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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176389
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】画像処理装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
B41J2/01 203
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088644
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128451
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 隆一
(72)【発明者】
【氏名】西村 亜紗代
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA06
2C056EB58
2C056EC65
2C056EC72
2C056EC78
2C056EC79
2C056FA04
2C056FA13
2C056HA22
(57)【要約】
【課題】生産性の低下を招くことなく、簡易な処理によって隣接ノズルのクロストークに起因する液滴の着弾位置ずれを目立たなくする印字データを生成可能な画像処理装置を提供する
【解決手段】印刷対象の画像データを受け付ける画像データ受付部30aと、画像データに基づいて、印刷媒体に印字するための印字データを生成する印字データ生成部30bとを備え、印字データ生成部30bが、予め設定された特定の色の着弾位置ずれ画素の位置に、特定の色以外の色を特定の色よりも解像度を低くして印字するための印字データを生成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷対象の画像データを受け付ける画像データ受付部と、
前記画像データに基づいて、印刷媒体に印字するための印字データを生成する印字データ生成部とを備え、
前記印字データ生成部が、予め設定された特定の色の着弾位置ずれ画素の位置に、前記特定の色以外の色を前記特定の色よりも解像度を低くして印字するための印字データを生成する画像処理装置。
【請求項2】
前記印字データ生成部が、前記特定の色の印字開始位置と前記特定の色以外の色の印字開始位置とがずれるような印字データを生成する請求項1記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記印字データ生成部が、前記特定の色以外の色を印字するための印字データを生成する際、該特定の色以外の色の1ドット当たりの液滴の量を前記特定の色の1ドット当たりの液滴の量よりも増やす請求項1または2記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記印字データ生成部が、前記印刷媒体と前記印刷媒体に液滴を吐出して印字を行う吐出ヘッドを有するヘッド部との距離に応じて、前記特定の色以外の色の印字条件が異なる印字データを生成する請求項1記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記印字データ生成部が、前記印刷媒体に液滴を吐出して印字を行う吐出ヘッドの駆動波形、駆動周波数および駆動電圧の少なくとも1つに応じて、前記特定の色以外の色の印字条件が異なる印字データを生成する請求項1記載の画像処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のノズルが配列された吐出ヘッドを用いて印字を行うための印字データを生成する画像処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットヘッドから印刷媒体に対してインクを吐出して印刷処理を行うインクジェット印刷装置が提案されている。
【0003】
インクジェットヘッドは、インク滴を吐出するノズルを複数有するが、たとえば液室を形成する流路、振動部材およびノズルプレートなどが隣接するノズルで一体化されたインクジェットヘッドにおいては、隣接するノズルからインク滴を吐出する際、インクジェットヘッドを構成する部材の振動や変形が、隣接するノズルからのインク滴の吐出に影響し、吐出速度や吐出量が変化したり、不安定になったりすることがある。
【0004】
また、各ノズルを隔てる隔壁を有するインクジェットヘッドにおいては、その隔壁の振動が影響することもあり、これは一般にクロストークと呼ばれている。特に、インクジェットヘッドの小型化と高解像度化を両立するために高密度化が進むと、クロストークの影響は大きくなる。
【0005】
そして、上述したような隣接するノズルのインク吐出の際に発生したエネルギーが相互伝播するクロストークの影響が大きい場合、インク滴の吐出速度にバラツキが生じ着弾位置ずれが発生する。また、この着弾位置ずれは、印刷画像によっては周期的なずれになる場合があり、特に駆動周波数が速い場合や、インクジェットヘッドと印刷媒体の間が広い場合などはずれが大きく目立つ傾向にある。
【0006】
このような着弾位置ずれの対策として、たとえば特許文献1においては、ノズル毎に対応した複数の駆動波形生成部を備え、干渉の影響によって生じる吐出特性の変動を補正するように駆動波形の補正情報を生成する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6907547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、各ノズルの吐出履歴データを保持したり、その吐出履歴データを元に各ノズルの駆動波形を補正する必要があり、データ量やデータ解析時間が増大し、生産性が低下する問題がある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、生産性の低下を招くことなく、簡易な処理によって隣接ノズルのクロストークに起因する液滴の着弾位置ずれを目立たなくする印字データを生成可能な画像処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の画像処理装置は、印刷対象の画像データを受け付ける画像データ受付部と、画像データに基づいて、印刷媒体に印字するための印字データを生成する印字データ生成部とを備え、印字データ生成部が、予め設定された特定の色の着弾位置ずれ画素の位置に、特定の色以外の色を特定の色よりも解像度を低くして印字するための印字データを生成する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の画像処理装置によれば、予め設定された特定の色の着弾位置ずれ画素の位置に、特定の色以外の色を特定の色よりも解像度を低くして印字するための印字データを生成するようにしたので、生産性の低下を招くことなく、簡易な処理によって隣接ノズルのクロストークに起因する液滴の着弾位置ずれを目立たなくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の印刷装置の一実施形態を用いたインクジェット印刷装置の概略構成を示すブロック図
図2】ヘッド部の概略構成を示す図
図3】インクジェットヘッドの概略構成を示す図
図4】2列のノズル列を有するインクジェットヘッドを用いてベタ画像を印字した場合に着弾位置ずれが発生した例を示す図
図5】Kのベタ画像の印字開始ラインに近似色のラインを重ねて印字した例を示す図
図6】Kのベタ画像の印字開始タイミングを本来のベタ画像の印字開始ラインの位置よりも遅らせた場合の例を示す図
図7】ヘッド部と印刷媒体との距離(ギャップ)、インクジェットヘッドの温度およびインクジェットヘッドに供給される駆動電圧信号の特性(駆動波形、駆動周波数)と、着弾位置ずれのずれ量との関係を示す図
図8】駆動電圧信号の波形の一例を示す図
図9】駆動電圧信号とその駆動電圧信号によってノズルからインクが吐出される際の吐出圧力の変化を示す図
図10】ずれ量と近似色のラインの印字条件とを対応付けたテーブルの一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の画像処理装置の一実施形態を用いたインクジェット印刷装置1について詳細に説明する。図1は、本実施形態のインクジェット印刷装置1の概略構成図である。
【0014】
インクジェット印刷装置1は、コンピュータから出力された画像データまたは原稿読取装置から出力された画像データに基づいて、紙やフィルムなどといったシート状の印刷媒体に対してインク滴を吐出して印刷処理を行う。
【0015】
インクジェット印刷装置1は、図1に示すように、ヘッド部10、搬送部20および制御部30を備えている。
【0016】
ヘッド部10は、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)およびK(ブラック)の各色のインクを吐出するインクジェットヘッド35(本発明の吐出ヘッドに相当する)を備える。図2は、本実施形態のヘッド部10の概略構成を示す図である。図2に示すように、本実施形態のヘッド部10は、Kのインクを吐出するラインヘッド31、Cのインクを吐出するラインヘッド32,Mのインクを吐出するラインヘッド33およびYのインクを吐出するラインヘッド34を備えている。ラインヘッド31~34は、それぞれ印刷媒体Pの搬送方向に直交する方向に延設され、印刷媒体の搬送方向に並べて配列される。
【0017】
各ラインヘッド31~34は、印刷媒体Pの搬送方向に直交する方向に3つのインクジェットヘッド35が等間隔で配置されたヘッド列を2列有し、その2列のヘッド列が所定のノズル数だけオーバーラップするように配置されて、6つのインクジェットヘッドが千鳥状に配置されている。
【0018】
各インクジェットヘッド35は、各色の画像データに基づいて制御部30によって制御されてインクを印刷媒体Pに対して吐出し、印刷媒体P上に印刷画像を形成する。
【0019】
図3は、1つのインクジェットヘッド35の概略構成を示す図である。本実施形態のインクジェットヘッド35は、図3に示すように、インク滴を吐出する複数のノズル36を有する。各インクジェットヘッド35における複数のノズル36は、印刷媒体Pの搬送方向に直交する方向に配列されるとともに、複数のノズル36が上記直交方向に等間隔で一列に配列されたノズル列が、上記搬送方向に2列並べて配列されている。一方のノズル列35aと他方のノズル列35bとは、図3に示すように、上記直交する方向について、ノズル間隔の半ピッチだけずらして配置されている。
【0020】
そして、たとえばインクジェットヘッド35のノズル列35aによって印字を行った後に、その同じラインにノズル列35bに印字を行うことによって1ラインが形成される。このようにノズル列35aによって形成されたドット間にノズル列35bによって形成されたドットを配置することによって高解像度な印字が可能となる。
【0021】
インクジェットヘッド35としては、たとえば積層したピエゾ素子の変形により振動板を変形させ、インクの流路に連通したノズルからインクを吐出するプッシュ型のインクジェットヘッドを用いることができる。また、各ノズルを隔てる隔壁を有するインクジェットヘッドを用いるようにしてもよい。
【0022】
搬送部20は、印刷媒体Pを搬送する搬送機構を備える。搬送機構は、たとえば環状ベルトおよびベルトプラテンローラなどを備え、印刷媒体Pの搬送方向について、ヘッド部10を挟むように配置されたベルトプラテンローラ間に環状ベルトを掛け渡すことによって構成される。そして、制御部30による制御によって、ベルトプラテンローラが回転することによって、環状ベルトが移動し、これにより環状ベルト上に吸着された印刷媒体Pがヘッド部10に向けて搬送される。
【0023】
そして、ヘッド部10の直下を印刷媒体Pが搬送されるとともに、ヘッド部10の各インクジェットヘッド35から所定の吐出タイミングでインクが吐出されることによって、搬送される印刷媒体Pに対して順次、印字が行われる。
【0024】
制御部30は、CPUおよび半導体メモリなどを備え、インクジェット印刷装置1全体を制御する。制御部30は、半導体メモリまたはハードディスクなどの記憶媒体に予め記憶された制御プログラムをCPUによって実行し、かつ電気回路を動作させることによって、インクジェット印刷装置1の各部の動作を制御するものである。
【0025】
また、制御部30は、画像データ受付部30aと、印字データ生成部30bとを備えている。制御部30は、半導体メモリまたはハードディスクなどの記憶媒体に予め記憶された画像処理プログラムをCPUによって実行することによって、画像データ受付部30aおよび印字データ生成部30bを機能させる。なお、本実施形態においては、画像処理プログラムを実行することによって上記各部の機能を実現するようにしたが、これに限らず、一部または全部の機能もしくは制御をASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field-Programmable Gate Array)、その他の電気回路などのハードウェアによって実現するようにしてもよい。
【0026】
画像データ受付部30aは、コンピュータまたは原稿読取装置から出力された画像データを受け付ける。
【0027】
印字データ生成部30bは、画像データ受付部30aによって受け付けられた画像データに対して種々の処理を施す。具体的には、印字データ生成部30bは、画像データ受付部30aによって受け付けられたRGB形式の画像データをCMYK形式の画像データに変換し、そのCMYK形式の画像データに対してハーフトーン処理を施すことによって、少なくとも3値以上の多値化データを生成する。本実施形態の多値化データは、印刷画像の1つのドットを形成するためにインクジェットヘッドの1つのノズルから吐出されるインクドロップの数を規定したデータであり、以下、インクドロップデータという。ハーフトーン処理としては、ディザ法を用いたハーフトーン処理や誤差拡散法を用いたハーフトーン処理などがある。なお、本実施形態においては、インクドロップデータが、本発明の印字データに相当する。
【0028】
そして、制御部30は、印字データ生成部30bによって生成された色毎のインクドロップデータに基づいて、C,M,YおよびKのラインヘッド31~34の各インクジェットヘッド35に駆動電圧信号を出力し、各インクジェットヘッド35からのインク吐出を制御する。
【0029】
また、制御部30は、搬送部20による印刷媒体Pの搬送と各インクジェットヘッド35からのインク吐出のタイミングとを制御することによって、印刷媒体P上に画像データに応じた印刷画像を形成する。
【0030】
ここで、たとえば画像データの中にベタ画像のパターンが含まれる場合、上述したように、隣接ノズルのクロストークに起因して、ベタ画像の印字開始ライン(1ライン目)においてインク滴の着弾位置ずれが発生し、ベタ画像のパターンに隙間が形成されて画質の低下を招く場合がある。なお、ベタ画像とは、印刷媒体Pの搬送方向および搬送方向に直交する方向について一定以上連続するパターンの画像のことである。
【0031】
また、隣接ノズルのクロストークの影響は、ベタ画像の印字開始ライン(1ライン目)で生じることが多く、2ライン目以降、すなわち既に各ノズルのインク吐出動作が開始された後については、インク吐出動作による振動が継続して発生しているので、クロストークは発生しにくく、着弾位置ずれも発生し難い。
【0032】
図4は、本実施形態のような2列のノズル列を有するインクジェットヘッド35を用いてベタ画像を印字した場合に、上述した着弾位置ずれが発生した例を示す図である。図4に示す例では、ベタ画像の1ライン目で着弾位置ずれが発生している。なお、図4においては、インクジェットヘッド35のノズル列35aによって印字されるドットに「1」の番号を付し、ノズル列35bによって印字されるドットに「2」の番号を付している。
【0033】
図4に示すように、ノズル列35aによって印字される「1」のドットについては、隣接ノズルのクロストークの影響によって、隣接する「1」のドット間で搬送方向について着弾位置ずれが生じている。ノズル列35bによって印字される「2」のドットについても、隣接ノズルのクロストークの影響によって、隣接する「2」のドット間で搬送方向について着弾位置ずれが生じている。
【0034】
本実施形態のインクジェットヘッド35のように、2列のノズル列35a,35bによって1ラインを高解像度に印字する場合、図4に示すように、着弾位置ずれが周期的に発生し、特に目立つ。
【0035】
そこで、本実施形態の制御部30は、上述したようなベタ画像の着弾位置ずれを目立たなくする印字制御を行う。以下、ベタ画像の着弾位置ずれを目立たなくする印字制御について、詳細に説明する。
【0036】
印字データ生成部30bは、画像データ受付部30aによって受け付けられた画像データの中にベタ画像のパターンが含まれるか否かを確認する。ベタ画像が含まれるか否かを確認する方法としては、画像データを構成する各画素のデータを確認するようにしてもよいし、ベタ画像として図形などのオブジェクトが含まれる場合にはそのオブジェクトを識別する識別情報を確認するようにしてもよい。
【0037】
そして、印字データ生成部30bは、画像データの中にベタ画像が含まれる場合には、そのベタ画像の位置を特定し、ベタ画像の印字開始ラインに、そのベタ画像の色以外の色のラインが形成されるようなインクドロップデータを新たに生成する。
【0038】
具体的には、たとえばベタ画像の色が黒(K)である場合、印字データ生成部30bは、黒(K)以外の近似色のラインを印字するようなインクドロップデータを新たに生成する。黒以外の近似色としては、たとえばK以外のC,MおよびYの混色によって生成される黒に近いグレーなどがある。また、印字データ生成部30bは、近似色のラインのインクドロップデータを生成する際、ベタ画像の解像度よりも低い解像度のインクドロップデータを生成するとともに、近似色のラインを形成する各ドットのインク量(1ドット当たりのインク量)を、ベタ画像を形成する各ドットのインク量(1ドット当たりのインク量)よりも増やす。なお、グレーのインクを用いる場合には、グレーのインクドロップデータを生成するようにしてもよい。
【0039】
そして、制御部30は、黒のベタ画像の印字開始ラインに上述した近似色のラインが重ねて印字されるように、新たに生成したC,MおよびYのインクドロップデータに基づいてラインヘッド31~33を制御する。
【0040】
図5は、黒のベタ画像の印字開始ラインに、上述した近似色のラインを重ねて印字した例を示す図である。図5に示す黒のドットが、黒のベタ画像を形成するドットであり、グレーのドットが、近似色のラインを形成するドットである。たとえば黒のベタ画像の解像度が600dpiの場合、近似色のラインの解像度は300dpiとする。
【0041】
図5に示すように、Kのベタ画像の印字開始ラインにおいて着弾位置ずれが生じているが、その上に、低解像度かつインク量を増やして近似色のラインを形成することによって、着弾位置ずれによって発生した隙間を埋めることができ、これを目立たなくすることができる。なお、近似色のラインを印字する際にも隣接ノズルのクロストークに起因する着弾位置ずれは発生するが、解像度が低く、1ドット当たりのインク量も多いため、着弾位置ずれの程度が小さく目立たない。
【0042】
なお、本実施形態においては、ベタ画像の印字開始ライン(1ライン目)のみ着弾位置ずれが発生した例について説明したが、たとえば複数ラインで着弾位置ずれが発生する場合には、上述した近似色のラインを複数ライン印字するようにしてもよい。
【0043】
着弾位置ずれが発生するライン(着弾位置ずれ画素の位置)については予め設定されており、たとえばベタ画像の印字開始側の端から1mm~3mmの範囲(1ライン~数ライン)であり、ベタ画像全体に近似色のドットを形成することはない。
【0044】
また、上記実施形態では、ベタ画像が黒(K)の場合について説明したが、ベタ画像がその他の色の場合でも同様であり、ベタ画像の色以外の近似色のラインのインクドロップデータを新たに生成し、ベタ画像の印字開始ラインに重ねて近似色のラインが印字される。また、黒のベタ画像をK,C,MおよびYの混色で印字する場合でも、K以外の近似色のラインを黒のベタ画像の印字開始ラインに重ねて印字するようにすればよい。
【0045】
また、上記実施形態においては、ベタ画像の印字開始ラインに重ねて近似色のラインを印字するようにしたが、この場合、ベタ画像の印字開始ラインと近似色のラインとが重ねて印字されるため、この部分だけ濃度が濃くなり、不自然になる場合がある。
【0046】
そこで、印字データ生成部30bが、ベタ画像の印字開始ラインと近似色のラインの印字開始タイミングとがずれるようなインクドロップデータを生成する。そして、制御部30が、本来のベタ画像の印字開始ラインの位置には、近似色のラインのみを印字し、実際のベタ画像の印字については、近似色のラインを印字した後、印刷媒体Pの搬送に対するベタ画像の印字開始タイミングを遅らせて印字するようにしてもよい。図6は、Kのベタ画像の印字開始タイミングを、本来のベタ画像の印字開始ラインの位置よりも遅らせた場合の例を示す図である。図6に示す黒のドットが、黒のベタ画像を形成するドットであり、グレーのドットが、近似色のラインを形成するドットである。なお、印字タイミングを遅らせるとは、ヘッド部10に対して、本来印字すべき位置に印字可能な位置まで印刷媒体Pが搬送された時点よりもさらに印刷媒体Pの搬送が進んだ時点を印字タイミングとすることを意味する。図6に示すように印字することによって、ベタ画像の印字開始ラインと近似色のラインとが重なって濃度が濃くなるのを抑制することができる。
【0047】
また、上述したようにベタ画像の印字開始タイミングを遅らせる場合、近似色のラインを1ライン印字した後、2ライン目以降も近似色で印字するとともに、2ライン目以降の近似色の印字の際には、1ドット当たりのインク量を1ライン目よりも徐々に減らして濃度を徐々に薄くするようなインクドロップデータを生成するようにしてもよい。これにより、近似色の印字部分とベタ画像の印字部分との境界を目立たなくすることができる。図6は、ベタ画像の1ライン目に重ねて近似色の2ライン目を、濃度を薄くして印字した例を示している。
【0048】
また、たとえばKのベタ画像を印字する際、ベタ画像全体に亘ってK以外の色の印字を低解像度で行って濃度を濃くする場合においても、Kのベタ画像の印字開始ラインに重ねてK以外の色のラインを印字する際には、そのK以外の色でその他のラインを印字する場合の1ドット当たりのインク量よりもインク量を増加させて印字するようにすればよい。なお、この場合も1ドット当たりのインク量を増加させるラインは、1ラインに限らない。着弾位置ずれが複数ラインである場合には、複数ラインのインク量を増加するようにしてもよい。また、複数ライン印字する場合には、2ライン目以降は、インク量を徐々に元に戻す(その他のラインのインク量に徐々に近づける)ようにしてもよい。
【0049】
上記実施形態の説明では、画像データの中のベタ画像の位置を特定し、そのベタ画像の印字開始ラインに近似色のラインを形成するようにしたが、ベタ画像に限らず、着弾位置ずれを発生する画像のパターンであれば、その他の画像でもよい。制御部30が、その画像の着弾位置ずれを発生している箇所を特定し、その箇所に近似色のラインを形成するようなインクドロップデータを生成するようにすればよい。
【0050】
また、隣接ノズルのクロストークに起因する着弾位置ずれは、ヘッド部10と印刷媒体Pとの距離(ギャップ)、インクジェットヘッド35に供給される駆動電圧信号の特性、およびインクジェットヘッド35の温度によってずれ量が変わってくる。したがって、そのずれ量に応じて、近似色のラインを印字する際の1ドット当たりのインク量や近似色のライン数を変更したインクドロップデータを生成するようにしてもよい。具体的には、ずれ量が大きいほど1ドット当たりのインク量を増やしたり、近似色のライン数を増やしたり、1ドット当たりのインク量および近似色のライン数の両方を増やしたりしてもよい。
【0051】
図7は、ヘッド部10と印刷媒体Pとの距離(ギャップ)、インクジェットヘッド35の温度およびインクジェットヘッド35に供給される駆動電圧信号の特性(駆動波形、駆動周波数)と、着弾位置ずれのずれ量との関係を示す図である。ずれ量1~ずれ量5のずれ量の大小関係は、ずれ量1<ずれ量2<ずれ量3<ずれ量4<ずれ量5である。
【0052】
また、図7に示すギャップ1およびギャップ2は、ヘッド部10と印刷媒体Pとの距離であり、ギャップ1<ギャップ2である。距離(ギャップ)が大きいほどずれ量は大きくなる。これはインク滴の飛翔距離が長くなるからである。
【0053】
また、図7に示す温度t1、温度t2および温度t3は、インクジェットヘッド35の温度であり、t1<t2<t3である。インクジェットヘッド35の温度が高いほどインク粘度が低くなるため、隣接するノズルからのインク滴の吐出による振動がおさまり難く、インク滴の吐出速度の変化が大きくなるためずれ量は大きくなる。
【0054】
また、図7に示す周波数1、周波数2および周波数3は、インクジェットヘッド35の各ノズルに供給される駆動電圧信号の駆動周波数であり、周波数1<周波数2<周波数3である。図8は、駆動電圧信号の波形の一例を示す図である。駆動電圧信号の電圧値がV1からV2に変化するときにノズルからインク滴が1滴吐出される。したがって、1つのノズルから複数のインク滴を連続して吐出する場合には、図8に示す波形の駆動電圧信号が複数連続してノズルに供給される。そして、駆動電圧信号の駆動周波数とは、所定のノズルからインク滴を吐出してから再度同じノズルから吐出を開始するまでの間隔に基づく周波数である。すわなち、所定のノズルに対して図8に示す波形の駆動電圧信号が1または複数連続して供給された後、再度同じノズルに対して駆動電圧信号が供給されるまでの間隔に基づく周波数である。そして、印刷媒体Pの搬送方向について高解像度な印字を行う場合ほど、駆動周波数は高くなり、単位時間当たりに吐出するインク滴の数を増やす必要があるので、1つのインク滴当たりのインク量が少なくなる。1つのインク滴当たりのインク量が少なくなると、インク滴に対するクロストークによる振動の影響が大きくなり、ずれ量が大きくなる。
【0055】
また、図7に示す駆動波形w1、駆動波形w2および駆動波形w3は、駆動電圧信号の波形の長さを意味し、図8に示す波形の駆動電圧信号の場合、波形の長さとはAの範囲の長さである。なお、駆動波形が変化しても駆動周波数は変化しない。そして、各インクジェットヘッド35にはそれぞれインク吐出に適した波形があり、インクジェットヘッド35毎に駆動電圧信号に波形を変える場合がある。
【0056】
そして、駆動電圧信号の波形が変化すると、ノズルからインクが吐出される際の吐出圧力の波形の位相が変化する。図9は、駆動電圧信号とその駆動電圧信号によってノズルからインクが吐出される際の吐出圧力の変化を示す図である。吐出圧力は、駆動電圧信号の電圧がV1からV2に変化したときが最も大きくなり、このときにインクがノズルから吐出される。そして、その後、吐出圧力は次第に減衰していくが、その圧力変化による残留振動が隣接するノズルに伝播してクロストークが発生する。
【0057】
そして、図9に示す吐出圧力の波形の位相が変化すると、隣接するノズルに伝播する残留振動の位相も変化するが、たとえば残留振動波形のピークのタイミングで隣接するノズルからインクが吐出されるとクロストークの影響を大きく受け、ずれ量が大きくなる。また、残留振動波形の振幅が小さいタイミングで隣接するノズルからインクが吐出されるとクロストークの影響は小さく、ずれ量が小さくなる。すなわち、駆動電圧信号の波形によってクロストークの影響が変化し、ずれ量が変わる。
【0058】
図7に示す駆動波形w1、駆動波形w2および駆動波形w3の関係は、駆動波形w1<駆動波形w2<駆動波形w3であるが、本実施形態では、駆動波形w2のときのずれ量が大きく、駆動波形w1および駆動波形w3のときのずれ量が小さくなるものとする。
【0059】
そして、印字データ生成部30bは、ヘッド部10と印刷媒体Pとの距離(ギャップ)、インクジェットヘッド35の温度およびインクジェットヘッド35に供給される駆動電圧信号の特性(駆動波形、駆動周波数)の情報を取得し、その取得した情報に基づいて、図7を参照してずれ量を求め、その求めたずれ量に基づいて、上述した近似色のラインの印字を行うインクドロップデータを生成する。これにより、ヘッド部10と印刷媒体Pとの距離(ギャップ)、インクジェットヘッド35の温度およびインクジェットヘッド35に供給される駆動電圧信号の特性に基づくずれ量に応じた近似色のラインの印字を行うことができ、着弾位置ずれによる隙間を適切に埋めることができる。
【0060】
具体的には、制御部30には、図10に示すようなずれ量と近似色のラインの印字条件(インク量およびライン数)とを対応付けたテーブルが設定されており、印字データ生成部30bは、図7を参照して求めたずれ量に基づいて、図10のテーブルを参照し、近似色のラインを印字する際の印字条件インク量とライン数を求める。なお、図10に示すインク量の関係は、インク量1<インク量2<インク量3<インク量4<インク量5である。また、図8に示すライン数1とは、近似色を印字するライン数が1ラインであることを意味し、ライン数2とは、近似色を印字するライン数が2ラインであることを意味する。
【0061】
印字データ生成部30bは、図10を参照して求めたインク量およびライン数に応じて、近似色のラインのインクドロップデータを生成する。
【0062】
なお、図7では考慮していないが、駆動電圧信号の電圧値(図8に示すV2-V1)も考慮して近似色のラインの印字条件を変更するようにしてもよい。駆動電圧信号の電圧値が小さくなるほどノズルから吐出されるインク滴の飛翔速度が遅くなるためずれ量は大きくなる。したがって、制御部30は、駆動電圧信号の電圧値が小さいほど近似色のラインのインク量またはライン数を増やすようにすればよい。
【0063】
なお、上述したヘッド部10と印刷媒体Pとの距離(ギャップ)、インクジェットヘッド35の温度およびインクジェットヘッド35に供給される駆動電圧信号の特性(駆動波形、駆動周波数、電圧値)については、たとえばユーザによって所定の入力部(図示省略)を用いて設定入力され、その設定入力された情報が制御部30によって取得される。入力部としては、たとえばインクジェット印刷装置1に設けられたタッチパネルなどからなる操作パネルを用いることができる。
【0064】
また、本実施形態においては、図7に示すようなテーブルを用いてずれ量を求めるようにしたが、ずれ量を求める関数を予め設定しておき、その関数を用いてずれ量を算出するようにしてもよい。
【0065】
また、インクジェットヘッド35の温度については、インクジェット印刷装置1に対して温度センサなどの温度検出部(図示省略)を設け、その温度検出部によって検出された温度を制御部30が取得するようにしてもよい。温度検出部によって検出される温度は、インクジェットヘッド35の温度でもよいし、環境温度でもよいし、インクジェットヘッド35に供給されるインクの温度でもよい。
【0066】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階でその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成することができる。たとえば実施形態に示される全構成要素を適宜組み合わせても良い。このような、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変形や応用が可能であることはもちろんである。
【0067】
本発明に関し、さらに以下の付記を開示する。
(付記)
【0068】
本発明の印刷装置において、印字データ生成部は、特定の色の印字開始位置と特定の色以外の色の印字開始位置とがずれるような印字データを生成することができる。
【0069】
また、本発明の印刷装置において、印字データ生成部は、特定の色以外の色を印字するための印字データを生成する際、その特定の色以外の色の1ドット当たりの液滴の量を特定の色の1ドット当たりの液滴の量よりも増やすことができる。
【0070】
また、本発明の印刷装置において、印字データ生成部は、印刷媒体と印刷媒体に液滴を吐出して印字を行う吐出ヘッドを有するヘッド部との距離に応じて、特定の色以外の色の印字条件が異なる印字データを生成することができる。
【0071】
本発明の印刷装置において、印字データ生成部は、吐出ヘッドの温度に応じて、特定の色以外の色の印字条件が異なる印字データを生成することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 インクジェット印刷装置
10 ヘッド部
20 搬送部
30 制御部
30a 画像データ受付部
30b 印字データ生成部
31~34 ラインヘッド
35 インクジェットヘッド
35a,35b ノズル列
36 ノズル
P 印刷媒体
図1
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図3
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図10