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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176369
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】制振構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
E04H9/02 301
E04H9/02 331D
E04H9/02 331E
E04H9/02 351
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088618
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】西谷 隆之
(72)【発明者】
【氏名】田中 初太郎
(72)【発明者】
【氏名】山岸 俊之
(72)【発明者】
【氏名】濱 智貴
(72)【発明者】
【氏名】牛坂 伸也
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 広大
【テーマコード(参考)】
2E139
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC08
2E139AC72
2E139BA04
2E139BA12
2E139BC02
2E139BD12
2E139BD16
2E139BD22
(57)【要約】
【課題】斜梁が設けられた建物の制振性能を向上できる制振構造を提供する。
【解決手段】複数の層を有し、水平梁21および柱22を備える柱梁架構2と、1階(一部の層間)に設けられ、軸方向が水平方向に対して斜めとなる斜め方向であり、下端部31が層間の下側の層における柱梁架構2に接合され、上端部32が層間の上側の層において柱梁架構2に接合される低剛性斜梁3と、低剛性斜梁3が設けられた層間に設けられる制振装置5と、を有し、低剛性斜梁3は、下端部31および上端部32の一方の端部がすべり支承4および転がり支承のいずれかを介して柱梁架構2と水平方向に相対移動可能に接合され、他方の端部が柱梁架構2と剛接合およびピン接合のいずれかで接合される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の層を有し、水平梁および柱を備える柱梁架構と、
一部の層間に設けられ、軸方向が水平方向に対して斜めとなる斜め方向であり、下端部が前記層間の下側の層における前記柱梁架構に接合され、上端部が前記層間の上側の層において前記柱梁架構に接合される低剛性斜梁と、
前記低剛性斜梁が設けられた前記層間に設けられる制振装置と、を有し、
前記低剛性斜梁は、下端部および上端部の一方の端部がすべり支承および転がり支承のいずれかを介して前記柱梁架構と水平方向に相対移動可能に接合され、他方の端部が前記柱梁架構と剛接合およびピン接合のいずれかで接合される制振構造。
【請求項2】
前記低剛性斜梁が設けられた前記層間の層間変形角が所定値を超えると前記低剛性斜梁の前記一方の端部と前記柱梁架構との相対変位を低減させるダンパーを有する請求項1に記載の制振構造。
【請求項3】
前記ダンパーは、前記層間変形角が所定値を超えると、前記低剛性斜梁の軸方向であり且つ前記低剛性斜梁の前記一方の端部と前記柱梁架構とが離れる方向の相対変位のみを低減させる請求項2に記載の制振構造。
【請求項4】
前記ダンパーは、前記低剛性斜梁の軸方向と同じ方向に延び、前記低剛性斜梁の前記一方の端部側と前記柱梁架構との間に設けられる鋼材ダンパーであり、
前記鋼材ダンパーと前記柱梁架構とは、ピン接合され、
前記鋼材ダンパーと前記低剛性斜梁の前記一方の端部側とは、前記層間変形角が所定値以下の場合に前記低剛性斜梁の軸方向の相対変位が可能であり、前記層間変形角が所定値を超えた場合に前記低剛性斜梁の軸方向であり且つ前記低剛性斜梁の前記一方の端部と前記柱梁架構とが近づく方向の相対変位を許容し、前記低剛性斜梁の軸方向であり且つ前記低剛性斜梁の前記一方の端部と前記柱梁架構とが離れる方向の相対変位を拘束するように接合される請求項3に記載の制振構造。
【請求項5】
前記層間変形角の所定値は、1/100radとする請求項2に記載の制振構造。
【請求項6】
前記低剛性斜梁の上には、観客席を設けるための段床が設けられる請求項1に記載の制振構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
各種スポーツや催し物などが行われるスタジアム、ホール、アリーナなどの建物で、階段状の観客席が設けられた段床を有する建物が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような建物には、斜梁(レイカー梁)が所定のスパンで設けられ、斜梁に沿って段床が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6833332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
斜梁が設けられる建物では、斜梁が耐震ブレースとして機能し、斜梁が設けられた架構の剛性が過大になったり、建物全体の剛性のバランスが悪くなったりする虞がある。これにより、地震時の応答せん断や、斜梁が設けられていない階の最大応答層間変形角が大きくなる虞がある。
【0005】
そこで、本発明は、斜梁が設けられた建物の制振性能を向上できる制振構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、複数の層を有し、水平梁および柱を備える柱梁架構と、一部の層間に設けられ、軸方向が水平方向に対して斜めとなる斜め方向であり、下端部が前記層間の下側の層における前記柱梁架構に接合され、上端部が前記層間の上側の層において前記柱梁架構に接合される低剛性斜梁と、前記低剛性斜梁が設けられた前記層間に設けられる制振装置と、を有し、前記低剛性斜梁は、下端部および上端部の一方の端部がすべり支承および転がり支承のいずれかを介して前記柱梁架構と水平方向に相対移動可能に接合され、他方の端部が前記柱梁架構と剛接合およびピン接合のいずれかで接合される。
【0007】
本発明では、低剛性斜梁は、一方の端部が柱梁架構と水平方向に相対変形可能であることにより、地震力を負担しない構成とすることができる。このため、例えば建物に観客席用の段床を設けるために斜梁を多数設ける場合でも、少なくとも一部の斜梁を低剛性斜梁とすることにより、多数の斜梁を設けることによって建物の剛性が過大になることを防止できる。低剛性斜梁が設けられる層間には、変形が集中するが、この層間に制振装置が設けられることにより、層間の地震エネルギーを効率的に吸収し、地震時の応答を低減できる。その結果、斜梁が設けられた建物の制振性能を向上できる。
【0008】
本発明に係る制振構造では、前記低剛性斜梁が設けられた前記層間の層間変形角が所定値を超えると前記低剛性斜梁の前記一方の端部と前記柱梁架構との相対変位を低減させるダンパーを有していてもよい。
【0009】
このような構成とすることにより、想定を超える地震動により低剛性斜梁が設けられた前記層間の層間変形角が所定値を超える場合には、ダンパーによって低剛性斜梁の前記一方の端部と柱梁架構との水平方向の相対変位が制限されるため、ダンパーおよび低剛性斜梁が地震動の水平力を負担して地震エネルギーを吸収することができる。
【0010】
本発明に係る制振構造では、前記ダンパーは、前記層間変形角が所定値を超えると、前記低剛性斜梁の軸方向であり且つ前記低剛性斜梁の前記一方の端部と前記柱梁架構とが離れる方向の相対変位のみを低減させるように構成されていてもよい。
【0011】
このような構成とすることにより、層間変形角が所定値を超えた場合には、低剛性斜梁の軸線方向でかつ低剛性斜梁の一方の端部と柱梁架構とが離れる方向の相対変位が制限されるため、ダンパーおよび低剛性斜梁が低剛性斜梁に作用する引張力を負担できる。
ダンパーが低剛性斜梁の一方の端部と柱梁架構とが近づく方向の相対変位を低減し、低剛性斜梁の一方の端部と柱梁架構とが近づく方向の相対変位が制限されると、ダンパーおよび低剛性斜梁が低剛性斜梁に作用する圧縮力を負担することになる。このような場合には、低剛性斜梁に柱梁架構から浮き上がる方向の力が作用する。本発明では、上述しているように層間変形角が所定値を超えた場合に、低剛性斜梁が引張力のみを負担するため、低剛性斜梁が柱梁架構から浮き上がることが防止される。これにより、例えば、低剛性斜梁の上の段床に設けられた観客席などの、低剛性斜梁の上の施設や設備の安全性を確保できる。
【0012】
本発明に係る制振構造では、前記ダンパーは、前記低剛性斜梁の軸方向と同じ方向に延び、前記低剛性斜梁の前記一方の端部側と前記柱梁架構との間に設けられる鋼材ダンパーであり、前記鋼材ダンパーと前記柱梁架構とは、ピン接合され、前記鋼材ダンパーと前記低剛性斜梁の前記一方の端部側とは、前記層間変形角が所定値以下の場合に前記低剛性斜梁の軸方向の相対変位が可能であり、前記層間変形角が所定値を超えた場合に前記低剛性斜梁の軸方向であり且つ前記低剛性斜梁の前記一方の端部と前記柱梁架構とが近づく方向の相対変位を許容し、前記低剛性斜梁の軸方向であり且つ前記低剛性斜梁の前記一方の端部と前記柱梁架構とが離れる方向の相対変位を拘束するように接合されていてもよい。
【0013】
このような構成とすることにより、層間変形角が所定値を超えた場合に、ダンパーおよび低剛性斜梁が低剛性斜梁に作用する引張力を負担する機構を容易に実現できる。
【0014】
本発明に係る制振構造では、前記層間変形角の所定値は、1/100radとしてもよい。
【0015】
このような構成とすることにより、レベル2以下の地震動ではダンパーが作用せず、レベル2を超える地震動ではダンパーが作用し、低剛性斜梁およびダンパーによって地震エネルギーを吸収することができる。
【0016】
本発明に係る制振構造では、前記低剛性斜梁の上には、観客席を設けるための段床が設けられていてもよい。
【0017】
このような構成とすることにより、観客席などを設けるために段床が設けられる建物の制振性能を向上できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、斜梁が設けられた建物の制振性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1実施形態による制振構造を示す鉛直断面図である。
図2】第2実施形態による制振構造を示す鉛直断面図である。
図3】実施形態の変形例による制振構造を示す鉛直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態による制振構造について、図1に基づいて説明する。
図1に示す本実施形態による制振構造1は、例えば、スタジアム、ホール、アリーナなどの階段状の観客席12が設けられた建物11に採用される。建物11は複数の階(層)を有し、複数の階に観客席が設けられている。本実施形態では、4つの階を有している。図1では、1階から4階を順番に符号111-114で示す。図1に示す符号14は、屋根である。
制振構造1は、水平梁21および柱22を備える柱梁架構2と、1階に設けられる低剛性斜梁3と、低剛性斜梁3と柱梁架構2との間に設けられるすべり支承4と、1階に設けられる制振装置5と、を有する。
【0021】
柱梁架構2は、建物11の1階から4階全体の水平梁21および柱22によって構築された架構である。柱梁架構2は、地盤に支持される。
【0022】
低剛性斜梁3は、軸線が水平方向に対して斜めとなる斜め方向に延びている。低剛性斜梁3の軸線が延びる斜め方向は、建物11の中央側(図1の左側)から外周側(図1の右側)に向かって下側から上側に向かう斜め方向である。低剛性斜梁3の軸線が延びる方向を軸線方向と表記する。
【0023】
低剛性斜梁3の下端部31(一方の端部)は、1階の水平梁211にすべり支承4を介して接合されている。低剛性斜梁3の下端部31と1階の水平梁211とは水平方向に相対変位可能である。低剛性斜梁3の上端部32(他方の端部)は、2階の水平梁212と柱22との接合部23に剛接合およびピン接合のいずれかで接合されている。低剛性斜梁3の上端部32と2階の水平梁212と柱22との接合部23とは、水平方向および鉛直方向の相対変位が拘束されている。1階の水平梁211とは、1階の床を支持する水平梁21を示し、2階の水平梁212とは、2階の床を支持する水平梁21を示している。
制振装置5は、オイルダンパーなどで1階の水平梁216と2階の水平梁212との間に壁状に設けられている。図1では、制振装置5の下側に位置し制振装置5が接続される1階の水平梁216は、上記の低剛性斜梁3の下端部31がすべり支承4を介して接合される1階の水平梁211よりもやや低い位置に設けられている。なお、制振装置5が接続される1階の水平梁216と他の1階の水平梁211の高さ関係は、上記以外であってもよい。
【0024】
低剛性斜梁3の上には段床13が設けられ、その上に階段状の観客席12が設けられる。本実施形態には、4階にも斜梁6の上の段床13に観客席12が設けられている。4階の斜梁6も建物11の中央側から外周側に向かって下側から上側に向かう斜め方向に延びている。
4階の斜梁6は、上端部および端部の両方が柱梁架構2に剛接合され、柱梁架構2との水平方向および鉛直方向の相対変位が拘束されている。
【0025】
次に、第1実施形態による制振構造の作用・効果について説明する。
本実施形態による制振構造では、低剛性斜梁3は、下端部31が柱梁架構と水平方向に相対変形可能であることにより、地震力を負担しない構成とすることができる。このため、例えば建物11に斜梁を多数設ける場合でも、少なくとも一部の斜梁を低剛性斜梁3とすることにより、多数の斜梁を設けることによって建物11の剛性が過大になることを防止できる。低剛性斜梁3を設ける層間には、地震動による変形が集中するが、この層間に制振装置5が設けられることにより、制振装置5によって地震エネルギーを効率的に吸収し、地震時の応答を低減できる。その結果、斜梁が設けられる建物11の制振性能を向上できる。本実施形態では、観客席12を設けるために段床13が設けられる建物11の制振性能を向上でき、観客席12の安全性を確保できる。
【0026】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。上述の第1実施形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、第1実施形態と異なる構成について説明する。
図2に示すように、第2実施形態による制振構造1Bでは、低剛性斜梁3の下部側と、1階の水平梁211との間にダンパー7が設けられている。ダンパー7は、低剛性斜梁3が設けられた層間(1階部分)の層間変形角が所定値を超えると、低剛性斜梁3の下端部31と1階の水平梁211との相対変位を低減させる。本実施形態では、上記の層間変形角の所定値を1/100radに設定している。また、本実施形態のダンパー7は、層間変形角が所定値を超えると、低剛性斜梁3の軸方向であり且つ低剛性斜梁3の下端部31と1階の水平梁211とが離れる方向の相対変位のみを低減させるように構成されている。
【0027】
ダンパー7は、鋼材ダンパーである。ダンパー7は、テンションロッド71と、ギャップ装置72と、を有する。ギャップ装置72は、層間変形角が所定値を超えた場合にテンションロッド71に力を作用させる装置である。
【0028】
テンションロッド71の軸方向の一方の端部711は、1階の水平梁211に低剛性斜梁3の下端部31の近傍においてピン接合されている。テンションロッド71の軸方向の他方の端部712側は、低剛性斜梁3の軸方向の中間部に、ギャップ装置72を介して接合される。テンションロッド71の軸方向と、低剛性斜梁3の軸方向とは平行である。
【0029】
ギャップ装置72は、筒状部721と、固定部722と、拡径部材723と、を有する。
筒状部721は、テンションロッド71と同軸に配置され、テンションロッド71の他方の端部712側が挿通される。筒状部721に挿通されたテンションロッド71と、筒状部721とは、軸方向に相対変位可能である。
筒状部721は、筒状部721を低剛性斜梁3の軸方向の中間部に固定する。筒状部721は、低剛性斜梁3と平行に固定される。
拡径部材723は、テンションロッド71の他方の端部712近傍に取り付けられる。筒状部721の内径よりも径が大きく、筒状部721を通り抜け不可能である。拡径部材723は、テンションロッド71に挿通された筒状部721よりもテンションロッド71の軸方向の他方側に位置している。テンションロッド71は、筒状部721に対して軸方向の一方側に移動し、拡径部材723が筒状部721の軸方向の他方側の端面と接触すると、筒状部721に対してさらに軸方向の一方側に移動することが不可能となる。
【0030】
ダンパー7を設置する初期状態では、テンションロッド71の軸方向の他方側が筒状部721よりも軸方向の他方側に突出し、筒状部721と拡径部材723とは間隔をあけて配置される。筒状部721と拡径部材723との間隔は、地震動により、低剛性斜梁3の下端部31が1階の水平梁211に対して建物11の外側(図2の右方向)に向かう方向に移動するように低剛性斜梁3と1階の水平梁211とが相対変位し、建物11の1階部分の層間変形角が所定値となった際に筒状部721と拡径部材723とが接触するように設定されている。
【0031】
これにより、建物11の1階部分の層間変形角が所定値を超えると、低剛性斜梁3と1階の水平梁211との上記の方向の相対変位が拘束される。上記の方向とは、低剛性斜梁3の下端部31が1階の水平梁211に対して建物11の外側に向かう方向である。低剛性斜梁3と1階の水平梁211との上記の方向の相対変位が拘束されると、低剛性斜梁3と1階の水平梁211との更に上記の方向の相対変位しようとすると、テンションロッド71に引張力が作用し、低剛性斜梁3にも引張力が作用する。すなわち、層間変形角が所定値を超えた場合には、ダンパー7および低剛性斜梁3が地震動により低剛性斜梁3に作用する引張力を負担できる。
テンションロッド71は、下端部が1階の水平梁211にピン接合され、上端部が低剛性斜梁3と平行な筒状部721に挿通されていることにより、低剛性斜梁3と1階の水平梁211とが相対変位しても低剛性斜梁3と平行な状態が維持される。
【0032】
テンションロッド71の一方の端部711と筒状部721とは、十分に離れており、地震動により、低剛性斜梁3の下端部31が1階の水平梁211に対して建物11の内側(図2の左方向)に向かう方向に移動するように低剛性斜梁3と1階の水平梁211とが相対変位しても、筒状部721がテンションロッド71の一方の端部711に達しないように設定されている。
これにより、地震動により低剛性斜梁3と1階の水平梁211とが、低剛性斜梁3の下端部31が1階の水平梁211に対して建物11の内側に向かう方向に移動する相対変位しても、ダンパー7に地震動が作用せず、低剛性斜梁3にも地震動が作用しない。
低剛性斜梁3の下端部31が1階の水平梁211に固定されている場合、低剛性斜梁3の下端部31が1階の水平梁211に対して建物11の内側に向かう方向に移動する相対変位が生じると、低剛性斜梁3に圧縮力が作用することになる。本実施形態では、低剛性斜梁3の下端部31が1階の水平梁211に固定されておらず、地震動により低剛性斜梁3と1階の水平梁211とが、低剛性斜梁3の下端部31が1階の水平梁211に対して建物11の内側に向かう方向に移動する相対変位しても、ダンパー7に地震動が作用しないことにより、低剛性斜梁3には、圧縮力が作用しない。
【0033】
上記の第2実施形態による制振構造1Bでは、想定を超える地震動により低剛性斜梁3が設けられた層間の層間変形角が所定値を超える場合には、ダンパー7によって低剛性斜梁3と1階の水平梁211との水平方向の相対変位が制限されるため、ダンパー7および低剛性斜梁3が地震動の水平力を負担して地震エネルギーを吸収することができる。
【0034】
また、第2実施形態による制振構造1Bでは、層間変形角が所定値を超えた場合に、ダンパー7および低剛性斜梁3が地震動により低剛性斜梁3に作用する引張力のみを負担し、地震動により低剛性斜梁3に作用する圧縮力は負担しないように構成されている。
ダンパー7および低剛性斜梁3が低剛性斜梁3に作用する圧縮力を負担ように設定されると、低剛性斜梁3に柱梁架構2から浮き上がる方向の力が作用することになる。第2実施形態では、上述しているように層間変形角が所定値を超えた場合に、低剛性斜梁3が引張力のみを負担するため、低剛性斜梁3が柱梁架構2から浮き上がることが防止される。これにより、低剛性斜梁3の上の段床13に設けられた観客席12の安全性を確保できる。
【0035】
上記の第2実施形態による制振構造1Bでは、層間変形角の所定値を1/100radに設定している。
これにより、レベル2以下の地震動ではダンパー7が作用せず、レベル2を超える地震動ではダンパー7が作用し、低剛性斜梁3およびダンパー7によって地震エネルギーを吸収することができる。また、応答変形を修復可能な1/80rad以下に低減できる。
【0036】
以上、本発明による制振構造の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、低剛性斜梁3の下端部31と柱梁架構2との間にすべり支承4が設けられているが、すべり支承4に代わって転がり支承が設けられ、転がり支承を介して低剛性斜梁3の下端部31が柱梁架構2と水平方向に相対移動可能に接合されていてもよい。
上記の実施形態では、低剛性斜梁3の上端部32は、2階の水平梁212と柱22との接合部23に剛接合およびピン接合のいずれかで接合されているが、低剛性斜梁3の上端部32が接合される柱梁架構2の部位は、水平梁21と柱22との接合部23以外であってもよい。
上記の実施形態では、低剛性斜梁3の下端部31と柱梁架構2とがすべり支承4を介して水平方向に相対移動可能に接合され、低剛性斜梁3の上端部32と柱梁架構2とが剛接合およびピン接合のいずれかで接合されている。これに対し、低剛性斜梁3の上端部32と柱梁架構2とがすべり支承4および転がり支承のいずれかを介して水平方向に相対移動可能に接合され、低剛性斜梁3の下端部31と柱梁架構2とが剛接合およびピン接合のいずれかで接合されていてもよい。
【0037】
上記の実施形態では、柱梁架構2に設けられる制振装置5は、壁状に設けられているが、図3に示す制振装置5Cのように、ブレース状に設けられていてもよい。
上記の実施形態では、低剛性斜梁3を1階に設けているが、1階以外の階に設けられていてもよいし、全階を除く複数の階に設けられていてもよい。
低剛性斜梁3を設ける層間に地震動による変形をより集中させるために、低剛性斜梁3を設ける層間にブレース等を設けて層間の剛性を高めてもよい。
【0038】
上記の第2実施形態では、層間変形角が所定値を超えた場合に、ダンパー7および低剛性斜梁3が地震動により低剛性斜梁3に作用する引張力のみを負担し、地震動により低剛性斜梁3に作用する圧縮力は負担しないように構成されているが、圧縮力も負担するように構成されていてもよい。
上記の第2実施形態では、上記の層間変形角の所定値を1/100radに設定しているが、任意の値に設定してよい。
【0039】
2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable DevelopmentGoals:SDGs)」がある。本実施形態に係る制振構造は、このSDGsの17の目標のうち、例えば「11.住み続けられるまちづくりを」の目標などの達成に貢献し得る。
【符号の説明】
【0040】
1,1B 制振構造
2 柱梁架構
3 低剛性斜梁
4 すべり支承
5,5C 制振装置
6 斜梁
12 観客席
13 段床
21,211,212,216 水平梁
22 柱
31 下端部(一方の端部)
32 上端部(他方の端部)
図1
図2
図3