IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 清水建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-制振構造 図1
  • 特開-制振構造 図2
  • 特開-制振構造 図3
  • 特開-制振構造 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176371
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】制振構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
E04H9/02 351
E04H9/02 321C
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088621
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】西谷 隆之
(72)【発明者】
【氏名】兼光 知巳
(72)【発明者】
【氏名】牛坂 伸也
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 充
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 広大
【テーマコード(参考)】
2E139
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AA05
2E139AB01
2E139AC08
2E139AC53
2E139AD01
2E139BA12
2E139BA19
2E139BA24
2E139BD33
2E139BD34
2E139BD46
2E139CA02
2E139CA11
2E139CA21
2E139CB08
2E139CC08
(57)【要約】
【課題】温度変化によって生じる応力および地震時の振動を低減できる制振構造を提供する。
【解決手段】下部構造体2と、下部構造体2と連結されて下部構造体2に支持される屋根部3と、下部構造体2と屋根部3との連結部4に設けられる第1制振装置5と、下部構造体2と屋根部3との連結部4に設けられるばね装置6と、下部構造体2に設けられる第2制振装置7と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造部と、
前記下部構造部と連結されて前記下部構造部に支持される屋根部と、
前記下部構造部と前記屋根部との連結部に設けられる第1制振装置と、
前記下部構造部と前記屋根部との連結部に設けられるばね装置と、
前記下部構造部に設けられる第2制振装置と、を有する制振構造。
【請求項2】
前記下部構造部は、複数の層を有し、
前記複数の層の一部の層を他の層よりも柔構造とするとともに、前記一部の層に前記第2制振装置を設ける請求項1に記載の制振構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
各種スポーツや催し物などが行われるスタジアム、アリーナ、ホールなどの大空間を構築する建物で、下部構造体が大スパンで屋根を支持する建物が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-073925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
大スパンで支持される屋根が温度変化によって伸縮すると、下部構造体の柱や梁に大きな応力が生じるという問題がある。
また、大スパンで支持される屋根は、下部構造体と比べて重量が小さいため、地震が生じると、下部構造体よりも大きく変位する。これにより、屋根の応答加速度、応答せん断力が大きくなるため、下部構造体に大きな力が作用する。耐震性を向上させるためには、下部構造体に多数の制振装置を設置することが考えられる。しかしながら、スタジアムなどの建物は大空間を構築し、スパン数が少ないため、制振装置を設置する箇所が限られてしまう。更に、下部構造体に多数の制振装置を設置すると、動線計画などに支障が生じるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、温度変化によって生じる応力および地震時の振動を低減できる制振構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る制振構造は、下部構造部と、前記下部構造部と連結されて前記下部構造部に支持される屋根部と、前記下部構造部と前記屋根部との連結部に設けられる第1制振装置と、前記下部構造部と前記屋根部との連結部に設けられるばね装置と、前記下部構造部に設けられる第2制振装置と、を有する。
【0007】
本発明では、下部構造部と屋根部との連結部にばね装置が設けられることにより、屋根部が温度変化によって伸縮した際の変形をばね装置が吸収できる。このため、温度変化による屋根部の収縮によって下部構造部の柱や梁に生じる応力を低減できる。
本発明では、第1制振装置、ばね装置および屋根部がマスダンパーとして機能するとともに、第1制振装置、ばね装置および第2制振装置が下部構造部と屋根部とが定点理論に基づいて同調するように設定されている。これにより、下部構造部、屋根部を合わせた建物全体の応答および地震時の振動を低減させることができる。その結果、下部構造部に多数の制振装置を設置しなくても、耐震性を向上できる。従来の制振構造と比べて、下部構造部2に設置する制振装置を削減した場合でも従来と同等の必要な耐震性を確保できる。
【0008】
また、本発明に係る制振構造では、前記下部構造部は、複数の層を有し、前記複数の層の一部の層を他の層よりも柔構造とするとともに、前記一部の層に前記第2制振装置を設けてもよい。
【0009】
このような構成とすることにより、下部構造部の一部の層に地震による変形を集中させて、その一部の層に設けられた第2制振装置によって地震エネルギーを効率的に吸収できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、温度変化によって生じる応力および地震時の振動を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態による制振構造の一例を示す模式図である。
図2】解析モデルを示す図である。
図3】入力地震動を示す図である。
図4】解析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態による制振構造について、図1に基づいて説明する。
図1に示す本実施形態による制振構造1は、屋根があるスタジアム、ホール、アリーナなどの大空間を構築する建物11に採用される。制振構造1は、下部構造部2と、屋根部3と、下部構造部2と屋根部3との連結部4に設けられる第1制振装置5と、下部構造部2と屋根部3との連結部4に設けられるばね装置6と、下部構造部2に設けられる第2制振装置7と、を有する。
【0013】
下部構造部2は、地盤に支持されている。下部構造体2は、柱や梁を有する。下部構造部2が複数階(層)を有する。建物11がスタジアムの場合、下部構造部2には、観客席が設けられる。第2制振装置7は、例えば、筋交い型,シアリンク型あるいは間柱型に配置したオイルダンパーや、粘性壁等で構成される。
本実施形態の下部構造部2は、1階を2階以上の階よりも柔構造にし、1階に第2制振装置7を設けた、いわゆる第1層集中制振構造である。第1層集中制振構造は、地震による変形を特定の階に集中させ、その階において地震エネルギーを吸収する構造である。図1に示す建物11は、4階を有する。
【0014】
屋根部3は、上下方向からみた平面視における縁部が、下部構造部2の上端部と連結されている。屋根部3は、大スパンで下部構造部2に支持されている。
第1制振装置5は、例えば、オイルダンパーなどである。
ばね装置6は、皿ばねやコイルばねあるいは積層ゴム支承などを適宜組み合わせて構成されている。例えば、ばね装置6には、積層ゴム支承のように鉛直荷重を支持できる水平方向のばねを用いたり、皿ばねやコイルばねなどのように水平方向の復元力しか期待しないばねを、鉛直荷重を支持する支承(滑り支承や転がり支承)と併用して用いたりする。
第1制振装置5とばね装置6とは、下部構造部2と屋根部3との連結部4に並列に設けられる。さらに、年に数回あるような強風時に屋根部3が常に揺れてしまうことを防止するため、ばね装置6と第1制振装置5に並列して耐風ロック装置、またはすべり出し荷重が風荷重よりも大きい摩擦係数を持ったすべり支承を設置してもよい。
第1制振装置5、ばね装置6および第2制振装置7は、下部構造部2と屋根部3とが定点理論に基づいて同調するように設定されている。
【0015】
次に、本実施形態による制振構造の作用・効果について説明する。
本実施形態による制振構造1では、下部構造部2と屋根部3との連結部4にばね装置6が設けられることにより、屋根部3が温度変化によって伸縮した際の変形をばね装置6が吸収できる。このため、温度変化による屋根部3の収縮によって下部構造部2の柱や梁に生じる応力を低減できる。
本実施形態による制振構造では、第1制振装置5、ばね装置6および屋根部3がマスダンパーとして機能するとともに、第1制振装置5、ばね装置6および第2制振装置7が下部構造部2と屋根部3とが定点理論に基づいて同調するように設定されている。これにより、下部構造部2、屋根部3を合わせた建物11全体の応答を低減させることができる。その結果、下部構造部2に多数の制振装置を設置しなくても、耐震性を向上できる。従来の制振構造と比べて、下部構造部2に設置する制振装置を削減した場合でも従来と同等の必要な耐震性を確保できる。
【0016】
下部構造部2に設けられた第2制振装置7によって、高次モードなど、下部構造部2と屋根部3とを同調させていない周期帯に対しても、減衰して応答低減を図ることができ、建物11にロバスト性を付与できる。
【0017】
本実施形態による制振構造1では、下部構造部2の1階を2階以上の階よりも柔構造にし、1階に第2制振装置7を設けた、いわゆる第1層集中制振構造である。
このような構成とすることにより、地震による変形を下部構造部2の1階に集中させ、下部構造部2の1階に設けられた第2制振装置7によって地震エネルギーを効率的に吸収できる。
【0018】
本実施形態の制振構造1を採用した建物の時刻歴応答解析を実施した。
解析は、以下の条件で行う。
解析では、開閉式の屋根を有する建物を想定している。開閉式の屋根は、開閉する開閉屋根が下部構造部2の上端部に設けられた固定屋根に支持されている。開閉屋根は、固定屋根と第1制振装置5およびばね装置6を介して連結されている。開閉屋根が上記の実施形態の屋根部3に相当し、固定屋根は下部構造部2に含まれるものとする。
【0019】
(想定重量)
屋根部3の重量は、約2650tである。
下部構造部2(1階立上りから固定屋根まで)の重量は、約52300tである。
下部構造部2(1階立上りから固定屋根まで)には、下部構造部2における基礎から1階床までは含まない。第2制振装置7は、下部構造部2(1階立上りから固定屋根まで)に設けられる。
【0020】
(質量比)
下部構造部2(1階立上りから固定屋根まで)の固定屋根位置で基準化した1次等価質量と屋根部3(開閉屋根)の重量の質量比は、およそ15%(=2650/(52300×0.35))である。
【0021】
(最適ばね)
質量比15%に対する下部構造部2(1階立上りから固定屋根まで)の1次固有周期を約0.7秒としたときの定点理論に基づく最適同調時の水平ばね剛性は、およそKd=150,000kN/mである。
【0022】
解析結果は、以下である。
(時刻歴応答解析結果)
定点理論に基づく最適減衰を与えた2質点系等価せん断型モデルにおいて、時刻歴応答解析でLv2地震動の告示八戸位相を入力して求めたばねの最大応答変形は約200mmである。一方、変形を抑制するために最適減衰の5倍の減衰を与えると応答変形は約80mmである。
【0023】
(付加減衰効果)
質量比15%に対する定点理論における最適同調時の付加減衰はおよそ9%となり、最適減衰の5倍を付与した場合でも2%程度の付加減衰が得られる。
【0024】
(応答低減効果)
付加減衰に基づき予想される下部構造部2(1階立上りから固定屋根まで)の応答層せん断力の低減効果は10~20%程度である。
【0025】
本発明の制振構造を採用したスタジアムの一部を切り取った解析モデルを用いて、地震応答低減効果の検証解析を実施した。
図2に使用した解析モデルを示す。図中の数値は各節点の質量を示す。1階の斜材の下端には、すべり支承が設けられている。図中のすべり支承の位置の数値は、上側がすべり支承上部節点の質量、下側がすべり支承下部節点の質量を示す。
解析モデルは、地下1階から地上5階、屋上階を有する建物を想定している。図面および以下に記載の「屋根制振」は上記の実施形態の制振構造1の第1制振装置5およびばね装置6(図1参照)を示し、「スタンド制振」は上記の実施形態の制振構造1の第2制振装置7(図1参照)を示す。「屋根制振あり・スタンド制振あり」は、上記の実施形態の制振構造1を示し、「デュアル制振」とも表記する。
【0026】
左側スタンドには屋根制振として、減衰係数が0.223kNsec/mmのオイルダンパーを用いた第1制振装置5と、ばね剛性が4.25kN/mmであるばね装置6とを並列に設けた。右側スタンドには屋根制振として、減衰係数が0.186kNsec/mmのオイルダンパーを用いた第1制振装置5と、ばね剛性が3.54kN/mmであるばね装置6とを並列に設けた。
左側スタンドおよび右側スタンドのいずれにも1階にスタンド制振の第1制振装置5として、200tоnオイルダンパーを設けた。
【0027】
右側スタンドおよび左側スタンド単体時の1次固有周期はいずれも0.84秒である。
入力地震動は、図3に示す告示波レベル2八戸位相の地表面波(最大加速度326cm/sec)である。
比較対象として、屋根制振なし・スタンド制振あり(屋根部のばね装置のばね剛性を非常に大きくしたモデル)、屋根制振あり・スタンド制振なし、屋根制振なし・スタンド制振なしの解析モデルも作成した。
【0028】
応答解析の結果、図4に示すように、本実施形態の制振構造(デュアル制振)は、最も応答低減効果が高く、特に1階の最大層間変形角を屋根制振なし・スタンド制振なしのモデルに比べ55%低減できることがわかる。
ばね装置の最大変形量は102mmで、最大荷重は368kNである。いずれも設計可能な値である。
【0029】
以上、本発明による制振構造の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、下部構造部2は、第1層集中制振構造であり、他の階よりも柔構造の1階に第2制振装置7が設けられているが、このように構成されていなくてもよい。例えば、第2制振装置7を1階以外の層(階)に設けてもよいし、複数の層に設けてもよい。第2制振装置7を複数の層に設ける場合は、連続する複数の層に設けてもよいし、例えば1層および3層に設けるなど、連続しない複数の層に設けてもよい。第2制振装置7を設ける層を設けない層よりも柔構造としなくてもよい。
屋根部3は、開閉式の屋根であってもよいし、開閉しない屋根であってもよい。
【0030】
2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable DevelopmentGoals:SDGs)」がある。本実施形態に係る制振構造は、このSDGsの17の目標のうち、例えば「11.住み続けられるまちづくりを」の目標などの達成に貢献し得る。
【符号の説明】
【0031】
1 制振構造
2 下部構造体
3 屋根部
4 連結部
5 第1制振装置
6 ばね装置
7 第2制振装置
図1
図2
図3
図4