(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176414
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】ボールねじ装置
(51)【国際特許分類】
F16H 25/22 20060101AFI20231206BHJP
F16H 25/24 20060101ALI20231206BHJP
F16H 25/20 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
F16H25/22 C
F16H25/24 B
F16H25/20 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088682
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 諒
(72)【発明者】
【氏名】田中 一宇
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA12
3J062CD07
3J062CD22
3J062CD23
3J062CD54
3J062CD79
(57)【要約】
【課題】ナットの軸方向の大型化を回避できるボールねじ装置を提供する。
【解決手段】本開示のボールねじ装置は、ねじ軸、ナット、ボール、及び循環部を備える。ナットは、内周軌道面が設けられたナット本体と、ナット本体の第1方向の端部から径方向外側に突出するフランジを有する。ナット本体の第1方向の端面には、第2方向に窪み、かつナット本体の内周側に開口する収容部が設けられる。ナット本体の外周面のうちフランジよりも第2方向には、径方向に貫通する少なくとも1つ以上の貫通孔が設けられる。循環部は、第1方向から収容部に挿入され、径方向内側の向く側面にS字状の溝面が設けられた端面用コマと、径方向外側から貫通孔に挿入され、径方向内側の向く側面にS字状の溝面が設けられた少なくとも1つ以上の径方向用コマを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が第1方向を指し、他端が第2方向を指すねじ軸と、
前記ねじ軸に貫通されたナットと、
前記ねじ軸と前記ナットの間に配置される複数のボールと、
1リードを移動したボールを1リード分戻す複数の循環部と、
を備え、
前記ナットは、
内周面に内周軌道面が設けられたナット本体と、
前記ナット本体の前記第1方向の端部から径方向外側に突出するフランジと、
を有し、
前記ナット本体の前記第1方向の端面には、前記第2方向に窪み、かつ前記ナット本体の内周側に開口する収容部が設けられ、
前記ナット本体の外周面のうち前記フランジよりも前記第2方向には、径方向に貫通する少なくとも1つ以上の貫通孔が設けられ、
複数の前記循環部は、
前記第1方向から前記収容部に挿入され、径方向内側の向く側面にS字状の溝面が設けられた端面用コマと、
径方向外側から前記貫通孔に挿入され、径方向内側を向く側面にS字状の溝面が設けられた少なくとも1つ以上の径方向用コマと、
を有している
ボールねじ装置。
【請求項2】
前記端面用コマを貫通し、前記端面用コマを前記ナットに締め付けるボルトを備えている
請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項3】
前記ナット本体の前記第1方向の端面と対向する回転ストッパを備え、
前記回転ストッパは、前記ねじ軸に固定され、
前記ボルトの頭部は、前記ナット本体の前記第1方向の端面よりも前記第1方向に突出し、前記回転ストッパと接触する
請求項2に記載のボールねじ装置。
【請求項4】
前記ナット本体の内周面のうち前記第1方向の端部には、周方向に延びる溝が設けられ、
前記溝に収容されて、前記端面用コマに対し前記第1方向から当接する止め輪を有している
請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項5】
前記端面用コマは、前記収容部に圧入されている
請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項6】
複数の前記循環部は、周方向に等間隔で配置されている
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のボールねじ装置。
【請求項7】
前記フランジの外周面には、径方向内側に窪み、かつ前記第1方向及び前記第2方向に開口するガイド溝が設けられ、
前記ガイド溝には、前記ねじ軸と平行なガイドが嵌合している
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のボールねじ装置。
【請求項8】
前記フランジは、軸受装置の外輪の径方向内側に配置され、
前記フランジの外周面には、前記軸受装置の転動体が転動可能な溝面が設けられている
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のボールねじ装置。
【請求項9】
前記ナットは、遊星歯車機構から回転運動が伝達されて回転し、
前記遊星歯車機構は、
サンギヤと、
内歯車であり、前記サンギヤの外周を囲むリングギヤと、
前記サンギヤと前記リングギヤとの間に配置された複数のプラネタリギヤと、
前記複数のプラネタリギヤを回転自在に支持するキャリアと、
を有し、
前記フランジは、前記キャリアを成している
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のボールねじ装置。
【請求項10】
前記端面用コマと前記径方向用コマは、同じ材料で製造されている
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のボールねじ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ボールねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ装置は、ねじ軸と、ねじ軸に貫通されるナットと、ねじ軸とナットの間に配置される複数のボールと、を備えている。ねじ軸の外周面には、外周軌道面が設けられている。ナットの内周面には、外周軌道面に対向する内周軌道面が設けられている。外周軌道面と内周軌道面との間は、螺旋状の軌道を成している。この軌道に、複数のボールが配置される。また、ボールねじ装置は、ボールを循環させる循環部を備えている。循環部の一例として、コマが挙げられる。このコマによれば、1リードを移動したボールを1リード分戻すことができる。コマは、ナットと別部品であり、ナットの外周面を径方向内側に貫通する貫通孔に挿入される。以下、ナットに対し、径方向に挿入されるコマを径方向用コマと称する。そのほか、ナットは、下記特許文献に示すように、径方向外側に突出するフランジを有する場合がある。また、下記特許文献のフランジは、外周面にボールの転動面が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、フランジの外周面に転動面があると、径方向用コマを挿入する貫通孔を形成することができない。また、鍛造によりナットの内周面にS字溝面を成形する方法が考えられるが、径方向外側にフランジがあると、ナットの肉部が径方向外側に逃げ難い。よって、鍛造によってフランジの内周側にS字溝面を成形することが困難である。以上から、フランジを有するナットは、フランジの径方向内側に、循環部(径方向用コマ及びS字溝面)を設けることが難しい。このような理由から、フランジを有するナットは、フランジの径方向内側に内周軌道面が形成されていない。一方で、このようなナットは、内周軌道面がフランジに対し軸方向にずれて配置され、軸方向に大型化している。
【0005】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであり、ナットの軸方向の大型化を回避できるボールねじ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様に係るボールねじ装置は、一端が第1方向を指し、他端が第2方向を指すねじ軸と、前記ねじ軸に貫通されたナットと、前記ねじ軸と前記ナットの間に配置される複数のボールと、1リードを移動したボールを1リード分戻す複数の循環部と、を備える。前記ナットは、内周面に内周軌道面が設けられたナット本体と、前記ナット本体の前記第1方向の端部から径方向外側に突出するフランジと、を有している。前記ナット本体の前記第1方向の端面には、前記第2方向に窪み、かつ前記ナット本体の内周側に開口する収容部が設けられている。前記ナット本体の外周面のうち前記フランジよりも前記第2方向には、径方向に貫通する少なくとも1つ以上の貫通孔が設けられている。複数の前記循環部は、前記第1方向から前記収容部に挿入され、径方向内側の向く側面にS字状の溝面が設けられた端面用コマと、径方向外側から前記貫通孔に挿入され、径方向内側を向く側面にS字状の溝面が設けられた少なくとも1つ以上の径方向用コマと、を有している。
【0007】
本開示のボールねじ装置は、端面用コマを有しており、フランジの径方向内側に内周軌道面が形成されている。よって、ナットの軸方向の大型化が回避される。
【0008】
前記するボールねじ装置の好ましい態様として、前記端面用コマを貫通し、前記端面用コマを前記ナットに締め付けるボルトを備えている。
【0009】
前記構成によれば、端面用コマがナットから脱落することを防止できる。
【0010】
前記するボールねじ装置の好ましい態様として、前記ナット本体の前記第1方向の端面と対向する回転ストッパを備えている。前記回転ストッパは、前記ねじ軸に固定されている。前記ボルトの頭部は、前記ナット本体の前記第1方向の端面よりも前記第1方向に突出し、前記回転ストッパと接触する。
【0011】
前記構成によれば、軸方向に移動するナット又はねじ軸を初期位置に配置することができる。また、回転ストッパと接触する部品としてボルトを利用しており、部品点数の削減を図れる。
【0012】
前記するボールねじ装置の好ましい態様として、前記ナット本体の内周面のうち前記第1方向の端部には、周方向に延びる溝が設けられている。前記溝に収容されて、前記端面用コマに対し前記第1方向から当接する止め輪を有している。
【0013】
前記構成によれば、端面用コマがナットから脱落することを防止できる。
【0014】
前記するボールねじ装置の好ましい態様として、前記端面用コマは、前記収容部に圧入されている。
【0015】
前記構成によれば、端面用コマがナットから脱落することを防止できる。また、ボルトや止め輪が不要となり、部品点数の削減を図れる。
【0016】
前記するボールねじ装置の好ましい態様として、複数の前記循環部は、周方向に等間隔で配置されている。
【0017】
ねじ軸は、ボールを介してナットに支持される。ただし、ねじ軸の中心線から視て循環部が設けられている方向への荷重がねじ軸に作用すると、ねじ軸は、ボールを介してナットに支持されない。一方で、前記構成によれば、循環部は、周方向に等間隔に配置され、周方向に分散している。よって、ねじ軸は周方向の全ての方向からナットに支持されている。
【0018】
前記するボールねじ装置の好ましい態様として、前記フランジの外周面には、径方向内側に窪み、かつ前記第1方向及び前記第2方向に開口するガイド溝が設けられている。前記ガイド溝には、前記ねじ軸と平行なガイドが嵌合している。
【0019】
前記構成によれば、フランジを有するナットが回り止めされる。
【0020】
前記するボールねじ装置の好ましい態様として、前記フランジは、軸受装置の外輪の径方向内側に配置されている。前記フランジの外周面には、前記軸受装置の転動体が転動可能な溝面が設けられている。
【0021】
前記構成によれば、軸受装置の内輪を別途用意する必要がなく、部品点数の削減を図れる。
【0022】
前記するボールねじ装置の好ましい態様として、前記ナットは、遊星歯車機構から回転運動が伝達されて回転している。前記遊星歯車機構は、サンギヤと、内歯車であり、前記サンギヤの外周を囲むリングギヤと、前記サンギヤと前記リングギヤとの間に配置された複数のプラネタリギヤと、前記複数のプラネタリギヤを回転自在に支持するキャリアと、を有している。前記フランジは、前記キャリアを成している。
【0023】
前記構成によれば、キャリアを別途用意する必要がなく、部品点数の削減を図れる。
【0024】
前記するボールねじ装置の好ましい態様として、前記端面用コマと前記径方向用コマは、同じ材料で製造されている。
【0025】
前記構成によれば、各循環部の線膨張係数を同じとすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本開示のボールねじ装置によれば、ナットの軸方向の大型化を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、実施形態1のボールねじ装置を軸方向に切った断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態1のナット及び端面用コマを第1方向から視た分解斜視図である。
【
図3】
図3は、ねじ軸の中心線と雌ねじ穴の中心を含む平面で切った場合のナットの断面である。
【
図4】
図4は、ナットの断面図であり、詳細には
図1の矢印IVから視た場合の断面図である。
【
図5】
図5は、変形例1のボールねじ装置の斜視図である。
【
図6】
図6は、変形例2のボールねじ装置のナットの断面図である。
【
図7】
図7は、変形例2のボールねじ装置のナットを第1方向X1から視た図である。
【
図8】
図8は、変形例3のボールねじ装置の断面図である。
【
図9】
図9は、変形例9のボールねじ装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本開示を実施するための形態につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の説明で記載した内容により本開示が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0029】
(実施形態1)
図1は、実施形態1のボールねじ装置を軸方向に切った断面図である。
図2は、実施形態1のナット及び端面用コマを第1方向から視た分解斜視図である。
図3は、ねじ軸の中心線と雌ねじ穴の中心を含む平面で切った場合のナットの断面である。
図4は、ナットの断面図であり、詳細には
図1の矢印IVから視た場合の断面図である。
【0030】
図1に示すように、実施形態1のボールねじ装置100は、ねじ軸1と、ナット2と、複数のボール3と、複数の循環部4と、筒体8と、ハウジング110と、を備えている。以下、ねじ軸1の中心線O1と平行な方向を軸方向と称する。
【0031】
ねじ軸1は、ねじ軸本体10と、連結部11と、を備えている。ねじ軸本体10は、外周面に外周軌道面12が設けられている。ねじ軸本体10は、ナット2を貫通している。なお、軸方向のうち、ねじ軸本体10から視て連結部11が配置される方を第1方向X1と称する。第1方向X1の反対方向を第2方向X2と称する。
【0032】
連結部11は、他の装置から回転運動が入力される部位である。よって、本実施形態では、ねじ軸1に回転運動が入力され、ナット2が軸方向に移動するようになっている。なお、本開示のボールねじ装置は、ナット2に回転運動が入力され、ねじ軸1が軸方向に移動するようになっていてもよい。また、ねじ軸1が軸方向に移動する場合、連結部11が不要となる。つまり、本開示のねじ軸1において、連結部11は必須の構成要素ではない。
【0033】
連結部11の外周面には、軸スプラインが設けられている。連結部11は、動力伝達部120にスプライン嵌合している。また、スプライン嵌合には締め代が設けられており、連結部11は、動力伝達部120に対し、軸方向に移動不能に連結している。そして、動力伝達部120が回転運動を行うと、ねじ軸1が動力伝達部120と一体に回転する。
【0034】
ナット2は、円筒状のナット本体20と、ナット本体20から径方向外側に突出するフランジ21と、を備えている。フランジ21は、ナット本体20の第1方向X1の端部に配置されている。
【0035】
ナット本体20の内周面20aには、外周軌道面12と対向する内周軌道面22が設けられている。内周軌道面22と外周軌道面12との間の空間は、軌道5を成している。そして、複数のボール3は、軌道5に配置されている。
【0036】
ナット本体20の内周面20aのうち内周軌道面22が形成されている範囲は、第1方向X1の端の近くから、第2方向X2の端の近くまで形成されている。よって、内周軌道面22のうち第1方向X1の端寄りの部分は、フランジ21に対し、径方向内側に配置されている(補助線Hを参照)。なお、補助線Hは、フランジ21の第2方向X2を向く端面21aから径方向内側に引いた仮想線である。
【0037】
また、ナット本体20は、第1方向X1を向く第1端面23を有している。第1端面23には、第2方向X2に窪む収容部24が設けられている。収容部24には、循環部4の端面用コマ41が収容される。
【0038】
図2に示すように、収容部24は、ナット本体20の内周側に開口している。また、収容部24は、第2方向X2への深さが異なる第1収容部25と第2収容部26を有している。第1収容部25は、第1端面23から第2方向X2に延びて内周軌道面22の一部を切り欠いている。第2収容部26は、第1端面23から第2方向X2に延びているが、内周軌道面22を切り欠かない程度の深さとなっている。
【0039】
第1収容部25は、軸方向から視て円弧状を成している。第1収容部25は、周方向に対向する一対の対向壁25a、25bと、径方向外側を囲む第1外周壁25cと、底面を成す第1底面25dと、を有している。
【0040】
第2収容部26は、第1収容部25に対し、周方向に隣り合う位置に配置されている。第2収容部26は、底面を成す第2底面26aと、径方向外側を囲む第2外周壁26bを有している。第2底面26aには、ボルト6が螺合する雌ねじ穴26cが設けられている。
【0041】
第2外周壁26bは、第1外周壁25cよりも径方向外側に位置している。よって、第2底面26aは、第1底面25dよりも径方向外側に拡張している。このため、雌ねじ穴26cをより径方向外側に配置することが可能となっている。そして、雌ねじ穴26cをより径方向外側に配置すると、
図3に示すように、雌ねじ穴26cと内周軌道面22との間の距離W1が大きくなる。つまり、雌ねじ穴26cと内周軌道面22との間にあるナット本体20の肉部が薄くなりナット本体20の剛性が低下する、ということを回避できる。
【0042】
なお、本実施形態では、第2底面26aと第2外周壁26bとの隅部26dに、開口部27が設けられている。よって、フランジ21の端面21aに対し第2方向X2にある空間と第2収容部26が連通している。
【0043】
図2に示すように、フランジ21の外周面21bは、中心線O1を中心に円形状を成している。また、フランジ21の外周面21bには、径方向内側に窪むガイド溝21cが設けられている。ガイド溝21cは、第1方向X1及び第2方向X2に開口している。ガイド溝21cは、120度間隔で3つ設けられている。つまり、複数のガイド溝21cが周方向に等間隔で設けられている。
【0044】
図1に示すように、フランジ21の外周側には、ハウジング110に設けられたガイド111が配置されている。ガイド111は、軸方向に延在し、ガイド溝21cを軸方向に貫通している。よって、ナット2は、中心線Oを中心に回転しないようにハウジング110に支持されている。また、ナット2は、ガイド111に沿って軸方向に移動自在にハウジング110に支持されている。
【0045】
ナット本体20には、ナット本体20の外周面20bから径方向内側に貫通する貫通孔20cが設けられている。貫通孔20cは、循環部4の径方向用コマ40を収容する空間である。貫通孔20cは、3つ設けられている(
図1で1つのみ図示。残り2つは
図4参照)。
【0046】
複数の循環部4は、3つの径方向用コマ(
図1に1つのみ図示。残り2つは
図4参照)40と、1つの端面用コマ41と、を備えている。径方向用コマ40は、外周面20bの径方向外側から貫通孔20cに挿入されている。径方向用コマ40の径方向内側を向く面には、S字状の溝面45が設けられている。なお、3つの径方向用コマ40に関し、第1方向X1から順に第1径方向用コマ40a、第2径方向用コマ40b、第3径方向用コマ40cと称する場合がある。
【0047】
図4に示すように、第1径方向用コマ40aは、補助線Hよりも第2方向X2に位置している。よって、残りの第2径方向用コマ40b(
図1参照)と第3径方向用コマ40cも補助線Hよりも第2方向X2に位置している。つまり、3つの径方向用コマ40(3つの貫通孔20c)は、フランジ21に対し、第2方向X2(軸方向)軸方向にずれて配置されている。なお、
図4に示すように、貫通孔20cの軸方向の側面には、軸方向に窪む一対の凹部29、29が設けられている。そして、径方向用コマ40の軸方向の側面には、一対の凹部29、29に入り込む一対の凸部40eが設けられている。よって、径方向用コマ40は、ナット2の内周側に脱落しないように規制されている。
【0048】
ナット本体20の外周面20bには、筒体8が嵌合している。そして、3つの径方向用コマ40の径方向外側の面は、筒体8と当接している。これにより、径方向用コマ40がナット2から脱落しない。また、ナット本体20の外周面20bの第2方向X2の端部には、径方向外側に突出する突起20dが設けられている。筒体8は、第1方向X1から突起20dに当接している。よって、筒体8は、第2方向X2へ移動しないように規制している。
【0049】
図1に示すように、端面用コマ41は、第1端面23の第1方向X1から収容部24に挿入(収容)されている。そして、端面用コマ41の一部は、フランジ21の径方向内側に配置されている。端面用コマ41の製造方法は特に限定されない。例えば、端面用コマ41は樹脂成型品であってもよい。または、金属を切削することで端面用コマ41を製造してもよい。若しくは、金属粉末射出成形により端面用コマ41を製造してもよい。
図2に示すように、端面用コマ41は、第1収容部25に収容されるコマ本体42と、第2収容部26に収容される被締結部43と、を備えている。
【0050】
図4に示すように、コマ本体42は、径方向内側を向く面にS字状の溝面44が設けられている。これにより、フランジ21の径方向内側にある内周軌道面22を転動するボール3は、コマ本体42の溝面44により1リード戻る。また、コマ本体42は、第1収容部25の一対の対向壁25a、25bと、第1外周壁25cと、第1底面25dに当接している。よって、コマ本体42は位置決めされ、コマ本体42の姿勢が安定する。そして、溝面44と内周軌道面22とのボールの受け渡しが円滑となる。なお、本実施形態の溝面44は、タングを有していないが、本開示においてはタングを有していてもよい。また、本開示において、コマ本体42は、第1収容部25の一対の対向壁25a、25bと、第1外周壁25cと、第1底面25dの全てに当接していなくてもよい。つまり、コマ本体42は、一対の対向壁25a、25b、第1外周壁25c、及び第1底面25dのうち各面又はいずれかの面に対し、公差による微小隙間を有するようにしてもよい。若しくは、コマ本体42は、第1収容部25内に圧入されるようになっていてもよい。
【0051】
また、
図1、
図4に示すように、第1方向X1から、端面用コマ41の溝面44、第1径方向用コマ40aの溝面45、第2径方向用コマ40bの溝面45、第3径方向用コマ40cの溝面45の順で配置されている。これらの溝面44と3つの溝面45は、90度間隔で配置されている。よって、複数の循環部4は周方向に等間隔で配置されている。
【0052】
なお、中心線O1から循環部4が配置される方向の荷重(径方向に作用する荷重)に関し、ナット2は、循環部4が設けられている部分で、ボール3を介してねじ軸1を支持することができない。一方で本実施形態によれば、4つの循環部4は、周方向に等間隔に配置され、周方向に分散している。よって、ねじ軸1は周方向の全ての方向からナット2に支持されている。
【0053】
図3に示すように、被締結部43は、第2底面26aに当接するように配置される。また、被締結部43には、ボルト6の軸部6aが貫通する穴43aが設けられている。そして、被締結部43は、ボルト6の頭部6bに締め付けられている。これにより、端面用コマ41がナット2から離脱しないようになっている。
【0054】
被締結部43は、軸方向の厚みが小さい。このため、ボルト6の頭部6bも第2収容部26に収容されている。よって、ボルト6が第1端面23よりも第1方向X1に突出しナット2の占有スペースが大きくなる、ということが回避される。
【0055】
以上、実施形態1のボールねじ装置100は、一端が第1方向X1を指し、他端が第2方向X2を指すねじ軸1と、ねじ軸1に貫通されたナット2と、ねじ軸1とナット2の間に配置される複数のボール3と、1リードを移動したボール3を1リード分戻す複数の循環部4と、を備えている。ナット2は、内周面20aに内周軌道面22が設けられたナット本体20と、ナット本体20の第1方向X1の端部から径方向外側に突出するフランジ21と、を有している。ナット本体20の第1方向X1の端面(第1端面23)には、第2方向X2に窪み、かつナット本体20の内周側に開口する収容部24が設けられている。ナット本体20の外周面のうちフランジ21よりも第2方向X2には、径方向に貫通する少なくとも1つ以上の貫通孔20cが設けられている。複数の循環部4は、第1方向X1から収容部24に挿入され、径方向内側の向く側面にS字状の溝面44が設けられた端面用コマ41と、径方向外側から貫通孔20cに挿入され、径方向内側を向く側面にS字状の溝面45が設けられた少なくとも1つ以上の径方向用コマ40と、を有している。
【0056】
実施形態1によれば、フランジ21の径方向内側に内周軌道面22が形成され、ナット2の軸方向の大型化を回避できる。
【0057】
また、実施形態1のボールねじ装置100は、端面用コマ41を貫通し、端面用コマ41をナット2に締め付けるボルト6を備えている。
【0058】
このボルト6によれば、端面用コマ41がナット2から脱落しない。
【0059】
また、実施形態1のボールねじ装置100において、複数の循環部4は、周方向に等間隔で配置されている。
【0060】
実施形態1のねじ軸1は、周方向の全ての方向からナット2に支持されている。
【0061】
また、実施形態1のボールねじ装置100において、フランジ21の外周面には、径方向内側に窪み、かつ第1方向X1及び第2方向X2に開口するガイド溝21cが設けられている。ガイド溝21cには、ねじ軸1と平行なガイド111が嵌合している。
【0062】
実施形態1によれば、ナット2の回転が規制される。
【0063】
次に、実施形態1のボールねじ装置100の一部を変更した変形例について説明する。以下の説明では、実施形態1との相違点に絞って説明する。
【0064】
(変形例1)
図5は、変形例1のボールねじ装置の斜視図である。
図5に示すように、変形例1のボールねじ装置100Aは、端面用コマ41に代えて端面用コマ41Aが用いられている点で、実施形態1のボールねじ装置100と相違する。変形例1のボールねじ装置100Aは、ねじ軸の連結部11に回転ストッパ130が取り付けられている点で、実施形態1のボールねじ装置100と相違する。
【0065】
端面用コマ41Aの第1方向X1の端面46は、ナット本体20の第1端面23と面一となっている。このため、ボルト6の頭部6bは、ナット本体20の第1端面23よりも第1方向X1に突出している。
【0066】
回転ストッパ130は、連結部11にスプライン嵌合する環状部131と、環状部131から径方向外側に突出する突起132と、を有している。回転ストッパ130は、連結部11に回り止めされており、ねじ軸1と一体に回転する。以下、第1方向X1から視て、左回りを第1回転方向L1と称し、右回りを第2回転方向L2と称する。突起132は、第1端面23と対向している。突起132は、第2回転方向L2を向く接触面132aを有している。接触面132aは、ボルト6の頭部6bと当接している。
【0067】
変形例1のボールねじ装置100Aによれば、
図5に示す状態から、ねじ軸1が第1回転方向L1に回転すると、ナット2が第2方向X2に移動する。ねじ軸1が第2回転方向L2に回転すると、ナット2が第1方向X1に移動する。また、ナット2が第2方向X2に移動した状態で、ねじ軸1が第2回転方向L2に回転すると、ボルト6の頭部6bは、ねじ軸1と一体に回転する回転ストッパ130の突起132の軌跡上に進入し、突起132の接触面132aと接触する。これにより、ねじ軸1による第2回転方向L2への回転が規制され、ナット2の第1方向X1の移動が停止する。よって、変形例1によれば、確実にナット2を初期位置(接触面132aとボルト6とが接触した状態)に配置することができる。また、変形例1によれば、回転ストッパ130と接触する部品としてボルト6を利用しており、部品点数の削減を図れる。
【0068】
(変形例2)
図6は、変形例2のボールねじ装置のナットの断面図である。
図7は、変形例2のボールねじ装置のナットを第1方向X1から視た図である。
図6に示すように、変形例2のボールねじ装置100Bのナット2Bは、ボルト6に代えて止め輪6Bを備えている点で、実施形態1のボールねじ装置100と相違している。
【0069】
ナット2Bの内周面20aの第1方向X1の端部に、円筒面28が設けられている。円筒面28は、収容部24よりも第1方向X1に配置されている。円筒面28の径は、収容部24の第1外周壁25cと同径となっている。円筒面28には、周方向に延びる溝28aが設けられている。そして、溝28aには、止め輪6Bの外周部が嵌合している。止め輪6Bは、第1方向X1から端面用コマ41Bに当接している。これにより、端面用コマ41Bがナット2Bから離脱しない。
【0070】
なお、実施形態1の端面用コマ41は、第1方向X1の端面が平坦でなかったが(
図2参照)、変形例2において、端面用コマ41Bの第1方向X1の端面46は、平坦面となっている。そして、端面46は、周方向の一端から他端にかけて止め輪6Bに当接している。よって、変形例2では、端面用コマ41Bの周方向の一端又は他端が軸方向にガタつかないように支持されている。
【0071】
また、変形例2では、ボルト6を用いていない。よって、
図7に示すように、変形例2の端面用コマ41Bは、コマ本体42のみから成る。つまり、端面用コマ41Bは、被締結部43を有していない。また、ナット2の収容部24も、第2収容部26を有しておらず、第1収容部25のみとなっている。よって、雌ねじ穴26cによりナット本体20の肉部が薄くなる、ということが回避される。
【0072】
以上、変形例2について説明したが、変形例2では、ボルト6に代えて、止め輪6Bによって固定した例を説明したが、本開示は、端面用コマが収容部24に圧入されることでナット2に固定されるようにしてもよい。また、圧入による固定方法として、端面用コマは、第1収容部25の一対の対向壁25a、25b(
図4参照)に対し、周方向から挟持されるような例が挙げられる。また、変形例2の端面用コマ41Bを収容部24に圧入されるようにしてもよい。これによれば、止め輪6Bのみで固定する場合よりも、端面用コマ41Bが強固に固定される。
【0073】
(変形例3)
図8は、変形例3のボールねじ装置の断面図である。
図8に示すように、変形例3のボールねじ装置100Cは、軸受装置140を備えている点で、実施形態1のボールねじ装置100と相違する。また、変形例3のボールねじ装置100Cは、フランジ21の外周面21bに溝面21dが設けられている点で、実施形態1のボールねじ装置100と相違する。
【0074】
軸受装置140の外輪141は、ハウジング110に嵌合している。この外輪141の径方向内側に、フランジ21が配置されている。外輪141の溝面141aとフランジ21の溝面21dとが対向している。また、溝面141aと溝面21dとの間に複数の転動体142が配置されている。つまり、ナット2Cは、軸受装置140により回転自在にハウジング110に固定されている。
【0075】
よって、変形例3では、ナット2に回転運動が入力され、ねじ軸1Cが軸方向に移動するようになっている。
【0076】
(変形例4)
図9は、変形例9のボールねじ装置の断面図である。
図9に示すように、変形例4のボールねじ装置100Dは、遊星歯車機構150を有している点で、変形例3のボールねじ装置100Cと相違する。遊星歯車機構150は、入力軸151と、サンギヤ152と、リングギヤ153と、複数のプラネタリギヤ154と、複数の伝達軸155と、キャリア156と、を備えている。
【0077】
入力軸151には、他の装置から回転運動が入力される。入力軸151は、中心線O1と同軸上に配置されている。サンギヤ152は、入力軸151に貫通され、入力軸151と一体に回転する。リングギヤ153は、入力軸151を中心とする内歯車である。リングギヤ153の外周面がハウジング110に嵌合している。
【0078】
プラネタリギヤ154は、サンギヤ152とリングギヤ153の間に配置されている。また、プラネタリギヤ154は、サンギヤ152及びリングギヤ153に歯合している。プラネタリギヤ154は、伝達軸155に貫通されている。プラネタリギヤ154は、伝達軸155を中心に回転自在に支持されている。
【0079】
キャリア156は、中心線Oを中心とする環状部品である。変形例4において、ナット2Dのフランジ21がキャリア156を成している。フランジ21には、軸方向に貫通する貫通孔21eが設けられている。伝達軸155は、フランジ21の貫通孔21eに挿入され、フランジ21に支持されている。以上、変形例4によれば、キャリア156を別途用意する必要がなく、部品点数の削減を図れる。
【0080】
以上、実施形態1と各変形例について説明したが、本開示は、上記したものに限定されない。例えば、実施形態1では、3つのS字溝面40が設けられているが、本開示では、S字溝面が少なくとも1つ以上あればよい。また、本開示は、端面用コマ41と径方向用コマ40は、同じ材料で製造されていてもよい。これによれば、各循環部4の線膨張係数を同じにすることができる。
【0081】
また、実施形態1と各変形例では、径方向用コマ40の抜け止めのため、筒体8を備えた例を挙げているが、本開示は、筒体8を備えていなくてもよい。つまり、本開示は、ボルトで径方向用コマを締結してもよい。または、径方向用コマを軸方向に貫通するピンにより径方向用コマの脱落を規制してもよい。若しくは、径方向用コマの一部を加締めて、ナットの溝に引っ掛かるようにしてもよい。また、実施形態1では、筒体8の抜け止めのために突起20dを有しているが、本開示は、突起20dに代えて、凹部を設けてもよい。そして、筒部8の端部が凹部に入り込むように加締めてもよい。これによれば、筒対8の端部(加締められた部分)が凹部に引っ掛かり、筒体8がナット2から抜けることを防止できる。
【0082】
なお、本開示は、以下のような構成の組み合わせであってもよい。
(1)一端が第1方向を指し、他端が第2方向を指すねじ軸と、前記ねじ軸に貫通されたナットと、前記ねじ軸と前記ナットの間に配置される複数のボールと、1リードを移動したボールを1リード分戻す複数の循環部と、を備える。前記ナットは、内周面に内周軌道面が設けられたナット本体と、前記ナット本体の前記第1方向の端部から径方向外側に突出するフランジと、を有している。前記ナット本体の前記第1方向の端面には、前記第2方向に窪み、かつ前記ナット本体の内周側に開口する収容部が設けられている。前記ナット本体の外周面のうち前記フランジよりも前記第2方向には、径方向に貫通する少なくとも1つ以上の貫通孔が設けられている。複数の前記循環部は、前記第1方向から前記収容部に挿入され、径方向内側の向く側面にS字状の溝面が設けられた端面用コマと、径方向外側から前記貫通孔に挿入され、径方向内側を向く側面にS字状の溝面が設けられた少なくとも1つ以上の径方向用コマと、を有しているボールねじ装置。
(2)前記端面用コマを貫通し、前記端面用コマを前記ナットに締め付けるボルトを備えている(1)に記載のボールねじ装置。
(3)前記ナット本体の前記第1方向の端面と対向する回転ストッパを備え、前記回転ストッパは、前記ねじ軸に固定され、前記ボルトの頭部は、前記ナット本体の前記第1方向の端面よりも前記第1方向に突出し、前記回転ストッパと接触する(2)に記載のボールねじ装置。
(4)前記ナット本体の内周面のうち前記第1方向の端部には、周方向に延びる溝が設けられ、前記溝に収容されて、前記端面用コマに対し前記第1方向から当接する止め輪を有している(1)に記載のボールねじ装置。
(5)前記端面用コマは、前記収容部に圧入されている(1)から(4)のいずれか1つに記載のボールねじ装置。
(6)複数の前記循環部は、周方向に等間隔で配置されている(1)から(5)のいずれか1つに記載のボールねじ装置。
(7)前記フランジの外周面には、径方向内側に窪み、かつ前記第1方向及び前記第2方向に開口するガイド溝が設けられ、前記ガイド溝には、前記ねじ軸と平行なガイドが嵌合している(1)から(6)のいずれか1つに記載のボールねじ装置。
(8)前記フランジは、軸受装置の外輪の径方向内側に配置され、前記フランジの外周面には、前記軸受装置の転動体が転動可能な溝面が設けられている(1)から(6)のいずれか1つに記載のボールねじ装置。
(9)前記ナットは、遊星歯車機構から回転運動が伝達されて回転し、前記遊星歯車機構は、サンギヤと、内歯車であり、前記サンギヤの外周を囲むリングギヤと、前記サンギヤと前記リングギヤとの間に配置された複数のプラネタリギヤと、前記複数のプラネタリギヤを回転自在に支持するキャリアと、を有し、前記フランジは、前記キャリアを成している(1)から(6)のいずれか1つに記載のボールねじ装置。
(10)前記端面用コマと前記径方向用コマは、同じ材料で製造されている(1)から(9)のいずれか1つに記載のボールねじ装置。
【符号の説明】
【0083】
100、100A、100B、100C、100D ボールねじ装置
1 ねじ軸
2、2B ナット
3 ボール
4 循環部
6 ボルト
6B 止め輪
8 筒体
110 ハウジング
10 ねじ軸本体
12 外周軌道面
20 ナット本体
20c 貫通孔
21 フランジ
21b 外周面
21c ガイド溝
22 内周軌道面
23 第1端面(端面)
24 収容部
25 第1収容部
26 第2収容部
26c 雌ねじ穴
40 径方向用コマ
40a 第1径方向用コマ
40b 第2径方向用コマ
40c 第3径方向用コマ
41、41A 端面用コマ
42 コマ本体
43 被締結部
44 溝面
45 溝面
130 回転ストッパ
132 突起
132a 接触面
140 軸受装置
141 外輪
142 転動体
150 遊星歯車機構
156 キャリア