IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 凸版印刷株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-電極触媒層 図1
  • 特開-電極触媒層 図2
  • 特開-電極触媒層 図3
  • 特開-電極触媒層 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176353
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】電極触媒層
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20231206BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20231206BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/86 B
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088592
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】岸 克行
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018BB06
5H018BB08
5H018BB12
5H018DD05
5H018EE03
5H018EE05
5H018EE17
5H018HH03
5H018HH05
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】排水性やガス拡散性が向上でき、高出力が可能な高分子形燃料電池用の電極触媒層を提供する。
【解決手段】高分子電解質膜に接合される電極触媒層であって、触媒13と、上記触媒13を担持する導電性担体14と、高分子電解質15と、繊維状物質16を有し、厚さ方向の断面である第1の断面において、隣り合う第1の繊維状物質間の距離が、0.30μm以上8μm以下である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜に接合される電極触媒層であって、
触媒と、上記触媒を担持する導電性担体と、高分子電解質と、繊維状物質とを有し、
厚さ方向の断面である第1の断面において、隣り合う第1の繊維状物質間の距離が、0.30μm以上8μm以下である、
ことを特徴とする電極触媒層。
【請求項2】
上記第1の断面と直交する第2の断面において、隣り合う繊維状物質間の距離が、0.30μm以上8μm以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の電極触媒層。
【請求項3】
上記繊維状物質は、電子伝導性又はプロトン伝導性の少なくとも一方の伝導性を示すことを特徴とする請求項1に記載の電極触媒層。
【請求項4】
上記繊維状物質がアゾール構造を含有していることを特徴とする請求項3に記載の電極触媒層。
【請求項5】
上記電極触媒層中における上記繊維状物質の含有量が、1重量%以上15重量%以下である、
ことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の電極触媒層。
【請求項6】
上記電極触媒層の厚さが、1μm以上30μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電極触媒層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子形燃料電池用の膜電極接合体を構成する電極触媒層に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題やエネルギー問題の有効な解決策として、燃料電池が注目を浴びている。燃料電池は、水素などの燃料を酸素などの酸化剤を用いて酸化し、これに伴う化学エネルギーを電気エネルギーに変換する。
燃料電池は、電解質の種類によって、アルカリ形、リン酸形、高分子形、溶融炭酸塩形、固体酸化物形などに分類される。高分子形燃料電池(PEFC)は、低温作動、高出力密度であり、小型化・軽量化が可能であることから、携帯用電源、家庭用電源、車載用動力源としての応用が期待されている。
【0003】
高分子形燃料電池(PEFC)は、電解質膜である高分子電解質膜を、燃料極(アノード)と空気極(カソード)からなる一対の電極で挟んだ膜電極接合体を備え、燃料極側に水素を含む燃料ガスを、空気極側に酸素を含む酸化剤ガスを供給することで、下記の電気化学反応により発電する。
【0004】
アノード:H → 2H + 2e ・・・(1)
カソード:1/2O + 2H + 2e → HO ・・・(2)
アノード及びカソードは、それぞれ電極触媒層とガス拡散層の積層構造からなる。アノード側電極触媒層に供給された燃料ガスは、電極触媒によりプロトンと電子となる(反応1)。プロトンは、アノード側電極触媒層内の高分子電解質、高分子電解質膜を通り、カソードに移動する。電子は、外部回路を通り、カソードに移動する。カソード側の電極触媒層では、プロトンと電子と外部から供給された酸化剤ガスが反応して水を生成する(反応2)。このように、電子が外部回路を通ることにより発電する。
【0005】
現在、燃料電池の低コスト化に向けて、高出力特性を示す燃料電池が望まれている。しかし、燃料電池は、高出力運転においては多くの生成水が発生するため、電極触媒層やガス拡散層に水が溢れ、ガスの供給が妨げられるフッティングが生じる。フッティングが発生した場合には、燃料電池の出力が著しく低下する課題がある。
【0006】
上記課題に対し、特許文献1、2では、異なる粒子径のカーボン又はカーボン繊維を含む触媒層が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10-241703号公報
【特許文献2】特許第5537178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、2では、異なるカーボン材料を含むことにより電極触媒層内に空孔が生じ、排水性やガス拡散性の向上が期待できると記載されている。しかし、電極触媒層内の空隙率を高めると、電極触媒層の厚みが大きくなり、電子あるいはプロトンの移動距離が長くなり、抵抗が大きくなる。このことにより、発電性能が低下する。また、カーボン材料の大きさや、形状や含有量についての記載はあるが、触媒層の構造についての記載がなく、その効果については具体的には検証されてはいない。
発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、排水性やガス拡散性が向上でき、高出力が可能な高分子形燃料電池用の電極触媒層を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、高分子電解質膜に接合される電極触媒層であって、触媒と、上記触媒を担持する導電性担体と、高分子電解質と、繊維状物質を有し、厚さ方向の断面である第1の断面において、隣り合う第1の繊維状物質間の距離が、0.30μm以上8μm以下である、ことを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、必要以上に厚みを増大すること無く、排水性やガス拡散性が向上でき、高出力が可能な高分子型燃料電池用触媒層を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る膜電極接合体が備える電極触媒層の構造を模式的に示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る電極触媒層の構造を説明する断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る膜電極接合体の構造を説明する断面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る固体高分子型燃料電池の単セルの内部構造を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、本発明は、以下に記載する各実施の形態に限定されうるものではなく、当業者の知識に基づいて設計の変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれものである。
【0013】
(電極触媒層)
図1に示すように、本実施形態に係る高分子形燃料電池用の電極触媒層2,3は、触媒13、触媒13を担持する導電性担体14、高分子電解質15及び繊維状物質16からなる。
また、本実施形態の電極触媒層2,3は、図2に示すように、電極触媒層の厚さ方向に切断した第1の断面において、任意の繊維状物質と、その繊維状物質に近接する他の繊維状物質との距離が、0.30μm以上8μm以下に設定されている。すなわち、第1の断面において、隣り合う繊維状物質間の距離が、0.30μm以上8μm以下に設定されている。
電極触媒層2,3は、繊維状物質16を含むことにより、電極触媒層2,3の形成時にクラックが発生せず、電極触媒層2,3内の空孔を増加させることが可能となる。また、それぞれの繊維状物質16の距離が上記の所定範囲内に保たれていることにより、繊維状物質16が効率的に利用でき、電極触媒層2,3の厚みが大きくなったり、電子あるいはプロトンの移動距離が長くなったりすることを防ぐことができる。
また、上記第1の断面と直交する第2の断面においても、隣り合う繊維状物質16間の距離が0.30μm以上8μm以下であることが好ましい。このように設定した場合には、電極触媒層2,3のあらゆる方向において、繊維状物質16の効果を得ることが出来る。
【0014】
繊維状物質16間の距離は、例えば図2に示すような電極触媒層2,3の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した際に、露出しているそれぞれの繊維状物質16の露出断面の中心間を測長することで得ることができる。すなわち、本実施形態において、上記の繊維状物質16間の距離とは、2つの繊維状物質16の各断面中心の離間距離を指す。
なお、断面で繊維状物質16が斜めに切断された場合には、露出する断面の形状は楕円形となることがある。その場合には、短軸に沿ってフィッティングした真円の中心として測定することで繊維状物質16間の距離を得ることができる。走査型電子顕微鏡(SEM)での観察倍率は、触媒層全体の繊維状物質16間の距離を測長できる点で、6000倍として、全ての繊維状物質16について測定することが好ましい。
【0015】
電極触媒層2,3の断面を露出させる方法としては、例えば、イオンミリング、ウルトラミクロトーム等を用いることができる。断面を露出させる加工を行う際には、高分子電解質膜1や電極触媒層2,3を構成する高分子電解質15へのダメージを軽減するため、膜電極接合体12を冷却しながら加工を行うことが好ましく、特に明瞭な断面が得られる点で、クライオイオンミリングを用いることが好ましい。
【0016】
電極触媒層2,3の厚さは、30μm以下が好ましく、10μmがより好ましい。厚さが30μmより大きいと、電極触媒層2,3の抵抗が大きくなり、出力が低下する。また、電極触媒層2,3にクラックが生じ易くなるため、好ましくない。
電極触媒層2,3の厚さは1μm以上が好ましい。厚さが1μmよりも薄い場合には、層厚にばらつきが生じ易くなり、内部の触媒13や高分子電解質15が不均一となりやすい。電極触媒層2,3の表面のひび割れや、厚さの不均一性は、燃料電池として使用し、長期に渡り運転した際の耐久性に悪影響を及ぼす可能性が高いため、好ましくない。また、電極触媒層内2,3において、発電による生成水濃度が高くなり易く、フラッディングが生じ易く、発電性能が低下するため、好ましくない。
【0017】
<高分子電解質>
高分子電解質15としては、イオン伝導性を有するものであればよいが、電極触媒層2,3と高分子電解質膜の密着性を考えると、高分子電解質膜と同質の材料を選択することが好ましい。高分子電解質15には、例えばフッ素系樹脂や炭化水素系樹脂が使用可能できる。例えば、フッ素系樹脂としては、Nafion(ケマーズ社製、登録商標)、炭化水素系樹脂としては、エンジニアリングプラスチック、又はその共重合体にスルホン酸基を導入したものなどが挙げられる。
【0018】
<触媒>
触媒13としては、白金族元素、金属又はこれらの合金、又は酸化物、複酸化物等が使用できる。白金族元素としては、白金やパラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムがある。金属としては、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウムなどが例示できる。その中でも、触媒13としては白金や白金合金が好ましい。また、これらの触媒13の粒径は、大きすぎると触媒13の活性が低下し、小さすぎると触媒13の安定性が低下するため、0.5~20nmが好ましい。更に好ましくは、1~5nmが良い。
【0019】
<導電性担体>
導電性担体14としては、微粒子状で導電性を有し、触媒13におかされないものであればどのようなものでも構わない。導電性担体14としては、炭素粒子が例示出来る。導電性担体14の粒径は、小さすぎると電子伝導パスが形成されにくくなり、また大きすぎると電極触媒層2,3が厚くなり抵抗が増加することで、出力特性が低下したりするので、10~1000nm程度が好ましい。更に好ましくは、10~100nmが良い。また、高表面積の導電性担体14に触媒13を担持することで、高密度で触媒13が担持でき、触媒活性を向上させることができる。
【0020】
<繊維状物質>
繊維状物質16としては、触媒13及び高分子電解質15に侵されずに繊維形状を維持可能なものであればどのようなものでも構わない。電極触媒層2,3の抵抗を下げるため、繊維状物質16は電子伝導性又はプロトン伝導性を示すものが好ましい。
電子伝導性を示す繊維状物質16としては、カーボンファイバー、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブが使用できる。好ましくは、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブが挙げられる。
プロトン伝導性を示す繊維状物質16としては、高分子電解質を繊維状に加工した繊維が挙げられる。高分子電解質としては、フッ素系樹脂や炭化水素系樹脂が使用可能でき、例えば、フッ素系樹脂としては、Nafion(ケマーズ社製、登録商標)、炭化水素系樹脂としては、エンジニアリングプラスチック、又はその共重合体にスルホン酸基を導入したものなどが挙げられる。また、酸をドープすることでプロトン伝導性を発現する酸ドープ型ポリベンゾアゾール類も好適に用いることができる。
【0021】
また、繊維状物質16としては、主鎖骨格、あるいは側鎖官能基に、酸性物質と相互作用可能な塩基性官能基を有する樹脂繊維も挙げられる。これらは、高分子電解質15に含まれる酸性物質と相互作用することで、樹脂繊維の表面が高分子電解質に被覆されて、プロトン伝導性を示すことが可能となる。酸性物質と相互作用可能な塩基性官能基としては、=N-基、-NH2基、>NH基、>N-基、アンモニウム基、アミン誘導体、ピリジン誘導体、イミダゾール誘導体、イミダゾリウム基等を挙げることができる。具体的な樹脂繊維としては、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチオアゾール、ポリビニルイミダゾール、ポリアリルアミン等を挙げることができ、特に、プロトン伝導性及び加工の観点から、アゾール構造を有するポリベンズイミダゾール(PBI)が好ましい。
【0022】
繊維状物質16の繊維径としては、0.5~500nmが好ましく、10~300nmがより好ましい。上記範囲にすることにより、電極触媒層2,3内の空孔を増加させることができ、高出力化が可能になる。
【0023】
繊維状物質16の繊維長は1~200μmが好ましく、1~50μmがより好ましい。上記範囲にすることにより、電極触媒層2,3の強度を高めることができ、形成時にクラックが生じることを抑制できる。また、電極触媒層2,3内の空孔を増加させることができ、高出力化が可能になる。
【0024】
(膜電極接合体)
本実施形態の高分子形燃料電池用の膜電極接合体12は、例えば図3に示す断面図のような構造体となっている。この膜電極接合体12は、高分子電解質膜1と、高分子電解質膜1の一方の面に形成されたカソード側電極触媒層2と、高分子電解質膜1の他方の面に形成されたアノード側電極触媒層3と、を備えた構造となっている。
カソード側電極触媒層2及びアノード側電極触媒層3の一方若しくは両方の電極触媒層が、上記説明した本実施形態の電極触媒層からなる。
【0025】
(固体高分子型燃料電池)
本実施形態の固体高分子型燃料電池は、図4に示すように、本実施形態の膜電極接合体12のカソード側電極触媒層2及びアノード側電極触媒層3と対向して、空気極側ガス拡散層4及び燃料極側ガス拡散層5がそれぞれ配置されている。これにより、カソード側電極触媒層2と空気極側ガス拡散層4とから空気極6が構成されると共に、アノード側電極触媒層3と燃料極側ガス拡散層5とで燃料極7が構成される。そして、空気極6及び燃料極7を一組のセパレータ10により挟持することで、単セルの固体高分子型燃料電池11が構成される。一組のセパレータ10は、導電性でかつガス不透過性の材料からなり、空気極側ガス拡散層4又は燃料極側ガス拡散層5に面して配置された反応ガス流通用のガス流路8と、ガス流路8と相対する主面に配置された冷却水流通用の冷却水流路9とを備える。
【0026】
この固体高分子型燃料電池11は、一方のセパレータ10のガス流路8を通って空気や酸素などの酸化剤が空気極6に供給され、他方のセパレータ10のガス流路8を通って水素を含む燃料ガス若しくは有機物燃料が燃料極7に供給されることによって、発電するようになっている。
【0027】
(電極触媒層の製造方法)
電極触媒層は、触媒層用スラリーを作製し、作製した触媒層用スラリーを基材などに塗工・乾燥することで製造できる。
【0028】
触媒層用スラリーは、触媒13、導電性担体14、高分子電解質15、繊維状物質16及び溶媒からなる。繊維状物質16としては、炭素繊維が例示できる。
溶媒としては、特に限定しないが、高分子電解質15を分散又は溶解できるものが良い。一般的に用いられる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイゾブチルケトン、メチルアミルケトン、ペンタノン、へプタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトニルアセトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、メトキシトルエン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類、イソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ジエチルアミン、アニリンなどのアミン類、蟻酸プロピル、蟻酸イソブチル、蟻酸アミル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチルなどのエステル類、その他酢酸、プロピオン酸、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等を用いてもよい。また、グリコール、グリコールエーテル系溶媒としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジアセトンアルコール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノールなどが挙げられる。
【0029】
触媒層用スラリーの塗工方法としては、ドクターブレード法、ダイコーティング法、ディッピング法、スクリーン印刷法、ラミネータロールコーティング法、スプレー法などが挙げられるが、特に限定しない。
【0030】
触媒層用スラリーの乾燥方法としては、温風乾燥、IR乾燥などが挙げられる。乾燥温度は、40~200℃、好ましくは40~120℃程度である。乾燥時間は、0.5分~1時間、好ましくは1分~30分程度である。
【0031】
ここで、電極触媒層内の繊維状物質間の距離を0.30μm以上8μm以下に設定するには、炭素繊維の添加量や繊維長、乾燥のための加熱温度、温度勾配、電極触媒層が乾燥されるまでに付与される膜厚方向の加圧などの条件を調整することで実現することが可能である。
【0032】
(膜電極接合体の製造方法)
膜電極接合体の製造方法としては、転写基材又はガス拡散層に電極触媒層を形成し、高分子電解質膜に熱圧着で電極触媒層を形成する方法や高分子電解質膜に直接触媒層を形成する方法が挙げられる。高分子電解質膜に直接触媒層を形成する方法は、高分子電解質膜と触媒層との密着性が高く、触媒層が潰れる恐れがないため、好ましい。
【0033】
以上説明したように、本実施形態の電極触媒層は、触媒と、触媒を担持する導電性担体と、高分子電解質と、繊維状物質を有し、触媒層の厚さ方向の断面である第1の断面において、繊維状物質間の距離が0.30μm以上8μm以下となっている。
この構成によれば、必要以上に電極触媒層の厚みを増大すること無く、排水性やガス拡散性が向上でき、高出力が可能な高分子形燃料電池用の電極触媒層を提供することができる。
そして、本実施形態の電極触媒層は、例えば、固体高分子型燃料電池に適用して極めて好適である。
【0034】
(その他)
本開示は、次の構成も取り得る。
(1) 高分子電解質膜に接合される電極触媒層であって、
触媒と、上記触媒を担持する導電性担体と、高分子電解質と、繊維状物質とを有し、
厚さ方向の断面である第1の断面において、隣り合う第1の繊維状物質間の距離が、0.30μm以上8μm以下である、電極触媒層。
(2) 上記第1の断面と直交する第2の断面において、隣り合う繊維状物質間の距離が、0.30μm以上8μm以下である。
(3) 上記繊維状物質は、電子伝導性又はプロトン伝導性の少なくとも一方の伝導性を示す。
(4) 上記繊維状物質がアゾール構造を含有している。
(5)上記電極触媒層中における上記繊維状物質の含有量が、1重量%以上15重量%以下である。
(6) 上記電極触媒層の厚さが、1μm以上30μm以下である。
【実施例0035】
次に、本実施形態に基づく実施例について説明する。
[繊維状物質間の距離の算出]
クライオイオンミリングを用いて電極触媒層の断面出しを行い、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて電極触媒層断面画像(6000倍)を得た。画像からそれぞれの繊維状物質間の距離を計測した。距離の決定方法は、実施形態で説明した方法で行った。
[発電特性の評価]
電極触媒層の外側にガス拡散層(SIGRACET(R) 22BC、SGL社製)を配置して、市販のJARI標準セルを用いて発電特性の評価を行った。セル温度は、80℃として、アノードに水素(100%RH)、カソードに空気(100%RH)を供給した。
【0036】
[実施例1]
実施形態1では、白金担持カーボン(TEC10E50E、田中貴金属社製)20gを容器にとり、水を加えて混合後、1-プロパノール、電解質(Nafion(登録商標)分散液、和光純薬工業)と繊維状物質としてカーボンナノファイバー(昭和電工社製、商品名「VGCF」、繊維径約150nm、繊維長約10μm)10gを加えて撹拌して、触媒層用スラリーを得た。得られた触媒層用スラリーを高分子電解質膜(ケマーズ社製、Nafion212)にダイコーティング法で塗工し、炉内で乾燥することで実施例1の電極触媒層を有した膜電極接合体を得た。なお、繊維状物質間の距離が0.30μm以上8μm以下になるように、触媒層用スラリーの組成及び乾燥温度を調整した。
【0037】
[実施例2]
繊維状物質としてアゾール構造を有する樹脂繊維(繊維径約200nm、繊維長約20μm)を用いた以外は、実施例1と同様の手順で実施例2の電極触媒層(カソード)を有した。
[実施例3]
繊維状物質の量を増加させた以外は、実施例1と同様の手順で実施例3の電極触媒層(カソード)を有した膜電極接合体を得た。
[比較例1]
触媒層用スラリーを作製するときの撹拌時間を短縮した以外は、実施例3と同様の手順で比較例1の電極触媒層(カソード)を有した膜電極接合体を得た。
[比較例2]
PET基材に塗工し、熱圧着により電解質膜に転写した以外は、実施例1と同様の手順で比較例2の電極触媒層(カソード)を有した膜電極接合体を得た。
[比較例3]
電極触媒層の厚さを1μm未満になるようにスラリーの構成・塗工量を調整して塗工したい以外は、実施例1と同様の手順で比較例3の電極触媒層(カソード)を有した膜電極接合体を得た。
[比較例4]
電極触媒層の厚さを30μm超過になるようにスラリーの構成・塗工量を調整して塗工したい以外は、実施例1と同様の手順で比較例4の電極触媒層(カソード)を有した膜電極接合体を得た。
[比較例5]
繊維状物質を加えないこと以外は、実施例1と同様の手順で比較例5の電極触媒層を有した膜電極接合体を得た。
【0038】
(評価)
実施例1~3,比較例1~5の各電極触媒層について、顕微鏡(倍率:200倍)で観察して、10μm以上クラックの有無について評価した。
その評価結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1に示す通り、繊維状物質を加えない場合(比較例5)は、クラックが多く発生した。これに対して、実施例及び比較例1~4のように繊維状物質を加えた場合は、クラックがない触媒層であった。
【0041】
また実施例1~3、比較例1~4の電極触媒層について、電極触媒層の厚さ、繊維状物質間の距離、発電特性を評価した。その評価結果を表2に示す。
実施例1,2では、表2の断面(第1の断面)と直交する断面(第2の断面)においても繊維状物質間の距離が0.30μm以上8μm以下であった。
ここで、各電極触媒層において、配合する触媒の質量が同じになるように調整しているが、他の構成が異なるため、各電極触媒層の厚さが異なっている。
【0042】
【表2】
【0043】
表1及び表2から、触媒と、上記触媒を担持する導電性担体と、高分子電解質と、繊維状物質を有し、厚さ方向の第1の断面において、繊維状物質間の距離が0.30μm以上8μm以下であることで、膜電極接合体においてクラックが発生せず、電極触媒層に含まれる材料が同様(実施例1,比較例2)でも、排水性やガス拡散性が向上して、高出力が可能な高分子形燃料電池用の電極触媒層を提供することができることが分かった。
【符号の説明】
【0044】
1 高分子電解質膜
2 カソード側電極触媒層
3 アノード側電極触媒層
4 空気極側ガス拡散層
5 燃料極側ガス拡散層
6 空気極
7 燃料極
8 ガス流路
9 冷却水流路
10 セパレータ
11 固体高分子型燃料電池
12 膜電極接合体
13 触媒
14 導電性担体
15 高分子電解質
16 繊維状物質
図1
図2
図3
図4