(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176312
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】過硫酸アンモニウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 1/29 20210101AFI20231206BHJP
C25B 9/19 20210101ALI20231206BHJP
C25B 15/029 20210101ALI20231206BHJP
C25B 11/043 20210101ALI20231206BHJP
【FI】
C25B1/29
C25B9/19
C25B15/029
C25B11/043
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088528
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】木所 利樹
(72)【発明者】
【氏名】仁平 仁
(72)【発明者】
【氏名】手塚 幹人
(72)【発明者】
【氏名】福田 文雄
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA16
4K011DA11
4K021AB15
4K021BA02
4K021BA17
4K021BA18
4K021BB01
4K021BC09
4K021CA10
4K021CA15
4K021DB05
(57)【要約】
【課題】電流効率の低下を抑制でき、効率よく過硫酸アンモニウムを製造できる方法を提供する。
【解決手段】電解槽の陽極側に硫酸アンモニウム水溶液を、陰極側に硫酸アンモニウム水溶液、水酸化アンモニウム水溶液、及び硫酸水溶液から選ばれる少なくとも1種を供給し、陽極側に分極剤が存在する状態で電解することにより陽極側に過硫酸アンモニウムを生成する方法であって、陽極側電解液中の分極剤濃度が0.003重量%以上、0.020重量%以下となるように運転する過硫酸アンモニウムの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔膜で隔てられた電解槽の陽極側に硫酸アンモニウム水溶液を陽極側原料として供給し、陰極側に硫酸アンモニウム水溶液、水酸化アンモニウム水溶液、及び硫酸水溶液から選ばれる少なくとも1種を陰極側原料として供給し、陽極側に分極剤が存在する状態で電解することにより陽極側に過硫酸アンモニウムを生成する過硫酸アンモニウムの製造方法であって、陽極側電解液中の分極剤濃度が0.003重量%以上、0.020重量%以下となるように運転する過硫酸アンモニウムの製造方法。
【請求項2】
前記陽極側原料としての硫酸アンモニウム水溶液の濃度が30-45重量%の範囲にある、請求項1に記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
【請求項3】
前記分極剤がグアニジン、グアニジン塩、チオシアン及びチオシアン酸塩から選ばれる少なくとも1種である、請求項1または2に記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
【請求項4】
前記分極剤がスルファミン酸グアニジンである、請求項3に記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
【請求項5】
前記陰極側原料が、硫酸アンモニウム水溶液である、請求項1~4のいずれかに記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
【請求項6】
前記陰極側原料としての硫酸アンモニウム水溶液の濃度が30-45重量%の範囲にある、請求項5に記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
【請求項7】
陽極側生成液を晶析し、晶析後のスラリーを固液分離して得られる母液を陽極側原料としてリサイクルする、請求項1~6のいずれかに記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
【請求項8】
前記母液の一部を陽極側原料としてリサイクルする、請求項7に記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
【請求項9】
過硫酸アンモニウムの製造が連続方式で行われる、請求項1~8のいずれかに記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
【請求項10】
陽極電極が白金族または導電ダイヤモンドである、請求項1~9のいずれかに記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
【請求項11】
前記陽極側原料及び陰極側原料に含まれる硫酸アンモニウムがラクタム製造工程で副生されたものを含む、請求項1~10のいずれかに記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
【請求項12】
陰極側で生成するアンモニアをラクタム製造工程で利用する、請求項1~11のいずれかに記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸アンモニウムを原料に過硫酸アンモニウムを製造する方法に関し、とくに、過硫酸アンモニウムを効率的に製造するための製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫酸アンモニウムは硫安とも呼ばれ、かつては目的物として合成されていたが、現在は主にカプロラクタムやラウロラクタム、アクリロニトリル、メタクリル酸メチルといった有機化学工業や石炭乾留によるコークス製造工程で副生されるものが流通している。硫酸アンモニウムはアンモニア態窒素を20%程度含有するので肥料として利用することが可能であり、前述した工程で副生した硫酸アンモニウムの大部分は肥料用として利用されている。従来、硫酸アンモニウムを副生しないカプロラクタムやアクリロニトリル、メタクリル酸メチルの製法が開発されてきた。ところがこれらの製法はプロセスが複雑であることや、既存製法からの転換が容易でないといった課題を有する。そのため、未だに多くの硫酸アンモニウムが副生している。
【0003】
一方、過硫酸アンモニウムは主に乳化重合の重合開始剤や酸化漂白剤、銅エッチング剤等で広く工業的に利用されている。過硫酸アンモニウムのこれまで知られてきた製造方法としては、特許文献1に記載されているように電解槽に隔膜として多孔質中性アルミナ隔膜を用いて、陽極側原料に分極剤としてチオシアン酸アンモニウム0.03重量%含み、陽極側原料の硫酸イオンとして硫酸アンモニウムのみを用いて製造する方法や、特許文献2に記載されているように電解槽に隔膜として陽イオン交換膜を用いて、陽極側原料に分極剤としてスルファミン酸グアニジン0.03重量%含む硫酸アンモニウム水溶液を用いて、陰極側原料の酸解離可能な水素イオン量を制御することにより、アンモニアを併産しつつ製造する方法や、特許文献3に記載されているように電解槽に隔膜として多孔質中性アルミナ隔膜を用いて、陽極側原料に分極剤としてスルファミン酸グアニジンを0.03重量%添加することでシアン化合物の生成を抑制しつつ製造する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11―293484号公報
【特許文献2】国際公開2018/131493号
【特許文献3】特開2000-38691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者が検討した結果、リサイクル運転を実施する際に高い濃度で分極剤を使用した場合、次第に電流効率が低下する恐れがあることが判明した。そのため、特許文献1、特許文献2、特許文献3に開示された方法では、高い濃度で分極剤を使用しているためリサイクル運転した際に電流効率が低下するという課題があった。
【0006】
そこで本発明の課題は、上記のような従来技術に鑑み、過硫酸アンモニウムを製造する際の電流効率の低下を抑制でき、効率よく過硫酸アンモニウムを製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る過硫酸アンモニウムの製造方法は、以下の通りである。
(1)隔膜で隔てられた電解槽の陽極側に硫酸アンモニウム水溶液を陽極側原料として供給し、陰極側に硫酸アンモニウム水溶液、水酸化アンモニウム水溶液、及び硫酸水溶液から選ばれる少なくとも1種を陰極側原料として供給し、陽極側に分極剤が存在する状態で電解することにより陽極側に過硫酸アンモニウムを生成する過硫酸アンモニウムの製造方法であって、陽極側電解液中の分極剤濃度が0.003重量%以上、0.020重量%以下となるように運転する過硫酸アンモニウムの製造方法。
(2)前記陽極側原料としての硫酸アンモニウム水溶液の濃度が30-45重量%の範囲にある、(1)に記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
(3)前記分極剤がグアニジン、グアニジン塩、チオシアン及びチオシアン酸塩から選ばれる少なくとも1種である、(1)または(2)に記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
(4)前記分極剤がスルファミン酸グアニジンである、(3)に記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
(5)前記陰極側原料が、硫酸アンモニウム水溶液である、(1)~(4)のいずれかに記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
(6)前記陰極側原料としての硫酸アンモニウム水溶液の濃度が30-45重量%の範囲にある、(5)に記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
(7)陽極側生成液を晶析し、晶析後のスラリーを固液分離して得られる母液を陽極側原料としてリサイクルする、(1)~(6)のいずれかに記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
(8)前記母液の一部を陽極側原料としてリサイクルする、(7)に記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
(9)過硫酸アンモニウムの製造が連続方式で行われる、(1)~(8)のいずれかに記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
(10)陽極電極が白金族または導電ダイヤモンドである、(1)~(9)のいずれかに記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
(11)前記陽極側原料及び陰極側原料に含まれる硫酸アンモニウムがラクタム製造工程で副生されたものを含む、(1)~(10)のいずれかに記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
(12)陰極側で生成するアンモニアをラクタム製造工程で利用する、(1)~(11)のいずれかに記載の過硫酸アンモニウムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
このように、本発明に係る過硫酸アンモニウムの製造方法によれば、過硫酸アンモニウムを長時間製造する際の電流効率の低下を抑制でき効率よく製造可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1で行った過硫酸アンモニウム製造プロセスを示す模式図である。
【
図2】実施例2で行った過硫酸アンモニウム製造プロセスを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明について、実施の形態とともにさらに詳細に説明する。
本発明に係る過硫酸アンモニウムの製造方法は、硫酸アンモニウムを電解して過硫酸アンモニウムを製造する方法において、陽極側生成液から過硫酸アンモニウムを析出させ、晶析後のスラリーを固液分離して得られる母液を陽極側原料としてリサイクル(以後リサイクル運転)する際に陽極側電解液中の分極剤濃度を一定の範囲内に制御することを特徴とする。
【0011】
本発明において使用する電解槽は特に限定されるものではなく、隔膜で隔てられた陽極室と陰極室に区切られた電解槽であればよい。箱形電解槽や、フィルタープレス型電解槽を使用することができる。また、電解時には電解槽とは別にバッファータンクを備えていてもよく、前記バッファータンクと電解槽の間で電解液を循環させてもよい。ここで、陽極室と陰極室を隔てる隔膜は、陽極室にて生成する陰イオンの陰極室への泳動を阻害することが出来る隔膜を用いることができる。隔膜としては、陽イオン交換膜、中性アルミナ隔膜などが好ましく、陽イオン交換膜がより好ましい。
【0012】
陽極側、陰極側いずれも原料の供給方式、生成液の払出方式については限定されないが、工業的には連続方式の方がバッチ方式より有利である。
【0013】
陽極側原料としては、硫酸アンモニウムを用いる必要があり、硫酸アンモニウム水溶液の濃度については特に限定されないが、電解反応における生産性向上の観点から、30重量%以上がより好ましく、35重量%以上がさらに好ましい。また、硫酸アンモニウムの濃度は、系内への硫酸アンモニウム結晶の析出を抑制する観点から45重量%以下が好ましい。
【0014】
本明細書において、電流効率とは、(生成した過硫酸イオン(mol)×2)/電荷移動量(mol)×100%で表され、電荷移動量当たりに生成した過硫酸イオンの割合のことをいう。また、電荷移動量(mol)とは、通電電流(A)×通電時間(s)/ファラデー定数(A・s/mol)で求められる値であり、電解中に電源装置の負極から陰極に供給され、電解反応を通じて陽極から電源装置の正極に移動する電子数のことをいう。
【0015】
また、陽極側原料は、硫酸アンモニウム以外の原料を含んでいてもよい。硫酸アンモニウム以外の原料としては、例えば硫酸などの酸、水酸化アンモニウムなどの塩基、分極剤などが挙げられる。分極剤については、既知の過硫酸塩の製造に有利なものであれば特に限定されないが、グアニジン、グアニジン塩、チオシアン酸塩、シアン化物、シアン酸塩、フッ化物などが好ましい。分極剤は、電流効率向上の観点から、グアニジン、またはグアニジン塩であることがより好ましい。グアニジン塩としては、スルファミン酸グアニジン、硝酸グアニジン、硫酸グアニジン、リン酸グアニジンまたは炭酸グアニジンなどが挙げられ、スルファミン酸グアニジンがよりさらに好ましい。
【0016】
陽極側電解液中の分極剤の濃度は、電流効率向上の観点から0.003重量%以上である必要があり、0.005重量%以上がより好ましく、0.010重量%以上がさらに好ましい。また、リサイクル運転を実施する際に高い濃度で分極剤を使用した場合、次第に電流効率が低下するおそれがあるため、分極剤の濃度は0.020重量%以下である必要があり、0.018重量%以下がより好ましく、0.016重量%以下がさらに好ましい。
【0017】
陽極側電解液の分極剤濃度を制御する方法は特に限定されず、例えば連続方式では抜き出す陽極側生成液中に分極剤が含まれるため陽極側電解液に不足分を添加することができる。分極剤の添加の方法は特に制限されず、陽極側原料に混ぜてもよく、分極剤を陽極側電解液に添加してもよい。
【0018】
陰極側原料としては、硫酸アンモニウム水溶液、水酸化アンモニウム水溶液、及び硫酸水溶液から選ばれる少なくとも1種を用いる必要があり、硫酸アンモニウム水溶液または水酸化アンモニウム水溶液を用いることが好ましい。これらの水溶液は、電解質を含有するため電気抵抗を低減可能で、隔膜を隔てた陽極側原料と同一組成のイオンで構成され、陰極反応に供される硫酸由来の水素イオンが存在しないため、アンモニアの副生量を増加させることが可能である。加えて陰極側の材質選定の面からも酸を用いることより有利である。陰極側原料の濃度については特に限定されないが、例えば硫酸アンモニウム水溶液であれば、30重量%以上が好ましく、35重量%以上がより好ましい。また45重量%以下が好ましい。
【0019】
陰極側電解液中に硫酸由来の水素イオンが存在する範囲では下記反応式(1)が優先され、陰極側生成物として水素を発生させるが、酸由来の水素イオン欠乏後は下記反応式(2)や下記反応式(3)といった反応が優先される。系内では下記反応式(4)の平衡反応が存在するため、反応式(2)、反応式(3)のいずれの場合においても陰極側生成物として水素およびアンモニアを生成させることができる。
2H+ + 2e- → H2 (1)
2NH4
+ + 2e- → 2NH3 + H2 (2)
2H2O + 2e- → H2 + 2OH- (3)
NH4
+ + OH- ⇔ NH3 + H2O (4)
【0020】
陽極としては、白金族の金属を含む電極、または導電ダイヤモンド電極を用いることが好ましい。上記電極のなかでも、白金族の金属を含む電極がより好ましく、白金を含む電極がさらに好ましく、電極表面に白金が露出した電極(以下「白金電極」と称する)を用いることがさらに好ましい。白金電極としては、無垢の白金と金属基材とが接合された形態の無垢白金電極や、白金と金属基材とを圧着させたクラッド鋼を用いた白金クラッド電極、金属基材に白金のメッキを施した白金メッキ電極等が挙げられる。金属基材を構成する金属は特に限定はされないが、電解液の耐腐食性の観点から、表面に不動態被膜を生じる金属が好ましく、チタンがより好ましい。金属基材は、電極として必要な電気伝導度を確保しつつ、剛性を持たせるために用いられる。
【0021】
陰極としては、ステンレス鋼、ニッケル、白金、鉛、ジルコニウムを用いることが好ましく、SUS316(ステンレス鋼)またはニッケルを用いることがより好ましい。
【0022】
陽極の電流密度は、20A/dm2以上が好ましい。これより低いと電流効率が低くなる場合がある。好ましくは40A/dm2以上である。また、陽極の電流密度は、500A/dm2以下が好ましく、さらに好ましくは、200A/dm2以下、特に好ましくは、80A/dm2以下である。工業的には装置サイズを小さくすることができるため、高電流密度での運転がより好ましい。
【0023】
電解槽内の温度は、15~40℃が好ましい。この範囲とすることで、電解槽内の塩類の溶解を適切な範囲に維持することができ、望ましくない副反応を抑えることができるので好ましい。
【0024】
電解によって得られた過硫酸アンモニウムを含有する陽極側生成液は、従来技術と同様に精製することで製品を得ることができる。この精製工程は特に限定されるものではなく、例えば過硫酸アンモニウムを析出させる工程は、広く一般的に用いられる晶析槽へ供給し、蒸発晶析や冷却晶析といった手法を用いることができる。晶析後の含過硫酸アンモニウムスラリーを過硫酸アンモニウム結晶と母液とに分離する工程は、広く一般に使用される遠心分離機等の固液分離器を用いることができる。得られた過硫酸アンモニウム結晶を乾燥・製品化する工程は粉体乾燥機を用いることができる。
【0025】
上記で得られた母液は、陽極側原料として工程に再供給することができる。ここで、母液は全量再供給してもよく、一部を再供給してもよく、原料と混合して新たな原料としてもよい。供給する方法は連続的でも断続的でもよい。
【0026】
陰極室については電解進行とともに電荷移動量分の陽イオンと陽イオンに水和した水分子が陽極から陰極側へ移動し、液量が増加するため、連続電解時には陰極側生成液からこの増加相当分を脱水後に再度陰極側に供給してもよい。また、バッチ運転時には陰極生成液を電解前と同じ重量になるまで脱水することにより、再度陰極側原料として供給してもよい。脱水方法は特に限定されるものではなく、陰極側での増加相当分を脱水出来ればよいが、蒸発濃縮または膜分離による脱水が好ましい。また、脱水により得られた水中にはアンモニアを含んでいても問題はなく、たとえばラクタム製造工程における中和塩変換工程等のアンモニアもしくは水を利用する工程で使用可能である。陰極側生成液の脱水は、陰極液が増加し続けることを防ぐため、電荷移動量に対して一定以上脱水する方が好ましく、また陰極側生成液に塩等が含まれる場合は脱水により結晶が析出する量以下の脱水量にする方が好ましく、具体的には電荷移動量1molあたりの脱水量は、20~90gが好ましく、さらに好ましくは30~80gである。
【0027】
また、陰極側生成液を脱水し、再度陰極側に供給しながら電解を継続することによって、陽極から陰極側へ電荷移動量分の水素イオンとアンモニウムイオンが移動してくるため、陰極室の陰極側生成ガスに水素およびアンモニアの混合ガスおよび/または生成液中に水酸化アンモニウム(アンモニア含有水)が生成する。陰極側で生成される水素・アンモニア混合ガスは広く一般的に用いられるアンモニアガス分離方法、例えば深冷分離や圧縮分離により分離することができる。また、生成したアンモニアの供給先がたとえばラクタム製造工程における中和塩変換工程のような、アンモニア水として供給される工程の場合、広く一般的に用いられるガス吸収塔を用いて水素ガスと分離し、アンモニア水として回収することもできる。分離された水素ガスは圧力変動吸着法等を用いて精製圧縮し、有機化学工業の水添工程や、燃料電池用の燃料として利用することができる。
【0028】
本発明の過硫酸アンモニウムの製造方法は、先に述べた、ラクタム、アクリロニトリル、メタクリル酸メチルなどの製造工程や、石炭乾留によるコークス製造工程で副生する硫酸アンモニウムを原料として用いることができる。このとき、種々の工程における硫酸アンモニウムを含む副成物には硫酸アンモニウム以外の不純物などが含まれている場合があり、それらの成分や含有量によっては、副反応を起こすことで過硫酸アンモニウムの製造工程における電流効率が低下する場合がある。このような場合は、あらかじめ硫酸アンモニウムを含む副生物を精製して電流効率を低下させる成分を減少させてから過硫酸アンモニウム製造工程に供給することが好ましい。硫酸アンモニウム中の不純物の精製方法としては、例えば無機物であればキレート処理する手法が好ましい。
【0029】
本発明に係る過硫酸アンモニウムの製造方法の一例として、後述の実施例1で行った過硫酸アンモニウム製造プロセスを示す。
図1の製造プロセスにおいて、陽極側原料タンク8及び陰極側原料タンク9から硫酸アンモニウムが供給され、電源10から陽極5、陰極6に通電されて電解が行われる場合について例示する。
【0030】
電解槽1の隔膜2で隔てられた、陽極5が設けられた陽極室3、陰極6が設けられた陰極室4には陽極側原料タンク8及び陰極側原料タンク9から硫酸アンモニウムが供給され、陽極反応として従来技術と同様に、下記のように硫酸イオンが消費されて過硫酸イオンが発生する。
2SO4
2- → S2O8
2- + 2e-
陽極室3内の溶存イオンとしては、
電解前:NH4
+、SO4
2- = 硫酸アンモニウム水溶液
電解後:NH4
+、S2O8
2- = 過硫酸アンモニウム水溶液
となり、アンモニウムイオンが陰極室4側へ泳動するとともに、陽極室3には過硫酸アンモニウム水溶液が生成していく。この陽極側生成液が陽極側生成液抜出ライン11を通して精製工程7に送られて精製工程7で晶析され、母液と過硫酸アンモニウム結晶とに分離され、結晶は例えば粉体乾燥機により乾燥され、結晶抜出ライン15で抜き出されて過硫酸アンモニウムの塩として製品化できる。母液は母液抜出ライン14で抜き出され、例えばその一部が母液循環ライン13を介し陽極側原料として工程に再供給され、不足する硫酸アンモニウムを追加して、陽極側原料として用いることができる。
【0031】
一方、陰極室4では反応源の水素イオンが無いか乏しいため、陰極反応として下記のように陽極側より泳動したアンモニウムイオンが反応し、アンモニアと水素が生成していく。また、陰極側に少量の酸がある場合には、下記反応式の如く酸由来の水素イオンが反応(消費)し、水素ガスが発生する。
2NH4
+ + 2e- → 2NH3 + H2
2H+ + 2e- → H2(少量の酸がある場合)
【0032】
電解により陽極側から陰極側へ電荷移動量分に相当した水素イオン、アンモニウムイオンおよびこれらイオンに水和した分の水分子が移動し、陰極側の液量が増加するため、陰極側生成液をリサイクルせず新たに陰極側原料を供給するか、陰極側生成液抜出ライン12で抜き出された陰極生成液の一部を陰極側生成液循環ライン20を介し陰極側原料としてリサイクルするか、増加相当量を陰極側生成液から脱水し、陰極側原料としてリサイクルできる。
【0033】
また、後述の実施例2で行った過硫酸アンモニウム製造プロセスを示す。
図2の製造プロセスにおいて、陽極側原料タンク8及び陰極側原料タンク9から硫酸アンモニウムが供給され、陽極バッファータンク16及び陰極バッファータンク17から陽極側生成液抜出ライン18、陰極側生成液抜出ライン19を通して陽極側生成液及び陰極側生成液を抜き出す場合について例示する。電解槽1の陽極室3には陽極バッファータンク16から硫酸アンモニウムが循環供給され、陽極反応としては、従来技術と同様に、硫酸イオンが消費されて、過硫酸イオンが発生する。この陽極側生成液が晶析され、母液と過硫酸アンモニウム結晶とに分離され、結晶は例えば粉体乾燥機により過硫酸アンモニウムの塩として製品化できる。母液は一部が工程に再供給され、不足する硫酸アンモニウムを追加して陽極側原料として用いることができる。
【0034】
一方、陰極室4では、陰極バッファータンク17から硫酸アンモニウムが循環供給され、陰極反応としては、反応源の水素イオンが無いか乏しいため、陽極側より泳動したアンモニウムイオンが反応し、アンモニアと水素が生成していく。また、陰極側に少量の酸がある場合には、酸由来の水素イオンが反応(消費)し、水素ガスが発生する。電解により陽極側から陰極側へ電荷移動量分に相当した水素イオン、アンモニウムイオンおよびこれらイオンに水和した分の水分子が移動し、陰極側の液量が増加するため、陰極側生成液をリサイクルせず新たに陰極側原料を供給するか、陰極側生成液抜出ライン19で抜き出された陰極側生成液の一部を陰極側生成液循環ライン20を介し陰極側原料としてリサイクルするか、増加相当量を陰極側生成液から脱水し、陰極側原料としてリサイクルできる。
【実施例0035】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例中の電流効率は(生成した過硫酸イオン(mol)×2)/電荷移動量(mol)×100%で表され、電荷移動量当たりに生成した過硫酸イオンの割合をいう。
【0036】
(実施例1)
図1に示す電解槽1を用いて、隔膜2には陽イオン交換膜(ケマーズ社製、Nafion(登録商標)114)、陽極5には有効面積が0.1dm
2の80メッシュの白金金網とチタンからなる電極、陰極6には有効面積が0.1dm
2の80メッシュのSUS316金網からなる電極を用いた。陽極室3には、スルファミン酸グアニジン0.015重量%を含有する硫酸アンモニウム43重量%水溶液を500g供給した。陰極室4には硫酸アンモニウム43重量%水溶液を400g供給した。
【0037】
供給後、陽極電流密度は45A/dm2として通電しバッチ電解を実施した。この電解の電荷移動量は1.34molであった。液中の過硫酸アンモニウム濃度は酸化還元滴定法により測定し、硫酸アンモニウム濃度は硫酸イオンを測定により求めた。バッチ電解の電流効率は、電解前の陽極室中の総過硫酸イオン量と電解後の陽極室中の総過硫酸イオン量を測定することで、生成した過硫酸イオン量を求めて算出した。この時の陽極側生成液は422gで、硫酸アンモニウムは16.9重量%、過硫酸アンモニウムは29.3重量%であった。陽極側では0.54molの過硫酸アンモニウムが生成され、電流効率は81.0%であった。
【0038】
この陽極側生成液を、二重管式のガラス容器に供給して撹拌しながら晶析をすることで過硫酸アンモニウムを析出させた。ガラス容器内圧20Torr、液温30℃で晶析を行い、脱水率は23.2%であった。晶析で得られたスラリーをろ過することで母液を245g得た。
【0039】
母液は一部を陽極側原料としてリサイクルし、電解で消費される硫酸アンモニウム相当が含まれるように硫酸アンモニウムを追加して新たな陽極側原料とした。また、陽極側原料のスルファミン酸グアニジン濃度が0.015重量%となるように不足分を供給した。この時の陽極側原料は566gで、硫酸アンモニウムは37.1重量%、過硫酸アンモニウムは8.1重量%、スルファミン酸グアニジンは0.015重量%であった。
【0040】
この陽極側原料と陰極側原料として新たに準備した硫酸アンモニウム43重量%水溶液400gを用いて、先の電解と同じ条件で通電した。この電解の電荷移動量は1.34molであった。この時の陽極側生成液は489gで、硫酸アンモニウムは13.7重量%、過硫酸アンモニウムは34.6重量%であった。陽極側では0.54molの過硫酸アンモニウムが生成され、電流効率は80.5%であった。得られた陽極側生成液を先の晶析と同様の装置及び条件で晶析した。この時の脱水率は26.8%であった。さらに先のろ過と同様の操作で母液を225g得た。さらに母液は一部を陽極側原料として再利用し、電解で消費される硫酸アンモニウム相当が含まれるように硫酸アンモニウムを追加して新たな陽極側原料とした。また、陽極側原料のスルファミン酸グアニジン濃度が0.015重量%となるように不足分を供給した。この時の陽極側原料は570gで、硫酸アンモニウムは37.5重量%、過硫酸アンモニウムは7.5重量%、スルファミン酸グアニジンは0.015重量%であった。このバッチ電解及び晶析を繰り返し各20回実施した。
【0041】
(比較例1)
陽極室のスルファミン酸グアニジン濃度が0.030重量%ということ以外は実施例1と同様の条件で過硫酸アンモニウムの生成を行った。表1に実施例1及び比較例1における電流効率の推移をまとめた。
【0042】
【0043】
(実施例2)
図2に示す電解槽1を用いて、隔膜2には陽イオン交換膜(ケマーズ社製、Nafion(登録商標)551)、陽極5には有効面積が1dm
2の80メッシュの白金金網をチタン製の金属基盤に溶接した電極、陰極6には有効面積が1dm
280メッシュのSUS316金網からなる電極を用いた。各室にはバッファータンクを設け、バッファータンクから電解槽へはポンプで送液し、電解槽からバッファータンクへの液戻りはオーバーフローによって行った。連続電解を行う際は陽極側原料、陰極側原料をバッファータンクへポンプで送液し、陽極側生成液、陰極側生成液をバッファータンクからポンプで抜き出した。
【0044】
連続電解の準備として、陽極側原料としてスルファミン酸グアニジン0.015重量%を含有する硫酸アンモニウム43重量%水溶液5200gを陽極バッファータンク16に供給し、陰極側原料として硫酸アンモニウム43重量%水溶液4000gを陰極バッファータンク17に供給しバッチ電解を実施した。陽極電流密度は45A/dm2として通電した。この電解の電荷移動量は15.1molであった。この時の陽極側生成液は4270gで、過硫酸アンモニウムは32.7重量%、硫酸アンモニウムは14.5重量%であった。先のバッチ電解で得られた陽極側生成液中の全量を陽極バッファータンク16に供給し、新たに準備した硫酸アンモニウム43重量%水溶液4000gを陰極バッファータンク17に供給した。
【0045】
連続電解の陽極側原料としてスルファミン酸グアニジンを含有する硫酸アンモニウム43重量%水溶液5200gと陰極側原料として硫酸アンモニウム43重量%水溶液4000gを10時間かけて各バッファータンクへ送液し、バッファータンクの液面が一定になるように陽極側生成液、陰極側生成液をバッファータンクからポンプで抜き出して連続電解を行った。この時陽極電流密度は45A/dm2として通電し連続電解を実施した。この電解の電荷移動量は16.8molであった。連続電解中は陽極側電解液中のスルファミン酸グアニジンの濃度を0.015重量%で制御するように陽極側原料及び陽極側電解液にスルファミン酸グアニジンを添加した。連続電解の電流効率は、電解前の陽極側原料と陽極バッファータンク中の総過硫酸イオン量と電解後の陽極側生成液と陽極バッファータンク中の総過硫酸イオン量を測定することで、生成した過硫酸イオン量を求めて10時間毎に算出した。この時の陽極側生成液は4286gで、硫酸アンモニウムは16.2重量%、過硫酸アンモニウムは重量31.0%であり、バッファータンク内の陽極電解液は4297gで硫酸アンモニウムは重量16.2%、過硫酸アンモニウムは31.1重量%であった。陽極側では5.54molの過硫酸アンモニウムが生成され、電流効率は66.0%であった。
【0046】
この陽極側生成液を、二重管式のガラス容器に供給して撹拌しながら晶析をすることで過硫酸アンモニウムを析出させた。ガラス容器内圧20Torr、液温30℃で晶析を行い、脱水率は23.4%であった。晶析で得られたスラリーをろ過することで母液を2377g得た。
【0047】
母液は一部を陽極側原料として再利用し、電解で消費される硫酸アンモニウム相当が含まれるように硫酸アンモニウムをと不足するスルファミン酸グアニジンを追加して新たな陽極側原料とした。この時の陽極側原料は5660gでの硫酸アンモニウムは37.2重量%、過硫酸アンモニウムは7.9重量%、スルファミン酸グアニジンは0.015重量%であった。
【0048】
この陽極側原料と陰極側原料として新たに準備した硫酸アンモニウム43重量%水溶液4000gを用いて、先の電解と同様に連続電解した。この電解の電荷移動量は16.8molであった。この時の陽極側生成液は4530gであり、硫酸アンモニウムは14.9重量%、過硫酸アンモニウムは重量33.5%であり、バッファータンク内の陽極電解液は4542gで硫酸アンモニウムは重量14.9%、過硫酸アンモニウムは33.6重量%であった。陽極側では5.50molの過硫酸アンモニウムが生成され、電流効率は65.5%であった。得られた陽極側生成液を先の晶析と同様の装置及び条件で晶析した。この時の脱水率は24.6%であった。さらに母液は一部を陽極側原料として再利用し、電解で消費される硫酸アンモニウム相当が含まれるように硫酸アンモニウムを追加して新たな陽極側原料とした。この時の陽極側原料は5677gで、硫酸アンモニウムは37.5重量%、過硫酸アンモニウムは7.6重量%、スルファミン酸グアニジンは0.015重量%であった。この連続電解及び晶析を繰り返し、合計150時間の電気分解を実施した。
【0049】
(比較例2)
連続電解中の陽極側電解液中のスルファミン酸グアニジン濃度を0.030重量%で制御するということ以外は実施例2と同様の条件で過硫酸アンモニウムの連続生成を行った。表2に実施例2及び比較例2における電流効率の推移をまとめた。
【0050】
【0051】
表1,表2から明らかなように、スルファミン酸グアニジンの濃度を一定の範囲内で制御した本発明は、電流効率の低下を抑制でき、効率よく過硫酸アンモニウムを製造できることがわかる。