(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176360
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】弾性波デバイス、フィルタおよびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/17 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
H03H9/17 F
H03H9/17 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088602
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】松田 隆志
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108AA03
5J108BB02
5J108BB08
5J108CC04
5J108DD06
5J108EE03
(57)【要約】
【課題】温度特性を向上させることが可能な弾性波デバイスを提供する。
【解決手段】弾性波デバイスは、第1圧電層14aと、第1圧電層14aに積層され、第1圧電層14aの自発分極の方向と反対方向の自発分極の方向を有する第2圧電層14bと、第1圧電層14aにおける第2圧電層14bに対し反対側に設けられた第1電極と、第2圧電層14bにおける第1圧電層14aに対し反対側に設けられ、第1電極とで第1圧電層14aの少なくとも一部および第2圧電層14bの少なくとも一部を挟む第2電極と、第1圧電層14aと第1電極との間および第2圧電層14bと前記第2電極との間の少なくとも一方の間に設けられ、第1圧電層14aおよび第2圧電層14bの弾性定数の温度係数の符号と反対の符号の弾性定数の温度係数を有する絶縁膜とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1圧電層と、
前記第1圧電層に積層され、前記第1圧電層の自発分極の方向と反対方向の自発分極の方向を有する第2圧電層と、
前記第1圧電層における前記第2圧電層に対し反対側に設けられた第1電極と、
前記第2圧電層における前記第1圧電層に対し反対側に設けられ、前記第1電極とで前記第1圧電層の少なくとも一部および前記第2圧電層の少なくとも一部を挟む第2電極と、
前記第1圧電層と前記第1電極との間および前記第2圧電層と前記第2電極との間の少なくとも一方の間に設けられ、前記第1圧電層および前記第2圧電層の弾性定数の温度係数の符号と反対の符号の弾性定数の温度係数を有する絶縁膜と、
を備える弾性波デバイス。
【請求項2】
前記第1圧電層および前記第2圧電層は、158°以上かつ168°以下回転Yカットニオブ酸リチウム基板である、または
前記第1圧電層および前記第2圧電層は、158°以上かつ168°以下回転Yカットタンタル酸リチウム基板である請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記絶縁膜の厚さは、前記第1圧電層と前記第2圧電層との合計の厚さの1/30倍以上である請求項2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記第1圧電層と前記第2圧電層との厚さは同じである請求項1から3のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記第1圧電層と前記第1電極との間および前記第2圧電層と前記第2電極との間の他方の間に設けられ、前記第1圧電層および前記第2圧電層の弾性定数の温度係数の符号と反対の符号の弾性定数の温度係数を有する別の絶縁膜を備える請求項1から3のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
第1圧電層と、
前記第1圧電層に積層され、前記第1圧電層の厚さと異なる厚さを有し、前記第1圧電層の自発分極の方向と反対方向の自発分極の方向を有する第2圧電層と、
前記第1圧電層における前記第2圧電層に対し反対側に設けられた第1電極と、
前記第2圧電層における前記第1圧電層に対し反対側に設けられ、前記第1電極とで前記第1圧電層の少なくとも一部および前記第2圧電層の少なくとも一部を挟む第2電極と、
前記第1圧電層と前記第2圧電層との間に設けられ、前記第1圧電層および前記第2圧電層の弾性定数の温度係数の符号と反対の符号の弾性定数の温度係数を有する絶縁膜と、
を備える弾性波デバイス。
【請求項7】
前記第1圧電層および前記第2圧電層は、158°以上かつ168°以下回転Yカットニオブ酸リチウム基板である、または
前記第1圧電層および前記第2圧電層は、158°以上かつ168°以下回転Yカットタンタル酸リチウム基板である請求項6に記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記第1圧電層の厚さに対する前記第2圧電層の厚さの比は0.2以上かつ0.9以下である請求項7に記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
前記第1圧電層における結晶方位のX軸方向と、前記第2圧電層における結晶方位のX軸方向と、のなす角度は5°以下である請求項2、3、7および8のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項10】
前記絶縁膜は、酸化シリコンを主成分とする請求項2、3、7および8のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項11】
請求項1から3および6から8のいずれか一項に記載の弾性波デバイスを含むフィルタ。
【請求項12】
請求項11に記載のフィルタを含むマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイス、フィルタおよびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の無線端末の高周波回路用のフィルタおよびデュプレクサとして、FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)およびSMR(Solid Mounted Resonator)等のBAW(Bulk Acoustic Wave)共振器が用いられている。BAW共振器は圧電薄膜共振器とよばれている。圧電薄膜共振器は、圧電層を挟み一対の電極を設ける構造を有し、圧電層の少なくとも一部を挟み一対の電極が対向する共振領域は弾性波が共振する領域である。圧電層として、自発分極が反対方向である2つの圧電層を積層することにより、第2高調波等の偶数次モードの弾性波を励振させることが知られている(例えば特許文献1)。温度補償膜を圧電層内、または圧電層と電極との間に設けることが知られている(例えば特許文献2~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭64-71207号公報
【特許文献2】特開昭58-137317号公報
【特許文献3】特開2008-182512号公報
【特許文献4】特開2007-159123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2~4には、自発分極の方向が異なる2つの圧電層を設けてはおらず、特許文献1のような第2高調波を主モードとする弾性波デバイスではなく、基本波等の奇数次モードの弾性波を主モードとする弾性波デバイスである。基本波を主モードとする弾性波デバイスでは、扱う周波数が高くなると圧電層が薄くなる。第2高調波を主モードとする弾性波デバイスでは、圧電層を厚くできるため高周波化に有利である。しかしながら、第2高調波等の偶数次モードを主モードとする弾性波デバイスにおいて、温度特性を向上させるために温度補償膜を設ける好ましい位置については知られていない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、温度特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1圧電層と、前記第1圧電層に積層され、前記第1圧電層の自発分極の方向と反対方向の自発分極の方向を有する第2圧電層と、前記第1圧電層における前記第2圧電層に対し反対側に設けられた第1電極と、前記第2圧電層における前記第1圧電層に対し反対側に設けられ、前記第1電極とで前記第1圧電層の少なくとも一部および前記第2圧電層の少なくとも一部を挟む第2電極と、前記第1圧電層と前記第1電極との間および前記第2圧電層と前記第2電極との間の少なくとも一方の間に設けられ、前記第1圧電層および前記第2圧電層の弾性定数の温度係数の符号と反対の符号の弾性定数の温度係数を有する絶縁膜と、を備える弾性波デバイスである。
【0007】
上記構成において、前記第1圧電層および前記第2圧電層は、158°以上かつ168°以下回転Yカットニオブ酸リチウム基板である、または前記第1圧電層および前記第2圧電層は、158°以上かつ168°以下回転Yカットタンタル酸リチウム基板である構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記絶縁膜の厚さは、前記第1圧電層と前記第2圧電層との合計の厚さの1/30倍以上である構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記第1圧電層と前記第2圧電層との厚さは同じである構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記第1圧電層と前記第1電極との間および前記第2圧電層と前記第2電極との間の他方の間に設けられ、前記第1圧電層および前記第2圧電層の弾性定数の温度係数の符号と反対の符号の弾性定数の温度係数を有する別の絶縁膜を備える構成とすることができる。
【0011】
本発明は、第1圧電層と、前記第1圧電層に積層され、前記第1圧電層の厚さと異なる厚さを有し、前記第1圧電層の自発分極の方向と反対方向の自発分極の方向を有する第2圧電層と、前記第1圧電層における前記第2圧電層に対し反対側に設けられた第1電極と、前記第2圧電層における前記第1圧電層に対し反対側に設けられ、前記第1電極とで前記第1圧電層の少なくとも一部および前記第2圧電層の少なくとも一部を挟む第2電極と、前記第1圧電層と前記第2圧電層との間に設けられ、前記第1圧電層および前記第2圧電層の弾性定数の温度係数の符号と反対の符号の弾性定数の温度係数を有する絶縁膜と、を備える弾性波デバイスである。
【0012】
上記構成において、前記第1圧電層および前記第2圧電層は、158°以上かつ168°以下回転Yカットニオブ酸リチウム基板である、または前記第1圧電層および前記第2圧電層は、158°以上かつ168°以下回転Yカットタンタル酸リチウム基板である構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記第1圧電層の厚さに対する前記第2圧電層の厚さの比は0.2以上かつ0.9以下である構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記第1圧電層における結晶方位のX軸方向と、前記第2圧電層における結晶方位のX軸方向と、のなす角度は5°以下である構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記絶縁膜は、酸化シリコンを主成分とする構成とすることができる。
【0016】
本発明は、上記弾性波デバイスを含むフィルタである。
【0017】
本発明は、上記フィルタを含むマルチプレクサである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、温度特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。
【
図2】
図2は、実施例1における圧電層の結晶方位を示す図である。
【
図3】
図3(a)から
図3(c)は、共振器A1~A3における圧電薄膜共振器の模式図である。
【
図4】
図4(a)から
図4(c)は、共振器B1~B3における圧電薄膜共振器の模式図である。
【
図5】
図5(a)から
図5(c)は、それぞれ共振器A1~A3における厚さ方向の位置Zに対する規格化弾性ひずみエネルギーを示す図である。
【
図6】
図6(a)から
図6(c)は、それぞれ共振器B1~B3における厚さ方向の位置Zに対する規格化弾性ひずみエネルギーを示す図である。
【
図7】
図7(a)および
図7(b)は、シミュレーション2における共振器A2およびB2の厚さT18に対する温度速度係数TCVおよび電気機械結合係数k
2を示す図である。
【
図8】
図8(a)および
図8(b)は、シミュレーション2における共振器A3およびB3の厚さT18aおよびT18bに対する温度速度係数TCVおよび電気機械結合係数k
2を示す図である。
【
図9】
図9(a)は、実施例2に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図9(b)は、
図9(a)のA-A断面図である。
【
図10】
図10(a)は、共振器C2における圧電薄膜共振器の模式図、
図10(b)は、共振器C2における厚さ方向の位置Zに対する規格化弾性ひずみエネルギーを示す図である。
【
図11】
図11(a)および
図11(b)は、シミュレーション3における共振器C2の厚さの比T14b/T14aに対する温度速度係数TCVおよび電気機械結合係数k
2を示す図である。
【
図12】
図12(a)は、実施例1および2の変形例1に係る圧電薄膜共振器の断面図、
図12(b)は、実施例1および2の変形例2に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図13】
図13(a)は、実施例3に係るフィルタの回路図、
図13(b)は、実施例3の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し本発明の実施例について説明する。
【実施例0021】
弾性波デバイスとして圧電薄膜共振器を例に説明する。
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。圧電層14aおよび14bの積層方向をZ方向、下部電極12の引き出し方向をX方向、X方向およびZ方向に直交する方向をY方向とする。
【0022】
図1(a)および
図1(b)に示すように、基板10上に圧電層14が設けられている。圧電層14は、積層された圧電層14aおよび14bを備える。圧電層14aの分極方向52aは下向きである。圧電層14bの分極方向52bは上向きであり、圧電層14aと14bとは例えば表面活性化法により直接接合されている。圧電層14aと14bとが表面活性化法により接合されている場合、圧電層14aと14bとの間にアモルファス層が形成される場合がある。この場合、アモルファス層の厚さは圧電層14aおよび14bの厚さに比べ十分小さいため、圧電層14aと14bとは直接接合されているとみなせる。
【0023】
圧電層14を挟むように、圧電層14の上下に上部電極16および下部電極12がそれぞれ設けられている。下部電極12と圧電層14aとの間に温度補償膜18aが設けられ、圧電層14bと上部電極16との間に温度補償膜18bが設けられている。圧電層14aの少なくとも一部および圧電層14bの少なくとも一部を挟み下部電極12と上部電極16とが平面視において重なる領域は共振領域50である。平面視において、温度補償膜18aおよび18bは、共振領域50の全面に設けられている。温度補償膜18aおよび18bは、共振領域50の少なくとも一部の領域に設けられていればよい。基板10と下部電極12との間に空隙34が設けられている。下部電極12と空隙34との界面において弾性波が反射する。平面視において、空隙34は共振領域50に重なり、空隙34は共振領域50と同じ大きさまたは共振領域50より大きい。
【0024】
基板10は、例えばシリコン基板、サファイア基板、アルミナ基板、スピネル基板、石英基板、水晶基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs基板等である。下部電極12および上部電極16は、例えばルテニウム(Ru)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)またはイリジウム(Ir)等の単層膜またはこれらの膜を積層した積層膜である。
【0025】
圧電層14aおよび14bは、例えばニオブ酸リチウム単結晶基板、タンタル酸リチウム単結晶基板または水晶単結晶基板である。圧電層14aおよび14bは、窒化アルミニウム層等の多結晶でもよい。温度補償膜18aおよび18bは、圧電層14aおよび14bの弾性定数の温度係数の符号と反対の符号の弾性定数の温度係数を有する。圧電体の弾性定数の温度係数の符号は一般的に負である。よって、温度補償膜18aおよび18bの弾性定数の温度係数は正である。このような材料として、酸化シリコン(SiO2)またはフッ素を含む酸化シリコン(SiOF)がある。よって、温度補償膜18aおよび18bは、例えば酸化シリコン膜またはフッ素を含む酸化シリコン膜である。
【0026】
図2は、実施例1における圧電層の結晶方位を示す図である。なお、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向は結晶方位の軸方向であり、X方向、Y方向およびZ方向は、
図1(a)および
図1(b)に示した方向である。圧電層14aおよび14bとして、163°回転Yカットニオブ酸リチウム基板を用いる場合、または、圧電層14aおよび14bとして、163°回転Yカットタンタル酸リチウム基板を用いる場合を示している。
【0027】
図2に示すように、圧電層14aの結晶方位の+X軸方向と圧電層14bの結晶方位の+X軸方向とはほぼ同じ方向であり、X方向である。圧電層14aでは、+Y軸方向および+Z軸方向を破線矢印のように、それぞれ-Z方向および+Y方向とする。X軸を中心に、Y軸およびZ軸を+Z軸方向から+Y軸方向の方にθ=163°回転させる。タンタル酸リチウム基板およびニオブ酸リチウム基板は、三方晶系イルメナイトに類似の結晶構造を有し、+Z軸方向が結晶方位のc軸方向に対応する。+Z軸方向が自発分極の方向となる。このとき、圧電層14aの上面および下面はそれぞれ-面および+面と称し、分極方向52aを下向きに図示する。
【0028】
圧電層14bでは、+Y軸方向および+Z軸方向を破線矢印のように、それぞれ+Z方向および-Y方向とする。X軸を中心に、Y軸およびZ軸を+Z軸方向から+Y軸方向の方にθ=163°回転させる。このときの+Z軸方向が結晶方位のc軸方向に対応する。+Z軸方向が自発分極の方向となる。このとき、圧電層14bの上面および下面はそれぞれ+面および-面と称し、分極方向52bを上向きに図示する。圧電層14aおよび14bの自発分極の方向は、X線回折法を用い、Z軸方向を同定することで、確認できる。
【0029】
自発分極は電界が加わらない状態で分極している状態である。タンタル酸リチウムは、LiおよびTaが陽イオンとなり、Oが陰イオンとなる。Li、TaおよびOの原子が電荷を打ち消すように位置していれば、自発分極は生じない。これらの原子が電荷を打ち消す位置よりずれているため、自発分極が生じる。ニオブ酸リチウムにおいても同様に自発分極が生じる。
【0030】
圧電層14として、163°回転ニオブ酸リチウム基板またはタンタル酸リチウム基板を用いることで、圧電層14に励振される弾性波の主モードは厚みすべり振動となり、圧電層14内に厚み縦振動の弾性波はほとんど励振されない。これにより、厚み縦振動に起因するスプリアスを抑制できる。
【0031】
圧電層14aの+X軸方向と圧電層14bの+X軸方向とを同じ方向とすることで、圧電層14aの自発分極の方向(+Z軸方向)と圧電層14bの自発分極の方向(+Z軸方向)は、略反対方向となる。例えば、圧電層14aの+X軸方向と圧電層14bのX軸方向とが異なると、圧電層14aの自発分極の方向(+Z軸方向)と圧電層14bの自発分極の方向(+Z軸方向)は、反対方向とはならない。圧電層14aの自発分極の方向(+Z軸方向)と圧電層14bの自発分極の方向(+Z軸の方向)とが反対方向(略反対方向)とは、圧電層14aの+X軸方向と圧電層14bの+X軸方向とのなす角度が5°以下の範囲内である程度を許容する。
【0032】
[シミュレーション1]
まず、基本波を主モードとする共振器A1~A3と第2高調波を主モードとする共振器B1~B3について、異方性を考慮したモデルで2次元有限要素法を用いシミュレーションを行った。共振器A1~A3、B1およびB2は比較例に相当し、共振器B3は実施例に相当する。
【0033】
図3(a)から
図3(c)は、共振器A1~A3における圧電薄膜共振器の模式図である。
図3(a)の右図は、圧電層14の厚さ方向(Z方向)における厚みすべり振動の変位を示している。下部電極12の下面をZ=0としている。
【0034】
図3(a)に示すように、共振器A1では、圧電層14は分極方向52が1方向の1つの圧電層である。温度補償膜は設けられていない。下部電極12、圧電層14および上部電極16の厚さはそれぞれT12、T14およびT16である。右図のように、基本波では下部電極12の下面の変位が0のとき、上部電極16の上面の変位がEとなる。これにより、下部電極12と上部電極16との電位が異なり、下部電極12と上部電極16との間に所定の周波数の交流信号を加えると圧電層14に基本波が励振する。一方、第2高調波では下部電極12と上部電極16との電位がほぼ同じとなる。よって、圧電層14に第2高調波はほとんど励振されない。下部電極12、圧電層14および上部電極16の厚さの合計T12+T14+T16は基本波の波長のほぼ1/2となる。
【0035】
図3(b)に示すように、共振器A2では、圧電層14は圧電層14aと14bとを備えており、圧電層14aの分極方向52aと圧電層14bの分極方向52bは同じ方向である。温度補償膜18は、圧電層14aと14bとの間に設けられている。下部電極12、圧電層14a、14b、温度補償膜18および上部電極16の厚さはそれぞれT12、T14a、T14b、T18およびT16である。
【0036】
図3(c)に示すように、共振器A3では、圧電層14は分極方向52が1方向の1つの圧電層である。温度補償膜18aは、下部電極12と圧電層14との間に設けられ、温度補償膜18bは、圧電層14と上部電極16との間に設けられている。下部電極12、圧電層14、温度補償膜18a、18bおよび上部電極16の厚さはそれぞれT12、T14、T18a、T18bおよびT16である。
【0037】
図4(a)から
図4(c)は、共振器B1~B3における圧電薄膜共振器の模式図である。
図4(a)の右図は、圧電層14の厚さ方向(Z方向)における厚みすべり振動の変位Eを示している。
【0038】
図4(a)に示すように、共振器B1では、圧電層14は、積層された圧電層14aと14bとを備えている。圧電層14aの分極方向52aは下向き、圧電層14bの分極方向52bは上向きである。
図4(a)の右図のように、第2高調波では下部電極12の下面の変位が基準の0のとき、上部電極16の上面の変位も0となる。圧電層14aと14bとの界面の変位はEとなる。圧電層14aの分極方向52aと圧電層14bの分極方向52bとは逆方向である。このため、下部電極12に印加した電位の極性(正負)に対する変位の向きと、下部電極16に印加した電位の極性(正負)に対する変位の向きと、が逆になる。例えば、上部電極16がプラス電位、下部電極12がマイナス電位の場合、圧電層14aでは、マイナス電位側で変位が0側に、圧電層14bでは、プラス電位側で変位が0側にある。つまり、下部電極12と上部電極16との間に所定の周波数の交流信号を加えると第2高調波が励振する。一方、
図4(a)の左図の構造において基本波を励振するためには、圧電層14bにおける上部電極16側の部分と圧電層14aにおける下部電極12側の部分とで変位を逆にすることになる(例えば
図3(a)の右図のように、上部電極16側の部分において変位をEとし、圧電層14aにおける下部電極12側の部分において変位を0とする)。このような変位を実現するには、上部電極16の電位の極性と下部電極12の電位の極性とを同じにすることになる。このように、上部電極16と下部電極12とを同じ電位の極性にすると、圧電層14に電界が発生せずに基本波はほとんど励振されない。下部電極12、圧電層14a、14bおよび上部電極16の合計の厚さT12+T14a+T14b+T16はほぼ第2高調波の波長となる。
【0039】
図4(b)に示すように、共振器B2では、温度補償膜18は、圧電層14aと14bとの間に設けられている。
図4(c)に示すように、共振器B3では、温度補償膜18aは、下部電極12と圧電層14aとの間に設けられ、温度補償膜18bは、圧電層14bと上部電極16との間に設けられている。
【0040】
共振器A1~A3およびB1~B3のシミュレーション1の条件は以下である。
圧電層14、14a、14b:163°回転Yカットニオブ酸リチウム基板
下部電極12、上部電極16:アルミニウム膜
温度補償膜18、18aおよび18b:酸化シリコン(SiO2)膜
【0041】
表1は、共振器A1~A3およびB3~B3における各層の厚さ、共振周波数fr、反共振周波数fa、電気機械結合係数k
2および共振周波数frにおける温度速度係数TCV(Temperature Coefficient of Velocity)を示す。共振器A1~A3の共振周波数frおよび反共振周波数faは基本波の共振周波数および反共振周波数であり、共振器B1~B3の共振周波数frおよび反共振周波数faは第2高調波の共振周波数および反共振周波数である。
【表1】
【0042】
圧電薄膜共振器の温度周波数係数TCF(Temperature Coefficient of Frequency)は、温度速度係数TCVによる弾性波の音速の温度依存性と、温度による圧電層14の厚さの変化と、により定まる。温度周波数係数TCFは温度速度係数TCVのみによって決まるわけではないが、温度速度係数TCVを0に近づけることにより、温度周波数係数TCFを0に近づけることができる。
【0043】
表1に示すように、共振器B1~B3におけるT12、T16、T14、T14aおよびT14bは、共振器A1~A3におけるT12、T16、T14、T14aおよびT14bのそれぞれ倍である。共振器B1~B3と対応する共振器A1~A3とでは、共振周波数frはほぼ同じであり、反共振周波数faはほぼ同じである。
【0044】
共振器A1~A3では、共振周波数frおよび反共振周波数faの高い圧電薄膜共振器を作製するためには、圧電層14の厚さT14を薄くすることになる。しかし、圧電層14と支持基板との間に空隙34が存在するため、圧電層14を薄くすると、圧電層14が破壊されやすくなる。また、圧電層14の厚さの製造ばらつきにより、共振周波数frおよび反共振周波数fa等の特性がばらつきやすくなる。共振器B1~B3では、共振器A1~A3と同じ共振周波数frおよび反共振周波数faを有する圧電薄膜共振器を作製する場合に、圧電層14の厚さを共振器A1~A3の約2倍にできる。これにより、圧電層14の破壊を抑制できる。また、共振周波数frおよび反共振周波数fa等の特性のばらつきを抑制できる。
【0045】
図5(a)から
図5(c)は、それぞれ共振器A1~A3における厚さ方向の位置Zに対する規格化弾性ひずみエネルギーを示す図である。
図6(a)から
図6(c)は、それぞれ共振器B1~B3における厚さ方向の位置Zに対する規格化弾性ひずみエネルギーを示す図である。共振器A1~A3では、基本波の共振周波数における規格化弾性ひずみエネルギーを示し、共振器B1~B3では、第2高調波の共振周波数における規格化弾性ひずみエネルギーを示す。規格化弾性ひずみエネルギーは、最大の弾性ひずみエネルギーを1とするように規格化された弾性ひずみエネルギーである。規格化弾性ひずみエネルギーはZに対し階段状に変化している。これは、有限要素法のメッシュに起因するものであり、実際の規格化弾性ひずみエネルギーはZに対し滑らかに変化していると考えられる。
【0046】
図5(a)に示すように、共振器A1では、下部電極12および上部電極16における弾性ひずみエネルギーは小さく、圧電層14のZ方向における中央において弾性ひずみエネルギーが最大となる。表1のように、共振器A1では電気機械結合係数k
2は大きいものの、温度速度係数TCVの絶対値が大きい。
【0047】
図5(b)に示すように、共振器A2では、温度補償膜18は弾性ひずみエネルギーの大きい箇所に設けられ、温度補償膜18における弾性ひずみエネルギーが大きい。表1のように、共振器A2では温度速度係数TCVの絶対値は共振器A1より小さくなる。電気機械結合係数k
2は共振器A1より小さい。
【0048】
図5(c)に示すように、共振器A3では、温度補償膜18aおよび18bは弾性ひずみエネルギーの小さい箇所に設けられ、温度補償膜18aおよび18bにおける弾性ひずみエネルギーは共振器A2ほど大きくない。表1のように、共振器A3では温度速度係数TCVの絶対値は共振器A1より小さくなるものの共振器A2よりは大きい。電気機械結合係数k
2は共振器A2と同程度である。
【0049】
このように、共振器A1~A3では、共振器A2のように、温度補償膜18を圧電層14aと14bの間に設けることで、温度速度係数の絶対値を小さくできる。これは、共振器A2では、温度補償膜18が弾性ひずみエネルギーの大きい箇所に設けられているためと考えられる。
【0050】
図6(a)に示すように、共振器B1では、下部電極12および上部電極16における弾性ひずみエネルギーは小さく、かつ圧電層14aと14bとの間において弾性ひずみエネルギーは小さい。圧電層14aのZ方向における中央および圧電層14bのZ方向における中央において弾性ひずみエネルギーが最大となる。表1のように、共振器B1では電気機械結合係数k
2は大きいものの、温度速度係数TCVの絶対値が大きい。
【0051】
図6(b)に示すように、共振器B2では、温度補償膜18は弾性ひずみエネルギーの小さい箇所に設けられ、温度補償膜18における弾性ひずみエネルギーが小さい。表1のように、共振器B2では温度速度係数TCVの絶対値は共振器B1より小さくなるものの共振器A2ほどではない。電気機械結合係数k
2は共振器B1より小さい。
【0052】
図6(c)に示すように、共振器B3では、温度補償膜18aおよび18bは共振器B2の温度補償膜18より弾性ひずみエネルギーの大きい箇所に設けられ、温度補償膜18aおよび18bにおける弾性ひずみエネルギーは共振器B2より大きい。表1のように、共振器B3では温度速度係数TCVの絶対値は共振器B2より小さくなる。電気機械結合係数k
2は共振器B2より若干小さい。
【0053】
このように、共振器B1~B3では、共振器B3のように、温度補償膜18aおよび18bを下部電極12と圧電層14aとの間および圧電層14bと上部電極16との間に設けることで、温度速度係数の絶対値を小さくできる。これは、共振器B3では、共振器B2に比べ温度補償膜18aおよび18bが弾性ひずみエネルギーの大きい箇所に設けられているためと考えられる。
【0054】
[シミュレーション2]
共振器A2、A3、B2およびB3について、温度補償膜18、18aおよび18bの厚さT18、T18aおよびT18bを変え、温度速度係数TCVおよび電気機械結合係数k2をシミュレーションした。シミュレーション2では、圧電層14、14aおよび14bとして、165°回転Yカットニオブ酸リチウム基板と165°回転Yカットタンタル酸リチウム基板を用いた。その他のシミュレーション条件はシミュレーション1と同じである。共振器A2およびA3では、基本波の共振周波数における温度速度係数TCVおよび電気機械結合係数k2をシミュレーションし、共振器B2およびB3では、第2高調波の共振周波数における温度速度係数TCVおよび電気機械結合係数k2をシミュレーションした。
【0055】
図7(a)および
図7(b)は、シミュレーション2における共振器A2およびB2の厚さT18に対する温度速度係数TCVおよび電気機械結合係数k
2をそれぞれ示す図である。
図8(a)および
図8(b)は、シミュレーション2における共振器A3およびB3の厚さT18aおよびT18bに対する温度速度係数TCVおよび電気機械結合係数k
2をそれぞれ示す図である。
図7(a)および
図7(b)において、厚さT18が0のとき、共振器A2およびB2はそれぞれ共振器A1およびB1に相当する。
図8(a)および
図8(b)において、厚さT18aおよびT18bが0のとき、共振器A3およびB3はそれぞれ共振器A1およびB1に相当する。LNは圧電層14、14aおよび14bが165°回転Yカットニオブ酸リチウム基板であることを示し、LTは圧電層14、14aおよび14bが165°回転Yカットタンタル酸リチウム基板であることを示す。
【0056】
図7(a)に示すように、共振器A2では、LNおよびLTともに厚さT18を大きくすると温度速度係数TCVは大きくなり負から正に変化し、厚さT18が10nm付近で温度速度係数TCVがほぼ0となる。共振器B2では、LTは厚さT18を大きくすると温度速度係数TCVは小さくなり、LNは厚さT18を大きくすると温度速度係数TCVは大きくなる。LTよびLTのいずれにおいても厚さT18を大きくしても温度速度係数は0とはならない。
【0057】
図7(b)に示すように、共振器A2およびB2ともに、厚さT18が大きくなると電気機械結合係数k
2が小さくなる。厚さT18が同じときには、共振器B2の方が共振器A2より電気機械結合係数k
2が大きいが、共振器B2の圧電層の厚さは共振器A2の圧電層の厚さの約2倍であり、共振器A2とB2とで電気機械結合係数k
2を単純に比較することができない。
【0058】
図7(a)および
図7(b)のように、基本波を主モードとする共振器では、共振器A2のように、圧電層14aと14bとの間に温度補償膜18を設けることで、温度速度係数TCVの絶対値を小さくすることができる。第2高調波を主モードとする共振器では、共振器B2のように、圧電層14aと14bとの間に温度補償膜18を設けても、温度速度係数TCVの絶対値を0に近づけることができない。
【0059】
これは、
図5(b)のように、共振器A2では、温度補償膜18を弾性ひずみエネルギーの大きい箇所に設けているのに対し、
図6(b)のように、共振器B2では、温度補償膜18を弾性ひずみエネルギーの小さい箇所に設けているためと考えられる。このように、第2高調波を主モードとする共振器B2では、圧電層14aと14bとの間の箇所の弾性ひずみエネルギーが小さく、温度補償効果が小さいことは、発明者らがシミュレーションを行うことにより初めて得られた知見である。
【0060】
図8(a)に示すように、共振器A3およびB3ともに、LNにおいて厚さT18aおよび18bを大きくすると温度速度係数TCVは大きくなり負から正に変化する。LTにおいて厚さT18aおよび18bを大きくすると温度速度係数TCVは小さくなるがその後大きくなり負から正に変化する。共振器A3では、LNおよびLTともに厚さT18aおよびT18bが30nm~40nmにおいて温度速度係数TCVがほぼ0となる。共振器B3では、LNおよびLTともに厚さT18aおよびT18bが20nmにおいて温度速度係数TCVがほぼ0となる。
【0061】
図8(b)に示すように、共振器A3およびB3ともに、厚さT18aおよび18bを大きくすると電気機械結合係数k
2が小さくなる。厚さT18aおよびT18bが同じとき、共振器B3の電気機械結合係数k
2は共振器A3の電気機械結合係数k
2より大きくなる。共振器A3では、温度速度係数TCVが0となる厚さT18aおよびT18bである30nm~40nm(
図8(a)参照)における電気機械結合係数k
2は5%以下である。共振器B3では、温度速度係数TCVが0となる厚さT18aおよびT18bである20nm(
図8(a)参照)における電気機械結合係数k
2は10%以上である。このように、共振器B3では共振器A3に比べ、温度速度係数TCVが0となる厚さT18aおよびT18bにおける電気機械結合係数k
2が大きい。
【0062】
図8(a)および
図8(b)のように、基本波を主モードとする共振器では、共振器A3のように、温度補償膜18aおよび18bを設けることで、温度速度係数TCVの絶対値を小さくしようとすると、電気機械結合係数k
2が小さくなってしまう。一方、第2高調波を主モードとする共振器では、共振器B3のように、下部電極12と圧電層14aとの間に温度補償膜18aを設け、圧電層14bと上部電極16との間に温度補償膜18bを設けることで、電気機械結合係数k
2の低下を抑制しかつ温度速度係数TCVの絶対値を小さくすることができる。
【0063】
これは、
図6(a)から
図6(c)のように、第2高調波を主モードとする共振器B1~B3では、圧電層14aと14bとの間では弾性ひずみエネルギーが最も小さくなる。下部電極12の下面および上部電極16の上面では弾性ひずみエネルギーが最も小さくなるものの、下部電極12と圧電層14aとの間、および圧電層14bと上部電極16との間では、下部電極12の厚さT12および上部電極16の厚さT16に対応する分弾性ひずみエネルギーが大きくなる。このため、共振器B3では、温度補償膜18aおよび18bを設けることで、共振器B2に比べ温度速度係数TCVの絶対値を小さくできるものと考えられる。このように、第2高調波を主モードとする共振器における下部電極12と圧電層14aとの間、および圧電層14bと上部電極16との間の箇所では、圧電層14aと14bとの間の箇所より弾性ひずみエネルギーが大きく、温度補償膜18aおよび18bを設けることで温度補償効果が大きくなることは、発明者らがシミュレーションを行うことにより初めて得られた知見である。
【0064】
図6(a)から
図6(c)のように、圧電層14aのZ方向における中央および圧電層14bのZ方向における中央において弾性ひずみエネルギーが最大となる。よって、圧電層14aのZ方向における中央および圧電層14bのZ方向における中央に温度補償膜を設けることで、圧電薄膜共振器の温度特性を向上できると考えられる。しかしながら、この場合には、圧電層14aおよび14bを4層積層することになり、製造工程の増大およびコストの増大となる。
【0065】
実施例1によれば、圧電層14a(第1圧電層)と圧電層14b(第2圧電層)とは、積層されている。圧電層14bは圧電層14aの自発分極の方向と略反対方向の自発分極の方向を有する。下部電極12(第1電極)は、圧電層14aにおける圧電層14bに対し反対側に設けられている。上部電極16(第2電極)は、圧電層14bにおける圧電層14aに対し反対側に設けられ、下部電極12とで圧電層14aの少なくとも一部および圧電層14bの少なくとも一部を挟む。温度補償膜18aおよび18b(絶縁膜)は、圧電層14aと下部電極12との間および圧電層14bと上部電極16との間に設けられている。これにより、共振器B3のように、温度速度係数TCVを小さくし、圧電薄膜共振器の温度特性を向上できる。さらに、圧電層14aおよび14bを2層積層すればよいため、圧電層を4層積層するより製造工程の削減およびコスト削減が可能となる。
【0066】
温度補償膜18aおよび18bは、少なくとも一方が設けられていればよい。温度補償膜18aおよび18bの両方設けることで、温度補償効果をより得ることができる。
【0067】
圧電層14aおよび14bは、158°以上かつ168°以下回転Yカットニオブ酸リチウム基板、または、158°以上かつ168°以下回転Yカットタンタル酸リチウム基板である。これにより、基本波モードに起因するスプリアスを抑制できる。また、シミュレーション1および2の結果を適用することができる。
【0068】
圧電層14aの自発分極の方向と圧電層14bの自発分極の方向とを反対方向(略反対方向)とするため、圧電層14aにおける結晶方位のX軸方向と、圧電層14bにおける結晶方位のX軸方向と、のなす角度は5°以下であることが好ましく、2°以下であることがより好ましい。
【0069】
温度補償膜18aおよび18bは、酸化シリコン膜またはフッ素を含む酸化シリコン膜である。すなわち、温度補償膜18aおよび18bは、酸化シリコンを主成分とする。温度補償膜18aおよび18bが酸化シリコンを主成分とするとは、温度補償膜18aおよび18bが意図的または意図せず添加された不純物(例えばフッ素)を含むことを許容する。温度補償膜18aおよび18b内の酸素濃度とシリコン濃度との合計は、例えば50原子%以上、80原子%以上または90原子%以上であり、酸素濃度およびシリコン濃度は、例えば各々10原子%以上または20原子%以上である。
【0070】
図8(a)のように、厚さT18aおよびT18bが10nm以上のとき、温度速度係数TCVは厚さT18aおよびT18bに対し大きく依存する。圧電層14aおよび14bの合計の厚さT14a+T14bは300nmである。よって、温度補償膜18aまたは18bの厚さT18aまたはT18bは、圧電層14aおよび14bの合計の厚さT14a+T14bの1/30倍以上が好ましく、1/20倍以上がより好ましく、1/15倍以上がさらに好ましい。厚さT18aまたはT18bは、合計の厚さT14a+T14bの1/5倍以下が好ましい。これにより、
図8(b)のように、電気機械結合係数k
2の低下を抑制できる。温度補償膜18aまたは18bの両方を設ける場合には、温度補償膜18aおよび18bの合計の厚さT18a+T18bは、合計の厚さT14a+T14bの1/15倍以上が好ましく、1/10倍以上がより好ましい。厚さT18aまたはT18bは合計の厚さT14a+T14bの1/2.5倍以下が好ましい。
【0071】
圧電層14aの厚さT14aと圧電層14bの厚さT14bとが異なると、基本波モードの弾性波に起因するスプリアスが生じる。また、電気機械結合係数k2が低下する。よって、厚さT14aとT14bとは同じであることが好ましい。厚さT14aとT14bとが同じ(略同じ)とは、基本波モードの弾性波に起因するスプリアスが問題とならない程度の厚さT14aとT14bとの差を許容する。例えば2×|T14a-T14b|/(T14a+T14b)が0.1以下であればよい。
【0072】
圧電層14aと14bとは直接接合され、圧電層14aと14bとの界面は平坦面(例えば算術表面粗さRaは10nm以下)である。これにより、圧電層14に第2高調波が励振できる。
表2に示すように、共振器C2の厚さT14b+T14aは共振器C1の厚さT14a+T14bと同じであり、共振器C2の厚さの比T14b/T14aを共振器C1の比T14b/T14aより小さくしている。
このように、厚さの比T14b/T14aを1より小さくすることで、圧電層14aと14bとの間の箇所では弾性ひずみエネルギーが大きくなる。そこで、圧電層14aと14bとの間に温度補償膜18を設けることで、温度補償効果が大きくなる。これは、発明者らがシミュレーションを行うことにより初めて得られた知見である。
実施例2によれば、圧電層14bの厚さT14bは圧電層14aの厚さT14aと異なり、温度補償膜18(絶縁膜)は圧電層14aと14bとの間に設けられている。これにより、共振器C2のように、温度速度係数TCVを小さくし、圧電薄膜共振器の温度特性を向上できる。さらに、圧電層14aおよび14bを2層積層すればよいため、圧電層を4層積層するより製造工程の削減およびコスト削減が可能となる。
圧電層14aおよび14bは、158°以上かつ168°以下回転Yカットニオブ酸リチウム基板、または、158°以上かつ168°以下回転Yカットタンタル酸リチウム基板である。これにより、基本波モードに起因するスプリアスを抑制できる。また、シミュレーション3の結果を適用することができる。
圧電層14aの自発分極の方向と圧電層14bの自発分極の方向とを反対方向(略反対方向)とするため、圧電層14aにおける結晶方位のX軸方向と、圧電層14bにおける結晶方位のX軸方向と、のなす角度は5°以下であることが好ましく、2°以下であることがより好ましい。
温度補償膜18は、酸化シリコン膜またはフッ素を含む酸化シリコン膜である。すなわち、温度補償膜18は、酸化シリコンを主成分とする。温度補償膜18内の酸素濃度とシリコン濃度との合計は、例えば50原子%以上、80原子%以上または90原子%以上であり、酸素濃度およびシリコン濃度は、例えば各々10原子%以上または20原子%以上である。
厚さの比T14b/T14aが0.2付近では、厚さの比T14b/T14aを小さくしても温度速度係数TCVの絶対値はあまり変わらないのに対し、電気機械結合係数k2は小さくなる。よって、厚さの比T14b/T14aは0.2以上が好ましく、0.3以上がより好ましい。厚さの比T14b/T14aを0.5以上とすることで、電気機械結合係数k2の低下をより抑制できる。
実施例1、2およびそれらの変形例1のように、圧電薄膜共振器は、空隙34が弾性波を反射するFBARでもよい。実施例1および2の変形例2のように、圧電薄膜共振器は音響反射膜30が弾性波を反射するSMRでもよい。実施例1、2およびそれらの変形例では、第2高調波を主モードとする例を説明したが、偶数次モードを主モードとすればよい。共振領域50の平面形状が矩形の例を説明したが、共振領域50は、楕円形状または五角形状等の多角形状でもよい。