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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176462
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】アンモニアエンジンシステム
(51)【国際特許分類】
   F02B 43/12 20060101AFI20231206BHJP
   F02M 21/02 20060101ALI20231206BHJP
   F02M 25/12 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
F02B43/12
F02M21/02 N
F02M25/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088754
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀明
(57)【要約】
【課題】アンモニアエンジンを好適に運転する。
【解決手段】アンモニアエンジンシステム10は、空気が混合されたアンモニアを燃焼することで燃焼ガスを生成する燃焼器40と、燃焼ガスによって暖機される改質触媒23bと、改質触媒23bから排出される水素が供給されるアンモニアエンジン11と、燃焼器40に供給される空気の量及びアンモニアの量を変動させる制御部37と、を有する。制御部37は、燃焼器40に供給される空気量を、燃焼器40に供給されるアンモニアを理論上全て燃焼させるために必要な最小空気量で除した値である空気過剰率が、燃焼器40に供給されるアンモニアを燃焼可能な値で、かつ、1.1より大きい値となるように制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気が混合されたアンモニアを燃焼することで燃焼ガスを生成する燃焼器と、
前記燃焼ガスによって暖機される改質触媒と、
前記改質触媒から排出される水素が供給されるアンモニアエンジンと、を有するアンモニアエンジンシステムであって、
前記燃焼器に供給される前記空気の量及び前記アンモニアの量の少なくとも一方を変動させる制御部を有し、
前記制御部は、前記燃焼器に供給される空気量を、前記燃焼器に供給される前記アンモニアを理論上全て燃焼させるために必要な最小空気量で除した値である空気過剰率が、前記燃焼器に供給される前記アンモニアを燃焼可能な値で、かつ、1.1より大きい値となるように制御する、ことを特徴とするアンモニアエンジンシステム。
【請求項2】
前記制御部は、前記空気過剰率が、前記燃焼器に供給される前記アンモニアを燃焼可能な値のうちの最大値よりも1.1に近い値となるように制御する、請求項1に記載のアンモニアエンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアエンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
空気が混合されたアンモニアを燃焼することで燃焼ガスを生成する燃焼器が知られている。こうした燃焼器におけるアンモニアへの着火特性は、非特許文献1に記載のように、燃焼器での空気過剰率が1.1であるときに燃焼器でのアンモニアへの着火に必要なエネルギーが最小になる傾向があることが知られている。そのため、燃焼器でのアンモニアの燃焼効率を高めるためには、燃焼器での空気過剰率を1.1に制御することが最適とされていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】今橋裕、村井隆一、堀司、赤松史光、「管状火炎バーナを用いたアンモニア/空気予混合気の着火特性」、日本機械学会熱工学コンファレンス2020講義論文集
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃焼器で生成された燃焼ガスによって暖機される改質触媒と、改質触媒から排出される水素が供給されるアンモニアエンジンと、を有するアンモニアエンジンシステムに、燃焼器を採用することが考えられている。この場合、アンモニアエンジンの回転数のばらつきに起因して、燃焼器に実際に供給される空気の量が変動する。アンモニアエンジンのエンジン回転数が想定の回転数より低くなると、燃焼器に供給される空気の量が減るために、燃焼器の実際の空気過剰率が燃焼器に供給されるアンモニアを燃焼可能な値を下回ることで、アンモニアエンジンの運転に支障が生じるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためのアンモニアシステムは、空気が混合されたアンモニアを燃焼することで燃焼ガスを生成する燃焼器と、前記燃焼ガスによって暖機される改質触媒と、前記改質触媒から排出される水素が供給されるアンモニアエンジンと、を有するアンモニアエンジンシステムであって、前記燃焼器に供給される前記空気の量及び前記アンモニアの量の少なくとも一方を変動させる制御部を有し、前記制御部は、前記燃焼器に供給される空気量を、前記燃焼器に供給される前記アンモニアを理論上全て燃焼させるために必要な最小空気量で除した値である空気過剰率が、前記燃焼器に供給される前記アンモニアを燃焼可能な値で、かつ、1.1より大きい値となるように制御する、ことを特徴とする。
【0006】
上記構成によれば、アンモニアエンジンの回転数のばらつきにより、燃焼器への実際の空気供給量が制御部による制御目標値としての燃焼器への空気供給量よりも少なくなっても、燃焼器にてアンモニアを燃焼できる。したがって、燃焼器にて生成された燃焼ガスによって改質触媒が暖機されるとともに、暖機された改質触媒から排出された水素がアンモニアエンジンに供給されることにより、アンモニアエンジンを好適に運転できる。
【0007】
アンモニアシステムにおいて、前記制御部は、前記空気過剰率が、前記燃焼器に供給される前記アンモニアを燃焼可能な値のうちの最大値よりも1.1に近い値となるように制御してもよい。
【0008】
上記構成によれば、空気過剰率が1.1よりも、燃焼器に供給されるアンモニアを燃焼可能な値のうちの最大値に近い値となるように制御される場合と比較して、燃焼器でのアンモニアガスの燃焼効率を高められる。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、アンモニアエンジンを好適に運転できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態におけるアンモニアエンジンシステムの模式図である。
図2】燃焼器、点火プラグ、及び着火ユニットを示す模式図である。
図3図2の3-3線における断面図である。
図4】空気過剰率の計測結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、アンモニアエンジンシステムを具体化した一実施形態について図1図4を用いて説明する。
<アンモニアエンジンシステムの概略構成>
図1に示すように、アンモニアエンジンシステム10は、アンモニアエンジン11を有する。本実施形態のアンモニアエンジンシステム10は、エンジン式の車両50に搭載されている。アンモニアエンジン11は、燃料としてアンモニア(NH)ガスを用いる。アンモニアエンジン11の内部には燃焼室11aが形成されている。
【0012】
アンモニアエンジンシステム10は、吸気流路12と、エアクリーナ19と、メインインジェクタ14と、メインスロットルバルブ15と、を有する。吸気流路12から燃焼室11aに空気が導入される。エアクリーナ19は、空気に含まれる塵及び埃等の異物を除去する。エアクリーナ19は、吸気流路12の端部に設けられている。エアクリーナ19によって異物が除去された空気が吸気流路12に流入する。
【0013】
メインインジェクタ14は、例えば電磁式の噴射弁である。メインインジェクタ14に、不図示のアンモニアガス供給部からアンモニアガスが供給される。メインインジェクタ14は、吸気流路12内にアンモニアガスを噴射することにより、吸気流路12にアンモニアガスを供給する。メインインジェクタ14から吸気流路12に供給されたアンモニアガスは、吸気流路12を流れる空気と共に燃焼室11aに導入される。
【0014】
メインスロットルバルブ15は、吸気流路12のうち、メインインジェクタ14からアンモニアガスが供給される箇所よりも上流側に設けられている。メインスロットルバルブ15は、例えば吸気流路12の開度を調整可能な電磁式の流量制御弁である。
【0015】
アンモニアエンジンシステム10は、排気流路13と、排気触媒ユニット16と、を有する。排気流路13には、燃焼室11aで発生した排ガスが燃焼室11aから導入される。排気触媒ユニット16は、排気流路13に設けられている。排気触媒ユニット16は、三元触媒17と、SCR触媒18と、を有している。三元触媒17は、排気流路13を流れる排ガスに残留するアンモニアガスを酸化することにより、排ガスからアンモニアガスを除去する。三元触媒17は、排ガスの熱によって活性化される。SCR触媒18は、排気流路13における三元触媒17よりも下流側に設けられている。SCR触媒18は、選択式還元触媒(Selective Catalytic Reduction)である。SCR触媒18は、排気流路13を流れる排ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)をアンモニアにより窒素(N)に還元する。さらに、SCR触媒18は、三元触媒17を通過したアンモニアを捕集して除去する。
【0016】
アンモニアエンジンシステム10は、改質器23を有する。改質器23は、内部に空間が形成された箱状の収容部23aを有している。収容部23aの内部には、改質触媒23bが設けられている。言い換えると、アンモニアエンジンシステム10は、改質触媒23bを有している。収容部23aの内部には、例えば、不図示のハニカム構造の担体が設けられてもよい。この担体に改質触媒23bが塗布されることにより、改質触媒23bが収容部23aの内部に設けられてもよい。改質触媒23bは、アンモニアを水素に分解する機能と、アンモニアを燃焼させる機能と、を有している。改質触媒23bは、例えばATR(Autothermal Reformer)式アンモニア改質触媒である。改質器23は、改質触媒23bによってアンモニアガスを改質することにより、水素を含有した改質ガスを生成する。
【0017】
アンモニアエンジンシステム10は、改質ガス流路31と、クーラ32と、ストップバルブ33と、を備えている。改質ガス流路31の一端は、改質器23に接続されている。改質ガス流路31の他端は、吸気流路12におけるメインスロットルバルブ15より下流側に接続されている。改質器23により生成された改質ガスが改質ガス流路31に導入されるとともに、改質ガス流路31から吸気流路12に改質ガスが導入される。
【0018】
クーラ32は、改質ガス流路31を流れる改質ガスを冷却する。クーラ32は、例えばクーラ32の内部を流れる冷却水と改質ガスとで熱交換させることにより改質ガスを冷却する。クーラ32によって冷却された改質ガスが、改質ガス流路31を通って吸気流路12に導入される。これにより、改質ガスの熱によるメインスロットルバルブ15等の吸気系部品の損傷を抑制できる。改質ガスの冷却に伴って改質ガスの体積膨張が抑制されるため、吸気流路12から燃焼室11aにガスが流入しやすくなっている。
【0019】
ストップバルブ33は、改質ガス流路31におけるクーラ32よりも下流側に設けられている。ストップバルブ33は、例えば、改質ガス流路31を開閉する開閉弁である。
アンモニアエンジンシステム10は、第1空気流路24aと、第1インジェクタ25と、第1スロットルバルブ26と、を有する。第1空気流路24aの一端は、吸気流路12におけるメインスロットルバルブ15よりも上流側に接続されている。第1空気流路24aの他端は、改質器23に接続されている。エアクリーナ19を介して吸気流路12に導入された空気の一部が第1空気流路24aに導入される。第1空気流路24aから改質器23へ空気が導入される。
【0020】
第1インジェクタ25は、例えば電磁式の噴射弁である。第1インジェクタ25には、不図示のアンモニアガス供給部からアンモニアガスが供給される。第1インジェクタ25は、第1空気流路24a内にアンモニアガスを噴射することにより、第1空気流路24aにアンモニアガスを供給する。第1インジェクタ25から第1空気流路24aに供給されたアンモニアガスは、第1空気流路24aを流れる空気と共に改質器23に導入される。
【0021】
第1スロットルバルブ26は、第1空気流路24aのうち、第1インジェクタ25からアンモニアガスが供給される箇所よりも上流側に設けられている。第1スロットルバルブ26は、例えば第1空気流路24aの開度を調整可能な電磁式の流量制御弁である。
【0022】
アンモニアエンジンシステム10は、第2空気流路24bと、チャンバ27と、第2インジェクタ28と、第2スロットルバルブ29と、燃焼器40と、を有する。第2空気流路24bの一端は、第1空気流路24aにおける第1スロットルバルブ26よりも上流側に接続されている。第2空気流路24bの他端は、チャンバ27に接続されている。第1空気流路24aを流れる空気の一部が第2空気流路24bに導入される。チャンバ27は、内部に空間が形成された箱状である。第2空気流路24bからチャンバ27の内部の空間へ空気が導入される。
【0023】
第2インジェクタ28は、例えば電磁式の噴射弁である。第2インジェクタ28には、不図示のアンモニアガス供給部からアンモニアガスが供給される。第2インジェクタ28は、チャンバ27の内部の空間にアンモニアガスを噴射することにより、チャンバ27の内部の空間にアンモニアガスを供給する。第2空気流路24bからチャンバ27に導入された空気と、第2インジェクタ28からチャンバ27に供給されたアンモニアガスと、がチャンバ27の内部で混合される。これにより、チャンバ27の内部には、空気が混合されたアンモニアガスが生成される。空気が混合されたアンモニアガスは、チャンバ27から燃焼器40に導入される。
【0024】
第2スロットルバルブ29は、第2空気流路24bに設けられている。第2スロットルバルブ29は、例えば第2空気流路24bの開度を調整可能な電磁式の流量制御弁である。
【0025】
燃焼器40は、空気が混合されたアンモニアを燃焼することで燃焼ガスを生成する。燃焼器40によって生成された燃焼ガスは、改質器23に導入される。
アンモニアエンジンシステム10は、温度センサ35と、イグニッションスイッチ36と、制御部37と、を備えている。温度センサ35は、改質器23の温度を検出する。車両50の運転者によってイグニッションスイッチ36が操作されると、イグニッションスイッチ36は操作信号を出力する。
【0026】
<燃焼器の詳細>
図2に示すように、燃焼器40は、円管状の筐体41を有する。筐体41の第1端41aは開放されている。筐体41の第2端41bには閉塞壁42が設けられている。閉塞壁42は例えば円板状である。閉塞壁42は、筐体41の第2端41bを閉塞している。筐体41及び閉塞壁42は、導電性を有する金属材料からなる。導電性を有する金属材料としては、例えば、ステンレス鋼が挙げられる。
【0027】
図3に示すように、燃焼器40は、4つの導入部43を有する。導入部43は、例えば管状であるとともに内部に流路43aが形成されている。導入部43の一端はチャンバ27に接続され、導入部43の他端は筐体41に接続されている。筐体41の軸線Lに直交する断面において、4つの導入部43の各々は、流路43aが筐体41の内周面41dの接線方向に延びるように筐体41に接続されている。導入部43は、筐体41と一体に形成されていてもよい。導入部43は、筐体41とは別体に形成され、かつ筐体41に固定されていてもよい。
【0028】
チャンバ27の内部から導入部43の流路43aに、空気が混合されたアンモニアガスが導入される。空気が混合されたアンモニアガスは、流路43aを流れた後、流路43aから筐体41の内部に導入される。導入部43から筐体41の内部に導入されたアンモニアガス及び空気が筐体41の内周面41dに沿って筐体41の周方向に流れることにより、筐体41の内面に沿って流れる管状流F1が発生する。
【0029】
図2に示すように、燃焼器40は、点火プラグ44と、着火ユニット51と、を有する。点火プラグ44は、筐体41内における第2端41b側に配置されている。着火ユニット51は、イグナイタ52と電源53とを有する。電源53は、イグナイタ52のオン操作及びオフ操作を行う。イグナイタ52は電線54を介して点火プラグ44と接続されている。イグナイタ52は、電線54を介して点火プラグ44にパルス電圧を供給する。
【0030】
イグナイタ52から点火プラグ44に高電圧が印加されると、点火プラグ44によって筐体41の内部のアンモニアガスに着火することにより、アンモニアガスが燃焼して火炎が生じる。アンモニアガスが燃焼すると、筐体41の内部に燃焼ガスが生成される。火炎は、筐体41内で成長する。火炎の成長によって筐体41内でのアンモニアガスの燃焼による燃焼ガスの生成が促進される。燃焼ガスは、筐体41の第1端41aから改質器23に導入される。
【0031】
<改質器での燃焼反応>
図1に示すように、第1空気流路24aから改質器23に空気及びアンモニアガスが導入されるとともに、燃焼器40から改質器23に燃焼ガスが導入される。改質触媒23bは燃焼ガスによって暖機される。これにより、下記の式1のようにアンモニアガスと空気中の酸素とが化学反応するアンモニアの燃焼反応が改質器23にて起こる。
【0032】

NH+3/4O→3/2HO+1/2N+Q…(式1)

アンモニアの燃焼反応によって、改質器23は、水分(HO)及び窒素(N)を含む混合ガスを生成する。アンモニアの燃焼反応に伴って生じる燃焼熱により、改質器23が昇温する。
【0033】
<改質器での改質反応>
改質器23の温度が改質可能な温度に達すると、改質触媒23bによるアンモニアガスの改質が開始される。上記改質可能な温度とは、例えば300℃~400℃程度である。アンモニアガスの改質においては、具体的には、下記の式2のように、燃焼熱によってアンモニアが水素(H)と窒素とに分解される改質反応が改質器23にて起こる。
【0034】

NH→3/2H+1/2N-Q…(式2)

改質反応によって、改質器23は、水素及び窒素を含有した改質ガスを生成する。改質ガスは、改質触媒23bから排出される。すなわち、改質ガスに含有される水素は、改質触媒23bから排出される。改質ガスは、改質器23から改質ガス流路31に導入された後、改質ガス流路31を介して吸気流路12に導入される。
【0035】
<改質ガスの燃焼室への供給>
改質ガス流路31から吸気流路12に導入された改質ガスは、吸気流路12からアンモニアエンジン11の燃焼室11aに供給される。すなわち、アンモニアエンジン11には、改質触媒23bから排出される水素が供給される。改質ガスは、メインインジェクタ14から吸気流路12に供給されたアンモニアガス及び吸気流路12中の空気と共に燃焼室11aに供給される。アンモニアガスと改質ガス中の水素とが燃焼室11aにて混合されるため、燃焼室11aにてアンモニアガスが燃焼しやすくなる。燃焼室11aにおいて、アンモニアガスは改質ガス中の水素と共に燃焼する。
【0036】
<制御部>
制御部37は、CPU、RAM、ROM及び入出力インターフェース等により構成されている。制御部37は、例えば、温度センサ35の検出値及びイグニッションスイッチ36の操作信号に基づいて、各種制御を行う。制御部37は、メインインジェクタ14、メインスロットルバルブ15、第1インジェクタ25、第1スロットルバルブ26、第2インジェクタ28、第2スロットルバルブ29、ストップバルブ33、及び電源53等を制御する。
【0037】
<制御部による制御>
制御部37は、アンモニアエンジン11を始動させる始動制御を実行する。制御部37は、イグニッションスイッチ36の操作信号に基づいてイグニッションスイッチ36がオン操作されたと判断したことを条件に始動制御を行う。
【0038】
始動制御において、制御部37は、第1インジェクタ25及び第2インジェクタ28からアンモニアガスを噴射させる。制御部37は、第1スロットルバルブ26、第2スロットルバルブ29、及びストップバルブ33を開弁させる。制御部37が電源53を制御することにより、電源53によってイグナイタ52がオン操作される。始動制御において、制御部37は、アンモニアエンジン11をクランキングさせるように不図示のスタータモータを制御することにより、アンモニアエンジン11を始動させる。さらに、始動制御において、制御部37は、メインインジェクタ14からアンモニアガスを噴射させるとともに、メインスロットルバルブ15を開弁させる。
【0039】
始動制御において、制御部37は、温度センサ35の検出値に基づいて、改質器23の温度が規定温度以上であるかどうかを判断する。規定温度とは、アンモニアガスの燃焼が可能となる温度であり、例えば200℃程度である。制御部37は、改質器23の温度が規定温度以上であると判断したときは、第2インジェクタ28からのアンモニアガスの噴射を停止させるとともに、第2スロットルバルブ29を閉弁させる。これにより、チャンバ27から燃焼器40へ供給される空気及びアンモニアガスの導入が停止される。制御部37が電源53を制御することにより、電源53によってイグナイタ52がオフ操作される。燃焼器40でのアンモニアガスの燃焼が停止することにより、燃焼器40から改質器23への燃焼ガスの導入が停止される。こうして制御部37による始動制御が終了される。
【0040】
始動制御の終了後からアンモニアエンジン11が停止されるまでの間、制御部37は、メインスロットルバルブ15の開度の調整や、メインインジェクタ14の噴射タイミングの変更を行ってもよい。制御部37は、第1スロットルバルブ26の開度を調整することにより、第1空気流路24aから改質器23に導入される空気量を適宜調整してもよい。制御部37は、第1インジェクタ25の噴射タイミングを適宜変更してもよい。
【0041】
制御部37は、アンモニアエンジン11を停止させる停止制御を実行する。制御部37は、イグニッションスイッチ36の操作信号に基づいてイグニッションスイッチ36がオフ操作されたと判断したことを条件に停止制御を行う。
【0042】
停止制御において、制御部37は、メインインジェクタ14及び第1インジェクタ25からのアンモニアガスの噴射を停止させる。停止制御において、制御部37は、メインスロットルバルブ15、第1スロットルバルブ26、及びストップバルブ33を閉弁させる。これにより、アンモニアエンジン11が停止される。
【0043】
<燃焼器に供給される空気の量及びアンモニアの量の制御>
制御部37は、燃焼器40に供給される空気の量及びアンモニアの量の両方を変動させる。燃焼器40に供給される空気量を空気供給量A1という。燃焼器40に供給されるアンモニア量をアンモニア供給量A2という。空気供給量A1及びアンモニア供給量A2の各々は、制御部37による制御目標値である。始動制御において、制御部37は、第2スロットルバルブ29の開度を制御することによって空気供給量A1を変動させる。制御部37は、第2インジェクタ28からのアンモニアガスの噴射量を制御することによってアンモニア供給量A2を変動させる。
【0044】
制御部37は、目標値λtに設定された空気過剰率λを用いて制御する。空気過剰率λは、燃焼器40に供給される空気量である空気供給量A1を、燃焼器40に供給されるアンモニアを理論上全て燃焼させるために必要な最小空気量Aminで除した値である。最小空気量Aminは、空気供給量A1が同じ値である条件下で、アンモニア供給量A2が多いほど大きい値を示す。
【0045】
目標値λtは、1.1より大きい値に設定されている。ここで、燃焼器40で実現される空気過剰率を実空気過剰率λaという。実空気過剰率λaは、燃焼器40に実際に供給される空気量である実空気供給量A3を最小空気量Aminで除した値である。燃焼器40におけるアンモニアガスへの着火特性は、実空気過剰率λaが1.1であるときにアンモニアガスへの着火に必要なエネルギーが最小になる傾向がある。実空気過剰率λaが1.1である場合に燃焼器40でのアンモニアガスの燃焼効率が最もよくなる。
【0046】
目標値λtは、燃焼器40に供給されるアンモニアを燃焼可能な値に設定されている。燃焼器40に供給されるアンモニアを燃焼可能な値とは、最小値λmin以上であって、かつ最大値λmax以下にある値である。1.1に対する最小値λminの差分は、最大値λmaxに対する1.1の差分よりも小さくなっている。さらに、目標値λtは、燃焼器40に供給されるアンモニアを燃焼可能な値のうちの最大値λmaxよりも1.1に近い値に設定されている。詳細には、目標値λtに対する1.1の差分が最大値λmaxに対する目標値λtの差分よりも小さくなるように、目標値λtは設定されている。最小値λmin及び最大値λmaxは、燃焼器40でのアンモニアの燃焼に伴って生じる燃焼量Cに応じて変動する値である。最小値λmin及び最大値λmaxは、実空気過剰率λaが最小値λmin以上でありかつ最大値λmax以下であるときに、燃焼器40に供給されるアンモニアが燃焼可能である値であり、実験によって予め設定された実験値である。
【0047】
燃焼器40に供給されるアンモニアが燃焼されれば、燃焼器40から改質触媒23bに燃焼ガスが供給されることにより、改質触媒23bが暖機される。暖機された改質触媒23bから水素を含んだ改質ガスが排出され、この改質ガスがアンモニアエンジン11に供給されることにより、アンモニアエンジン11が始動する。したがって、最小値λmin及び最大値λmaxは、実空気過剰率λaが最小値λmin以上でありかつ最大値λmax以下であるときに、アンモニアエンジン11が始動可能な値でもある。
【0048】
上記の目標値λtに設定された空気過剰率λを用いて制御することにより、制御部37は、空気過剰率λが、燃焼器40に供給されるアンモニアを燃焼可能な値で、かつ1.1より大きい値となるように制御する。制御部37は、空気過剰率λが、燃焼器40に供給されるアンモニアを燃焼可能な値のうちの最大値λmaxよりも1.1に近い値となるように制御する。
【0049】
<実空気過剰率の計測結果>
図4に示すように、アンモニアエンジンシステム10に搭載された燃焼器40において、空気過剰率λに制御した際の実空気過剰率λaを計測した。この計測は、空気過剰率λと実空気過剰率λaとが等しい値であると仮定したときに、燃焼器40にて所定量の燃焼量Cを生じさせる空気過剰率λを用いて行った。範囲T内にある互いに異なる複数の空気過剰率λの各々において、実空気過剰率λaの測定を行った。範囲Tは、最小値λminと最大値λmaxとの間にあって、かつ1.1より大きい実空気過剰率λaの値の範囲とした。図4に、測定された実空気過剰率λaを測定値Pとして図4に白色の丸で示している。なお参考までに、図4には実施形態での空気過剰率λの目標値λtの一例を黒色の丸で示している。
【0050】
燃焼器40に実際に供給される空気量である実空気供給量A3は、アンモニアエンジン11のエンジン回転数に応じて変動する。アンモニアエンジン11のエンジン回転数が想定の回転数からずれると、制御部37による制御目標値である空気供給量A1から実空気供給量A3がずれる。アンモニアエンジン11のエンジン回転数が想定の回転数よりも低くなると、制御部37による制御目標値である空気供給量A1よりも実空気供給量A3が少なくなることにより、空気過剰率λよりも実空気過剰率λaが小さくなる。
【0051】
図4に示すように、測定された全ての測定値Pの実空気過剰率λaは、燃焼器40に供給されるアンモニアを燃焼可能な値である最小値λmin以上であり且つ最大値λmax以下であった。したがって、空気過剰率λを燃焼器40に供給されるアンモニアを燃焼可能な値で、かつ、1.1より大きい値となるように制御することにより、実空気過剰率λaが燃焼器40に供給されるアンモニアを燃焼可能な値となることが図4の測定結果から確認できた。
【0052】
[作用及び効果]
上記実施形態によれば、以下の作用及び効果を得ることができる。
(1)制御部37は、燃焼器40に供給される空気量である空気供給量A1を最小空気量Aminで除した値である空気過剰率λが、燃焼器40に供給されるアンモニアを燃焼可能な値で、かつ、1.1より大きい値となるように制御する。アンモニアエンジン11の回転数のばらつきにより、燃焼器40への実際の空気供給量である実空気供給量A3が制御部37による制御目標値としての燃焼器40への空気供給量である空気供給量A1よりも少なくなっても、燃焼器40にてアンモニアを燃焼できる。したがって、燃焼器40にて生成された燃焼ガスによって改質触媒23bが暖機されるとともに、暖機された改質触媒23bから排出された水素がアンモニアエンジン11に供給されることにより、アンモニアエンジン11を好適に運転できる。
【0053】
(2)制御部37は、空気過剰率λが、燃焼器40に供給されるアンモニアを燃焼可能な値のうちの最大値λmaxよりも1.1に近い値となるように制御する。そのため、空気過剰率λが1.1よりも最大値λmaxに近い値となるように制御される場合と比較して、燃焼器40でのアンモニアガスの燃焼効率を高められる。
【0054】
[変更例]
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0055】
○ 導入部43は、空気が混合されたアンモニアガスを筐体41内に導入するものに限らない。例えば、複数の導入部43のうち、一部の導入部43がアンモニアガスのみを筐体41内に導入し、その他の導入部43が空気のみを筐体41内に導入するものであってもよい。
【0056】
○ 燃焼器40が有する導入部43は、3つ以下であってもよいし、5つ以上であってもよい。要するに、燃焼器40は、少なくとも1つの導入部43を有していればよい。なお、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、所望の選択肢の「1つ以上」を意味する。一例として、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、選択肢の数が2つであれば「1つの選択肢のみ」または「2つの選択肢の双方」を意味する。他の例として、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、選択肢の数が3つ以上であれば「1つの選択肢のみ」または「2つ以上の任意の選択肢の組み合わせ」を意味する。
【0057】
○ 制御部37は、空気過剰率λが、1.1よりも燃焼器40に供給されるアンモニアを燃焼可能な値のうちの最大値λmaxに近い値となるように制御してもよい。制御部37は、空気過剰率λが、最大値λmaxと1.1との中間の値となるように制御してもよい。
【0058】
○ 制御部37は、燃焼器40に供給される空気の量である空気供給量A1と、燃焼器40に供給されるアンモニアの量であるアンモニア供給量A2と、の一方のみを変動させてもよい。要するに、制御部37は、空気供給量A1及びアンモニア供給量A2の少なくとも一方を変動させるものであればよい。この場合でも、制御部37は、空気供給量A1及びアンモニア供給量A2の一方のみを変動させることにより、空気過剰率λが燃焼器40に供給されるアンモニアを燃焼可能な値で、かつ、1.1より大きい値となるように制御することができる。
【0059】
○ 燃焼器40は、空気が混合されたアンモニアを燃焼することで燃焼ガスを生成するものであれば、上記実施形態での形態に限らない。例えば、燃焼器40の筐体41は、円筒以外の形状の筒状であってもよい。例えば、燃焼器40の導入部43は、筐体41の軸線Lに直交する断面において、流路43aが筐体41の内周面41dの接線方向以外の方向に延びるように筐体41に接続されていてもよい。
【0060】
○ メインインジェクタ14は、燃焼室11aにアンモニアガスを直接噴射するものであってもよい。
○ アンモニアエンジンシステム10は、ハイブリッド式の車両50にも適用可能である。
【符号の説明】
【0061】
λ…空気過剰率、λmax…(空気過剰率の)最大値、A1…空気供給量、A2…アンモニア供給量、Amin…最小空気量、10…アンモニアエンジンシステム、11…アンモニアエンジン、23b…改質触媒、37…制御部、40…燃焼器。
図1
図2
図3
図4