関連因子に基づいて、異常発生以前のセンサデータにおける前兆変動を推定する(S302)。その後、前兆分析部106は前兆変動に関する前兆情報を生成し、前兆分析結果記憶部107に記憶させる(S303)。
【0061】
図13は、実施形態の異常状態検知部108による処理の一例を示すフローチャートである。取得部101がセンサデータを取得すると(S401)、異常状態検知部108は前兆分析記憶部107に記憶された前兆情報に基づいてセンサデータに前兆変動が出現したか否かをリアルタイムに判定する(S402)。前兆変動が出現していない場合(S402:No)にはステップS401に戻り、前兆変動が出現した場合(S402:Yes)には、異常状態検知部108は設備11A~11Dに異常が発生する可能性があることを示す警報を出力部109に出力させる(S403)。
【0062】
上記実施形態によれば、センサデータに含まれる変数が静的変数と動的変数とに分類され、時系列的な値のばらつき度合いが比較的大きい動的変数を変動させる因子について、複数の設備に共通する全体変動因子と各設備に固有の固有変動因子とが推定される。また、設備の異常の発生以前に出力されたセンサデータから抽出された異常に関連する因子の候補としての候補因子、全体変動因子及び固有変動因子に基づいて、設備の異常に関連する異常関連因子が推定される。これにより、各設備の異常に関連する因子を正確に推定でき、各設備の異常を高精度に検知できる。
【0063】
上記実施形態の異常検知システム1の機能を実現するための処理をコンピュータ(異常検知装置21)に実行させるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD(Digital Versatile Disk)、フレキシブルディスク(FD)等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶されてコンピュータプログラムプロダクトとして提供されるようにしてもよい。また、当該プログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するようにしてもよい。また、当該プログラムを、インターネット等のネットワーク経由で提供または配布するようにしてもよい。
【0064】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0065】
1…異常検知システム、10…工場、11A~11D…設備、12,13…センサ群、12A,12B,13A,13B…センサ、21…異常検知装置、25…ネットワーク、31…CPU、32…RAM、33…ROM、34…ストレージ、35…通信I/F、36…ユーザI/F、101…取得部、102…変数分析部、103…変数分析結果記憶部、104…異常分析部、105…異常分析結果記憶部、106…前兆分析部、107…前兆分析結果記憶部、108…異常状態検知部、109…出力部、201…変数分類部、202…変動因子推定部、211…成分分解部、212…推定部、301…要因候補抽出部、302…比較部、303…要因推定部、F1,F2…変動、W…滑走窓