(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176482
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/048 20060101AFI20231206BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20231206BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
H01G9/048 A
H01G9/00 290E
H01G9/15
H01G9/048 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088781
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】名和 穂菜美
(72)【発明者】
【氏名】川島 啓佑
(72)【発明者】
【氏名】宇佐 大輔
(57)【要約】
【課題】絶縁層の形状安定性に優れたコンデンサ素子から形成される耐熱性に優れた固体電解コンデンサを提供することを目的とする。
【解決手段】固体電解コンデンサは、陽極部と、陰極部と、中間部と、を備えるコンデンサ素子を備え、陽極部、中間部、および陰極部は1つの陽極体に沿って配置されており、陽極部は、陽極体の第1部分を有し、中間部は、陽極体の第2部分の空孔に第1絶縁樹脂が充填された第1絶縁層と、第1絶縁層を覆う、第2絶縁樹脂を含む第2絶縁層と、を有し、陰極部は、陽極体の第3部分と、第3誘電体酸化被膜層を覆う固体電解質層と、固体電解質層を覆う陰極引出層と、を有し、第1絶縁樹脂のガラス転移温度T
1が前記第2絶縁樹脂のガラス転移温度T
2より高く、第1絶縁樹脂および第2絶縁樹脂はチオエーテル構造を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極部と、陰極部と、これらの間に介在する中間部と、を備えるコンデンサ素子を備え、
前記陽極部、前記中間部、および前記陰極部は、主面側に多孔質領域および前記多孔質領域の表面に形成された誘電体酸化被膜層を有する1つの陽極体に沿って配置されており、
前記陽極部は、前記陽極体の第1部分を有し、
前記中間部は、前記陽極体の第2部分の前記多孔質領域および前記誘電体酸化被膜層の空孔に第1絶縁樹脂が充填された第1絶縁層と、前記第1絶縁層を覆う、第2絶縁樹脂を含む第2絶縁層と、を有し、
前記陰極部は、前記陽極体の第3部分と、前記第3部分の前記誘電体酸化被膜層を覆う固体電解質層と、前記固体電解質層を覆う陰極引出層と、を有し、
前記第1絶縁樹脂のガラス転移温度T1が前記第2絶縁樹脂のガラス転移温度T2より高く、
前記第1絶縁樹脂および前記第2絶縁樹脂はチオエーテル構造を含む、
固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記第1絶縁樹脂の25℃における弾性率は0.1GPa以上である、
請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記第2絶縁樹脂の25℃における弾性率は1.0MPa以上である、
請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記第1絶縁樹脂および前記第2絶縁樹脂の酸素透過係数は1.0×10-11cc・cm/(cm2・秒・cmHg)以下である、
請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
前記第1絶縁層において、複数の前記空孔に対する前記第1絶縁樹脂の充填率が90%以上である、
請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項6】
前記陽極部と前記中間部と前記陰極部とを結ぶ方向の、前記陰極部の長さに対する、前記中間部の長さの比が、0.04以上0.1以下である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項7】
陽極部と、陰極部と、これらの間に介在する中間部と、を備えるコンデンサ素子を備える固体電解コンデンサの製造方法であり、
表面に多孔質領域を有する陽極体を準備する準備工程と、
前記多孔質領域の表面に、誘電体酸化被膜層を形成する誘電体酸化被膜層形成工程と、
前記誘電体酸化被膜層を表面に形成した前記陽極体の前記中間部に対応する位置の、前記多孔質領域および前記誘電体酸化被膜層の空孔に絶縁樹脂を充填して硬化させ、第1絶縁層を形成する第1絶縁層形成工程と、
前記第1絶縁層を覆うように絶縁樹脂を配置して硬化させ、第2絶縁層を形成する第2絶縁層形成工程と、
前記陽極体の前記陰極部に対応する位置の前記誘電体酸化被膜層上に固体電解質層を形成し、前記固体電解質層上に陰極引出層をさらに形成する陰極部形成工程と、
を備え、
前記第1絶縁層が含む樹脂のガラス転移温度T1が、前記第2絶縁層が含む樹脂のガラス転移温度T2より高く、
前記第1絶縁層が含む樹脂および前記第2絶縁層が含む樹脂はチオエーテル構造を含む、
固体電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体電解コンデンサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解コンデンサは、等価直列抵抗(ESR)が小さく、周波数特性が優れているため、様々な電子機器に搭載されている。固体電解コンデンサに用いられるコンデンサ素子は、チタン、タンタル、アルミニウム、ニオブ等の弁作用金属を含む箔を陽極体として含む。例えば、表面に酸化被膜を形成した1つの陽極体を、陽極部および陰極部に区分けした構成のコンデンサ素子が知られている。このようなコンデンサ素子では、陰極部側の陽極体の表面に、固体電解質層および陰極引出層が形成される。
【0003】
ここで、陽極部と陰極部とを確実に電気的に絶縁するために、特許文献1および2には、陽極部と陰極部との間に絶縁材料を含む中間部を配置することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2021/085350号
【特許文献2】特開2020-178098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1または2に記載された方法では、中間部を形成する際、陽極部と陰極部との間に絶縁材料を付与し、当該絶縁材料を100℃以上で熱硬化させている。しかしながら、このような方法では、絶縁材料の形状の制御が難しい。例えば、特許文献1の陽極体は、芯領域と、その周囲に配置された多孔質領域とを有し、中間部を形成する際には、当該多孔質領域の孔を埋めるように絶縁材料を付与する。また、引用文献2においても、同様に中間部を形成している。
【0006】
しかしながら、絶縁材料の付与後、加熱を行うと、絶縁材料の硬化反応が開始する温度域、あるいは絶縁材料中の溶剤または低分子成分が揮発する温度域において、絶縁材料が低粘度化する。したがって、特許文献1または2のような方法では、中間部を形成する領域の深さ方向(例えば、多孔質領域の厚み方向)だけでなく、幅方向にも絶縁材料拡がりやすい。その結果、所望の領域の多孔質領域を、絶縁材料によって十分に埋められず、特に芯領域と多孔質領域との界面付近で、絶縁材料の含浸率が所望の値より低くなりやすい。
【0007】
中間部における絶縁材料の含浸率が低くなると、陽極部から侵入した酸素が、中間部の多孔質領域を通って陰極部側に到達しやすく、中間部によって、酸素の移動を十分に抑制できない。そして、陰極部側において、固体電解質層が酸化されて劣化し、耐熱信頼性が低下することがある。
【0008】
本開示は、従来の課題を解決するためになされたものである。具体的には絶縁層の形状安定性に優れたコンデンサ素子を備える、耐熱性に優れた固体電解コンデンサの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本開示の固体電解コンデンサは、陽極部と、陰極部と、これらの間に介在する中間部と、を備えるコンデンサ素子を備え、前記陽極部、前記中間部、および前記陰極部は、主面側に多孔質領域および前記多孔質領域の表面に形成された誘電体酸化被膜層を有する1つの陽極体に沿って配置されており、前記陽極部は、前記陽極体の第1部分を有し、前記中間部は、前記陽極体の第2部分の前記多孔質領域および前記誘電体酸化被膜層の空孔に第1絶縁樹脂が充填された第1絶縁層と、前記第1絶縁層を覆う、第2絶縁樹脂を含む第2絶縁層と、を有し、前記陰極部は、前記陽極体の第3部分と、前記第3部分の前記誘電体酸化被膜層を覆う固体電解質層と、前記固体電解質層を覆う陰極引出層と、を有し、前記第1絶縁樹脂のガラス転移温度T1が前記第2絶縁樹脂のガラス転移温度T2より高く、前記第1絶縁樹脂および前記第2絶縁樹脂は、チオエーテル構造を含む、固体電解コンデンサである。
【0010】
本開示は、極部と、陰極部と、これらの間に介在する中間部と、を備えるコンデンサ素子を備える固体電解コンデンサの製造方法であり、表面に多孔質領域を有する陽極体を準備する準備工程と、前記多孔質領域の表面に、誘電体酸化被膜層を形成する誘電体酸化被膜層形成工程と、前記誘電体酸化被膜層を表面に形成した前記陽極体の前記中間部に対応する位置の、前記多孔質領域および前記誘電体酸化被膜層の空孔に絶縁樹脂を充填して硬化させ、第1絶縁層を形成する第1絶縁層形成工程と、前記第1絶縁層を覆うように絶縁樹脂を配置して硬化させ、第2絶縁層を形成する第2絶縁層形成工程と、前記陽極体の前記陰極部に対応する位置の前記誘電体酸化被膜層上に固体電解質層を形成し、前記固体電解質層上に陰極引出層をさらに形成する陰極部形成工程と、を備え、前記第1絶縁層が含む樹脂のガラス転移温度T1が、前記第2絶縁層が含む樹脂のガラス転移温度T2より高く、前記第1絶縁層が含む樹脂および前記第2絶縁層が含む樹脂はチオエーテル構造を含む、固体電解コンデンサの製造方法をさらに提供する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、コンデンサ素子の絶縁層の形状安定性が優れており、耐熱性に優れた固体電解コンデンサが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の一実施形態に係る固体電解コンデンサのコンデンサ素子を模式的に示す断面図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係る固体電解コンデンサを模式的に示す断面図である。
【
図3】本開示の一実施形態に係る固体電解コンデンサの製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[固体電解コンデンサ]
(全体構成)
本開示の一実施形態に係る固体電解コンデンサの全体構成について説明する。本実施形態に係る固体電解コンデンサは陽極部と、陰極部と、これらの間に介在する中間部と、を備えるコンデンサ素子を備える。当該コンデンサ素子における陽極部、中間部、および陰極部は、主面側に多孔質領域と、当該多孔質領域の表面に形成された誘電体酸化被膜層と、を有する1つの陽極体に沿ってこの順に配置されている。陽極部は、当該陽極体の第1部分から構成されている。中間部は、陽極体の第1部分に隣接する第2部分を含み、陽極体の第2部分の多孔質領域および誘電体酸化被膜層の空孔に第1絶縁樹脂が充填された第1絶縁層と、当該第1絶縁層を覆う、第2絶縁樹脂を含む第2絶縁層と、を備える。陰極部は、陽極体の第1部分および第2部分以外であって、第2部分に隣接する第3部分と、当該第3部分の誘電体酸化被膜層を覆う固体電解質層と、当該固体電解質層を覆う陰極引出層と、を備える。
【0014】
ここで、中間部に配置される当該第1絶縁樹脂および第2絶縁樹脂は、それぞれ、チオエーテル構造を含む。このような第1樹脂や第2樹脂は、エポキシ系化合物およびチオール系化合物を含む混合物を反応させることで得られる。そして、エポキシ系化合物やチオール系化合物を含む混合物は硬化前の粘度が適度であり、溶剤を用いることなく、陽極体の多孔質領域や誘電体酸化被膜層内に充填できる。したがって、中間部における陽極体の多孔質領域に存在する複数の空孔の90%以上を、第1絶縁樹脂によって塞ぐことが可能となる。また、第1絶縁樹脂および第2絶縁樹脂がチオエーテル構造を含む場合、第1絶縁樹脂および第2絶縁樹脂の弾性率を所望の範囲に収めやすくなる。
【0015】
また、本実施形態では、中間部の多孔質領域および誘電体酸化被膜層の空孔に配置される第1絶縁樹脂のガラス転移温度T1が、同じく中間部に配置される第2絶縁樹脂のガラス転移温度T2より高い。このような第2絶縁樹脂は、上記混合物に対して熱処理を実施せずUV照射処理のみで硬化させても得られる。一方、第1絶縁樹脂は、上記混合物に対してUV照射に加え加熱処理を行うこと等で得られる。また、中間部における陽極体の多孔質領域に存在する複数の空孔の多くはサブミクロンサイズであり、その孔内に第1絶縁樹脂を充填し複合化すると、第1絶縁樹脂の分子運動が抑制される。そのため、第1絶縁樹脂のほうが、バルク状態で存在する第2絶縁樹脂よりもガラス転移温度がさらに高くなる。これによりコンデンサ素子の耐熱性が高まり、コンデンサ素子に熱がかかった場合にも、第1絶縁層が変形し難い。その結果、固体電解コンデンサ内部に侵入した酸素が、中間部を介して陽極部側から陰極部側へと拡散することが抑制される。よって、陰極部の固体電解質層の劣化が抑制されて、耐熱信頼性が向上する。
【0016】
また、本実施形態のコンデンサ素子の中間部は、第1絶縁層に加え、第1絶縁層を覆う第2絶縁層を備える。そのため、陽極部と陰極部とが確実に絶縁される。
【0017】
なお、本開示の目的を鑑みると、コンデンサ素子が平板形状である場合、コンデンサ素子の両面に、第1絶縁層および第2絶縁層が配置されていることが好ましい。
【0018】
本明細書では、コンデンサ素子の陽極部と中間部と陰極部とを結ぶ方向を第1方向とする。また、当該第1方向におけるコンデンサ素子の陽極部側の端部を第1端部、陰極部側の端部を第2端部とする。上記陽極部と上記中間部との境界、および上記中間部と上記陰極部との境界は、すなわちコンデンサ素子を第1方向に平行に主面を切断して得られる断面(以下、「第1断面」とも称する)から決定できる。陽極部と中間部との境界は、第1断面のうち、多孔質領域に充填された第1絶縁樹脂の第1端部に最も近い地点を通る面とする。一方、中間部と陰極部との境界は、第1断面のうち、コンデンサ素子の主面における固体電解質層の第1端部に最も近い端部を通る面とする。なお、中間部は、上記のようにして決定される陽極部と中間部との境界と、中間部と陰極部との境界との間の領域である。
【0019】
以下、固体電解コンデンサにおけるコンデンサ素子について、図面を参照しながら具体的に説明する。ただし、本実施形態はこれに限定されるものではない。
【0020】
図1は、本実施形態に係るコンデンサ素子を模式的に示す断面図である。なお、図面は、電解コンデンサの各構成部品の形状または特徴を明確にするため、これらの寸法を相対的なものとして示されており、必ずしも同一の縮尺比で表されたものではない。
【0021】
図1は、コンデンサ素子110の陽極部側の第1端部110T
1と陰極部側の第2端部110T
2とを結ぶ第1方向に平行に、コンデンサ素子の主面110Xおよび110Yを切断した断面図である。
【0022】
コンデンサ素子110は、例えば平板形状である。コンデンサ素子110は、陽極部110aと中間部110bと陰極部110cとを有し、これらは1つの陽極体11に沿って、この順に第1方向に並んでいる。陽極体11は、芯領域11Yと、当該芯領域11Yの両面に配置された多孔質領域11Xと、当該多孔質領域11Xの表面に配置された誘電体酸化被膜層(第1誘電体酸化被膜層12a、第2誘電体酸化被膜層12b、および第3誘電体酸化被膜層12c)と、を有する。
【0023】
陽極部110aは、陽極体11の一部である第1部分11aを含む。すなわち、陽極部110aは、芯領域11Yと、当該芯領域11Yの両面に配置された多孔質領域11Xと、当該多孔質領域11Xの表面を覆う第1誘電体酸化被膜層12aと、を備える。
【0024】
中間部110bは、陽極体11の第2部分11bを含む。ただし、当該中間部110bでは、陽極体11の多孔質領域11Xおよび第2誘電体酸化被膜層12bの空孔に、第1絶縁樹脂が充填されている。本明細書では、多孔質領域11Xおよび第2誘電体酸化被膜層12bの空孔に第1絶縁樹脂が充填された領域を、第1絶縁層21と称する。中間部110bは、第1絶縁層21と、当該第1絶縁層21上に配置された、第2絶縁樹脂を含む第2絶縁層22と、を備える。換言すれば、中間部110bは、芯領域11Yと、当該芯領域11Yの領域に配置された第1絶縁層21と、第1絶縁層21を覆う第2絶縁層22とを有する。
【0025】
陰極部110cは、陽極体11の第3部分11cと、当該第3部分11cを覆う固体電解質層13と、固体電解質層13を覆う陰極引出層14と、を備える。すなわち、芯領域11Yと、当該芯領域11Yの両面に配置された多孔質領域11Xと、当該多孔質領域11Xの表面を覆う第3誘電体酸化被膜層12cと、当該第3誘電体酸化被膜層12cを覆う固体電解質層13と、当該固体電解質層13を覆う陰極引出層14と、を備える。
【0026】
上述のようにコンデンサ素子110の中間部110bでは、多孔質領域11Xおよび第2誘電体酸化被膜層12bの複数の空孔内に第1絶縁樹脂が配置されている。これにより、多孔質領域11Xおよび第2誘電体酸化被膜層12bの空孔が十分に塞がれて、酸素が陽極部110a側から陰極部110c側へと拡散することが抑制される。第1絶縁層21を覆う第2絶縁層22を有することにより、中間部110bとしての絶縁性がより高まる。
【0027】
(陽極部)
コンデンサ素子110の陽極部110aは、上述のように、陽極体11の第1部分11aを含む。陽極体11は、弁作用金属を含む箔(金属箔)を、例えば電解エッチングにより粗面化処理および化成処理して得られる。具体的には、箔を粗面化処理すること等によって多孔質領域11Xが形成される。このとき、粗面化処理されていない領域が、芯領域11Yとなる。そして、粗面化処理後の箔をさらに化成処理すること等によって誘電体酸化被膜層(陽極部110aでは、第1誘電体酸化被膜層12a)が形成される。多孔質領域11X、芯領域11Y、および第1誘電体酸化被膜層12aは、コンデンサ素子110の第1断面から区別できる。
【0028】
上記弁作用金属としては、チタン、タンタル、アルミニウムおよびニオブ等が挙げられる。弁作用金属は、合金または金属間化合物であってもよい。陽極体11の厚みは、使用目的によって厚さが変わるが、一般的には約40~150μmである。また、陽極体11の大きさ及び形状は用途により異なるが、平板形である場合には、幅約1~50mm、長さ約1~50mmの矩形状が好ましく、幅約2~20mm、長さ約2~20mmの矩形状がより好ましい。
【0029】
陽極体11中の多孔質領域11Xの厚みは特に限定されない。静電容量の観点から、陽極体11の一方の主面側に配置される多孔質領域11Xの厚みは、粗面化される前の箔の厚みの20%以上であることが好ましい。一方、強度の観点から、当該一方の主面側に配置される多孔質領域11Xの厚みは、粗面化される前の箔の厚みの40%以下であることが好ましい。陽極部110aにおける多孔質領域11Xの厚みは、コンデンサ素子110の第1断面において、第1誘電体酸化被膜層12aと多孔質領域11Xとの境界から、多孔質領域11Xと芯領域11Yとの境界までの距離を3点測定したときの平均値とする。
【0030】
一方、誘電体酸化被膜層(第1誘電体酸化被膜層12a)は、陽極体11の主面(表面)に沿って形成された層であり、多孔質領域の孔の内壁に沿って形成された層である。そのため、誘電体酸化被膜層も複数の微細な孔を有する。
【0031】
誘電体酸化被膜層は、陽極体11の表面全てに形成されていてもよく、一部のみに形成されていてもよい。誘電体酸化被膜層は、多孔質領域11Xの表面を陽極酸化すること等によって形成される。そのため、誘電体酸化被膜層は、弁作用金属の酸化物を含み得る。例えば、弁作用金属としてアルミニウムを用いた場合、誘電体酸化被膜層は酸化アルミニウムを含み得る。ただし、誘電体酸化被膜層はこれに限定されず、誘電体として機能する層であればよい。
【0032】
(中間部)
中間部110bは、陽極体11の芯領域11Yと、陽極体11の多孔質領域11Xおよび第2誘電体酸化被膜層12bに第1絶縁樹脂が充填された第1絶縁層21と、当該第1絶縁層21を覆う、第2絶縁樹脂を含む第2絶縁層22とを有する。なお、陽極体11の芯領域11Y、多孔質領域11X、および誘電体酸化被膜層(中間部110bでは、「第2誘電体酸化被膜層12b」とも称する)については、上述の陽極部110aが含む構成と同様であるため、ここでの詳しい説明は省略する。
【0033】
第1絶縁層21は、多孔質領域11Xおよび第2誘電体酸化被膜層12bの複数の空孔に第1絶縁樹脂が配置された層である。コンデンサ素子110の第1断面を見たときの、多孔質領域11Xおよび第2誘電体酸化被膜層12bの複数の空孔に対する、第1絶縁樹脂の配置割合、つまり第1絶縁樹脂の充填率は90%以上が好ましい。90%より小さい場合、陽極部110a側から侵入した酸素が、陽極体11内部の多孔質領域11Xを通って陰極部110c側に到達する場合がある。そのため、陰極部110cの固体電解質層13が酸化されて劣化し、耐熱信頼性が低下してしまう場合がある。これに対し、上記充填率が90%以上であると、温度にかかわらず酸素の拡散が抑制されるため、耐熱信頼性が向上する。
【0034】
充填率の確認方法としては、コンデンサ素子110の中間部の第1断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、観察写真より多孔質領域11Xの複数の空孔の面積と、空孔に充填された絶縁樹脂の面積とを算出する。そして、これらの比〔(絶縁樹脂の面積/空孔の面積)×100)〕から求める。
【0035】
また、第2絶縁層22は、第1絶縁層21を覆うように配置された、第2絶縁樹脂を含む層である。第2絶縁層22は、例えば多孔質領域11Xに第1絶縁樹脂の前駆体を充填し、これを硬化させて第1絶縁層21を形成した際に、多孔質領域11Xや第2誘電体酸化被膜層12b内に充填されずに、はみ出した第1絶縁樹脂の前駆体を用いた層であってもよい。ただし、硬化反応として、第2絶縁樹脂は加熱処理することなくUV照射処理のみで硬化させたものであってもよいのに対し、第1絶縁樹脂はUV照射に加え加熱処理によって硬化させたものであることが好ましい。このように硬化条件を変更することで、第1絶縁樹脂のガラス転移温度T1を第2絶縁樹脂のガラス転移温度T2より高めることができる。第1絶縁樹脂のガラス転移温度T1は145℃以上であることが好ましく、T1はT2より10℃以上高いことが好ましい。第1絶縁樹脂および第2絶縁樹脂のガラス転移温度の差が10℃以上であると、中間部110bの耐熱安定性が向上する。
【0036】
ガラス転移温度の確認方法としては、第1絶縁樹脂または第2絶縁樹脂を示差走査熱量測定装置(日立ハイテク社製DSC7000)の温度変調DSCモード昇温速度5℃/分、印加周波数0.02Hzの測定条件により求められる。より具体的には、第1絶縁樹脂は、多孔質領域11Xおよび第2誘電体酸化被膜層12bに充填した状態で、ガラス転移温度を測定する。一方、第2絶縁樹脂については、任意の基板(例えばシリコーンゴムからなる板状の部材)上に、第2絶縁樹脂の前駆体を塗布し、第2絶縁層22の形成時と同様の条件で硬化させた試料を作製し、当該試料のガラス転移温度を測定する。
【0037】
第1絶縁樹脂のガラス転移温度は耐熱信頼性の観点から、150℃以上であることがより好ましい。第2絶縁樹脂のガラス転移温度は135℃以上であることが好ましい。ガラス転移点は示差走査熱量測定装置(日立ハイテク社製DSC7000)の温度変調DSCモード昇温速度5℃/分、印加周波数0.02Hzの測定条件により求められる。第1絶縁樹脂のガラス転移温度が150℃以上、また第2絶縁樹脂のガラス転移温度が135℃以上であると、高温環境下に長時間さらされたとしても、熱分解し難い。また絶縁性を長期間に亘って維持可能であり、耐熱信頼性が高くなりやすい。
【0038】
第1絶縁樹脂の25℃における弾性率は0.1GPa以上であることが望ましい。弾性率は動的粘弾性測定(DMA)法により、昇温速度5℃/分、周波数10Hzの測定条件により測定される数値である。25℃における弾性率が0.1GPa以上であると、高温環境下に長時間さらされたとしても、多孔質領域11Xのそれぞれの空孔と第1絶縁樹脂との界面で剥離が生じ難い。したがって、絶縁性を長期間に亘って維持可能であり、耐熱信頼性が高くなりやすい。第1絶縁樹脂の弾性率は、任意の基板(例えばシリコーンゴムからなる板状の部材)上に第1絶縁樹脂の前駆体を塗布し、これを第1絶縁層21の形成時と同様の条件で硬化させた試料を作製し、当該試料の弾性率を測定する。
【0039】
第2絶縁樹脂の25℃における弾性率は1.0MPa以上であることが望ましい。弾性率は動的粘弾性測定(DMA)法により、昇温速度5℃/分、周波数10Hzの測定条件により測定される数値である。25℃における弾性率が1.0MPa以上であると、高温環境下に長時間さらされたとしても、第1絶縁層と第2絶縁層との界面で剥離が生じ難い。したがって、絶縁性を長期間に亘って維持可能であり、耐熱信頼性が高くなりやすい。第2絶縁樹脂の弾性率は、任意の基板(例えばシリコーンゴムからなる板状の部材)上に第2絶縁樹脂の前駆体を塗布し、これを第2絶縁層22の形成時と同様の条件で硬化させた試料を作製し、当該試料の弾性率を測定する。
【0040】
第1絶縁樹脂および第2絶縁樹脂の酸素透過係数は、1.0×10-11cc・cm/(cm2・秒・cmHg) 以下であることが望ましい。酸素透過係数は、JISK7176-1に準じて電解センサ法により測定される数値である。絶縁樹脂の酸素透過係数が1.0×10-11cc・cm/(cm2・秒・cmHg)以下であると、陽極部110aから侵入した酸素が陽極体11内部の多孔質領域11Xを通って陰極部110c側に移動することを十分に抑制できる。
【0041】
第2絶縁層22の厚みは、通常1μm以上50μm以下が好ましく、1μm以上20μm以下がより好ましい。第2絶縁層22の厚みが当該範囲であると、中間部110bの絶縁性がより高まりやすい。
【0042】
上述のように、第1絶縁層21が含む第1絶縁樹脂、および第2絶縁層22が含む第2絶縁樹脂は、エポキシ基がチオール基と反応したチオエーテル構造を含む樹脂であることが好ましい。このような樹脂は、エポキシ基を含むエポキシ系化合物、およびチオール基を含むチオール系化合物を含む混合物を、硬化させることで得られる。例えば、光塩基発生剤によって、これらの硬化を促進させてもよい。
【0043】
ここで、固体電解コンデンサ100の耐熱信頼性を向上させるためには、多孔質領域11Xのそれぞれの空孔内に存在する第1絶縁樹脂が高温環境に長時間さらされた場合でも、弁作用金属(多孔質領域11X)と第1絶縁樹脂との界面で剥離が生じ難いこと、第1絶縁樹脂の熱分解によって固体電解コンデンサ100の絶縁性が低下しないことが求められる。また、第2絶縁層22に存在する第2絶縁樹脂についても、高温環境に長時間さらされた場合に、第2絶縁層22(第2絶縁樹脂)と第1絶縁層21との界面で剥離が生じ難いこと、第2絶縁樹脂の熱分解によって固体電解コンデンサ100の絶縁性が低下しないこと、が求められる。
【0044】
一般的に、エポキシ系化合物のみから得られる樹脂は、耐熱性に優れるが脆い。そこで、エポキシ系化合物をチオール系化合物と反応させて架橋すると、チオエーテル構造が形成され、柔軟性が発現する。そのため、当該構造を含む第1絶縁樹脂は、耐熱性に優れ、空孔との界面で剥離し難い。
【0045】
さらにエポキシ系化合物のみによって、多孔質領域11X等の空孔を充填しようとすると、硬化の際に150℃以上の熱処理が必要である。これに対し、エポキシ系化合物にチオール系化合物を組み合わせると低温での硬化が可能となる。さらに、光塩基発生剤等をさらに組み合わせると、室温での光硬化が可能となる。したがって、本実施形態では、多孔質領域11Xや第2誘電体酸化被膜層12bの複数の空孔内にエポキシ系化合物およびチオール系化合物の混合物の塗布(充填)後、光照射によって硬化反応をすぐに開始することができる。つまり、エポキシ基がチオール基と反応したチオエーテル構造を含む樹脂(第1絶縁樹脂および第2絶縁樹脂)を用いることで、第1絶縁層21および第2絶縁層22の形状安定性が良好になる。
【0046】
ここで、エポキシ系化合物は、エポキシ基を分子中に1つ以上有する化合物であればよいが、架橋密度を高めやすい等の観点でエポキシ基を2つ以上有している化合物がより好ましい。エポキシ系化合物の具体例には、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、等が含まれ、これらの中でもビスフェノールA型エポキシ化合物が好ましい。
【0047】
チオール系化合物は、チオール基を分子中に1つ以上有する化合物であればよいが、架橋密度を高めやすい等の観点でチオール基を2つ以上有している化合物がより好ましい。チオール系化合物の例には、グリコールウリル骨格を母骨格とする4官能チオール、ペンタエリスリトール骨格4官能チオールが好ましい。また、第1絶縁樹脂または第2絶縁樹脂を形成する際のチオール系化合物の量は、エポキシ系化合物の量100質量部に対して50~200量部とすることが好ましく、70~100質量部とすることがより好ましい。
【0048】
また、上記化合物と組み合わせ可能な光塩基発生剤は、公知の光塩基発生剤とすることができ、例えばカルボン酸塩、ボレートアニオンを含む塩、第4級アンモニウム塩、カルバメートがある。これらの中でもo-ニトロベンジル型光塩基発生剤、(8E)-8-エチルイデン-4-メトキシ-5,6,7,8テトラヒドロナフタレン-1-カルボン酸1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ-7-エン、1,2-ジソプロピル-3-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]グアニジウム2-(3-ベンゾイルフェニル)プロピネート、1,2-ジシクロヘキシルー4,4,5,5-テトラメチルジグアジウムn-ブチルトリフェニルボレート、(2―(9-オキソキサンテン-2-イル)プロピオン酸 1,5,7-トリアザビシクロ[4,4,0]デカ-5-エン))、ビス(ジメチルアミノ)メチリデン]アミノ}-N-シクロヘキシル(シクロヘキシルアミノ)メタンイミニウム=テトラキス(3-フルオロフェニル)ボラートが好ましい。また、第1絶縁層21および第2絶縁層22を形成する際の光塩基発生剤の量は、エポキシ系化合物の量100質量部に対して1.0~15質量部とすることが好ましく、3.5~15質量部とすることがより好ましい。
【0049】
ここで、第1方向の陰極部110cの長さに対する、第1方向の中間部110bの長さの比(中間部110bの長さ/陰極部110cの長さ)は、0.04以上0.1以下が望ましい。例えば、第1方向の陰極部110cの長さが5.5mmであるとすると、第1方向の中間部110bの長さは0.20mm~0.55mmが好ましい。上記比が0.04以上であると、絶縁性および酸素遮断性が良好になり、耐熱信頼性が高まりやすい。また、上記比が0.1以下であると、コンデンサの基本特性である静電容量への影響が生じ難い。
【0050】
(陰極部)
上述のように、陰極部110cは、陽極体11の第3部分11cと、第3部分11cを覆う固体電解質層13と、固体電解質層13を覆う陰極引出層14と、を備える。陽極体11については、上述の陽極部110aが含む陽極体11と同様であるため、ここでの詳しい説明は省略する。
【0051】
固体電解質層13は、陽極体11の第3誘電体酸化被膜層12cの少なくとも一部を覆うように形成されていればよく、誘電体酸化被膜層12cの表面全体を覆うように形成されていてもよい。固体電解質層13は、例えばポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン等の導電性高分子材料から構成される。
【0052】
陰極引出層14は、固体電解質層13の少なくとも一部を覆うように形成されていればよく、固体電解質層13の表面全体を覆うように形成されていてもよい。陰極引出層14は、例えば、カーボン層と、カーボン層の表面に形成された金属(例えば、銀)ペースト層とが順次積層されたものである。なお、陰極引出層14の構成は、これに限られず、集電機能を有する構成であればよい。
【0053】
(固体電解コンデンサ)
図2は、一実施形態に係る電解コンデンサを模式的に示す断面図である。本実施形態の固体電解コンデンサ100は、1層以上のコンデンサ素子110と、コンデンサ素子110の陽極部110aに接合された陽極リード端子120Aと、陰極部110cに接合された陰極リード端子120Bと、コンデンサ素子110を封止する封止樹脂130と、を備える。
【0054】
固体電解コンデンサ100は、複数のコンデンサ素子110を備えてもよく、複数のコンデンサ素子110を備える場合、これらは積層される。コンデンサ素子110の積層数は特に限定されず、例えば、2層以上10層以下である。積層されたコンデンサ素子110の陽極部110a同士は、溶接やかしめ等により接合されて、電気的に接続される。
【0055】
また、コンデンサ素子110の陽極部110aには、陽極リード端子120Aが接合される。陽極部110aおよび陽極リード端子120Aは、レーザ溶接等によって接合されていてもよく、抵抗溶接等によって接合されていてもよい。
【0056】
また、積層されたコンデンサ素子110の陰極部110c同士もまた、電気的に接続される。そして、コンデンサ素子110の陰極部110cには、陰極リード端子120Bが接合される。陰極リード端子120Bは、例えば、導電性接着剤やはんだ等を介して陰極部110cと接合される。導電性接着剤は、例えば硬化性樹脂と炭素粒子や金属粒子との混合物等とすることができる。
【0057】
また、上記各リード端子120A、120Bと接合されたコンデンサ素子110は、陽極リード端子120Aおよび陰極リード端子120Bの少なくとも一部が露出するように、封止樹脂130により封止される。封止樹脂としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0058】
[固体電解コンデンサの製造方法]
本実施形態にかかる固体電解コンデンサは、以下の方法により製造することができる。
【0059】
本実施形態の固体電解コンデンサの製造方法は、例えば
図3のフローチャートに示すように、多孔質領域を有する陽極体を準備する準備工程と、多孔質領域の表面に、誘電体酸化被膜層を形成する誘電体酸化被膜層形成工程と、誘電体酸化被膜層を表面に形成した陽極体の、中間部に対応する位置の、前記多孔質領域および前記誘電体酸化被膜層の空孔に絶縁樹脂を充填し、第1絶縁層を形成する第1絶縁層形成工程と、第1絶縁層を覆うように絶縁樹脂を配置し、第1絶縁層を覆う第2絶縁層を形成する第2絶縁層形成工程と、陽極体の陰極部に対応する位置の誘電体酸化被膜層上に固体電解質層を形成し、固体電解質層上に陰極引出層をさらに形成する陰極部形成工程と、を備える。当該方法により、コンデンサ素子を形成した後、必要に応じてリード端子接続工程や封止工程を行ってもよい。なお、上記製造方法により得られる固体電解コンデンサでは、第1絶縁層が含む樹脂のガラス転移温度T
1が、第2絶縁層が含む樹脂のガラス転移温度T
2より高い。第1絶縁層が含む樹脂のガラス転移温度T
1を、第2絶縁層が含む樹脂のガラス転移温度T
2より高くする手法としては、それぞれの樹脂の硬化条件を変更したり、第1絶縁層の形成時に、光硬化と熱硬化とを併用したり、硬化反応が進むように発生剤を用いたりすることが挙げられる。発生剤としては、光塩基発生剤を単独で用いてもよいが、光塩基発生剤とラジカル型発生剤とを併用してもよい。ただし、本実施形態はこれに限定されるものではない。
【0060】
(準備工程)
本工程では、多孔質領域を有する陽極体を準備する。例えば市販の陽極体を準備してもよい。一方で、弁作用金属を含む金属箔の少なくとも一方の主面を粗面化し、多孔質領域を有する陽極体を準備してもよい。金属箔を粗面化する方法の例には、電解エッチング等が含まれるが、その条件は特に限定されず、多孔質領域の深さ、弁作用金属の種類等に応じて適宜設定される。
【0061】
(誘電体酸化被膜層形成工程)
本工程では、上述の準備工程で準備した陽極体の表面に誘電体酸化被膜層を形成する。誘電体酸化被膜層の形成方法は特に限定されない。誘電体酸化被膜層は、例えば、陽極体を化成処理することにより、誘電体酸化被膜層を形成できる。化成処理する場合、例えば、上述の陽極体をアジピン酸アンモニウム溶液等の化成液に浸漬し、熱処理することができる。また、上記陽極体を化成液に浸漬し、電圧を印加することで、誘電体酸化被膜層を形成してもよい。
【0062】
なお、誘電体酸化被膜層は、上記多孔質領域の表面全体に形成してもよく、一部領域のみに形成してもよい。
【0063】
(第1絶縁層形成工程)
本工程では、誘電体酸化被膜層を表面に形成した陽極体の、中間部に対応する位置の、多孔質領域および誘電体酸化被膜層の空孔に絶縁樹脂を充填し、第1絶縁層を形成する。
【0064】
空孔に絶縁樹脂を充填する方法としては、エポキシ系化合物、およびチオール系化合物を含む混合物を、各種印刷法や、ディスペンサーによる塗布、転写法等によって、多孔質領域および誘電体酸化被膜層上に十分な量を塗布し、含浸させた後、これらを反応させて硬化させる方法が挙げられる。上記硬化は、熱硬化であってもよいが、光照射による硬化を行うと、第1絶縁樹脂が中間部に対応する位置より外側に広がる前に硬化させることができること等からより好ましい。光照射および加熱を行う場合、光照射を先に行い、その後加熱を行うことが好ましい。また、照射する光は、例えば紫外光とすることができる。
【0065】
なお、上記混合物を十分に多孔質領域および誘電体酸化被膜層の空孔に含浸させるため、上記混合物は溶媒を含んでいてもよい。
【0066】
(第2絶縁層形成工程)
第1絶縁層形成工程の後、第1絶縁層の表面を覆うように絶縁樹脂を配置して硬化させ、第2絶縁層を形成する。第2絶縁層も第1絶縁層と同じく、印刷法、ディスペンサーを用いる方法、転写法等により行うことができる。例えば、中間部に前記第1絶縁層の形成時と同様の混合物を塗布した後、光照射により硬化することで、第1絶縁層の表面を覆うように第2絶縁層が形成される。光照射の後に、加熱をさらに行ってもよい。
【0067】
(陰極部形成工程)
本工程では、陰極部に対応する位置の誘電体酸化被膜層の表面に固体電解質層および陰極引出層を形成する。固体電解質層は、陽極体の存在下で、原料モノマーもしくはオリゴマーを化学重合や電解重合することにより形成することができる。固体電解質層は、導電性高分子が溶解した溶液、または、導電性高分子が分散した分散液を誘電体酸化被膜層に塗布することにより形成してもよい。分散液の塗布方法は特に制限されず、公知の方法と同様とすることができる。
【0068】
次いで、固体電解質層の表面に、例えばカーボンペーストおよび銀ペーストを順次、塗
布することにより、陰極引出層を形成する。カーボンペーストや銀ペーストの塗布方法は特に制限されず、公知の方法と同様とすることができる。
【0069】
(リード端子接続工程)
リート端子接続工程では、陽極体に陽極リード端子を電気的に接続し、陰極引出層に陰極リード端子を電気的に接続する。陽極体と陽極リード端子との電気的な接続は、例えば、これらを溶接することにより行われる。また、陰極引出層と陰極リード端子との電気的な接続は、例えば、陰極引出層と陰極リード端子とを、導電性接着剤を介して接着させること等により行われる。
【0070】
(封止工程)
コンデンサ素子およびリード端子の一部を封止樹脂により封止してもよい。封止は、射出成形、インサート成形、圧縮成形等の成形技術を用いて行われる。例えば、所定の金型を用いて、硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を含む組成物をコンデンサ素子およびリード端子の一端部を覆うように充填した後、加熱等を行う。
【実施例0071】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実
施例に限定されるものではない。
【0072】
(原料の準備)
絶縁層の材料として、以下の化合物を準備した。
(1)エポキシ系化合物
jER828:ビスフェノールA型エポキシ化合物、三菱ケミカル社製、エポキシ基当量190
BATG:4官能エポキシ化合物、昭和電工社製、エポキシ基当量128
VG3101L:3官能エポキシ化合物、プリンテック社製、エポキシ基当量210
(2)チオール系化合物
MTPE1:ペンタエリスリトール骨格4官能チオール、昭和電工社製、チオール基当量136
C3TS-G:グリコールウリル骨格を母骨格とする4官能チオール、四国化成社製、チオール基当量110
(3)光塩基発生剤
WPBG-345:下記式で表されるボレート型光塩基発生剤、富士フイルム和光純薬社製
【化1】
下記一般式で表される、o-ニトロベンジル型光塩基発生剤
【化2】
(4)反応性希釈剤
EP-4088S:ジシクロペンタジエン型エポキシ、ADEKA社製、エポキシ基当量170
(5)増感剤
2-プロピルチオキサントン、東京化成社製
【0073】
(実施例1)
(1)陽極体の準備
厚さ115μmのアルミニウム箔に電解エッチング処理を行い、その両方の主面に多孔質領域を備える陽極体を準備した。陽極体の各主面に形成された多孔質領域の厚みは40μmであった。また、陽極体の第一方向の長さは6.5cmであった。
【0074】
(2)誘電体酸化被膜層の形成
上記陽極体を化成処理して、その両方の主面を覆う誘電体酸化被膜層を形成した。
【0075】
(3)第1絶縁層の形成
エポキシ系化合物「BATG」3.61質量部、エポキシ系化合物「VG3101L」0.59質量部、および反応性希釈剤「EP-4088S」0.20質量部を混合した。溶解性を高めるために、当該混合物を50~65℃の恒温槽にて10分間加温し、その後、常温に冷却した。その後、チオール系化合物「C3TS-G」3.54質量部、および光塩基発生剤0.15質量部をさらに添加し、混合液を遊星式混錬機を使用して十分に混練した。続いて、ディスペンサーにより当該混合液を陽極体の長さ方向中間部に相当する領域に直線状に塗布した。塗布後すぐに紫外線照射器を用いて紫外線(積算光量10000mJ/cm2)を照射し、さらに100℃15分の熱処理により、多孔質領域の複数の空孔に第一絶縁樹脂が充填された第1絶縁層を形成した。
【0076】
(4)第2絶縁層の形成
上記(3)第1絶縁層の形成の際に、多孔質領域および誘電体酸化被膜層の空孔に入りきらず、陽極体上に残った混合液を、塗布後すぐに紫外線照射器を用いて紫外線(積算光量30000mJ/cm2)を照射し、100℃15分の熱処理により硬化させて、第2絶縁層とした。
【0077】
(5)固体電解質層の形成
アニリンおよび硫酸を含むアニリン水溶液を準備した。上述の第2絶縁層上にテープ状の電極を貼り付けた。続いて、この陽極体の陰極部に相当する領域と、対向電極とをアニリン水溶液に浸漬し、10mA/cm2の電流密度で20分間、電解重合を行なった。これにより陰極部に固体電解質層を形成した。
【0078】
(6)陰極引出層の形成
固体電解質層上に、カーボンペーストおよび銀ペーストを順次塗布し、乾燥させた。こ
れにより、陰極引出層を形成し、コンデンサ素子を得た。
【0079】
(実施例2~4、比較例1)
表1に示すように、絶縁樹脂の原料配合比を変更した以外は、実施例1と同様にコンデンサ素子を作製した。
【0080】
(比較例2)
上記の手順(3)における第1絶縁層および第2絶縁層の形成時に、熱硬化を行わず、紫外光(積算光量30000mJ/cm2)を照射後、常温で1時間放置することで硬化させた。その後実施例1と同様にコンデンサ素子を作製した。
【0081】
(評価)
・絶縁樹脂の耐熱性:ガラス転移温度
上記第1絶縁樹脂および第2絶縁樹脂のガラス転移温度を示差走査熱量測定装置(日立ハイテク社製DSC7000)の温度変調DSCモード昇温速度5℃/分、印加周波数0.02Hzの測定条件により測定した。第1絶縁樹脂は、多孔質領域および第2誘電体酸化被膜層に充填した状態で、ガラス転移温度を測定した。一方、第2絶縁樹脂については、シリコーンゴムからなる板状の部材上に、上記(3)で使用した混合物を塗布し、第2絶縁層の形成時と同様の条件で硬化させた試料を作製し、当該試料のガラス転移温度を測定した。第1絶縁樹脂のガラス転移温度T1が第2絶縁樹脂のガラス転移温度T2より大きい場合は「〇」、それ以外の場合は「×」とした。
【0082】
・絶縁樹脂のアルミニウム箔への追従性:貯蔵弾性率
上記第1絶縁樹脂および第2絶縁樹脂の貯蔵弾性率を動的粘弾性測定(DMA)法により、昇温速度5℃/分、周波数10Hzの測定条件により測定した。第1絶縁樹脂の弾性率は、シリコーンゴムからなる板状の部材上に、上記(3)で使用した混合物を厚み100μm塗布し、これを波長365nmの紫外線照射機を用いて、積算光量10000mJ/cm2で硬化させた。そして、表面から厚み50μmまでの液状サンプルを取り出し、これを100℃で15分硬化させて、その貯蔵弾性率を測定した。第2絶縁樹脂についても、シリコーンゴムから成る板状の部材状に、同様に硬化条件を、上記(4)に合わせたものを作製し、その貯蔵弾性率を測定した。第1絶縁樹脂の25℃における弾性率が0.1GPa以上である場合は「〇」、0.1GPa未満である場合は「×」とした。また、第2絶縁樹脂の25℃における弾性率が1.0MPa以上である場合は「〇」、1.0MPa未満である場合は「×」とした。
【0083】
・絶縁樹脂の酸素遮断性:酸素透過係数
試験片の作製方法としては、φ40mm、厚み10μmの塗膜を作製した。このときの硬化方法は第1絶縁樹脂および第2絶縁樹脂ともに、上記の手順(3)と同様とした。これらの手順で作製した第1絶縁樹脂および第2絶縁樹脂の酸素透過係数を、JISK7176-1に準じて電解センサ法により測定した。酸素透過係数が1.0×10-11cc・cm/(cm2・秒・cmHg)以下の場合は「〇」、1.0×10-11cc・cm/(cm2・秒・cmHg)より大きい場合は「×」とした。
【0084】
・コンデンサ素子の耐熱信頼性評価
上記で得られたコンデンサ素子の加熱処理前および後の静電容量を測定し、その変化率を算出した。加熱は、145℃で250時間行った。変化率は、{(加熱処理前の静電容量-加熱処理後の静電容量)/加熱処理前の静電容量}により求めた。変化率40%以下である場合は「〇」、40%より大きい場合は「×」とした。
【0085】
・コンデンサ素子の中間部の樹脂充填性
また、上述のように得られたコンデンサ素子の第1絶縁樹脂の充填率を測定した。具体的には、コンデンサ素子の第1断面をSEMにより観察した。そして、観察写真より、中間部の多孔質領域の複数の空孔の面積と、第1絶縁樹脂の面積とを求め、これらの比〔(第1絶縁樹脂の面積/空孔の面積)×100)〕を充填率として求めた。充填率が90%以上の場合「〇」、90%未満の場合は「×」とした。
【0086】
・総合判定
上記各評価で、全て「○」の判定で、総合判定として「〇」と判定した。4つの判定のいずれかに「×」がある場合、総合判定として「×」と判定した。
【0087】
【0088】
絶縁樹脂の耐熱信頼性について、実施例1~4、比較例1はいずれも〇評価であるのに対して、比較例2では×評価であった。比較例2では第1絶縁層および第2絶縁層の形成時に、光照射後の熱処理を行わなかったため、第1絶縁樹脂や第2絶遠樹脂の硬化物としての架橋密度が小さかったと考えられる。また陽極体の多孔質領域に存在するサブミクロンサイズの空孔表面の金属と第1絶縁樹脂との分子結合力が小さいため、第1絶縁樹脂のT1が第2絶縁樹脂のT1より大きい値とならなかったと考えられる。このことから、第1絶縁樹脂のT1が第2絶縁樹脂のT2より大きいことが好ましいことが明らかになった。
【0089】
25℃における第1絶縁樹脂の弾性率について、実施例1~4ではいずれも〇評価であるのに対して、比較例1~2では×評価であった。これは、比較例1では、第1絶縁樹脂および第2絶縁樹脂が、チオエーテル構造を含まなかったためと考えられる。一方、比較例2では光照射後の熱処理を行わなかったため、硬化物としての架橋密度が小さく、25℃における第1絶縁樹脂の弾性率が0.1GPa未満になったと考えられる。そして、これらでは、耐熱信頼性試験において高温環境下に長時間さらされることにより、多孔質領域のそれぞれの空孔と第1絶縁樹脂との界面での接着強度が小さくなり、絶縁性が維持できなかったと考えられる。その結果、陽極部から侵入した酸素が陽極体内部の多孔質領域を通って陰極部に移動することを十分に抑制することができず、静電容量変化率も悪化したと考えられる。このことから、25℃における第1絶縁樹脂の弾性率は0.1GPa以上であることが好ましいことが明らかになった。
【0090】
第1絶縁樹脂および第2絶縁樹脂の酸素遮断性について、実施例1~4はいずれも〇評価であるのに対して、比較例1~2では×評価であった。比較例1および比較例2では、硬化物としての架橋密度が小さく、酸素透過係数が1.0×10-11cc・cm/(cm2・秒・cmHg)以上となったと考えられる。そのため、耐熱信頼性試験において試験初期から陽極部から侵入した酸素が陽極体内部の多孔質領域を通って陰極部に移動することを十分に抑制することができず、静電容量変化率も悪化したと考えられる。このことから、第1絶縁樹脂および第2絶縁樹脂の酸素透過係数は1.0×10-11cc・cm/(cm2・秒・cmHg)以下であることが好ましいことが明らかになった。
【0091】
さらに、樹脂充填率について、実施例1~4および比較例2はいずれも〇評価であるのに対して、比較例1では×評価であった。これは、比較例1の第1絶縁樹脂がチオエーテル構造を含まないため、光照射後、100℃15分熱処理しただけでは反応性が悪く、混合液が中間部の表面で拡がってしまい、第1絶縁層の形状制御ができず、樹脂充填率が小さくなったと考えられる。そのため、耐熱信頼性試験において試験初期から陽極部から侵入した酸素が陽極体内部の多孔質領域を通って陰極部に移動することを十分に抑制することができず、静電容量変化率も悪化したと考えられる。このことから第1絶縁樹脂の充填率は90%以上が好ましい。