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特開2023-176435無電解銀めっき用無電解ニッケル-リンめっき浴、及び、硫黄化合物を含まないニッケルめっき上への無電解銀めっきを施す方法
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  • 特開-無電解銀めっき用無電解ニッケル-リンめっき浴、及び、硫黄化合物を含まないニッケルめっき上への無電解銀めっきを施す方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176435
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】無電解銀めっき用無電解ニッケル-リンめっき浴、及び、硫黄化合物を含まないニッケルめっき上への無電解銀めっきを施す方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/36 20060101AFI20231206BHJP
   C23C 18/42 20060101ALI20231206BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C23C18/36
C23C18/42
C23C26/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088711
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河▲崎▼ 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 典彦
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 佳
(72)【発明者】
【氏名】田中 克幸
【テーマコード(参考)】
4K022
4K044
【Fターム(参考)】
4K022AA02
4K022AA31
4K022AA41
4K022BA01
4K022BA14
4K022BA16
4K022BA32
4K022BA36
4K022DA01
4K022DB02
4K022DB07
4K044AA06
4K044AB02
4K044BA06
4K044BA08
4K044BB01
4K044BB03
4K044BC08
4K044CA15
(57)【要約】      (修正有)
【課題】硫黄化合物を含まないニッケルめっき上への無電解銀めっきを施す方法を提供する。
【解決手段】金属表面を処理する方法であって、(1)金属表面に、無電解銀めっき用無電解ニッケル-リンめっき浴を用いて無電解ニッケル-リンめっきを施す工程、及び(2)ニッケル-リンめっきが施された金属表面に、無電解銀めっきを施す工程を含み、無電解銀めっき用無電解ニッケル-リンめっき浴は、硫黄化合物を含まない、方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無電解銀めっき用無電解ニッケル-リンめっき浴であって、
ニッケル-リン皮膜中に硫黄化合物を含まない、
無電解銀めっき用無電解ニッケル-リンめっき浴。
【請求項2】
金属表面を処理する方法であって、
(1)金属表面に、無電解銀めっき用無電解ニッケル-リンめっき浴を用いて無電解ニッケル-リンめっきを施す工程、及び
(2)前記ニッケル-リンめっきが施された金属表面に、無電解銀めっきを施す工程
を含み、
前記無電解銀めっき用無電解ニッケル-リンめっき浴は、硫黄化合物を含まない、
方法。
【請求項3】
めっき皮膜の製造方法であって、
(1)金属表面に、無電解銀めっき用無電解ニッケル-リンめっき浴を用いて無電解ニッケル-リンめっきを施す工程、
を含み、
前記無電解銀めっき用無電解ニッケル-リンめっき浴は、硫黄化合物を含まない、
製造方法。
【請求項4】
更に、
(2)前記工程(1)の後、前記ニッケル-リンめっきが施された金属表面に、無電解銀めっきを施す工程、
を含む、
請求項3に記載のめっき皮膜の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の製造方法に依って得られるめっき皮膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解銀めっき用無電解ニッケル-リンめっき浴、及び、硫黄化合物を含まないニッケルめっき上への無電解銀めっきを施す方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、無電解ニッケルめっきを施す工程及び銀めっきを施す工程を含む金属表面を処理する方法において、無電解ニッケルめっき溶液が0.0005重量%~0.1重量%の硫黄を含む方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5711376号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、新たに、硫黄化合物を含まないニッケルめっき上への無電解銀めっきを施す方法を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意検討した結果、無電解銀めっき用無電解ニッケル-リンめっき浴は、硫黄化合物を含まない事に依り、金属表面に、先ず、無電解銀めっき用無電解ニッケル-リンめっき浴を用いて無電解ニッケルめっきを施し、次いで、前記ニッケルめっきが施された金属表面に、無電解銀めっきを施すと、ニッケル腐食が減少した為、ニッケル(Ni)めっきと銀(Ag)めっきとの間の密着性が良好であり、はんだ濡れ性や焼結銀による接合性も良好になるという技術を開発した。
【0006】
即ち、本発明は、次の無電解銀めっき用無電解ニッケル-リンめっき浴、及び、硫黄化合物を含まないニッケルめっき上への無電解銀めっきを施す方法を包含する。
【0007】
項1.
無電解銀めっき用無電解ニッケル-リンめっき浴であって、
ニッケル-リン皮膜中に硫黄化合物を含まない、無電解銀めっき用無電解ニッケル-リンめっき浴。
【0008】
項2.
金属表面を処理する方法であって、
(1)金属表面に、無電解銀めっき用無電解ニッケル-リンめっき浴を用いて無電解ニッケル-リンめっきを施す工程、及び
(2)前記ニッケル-リンめっきが施された金属表面に、無電解銀めっきを施す工程
を含み、
前記無電解銀めっき用無電解ニッケル-リンめっき浴は、硫黄化合物を含まない、
方法。
【0009】
項3.
めっき皮膜の製造方法であって、
(1)金属表面に、無電解銀めっき用無電解ニッケル-リンめっき浴を用いて無電解ニッケル-リンめっきを施す工程、
を含み、
前記無電解銀めっき用無電解ニッケル-リンめっき浴は、硫黄化合物を含まない、
製造方法。
【0010】
項4.
更に、
(2)前記工程(1)の後、前記ニッケル-リンめっきが施された金属表面に、無電解銀めっきを施す工程、
を含む、
前記項3に記載のめっき皮膜の製造方法。
【0011】
項5.
前記項3又は4に記載の製造方法に依って得られるめっき皮膜。
【0012】
本発明の無電解銀めっき用無電解ニッケル-リンめっき浴は、硫黄化合物を含まない事から、金属表面に、先ず、無電解銀めっき用無電解ニッケル-リンめっき浴を用いて無電解ニッケル-リンめっきを施し、次いで、前記ニッケル-リンめっきが施された金属表面に、無電解銀めっきを施すと、ニッケル腐食が減少した為、ニッケル(Ni)めっきと銀(Ag)めっきとの間の密着性が良好であり、はんだ濡れ性や焼結銀による接合性が良好になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、新たに、硫黄化合物を含まないニッケルめっき上への無電解銀めっきを施す方法を提供する事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の硫黄化合物を含まないニッケルめっき上への無電解銀めっきを施す方法の使用態様を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明を表す実施の形態は、発明の趣旨がより良く理解出来る説明であり、特に指定のない限り、発明内容を限定するものではない。
【0017】
本明細書において、「含む」及び「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみから成る(consist essentially of)」、及び「のみから成る(consist of)」のいずれも包含する概念である。
【0018】
本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0019】
[1]無電解銀めっき用無電解ニッケル-リンめっき浴
本発明の無電解銀めっき用無電解ニッケル-リンめっき浴(Ni-Pめっき浴)は、硫黄化合物を含まない。
【0020】
硫黄化合物(図1
本発明のNi-Pめっき浴は、硫黄化合物を含まない。Ni-Pめっき浴が「硫黄化合物を含まない」は、添加剤として、「硫黄化合物を実質的に含まない」(硫黄フリー)事を含む。本発明は、Ni-Pめっき浴に、添加剤として硫黄化合物を実質的に含まない事に依り、硫黄フリーの無電解Ni-P皮膜を作成する事が出来る。
【0021】
「硫黄化合物」とは、無電解ニッケル-リンめっき(Ni-Pめっき)処理を行った際に、めっき皮膜中に硫黄が共析する性質を有する化合物を意味する。一方、硫酸ニッケル(硫酸イオン)やpH調整剤として用いられる硫酸は、めっき処理後に皮膜中に硫黄が共析する性質を有していない事から、本発明が表す「硫黄化合物」には該当しない。
【0022】
硫黄化合物を「実質的に」含まないとは、無電解Ni-Pめっき浴を用いた場合に作成できる無電解ニッケル-リンめっき皮膜(Ni-Pめっき皮膜)皮膜中における硫黄含有率が0.0005質量%未満となる事を意味する。本発明では、無電解Ni-Pめっき浴に硫黄化合物が全く含まれない事のみを意味するものではない。
【0023】
無電解Ni-Pめっき皮膜中における硫黄含有率は、燃焼法による炭素・硫黄分析装置等に依り測定する事が出来る。
【0024】
硫黄化合物は、例えば、促進剤として用いられるチオ硫酸又はその塩(例えば、ナトリウム塩等)、安定剤として用いられるチオ尿素等である。
【0025】
本発明のNi-Pめっき浴は、硫黄化合物を含まない事から、金属表面に、先ず、Ni-Pめっき浴を用いて無電解ニッケル-リンめっき(以下「Ni-Pめっき」とも記す)を施し、次いで、前記ニッケル-リンめっきが施された金属表面に、無電解銀めっき(以下「Agめっき」とも記す)を施すと、ニッケル腐食が減少した為、Ni-PめっきとAgめっきとの間の密着性が良好となり、はんだ濡れ性や焼結銀による接合性も良好になる。
【0026】
ニッケルイオン源
本発明のNi-Pめっき浴は、好ましくは、ニッケルイオン源を含む。
【0027】
ニッケルイオン源は、好ましくは、臭化ニッケル、フルオロホウ酸ニッケル、スルホン酸ニッケル、スルファミン酸ニッケル、アルキルスルホン酸ニッケル、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、及び次亜リン酸ニッケルから成る群から選ばれる少なくとも1種のニッケルイオン源(ニッケル塩)である。ニッケルイオン源(ニッケル塩)は、より好ましくは、スルファミン酸ニッケル、硫酸ニッケル等である。
【0028】
ニッケルイオン源は、これらのニッケルイオン源を1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0029】
ニッケルイオンは、工程において酸化される化学還元剤の作用によって、Ni-Pめっき浴中でニッケルに還元される。触媒は、基材であっても基材上の金属表面であってもよく、これに依り、最終的に基材上にニッケルが析出すると同時に還元-酸化反応が生じることを可能とする。
【0030】
Ni-Pめっき浴におけるニッケルイオン源の濃度は、良好にNi-Pめっき皮膜を形成する上で、適宜調整する。Ni-Pめっき浴におけるニッケルイオン源の濃度は、ニッケル金属として、好ましくは、0.01g/L~100g/Lであり、より好ましくは、0.5g/L~50g/Lであり、更に好ましくは、1g/L~10g/Lである。Ni-Pめっき浴におけるニッケルイオン源の濃度を、ニッケル金属として、0.01g/L~100g/Lに調整する事に依り、析出速度は良好であり、Ni-Pめっき浴の安定性は良好である。
【0031】
還元剤
本発明のNi-Pめっき浴は、好ましくは、還元剤を含む。
【0032】
還元剤は、好ましくは、ヒドリドホウ酸イオン、及び次亜リン酸イオンから成る群から選ばれる少なくとも1種の還元剤である。還元剤は、より好ましくは、次亜リン酸イオン等の次亜リン酸を用い、更に好ましくは、次亜リン酸ナトリウム等の次亜リン酸塩である。還元剤は、その他、好ましくは、水素化ホウ素ナトリウム、ジメチルアミンボラン、N-ジエチルアミンボラン、ヒドラジン、及び水素から成る群から選ばれる少なくとも1種の還元剤である。
【0033】
還元剤は、これらの還元剤を1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0034】
Ni-Pめっき浴における還元剤の濃度は、良好にNi-Pめっき皮膜を形成する上で、適宜調整する。Ni-Pめっき浴における還元剤(次亜リン酸、次亜リン酸塩、及びその水和物等)の濃度は、好ましくは、0.1g/L~100g/Lであり、より好ましくは、1g/L~50g/Lであり、更に好ましくは、5g/L~35g/Lである。Ni-Pめっき浴における還元剤の濃度を、0.1g/L~100g/Lに調整する事に依り、析出速度は良好であり、Ni-Pめっき浴の安定性は良好である。
【0035】
錯化剤
本発明のNi-Pめっき浴は、好ましくは、錯化剤を含む。
【0036】
錯化剤は、好ましくは、グリシン等のアミノ酸、クエン酸、乳酸、及びリンゴ酸から成る群から選ばれる少なくとも1種の錯化剤である。
【0037】
錯化剤は、これらの錯化剤を1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0038】
Ni-Pめっき浴における錯化剤の濃度は、良好にNi-Pめっき皮膜を形成する上で、適宜調整する。Ni-Pめっき浴における錯化剤の濃度は、好ましくは、0.5g/L~100g/Lである。Ni-Pめっき浴における錯化剤の濃度を、0.5g/L~100g/Lに調整する事に依り、析出速度は良好であり、Ni-Pめっき浴の安定性は良好である。
【0039】
浴安定剤
本発明のNi-Pめっき浴は、好ましくは、浴安定剤を含む。
【0040】
浴安定剤は、好ましくは、金属(無機)安定剤、及び有機安定剤から成る群から選ばれる少なくとも1種の浴安定剤である。
【0041】
金属安定剤は、例えば、鉛化合物(例えば、硝酸鉛、酢酸鉛等)、カドミウム化合物(例えば、硝酸カドミウム、酢酸カドミウム等)、タリウム化合物(例えば、硫酸タリウム、硝酸タリウム等)、アンチモン化合物(例えば、塩化アンチモン、酒石酸アンチモニルカリウム等)、テルル化合物(例えば、テルル酸、塩化テルル等)、クロム化合物(例えば、酸化クロム、硫酸クロム)、鉄化合物(例えば、硫酸鉄、塩化鉄等)、マンガン化合物(例えば、硫酸マンガン、硝酸マンガン)、ビスマス化合物(例えば、硝酸ビスマス、酢酸ビスマス等)、スズ化合物(例えば、硫酸スズ、塩化スズ等)、セレン化合物(例えば、セレン酸、亜セレン酸等)、シアン化物(例えば、メチルシアニド、イソプロピルシアニド等)等が挙げられる。
【0042】
本発明は、Ni-Pめっき浴に、前記説明の通り、添加剤として硫黄化合物を実質的に含まない場合において、有機安定剤を含んでも良い。有機安定剤は、好ましくは、窒素化合物であり、例えば、チオ尿素等が挙げられる。
【0043】
浴安定剤は、これらの浴安定剤を1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0044】
Ni-Pめっき浴における浴安定剤の濃度は、良好にNi-Pめっき皮膜を形成する上で、適宜調整する。Ni-Pめっき浴における浴安定剤の濃度は、好ましくは、0.10mg/L~100mg/Lである。Ni-Pめっき浴における浴安定剤の濃度を、0.10mg/L~100mg/Lに調整する事に依り、Ni-Pめっき浴の安定性は向上し、良好に被処理物のめっき皮膜が形成され、Ni-Pめっき浴の安定性は良好である。被処理物のめっき皮膜の未析出箇所が発生しない。
【0045】
添加剤
本発明のNi-Pめっき浴は、好ましくは、添加剤を含む。
【0046】
Ni-Pめっき浴の溶液のpHを維持する為に、好ましくは、添加剤として、塩酸、硫酸、リン酸等の酸;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水等のアルカリから成る群から選ばれる少なくとも1種のpH調整剤を含む。
【0047】
本発明のNi-Pめっき浴のpHは、pH調整剤を用いて調整する事が出来、好ましくは、pH3~pH12であり、より好ましくは、pH4~pH9である。Ni-Pめっき浴のpHを、pH3~pH12に調整する事に依り、良好に被処理物のめっき皮膜が形成される。被処理物のめっき皮膜の未析出箇所が発生しない。pHが、3未満であると未析出が発生する場合があり、12を超えると浴安定性が低下する場合がある為、上記した範囲とすることが好ましい。
【0048】
本発明の金属表面にめっきされるニッケルは、浸漬銀析出物を得る点で、好ましくは、0.1質量%~14質量%のリンを含む。
【0049】
添加剤は、これらの添加剤を1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0050】
[2]金属表面を処理する方法、及びめっき皮膜の製造方法
本発明の金属表面を処理する方法は、
(1)金属表面に、無電解銀めっき用無電解ニッケル-リンめっき浴(Ni-Pめっき浴)を用いて無電解ニッケル-リンめっき(Ni-Pめっき)を施す工程、及び
(2)前記ニッケル-リンめっき(Ni-Pめっき)が施された金属表面に、無電解銀めっき(Agめっき)を施す工程を含み、
前記無電解銀めっき用無電解ニッケル-リンめっき浴(Ni-Pめっき浴)は、硫黄化合物(S化合物)を含まない、方法である。
【0051】
本発明の金属表面を処理する方法は、言い換えると、めっき皮膜の製造方法であり、
(1)金属表面に、無電解銀めっき用無電解ニッケル-リンめっき浴を用いて無電解ニッケル-リンめっきを施す工程を含み、
前記無電解銀めっき用無電解ニッケル-リンめっき浴は、硫黄化合物を含まない、
製造方法である。
【0052】
本発明のめっき皮膜の製造方法は、好ましくは、更に、
(2)前記工程(1)の後、前記ニッケル-リンめっきが施された金属表面に、無電解銀めっきを施す工程を含む。
【0053】
金属表面に、Ni-Pめっき浴を用いてNi-Pめっきを施す工程は、好ましくは、金属表面に、Ni-Pめっき浴を浸漬する。
【0054】
Ni-Pめっきが施された金属表面に、Agめっきを施す工程は、好ましくは、Ni-Pめっきが施された金属表面に、Agめっき浴を浸漬する。
【0055】
本発明は、本発明の金属表面を処理する方法、及びめっき皮膜の製造方法に依って得られるめっき皮膜を包含する。
【0056】
(1)金属表面に、Ni-Pめっき浴を用いてNi-Pめっきを施す工程
金属表面
本発明の金属表面を処理する方法、及び前記めっき皮膜の製造方法は、(1)金属表面にNi-Pめっき浴を用いてNi-Pめっきを施す工程を含む。
【0057】
前記Ni-Pめっき浴は、硫黄化合物(S化合物)を含まない。
【0058】
金属表面は、好ましくは、鉄、ニッケル、アルミ、銅、及びこれらの合金(アルミ合金等)等である。
【0059】
金属表面とめっき組成物とを接触させる前に、好ましくは、金属表面を洗浄する。洗浄は、酸性、又はアルカリ性洗浄組成物等の洗浄組成物を用いる。
【0060】
ニッケルめっきは、好ましくは、無電解で行われる。無電解ニッケル-リンめっき(Ni-Pめっき)では、ニッケルイオンがニッケルに自己触媒的に又は化学的に還元され、次いで、基材上に析出するものであり、ニッケルでめっきし得る任意の金属表面上で用いる事が出来る。
【0061】
鉄、ニッケル等の金属表面上において、良好にNi-Pめっきを行う為に、好ましくは、金属表面と無電解ニッケルめっき浴(Ni-Pめっき浴)とを接触させる前に、前処理方法として、金属表面を、塩酸、硫酸等を用いて酸活性処理を行う。
【0062】
アルミ等の金属表面上において、良好にNi-Pめっきを行う為に、好ましくは、金属表面と無電解ニッケルめっき浴(Ni-Pめっき浴)とを接触させる前に、前処理方法として、金属表面を貴金属活性化剤又は金属活性化剤で活性化させたり、金属表面をダブルジンケート法(アルミの酸化皮膜を亜鉛皮膜に置換させる処理)で処理したりする。貴金属活性化剤は、好ましくは、コロイド状又はイオン状の白金、金、パラジウム、銀等を含む。金属活性化剤は、好ましくは、コロイド状又はイオン状のニッケル、コバルト等を含む。貴金属活性化剤又は金属活性化剤で活性化に依る活性化は、無電解工程の前に実施する。
【0063】
金属表面には、好ましくは、金属表面をマイクロエッチングして、接着の強度を高める。銅又は銅合金の金属表面の場合、マイクロエッチングは、好ましくは、硫黄過酸化物マイクロエッチング、塩化第二銅マイクロエッチング、過硫酸塩マイクロエッチング等である。マイクロエッチングに依り、金属表面を均一に粗化する。マイクロエッチング液と接触させる時間及び温度は、均一に粗い金属表面を得る目的で、用いるマイクロエッチング液の種類及び金属表面の特徴に応じて、適宜調整する。
【0064】
金属表面に対して、マイクロエッチングの後、且つNi-Pめっきとの接触前、金属表面を、貴金属活性化剤で活性化して、好ましくは、Ni-Pめっきを開始させる事が出来る触媒性貴金属部位で、金属表面をコーティングする。
【0065】
無電解めっき(Ni-Pめっき)の析出速度は、適切な温度、pH、及び金属イオン/還元剤の濃度を選択する事に依り制御する。また、錯化剤を触媒阻害剤として用いて、無電解浴の自然分解能を低下させることもできる。
【0066】
Ni-Pめっき皮膜
金属表面とNi-Pめっき浴とを接触させる。金属表面上における無電解ニッケル-リンめっき(Ni-Pめっき皮膜)の総厚みは、時間及び温度好を適宜調整して、好ましくは、0.1μm~50μm、より好ましくは、1μm~25μmのニッケルをめっきする。
【0067】
Ni-Pめっき皮膜の層が金属表面上に析出すると、次いで、Ni-Pめっきが施された金属表面に浸漬銀めっき(Agめっき)を施して、銀の層を提供する。
【0068】
浸漬銀析出物は、優れたはんだ付け性保存剤であり、また、焼結銀による接合性に優れる点から、プリント基板やセラミック基板の製造において特に有用である。
【0069】
Ni-Pめっきを施す工程
Ni-Pめっき浴の浴温は、めっき浴の組成等に応じて適宜決定する。めっき工程におけるNi-Pめっき浴の浴温は、好ましくは、25℃以上であり、より好ましくは、40℃~100℃であり、更に好ましくは、60℃~95℃である。Ni-Pめっき浴の浴温を、25℃以上に調整する事に依り、良好にめっき皮膜が析出し、生産効率は良好である。
【0070】
めっき工程における処理時間は、めっき浴の組成等に応じて適宜決定し、被めっき物に必要な膜厚のNi-Pめっき皮膜が形成されるまでの時間とする。めっき工程における処理時間は、めっき浴の組成、被めっき物の種類等に応じて適宜決定し、好ましくは、1分~1,000分であり、より好ましくは、5分~180分である。
【0071】
(2)Ni-Pめっきが施された金属表面に、Agめっきを施す工程
本発明のNi-Pめっき及び浸漬Agめっき後に得られるはんだ付け性は、回路表面のガルバニック腐食を大きく低減し、変色及び腐食し易い銅孔を減少させ、且つボンディング用途のプロセスウインドウを広げる。これは、プリント基板用途において、例えば、表面がワイヤボンディング可能に成る点、また、焼結銀による接合性に優れる点から、有益である。
【0072】
本発明の金属表面を処理する方法、及びめっき皮膜の製造方法に依って、均一な銀皮膜が得られる。
【0073】
浸漬銀(Ag)めっき浴
本発明の金属表面を処理する方法、及びめっき皮膜の製造方法は、前記(1)の後、(2)前記Ni-Pめっきが施された金属表面に、Agめっきを施す工程を含む。
【0074】
Agめっきを施す工程で用いる浸漬銀(Ag)めっき浴は、好ましくは、可溶性銀イオン源、酸、錯化剤、任意で、イミダゾール又はイミダゾール誘導体を含む。
【0075】
可溶性銀イオン源
浸漬Agめっき浴は、好ましくは、可溶性銀イオン源及び酸水性マトリクスを含む。可溶性銀イオン源は、好ましくは、有機又は無機の銀塩を含む。可溶性銀イオン源は、例えば、硝酸銀、ヨウ化銀、酸化銀、硫酸銀、塩化銀、亜硫酸銀、炭酸銀、酢酸銀、乳酸銀、スルホコハク酸銀、スルホン酸銀、スルファミン酸銀、シュウ酸銀、シアン化銀カリウム等のシアン化銀化合物等が挙げられる。
【0076】
浸漬Agめっき浴における銀の濃度は、銀金属として、好ましくは、0.01g/L~25g/Lであり、より好ましくは、0.1g/L~5g/Lである。
【0077】

浸漬Agめっき浴に、好ましくは、フルオロホウ酸、塩酸、リン酸、メタンスルホン酸、及び硝酸から成る群から選ばれる少なくとも1種の酸を使用する。酸は、好ましくは、メタンスルホン酸、硝酸等を用いる。
【0078】
浸漬Agめっき浴における酸の濃度は、好ましくは、0.01g/L~150g/Lであり、より好ましくは、0.05g/L~50g/Lである。
【0079】
錯化剤
浸漬Agめっき浴は、Ni-Pめっきが施された金属表面(基材)を、均一に銀で被覆する為に、好ましくは、錯化剤を含む。錯化剤は、好ましくは、亜硫酸塩、コハク酸イミド、ヒダントイン誘導体、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、シアン化合物、アンモニア塩、チオ硫酸塩、チオシアン酸塩、ヨウ化物塩から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物である。
【0080】
浸漬Agめっき浴における錯化剤の濃度は、好ましくは、0.1g/L~200g/Lであり、より好ましくは、0.5g/L~150g/Lである。
【0081】
添加剤
浸漬Agめっきが電気移動する傾向を更に低減する為に、好ましくは、めっき浴に添加剤を配合したり、めっきが施された表面を後に添加剤で処理したりしても良い。添加剤をめっき析出物中に含めても良い。添加剤は、好ましくは、脂肪族アミン、脂肪酸、脂肪族アミド、第四級塩、両性塩、樹脂質アミン、樹脂質アミド、樹脂酸、及びこれらの混合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の添加剤である。
【0082】
浸漬Agめっき浴における添加剤の濃度は、好ましくは、0.01g/L~15g/Lであり、より好ましくは、0.05g/L~10g/Lである。
【0083】
イミダゾール又はイミダゾール誘導体
浸漬Agめっき浴は、好ましくは、イミダゾール又はイミダゾール誘導体を含み、めっきをより明るく、より滑らかに、且つより凝集性にしても良い。
【0084】
Agめっきを施す工程
浸漬Agめっき浴の浴温は、好ましくは、室温~100℃であり、より好ましくは、25℃~90℃の温度である。めっきが施される製品は、望ましいめっき厚みの析出物を得るのに適した時間は、好ましくは、1分間~60分間において、めっき溶液に浸漬する。
【0085】
浸漬Ag溶液は、金属表面上に銀の薄層をめっきする。
【0086】
得られる銀コーティングの厚みは、表面のはんだ付け性を有効に強化及び保持する為の厚みであり、好ましくは、0.01μm~5μmであり、より好ましくは、0.05μm~1.5μmである。
【0087】
本発明の金属表面を処理する方法、及びめっき皮膜の製造方法の有用性
本発明の金属表面を処理する方法、及びめっき皮膜の製造方法は、様々な金属表面のはんだ付けにおいて有効であり、特に、プリント基板等の電子パッケージデバイスにおける接続領域等の銅表面のはんだ付けにおいて特に有用である。プリント基板における腐食を防ぐ事に依って、デバイスの耐用寿命を延ばす事が出来る。更に、腐食を無くす事が出来、基板、回路、コンポーネント、焼結銀による接合、パワーモジュール等の製造に有用である。
【0088】
本発明の金属表面を処理する方法、及びめっき皮膜の製造方法は、例えば、プリント基板を含む電子パッケージデバイスのはんだ付けにおいて有用である。
【0089】
本発明の金属表面を処理する方法、及びめっき皮膜の製造方法を用いて、半導体チップ上にニッケルを無電解で析出させる事が出来る。本発明の金属表面を処理する方法、及びめっき皮膜の製造方法を用いて、透明基板上に第1の伝導性層、活性層、及び第2の伝導性層をこの順序で積層する事に依り、半導体上に、無電解ニッケル及び浸漬銀めっきを析出させる事が出来る。
【0090】
本発明の金属表面を処理する方法、及びめっき皮膜の製造方法は、下層の銅基板に起因するガルバニック腐食を実質的に無くす事が出来る。
【0091】
本発明の金属表面を処理する方法、及びめっき皮膜の製造方法は、変色腐食を受け易い銀析出物における銅孔を実質的に無くし、更に、銀析出物を通じた銅の移動を実質的に無くす事が可能である。
【0092】
本発明の金属表面を処理する方法、及びめっき皮膜の製造方法は、ワイヤボンディング中に遭遇する任意の酸化された銅に依りボンディング不可能な表面が生じるので、ワイヤボンディング用途に有用である。
【0093】
本発明の金属表面を処理する方法、及びめっき皮膜の製造方法は、Ni-Pめっきを利用しており、Ni-Pめっき析出物を用いてニッケルバリアを提供しても良く、Ni-Pめっき浴がニッケル合金を含んでいても良い。
【実施例0094】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明する。
【0095】
本発明は、以下の具体的な実施例に限定されない。
【0096】
[1]金属表面を処理する方法
(1)金属表面に、Ni-Pめっき浴を用いてNi-Pめっきを施す工程
実施例の無電解Ni-Pめっき浴を、表1に記載の組成に従って、調整した。
【0097】
被めっき物としてCu板を用い、調整した無電解Ni-Pめっき浴中(浴温:90℃)に被めっき物を浸漬することで、膜厚3μm~5μmのNi-Pめっき皮膜を形成した。
【0098】
形成しためっき皮膜のP含有率を蛍光X線分析装置で測定した。
【0099】
硫黄含有率を燃焼法による炭素・硫黄分析装置で測定した。
【0100】
【表1】
【0101】
実施例で使用した皮膜
硫黄フリーNi-P/Agめっき皮膜:硫黄フリーNi-Pめっき皮膜中に、硫黄は含有しない。
【0102】
比較例で使用した皮膜
硫黄含有Ni-P/Agめっき皮膜:硫黄含有Ni-Pめっき皮膜中に、1質量%~12質量%のリン(P)を含み、及び0.0005質量%~0.1質量%の硫黄を含む。
【0103】
リン(P)含有率
低リン:めっき皮膜に含まれるP含有率が0.1質量%~5質量%程度である。
中リン:めっき皮膜に含まれるP含有率が6質量%~9質量%程度である。
高リン:めっき皮膜に含まれるP含有率が10質量%~14質量%程度である。
【0104】
(2)Ni-Pめっきが施された金属表面に、Agめっきを施す工程
前記工程(1)でNi-Pめっきを行っためっき物を用い、無電解Agめっき浴中(浴温:70℃~80℃)にNi-Pめっき物を浸漬する事で、膜厚0.1μm~1μmのAgめっき皮膜を形成した。
【0105】
形成したAgめっきの膜厚を、蛍光X線分析装置で測定した。
【0106】
[2]めっき皮膜の評価
(1)密着性
無電解Agめっき後、碁盤目状にカッターで切り込みをいれ、テープを用いて評価を行った。
◎~〇評価:剥がしたテープをマイクロスコープにて観察し、テープにめっき皮膜が全く付着していない場合。
△評価:剥がしたテープをマイクロスコープにて観察し、テープにめっき皮膜が少し付着した場合。
×評価:剥がしたテープをマイクロスコープにて観察し、テープにめっき皮膜が多量に付着した場合。
【0107】
【表2】
【0108】
実施例の硫黄フリーNi-Pめっき皮膜をAgめっきの下地として使用すると、Agめっき皮膜の剥がれは認められなかった。
【0109】
実施例の硫黄フリーNi-Pめっき皮膜は、中リン~高リンの時に最も良好な密着性を示した。
【0110】
(2)無電解AgめっきによるNi-P皮膜の腐食度合い
無電解Agめっき後、剥離液にてAgめっき皮膜を剥離し、Ni-P皮膜表面をFE-SEMにて観察した。
【0111】
【表3】
【0112】
実施例の硫黄フリーNi-Pめっき皮膜を使用した場合、皮膜中に硫黄が含有していない為、耐食性が向上し、Ag剥離後においてもNi腐食が減少した。
【0113】
実施例の硫黄フリーNi-Pめっき皮膜は、中リン~高リンの時に最もNi腐食が減少する傾向であった。
【0114】
(3)はんだ濡れ性
はんだボール(Sn-3Ag-0.5Cu、Φ0.76mm)を用いて、窒素雰囲気化にて、Agめっき皮膜上にはんだ付けを行い、はんだ濡れ広がり性の評価を行った。はんだをマイクロスコープにて観察し、濡れ広がった長さ(μm)を測定した。
【0115】
【表4】
【0116】
比較例の硫黄含有Ni-Pめっき皮膜を使用した場合、濡れ広がり性は約2500μm~2800μmであった。
【0117】
一方、実施例の硫黄フリーNi-Pめっき皮膜を使用した場合、濡れ広がり性は約3100μm~3600μmとなり、Ag剥離後のNi腐食が少なく、Ni-Pめっき皮膜の耐食性が向上した為、濡れ広がり性が向上する結果となった。
【0118】
実施例の硫黄フリーNi-Pめっき皮膜が中リン~高リンの時に最も良好なはんだ濡れ性を示した。
【0119】
本発明のNi-Pめっき浴は、硫黄化合物を含まない事から、金属表面に、先ず、Ni-Pめっき浴を用いてNi-Pめっきを施し、次いで、前記Ni-Pめっきが施された金属表面に、Agめっきを施すと、ニッケル腐食が減少するためNi-PめっきとAgめっきとの間の密着性が良好であり、はんだ濡れ性や焼結銀による接合性も良好になる。
【0120】
[3]産業上の利用可能性
本発明のNi-Pめっき浴は、硫黄化合物を含まない事から、金属表面に、先ず、Ni-Pめっき浴を用いてNi-Pめっきを施し、次いで、前記Ni-Pめっきが施された金属表面に、Agめっきを施すと、ニッケル腐食が減少したためNi-PめっきとAgめっきとの間の密着性が良好であり、はんだ濡れ性や焼結銀による接合性も良好になる。
図1