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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176489
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】電動工具
(51)【国際特許分類】
   B25B 25/00 20060101AFI20231206BHJP
   B25F 5/00 20060101ALI20231206BHJP
   H01R 43/042 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
B25B25/00 D
B25F5/00 C
H01R43/042
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088791
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】519157727
【氏名又は名称】マクセルイズミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮沢 正樹
【テーマコード(参考)】
3C031
3C064
5E063
【Fターム(参考)】
3C031BB11
3C064AA20
3C064AB03
3C064AC02
3C064BA12
3C064BA18
3C064BB53
3C064BB71
3C064CA04
3C064CA08
3C064CA29
3C064CA53
3C064CB08
3C064CB17
3C064CB19
3C064CB24
3C064CB27
3C064CB64
3C064CB71
3C064CB79
3C064DA02
3C064DA23
3C064DA25
3C064DA37
3C064DA56
5E063CA02
5E063CA05
5E063CA07
5E063CD01
5E063CD27
5E063XA01
5E063XA05
5E063XA16
(57)【要約】
【課題】加工作業の確実性を高めつつ安全性に優れた構造の電動工具を提供することを目的とする。
【解決手段】電動工具1は、電動モータ7aと送りねじ8aとスライド部9と制御部19を有する本体2と、本体2に連結されているとともに互いに回動可能に連結された第1顎部11および第2顎部12を有する工具ヘッド3を備え、被加工物を加工可能な位置にスライド部9を後退移動させて前記被加工物を加工した後に、加工した前記被加工物を取り外し可能な位置にスライド部9を前進移動させる構成であり、制御部19は、下限スイッチ25が作動した時点で電流センサ29の検出値が第1電流値U1を超えていて第2電流値U2を超えていないときは、前記被加工物の加工が正常であると判断して次に継続する処理を行い、また、下限スイッチ25が作動した時点で第2電流値U2を超えているときは、異常であると判断して異常処理を行う構成である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと前記電動モータによって作動する送りねじと前記送りねじによって移動するスライド部と制御部を有する本体と、前記本体に連結されているとともに互いに回動可能に連結された第1顎部および第2顎部を有する工具ヘッドを備え、前記工具ヘッドは、前記第1顎部の先端側と前記第2顎部の先端側とを互いに近づける方向に付勢するばねが配されており、前記第1顎部の先端側の第1形状部と前記第2顎部の先端側の第2形状部とによって被加工物を加工する構成であり、前記電動モータの電流を検知する電流センサと、前記スライド部の下限位置への移動によって作動する下限スイッチを有し、
前記制御部は、前記下限スイッチが作動した時点で前記電流センサの検出値が第1電流値を超えていて第2電流値を超えていないときは、前記被加工物の加工が正常であると判断して次に継続する処理を行い、また、前記下限スイッチが作動した時点で前記第2電流値を超えているときは、異常であると判断して異常処理を行う構成であること
を特徴とする電動工具。
【請求項2】
前記制御部は、前記下限スイッチが作動した時点で前記検出値が前記第1電流値を超えていないときは前記送りねじの作動を継続し、前記第1電流値を超えて設定時間が経過した時点で前記検出値が前記第2電流値を下回っているときは、前記被加工物の加工が正常であると判断して次に継続する処理を行い、また、前記設定時間が経過した時点で前記検出値が前記第2電流値を超えているときは、異常であると判断して前記異常処理を行う構成であること
を特徴とする請求項1に記載の電動工具。
【請求項3】
前記本体は、表示部と、前記下限スイッチと、前記スライド部の中間位置への移動によって作動する中間スイッチと、前記スライド部の上限位置への移動によって作動する上限スイッチを有し、
前記制御部は、前記被加工物の加工が正常であると判断したときは前記スライド部を前記中間位置に移動させる制御を行う構成、または前記被加工物の加工が正常であると判断したときは前記スライド部を前記上限位置に移動させて前記スライド部を前記中間位置に移動させる制御を行う構成であり、
前記制御部は、異常であると判断したときはエラー信号を前記表示部に送信する構成であること
を特徴とする請求項1に記載の電動工具。
【請求項4】
前記本体は、表示部と、前記下限スイッチと、前記スライド部の中間位置への移動によって作動する中間スイッチと、前記スライド部の上限位置への移動によって作動する上限スイッチを有し、
前記制御部は、前記被加工物の加工が正常であると判断したときは前記スライド部を前記中間位置に移動させる制御を行う構成、または前記被加工物の加工が正常であると判断したときは前記スライド部を前記上限位置に移動させて前記スライド部を前記中間位置に移動させる制御を行う構成であり、
前記制御部は、異常であると判断したときはエラー信号を前記表示部に送信する構成であること
を特徴とする請求項2に記載の電動工具。
【請求項5】
前記本体は、トリガースイッチ及び制御スイッチを有し、
前記制御部は、前記下限スイッチが作動する前に前記トリガースイッチを解放するとともに前記制御スイッチを操作したときは、前記スライド部を前記中間位置に移動させて停止させる停止制御を行う構成であり、また、前記中間スイッチが作動した時点から待機時間が経過後に前記トリガースイッチと前記制御スイッチのいずれも操作しなかったときは、前記停止制御を行う構成であること
を特徴とする請求項3に記載の電動工具。
【請求項6】
前記本体は、トリガースイッチ及び制御スイッチを有し、
前記制御部は、前記下限スイッチが作動する前に前記トリガースイッチを解放するとともに前記制御スイッチを操作したときは、前記スライド部を前記中間位置に移動させて停止させる停止制御を行う構成であり、また、前記中間スイッチが作動した時点から待機時間が経過後に前記トリガースイッチと前記制御スイッチのいずれも操作しなかったときは、前記停止制御を行う構成であること
を特徴とする請求項4に記載の電動工具。
【請求項7】
前記本体は、前記電動モータに電力を供給するバッテリパックと、前記バッテリパックを脱着可能に取付けるアダプタとを有し、
前記スライド部は、前記第1顎部の後端側に摺動可能な位置に第1ローラが配されているとともに前記第2顎部の後端側に摺動可能な位置に第2ローラが配されており、前記スライド部の前記下限位置への移動によって前記被加工物を圧縮ないしは圧着する構成であること
を特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の電動工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物を加工する電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クランク式の把持レバーと電動モータとを組み合わせた構成の電動工具が知られている(特許文献1:欧州特許第2872293号明細書)。特許文献1の電動工具は、初期状態では工具ヘッドの先端側が開いており、作業者が把持レバーを把持する把持力によって工具ヘッドの先端側を閉じさせて被加工物を挟持し、そして、前記把持力が規定値を超えると電動モータが作動し工具ヘッドの先端側が閉じて被加工物を加工する構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】欧州特許第2872293号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
作業現場にて圧着端子と電線とを圧着する際には、圧着端子と電線との位置合わせが必要になる。また、作業現場にて圧着スリーブを圧縮して電線と電線とを接合する際には、圧縮スリーブと各電線との位置合わせが必要になる。
【0005】
しかしながら、特許文献1の電動工具は、一方側の顎部に連結された把持レバーを、規定値を超えない範囲の把持力握った状態を維持しつつ、圧着端子と電線との位置合わせや圧縮スリーブと電線との位置合わせを行わなければならないため、構造上、一方側の顎部に加わる外力と他方側の顎部に加わる外力のバランスが崩れやすくなり、電動モータの負荷が大きい。前記顎部の先端側は雄形状と雌形状になっており、雄形状と雌形状が摩耗した状態で加工作業を行うと、圧縮不足や圧着不足になり、無駄な電力消費になる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、加工作業の確実性を高めつつ安全性に優れた構造の電動工具を提供することを目的とする。
【0007】
一実施形態として、以下に開示する解決策により、前記課題を解決する。
【0008】
本発明に係る電動工具は、 電動モータと前記電動モータによって作動する送りねじと前記送りねじによって移動するスライド部と制御部を有する本体と、前記本体に連結されているとともに互いに回動可能に連結された第1顎部および第2顎部を有する工具ヘッドを備え、前記工具ヘッドは、前記第1顎部の先端側と前記第2顎部の先端側とを互いに近づける方向に付勢するばねが配されており、前記第1顎部の先端側の第1形状部と前記第2顎部の先端側の第2形状部とによって被加工物を加工する構成であり、前記電動モータの電流を検知する電流センサと、前記スライド部の下限位置への移動によって作動する下限スイッチを有し、
前記制御部は、前記下限スイッチが作動した時点で前記電流センサの検出値が第1電流値を超えていて第2電流値を超えていないときは、前記被加工物の加工が正常であると判断して次に継続する処理を行い、また、前記下限スイッチが作動した時点で前記第2電流値を超えているときは、異常であると判断して異常処理を行う構成であることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、被加工物の加工が正常に出来たと制御部が判断したときは、次に継続する処理を直ちに行うことができるので、加工作業の確実性を高めつつ消費電力を抑えることができる。また、電流異常になったと制御部が判断したときは、異常処理を直ちに行うことができるので、安全性に優れた構造にできる。
【0010】
前記制御部は、前記下限スイッチが作動した時点で前記検出値が前記第1電流値を超えていないときは前記送りねじの作動を継続し、前記第1電流値を超えて設定時間が経過した時点で前記検出値が前記第2電流値を下回っているときは、前記被加工物の加工が正常であると判断して次に継続する処理を行い、また、前記設定時間が経過した時点で前記検出値が前記第2電流値を超えているときは、異常であると判断して前記異常処理を行う構成であることが好ましい。この構成によれば、顎部の先端側の雄形状と雌形状が摩耗している場合には送りねじの作動を継続する。そして、前記第1電流値を超えてから設定時間が経過した時点で前記検出値が前記第2電流値を下回っているときは、被加工物の加工が正常に出来たと制御部が判断し、次に継続する処理を直ちに行うことができるので、顎部の先端側の雄形状と雌形状の摩耗の程度を考慮しつつ加工作業の確実性をより高めることができる。また、前記設定時間が経過した時点で前記検出値が前記第2電流値を超えているときは、異常であると判断し、異常処理を直ちに行うことができるので、安全性に優れた構造にできる。
【0011】
前記本体は、表示部と、前記下限スイッチと、前記スライド部の中間位置への移動によって作動する中間スイッチと、前記スライド部の上限位置への移動によって作動する上限スイッチを有し、前記制御部は、前記被加工物の加工が正常であると判断したときは前記スライド部を前記中間位置に移動させる制御を行う構成、または前記被加工物の加工が正常であると判断したときは前記スライド部を前記上限位置に移動させて前記スライド部を前記中間位置に移動させる制御を行う構成であり、前記制御部は、異常であると判断したときはエラー信号を前記表示部に送信する構成であることが好ましい。この構成によれば、被加工物の加工が正常に出来た場合は、自動モードにおいても手動モードにおいても直ちに次に継続する処理を行うことができる。また、電流異常になった場合は、直ちにエラー表示を行うことで、機器異常の早期発見ができる。
【0012】
一例として、前記本体は、トリガースイッチ及び制御スイッチを有し、前記制御部は、前記下限スイッチが作動する前に前記トリガースイッチを解放するとともに前記制御スイッチを操作したときは、前記スライド部を前記中間位置に移動させて停止させる停止制御を行う構成であり、また、前記中間スイッチが作動した時点から待機時間が経過後に前記トリガースイッチと前記制御スイッチのいずれも操作しなかったときは、前記停止制御を行う構成である。この構成によれば、被加工物の加工開始後に作業者が指を工具ヘッドに引っ掛けたときなどに停止制御を行うことができて、作業の安全性がより高められる。また、自動モードになって、第1顎部の先端側と前記第2顎部の先端側とが開いたままの状態で作業者が指を工具ヘッドに引っ掛けたときなどに停止制御を行うことで、作業の安全性がより高められる。
【0013】
一例として、前記制御部は、電源がONで前記電動モータが停止しているときに前記制御スイッチを操作したときは、前記第1顎部の先端側と前記第2顎部の先端側とが開いた状態から前記被加工物を加工する作業を繰り返し行う自動モードと、前記第1顎部の先端側と前記第2顎部の先端側とが閉じた状態から前記被加工物を加工する作業を1回ずつ行う手動モードとを交互に切替えるモード切替え制御を行う構成である。
【0014】
一例として、前記第2顎部は、前記スライド部が前記中間位置にいるときに作業者の操作で前記第1形状部と前記第2形状部を互いに離して前記被加工物を取り外せる状態にする操作部が配されている構成である。この構成によれば、スライド部が中間位置にいるときに作業者が第2顎部における操作部を押すことで第2顎部の先端側が第1顎部の先端側から離れるので、被加工物の取付けや被加工物の位置合わせが容易にできて、使い勝手が良い。一例として、前記本体はカバー部を有し、前記第2顎部における操作部は、作業者が押す位置に当該作業者の指に対応した形状のガイド板が取り付けられている。前記カバー部は、樹脂成型品、または内壁に絶縁処理が施された金属プレス加工品などが適用できる。
【0015】
前記本体は、前記制御部が前記電動モータを駆動するために前記作業者が操作するトリガーレバーに連動して作動するトリガースイッチと、前記制御部が前記トリガースイッチの作動を有効にするために前記作業者の操作で作動する制御スイッチが配されている構成であることが好ましい。前記中間スイッチは、前記スライド部の中間位置への移動によって作動する構成であり、前記スライド部が前記中間位置にいるときに、前記第1顎部の後端側と前記第1ローラが離れた状態になるとともに、前記第2顎部の後端側と前記第2ローラとが離れた状態となる構成であることが好ましい。この構成によれば、制御スイッチとトリガースイッチとを組み合わせた単純な構成でありながら、安全面に配慮しつつ、作業者は片手で必要な一連の操作が容易にできて、使い勝手が良い構成にできる。
【0016】
一例として、前記送りねじは、軸受によって軸支され、減速機を介して前記電動モータに連結される構成である。この構成によれば、送りねじがスライド部を移動させる際に受けるスラスト方向の荷重で発生する回転摩擦が軽減できる。一例として、送りねじの回転運動が直線運動に変換されるナットに連結されたスライド部、または前記ナットと一体構造のスライド部である。送りねじは、ボールねじを用いてもよい。軸受はスラスト軸受であり、一例として、スラスト玉軸受やスラストころ軸受を用いてもよい。尚且つ、送りねじが減速機を介して電動モータに連結されることで小型の電動モータで高トルクを発生させることが容易にできる。一例として減速機は複数のギアによって構成されるギヤボックスである。電動モータは減速機を組み合わせた一体構造のギヤードモータを用いてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、加工作業の確実性を高めつつ安全性に優れた構造の電動工具が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は本実施形態の電動工具における概略の回路構成の例を示す回路構成図である。
図2図2は本実施形態の電動工具における概略の電流波形の例を示す電流波形グラフ図である。
図3図3は本実施形態の電動工具の例を示す概略の斜視図である。
図4図4A図3に示す電動工具の背面図であり、図4B図3に示す電動工具の右側面図であり、図4C図3に示す電動工具の正面図であり、図4D図3に示す電動工具の左側面図である。
図5図5A図3の電動工具におけるカバー部を取り外した状態を示す概略の構造図であり、図5B図3の電動工具におけるトリガーレバーとスイッチ基板との関係を示す構造図である。
図6図6A図3に示す電動工具における工具ヘッドの左側面図であり、図6B図3に示す電動工具における工具ヘッドの正面図である。
図7図7A図3に示す電動工具の使用態様において初期状態を示す概略の構造図であり、図7B図3に示す電動工具の使用態様において被加工物を取付けた状態を示す概略の構造図であり、図7C図3に示す電動工具の使用態様において被加工物を圧縮ないしは圧着した状態を示す概略の構造図であり、図7D図3に示す電動工具の使用態様において被加工物を取り外した状態を示す概略の構造図である。
図8図8図3に示す電動工具の概略の正面図において、第1顎部と第2顎部の互いの位置を入れ替えた例を示す図である。
図9図9図3に示す電動工具を横向きにして載置した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳しく説明する。本実施形態の電動工具1は、工具ヘッド3を交換可能な多機能式の電動工具1である。ここで、電動工具1の各部の位置関係を説明し易くするため、図中にX,Y,Zの矢印で向きを示している。なお、電動工具1は、いずれの向きにおいても正常に作動する。
【0020】
本実施形態の電動工具1は、本体2のアダプタ4に取付けたバッテリパック5を電源として電動モータ7aを駆動することで被加工物90を圧縮ないしは圧着する構成である。一例として、電動工具1は、作業現場にて圧着端子と電線とを圧着する場合や、作業現場にて圧着スリーブを圧縮して電線と電線とを接合する場合や、工場や作業場等において、被加工物90を圧縮ないしは圧着する際に用いられる。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0021】
図3、及び図4A図4Dは、本実施形態に係る電動工具1の例を示す概略の図である。電動工具1は、電動モータ7aと送りねじ8aとスライド部9と制御部19と制御スイッチ21を有する本体2と、本体2に連結されているとともに互いに回動可能に連結された第1顎部11および第2顎部12を有する工具ヘッド3と、バッテリパック5を備えており、現場で作業者が手に持って使用するコードレスタイプの工具である。スライド部9は、送りねじ8aの軸線P1に沿って往復動する。スライド部9は、図中のZ方向矢印の向きに上限位置まで前進し、図中のZ方向矢印の反対向きに下限位置まで後退する。スライド部9が中間位置にて停止しているときは、工具ヘッド3の先端側が閉じている。電源をONして電動モータ7aが作動開始する前段階の初期状態、並びに、電動モータ7aが作動終了して電源をOFFした段階の初期状態においては、スライド部9は前記中間位置にて停止する。
【0022】
図5Aは電動工具1における本体2のカバー部2aの片側を取り外した状態を示す概略の構造図であり、図5Bは電動工具1におけるトリガーレバー27とスイッチ基板20aとの関係を示す構造図である。本体2は、横向きにした状態で設置可能な横置部15がカバー部2aに形成されている。横置部15は平坦部15aと窪み部15bとを有し、平坦部15aは窪み部15bの周囲に平坦面が形成されており、窪み部15bは制御スイッチ21が収容されており、制御スイッチ21は平坦部15aよりも低背になっている。そして、トリガーレバー27の操作に連動して作動するトリガースイッチ22を右側位置にしたときに横置部15が右側位置になる構成であり、トリガースイッチ22を上側位置にしたときに横置部15が下側位置になる構成である。この構成によれば、本体2を横向きに載置したときの安定性が高くなるとともに、制御スイッチ21の誤操作が防止できる。
【0023】
一例として、制御スイッチ21はプッシュスイッチである。トリガーレバー27は本体2に設けた第2軸部材に回動可能に軸支されており、トリガースイッチ22はトリガーレバー27に連動して作動する。トリガースイッチ22はマイクロスイッチである。スイッチ基板20aは、スライド部9の位置を検知可能な複数のマイクロスイッチが実装されている。一例として、スライド部9に配されたピンがマイクロスイッチに接することでスライド部9の位置を検知する。
【0024】
工具ヘッド3は、梃子の原理を応用して被加工物90を加工する。第1顎部11は、第1ローラ9aが摺動する第1摺動面11dが第1顎部11の後端側に形成されており、第1顎部11における突出部11bから第1摺動面11dに至る第1湾曲部11cは第1ローラ9aと離れた状態になるように抉れた形状になっている。また、第2顎部12は、第2ローラ9bが摺動する第2摺動面12dが第2顎部12の後端側に形成されており、第1軸部材が配された箇所に近い内縁部から第2摺動面12dに至る第2湾曲部12cは第2ローラ9bと離れた状態になるように抉れた形状になっている。第1ローラ9aと第2ローラ9bとで一対のローラを構成し、この一対の、第1ローラ9aと第2ローラ9bとは、送りねじ8aの軸線P1に対して互いに対称な位置に配されている。つまり、第1顎部11の後端側に摺動可能な位置に前記ローラのうちのひとつが配されているとともに、第2顎部12の後端側に摺動可能な位置に前記ローラのうちの別のひとつが配されている構成である。
【0025】
送りねじ8aは、軸受8bによって軸支されるとともに、減速機6を介して電動モータ7aの駆動軸7bに連結される。本体2におけるカバー部2aは工具ヘッド3から離れる方向にて作業者が把持可能なハンドル形状になっている。そして、カバー部2aの下端側にアダプタ4が設けられており、バッテリパック5がアダプタ4に接続されている。
【0026】
図6A図6Bは、被加工物90の圧縮ないしは圧着に用いる工具ヘッド3の例である。第1顎部11と第2顎部12とは各々第1軸部材17aに挿通されて軸支されるとともに連結板17によって互いに回動可能に連結されている。第1顎部11の先端側における第1形状部11aは内向きで凸部が所定間隔で形成された雄形状になっており、第2顎部12の先端側における第2形状部12aは内向きで前記凸部に一対一で対応した凹部が形成された雌形状になっている。そして、第1顎部11の先端側の第1形状部11aと第2顎部12の先端側の第2形状部12aとが互いに接近して被加工物90としての圧縮端子や圧着スリーブを圧縮ないしは圧着する。ばね18は、ねじりコイルばねである。ばね18のコイル部は、第1顎部11に設けた支持部14aに回動可能に取り付けられている。ばね18の端部は、連結板17に当接している。そして、ばね18の復元力によって第1顎部11の先端側の第1形状部11aと第2顎部12の先端側の第2形状部12aとが互いに近づく方向に付勢される。一例として、ばね18は金属製である。
【0027】
図8は、本実施形態に係る電動工具1の例を示す概略の正面図であって、第1顎部11と第2顎部12の互いの位置を入れ替えた例を示す図である。また、図9は、本体2を横向きにして、作業台E1に載置した例を示す図である。本実施形態によれば、本体2に横置部15が設けられていることで、図9に示すように、本体2を横向きにした状態で設置できる。本体2を横向きにして、作業台E1に載置すると、横置部15の平坦部15aと載置面E1aとが面接触し、バッテリパック5の一部と載置面E1aとが面接触して、前記横向きの状態で自立する。図9に示す例では、トリガーレバー27は上側になり、第1顎部11は上側になり、第2顎部12は下側になる。第2顎部12の先端側における第2形状部12aは内向きで凹部が形成された雌形状になっているので、被加工物90としての圧縮端子や圧着スリーブをセットし易くなる。その結果、被加工物90の加工が容易にできる。
【0028】
図8に示すように、第1顎部11と第2顎部12とは、互いの位置を入れ替えて取付け可能な形状である。また、第1顎部11と第2顎部12の互いの位置を入れ替えたいずれの場合においても、被加工物90の圧縮ないしは圧着が可能な構成である。第1顎部11に形成された取付け穴には、支持部14aを取付けできて、支持部14aに替えて操作部14bを取付けできる。また、第2顎部12に形成された取付け穴には、操作部14bを取付けできて、支持部14aに替えて支持部14aを取付けできる配置構成になっている。
【0029】
この構成によれば、作業者の利き手や作業現場のレイアウトに合わせて第1顎部11と第2顎部12の位置を入れ替えて作業することができ、一例として、横向きに載置して作業することができるので、被加工物90の位置合わせが容易にできて、位置合わせした状態の被加工物90を加工することができる構成になる。尚且つ、軸線P1に対して互いに対称な位置に配された第1ローラ9aと第2ローラ9bを有するスライド部9の移動によって第1顎部11に加わる外力と第2顎部12に加わる外力のバランスがよくなり、消費電力を抑えつつ、正確かつ確実に被加工物90を加工できる。
【0030】
一例として、本体2は、電動モータ7aに電力を供給するバッテリパック5と、バッテリパック5を脱着可能に取付けるアダプタ4とを有する構成である。これにより、電源コードが不要になって作業範囲が拡大できて、コンパクトで使い勝手の良い構造にできる。本体2におけるカバー部2aは工具ヘッド3から離れる方向に作業者が把持可能なハンドル形状を有している。そして、カバー部2aのハンドル形状の下側にアダプタ4が設けられている。一例として、本体2は、横向きの状態で自立して被加工物90の加工が可能な構成である。これにより、本体2を横向きに載置した状態で安定して作業することが容易にできる。
【0031】
本体2は、スライド部9の下限位置への移動によって作動する下限スイッチ25と、スライド部9の中間位置への移動によって作動する中間スイッチ24と、スライド部9の上限位置への移動によって作動する上限スイッチ23を有する。本体2は、スライド部9が前記中間位置にいるときに、ばね18に付勢されて第1顎部11の先端側と第2顎部12の先端側とが閉じており、スライド部9を後退移動させることにより、第1顎部11の先端側と第2顎部12の先端側とを互いに近づけて被加工物90を加工する構成である。
【0032】
図1は電動工具1における概略の回路構成の例を示す回路構成図である。制御部19は、一例として、ワンチップマイコンからなるCPU19aを有する。引き続き、制御部19と、周辺回路を構成するスイッチ基板20aおよび表示基板20bについて、以下に説明する。
【0033】
バッテリパック5における二次電池はリチウムイオン電池からなり、一例として、電源電圧は7~42[V]であり、電池容量は1~10[Ah]である。バッテリパック5の電圧は、レギュレータ19cを経由し降圧されてCPU19aに電力供給される。CPU19aは、バッテリパック5の残量を確認し監視する構成である。制御部19は、電動モータ7aの電流を検知する電流センサ29と、時間を計測するタイマ28を有する。一例として、CPU19aには、電流センサ29として機能するセンサ回路と、タイマ28として機能するタイマ回路が配設されている。CPU19aは、一例として、ドライバ19bにPWM信号を送出し、パワーMOSFETなどの駆動素子を介して電動モータ7aに電力供給し、電動モータ7aを駆動制御する。
【0034】
制御部19とスイッチ基板20aと表示基板20bとは、配線によって信号接続されている。スイッチ基板20aは、トリガーレバー27の操作によって作動するトリガースイッチ22と、スライド部9が上限位置に移動することで作動する上限スイッチ23と、スライド部9が中間位置に移動することで作動する中間スイッチ24と、スライド部9が下限位置に移動することで作動する下限スイッチ25が実装されている。各スイッチの作動信号がCPU19aに入力されることで、CPU19aが電動モータ7aを駆動制御する。
【0035】
本体2は、表示部26を有しており、表示部26は、LED26aと、LED26bと、LED26cから構成される。作業者が操作する制御スイッチ21と、電動工具1が自動モードであることを表示するLED26aと、電動工具1が異常状態であることを表示するLED26bと、電動工具1が手動モードであることを表示するLED26cは、表示基板20bに実装されて、制御スイッチ21と、LED26aと、LED26bと、LED26cは、窪み部15bに収容されている。制御スイッチ21の作動信号がCPU19aに入力されることで、CPU19aがトリガースイッチ22の作動信号を有効信号と判断し、また、電動モータ7aを駆動制御する際の条件を設定する。制御スイッチ21はプッシュスイッチであり、中間スイッチ24がONの場合に、制御スイッチ21を所定時間押したとき、例えば3秒間以上押したときに、モードが都度切り替わる構成である。自動モードは、連続して作業する場合に用いられ、CPU19aの表示制御によってLED26aが点灯し、例えば緑色表示になる。手動モードは、一回作業する場合に用いられ、CPU19aの表示制御によってLED26cが点灯し、例えば緑色表示になる。
【0036】
電動工具1が異常状態の場合は、外部のセンサからCPU19aに異常信号が入力され、CPU19aの表示制御によってLED26bが点灯または点滅し、例えば赤色表示になる。一例としてバッテリパック5の電流値が20[A]を超えたときに、LED26bが周期5Hzで10回点滅する。一例として制御部19の基板温度が80[℃]に達したときに、LED26bが3秒間点灯する。一例としてバッテリパック5の温度が90[℃]以上のときに、LED26bが周期1Hzで3回点滅する。一例としてバッテリパック5の電圧が7.8[V]以下のときに、LED26bが周期5Hzで10回点滅する。なお、上記数値は一例であり、上記数値に限定されない。
【0037】
作業者の操作並びに電動工具1の動作と、制御スイッチ21、トリガースイッチ22、上限スイッチ23、中間スイッチ24および下限スイッチ25の各スイッチの動作の関係を次の表1に示す。表1において、第1スイッチは制御スイッチ21であり、第2スイッチはトリガースイッチ22である。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に示すように、制御スイッチ21とトリガーレバー27に連動するトリガースイッチ22を組み合わせた単純な構成にしつつ、作業者は片手で必要な一連の操作が容易にできるので使い勝手が良い。また、制御スイッチ21が作動することで電源ONになって、トリガーレバー27を離した時点から所定の待機時間が経過後に電源OFFになるので、合理的である。一例として、トリガーレバー27を離した時点から60秒後に電源OFFになる。
【0040】
図7A図7Dは、電動工具1の動作を説明する概略の構造図である。電動工具1の動作について、図7A図7D、並びに表1に基づいて以下に説明する。
【0041】
図7Aはスライド部9が中間位置にいる初期状態を示している。中間位置は、第1ローラ9aが突出部11bに接する位置または近接する位置である。電源OFFの状態では、中間スイッチ24のみがONになっている。スライド部9が中間位置にいるときは、ばね18の復元力によって第1顎部11の先端側と第2顎部12の先端側とが閉じている。第1回目の圧着作業は、スライド部9が図7Aに示す初期状態からの作業開始になる。
【0042】
ステップS1にて、作業者が制御スイッチ21を押して離すと、制御スイッチ21がOFFからONになってOFFになり、制御部19の制御によって電源ONになり、トリガースイッチ22の作動が有効になる。
【0043】
ステップS1に続いて、ステップS2にて、第2顎部12に取付けた操作部14bを作業者が第1顎部11の方向に押すことで、第1形状部11aが第2形状部12aから離れて、作業者は被加工物90を取付ける。図7Bは、第1形状部11aと第2形状部12aとによって被加工物90を挟持した状態を示している。
【0044】
ステップS2に続いて、ステップS3にて、作業者がトリガーレバー27を握ると、スライド部9が後退し下方に移動して、第1ローラ9aが第1摺動面11dを摺動するとともに第2ローラ9bが第2摺動面12dを摺動するので、第1形状部11aと第2形状部12aとが互いに近づいて被加工物90を圧着加工する。スライド部9が下限位置になると下限スイッチ25が作動しスライド部9が一旦停止する。図7Cは被加工物90を圧着加工した状態を示している。
【0045】
ステップS3に続いて、ステップS4にて、作業者がトリガーレバー27を離すと、スライド部9が前進し上方に移動して、第1ローラ9aが突出部11bを押すことで第1形状部11aと第2形状部12aが互いに離れた状態になる。スライド部9が上限位置になると上限スイッチ23が作動しスライド部9が一旦停止する。
【0046】
ステップS4に続いて、ステップS5にて、作業者は被加工物90を取り外す。図7Dは被加工物90を取り外した状態を示している。作業者がトリガーレバー27を離した時点から所定時間後に、第1顎部11の先端側と第2顎部12の先端側とが閉じた状態で電源OFFになる。
【0047】
自動モードのときは、図7Dに示す状態から、圧着作業を繰り返し行う。手動モードのときは、図7Aに示す状態から、圧着作業を1回ずつ行う。
【0048】
本実施形態によれば、一定の力で被加工物90を挟持することで被加工物90の位置合わせが容易にできて、位置合わせした状態の被加工物90を加工することが簡易にできる。尚且つ、スライド部9が中間位置にいる初期状態は工具ヘッド3の先端側が閉じているので、従来品よりも作業者の負担が軽減できて安全性に優れた構造の電動工具1になる。
【0049】
図2は電動工具1における電流波形Uの例を示す電流波形グラフ図である。電動工具1の動作について、上述の説明に加えて、図1に基づいて以下に説明する。
【0050】
ステップS3にて、作業者がトリガーレバー27を握ると、加工作業が開始され、スライド部9が後退して加工作業が進み、下限スイッチ25が作動する。一例として、加工作業時間は1~3[秒]である。制御部19は、下限スイッチ25が作動した時点で電流センサ29の検出値が第1電流値U1を超えていて第2電流値U2を超えていないときは、被加工物90の加工が正常であると判断して次に継続する処理を行う。また、下限スイッチ25が作動した時点で第2電流値U2を超えているときは、異常であると判断して異常処理を行う。一例として、第1電流値U1は8.5~9.5[A]であり、第2電流値U2は19.5~20.5[A]である。
【0051】
制御部19は、下限スイッチ25が作動した時点で電流センサ29の検出値が第1電流値U1を超えていないときは送りねじ8aの作動を継続し、第1電流値U1を超えてから設定時間T1が経過した時点で前記検出値が第2電流値U2を下回っているときは、被加工物90の加工が正常であると判断して次に継続する処理を行う。また、設定時間T1が経過した時点で前記検出値が第2電流値U2を超えているときは、異常であると判断して異常処理を行う。一例として、設定時間T1は5~15[ms]である。
【0052】
そして、制御部19は、被加工物90の加工が正常であると判断したときはスライド部9を前記中間位置に移動させる制御を行う。または、制御部19は、被加工物90の加工が正常であると判断したときはスライド部9を前記上限位置に移動させて次にスライド部9を前記中間位置に移動させる制御を行う。また、制御部19は、異常であると判断したときはエラー信号を表示部26に送信し、前記停止制御を行う。
【0053】
本実施形態によれば、加工作業の確実性を高めつつ安全性に優れた構造の電動工具1となる。本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、本発明を逸脱しない範囲において種々変更が可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 電動工具
2 本体、2a カバー部
3 工具ヘッド
4 アダプタ
5 バッテリパック
6 減速機
7a 電動モータ、7b 駆動軸
8a 送りねじ、8b 軸受
9 スライド部、9a ローラ(第1ローラ)、9b ローラ(第2ローラ)
11 第1顎部、11a 第1形状部、11b 突出部、11c 第1湾曲部、11d 第1摺動面
12 第2顎部、12a 第2形状部、12c 第2湾曲部、12d 第2摺動面
14a 支持部、14b 操作部
15 横置部、15a 平坦部、15b 窪み部
17 連結板、17a 第1軸部材
18 ばね
19 制御部、19a CPU(マイコン)、19b ドライバ、19c レギュレータ
20a スイッチ基板、20b 表示基板
21 制御スイッチ
22 トリガースイッチ
23 上限スイッチ
24 中間スイッチ
25 下限スイッチ
26 表示部、26a、26b、26c LED
27 トリガーレバー、27a 第2軸部材
28 タイマ
29 電流センサ
90 被加工物
P1 軸線
U 電流波形、U1 第1電流値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9