(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176430
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 6/20 20160101AFI20231206BHJP
H02P 6/18 20160101ALI20231206BHJP
【FI】
H02P6/20
H02P6/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088705
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】米原 和哉
(72)【発明者】
【氏名】山本 暁徳
【テーマコード(参考)】
5H560
【Fターム(参考)】
5H560AA01
5H560DA12
5H560EB01
5H560HA09
5H560TT02
5H560TT11
5H560UA05
(57)【要約】
【課題】位置センサレス方式で始動時の位置決めを行う際の電流ストレスを、より分散させることができるモータ制御装置を提供する。
【解決手段】モータ制御システム1において、IC5は、インバータ4を介してモータ2に通電することで、位置センサレス方式でモータを制御する際に、モータ2のロータの位置決め処理に使用する通電パターンを、3種類に変化させる。IC5は、前回の位置決め処理に使用した通電パターンをメモリ10に記憶し、位置決め処理を行なう毎に通電パターンを変化させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータ回路(4)を介して多相モータ(2)に通電することで、位置センサレス方式により前記モータを制御し、
前記モータのロータの位置決め処理に使用する通電パターンを、3種類以上に変化させる制御部(5,21)を備えるモータ制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前回の位置決め処理に使用した通電パターンを記憶する記憶部(10)を備え、
前記位置決め処理を行なう毎に、前記通電パターンを変化させる請求項1記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記制御部(5)は、前記モータへの通電回数を計数する計数部(6,7)を備え、
前記計数部により計数された値に応じて、前記通電パターンを変化させる順序を切り替える請求項1記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記多相モータは、車両に搭載されるもので、
前記計数部は、イグニッションスイッチがONされている期間の通電回数に、前記イグニッションスイッチがOFFされている期間の通電回数を加えるか否かを、選択して計数可能である請求項3記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記3種類以上の通電パターンには、各相への通電態様が決定された非反転パターン群と、
これらの非反転パターン群における各相への通電極性を反転させた反転パターン群とを含む請求項1から4の何れか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記モータへの通電回数を計数する計数部を備え、
前記計数部により計数された値を、前記モータの相数で除した剰余がゼロか否かに応じて、前記非反転パターン群と、前記反転パターン群との何れを使用するかを選択する請求項5記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを位置センサレス方式で制御する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータを位置センサレス方式で制御する際に、モータを始動させるために行うロータの位置決めでは、インバータ等の駆動回路を介して通電する電流を、特定の方向に固定する。例えば、起動と停止とを頻繁に繰り返すモータについては、位置決めを行う頻度が高くなる。そのため、毎回同じ通電パターンで位置決めを行うと、回路素子やモータの巻線に通電によるストレスを与えてしまう。
【0003】
例えば、特許文献1では、電流をインバータのハイサイドスイッチ群又はローサイドスイッチ群とモータの巻線との間で還流させるようにして、電流ストレスを分散させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では通電パターンが2つしかなく、電流ストレスを十分に分散できているとは言えない。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、位置センサレス方式で始動時の位置決めを行う際の電流ストレスを、より分散させることができるモータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載のモータ制御装置によれば、制御部は、インバータ回路を介して多相モータに通電することで、位置センサレス方式でモータを制御する際に、モータのロータの位置決め処理に使用する通電パターンを3種類以上に変化させる。このように構成すれば、電流ストレスを従来よりも分散させることができる。また、特許文献1では、まれな過電流の発生時に対応して電流ストレスを分散させているが、本発明では、ロータの位置決め処理を行なう毎に電流ストレスを分散させる。つまり、モータを通常制御している期間内で電流ストレスを分散させることができる。
【0008】
請求項2記載のモータ制御装置によれば、制御部は、前回の位置決め処理に使用した通電パターンを記憶部に記憶し、位置決め処理を行なう毎に通電パターンを変化させる。このように構成すれば、電流ストレスをより確実に分散させることができる。
【0009】
請求項3記載のモータ制御装置によれば、制御部は、計数部によりモータへの通電回数を計数し、その計数された値に応じて、通電パターンを変化させる順序を切り替える。このように構成すれば、電流ストレスをより多様に分散させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態であり、モータ制御システムの構成を示す機能ブロック図
【
図3】モータのステータ及びロータの構成を模式的に示す図
【
図4】通電パターンA~Cに対応した電流ベクトルを示す図
【
図6】第2実施形態であり、ICによる処理内容を示すフローチャート
【
図7】
図6に示す処理に対応したタイミングチャート
【
図8】第3実施形態であり、ICによる処理内容を示すフローチャート
【
図9】第4実施形態であり、ICによる処理内容を示すフローチャート
【
図10】第5実施形態であり、ICの内部構成を示す機能ブロック図
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態について説明する。
図1に示すように、本実施形態のモータ制御システム1は、例えば、車両に搭載されるラジエータを空冷するためのファンを駆動するモータ2を制御対象としている。駆動回路3は、インバータ4及びIC5を備え、駆動回路3には、車両のバッテリ電源である電源+B、及びイグニッションスイッチを介して電源IGSが供給されている。以下、イグニッションスイッチについても「IGS」と称することがある。IC5は制御部に相当し、インバータ4を介してモータ2を位置センサレス制御する。インバータ回路であるインバータ4は、図示しないが、6つの例えばMOSFET等のスイッチング素子を3相ブリッジ接続して構成されている。
【0012】
IC5は、
図2に示すように、IGSがOFFしている期間にモータ2への通電回数をカウントするカウンタ6、IGSがONしている期間に同通電回数をカウントするカウンタ7を備える。これらのカウンタ6,7のカウント値は、加算器8及び通電回数記憶実行部9を介してメモリ10に記憶される。メモリ10は記憶部に相当する。モータ2は、例えば3相構成のブラシレスDCモータである。IC5は、停止しているモータ2を起動させる際には、ロータの位置決め処理を行ってから起動させる。通電パターンNo演算部12は、位置決め処理を行う際にインバータ4に通電を行う3相の通電パターンを演算して決定する。
【0013】
前回パターン読み出し部11は、通電パターンNo演算部12が決定した通電パターンをメモリ10に記憶させると共に、メモリ10に記憶されている通電回数及び前回の位置決め処理に使用した通電パターンを読み出して、通電パターンNo演算部12に入力する。通電パターンNo演算部12は、入力された情報に基づいて今回の位置決め処理に使用した通電パターンを決定すると、通電指示部13を介してインバータ4を構成する6つのスイッチング素子に、それぞれ駆動信号を出力する。尚、上記の通電回数については、本実施形態では使用せず、第2実施形態以降で使用する。
【0014】
本実施形態では、
図3及び
図4に示すように、位置決め処理に3つの通電パターンA,B,Cを使用する。
図3は、モータ2のステータ及びロータの構成を模式的に示している。そして、
図4では、各通電パターンを電流ベクトルで示している。図中の「a」は、ベクトルの単位長さである。各通電パターンの電流ベクトルは、以下のようになっている。
U相 V相 W相
・通電パターンA a -4a 3a
・通電パターンB 4a -a -3a
・通電パターンC -3a 4a a
すなわち、通電パターンA、B、Cの合成電流ベクトルは、120度間隔で回転するように遷移する関係にある。
【0015】
次に、本実施形態の作用について説明する。
図5に示すように、IC5は、メモリ10より前回の位置決め処理で使用した通電パターンを読み出すと(S0)、続くステップS1~S5で今回の位置決め処理で使用する通電パターンを決定する。通電パターンを使用する順番は予め固定されており、A→B→C→A→B…のように循環的に変化させる。すなわち、前回の通電パターンがAであれば(S1;Yes)今回の通電パターンをBにし(S2)、前回の通電パターンがBであれば(S3;Yes)今回の通電パターンをCにし(S4)、前回の通電パターンがCであれば(S3;No)今回の通電パターンをAにする(S5)。
【0016】
以上のようにして今回の通電パターンを決定すると、その通電パターンをメモリ10に記憶させる(S6)。それから、決定した通電パターンに応じて対象となるスイッチング素子、例えばFETをONにして位置決め処理を行う(S7)。その後、モータ2の回転が停止するような異常が発生すると(S8)、モータ2の再起動を実施してから(S9;Yes)通常のモータ2の制御に移行する(S10)。再起動を実施できなければ(S9;No)再起動不可の判定となる(S11)。
【0017】
以上のように本実施形態によれば、モータ制御システム1において、IC5は、インバータ4を介してモータ2に通電することで、位置センサレス方式でモータを制御する際に、モータ2のロータの位置決め処理に使用する通電パターンを、3種類に変化させる。このように構成すれば、インバータ4等を構成するスイッチング素子やモータ2の巻線等に加わる電流ストレスを、従来よりも分散させることができる。また、本実施形態では、ロータの位置決め処理を行なう毎に電流ストレスを分散させる。つまり、特許文献1のように、まれな過電流発生時に対してではなく、モータ2を通常制御している期間内において電流ストレスを分散させることができる。
【0018】
そして、IC5は、前回の位置決め処理に使用した通電パターンをメモリ10に記憶し、位置決め処理を行なう毎に通電パターンを変化させる。このように構成すれば、電流ストレスをより確実に分散させることができる。
【0019】
(第2実施形態)
以下、第1実施形態と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、異なる部分について説明する。
図6に示すように、第2実施形態では、モータ2への通電回数をカウントし、その通電回数に応じて通電パターンA,B,Cを切り替える順番を変化させる。
図7に示すように、カウンタ6は、IGSがOFFしている期間においてモータ2への通電回数をカウントし、カウンタ7は、IGSがONしている期間に同通電回数をカウントする。ラジエータを空冷するためのファンを駆動するモータ2は、IGSがOFFしている期間でも、走行停止直後のように高温となっているエンジンを冷却する必要があれば、+B電源より通電が行われることがある。
【0020】
計数部であるカウンタ6,7のカウント値をどの様に用いるかによって、通電回数は変化する。第2実施形態では、IGSのOFF期間及びON期間の通電回数を合計し、且つ今回IGSをONするより前の通電回数は記憶しないものとする。この場合、
図7に示す例では、前回起動時の一連の通電回数は「4」、今回起動時の通電回数は「2」となる。
【0021】
図7において、ステップS0に続くステップS21~S26では、通電回数の合計を、それぞれの閾値(1)~(3)~…(6)と比較する。尚、図示の都合上、一部を省略している。各閾値(1)~(6)は、例えば値が次第に大きくなるように設定する。通電回数の合計が閾値(1)未満であれば(S21;No)、第1実施形態と同様にステップS1~S5を実行する。これらを「組み合わせ1」としている。通電回数の合計が閾値(2)未満であれば(S22;No)、ステップS27~S31を実行する。これらは、上記の「組み合わせ1」のステップS4,S5を入れ替えたパターンであり、「組み合わせ2」としている。
【0022】
通電回数の合計が閾値(3)未満であれば(S23;No)、「組み合わせ3」(S32)を実行する。同様に、通電回数の合計が閾値(4)~(6)未満であれば(S24~S26;No)、「組み合わせ4~6」を実行する(S33~S35)。すなわち、「組み合わせ」は3P2の順列で、全部で6通りとなる。以降は第1実施形態と同様に、ステップS6~S11を実行する。尚、閾値(1)~(6)の差分は「2」以上でも良い。また、今回IGSをONするより前の通電回数を記憶して、その回数に今回起動した以降の通電回数を加算しても良い。
【0023】
以上のように第2実施形態によれば、IC5は、カウンタ6及び7によりモータ2への通電回数を計数し、その計数された値に応じて通電パターンを変化させる順序を切り替える。このように構成すれば、電流ストレスをより多様に分散させることができる。
【0024】
(第3実施形態)
図8に示すように、第3実施形態では、今回使用する通電パターンNoを、IGSのON期間中におけるモータ2の通電回数の累積値のみを「通電回数」として、その「通電回数」を通電パターン数「3」で除した際の剰余とする(S41)。つまり、通電パターンNoは「0,1,2」の何れかになるので、ステップでは、それらに通電パターンA,B,Cを対応させて選択する。
【0025】
以上のように第3実施形態によれば、IGSのON期間中におけるモータ2の通電回数の累積値のみを「通電回数」として今回使用する通電パターンNoを決定するので、通電回数を記憶させるメモリ10の容量を、第2実施形態よりも削減できる。
【0026】
(第4実施形態)
図9に示すように、第4実施形態では、ステップS0を実行すると、IGSのON期間中の通電回数を10進法で表した際に各桁の値の和を求め、その和をモータ2の相数である「3」で除した際の剰余が「0」か否かを判断する(S50)。剰余が「0」であれば(Yes)、第1実施形態と同様にステップS1~S11を実行する。一方、剰余が「0」でなければ(No)、ステップS51~S55を実行した後、ステップS6に移行する。
【0027】
ステップS52~S55にそれぞれ示す通電パターンの-B,-C,-Aは、
図4に示す通電パターンB,C,Aの各相電流ベクトルの極性を反転させたものである。尚、通電パターンA~Cは非反転パターン群に相当し、通電パターン-A~-Cは反転パターン群に相当する。前回の通電パターンがA又は-Aであれば(S51;Yes)今回の通電パターンを-Bとし(S52)、前回の通電パターンがB又は-Bであれば(S53;Yes)今回の通電パターンを-Cとする(S54)。前回の通電パターンがC又は-Cであれば(S53;No)今回の通電パターンを-Aとする(S55)。
【0028】
以上のように第4実施形態によれば、IC5は、カウンタ7により計数されたモータ2への通電回数を、モータ2の相数で除した剰余がゼロか否かに応じて、非反転パターン群と、反転パターン群との何れを使用するかを選択する。このように構成すれば、より多くの通電パターンのバリエーションを簡単に増やすことができ、電流ストレスをより分散させることができる。
【0029】
(第5実施形態)
第5実施形態ではIC5に替えて、
図10に示すIC21を使用する。IC21は、電源+Bが通電された時点で、バイナリの数値データ「00」、「01」、「10」をそれぞれ生成する回路22(0)~22(2)を備えている(
図11;S60)。これらの回路20は、例えばANDやOR等の論理回路を組み合わせて構成する。
【0030】
また、ソフトウェアによりランダム関数を実現し、上記の数値データ「00」、「01」、「10」をランダム関数に取り込んで(S62)、ランダム関数によって何れか1つの数値データを選択する。選択された数値データを通電パターンNoとして、今回使用する通電パターンとする(S63)。
【0031】
尚、ステップS61では、回路22(0)~22(2)が生成した数値データを記憶させるが、ここではメモリ10に記憶させても良いし、
図10に示す「出力:00」~「出力:10」の各ブロックをメモリやレジスタとして、それらのブロックに記憶させても良い。
以上のように第5実施形態によれば、今回使用する通電パターンを、ランダム関数を用いてランダムに選択できる。尚、IC5に対して、IC21と同様の機能を持たせても良い。
【0032】
(その他の実施形態)
モータの相数は「3」に限らない。
通電パターンも、A,B,Cの3種類に限らず、4種類以上用いても良い。
モータが駆動する負荷は、ラジエータ空冷用のファンに限らない。
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0033】
図面中、1はモータ制御システム、2はモータ、4はインバータ、5はIC、6,7はカウンタ、10はメモリを示す。