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特開2023-176373鉄筋コンクリート床版、鉄筋コンクリート床版の施工方法及び鉄筋コンクリート床版の補強方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176373
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】鉄筋コンクリート床版、鉄筋コンクリート床版の施工方法及び鉄筋コンクリート床版の補強方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 5/32 20060101AFI20231206BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20231206BHJP
   E01D 19/12 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
E04B5/32 A
E04G21/12 105A
E01D19/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088624
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(71)【出願人】
【識別番号】000107044
【氏名又は名称】ショーボンド建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100198214
【弁理士】
【氏名又は名称】眞榮城 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】前川 宏一
(72)【発明者】
【氏名】平塚 慶達
(72)【発明者】
【氏名】安東 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】野口 堅冬
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA14
(57)【要約】
【課題】鉄筋コンクリート床版の疲労耐久性を向上させることが可能となる技術を提供する。
【解決手段】本発明に係る鉄筋コンクリート床版1は、輪荷重が作用する表面21を有するコンクリート2と、コンクリートの内部2に配置されるとともに、表面21に沿って格子状に形成される格子状鉄筋3と、コンクリート2の内部に配置されるとともに、上下方向に延伸される棒部材6と、を備える。格子状鉄筋3は、上側格子状鉄筋4と、上側格子状鉄筋4の下方側に配置される下側格子状鉄筋5と、を有し、棒部材6は、上側格子状鉄筋4と下側格子状鉄筋5とに剛結されることを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
輪荷重が作用する表面を有するコンクリートと、
前記コンクリートの内部に配置されるとともに、前記表面に沿って格子状に形成される格子状鉄筋と、
前記コンクリートの内部に配置されるとともに、上下方向に延伸される棒部材と、を備え、
前記格子状鉄筋は、上側格子状鉄筋と、前記上側格子状鉄筋の下方側に配置される下側格子状鉄筋と、を有し、
前記棒部材は、前記上側格子状鉄筋と前記下側格子状鉄筋とに剛結されること
を特徴とする鉄筋コンクリート床版。
【請求項2】
前記上側格子状鉄筋は、互いに略直交して配置される第1鉄筋と第2鉄筋とを有し、
前記下側格子状鉄筋は、互いに略直交して配置される第3鉄筋と第4鉄筋とを有し、
前記棒部材は、
前記第1鉄筋と前記第2鉄筋との両方又は何れか一方に剛結され、
前記第3鉄筋と前記第4鉄筋との両方又は何れか一方に剛結されること
を特徴とする請求項1記載の鉄筋コンクリート床版。
【請求項3】
前記棒部材は、
前記第1鉄筋と前記第2鉄筋とに剛結され、
前記第3鉄筋と前記第4鉄筋とに剛結されること
を特徴とする請求項2記載の鉄筋コンクリート床版。
【請求項4】
前記棒部材は、前記上側格子状鉄筋と前記下側格子状鉄筋とに溶接により剛結されること
を特徴とする請求項1~3の何れか1項記載の鉄筋コンクリート床版。
【請求項5】
前記格子状鉄筋と前記棒部材とを剛結する剛結部材を更に備えること
を特徴とする請求項1~3の何れか1項記載の鉄筋コンクリート床版。
【請求項6】
型枠の内部で格子状に形成される上側格子状鉄筋と、前記型枠の内部で前記上側格子状鉄筋の下方側に配置されるとともに格子状に形成される下側格子状鉄筋と、に上下方向に延伸される棒部材を剛結する剛結工程と、
前記型枠の内部にコンクリートを打設する打設工程と、を備えること
を特徴とする鉄筋コンクリート床版の施工方法。
【請求項7】
既設の鉄筋コンクリート床版を斫り、前記鉄筋コンクリート床版の内部で格子状に形成される上側格子状鉄筋と、前記鉄筋コンクリート床版の内部で前記上側格子状鉄筋の下方側に配置されるとともに格子状に形成される下側格子状鉄筋と、を露出させる斫り工程と、
露出させた前記上側格子状鉄筋と前記下側格子状鉄筋とに、上下方向に延伸される棒部材を剛結する剛結工程と、
斫り出した領域にコンクリートを打設する打設工程と、を備えること
を特徴とする鉄筋コンクリート床版の補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート床版、鉄筋コンクリート床版の施工方法及び鉄筋コンクリート床版の補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等が通行するコンクリート床版には、輪荷重が繰り返し作用する。このため、輪荷重が作用するコンクリート床版は、内部に格子状に組み合わされた鉄筋が、床版の厚み方向に例えば2段に配設されている。格子状の鉄筋を2段に組み立てる際には、下側の格子状の鉄筋と上側の格子状の鉄筋との離間距離を確保するため、格子状の鉄筋に結束線で結ばれたいわゆる段取り筋が用いられる。鉄筋を格子状に組み立てた上で、コンクリートを打設して、コンクリート床版を構築する。
【0003】
コンクリート部材を補強する技術として、特許文献1、2が開示されている。特許文献1には、補強部材挿入孔の延長よりも短い長さの棒材と、この棒材の軸方向に沿って所定の間隔を空けて複数の凸部を形成する突材とからなり、この凸部の外幅が、棒材の直径に対して110%乃至200%に構成されているせん断補強部材を利用したコンクリート部材の補強構造が開示されている。
【0004】
特許文献2には、略平板状に形成されたコンクリートに設けられるコア部と、コア部に挿入されてコンクリートの内部に設けられる棒部材とを備え、棒部材は、コンクリートの内部に配設された鉄筋が腐食するような環境下で、コンクリートの内部で面内方向に延びて配設される鉄筋と略直交する方向で、コンクリートの面外方向に延びて設けられるコンクリートの補強構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-127261号公報
【特許文献2】特開2016-169543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のコンクリート床版では、格子状の鉄筋と段取り筋とが結束線で結ばれているものの、その結束力は強いとは言い難い。また、特許文献1の開示技術では、格子状の鉄筋とせん断補強部材とが離間されている。このため、従来のコンクリート床版や特許文献1の開示技術では、せん断補強の観点からすると、コンクリート部材全体としての一体性が十分とは言えず、疲労耐久性が十分でないという問題点があった。また、特許文献2の開示技術では、補強鉄筋を多数配置しなければならず、そのために費用が高額になるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、面内方向に延びて配設される鉄筋と略直交する面外方向の鉄筋の上下を強固に固定することにより、鉄筋コンクリート床版の疲労耐久性を向上させることのできる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る鉄筋コンクリート床版は、輪荷重が作用する表面を有するコンクリートと、前記コンクリートの内部に配置されるとともに、前記表面に沿って格子状に形成される格子状鉄筋と、前記コンクリートの内部に配置されるとともに、上下方向に延伸される棒部材と、を備え、前記格子状鉄筋は、上側格子状鉄筋と、前記上側格子状鉄筋の下方側に配置される下側格子状鉄筋と、を有し、前記棒部材は、前記上側格子状鉄筋と前記下側格子状鉄筋とに剛結されることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る鉄筋コンクリート床版の施工方法は、型枠の内部で格子状に形成される上側格子状鉄筋と、前記型枠の内部で前記上側格子状鉄筋の下方側に配置されるとともに格子状に形成される下側格子状鉄筋と、に上下方向に延伸される棒部材を剛結する剛結工程と、前記型枠の内部にコンクリートを打設する打設工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る鉄筋コンクリート床版の補強方法は、既設の鉄筋コンクリート床版を斫り、前記鉄筋コンクリート床版の内部で格子状に形成される上側格子状鉄筋と、前記鉄筋コンクリート床版の内部で前記上側格子状鉄筋の下方側に配置されるとともに格子状に形成される下側格子状鉄筋と、を露出させる斫り工程と、露出させた前記上側格子状鉄筋と前記下側格子状鉄筋とに、上下方向に延伸される棒部材を剛結する剛結工程と、斫り出した領域にコンクリートを打設する打設工程と、を備えることを特徴とする鉄筋コンクリート床版の補強方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鉄筋コンクリート床版の疲労耐久性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、第1実施形態に係る鉄筋コンクリート床版の第1例を示す斜視図である。
図2図2は、第1実施形態に係る鉄筋コンクリート床版の第1例を第2方向に直交する面で切った断面図である。
図3図3は、第1実施形態に係る鉄筋コンクリート床版の第1例を第2方向に直交する面で切った拡大断面図である。
図4図4(a)は、第1実施形態に係る鉄筋コンクリート床版の第2例を第2方向に直交する面で切った拡大断面図であり、図4(b)は、第1実施形態に係る鉄筋コンクリート床版の第3例を第1方向に直交する面で切った拡大断面図である。
図5図5は、第1実施形態に係る鉄筋コンクリート床版の第3例を示す斜視図である。
図6図6は、第1実施形態に係る鉄筋コンクリート床版の施工方法における剛結工程を示す図である。
図7図7は、第1実施形態に係る鉄筋コンクリート床版の補強方法における斫り工程を示す図である。
図8図8は、第1実施形態に係る鉄筋コンクリート床版の補強方法における剛結工程を示す図である。
図9図9(a)は、第2実施形態に係る鉄筋コンクリート床版を第2方向に直交する面で切った断面図であり、図9(b)は、第2実施形態に係る鉄筋コンクリート床版を上下方向に直交する面で切った断面図である。
図10図10(a)は、試験体の長手方向に沿う断面における配筋図を示し、図10(b)は、試験体の短手方向に沿う断面における配筋図を示し、図10(c)は、試験体における、上側の格子状鉄筋と下側の格子状鉄筋を示す配筋図である。
図11図11は、輪荷重走行試験を行った本発明例と比較例について、等価累積回数とたわみの関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、上下方向Zとし、上下方向Zに交わる、例えば直交する方向を第1方向Xとし、上下方向Zと第1方向Xとに交差、例えば直交する方向を第2方向Yとする。また、各図において、共通する部分については、共通する参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る鉄筋コンクリート床版1の第1例を示す斜視図である。図2は、第1実施形態に係る鉄筋コンクリート床版1の第1例を第2方向Yに直交する面で切った断面図である。図3は、第1実施形態に係る鉄筋コンクリート床版1の第1例を第2方向Yに直交する面で切った拡大断面図である。鉄筋コンクリート床版1は、主に、道路橋等で通行車両等の輪荷重が作用する場所に設けられる。鉄筋コンクリート床版1は、コンクリート2と、格子状鉄筋3と、棒部材6と、を備える。
【0015】
コンクリート2は、平板状に形成され、輪荷重が作用する表面21を有する。コンクリート2は、新設であってもよいし、既設であってもよい。
【0016】
格子状鉄筋3は、上側格子状鉄筋4と、上側格子状鉄筋4の上下方向Zの下方側に配置される下側格子状鉄筋5とを有する。
【0017】
上側格子状鉄筋4は、コンクリート2の内部に配置される。上側格子状鉄筋4は、表面21に沿って格子状に形成される。上側格子状鉄筋4は、互いに略直交して配置される、複数の第1鉄筋41と複数の第2鉄筋42とを有する。第1鉄筋41は、第1方向Xに沿って延びる。第2鉄筋42は、第2方向Yに沿って延びる。
【0018】
下側格子状鉄筋5は、コンクリート2の内部で上側格子状鉄筋4の下方側に配置される。下側格子状鉄筋5は、表面21に沿って格子状に形成される。下側格子状鉄筋5は、互いに略直交して配置される、複数の第3鉄筋51と複数の第4鉄筋52とを有する。第3鉄筋51は、第1方向Xに沿って延びる。第4鉄筋52は、第2方向Yに沿って延びる。
【0019】
棒部材6は、コンクリート2の内部に配置されるとともに、上下方向Zに延伸される鉄筋が用いられる。棒部材6は、上側格子状鉄筋4と下側格子状鉄筋5とに溶接により剛結される。棒部材6は、コンクリート2の内部において、輪荷重が作用する位置に、例えば輪荷重が作用する位置を跨ぐように、配置される。
【0020】
棒部材6は、第1鉄筋41と第2鉄筋42とが交差する箇所に配置され、第1鉄筋41と第2鉄筋42とに剛結される。棒部材6は、第3鉄筋51と第4鉄筋52とが交差する箇所に配置され、第3鉄筋51と第4鉄筋52とに剛結される。
【0021】
本実施形態によれば、棒部材6は、上側格子状鉄筋4と下側格子状鉄筋5とに剛結される。これにより、コンクリート2の表面21に輪荷重が作用したとき、上側格子状鉄筋4と下側格子状鉄筋5とに作用する力を棒部材6により相互に伝達させることができる。このように、面外方向に配置される鉄筋の上下を、面内方向に配置される鉄筋と溶接等により剛結することで、面内方向の鉄筋が微小な付着破壊をすることなくコンクリートと一体となって平面保持される。このため、棒部材6による、せん断補強効果と押し抜きせん断に対する補強効果とを発揮させることができ、鉄筋コンクリート床版1全体としての一体性が向上する。その結果、鉄筋コンクリート床版の疲労耐久性を向上させることが可能となる。また、棒部材6は、上側格子状鉄筋4と下側格子状鉄筋5とに剛結されることにより、補強鉄筋の数量を低減できるため、施工費用の低減を図ることができる。
【0022】
本実施形態によれば、棒部材6は、上側格子状鉄筋4と下側格子状鉄筋5とに溶接により剛結される。これにより、棒部材6による、せん断補強効果と押し抜きせん断に対する補強効果とを更に発揮させることができ、鉄筋コンクリート床版1全体としての一体性が向上する。このため、鉄筋コンクリート床版の疲労耐久性を更に向上させることが可能となる。
【0023】
図4(a)は、第1実施形態に係る鉄筋コンクリート床版1の第2例を第2方向Yに直交する面で切った拡大断面図であり、図4(b)は、第1実施形態に係る鉄筋コンクリート床版1の第3例を第1方向Xに直交する面で切った拡大断面図である。
【0024】
図4に示すように、棒部材6は、第1鉄筋41と第2鉄筋42との何れか一方に剛結されてもよい。棒部材6は、第3鉄筋51と第4鉄筋52との何れか一方に剛結されてもよい。
【0025】
図4(a)に示すように、棒部材6は、第2鉄筋42から第1方向Xに離間して、第1鉄筋41に剛結されてもよい。また、棒部材6は、第4鉄筋52から第1方向Xに離間して、第3鉄筋51に剛結されてもよい。
【0026】
図4(b)に示すように、棒部材6は、第1鉄筋41から第2方向Yに離間して、第2鉄筋42に剛結されてよい。また、棒部材6は、第3鉄筋51から第2方向Yに離間して、第4鉄筋52に剛結されてもよい。
【0027】
図5は、第1実施形態に係る鉄筋コンクリート床版1の第3例を示す斜視図である。図5に示すように、本例に係る鉄筋コンクリート床版1は、格子状鉄筋3の交点に棒部材6が設けられる。このとき、棒部材6は、格子状鉄筋3の全ての交点に設けられていなくてもよい。
【0028】
次に、鉄筋コンクリート床版の施工方法について説明する。図6は、第1実施形態に係る鉄筋コンクリート床版の施工方法における剛結工程を示す図である。
【0029】
鉄筋コンクリート床版の施工方法では、剛結工程と、剛結工程の後に行う打設工程と、を備える。
【0030】
剛結工程では、型枠9の内部で格子状に形成される上側格子状鉄筋4と、型枠9の内部で上側格子状鉄筋4の下方側に配置されるとともに格子状に形成される下側格子状鉄筋5と、に上下方向Zに延伸される棒部材6を溶接により剛結する。型枠9は、格子状鉄筋3の周囲と、下方側にそれぞれ配置される。鉄筋コンクリート床版の表面において、輪荷重が作用する位置を跨ぐように面外方向の鉄筋(棒部材)を配置し、溶接により剛結する。鉄筋の剛結方法は溶接に限らす、鉄筋クリップにより剛結されてもよい。
【0031】
打設工程では、型枠9の内部にコンクリートを打設する。打設したコンクリートが硬化した後、型枠9を脱型する。
【0032】
以上により、鉄筋コンクリート床版の施工方法が完了する。
【0033】
本実施形態によれば、剛結工程では、型枠9の内部で格子状に形成される上側格子状鉄筋4と、型枠9の内部で上側格子状鉄筋4の下方側に配置されるとともに格子状に形成される下側格子状鉄筋5と、に上下方向Zに延伸される棒部材6を溶接により剛結する。これにより、コンクリート2の表面21に輪荷重が作用したとき、上側格子状鉄筋4と下側格子状鉄筋5とに作用する力を棒部材6により相互に伝達させることができる。このように、面外方向に配置される鉄筋の上下を、面内方向に配置される鉄筋と溶接で剛結することで、面内方向の鉄筋が微小な付着破壊をすることなくコンクリートと一体となって平面保持される。このため、棒部材6による、せん断補強効果と押し抜きせん断に対する補強効果とを発揮させることができ、鉄筋コンクリート床版1全体としての一体性が向上する。その結果、鉄筋コンクリート床版の疲労耐久性を向上させることが可能となる。また、棒部材6は、上側格子状鉄筋4と下側格子状鉄筋5とに剛結されることにより、補強鉄筋の数量を低減できるため、施工費用の低減を図ることができる。
【0034】
また、本実施形態によれば、新設の鉄筋コンクリート床版1を構築することが可能となる。
【0035】
次に、鉄筋コンクリート床版の補強方法について説明する。図7は、第1実施形態に係る鉄筋コンクリート床版の補強方法における斫り工程を示す図である。図8は、第1実施形態に係る鉄筋コンクリート床版の補強方法における剛結工程を示す図である。
【0036】
鉄筋コンクリート床版の補強方法では、斫り工程と、斫り工程の後に行う剛結工程と、剛結工程の後に行う打設工程とを備える。
【0037】
斫り工程では、既設の鉄筋コンクリート床版1を斫り、鉄筋コンクリート床版1の内部で格子状に形成される上側格子状鉄筋4と、鉄筋コンクリート床版1の内部で上側格子状鉄筋4の下方側に配置されるとともに格子状に形成される下側格子状鉄筋5と、を露出させる。
【0038】
剛結工程では、露出させた上側格子状鉄筋4と下側格子状鉄筋5とに、上下方向に延伸される棒部材6を溶接により剛結する。
【0039】
打設工程では、斫り出した領域にコンクリートを打設する。
【0040】
以上により、鉄筋コンクリート床版の施工方法が完了する。
【0041】
本実施形態によれば、剛結工程では、露出させた上側格子状鉄筋4と下側格子状鉄筋5とに、上下方向に延伸される棒部材6を溶接により剛結する。これにより、コンクリート2の表面21に輪荷重が作用したとき、上側格子状鉄筋4と下側格子状鉄筋5とに作用する力を棒部材6により相互に伝達させることができる。このように、面外方向に配置される鉄筋の上下を、面内方向に配置される鉄筋と溶接で剛結することで、面内方向の鉄筋が微小な付着破壊をすることなくコンクリートと一体となって平面保持される。このため、棒部材6による、せん断補強効果と押し抜きせん断に対する補強効果とを発揮させることができ、鉄筋コンクリート床版1全体としての一体性が向上する。その結果、鉄筋コンクリート床版の疲労耐久性を向上させることが可能となる。また、棒部材6は、上側格子状鉄筋4と下側格子状鉄筋5とに剛結されることにより、補強鉄筋の数量を低減できるため、施工費用の低減を図ることができる。
【0042】
また、本実施形態によれば、既設の鉄筋コンクリート床版1を補強することが可能となる。
【0043】
<第2実施形態>
図9(a)は、第2実施形態に係る鉄筋コンクリート床版1を第2方向Yに直交する面で切った断面図であり、図9(b)は、第2実施形態に係る鉄筋コンクリート床版1を上下方向Zに直交する面で切った断面図である。
【0044】
第2実施形態に係る鉄筋コンクリート床版1では、剛結部材7を更に備える点で、主に第1実施形態と相違する。第2実施形態に係る鉄筋コンクリート床版1では、格子状鉄筋3と棒部材6とが溶接される代わりに、剛結部材7により剛結される。
【0045】
剛結部材7は、格子状鉄筋3と棒部材6とを剛結する。剛結部材7は、例えば、ゼスロック(登録商標)等の鉄筋クリップが用いられる。
【0046】
剛結部材7は、上側格子状鉄筋4と棒部材6とを剛結する。剛結部材7は、第1鉄筋41と棒部材6とを剛結する。剛結部材7は、第2鉄筋42と棒部材6とを剛結する。
【0047】
剛結部材7は、下側格子状鉄筋5と棒部材6とを剛結する。剛結部材7は、第3鉄筋51と棒部材6とを剛結する。剛結部材7は、第4鉄筋52と棒部材6とを剛結する。
【0048】
剛結部材7は、格子状鉄筋3及び棒部材6の何れか一方又は両方の位置を保持するための保持部71と、保持部71に設けられる板材72と、板材72に貫通される締結部材73と、を有する。剛結部材7は、締結部材73を締結することにより、一対の板材72に挟まれた格子状鉄筋3と、保持部71に保持された棒部材6と、を剛結することができる。
【0049】
剛結部材7は、互いに離間した一対の板材72にそれぞれ保持部71を有する。剛結部材7は、一対の板材72が格子状鉄筋3又は棒部材6の何れか一方を挟んで両側に配置され、保持部71に格子状鉄筋3又は棒部材6の何れか他方が篏合される。締結部材73は、一対の板材72を貫通し、例えばボルトナットが用いられる。
【0050】
鉄筋コンクリート床版の施工方法では、剛結工程において、型枠9の内部で格子状に形成される上側格子状鉄筋4と、型枠9の内部で上側格子状鉄筋4の下方側に配置されるとともに格子状に形成される下側格子状鉄筋5と、に上下方向Zに延伸される棒部材6を剛結部材7により剛結する。
【0051】
鉄筋コンクリート床版の補強方法では、剛結工程において、露出させた上側格子状鉄筋4と下側格子状鉄筋5とに、上下方向に延伸される棒部材6を剛結部材7により剛結する。
【0052】
本実施形態によれば、棒部材6は、上側格子状鉄筋4と下側格子状鉄筋5とに剛結部材7により剛結される。これにより、コンクリート2の表面21に輪荷重が作用したとき、上側格子状鉄筋4と下側格子状鉄筋5とに作用する力を棒部材6により相互に伝達させることができる。このように、面外方向に配置される鉄筋の上下を、面内方向に配置される鉄筋と溶接で剛結することで、面内方向の鉄筋が微小な付着破壊をすることなくコンクリートと一体となって平面保持される。このため、棒部材6による、せん断補強効果と押し抜きせん断に対する補強効果とを発揮させることができ、鉄筋コンクリート床版全体としての一体性が向上する。このため、鉄筋コンクリート床版の疲労耐久性を向上させることが可能となる。また、棒部材6は、上側格子状鉄筋4と下側格子状鉄筋5とに剛結されることにより、補強鉄筋の数量を低減できるため、施工費用の低減を図ることができる。
【実施例0053】
次に、本発明の作用効果を、本発明例と比較例とを用いて説明する。
【0054】
試験体は、「道路橋床版の疲労耐久性に関する試験」(P7~P9)に基づいて、4500mm×2800mm×190mmの鉄筋コンクリート床版を作製した。試験体には、載荷面に沿って格子状に配置した主鉄筋と配力鉄筋とが上下2段に配置されている。試験体の主な概要を、以下の表1に示す。
【表1】
【0055】
また、図10に本発明例における試験体の配筋図を示す。図10(a)は、試験体の長手方向に沿う断面における配筋図を示し、図10(b)は、試験体の短手方向に沿う断面における配筋図を示し、図10(c)は、試験体における、上側の格子状鉄筋と下側の格子状鉄筋を示す配筋図である。本発明例における試験体では、図10(c)のA部に棒部材(鉄筋D13)が配置される。棒部材は、試験体の長手方向及び短手方向において、それぞれ900mm間隔で配置される。
【0056】
本発明例については、上側の格子状鉄筋と下側の格子状鉄筋とに、上下方向に延びる棒部材が溶接により剛結されている。また、本発明例で用いたコンクリートの圧縮強度は、31.6kN/mmであった。
【0057】
比較例については、上側の格子状鉄筋と下側の格子状鉄筋とが、上下方向に延びる棒部材により連結されていない。すなわち、比較例における試験体では、図10(c)のA部に対応する箇所に、棒部材が配置されていない。また、比較例で用いたコンクリートの圧縮強度は、41.2kN/mmであった。
【0058】
試験は、国土交通省国土技術政策研究所発行(2002年3月発行)の「道路橋床版の疲労耐久性に関する試験」(P7~P16)に基づいて、輪荷重走行試験を行った。
【0059】
輪荷重走行試験は、床版試験体上に500mm×200mmの載荷ブロックを一列にならべた軌道上を、幅500mmの鉄輪が3m往復して載荷するものとした。本試験では、初期荷重を157kNとして、回数4万回毎に荷重を約19.6kNずつ増加させた。荷重条件を以下の表2に示す。支点間距離は2500mmとし、支持条件として、長辺を単純支持とし、短辺を弾性支持とした。本試験では、供試体の中央部のたわみが急激に延び、床版の上面に押し抜きせん断ひび割れが目視できた時点で、載荷を終了した。
【0060】
【表2】
【0061】
本発明例と比較例について、供試体に実際に載荷した荷重と繰り返し回数とに基づいて、157kNに換算したときの繰り返し回数である等価累積回数を算出して、鉄筋コンクリート床版の疲労耐久性を評価した。
【0062】
図11は、輪荷重走行試験を行った本発明例と比較例について、等価累積回数とたわみの関係を示す。図11では、横軸に等価累積回数を示し、縦軸にたわみを示す。また、表3に、本発明例と比較例の破壊時における等価累積回数(破壊時等価累積回数)の結果を示す。
【0063】
【表3】
【0064】
本発明例における破壊時等価累積回数は、比較例における破壊時等価累積回数を大きく上回り、本発明例の鉄筋コンクリート床版の疲労耐久性が10倍程度向上した。
【0065】
本発明例では、上側の格子状鉄筋と下側の格子状鉄筋とに、上下方向に延びる棒部材が溶接により剛結されている。これにより、供試体に輪荷重が作用したとき、上側の格子状鉄筋と下側の格子状鉄筋とに作用する力が棒部材により相互に伝達させることができる。このように、面外方向に配置される鉄筋の上下を、面内方向に配置される鉄筋と溶接で剛結することで、面内方向の鉄筋が微小な付着破壊をすることなくコンクリートと一体となって平面保持される。このため、棒部材によるせん断補強効果と押し抜きせん断に対する補強効果とを発揮させることができ、本発明例における試験体全体としての一体性が向上した。その結果、本発明例における鉄筋コンクリート床版の疲労耐久性が、比較例よりも10倍程度向上させることができた。
【0066】
また、本実施例では、長手方向及び短手方向にそれぞれ900mm間隔で配置される棒部材が、上側の格子状鉄筋と下側の格子状鉄筋とに剛結される。このように、棒部材6の配筋間隔を、主鉄筋や配力鉄筋の配筋間隔よりも大きくしたとしても十分に疲労耐久性を向上させることができ、必要な補強鉄筋の数量を低減できるため、施工費用の低減を図ることができる。
【0067】
以上、この発明の実施形態のいくつかを説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。また、これらの実施形態は、適宜組み合わせて実施することが可能である。さらに、この発明は、上記いくつかの実施形態の他、様々な新規な形態で実施することができる。したがって、上記いくつかの実施形態のそれぞれは、この発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更が可能である。このような新規な形態や変形は、この発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明、及び特許請求の範囲に記載された発明の均等物の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0068】
1 :鉄筋コンクリート床版
2 :コンクリート
21 :表面
3 :格子状鉄筋
4 :上側格子状鉄筋
41 :第1鉄筋
42 :第2鉄筋
5 :下側格子状鉄筋
51 :第3鉄筋
52 :第4鉄筋
6 :棒部材
7 :剛結部材
71 :保持部
72 :板材
73 :締結部材
9 :型枠
X :第1方向
Y :第2方向
Z :上下方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11