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特開2023-176432インバータが備える平滑コンデンサの強制放電制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176432
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】インバータが備える平滑コンデンサの強制放電制御システム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20231206BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20231206BHJP
【FI】
H02M7/48 M
B60L3/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088708
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 雄太
(72)【発明者】
【氏名】山根 陽樹
(72)【発明者】
【氏名】吉崎 隆志
(72)【発明者】
【氏名】森本 昌介
(72)【発明者】
【氏名】川成 翔
(72)【発明者】
【氏名】樫原 宏明
(72)【発明者】
【氏名】亀 佑亮
【テーマコード(参考)】
5H125
5H770
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AB01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BB00
5H125CD04
5H125EE13
5H125EE15
5H125EE16
5H125EE70
5H770BA02
5H770CA01
5H770DA03
5H770DA41
5H770FA04
5H770FA13
5H770HA03W
5H770HA09W
5H770HA09Z
5H770JA17W
5H770LA04Z
5H770PA11
(57)【要約】
【課題】インバータが備える平滑コンデンサの強制放電制御の信頼性を向上させる。
【解決手段】平滑コンデンサ42を強制放電する時に、バッテリ20を高電圧回路9から遮断した状態で、平滑コンデンサ42の電荷を、DCDCコンバータ50を介して車載部品12で消費する第1放電制御を開始する。その後、平滑コンデンサ42の電圧が低下して所定の閾値V0に達した時に、アクティブ放電回路61で強制放電させる第2放電制御を実行する。連続強制放電が発生した場合には、第2放電制御の実行タイミングを遅らせる遅延制御を更に実行する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された駆動用のバッテリと、
平滑コンデンサおよびその強制放電回路を含み、前記バッテリから供給される電力を制御して駆動モータに出力するインバータと、
前記バッテリの電圧を降圧して車載の低電圧部品に供給する降圧コンバータと、
前記バッテリ、前記インバータ、および、前記降圧コンバータを電気的に接続する高電圧回路と、
前記バッテリを前記高電圧回路に接続した状態または当該高電圧回路から遮断された状態に切替可能な電源切替手段と、
を備え、
前記強制放電回路は、前記平滑コンデンサと並列に配置されたメイン抵抗および当該メイン抵抗を前記高電圧回路に接続した状態または当該高電圧回路から遮断された状態に切替可能な通電切替手段を含むアクティブ放電回路を有し、
前記降圧コンバータ、前記電源切替手段、および、前記通電切替手段を制御する制御装置を更に備える、平滑コンデンサの強制放電制御システムであって、
前記制御装置が、前記平滑コンデンサを強制放電する所定の強制放電条件が成立した時に、前記電源切替手段の制御によって前記バッテリを前記高電圧回路から遮断した状態で、前記平滑コンデンサが蓄える電荷を、前記降圧コンバータを介して前記低電圧部品で消費する第1放電制御を開始し、その後、前記平滑コンデンサの電圧が低下して所定の閾値に達した時に、前記通電切替手段の制御によって前記平滑コンデンサの電荷を前記アクティブ放電回路で強制放電させる第2放電制御を実行するとともに、
所定の時間が経過する前に、再度、前記強制放電条件が成立する、連続強制放電が発生した場合に、前記第2放電制御の実行タイミングを遅らせる遅延制御を更に実行する、平滑コンデンサの強制放電制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の平滑コンデンサの強制放電制御システムにおいて、
前記連続強制放電が所定回数以上繰り返し発生した場合に前記遅延制御を実行する、平滑コンデンサの強制放電制御システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の平滑コンデンサの強制放電制御システムにおいて、
前記制御装置が、前記降圧コンバータの異常を検知した時には、前記閾値に達する前に前記第2放電制御を実行する、平滑コンデンサの強制放電制御システム。
【請求項4】
請求項3に記載の平滑コンデンサの強制放電制御システムにおいて、
前記インバータは、冷却水の循環によって冷却する冷却機構を更に含み、
前記制御装置が、前記冷却水の温度が所定の上限値を超える場合、または、前記冷却機構の異常を検知した場合に、前記遅延制御を実行する、平滑コンデンサの強制放電制御システム。
【請求項5】
請求項1または2に記載の平滑コンデンサの強制放電制御システムにおいて、
前記強制放電回路が、前記平滑コンデンサと常時並列接続されるとともに前記メイン抵抗よりも抵抗値の大きいサブ抵抗を含むパッシブ放電回路を更に有している、平滑コンデンサの強制放電制御システム。
【請求項6】
請求項1または2に記載の平滑コンデンサの強制放電制御システムにおいて、
前記平滑コンデンサの電圧が前記閾値に達した後も前記第1放電制御を維持することにより、前記第1放電制御と前記第2放電制御を併行して実行する、平滑コンデンサの強制放電制御システム。
【請求項7】
請求項6に記載の平滑コンデンサの強制放電制御システムにおいて、
前記降圧コンバータは、前記閾値よりも低い所定の作動限界電圧以上で作動するように構成されており、
前記平滑コンデンサの電圧が前記作動限界電圧に達した時に、前記第1放電制御を終了する、平滑コンデンサの強制放電制御システム。
【請求項8】
請求項1または2に記載の平滑コンデンサの強制放電制御システムにおいて、
前記車両の前部にエンジンが設置され、
前記駆動モータが、前記エンジンの後部に連結された状態でフロアパネルのトンネル部に配置されている、平滑コンデンサの強制放電制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示する技術は、車載のインバータが備える平滑コンデンサの強制放電制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド車などの車両では、搭載している高電圧なバッテリの電力をインバータで制御してモータに供給する。それにより、モータを駆動して走行する。車両のメインスイッチがオンされると、インバータやバッテリが接続されている高電圧回路が通電した状態となる。そして、車両のメインスイッチがオフされると、バッテリは、その通電状態を解消するために高電圧回路から切り離される。
【0003】
インバータには、電流を平滑化するために平滑コンデンサが備えられている。平滑コンデンサは、インバータが通電状態になると、電圧が印加されて電荷を蓄えた状態になる。バッテリが高電圧回路から切り離されても、平滑コンデンサには電荷が残るので、インバータの電圧は保持された状態になる。
【0004】
そのため、車両のメインスイッチがオフされた時には、平滑コンデンサの電荷を速やかに放電させる必要があり、車両には、そのような強制放電手段が備えられている。車両のメインスイッチがオフされた時だけでなく、車両の衝突等、異常時においても、強制放電手段は適切に機能することが求められる。
【0005】
このような強制放電に関する制御の一例は、特許文献1に開示されている。特許文献1が開示するインバータの回路には、抵抗式の強制放電回路(強制放電部)が設けられている。
【0006】
すなわち、平滑コンデンサの電荷を放電する2つの抵抗(抵抗値の大きい第1抵抗および抵抗値の小さい第2抵抗)がインバータの電気回路に設置されている。最初は、第1抵抗のみで放電して平滑コンデンサの電圧が所定の電圧値以下になると、更に第2抵抗でも放電するように制御する。そうすることにより、平滑コンデンサの電荷を速やかに放電できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012―205428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のインバータのように、抵抗値の小さい第2抵抗で放電させれば、速やかに平滑コンデンサの電圧を低下できる。しかし、第2抵抗には大きい電流が流れるので、第2抵抗は発熱して急速に温度が上昇する。所定温度以上に昇温すると第2抵抗が損傷することから、第2抵抗で一度に放電できる量は限られる。
【0009】
その点、特許文献1のインバータでは、第2抵抗では所定の電圧値以下で放電し、一度に放電できる量を制限してはいるが、第2抵抗の損傷を回避するためには、その電圧値は低く設定せざるを得ない。第1抵抗は、常時接続されているため、通常時は、電流がほとんど流れないような大きな抵抗値を設定する必要がある。従って、第1抵抗による放電は時間がかかる。
【0010】
また、第2抵抗が高温になると、その温度が常温に戻るまでには時間を要する。従って、第2抵抗による放電が短時間で繰り返された場合、第2抵抗は高温の状態から放電することとなるので、第2抵抗は損傷する。基板の取り替えが必要になる。
【0011】
開示する技術では、インバータ以外の装置を活用することにより、このような不具合を解消でき、信頼性に優れた強制放電制御システムを実現させる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
開示する技術は、平滑コンデンサの強制放電制御システムに関する。
【0013】
前記強制放電システムは、車両に搭載された駆動用のバッテリと、平滑コンデンサおよびその強制放電回路を含み、前記バッテリから供給される電力を制御して駆動モータに出力するインバータと、前記バッテリの電圧を降圧して車載の低電圧部品に供給する降圧コンバータと、前記バッテリ、前記インバータ、および、前記降圧コンバータを電気的に接続する高電圧回路と、前記バッテリを前記高電圧回路に接続した状態または当該高電圧回路から遮断された状態に切替可能な電源切替手段と、を備える。
【0014】
前記強制放電回路は、前記平滑コンデンサと並列に配置されたメイン抵抗および当該メイン抵抗を前記高電圧回路に接続した状態または当該高電圧回路から遮断された状態に切替可能な通電切替手段を含むアクティブ放電回路を有している。
【0015】
更に、前記強制放電制御システムは、前記降圧コンバータ、前記電源切替手段、および、前記通電切替手段を制御する制御装置を備える。
【0016】
そして、前記制御装置が、前記平滑コンデンサを強制放電する所定の強制放電条件が成立した時に、前記電源切替手段の制御によって前記バッテリを前記高電圧回路から遮断した状態で、前記平滑コンデンサが蓄える電荷を、前記降圧コンバータを介して前記低電圧部品で消費する第1放電制御を開始する。
【0017】
その後、前記平滑コンデンサの電圧が低下して所定の閾値に達した時に、前記通電切替手段の制御によって前記平滑コンデンサの電荷を前記アクティブ放電回路で強制放電させる第2放電制御を実行する。
【0018】
更にそれらとともに、所定の時間が経過する前に、再度、前記強制放電条件が成立する、連続強制放電が発生した場合に、前記第2放電制御の実行タイミングを遅らせる遅延制御を実行する。
【0019】
すなわち、この強制放電システムによれば、駆動用のバッテリからの電力供給を受けてモータに高電圧な電力を出力するインバータが接続されている高電圧回路に、降圧コンバータも接続されている。そして、バッテリを高電圧回路から遮断した時に、そのインバータが備える平滑コンデンサに残留する電荷を速やかに低下させる、つまり強制放電させるために、インバータにはメイン抵抗を含む強制放電回路も備えられている。
【0020】
制御装置は、強制放電する状況になると、強制放電回路だけでなく、降圧コンバータも利用する。すなわち、降圧コンバータを用いて低電圧部品で電荷を消費する第1放電制御と、強制放電回路を用いた第2放電制御とを併用して強制放電を行う。従って、平滑コンデンサの電荷を速やかに低下させることができる。
【0021】
その際、第2放電制御に先立って、第1放電制御を開始する。それにより、アクティブ回路での放電量を低減できるので、メイン抵抗の温度上昇が抑制される。従って、メイン抵抗の損傷を抑制できる。
【0022】
しかし、降圧コンバータは、所定の電圧に達すると作動できなくなる。従って、それ以降はアクティブ放電回路による強制放電だけになる。メイン抵抗の温度上昇は避けられない。平滑コンデンサの電荷を速やかに低減するためにも、アクティブ放電回路による強制放電も最大限利用するのが好ましい。
【0023】
そうした場合、短時間で繰り返し強制放電が行われると、メイン抵抗は、熱の蓄積によって温度が高い状態からの強制放電になり、損傷してしまう。そこで、この強制放電システムでは、連続強制放電が発生した場合に、第2放電制御の実行タイミングを遅らせる遅延制御を実行する。
【0024】
それにより、前回の強制放電の終了からアクティブ放電回路による強制放電を開始するまでの時間が長くなる。その結果、極短時間での強制放電の繰り返しが抑制できることから、メイン抵抗の過度な温度上昇を回避できる。メイン抵抗を冷却する時間が延びるので、放電を開始する時のメイン抵抗の温度を低下させることができる。従って、連続強制放電が発生した場合でも、メイン抵抗の損傷を抑制できるので、強制放電システムの信頼性が向上する。
【0025】
前記強制放電制御システムはまた、前記連続強制放電が所定回数以上繰り返し発生した場合に前記遅延制御を実行する、としてもよい。
【0026】
ある程度であればメイン抵抗の温度が上昇しても、損傷するには至らないことを確認している。従って、所定の回数未満であれば、短い間隔で連続強制放電が複数回繰り返し発生しても支障はない。遅延制御を行わないことで、短時間で平滑コンデンサを強制放電できる。
【0027】
それに対し、連続強制放電が所定回数以上繰り返し発生した場合には、遅延制御を実行する。それにより、メイン抵抗の過度な温度上昇を低減できる。従って、メイン抵抗の損傷を抑制できる。
【0028】
前記強制放電制御システムはまた、前記制御装置が、前記降圧コンバータの異常を検知した時には、前記閾値に達する前に前記第2放電制御を実行する、としてもよい。
【0029】
降圧コンバータが異常であると、第1放電制御を行っても、平滑コンデンサの電荷を低電圧部品で消費できない。従って、平滑コンデンサの電圧を閾値まで速やかに下げることができない。それに対し、閾値に達する前に前記第2放電制御を実行すれば、アクティブ放電回路により、平滑コンデンサの電荷を速やかに強制放電させることができる。
【0030】
降圧コンバータが異常の場合も、平滑コンデンサを強制放電できる。従って、強制放電システムの信頼性が向上する。
【0031】
前記インバータが、冷却水の循環によって冷却する冷却機構を更に含む場合には、前記制御装置が、前記冷却水の温度が所定の上限値を超える場合、または、前記冷却機構の異常を検知した場合に、前記遅延制御を実行する、としてもよい。
【0032】
このような場合にも、インバータが異常高温になるので、メイン抵抗の温度が高い状態から強制放電を開始することになる。従って、そのまま強制放電を行えば、メイン抵抗は損傷してしまう。それに対し、そのような場合に遅延制御を実行すれば、メイン抵抗の温度上昇を低減できる。従って、メイン抵抗の損傷を抑制できる。
【0033】
降圧コンバータの冷却が異常の場合も、平滑コンデンサを適切に強制放電できる。従って、強制放電システムの信頼性が向上する。
【0034】
前記強制放電制御システムはまた、前記強制放電回路が、前記平滑コンデンサと常時並列接続されるとともに前記メイン抵抗よりも抵抗値の大きいサブ抵抗を含むパッシブ放電回路を更に有している、としてもよい。
【0035】
そうすれば、何らかのトラブルにより、アクティブ放電回路等による強制放電ができなくなった場合に、時間はかかるが、パッシブ放電回路により、平滑コンデンサの電荷を放電できる。従って、いわゆるフェールセーフとして機能するので、強制放電システムの信頼性を更に向上できる。
【0036】
前記強制放電制御システムはまた、前記平滑コンデンサの電圧が前記閾値に達した後も前記第1放電制御を維持することにより、前記第1放電制御と前記第2放電制御を併行して実行する、としてもよい。
【0037】
そうすれば、2つの強制放電が併行して行われるので、平滑コンデンサの電荷をより短時間で低減できる。アクティブ放電回路での放電量も低減できるので、メイン抵抗の損傷も抑制できる。
【0038】
前記降圧コンバータが、前記閾値よりも低い所定の作動限界電圧以上で作動するように構成されている場合には、前記平滑コンデンサの電圧が前記作動限界電圧に達した時に、前記第1放電制御を終了する、としてもよい。
【0039】
そうすれば、降圧コンバータを利用できる限界まで、低電圧部品での消費によって平滑コンデンサの電荷が放電されるので、アクティブ放電回路での放電量を効果的に低減できる。従って、メイン抵抗の損傷をよりいっそう抑制できる。
【0040】
前記強制放電制御システムはまた、前記車両の前部にエンジンが設置され、前記駆動モータが、前記エンジンの後部に連結された状態でフロアパネルのトンネル部に配置されている場合に特に有効である。
【0041】
平滑コンデンサを強制放電する手段としては、モータを用いたd軸放電による方法もある。しかし、その方法ではモータの回転角を高精度に検知する必要があり、上述したような配置構造では、車両が衝突等した場合に、センサが故障して強制放電が困難になるおそれがある。
【0042】
それに対し、アクティブ放電回路による強制放電であれば、上述したような配置構造の車両が衝突等した場合でも、インバータが損傷しない限り、強制放電できる。従って、信頼性に優れる。
【発明の効果】
【0043】
開示する技術を適用した強制放電制御システムによれば、抵抗式の強制放電回路を用いて、抵抗を損傷することなく、平滑コンデンサを効果的に強制放電することができる。従って、強制放電システムの信頼性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】開示する技術を適用した自動車の構造を示す概略図である。
図2】高電圧系の主な電気装置の電気回路を示す概略図である。
図3】強制放電制御に関連したPCMおよびその主な周辺機器のブロック図である。
図4】通常時における複合強制放電制御のタイムチャートの一例である。
図5図4に対応した複合強制放電制御のフローチャートの一例である。
図6図5に続くフローチャートである。
図7】熱縮退に関する制御のフローチャートである。
図8】熱縮退時における複合強制放電制御のタイムチャートの一例である。
図9】熱縮退時における複合強制放電制御のタイムチャートの一例である。
図10】DCDCコンバータの異常時におけるフローチャートの一例である。
図11図10に続くフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、開示する技術について説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0046】
<車両>
図1に、開示する技術を適用した自動車1(車両の一例)を示す。この自動車1は、電力を利用した走行が可能なハイブリッド車である。自動車1は、所定の外部電源からの電力供給を可能にする給電装置を搭載した、いわゆるプラグインハイブリッド車であってもよい。
【0047】
自動車1には、その駆動源として、エンジン2および駆動モータ3が搭載されている。これらが協働して、2つの後輪を駆動する。それにより、自動車1は走行する。すなわち、この自動車1は、エンジン2または駆動モータ3のいずれかの出力で、または、駆動モータ3およびエンジン2の双方の出力で走行する。
【0048】
この自動車1の場合、エンジン2はその前部に配置されている。すなわち、この自動車1は、いわゆるFR車である。ただし、自動車1は、FR車に限らず、4輪駆動であってもよい。
【0049】
エンジン2は、例えばガソリンを燃料に使用して燃焼を行う内燃機関である。エンジン2はまた、吸気、圧縮、膨張、排気の各サイクルを繰り返すことで回転動力を発生させる(いわゆる4サイクルエンジン)。エンジン2には、ディーゼルエンジン等、様々な種類や形態があるが、開示する技術では、特にエンジンの種類や形態は限定しない。
【0050】
この自動車1では、エンジン2は、その回転軸(クランクシャフト)を、車体の前後方向に向けた状態で、エンジンルームの車幅方向の略中央部に配置されている。自動車1には、吸気システム、排気システム、燃量供給システムなど、エンジン2に付随した様々な装置や機構が設置されているが、これらの図示および説明は省略する。
【0051】
駆動モータ3は、三相の交流によって駆動する永久磁石型の同期モータである。駆動モータ3は、クラッチ(不図示)を介して、エンジン2の後部と回転軸を一致させた状態で連結されている。その駆動モータ3の後部に、自動変速機4が回転軸を一致させた状態で連結されている。
【0052】
自動変速機4は、多段式自動変速機(いわゆるAT)である。自動変速機4は、車体の前後方向に延びるプロペラシャフト5を介してデファレンシャルギア6に連結されている。図示はしないが、車体の下側を覆っているフロアパネルには、上向きに凹んだ断面U状のトンネル部が、エンジンルームから後方に延びるように形成されている。この自動車1の場合、駆動モータ3、自動変速機4、およびプロペラシャフト5は、そのトンネル部の内部に配置されている。
【0053】
デファレンシャルギア6から一対のシャフト7,7が左右に延びている。これらシャフト7,7の各端部に後輪が組み付けられている。それにより、エンジン2および駆動モータ3から出力される回転動力は、自動変速機4で変速された後、デファレンシャルギア6で左右に振り分けられて各後輪に伝達される。
【0054】
自動車1には、駆動モータ3の他、高電圧系の電気装置として、駆動用のバッテリ20、コンタクタ30(電源切替手段)、インバータ40、DCDCコンバータ50(降圧コンバータ)などが搭載されている。これら電気装置の各々は、大電流に対応したケーブルやバスバー等からなる高電圧回路9を介して接続されている。なお、これら電気装置の電気回路については別途後述する。
【0055】
この自動車1には、定格電圧が300V以上の高電圧なバッテリ20が搭載されている。定格電圧が50V程度のバッテリを搭載してもよい(いわゆるマイルドハイブリッド)。
【0056】
バッテリ20は、コンタクタ30を介して高電圧回路9に接続されている。コンタクタ30は、バッテリ20を、高電圧回路9に接続した状態、または、高電圧回路9から電気的かつ物理的に遮断された状態に切り替える。コンタクタ30が接続状態に切り替わることにより、バッテリ20からインバータ40およびDCDCコンバータ50への電力供給が可能になる。
【0057】
DCDCコンバータ50の出力側は、低電圧用のケーブル、CAN(Controller Area Network)等からなる低電圧回路10に接続されている。DCDCコンバータ50は、バッテリ20から供給される300Vの直流電力を12Vの直流電力に降圧して低電圧回路10に出力する。
【0058】
低電圧回路10には、定格電圧が約12Vの低電圧バッテリ11(いわゆる鉛蓄電池)を含め、車載部品12(低電圧部品)が接続されている。車載部品12は、例えば、エアコン、後述する電動ポンプ14a、ヘッドライト等、自動車1が搭載する各種電気機器や、自動車1が搭載する制御装置などである。DCDCコンバータ50が降圧した直流電力は、低電圧回路10を介して、これら車載部品12に供給される。
【0059】
自動車1には、制御装置として、パワーコントロールモジュール(PCM)13が搭載されている。PCM13は、エンジン2、コンタクタ30、インバータ40、DCDCコンバータ50等、自動車1が搭載する駆動系の各装置を総合的に制御する。例えば、この自動車1の場合、後述する平滑コンデンサ42の強制放電に関する制御は、PCM13が実行する。
【0060】
インバータ40は、駆動モータ3の動作を制御する装置であり、駆動モータ3の近傍に設置されている。インバータ40は、バッテリ20から供給される直流電力を制御して駆動モータ3に出力する。駆動モータ3、インバータ40、および、DCDCコンバータ50の各々は、作動すると発熱する。そのため、これらには、水冷式の冷却システム14(冷却機構)が付設されている。
【0061】
冷却システム14は、図1に簡略化して示すように、電動ポンプ14a、冷却水経路14b、外気との熱交換で冷却水を冷却する熱交換器14cなどで構成されている。電動ポンプ14aが作動し、熱交換器14cで冷却される冷却水を、冷却水経路14bを経由してインバータ40等に循環供給することで、インバータ40等は冷却される。
【0062】
<コンタクタ30、インバータ40、およびDCDCコンバータ50の電気回路>
図2に、高電圧系の電気回路を構成しているコンタクタ30、インバータ40、および、DCDCコンバータ50の各々が有する電気回路の概略を示す。
【0063】
(コンタクタ30)
コンタクタ30は、正極コンタクタ31aおよび負極コンタクタ31bからなるメインコンタクタ31と、プリチャージコンタクタ32とを有している。正極コンタクタ31aは、バッテリ20の正極端子20aに接続されている。負極コンタクタ31bは、バッテリ20の負極端子20bに接続されている。プリチャージコンタクタ32は、所定のプリチャージ抵抗33とともに、負極コンタクタ31bと並列した状態で、バッテリ20の負極端子20bに接続されている。
【0064】
メインコンタクタ31は、バッテリ20を高電圧回路9に接続した状態、または、高電圧回路9から電気的かつ物理的に遮断された状態に切り替える。なお、メインコンタクタ31は、正極コンタクタ31aを省略し、負極コンタクタ31b1つで構成してもよい。プリチャージコンタクタ32は、大電流によるメインコンタクタ31の溶着を防止するために設置されている。
【0065】
具体的には、正極コンタクタ31aを高電圧回路9に接続した後、負極コンタクタ31bを高電圧回路9に接続する前に、プリチャージコンタクタ32を接続し、小電流で高電圧回路9の電圧を高める。そうした後に、負極コンタクタ31bを接続することで大電流を抑制することができる。このようなコンタクタ30の作動は、PCM13によって制御される。
【0066】
すなわち、PCM13は、自動車1の主電源を入れる要求を受けると、コンタクタ30を制御してバッテリ20を高電圧回路9に接続する。一方、自動車1の主電源を切る要求を受けると、PCM13は、コンタクタ30を制御してバッテリ20を高電圧回路9から切り離す。
【0067】
例えば、キー操作等によりイグニッションがオンになれば、PCM13は、それに連動してコンタクタ30を制御し、バッテリ20を高電圧回路9に接続する。そして、イグニッションがオフになれば、PCM13は、コンタクタ30を制御してバッテリ20を高電圧回路9から切り離す。
【0068】
また例えば、自動車1がエアコンを遠隔操作する機能を備えている場合には、その遠隔操作により、PCM13は、コンタクタ30を制御してバッテリ20を高電圧回路9に接続する。そして、所定の条件を満たすことにより、PCM13は、コンタクタ30を制御してバッテリ20を高電圧回路9から切り離す。
【0069】
また例えば、自動車1がプラグインハイブリッド車である場合には、PCM13は、外部電源から給電を開始する際に、コンタクタ30を制御してバッテリ20を高電圧回路9から切り離す。そして、給電が終了すれば、PCM13は、コンタクタ30を制御してバッテリ20を高電圧回路9に接続する。
【0070】
(インバータ40)
インバータ40は、複数のスイッチング素子で構成されている所定のスイッチング回路41、平滑コンデンサ42、強制放電回路60、および電圧計43を有している。インバータ40には、高電圧回路9の正極側に接続される正極側主配線44と、高電圧回路9の負極側に接続される負極側主配線45とが設けられている。
【0071】
スイッチング回路41、平滑コンデンサ42、強制放電回路60、および電圧計43の各々は、これら正極側主配線44および負極側主配線45の間に並列接続されている。詳細には、インバータ40の入力側から出力側に向かって、電圧計43、強制放電回路60、平滑コンデンサ42、スイッチング回路41の順に配置されている。スイッチング回路41は、出力配線46を介して駆動モータ3と接続されている。
【0072】
インバータ40の作動は、PCM13によって制御される。すなわち、自動車1の主電源が入っている状態で、PCM13は、自動車1の運転状態に応じて、スイッチング回路41を制御する。そうすることにより、インバータ40は、高電圧回路9から入力される直流電力を3相の交流に変換して駆動モータ3に出力する。
【0073】
平滑コンデンサ42は、インバータ40に入力される直流電力を平滑化する。すなわち、自動車1の主電源が入ると、平滑コンデンサ42にバッテリ20の電圧が印加される。それにより、平滑コンデンサ42には、その電圧に応じた電荷が蓄えられる。平滑コンデンサ42は、電圧が下がれば放電し、電圧が上がれば蓄電する。従って、正極側主配線44および負極側主配線45の間の電圧は、平滑コンデンサ42によって平滑化される。
【0074】
主電源が切れると、バッテリ20からインバータ40への電力供給は途絶える。しかし、平滑コンデンサ42には電荷が残るので、その残留電荷により、正極側主配線44および負極側主配線45の間の高電圧は保持された状態になる。従って、平滑コンデンサ42の電荷は速やかに放電させる必要がある。そこで、この自動車1には、平滑コンデンサ42を強制放電させるための手段として、インバータ40に強制放電回路60が設けられている。
【0075】
平滑コンデンサを強制放電させる手段としては、例えば、モータを利用して、その残留電荷を熱として消費させる方法(d軸放電)がある。すなわち、レゾルバ等のセンサによってロータの回転角を検出し、モータが回転しないd軸方向に磁束が向くようにインバータを制御する。そうした状態で、モータに電流を流す。それにより、モータの駆動に影響を与えることなく、ステータのコイルの発熱によって残留電荷を消費させることができる。
【0076】
しかし、この自動車1では、駆動モータ3は、車体前部に配置されたエンジン2の後部に連結されている。更に、フロアパネルの狭いトンネル部の内部に配置されている。従って、自動車1が前突等した場合、駆動モータ3に付設されるレゾルバ等のセンサが故障するおそれがある。
【0077】
このd軸放電による方法は、ロータの回転角の検出を前提としているため、そうした場合には平滑コンデンサの強制放電が行えない。そこで、この自動車1では強制放電回路60が設けられている。
【0078】
強制放電回路60は、アクティブ放電回路61およびパッシブ放電回路62を有している。アクティブ放電回路61は、平滑コンデンサ42と並列に配置されたメイン抵抗61aおよびスイッチ61b(通電切替手段)を含む。パッシブ放電回路62は、平滑コンデンサ42と常時並列接続されているサブ抵抗62aを含む。スイッチ61bは、メイン抵抗61aを、強制放電回路60に接続した状態、または、強制放電回路60から遮断された状態のいずれかに切り替える。
【0079】
メイン抵抗61aは、比較的大きな電流が流れるように、低抵抗である(例えば50オーム以以上200オーム以下)。それに対し、サブ抵抗62aは、電流が流れ難いように、メイン抵抗61aよりも極端に抵抗値が大きい(例えば100Kオーム以上200Kオーム以下)。サブ抵抗62aは、メイン抵抗61aよりも少なくとも500倍以上、抵抗値が大きい。
【0080】
電圧計43は、インバータ40に入力される電圧、換言すれば、正極側主配線44および負極側主配線45の間の電圧(バッテリ20ないし高電圧回路9の電圧に相当)を計測し、その計測データをPCM13に出力する。
【0081】
DCDCコンバータ50は、第2の電圧計51、負荷抵抗52、出力コンデンサ53、降圧回路54、および、変圧器55を有している。DCDCコンバータ50にも、インバータ40と同様の高電圧回路9の正極側に接続される第2の正極側主配線56と、高電圧回路9の負極側に接続される第2の負極側主配線57とが設けられている。
【0082】
第2の電圧計51、負荷抵抗52、出力コンデンサ53、降圧回路54、および、変圧器55の各々は、これら第2の正極側主配線56および第2の負極側主配線57の間に並列接続されている。詳細には、DCDCコンバータ50の入力側から出力側に向かって、第2の電圧計51、負荷抵抗52、出力コンデンサ53、降圧回路54、および、変圧器55の順に配置されている。降圧回路54は、変圧器55を介して低電圧回路10と接続されている。
【0083】
DCDCコンバータ50の作動は、PCM13によって制御される。すなわち、自動車1の主電源が入っている状態で、PCM13は、自動車1の運転状態に応じて、降圧回路54を制御する。そうすることにより、DCDCコンバータ50は、高電圧回路9から入力される直流電力を降圧して低電圧回路10に出力する。
【0084】
第2の電圧計51は、第2の正極側主配線56および第2の負極側主配線57の間の電圧(バッテリ20ないし高電圧回路9の電圧に相当)を計測し、その計測データをPCM13に出力する。
【0085】
<PCM13による強制放電制御>
図3に、強制放電制御に関連したPCM13およびその主な周辺機器のブロック図を示す。PCM13は、強制放電制御に関連して、電圧計43,51、冷却システム14、インバータ40、コンタクタ30、DCDCコンバータ50などとの間で信号を入出力する。なお、開示する技術における強制放電システムは、これら電気装置によって構成されている。
【0086】
PCM13には、機能的な構成として強制放電制御部13aが設けられている。強制放電制御部13aは、電圧計43、冷却システム14などから入力される信号に基づいて、インバータ40、コンタクタ30、DCDCコンバータ50などに制御信号を出力する。それにより、PCM13は、平滑コンデンサ42の残留電荷を短時間で効果的に強制放電させる制御を実行する。
【0087】
すなわち、PCM13は、DCDCコンバータ50を利用する強制放電制御(第1放電制御)と、インバータ40のアクティブ放電回路61を利用する強制放電制御(第2放電制御)とを組み合わせた強制放電制御(複合強制放電制御)を実行する。それにより、この強制放電システムは、平滑コンデンサ42の残留電荷を短時間で効果的に強制放電できるように構成されている。
【0088】
具体的には、平滑コンデンサ42を強制放電する所定の強制放電条件が成立した時に、コンタクタ30の制御によってバッテリ20を高電圧回路9から遮断した状態で、平滑コンデンサ42が蓄える電荷を、DCDCコンバータ50を介して車載部品12で消費させる制御(第1放電制御)を開始する。
【0089】
その後、平滑コンデンサ42の電圧が低下して所定の閾値に達した時に、スイッチ61bの制御によって平滑コンデンサ42の電荷をアクティブ放電回路61で強制放電させる制御(第2放電制御)を実行する。
【0090】
アクティブ放電回路61のメイン抵抗61aは抵抗値が小さい。従って、メイン抵抗61aで放電させれば、平滑コンデンサ42の残留電荷は速やかに減少し、短時間でその電圧を低下できる。しかし、その場合、メイン抵抗61aには大きい電流が流れるので、メイン抵抗61aは発熱して急速に温度が上昇する。所定温度以上に昇温するとメイン抵抗61aが損傷することから、実際には、メイン抵抗61aで一度に放電できる量は限られる。
【0091】
従って、平滑コンデンサ42の残留電荷を速やかに放電させるためには、メイン抵抗61aでの放電量を低減させる必要がある。なお、サブ抵抗62aは抵抗値が大きいので、パッシブ放電回路62は、放電はできても、その単位時間当たりの放電量は僅かである(放電には長時間が必要)。
【0092】
それに対し、この自動車1では、高電圧回路9にDCDCコンバータ50が接続されている。平滑コンデンサ42の残留電荷を、高電圧回路9を通じてDCDCコンバータ50に供給すれば、その残留電荷を、DCDCコンバータ50を介して車載部品12で消費させることができる。
【0093】
従って、DCDCコンバータ50を利用した強制放電と、アクティブ放電回路61を利用した強制放電とを併用すれば、平滑コンデンサ42の残留電荷を効果的に低減でき、平滑コンデンサ42の電圧を短時間で低下させることができる。
【0094】
(通常時における複合強制放電制御のタイムチャート)
図4に、通常時における複合強制放電制御のタイムチャートを例示する。平滑コンデンサ42の電圧変化は、理解を容易にするために強調して表してある。
【0095】
自動車1の主電源がオンの状態では、メインコンタクタ31はオンである。バッテリ20は高電圧回路9に接続されており、インバータ40およびDCDCコンバータ50には、バッテリ20から電力が供給されている。DCDCコンバータ50は作動している。従って、平滑コンデンサ42には、バッテリ20の電圧Vcに対応した電荷が蓄電されている。このとき、アクティブ放電回路61のスイッチ61bは遮断されている。
【0096】
そして、自動車1の主電源がオフになると、PCM13は、それに連動して負極コンタクタ31bをオフにする(t1のタイミング)。それにより、バッテリ20は高電圧回路9から遮断された状態になる。高電圧回路9へのバッテリ20からの電力供給は無くなる。このとき、正極コンタクタ31aはオンの状態が維持されて所定時間の経過後にオフになる。この時間差を利用して、コンタクタ30の故障診断が行われる。
【0097】
PCM13は、強制放電条件が成立したと判定し、第1放電制御を開始する。すなわち、DCDCコンバータ50は、作動限界電圧V1(例えば190V)に達するまでは作動できる。PCM13は、主電源がオフにされても、DCDCコンバータ50が作動するように制御する。
【0098】
それにより、平滑コンデンサ42の電荷は車載部品12で消費され、平滑コンデンサ42の電圧は低下していく。
【0099】
その後、平滑コンデンサ42の電圧が低下して所定の閾値(V0、例えば275V)に達した時に(t2のタイミング)、PCM13は、第2放電制御を実行する。すなわち、スイッチ61bをオンにして、アクティブ放電回路61で強制放電を開始する。
【0100】
閾値V0は、作動限界電圧V1よりも大きい。なお、閾値V0は、所定の目標電圧(強制放電が不要になる電圧V2、例えば15V)になるまでメイン抵抗61aで連続放電しても、メイン抵抗61aの損傷を回避できる電圧である。閾値V0は、予め実験等に基づいてPCM13に設定されている。
【0101】
それにより、DCDCコンバータ50を用いた強制放電とアクティブ放電回路61による強制放電とが併行して行われる。平滑コンデンサ42の放電が促進され、平滑コンデンサ42の電圧が更に低下する。
【0102】
そうして、平滑コンデンサ42の電圧が作動限界電圧V1に達すると(t3のタイミング)、DCDCコンバータ50は作動しなくなる。従って、第1放電制御は終了する。DCDCコンバータ50を利用した強制放電を限界まで利用するので、アクティブ放電回路61による強制放電の負担を軽減できる。
【0103】
そして、平滑コンデンサ42の電圧が目標電圧V2に達すると、PCM13は、スイッチ61bをオフにし、第2放電制御を終了する(t4のタイミング)。その後は、パッシブ回路により、時間をかけて、平滑コンデンサ42の電荷をゆっくりと放電させる。
【0104】
このように、DCDCコンバータ50を利用した強制放電とアクティブ放電回路61を利用した強制放電の併用により、平滑コンデンサ42の残留電荷を効果的に低減できる。従って、アクティブ放電回路61を損傷することなく、平滑コンデンサ42の電圧を、短時間で低下できる。
【0105】
(通常時における複合強制放電制御のフローチャート)
図5および図6に、図4に対応した複合強制放電制御のフローチャートの一例を示す。
【0106】
PCM13は、電圧計43等から入力される計測データを読み込む(ステップS1)。主電源がオフになると(ステップS2)、PCM13は、後述する熱縮退の有無を判定する(ステップS3)。その結果、熱縮退が有ると判定した場合(ステップS3でNo)、PCM13は、負極コンタクタ31bをオフにするまでの時間を遅延した時間に設定する(ステップS4)。一方、熱縮退が無いと判定した場合、PCM13は、負極コンタクタ31bをオフにするまでの時間を通常の時間に設定する(ステップS5)。
【0107】
そうして、PCM13は、設定した時間を読み込み(ステップS6)、その時間の経過後に負極コンタクタ31bをオフにする(ステップS7、図4におけるt1のタイミング)。そうした後、PCM13は、DCDCコンバータ50の作動を保持し、第1放電制御を開始する(ステップS8)。
【0108】
PCM13は、平滑コンデンサ42の電圧が低下して閾値V0に達したか否かを判定する(ステップS9)。そして、閾値V0に達したと判定した場合、PCM13は、スイッチ61bをオンにし、アクティブ放電回路61での強制放電、つまり第2放電制御を開始する(ステップS10)。
【0109】
そうして、PCM13は、平滑コンデンサ42の電圧が更に低下して作動限界電圧V1に達したか否かを判定する(ステップS11)。そして、作動限界電圧V1に達したと判定した場合、PCM13は、DCDCコンバータ50の作動を停止し、第1放電制御を終了する(ステップS12)。
【0110】
続いて、PCM13は、平滑コンデンサ42の電圧が更に低下して目標電圧V2に達したか否かを判定する(ステップS13)。そして、目標電圧V2に達したと判定した場合、PCM13は、スイッチ61bをオフにし、第2放電制御を終了する(ステップS14)。その後は、平滑コンデンサ42の電荷が無くなるまで、パッシブ放電回路62で放電を行う(ステップS15)。
【0111】
<熱縮退>
上述したように、DCDCコンバータ50は作動限界電圧以下になると作動しなくなる。従って、その後の強制放電は、アクティブ放電回路61だけになる。
【0112】
そのため、DCDCコンバータ50を利用した場合でも、メイン抵抗61aが発熱してその温度は高くなる。本発明者らの実験結果によれば、1回の強制放電であれば、閾値V0を所望する値に設定した場合でも、メイン抵抗61aの損傷は抑制できる。
【0113】
しかし、メイン抵抗61aが高温になると、その温度が常温に戻るまでには時間を要する。従って、強制放電が短時間で繰り返されると、メイン抵抗61aに熱が蓄積していく。高温の状態から強制放電を開始すると、通常の放電量でもメイン抵抗61aが損傷する。
【0114】
そこで、この強制放電システムでは、このような短時間の強制放電が連続する場合には、メイン抵抗61aの損傷を抑制するために、熱縮退するように構成されている。
【0115】
具体的には、所定の時間が経過する前に、再度、強制放電条件が成立し、短時間での連続した強制放電(連続強制放電)が発生した場合には、PCM13は、第2放電制御、つまりアクティブ放電回路61による強制放電の実行タイミングを遅らせる制御(遅延制御)を実行する。
【0116】
アクティブ放電回路61による強制放電の実行タイミングを遅らせることで、その遅延時間の間にメイン抵抗61aの温度を低下させることができる。遅延時間の長さは、熱縮退の原因に応じて調整される。
【0117】
(熱縮退の具体例)
図7に、熱縮退に関する制御のフローチャートを示す。図8図9に、図4に対応した熱縮退時における複合強制放電制御のタイムチャートを、その原因別に示す。
【0118】
強制放電システムは、異常時においても適切に機能することが求められる。例えば、DCDCコンバータ50の故障により、インバータ40の電圧がほとんど下がらない場合がある。そうした場合にも、平滑コンデンサ42を適切に強制放電させなければならない。
【0119】
また、冷却システム14の異常により、インバータ40の温度が過度に上昇する場合がある。そうした場合にも、平滑コンデンサ42を適切に強制放電させなければならない。強制放電システムは、これらのような場合にも適切に熱縮退できるように構成されている。
【0120】
計測データの読み込みにより、PCM13は、常時、電圧計43,51から入力される計測データに基づいて、インバータ40およびDCDCコンバータ50の入力電圧を監視している。PCM13はまた、常時、冷却システム14から入力される計測データに基づいて、インバータ40を流れる冷却水の温度、冷却システム14の動作を監視している。
【0121】
そして、強制放電条件が成立し、平滑コンデンサ42の強制放電制御の実行が必要になると、PCM13は、熱縮退に入るか否かを判定する(図5におけるステップS3)。
【0122】
すなわち、PCM13は、前回の強制放電からの経過時間ts1を判定する。具体的には、前回のアクティブ放電回路61による強制放電の終了からの経過時間ts1が、所定の時間(連続強制放電判定時間tc、例えば20秒)を超えているか否かを判定する(ステップS20)。
【0123】
その結果、経過時間ts1が連続強制放電判定時間tc以内であった場合、PCM13は、連続強制放電に該当すると判定する(ステップS21)。一方、経過時間ts1が連続強制放電判定時間tc以内でなかった場合、PCM13は、連続強制放電に該当しないと判定し(ステップS20でNo)、通常の複合強制放電制御を実行する(図5におけるステップS5以降)。
【0124】
(複数回の連続放電)
PCM13は、連続強制放電に該当すると判定した場合、その連続強制放電が所定回数以上繰り返し発生したか否かを判定する(ステップS22)。
【0125】
PCM13には、実験等に基づき、メイン抵抗61aの損傷を抑制できる回数の上限値n(例えば3回)が設定されている。PCM13は、連続強制放電がn回以上繰り返し発生したと判定すると(ステップS22でNo)、所定の遅延時間(第1遅延時間、例えば3秒)を設定し(ステップS23)、熱縮退に入る(ステップS24)。
【0126】
連続強制放電が繰り返し発生すると、その回数に応じてメイン抵抗61aに熱が蓄積していく。それにより、回数が増えるほど、強制放電を開始する時のメイン抵抗61aの温度が上昇する。すなわち、強制放電を実行する前の段階で、メイン抵抗61aの温度は通常時よりも高くなる。従って、図8に二点鎖線L2で示すように、通常時と同様に第1放電制御および第2放電制御を実行すると、メイン抵抗61aが損傷するおそれがある。
【0127】
そこで、そうした場合、図8に破線L1で示すように、通常時における負極コンタクタ31bの遮断タイミングから、設定した第1遅延時間の間、第1放電制御および第2強制放電制御を実行しないで待機し、第1放電制御および第2強制放電制御の実行タイミングを遅らせる。
【0128】
遅延により、前回の強制放電の終了から第2放電制御の実行までの経過時間が長くなり、メイン抵抗61aの温度を通常時の場合よりも低下させることができる。従って、強制放電の開始時におけるメイン抵抗61aの温度が通常時よりも高くなっていても、メイン抵抗61aが損傷するのを抑制できる。
【0129】
(冷却システム14の異常)
PCM13はまた、連続強制放電に該当すると判定した場合、インバータ40での冷却水の温度を判定する(ステップS25)。具体的には、インバータ40での冷却水の温度が所定の水温上限値Th未満か否かを判定する。
【0130】
その結果、インバータ40での冷却水の温度が所定の水温上限値Th以上と判定すると(ステップS25でNo)、PCM13は、所定の遅延時間(第2遅延時間、例えば60秒)を設定し(ステップS26)、熱縮退に入る(ステップS24)。
【0131】
すなわち、インバータ40の冷却が不十分であることから、メイン抵抗61aの温度も通常時よりも高くなっている。従って、図8に二点鎖線L2で示すように、通常時と同様に第1放電制御および第2放電制御を実行すると、メイン抵抗61aが損傷するおそれがある。
【0132】
そこで、そうした場合、図8に示すように、通常時における負極コンタクタ31bの遮断タイミングから、設定した第2遅延時間の間、第1放電制御および第2強制放電制御を実行しないで待機し、第1放電制御および第2強制放電制御の実行タイミングを遅らせる。
【0133】
遅延により、前回の強制放電の終了から第2放電制御の実行までの経過時間が長くなり、メイン抵抗61aの温度を通常時の場合よりも低下させることができる。従って、強制放電の開始時におけるメイン抵抗61aの温度が通常時よりも高くなっていても、メイン抵抗61aが損傷するのを抑制できる。
【0134】
PCM13はまた、冷却システム14に異常がないか否かを判定する(ステップS27)。例えば、冷却水経路14bが破損して水漏れがあれば、インバータ40の温度が上昇する。PCM13は、電動ポンプ14aの通電状態などから冷却システム14の異常を検知する。PCM13は、この場合も、所定の遅延時間(第2遅延時間、例えば60秒)を設定し(ステップS26)、熱縮退に入る(ステップS24)。
【0135】
(DCDCコンバータ50の異常)
自動車1の衝突等、何らかのトラブルによって、DCDCコンバータ50が作動しない場合がある。その場合、第1放電制御を実行しても、インバータ40(平滑コンデンサ42)の電圧はほとんど下がらず、閾値V0には達しない。
【0136】
そこで、そのような場合、PCM13は、直前の強制放電において、DCDCコンバータ50の異常を検知する。すなわち、負極コンタクタ31bをオフにした後の所定のタイミング(図4におけるt2のタイミング)で、電圧計43の計測データに基づいて、平滑コンデンサ42の電圧が閾値V0未満になったか否かについて判定する(ステップS28)。
【0137】
その結果、インバータ40の入力電圧が閾値V0未満になっていないと判定した場合には、PCM13は、今回の強制放電においてもインバータ40の入力電圧は下がらないと判断し、所定の遅延時間(第3遅延時間、例えば20秒)を設定し(ステップS29)、熱縮退に入る(ステップS24)。
【0138】
この場合、図9に示すように、DCDCコンバータ50は作動しない。第1放電制御を実行しても平滑コンデンサ42の電圧はほとんど下がらない。そのため、図9に示すように、通常時における負極コンタクタ31bの遮断タイミングから第3遅延時間が経過するまで待機した後に、第2放電制御を実行する。
【0139】
DCDCコンバータ50の異常時におけるフローチャートを図10図11に例示する。この場合、PCM13は、図5のフローチャートのステップS8およびステップS9、および、図6のフローチャートのステップS11およびステップS12をとばす形で処理を実行する。その他の処理は、先のフローチャートと同じであるので、同じ内容の処理は同じ符号を用いてその詳細な説明は省略する。
【0140】
PCM13は、熱縮退の待機により、第3遅延時間が経過すると、負極コンタクタ31bをオフにする(ステップS7)。そうした後、PCM13は、所定のタイミング(図9におけるt5のタイミング)でスイッチ61bをオンにし、アクティブ放電回路61での強制放電、つまり第2放電制御を開始する(ステップS10)。それにより、平滑コンデンサ42の電荷が減少し、平滑コンデンサ42の電圧は低下していく。
【0141】
その後、PCM13は、平滑コンデンサ42の電圧が低下して目標電圧V2に達したか否かを判定する(ステップS13)。そして、目標電圧V2に達したと判定した場合(図9におけるt6のタイミング)、PCM13は、スイッチ61bをオフにし、第2放電制御を終了する(ステップS14)。その後は、平滑コンデンサ42の電荷が無くなるまで、パッシブ回路で放電を行う(ステップS15)。
【0142】
なお、遅延時間は、第1遅延時間が最も短く、第2遅延時間が最も長い。第3遅延時間は第2遅延時間よりも短く、第1遅延時間よりも長い。これらは、熱縮退の原因に基づくものである。
【0143】
(熱縮退の解除)
熱縮退に入った後、PCM13は、所定の条件に達した時に熱縮退を解除する。
【0144】
すなわち、図7に示すように、PCM13は、前回の強制放電からの経過時間ts2を判定する。具体的には、直前に行った強制放電の終了からの経過時間ts2が、所定の時間(縮退解除判定時間tf、例えば5分)を超えたか否かを判定する(ステップS30)。
【0145】
その結果、経過時間ts2が縮退解除判定時間tfを超えた場合、PCM13は、熱縮退を解除する(ステップS31)。
【0146】
このように、この強制放電システムによれば、平滑コンデンサ42の強制放電を短時間で効果的に行える。そして、メイン抵抗61aの損傷、換言すればインバータ40が備える電子基板の故障を回避できる。従って、強制放電制御システムの信頼性を向上できる。
【0147】
なお、開示する技術は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。例えば、上述した実施形態では、ハイブリッド車への適用例を示したが、開示する技術は、モータのみで駆動する電気自動車にも適用できる。制御装置は、PCMに限らない。別途、それ専用の装置を用いてもよい。
【符号の説明】
【0148】
1 自動車(車両)
2 エンジン
3 駆動モータ
4 自動変速機
9 高電圧回路
10 低電圧回路
12 車載部品(低電圧部品)
13 PCM(制御装置)
13a 強制放電制御部
14 冷却システム(冷却機構)
20 バッテリ
30 コンタクタ
31 メインコンタクタ(電源切替手段)
31a 正極コンタクタ
31b 負極コンタクタ
40 インバータ
42 平滑コンデンサ
50 DCDCコンバータ(降圧コンバータ)
60 強制放電回路
61 アクティブ放電回路
61a メイン抵抗
61b スイッチ(通電切替手段)
62 パッシブ放電回路
62a サブ抵抗
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11