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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176512
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3244 20160101AFI20231206BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20231206BHJP
   F16C 33/80 20060101ALI20231206BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20231206BHJP
   F16J 15/3256 20160101ALI20231206BHJP
   F16J 15/447 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
F16J15/3244
F16C33/78 D
F16C33/78 Z
F16C33/80
F16J15/3232 201
F16J15/3256
F16J15/447
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088832
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】張 順平
【テーマコード(参考)】
3J006
3J042
3J043
3J216
【Fターム(参考)】
3J006AE05
3J006AE12
3J006AE19
3J006AE22
3J006AE23
3J006AE24
3J006AE30
3J006AE34
3J006AE42
3J006AE46
3J006CA01
3J042AA04
3J042AA12
3J042BA05
3J042CA08
3J042CA10
3J042CA21
3J042DA10
3J043AA17
3J043CA02
3J043CB13
3J043CB20
3J043DA06
3J043HA01
3J043HA04
3J216AA02
3J216AA14
3J216AB03
3J216AB38
3J216BA02
3J216BA30
3J216CA02
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB13
3J216CB18
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC15
3J216CC33
3J216CC43
3J216CC68
3J216DA01
3J216EA05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】シール性能を確保し、簡易な構造で泥水等の異物を効率よく外部に排出する密封装置を提供。
【解決手段】固定側部材に嵌合される芯体部材11と、回転側部材に取付けられるスリンガ部材13とを備え、前記スリンガ部材は、前記回転側部材に嵌合される第1スリンガ円筒部130と、該第1スリンガ円筒部から径方向に延出するスリンガ円板部131と、前記芯体部材に近接又は摺接して前記開口部を塞ぐように設けられるシールリップ140を有するシール部材14とを有し、前記シールリップの前記芯体部材と対向して配置される対向面140aには、周方向に螺旋状に形成されるとともに、対向する前記芯体部材に向けて突出して形成される螺旋状突条部141と、対向する前記芯体部材へ向けて突出して環状に形成される環状突条部142とが設けられ、前記螺旋状突条部は、前記環状突条部より前記開口部側に形成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側部材に嵌合される芯体部材と、前記固定側部材に対して軸回転する回転側部材に取付けられるスリンガ部材とを備え、前記固定側部材と前記回転側部材とで形成される環状の内部空間を密封する密封装置であって、
前記芯体部材と前記スリンガ部材とが対向して配置され外部空間に開口する開口部を備えており、
前記スリンガ部材は、前記回転側部材に嵌合される第1スリンガ円筒部と、該第1スリンガ円筒部から径方向に延出するスリンガ円板部と、前記芯体部材に近接又は摺接して前記開口部を塞ぐように設けられるシールリップを有するシール部材とを有し、
前記シールリップの前記芯体部材と対向して配置される対向面には、周方向に螺旋状に形成されるとともに、対向する前記芯体部材に向けて突出して形成される螺旋状突条部と、対向する前記芯体部材へ向けて突出して環状に形成される環状突条部とが設けられ、
前記螺旋状突条部は、前記環状突条部より前記開口部側に形成されていることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記芯体部材は、前記固定側部材に嵌合する第1芯体円筒部を備え、
前記シールリップは、前記第1芯体円筒部に近接又は摺接することを特徴とする密封装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記芯体部材は、前記固定側部材に嵌合する第1芯体円筒部と、該第1芯体円筒部から径方向に延出する芯体円輪部と、該芯体円輪部から軸方向に延出する第2芯体円筒部とを備え、
前記シールリップは、前記第2芯体円筒部に近接又は摺接することを特徴とする密封装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項において、
前記シール部材は、前記スリンガ円板部の端部に設けられていることを特徴とする密封装置。
【請求項5】
請求項2または請求項3において、
前記スリンガ部材は、前記スリンガ円板部から軸方向に延出し、前記第1芯体円筒部との間にラビリンスを形成する第2スリンガ円筒部をさらに備え、
前記シール部材は、前記第2スリンガ円筒部の端部に設けられていることを特徴とする密封装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項において、
前記シールリップは、前記螺旋状突条部及び前記環状突条部のうちの少なくとも一方が前記芯体部材に摺接することを特徴とする密封装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項において、
前記シールリップは、前記内部空間側から外部空間側へ拡径又は縮径して設けられていることを特徴とする密封装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定側部材に嵌合される芯体部材と、前記固定側部材に対して軸回転する回転側部材に取付けられるスリンガ部材とを備え、前記固定側部材と前記回転側部材とで形成される環状の内部空間を密封する密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車等の車輪の軸受装置には、外部からの泥水やダスト等の異物の侵入を抑制するために、上述のような固定側部材と回転側部材との間を密封する密封装置が装着されている。このような密封装置では、芯体部材及びスリンガ部材のそれぞれにシール部材が設けられ、軸受装置の内部への異物の侵入を抑制している。
【0003】
しかしながら、このような密封装置では、侵入した異物が密封装置の外部に排出されずに長く存在していると、異物がシール部材を通過して内部空間に侵入するおそれがあるため、できる限り速やかに排出する構造でありながらシール機能を確実に確保できるものが求められる。
【0004】
下記特許文献1,2の密封装置では、密封装置の外部との入り口付近に、径方向に対向する部材に近接又は摺接する溝状又は突状の螺旋状流路が形成されたシール部材がスリンガ部材に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公平6-43579号公報
【特許文献2】実用新案登録第2525536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらいずれも侵入してくる泥水や塵埃等の異物の排出性とシール部材の張り付き防止の双方に着目したシール設計がされたものではない。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、シール性能を確保し、簡易な構造でありながら、泥水等の異物を効率よく外部に排出する密封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の密封装置は、固定側部材に嵌合される芯体部材と、前記固定側部材に対して軸回転する回転側部材に取付けられるスリンガ部材とを備え、前記固定側部材と前記回転側部材とで形成される環状の内部空間を密封する密封装置であって、前記芯体部材と前記スリンガ部材とが対向して配置され外部空間に開口する開口部を備えており、前記スリンガ部材は、前記回転側部材に嵌合される第1スリンガ円筒部と、該第1スリンガ円筒部から径方向に延出するスリンガ円板部と、前記芯体部材に近接又は摺接して前記開口部を塞ぐように設けられるシールリップを有するシール部材とを有し、前記シールリップの前記芯体部材と対向して配置される対向面には、周方向に螺旋状に形成されるとともに、対向する前記芯体部材に向けて突出して形成される螺旋状突条部と、対向する前記芯体部材へ向けて突出して環状に形成される環状突条部とが設けられ、前記螺旋状突条部は、前記環状突条部より前記開口部側に形成されていることを特徴とする。
【0009】
上記密封装置において、前記芯体部材は、前記固定側部材に嵌合する第1芯体円筒部を備え、前記シールリップは、前記第1芯体円筒部に近接又は摺接してもよい。。
【0010】
また、上記密封装置において、前記芯体部材は、前記固定側部材に嵌合する第1芯体円筒部と、該第1芯体円筒部から径方向に延出する芯体円輪部と、該芯体円輪部から軸方向に延出する第2芯体円筒部とを備え、前記シール部材は、前記第1芯体円筒部と前記第2芯体円筒部との間に位置し、前記シールリップは、前記第2芯体円筒部に近接又は摺接してもよい。
【0011】
また、上記密封装置において、前記シール部材は、前記スリンガ円板部の端部に設けられてもよい。
【0012】
また、上記密封装置において、前記スリンガ部材は、前記スリンガ円板部から軸方向に延出し、前記第1芯体円筒部との間にラビリンスを形成する第2スリンガ円筒部をさらに備え、前記シール部材は、前記第2スリンガ円筒部の端部に設けられてもよい。
【0013】
さらに、上記密封装置において、前記シールリップは、前記螺旋状突条部及び前記環状突条部のうちの少なくとも一方が前記芯体部材に摺接してもよい。
【0014】
そして、上記密封装置において、前記シールリップは、前記内部空間側から外部空間側へ拡径又は縮径して設けられてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の密封装置は上述した構成とされるため、シール性能を確保し、簡易な構造でありながら、泥水等の異物を効率よく外部に排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】各実施形態に係る密封装置が装着される軸受装置の一例を示す概略的縦断面図である。
図2図1のX部の拡大図であって、第1実施形態に係る密封装置を模式的に示す概略的縦断面図及びその要部拡大図である。
図3】同実施形態における螺旋状突条部及び環状突条部を説明するための図である。
図4】(a)(b)(c)は、同実施形態のシールリップの変形例を説明するための図である。
図5】(a)(b)は、同実施形態に係る密封装置の変形例を模式的に示す概略的縦断面図である。
図6】第2実施形態に係る密封装置を模式的に示す概略的縦断面図である。
図7】同実施形態における螺旋状突条部及び環状突条部を説明するための図である。
図8図1のY部の拡大図であって、第3実施形態に係る密封装置を模式的に示す概略的縦断面図である。
図9】(a)は図2の密封装置の変形例を模式的に示す概略的縦断面図、(b)は図6の密封装置の変形例を模式的に示す概略的縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1実施形態>
以下、各実施形態について、図面に基づいて説明する。なお、一部の図では、他図に付している詳細な符号の一部を省略している。まず、図1図3を参照しながら第1実施形態に係る密封装置10について説明する。
第1実施形態に係る密封装置10は、固定側部材に嵌合される芯体部材11と、固定側部材に対して軸回転する回転側部材に取付けられるスリンガ部材13とを備え、固定側部材と回転側部材とで形成される環状の内部空間Sを密封する。密封装置10は、芯体部材11とスリンガ部材13とが対向して配置され外部空間に開口する開口部16を備えている。スリンガ部材13は、回転側部材に嵌合される第1スリンガ円筒部130と、第1スリンガ円筒部130から径方向に延出するスリンガ円板部131とを有する。さらにスリンガ部材13は、芯体部材11に近接又は摺接して開口部16を塞ぐように設けられるシールリップ140を有するシール部材14を有する。シールリップ140の芯体部材11と対向して配置される対向面140aには、周方向に螺旋状に形成されるとともに、対向する芯体部材11に向けて突出して形成される螺旋状突条部141が設けられている。さらにシールリップ140の芯体部材11と対向して配置される対向面140aには、対向する芯体部材11へ向けて突出して環状に形成される環状突条部142が設けられている。螺旋状突条部141は、環状突条部142より開口部16側に形成されている。
以下、詳述する。なお、上述したシール部材14を、以下の説明ではスリンガ側シール部材14として説明する。また、軸Lに沿って車輪に向く側を車輪側、車体を向く側を車体側という。また、図2図5図6図8において、後述する芯体側シール部材12及びスリンガ側シール部材14の二点鎖線で示す部分は、変形前の原形状を示している。
【0018】
図1は、自動車の車輪(不図示)を軸回転可能に支持する軸受装置1を示す。この軸受装置1は、大略的に、上述の固定側部材に相当する外輪2と、上述の回転側部材に相当する内輪5と、外輪2と内輪5との間に介装される2列の転動体(ボール)6…とを含んで構成される。内輪5は、ハブ輪3と内輪部材4とで回転部材として構成され、内輪部材4はハブ輪3の車体側に嵌合一体とされる。ハブ輪3にはドライブシャフト7が同軸的にスプライン嵌合され、ドライブシャフト7は等速ジョイント8を介して不図示の駆動源(駆動伝達部)に連結される。ドライブシャフト7はナット9によって、ハブ輪3と一体化され、ハブ輪3のドライブシャフト7からの脱落が防止されている。内輪5(ハブ輪3及び内輪部材4)は、外輪2に対して、軸L回りに回転可能な回転部材とされ、外輪2と、内輪5とにより、相対的に回転する2部材が構成され、環状の内部空間Sが形成される。環状の内部空間S内には、2列の転動体6…が、リテーナ6aに保持された状態で、外輪2の軌道輪2a、ハブ輪3及び内輪部材4の軌道輪3a,4aを転動可能に介装されている。ハブ輪3は、円筒形状のハブ輪本体30と、ハブ輪本体30より立上基部31を介して径方向外方に延出するよう形成されたハブフランジ32とを有し、ハブフランジ32にボルト33及び不図示のナットによって車輪が取付固定される。
【0019】
図2は、図1のX部を拡大した部分断面図であり、図2には、第1実施形態に係る密封装置10が示されている。密封装置10は、外輪2と内輪部材4の車体側の端部に装着され、外輪2と内輪部材4との間の環状の内部空間Sを密封する。次に、この密封装置10について図2図3を参照しながら説明する。
【0020】
図2に示す第1実施形態の密封装置10は、固定側部材である外輪2と回転側部材である内輪部材4(内輪5)との間の車体側の端部に装着される。密封装置10は、芯体部材11と、スリンガ部材13とを備える。また、芯体部材11は芯体側シール部材12を、スリンガ部材13はスリンガ側シール部材14及び磁気エンコーダ15を、それぞれ有している。次に、各部材の構成について説明する。
【0021】
芯体部材11は、SPCC又はSUS等の鋼板をプレス加工して形成され、図2に示すように片側の断面が略逆L字状の円筒形とされる。芯体部材11は、外輪2の内周面2bに嵌合される円筒状の第1芯体円筒部110と、第1芯体円筒部110の車輪側の端部110aから内径方向に傾斜して車輪側に延出する傾斜部111とを備える。さらに芯体部材11は、傾斜部111の内径側の端部111aから内径方向に延出する芯体円板部112を備える。
【0022】
芯体部材11は、ゴム等の弾性体からなる芯体側シール部材12を有する。芯体側シール部材12は、芯体部材11に固着されているシール基部120と、シール基部120から延出するラジアルリップ121及びグリースリップ122と、環状突部123とを備える。シール基部120は、傾斜部111の車輪側の面111bと、芯体円板部112の車輪側の面112aと内径側の端部112bと車体側の面112cの内径側の一部とを覆うように芯体部材11に固着されている。
【0023】
ラジアルリップ121は、シール基部120の内径側の一部から縮径しながら車体側に傾斜して延出し、後述する内輪部材4に嵌合するスリンガ部材13の第1スリンガ円筒部130の外周面130bに弾性変形しながら摺接する。グリースリップ122は、シール基部120の内径側の一部から縮径しながら車輪側に延出し、後述する内輪部材4に嵌合するスリンガ部材13の第1スリンガ円筒部130の外周面130bに弾性変形しながら摺接する。
【0024】
環状突部123は、シール基部120の外径側の端部に設けられ、外径側に隆起して形成されている。環状突部123は、芯体部材11が外輪2の内周面2bに嵌合された際、外輪2の内周面2bとシール基部120との間に圧縮した状態で介在するように形成されている。環状突部123が圧縮した状態で介在することにより、外輪2の内周面2bと芯体部材11の第1芯体円筒部110との嵌合部位へ、内部空間S内に充填されているグリース等が侵入することを抑制できる。
【0025】
スリンガ部材13は、SPCC又はSUS等の鋼板をプレス加工して形成され、図2に示すように片側の断面が略横倒しL字状の円筒形とされる。スリンガ部材13は、内輪部材4の外周面4bに嵌合される円筒状の第1スリンガ円筒部130と、第1スリンガ円筒部130の車体側の端部130aから外径方向に延出するスリンガ円板部131とを備える。また、スリンガ円板部131の車体側の面131cには、N極とS極とが周方向に交互に着磁された円板状の磁気エンコーダ15が設けられている。磁気エンコーダ15は、車体に設けられた磁気センサ(不図示)に対峙するように設けられており、磁気センサと磁気エンコーダ15とにより車輪の回転速度等を検出することができる。
【0026】
芯体部材11とスリンガ部材13とは、第1芯体円筒部110の内周面110bとスリンガ円板部131の外径側の端部131aとの間に径方向の間隙が構成されるように径方向に対向して配置される。これにより密封装置10は、外部空間に連通して開口する開口部16を備える。この開口部16は、後述するスリンガ側シール部材14によって塞がれる。また、密封装置10は、芯体部材11、スリンガ部材13により囲まれた装置内空間17を備える。
【0027】
スリンガ部材13は、スリンガ側シール部材14を有している。スリンガ側シール部材14は、スリンガ円板部131の外径側の端部131aに設けられている。スリンガ側シール部材14は、スリンガ円板部131に固着されているシール基部143と、シールリップ140とを備えている。シール基部143は、スリンガ円板部131の車輪側の面131bの外径側の一部と、外径側の端部131aとを覆っている。シール基部143の車輪側の端部143aには、外径側に延伸した接続部144が設けられている。接続部144の外径側の端部144aには、車輪側(軸方向における内部空間S側)から車体側(軸方向における外部空間側)へ拡径しながら延出しているシールリップ140が、シール基部143と径方向に間隔をあけて設けられている。シールリップ140は、芯体部材11の内周面110bに摺接して開口部16を塞ぐように設けられていることで、装置内空間17と開口部16とが連通しにくい構成にしている。また、シール部材14は、シール基部143とシールリップ140との間に径方向の間隙である空間部145が構成される。
【0028】
シールリップ140における芯体部材11の第1芯体円筒部110の内周面110bと対向して配置される対向面140a(以下「シールリップ140の対向面140a」という。)には、螺旋状突条部141と環状突条部142とが設けられている。螺旋状突条部141及び環状突条部142は、変形前の原形状では縦断面の形状が略三角形状に形成されている。図2のシールリップ140の部分拡大図に示すように、シールリップ140は、螺旋状突条部141及び環状突条部142が、芯体部材11の第1芯体円筒部110の内周面110bに弾性変形しながら摺接している。次に、螺旋状突条部141及び環状突条部142の構成について、図2図3を参照しながら説明する。
【0029】
図3は、図2において車輪側から車体側を向く矢印Aの視点から見た変形前の原形状におけるシールリップ140の螺旋状突条部141及び環状突条部142を説明するための図である。また、図3の紙面上の中心部付近の曲線の矢印は、回転側部材である内輪5の回転方向を示している。
【0030】
図2に示すように、螺旋状突条部141は、シールリップ140の対向面140aから、外径方向に突出して形成されている。さらに、図3に示すように、螺旋状突条部141は、内部空間S側(シールリップ140の車輪側の端部140b側)から開口部16側(シールリップ140の車体側の端部140c側)へ周方向に螺旋状に形成されるとともに外径方向に向けて突出した突条に形成されている。
【0031】
本実施形態の軸受装置1は、自動車の車輪を軸回転可能に支持するものである。軸受装置1が装着された自動車が前進する際には、回転部材である内輪5は、図3の紙面上において左回り(反時計回り)に回転する。これに対して螺旋状突条部141は、車輪側の端部141a(螺旋の始点)から車体側の端部141b(螺旋の終点)にかけて、図3の紙面上において右回り(時計回り)の螺旋状に形成されている。つまり、螺旋状突条部141は、内輪5の回転方向(主な回転方向)とは逆回りに形成されている。
【0032】
本実施形態の密封装置10は、シールリップ140の対向面140a上において、環状突条部142よりも外部空間に直接開口する開口部16側に螺旋状突条部141が設けられている。そのため、外部空間からシールリップ140の対向面140aと第1芯体円筒部110の内周面110bとの間に侵入した泥水等の異物は、内輪5の回転に伴う遠心力により、螺旋状突条部141を伝って外部空間側へスムーズに排出される。
【0033】
また、シールリップ140の対向面140a上には、螺旋状突条部141よりも内部空間S側(車輪側)に間隔をあけて隣接して環状突条部142が形成されている。つまりシールリップ140は、対向面140a上の車輪側の端部140b側に環状突条部142が形成され、車体側の端部140c側に螺旋状突条部141が形成されている。環状突条部142は、シールリップ140の対向面140aから外径方向に突出した環状に形成されている。そのため、環状突条部142が、第1芯体円筒部110の内周面110bに摺接することで、泥水等の異物が螺旋状突条部141を通過したとしてもそれ以上の侵入を抑制し、開口部16におけるシール機能を確実なものにすることができる。そして、環状突条部142に侵入を阻止された泥水等の異物は、やがて内輪5の回転に伴い外部空間に排出される。
【0034】
また、本実施形態では、シールリップ140の対向面140aは第1芯体円筒部110の内周面110bに摺接せずに、螺旋状突条部141及び環状突条部142が第1芯体円筒部110の内周面110bに弾性変形しながら摺接している。螺旋状突条部141及び環状突条部142が第1芯体円筒部110の内周面110bに摺接しているため、シールリップ140の対向面140aが第1芯体円筒部110の内周面110bに貼りつくことが抑制されて、密封装置10のトルクの増大が抑制される。
【0035】
また、シール部材14は、スリンガ円板部131の外径側の端部131aに設けられているので、外部空間からの泥水等の異物の侵入を効果的に抑制する。さらに、シール部材14は、シール基部143とシールリップ140との間に径方向の間隙である空間部145が構成される。これにより、空間部145に入り込んだ外部空間側からの泥水等の異物は、シールリップ140の対向面140aへの侵入が抑制され、やがて回転側部材の回転によって振り切られて外部空間に排出される。
【0036】
また、密封装置10は、第1スリンガ円筒部130の外周面130bに摺接するラジアルリップ121を備える。これにより、泥水等の異物がスリンガ側シール部材14のシールリップ140を通過して装置内空間17内に侵入したとしても、それ以上の侵入が抑制される。また、密封装置10は、第1スリンガ円筒部130の外周面130bに摺接するグリースリップ122を備える。これにより、密封装置10よりも車輪側の内部空間S内に充填されているグリースが、装置内空間17内に侵入することが抑制される。また、装置内空間17は、芯体側シール部材12、スリンガ側シール部材14が芯体部材11とスリンガ部材13との対向部分の間を塞ぐように設けられているので、より密閉された状態で構成されている。
【0037】
<シールリップの変形例>
次にスリンガ側シール部材14におけるシールリップ140の3つの変形例について、図4(a)(b)(c)を参照しながら説明する。なお、第1実施形態と共通する部分の構成及び効果の説明は省略する。また、シールリップ140以外のその他の構成は上述した第1実施形態の密封装置10と共通である。
図4(a)のシールリップ140は、第1実施形態と異なり、螺旋状突条部141及び環状突条部142が第1芯体円筒部110の内周面110bに近接するが摺接しない構成になっている。本変形例では、シールリップ140全体が、第1芯体円筒部110に接触しない構成となっているので、第1実施形態と比べてよりトルクの増大が抑制される。このような構成であっても、シールリップ140の対向面140aに到達した泥水等の異物は、回転部材である内輪5の回転に伴い発生する遠心力によって、螺旋状突条部141を周方向に伝ってまたは螺旋状突条部141を乗り越えて外部空間へ排出される。また、環状突条部142を超えて装置内空間17内に侵入した泥水等の異物は、ラジアルリップ121によって、内部空間S内への侵入が抑制される。
【0038】
図4(b)のシールリップ140は、環状突条部142が第1芯体円筒部110の内周面110bに弾性変形しながら摺接し、螺旋状突条部141は、第1芯体円筒部110の内周面110bに摺接していない構成となっている。これにより、第1実施形態のものよりもトルクの増大を抑制しつつ、外部空間から侵入してきた泥水等の異物は、環状突条部142によって装置内空間17内への侵入が抑制される。
【0039】
図4(c)のシールリップ140は、図4(b)の変形例と同様に、環状突条部142が第1芯体円筒部110の内周面110bに弾性変形しながら摺接し、螺旋状突条部141は、第1芯体円筒部110の内周面110bに摺接していない構成となっている。そして、図4(c)のシールリップ140は、環状突条部142が螺旋状突条部141と間隔をあけずに隣接してシールリップ140の対向面140a上に形成されている点で、第1実施形態及び図4(a)(b)の第1実施形態の変形例のシールリップ140と異なっている。なお、環状突条部142は、図3に示す螺旋状突条部141の車輪側の端部141aから連続して外径方向へ環状に突出して形成されることで、螺旋状突条部141と一体に形成されてもよい。
【0040】
なお、上述した図4(a)(b)(c)のシールリップ140は、内輪5の回転に伴う遠心力によって、螺旋状突条部141や環状突条部142が第1芯体円筒部110の内周面110bに摺接する構成であってもよい。また、内輪5が一定以上の回転速度で回転している場合には、その遠心力によって螺旋状突条部141や環状突条部142が第1芯体円筒部110の内周面110bに摺接する構成であってもよい。
【0041】
<第1実施形態の変形例>
次に第1実施形態の密封装置10の変形例である密封装置10’及び密封装置10’’について、図5(a)及び図5(b)を参照しながら説明する。なお、第1実施形態と共通する部分の構成及び効果の説明は省略する。
図5(a)に示す密封装置10’は、芯体部材11及び芯体側シール部材12の構成が第1実施形態のものと略同一であり、スリンガ部材13及びスリンガ側シール部材14の構成が第1実施形態のものと異なっている。また、スリンガ円板部131の車体側の面131cに磁気エンコーダ15が設けられていない構成となっている。
【0042】
スリンガ部材13は、内輪部材4の外周面4bに嵌合する円筒状の第1スリンガ円筒部130と、第1スリンガ円筒部130の車体側の端部130aから外径方向に延出するスリンガ円板部131とを備える。本変形例のスリンガ部材13は、スリンガ円板部131の外径側の端部131aから車輪側に延出し、第1芯体円筒部110の内周面110bとの間にラビリンスRを形成する第2スリンガ円筒部132をさらに備える。
【0043】
第2スリンガ円筒部132の車輪側の端部132aには、拡径しながら車輪側に延出するシールリップ140を備えるスリンガ側シール部材14が設けられている。第1実施形態では、シールリップ140は車体側に延出していたため、車体側の端部140cがシールリップ140の先端部であった。しかし本変形例では、シールリップ140が車輪側に延出しているため、車輪側の端部140bが、シールリップ140の先端部となっている。シールリップ140の対向面140aには、外径方向に突出する螺旋状突条部141及び螺旋状突条部141と間隔をあけて隣接する環状突条部142が設けられている。螺旋状突条部141は、環状突条部142よりも開口部16側に位置し、内部空間S側から開口部16側に向けて、回転側部材である内輪5の回転方向とは逆方向の向きで螺旋状に突出して形成されている。螺旋状突条部141及び環状突条部142は、第1芯体円筒部110の内周面110bに弾接しながら摺接している。
【0044】
本変形例に係る密封装置10’は、第1芯体円筒部110の内周面110bと第2スリンガ円筒部132の外周面132bとの間に、軸方向に延びるラビリンスRが形成されている。このラビリンスRによって、シール部材14(シールリップ140)に到達する泥水等の異物の量が低減する。さらに第2スリンガ円筒部132の車輪側の端部132aにシール部材14が設けられているので、ラビリンスRを通過してシール部材14に到達した泥水等の異物のそれ以上の侵入を抑制する。そして、シール部材14に到達した泥水等の異物は、内輪5の回転に伴う遠心力により、螺旋状突条部141を伝って外部空間へスムーズに排出される。
【0045】
次に第1実施形態の密封装置10の変形例である密封装置10’’について、図5(b)を参照しながら説明する。
図5(b)に示す密封装置10’’は、芯体側シール部材12の構成は第1実施形態と略同一に構成され、その他の部材の構成が第1実施形態のものと異なっている。また、スリンガ円板部131の車体側の面131cに磁気エンコーダ15が設けられていない構成となっている。
【0046】
芯体部材11は、外輪2の内周面2bに嵌合される円筒状の第1芯体円筒部110と、第1芯体円筒部110の車輪側の端部110aから内径方向に傾斜して車輪側に延出する傾斜部111を備える。また芯体部材11は、傾斜部111の内径側の端部111aから内径方向に延出する芯体円板部112を備える。さらに芯体部材11は、第1芯体円筒部110の車体側の端部110cから径方向に延出する円輪状の芯体円輪部113と、芯体円輪部113の内径側の端部113aから車輪側に延出する円筒状の第2芯体円筒部114とを備える。
【0047】
スリンガ部材13は、内輪部材4の外周面4bに嵌合される円筒状の第1スリンガ円筒部130と、第1スリンガ円筒部130の車体側の端部130aから外径方向に延出するスリンガ円板部131とを備える。また、本変形例のスリンガ部材13は、図5(a)の車輪側に延出する第2スリンガ円筒部とは異なり、スリンガ円板部131の外径側の端部131aから車体側に延出する第2スリンガ円筒部132を備える。
【0048】
芯体部材11及びスリンガ部材13は、第2芯体円筒部114の内周面114cと第2スリンガ円筒部132の外周面132bとが径方向に対向して、軸方向に延びるラビリンスRが形成されるともに、外部空間に開口する開口部16が形成されるように配置される。密封装置10’’は、第1芯体円筒部110、芯体円輪部113、第2芯体円筒部114、傾斜部111、芯体円板部112、第1スリンガ円筒部130、スリンガ円板部131、第2スリンガ円筒部132に囲まれた装置内空間17を有する。
【0049】
第2スリンガ円筒部132の車体側の端部132aには、第2芯体円筒部114の内周面114cに摺接するとともに開口部16を塞ぐように設けられたシール部材14が設けられている。シール部材14は、第1芯体円筒部110と第2芯体円筒部114との間に位置し、車輪側から車体側へ拡径するシールリップ140を有する。シールリップ140は第2芯体円筒部114の内周面114cに摺接する。また、シールリップ140は、第2芯体円筒部114の内周面114cに対向する対向面140a(以下「シールリップ140の対向面140a」という。)には、螺旋状突条部141及び環状突条部142が設けられている。螺旋状突条部141は、内部空間S側(車輪側)から外部空間側(車体側)へ周方向に螺旋状形成されるとともに外径方向へ向けて突出して形成されている。螺旋状突条部141は、内輪5の回転方向とは逆回りに形成されている。環状突条部142は、螺旋状突条部141と間隔をあけて内部空間S側に隣接して形成されるとともに外径方向に突出して環状に形成されている。螺旋状突条部141は、環状突条部142よりも開口部16側に形成されている。シールリップ140は、対向面140aは第2芯体円筒部114に摺接せず、螺旋状突条部141及び環状突条部142が第2芯体円筒部114の内周面114cに摺接する。
【0050】
本変形例では、シールリップ140が第2芯体円筒部114に摺接するので、泥水等の異物がシールリップ140と第2芯体円筒部114との間を侵入しにくくなる。また、泥水等の異物がシールリップ140を通過したとしても、軸方向に延びるラビリンスRにより、それ以上の異物の侵入が抑制される。そして、泥水等の異物がラビリンスRを通過したとしても、ラジアルリップ121が、泥水等の異物の内部空間S側への侵入を抑制する。
【0051】
なお、本変形例のスリンガ部材13の第2円筒部132は、芯体部材11の第2芯体円筒部114よりも内径側に設けられているが、これに限定されることはない。スリンガ円板部131が芯体部材11の第2芯体円筒部114よりも外径側に延びて、スリンガ部材13の第2円筒部132が芯体部材11の第2芯体円筒部114よりも外径側に設けられてもよい。そして、シールリップ140は、第1芯体円筒部110と第2芯体円筒部114との間に位置して車輪側から車体側へ縮径して、芯体部材11の第2芯体円筒部114の外周面114bに摺接させればよい。シールリップ140は、内径方向へ向けて突出して形成され、環状突条部142よりも開口部16側に設けられた螺旋状突条部141及び螺旋状突条部141よりも内部空間S(装置内空間17)に連通する側に環状突条部142が形成されればよい。上記のような構造にすれば、シールリップ140までの泥水等の異物の侵入経路が複雑となり、シールリップ140に到達する異物の量が低減する。
【0052】
<第2実施形態>
次に図6図7を参照しながら、第2実施形態に係る密封装置10Aについて説明する。なお、第1実施形態と共通する部分の構成及び効果の説明は省略する。
第2実施形態では、第1実施形態とは異なり、軸受装置1が外輪回転タイプとなっている。つまり、外輪2Aが回転側部材であり、内輪部材4A(内輪5A)が固定側部材となっている。そのため、外輪2Aに嵌合するのがスリンガ部材13であり、内輪部材4A(内輪5A)に嵌合するのが芯体部材11となっている。簡単に説明すると、密封装置10Aの片側の縦断面図は、第1実施形態の密封装置10の片側の縦断面図と上下逆の構成となっている。以下、詳しく説明する。
【0053】
芯体部材11は、内輪部材4Aに嵌合する第1芯体円筒部110と、第1芯体円筒部110の車輪側の端部110aから外径方向に延出する芯体円板部112とを備える。また、芯体円板部112の外径側の端部112dには、芯体側シール部材12が設けられている。芯体側シール部材12は、拡径するとともに車体側に延出して、第1スリンガ円筒部130に摺接するラジアルリップ121を備える。さらに、芯体側シール部材12は、拡径するとともに車輪側に延出して、第1スリンガ円筒部130に摺接するグリースリップ122を備える。
【0054】
スリンガ部材13は、外輪2Aに嵌合する第1スリンガ円筒部130と、第1スリンガ円筒部130の車体側の端部130aから内径方向に延出するスリンガ円板部131とを備える。また、スリンガ円板部131の内径側の端部131dと第1芯体円筒部110の外周面110dとの間に開口部16が形成される。また、スリンガ円板部131の内径側の端部131dには、第1芯体円筒部110の外周面110dに摺接して開口部16を塞ぐように設けられているシールリップ140を有するシール部材14が設けられている。
【0055】
シールリップ140は、縮径するとともに車体側に延出するように形成されている。また、シールリップ140の第1芯体円筒部110の外周面110dとの対向面140a(以下「シールリップ140の対向面140a」という。)には、内部空間S側(車輪側)から開口部16側へ周方向に螺旋状に形成されるとともに内径方向へ向けて突出して形成される螺旋状突条部141が設けられている。また、螺旋状突条部141と間隔をあけて隣接して形成されるとともに内径方向へ突出して環状に形成される環状突条部142が設けられている。螺旋状突条部141は、環状突条部142よりも開口部16側に形成されている。
【0056】
密封装置10Aは、芯体部材11、スリンガ部材13により囲まれた装置内空間17を備える。また、装置内空間17は、芯体側シール部材12、スリンガ側シール部材14が芯体部材11とスリンガ部材13との対向部分の間を塞ぐように設けられているので、より密閉された状態で構成されている。
【0057】
図7は、図6において車輪側から車体側を向く矢印Bの視点から見た変形前の原形状におけるシールリップ140の螺旋状突条部141及び環状突条部142を説明するための図である。また、図7の紙面上の中心部付近の曲線の矢印は、回転側部材である外輪2Aの回転方向を示している。
【0058】
図3に示す第1実施形態のシールリップ140は拡径しながら車体側に延出しているが、本実施形態のシールリップ140は縮径しながら車体側に延出している。そのため、シールリップ140の先端部である車体側の端部140cは、図7においてシールリップ140の径方向の内側に位置している。そして、図7において螺旋状突条部141はシールリップ140の対向面140aの径方向の内側に、環状突条部142はシールリップ140の対向面140aの径方向の外側に、それぞれ位置している。
【0059】
図7に示すように、螺旋状突条部141は、車輪側の端部141a(螺旋の始点)から車体側の端部141b(螺旋の終点)にかけて、外輪2Aの回転方向(右回り、時計回り)とは逆回りである左回り(逆時計回り)の螺旋状に形成されている。これにより、外部空間からシールリップ140の対向面140aと第1芯体円筒部110の外周面110dとの間に侵入した泥水等の異物は、外輪2Aの回転に伴い、螺旋状突条部141を伝って外部空間側へスムーズに排出される。また、螺旋状突条部141を超えた泥水等の異物が環状突条部142に到達しても、環状突条部142により装置内空間17側への侵入が抑制され、やがて外輪2の回転に伴い外部空間側に排出される。そして、装置内空間17内に泥水等の異物が侵入しても、ラジアルリップ121により内部空間S側への侵入は抑制される。
【0060】
上述した密封装置10,10’,10’’,10Aは、軸受装置1の環状の内部空間Sの車体側の端部に装着されているものであるが、図1のY部の拡大図である図8に示すように内部空間Sの車輪側の端部に装着された密封装置20であってもよい。図2の密封装置10を内部空間Sの車輪側の端部に装着する場合は、不要な磁気エンコーダ15を外して開口部16が車輪側を向くように装着することで、内部空間Sの車輪側の端部に装着される密封装置20となる。ようは、図8の密封装置20は、図2の密封装置10から磁気エンコーダを外したうえで左右反転した構成となっている。以下の図8の密封装置20の説明では、主に図2の密封装置10と異なる点について説明し、各部材の詳細な構成及び効果の説明は省略する。
【0061】
内部空間Sの車輪側の端部に装着される密封装置20は、内部空間Sの車体側の端部に装着される密封装置10と異なり磁気エンコーダ15を備えていない。また、密封装置20のスリンガ部材13の第1スリンガ円筒部130は、内輪部材4ではなくハブ輪3の外周面3bに嵌合される。密封装置20は、芯体部材11とスリンガ部材13とが対向して配置され、外部空間に連通して開口する開口部16が密封装置20の車輪側に設けられている。スリンガ側シール部材14のシールリップ140の対向面140aには、上述した各実施形態と同様に螺旋状突条部141及び環状突条部142が設けられており、環状突条部142よりも開口部16側(車輪側)に螺旋状突条部141が形成されている。これにより、外部空間から侵入してシールリップ140の対向面140aに到達した泥水等の異物は、ハブ輪3(内輪5)の回転に伴い発生する遠心力によって、螺旋状突条部141を伝って車輪側の外部空間に排出される。また、泥水等の異物が螺旋状突条部141を通過したとしても螺旋状突条部141よりも内部空間Sに連通する側(車体側)に位置する環状突条部142によりそれ以上の侵入が抑制される。
【0062】
また、密封装置20と密封装置20よりも車輪側に位置する立上基部31との間には、溝状の空間300が構成されており、外部空間から侵入してきた泥水等の異物は、この空間300に溜まりやすくなる。空間300に至った泥水等の異物は、ハブ輪3の外周面3bを伝って内部空間S側に移動しようとしても、密封装置20のスリンガ部材13によってそれ以上の内部空間S側への侵入が抑制される。そして、空間300内に留まった泥水等の異物は内輪5の回転に伴う遠心力によって空間300から外部空間に排出される。
【0063】
密封装置10,10’,10’’,10A,20の構成は、上述の説明や図示したものに限定されることはない。例えば、密封装置10’,10’’,10Aでは、磁気エンコーダ15が設けられていない構成となっているが、磁気エンコーダ15が回転側部材に嵌合するスリンガ部材13に設けられている構成であってもよい。また、密封装置10’,10’’,10A,20では、螺旋状突条部141及び環状突条部142が芯体部材11に摺接している構成になっているが、芯体部材11に摺接せずに近接する構成であってもよい。また、密封装置10,10’,10’’,10A,20では、螺旋状突条部141及び環状突条部142のいずれか一方が芯体部材11に摺接し、いずれか一方は摺接しない構成であってもよい。また、各実施形態におけるシールリップ140は、第1芯体円筒部110か第2芯体円筒部114に近接又は摺接する構成になっているが、芯体部材11における他の部位に近接又は摺接する構成であってもよい。また、図3及び図7では、螺旋状突条部141が対向面140a上に螺旋状に約1.5周して構成されているが、これに限定されることはない。また、螺旋状突条部141及び環状突条部142は、縦断面において略三角形状に形成されているが、矩形状や台形形状、半円形状等に形成されてもよい。また、図4(c)以外の各実施形態では、環状突条部142は螺旋状突条部141と間隔をあけて隣接して形成されているが、環状突条部142は螺旋状突条部141に間隔をあけずに隣接して形成されているものあってもよい。また、各実施形態の環状突条部142は、螺旋状突条部141の端部から連続して径方向へ環状に突出して形成されることで、螺旋状突条部141と一体に形成されているものであってもよい。また、芯体側シール部材12に、シール基部120から拡径しながら車体側に延出しスリンガ円板部131に近接又は摺接するサイドリップが設けられてもよい。また、芯体部材11やスリンガ部材13の材質は上述したものに限定されることはない。また、図8の密封装置20は、磁気エンコーダ15が外された図2の密封装置10を左右反転した構成となっているが、密封装置10’,10’’,10Aを左右反転した構成であってもよく、また、その他の構成であってもよい。
【0064】
密封装置10,10’,10’’,10A,20では、螺旋状突条部141及び環状突条部142は、対向する芯体部材11に向けて径方向に突出して形成されているが、対向する芯体部材11が軸方向に位置していれば、軸方向に突出して形成されてもよい。そのような例として、図2の密封装置10の変形例である図9(a)の密封装置10Bを参照しながら説明する。なお、図2の密封装置10と共通する部分の構成及び効果の説明は省略する。
【0065】
図9(a)の密封装置10Bは、芯体部材11の第1芯体円筒部110の車体側の端部110cから外径方向に延出する円輪状の芯体円輪部113が設けられている。芯体円輪部113は、その車輪側の面113bが外輪2の車体側の端面2cに当接して設けられている。また、密封装置10Bは、芯体部材11とスリンガ部材13とが対向して配置され外部空間に開口する開口部16を備えている。そして、スリンガ部材13は、スリンガ円板部131の外径側の端部131aにスリンガ側シール部材14が設けられている。スリンガ側シール部材14のシールリップ140は、車輪側に傾斜し且つ外径方向に延出して形成されて、開口部16を塞ぐように設けられている。そして、シールリップ140の芯体円輪部113の車体側の面113bに対向して配置される対向面140a(以下「シールリップ140の対向面140a」という。)には、軸方向の車輪側に突出して形成された螺旋状突条部141及び環状突条部142が設けられている。螺旋状突条部141及び環状突条部142は、芯体円輪部113の車体側の面113bに摺接している。螺旋状突条部141は、環状突条部142よりも外径側である開口部16側に形成されている。そして、螺旋状突条部141は、シールリップ140の内径側の端部140dから外径側の端部140eにかけて、内輪5の回転方向(主な回転方向)とは逆回りに形成されている。外部空間からシールリップ140の対向面140aと芯体部材11の芯体円輪部113の車輪側の面113bとの間に侵入した泥水等の異物は、内輪5の回転に伴う遠心力により、螺旋状突条部141を伝って外部空間側へスムーズに排出される。
【0066】
また、螺旋状突条部141及び環状突条部142が、対向する芯体部材11に向けて軸方向に突出して形成されているその他の例として、図6の密封装置10Aの変形例である図9(b)の密封装置10Cを参照しながら説明する。なお、密封装置10Aと共通する部分の構成及び効果の説明は省略する。
【0067】
図9(b)の密封装置10Cは、芯体部材11の第1芯体円筒部110の車体側の端部110cから外径方向に延出する芯体円輪部113が設けられている。芯体円輪部113は、スリンガ部材13のスリンガ円板部131よりも軸方向の車輪側に位置している。なお、本実施形態では、芯体円輪部113は、スリンガ円板部131と軸方向に重ならない程度の寸法で外径方向に延出して設けられているが、芯体円輪部113とスリンガ円板部131とが軸方向に重なってラビリンス構造が形成されてもよい。密封装置10Cは、芯体部材11とスリンガ部材13とが対向して配置され外部空間に開口する開口部16を備えている。スリンガ部材13のスリンガ側シール部材14は、スリンガ円板部131の内径側の端部131dに設けられている。シール部材14のシールリップ140は、車輪側に傾斜し且つ内径方向に延出して形成されて、開口部16を塞ぐように形成されている。そして、シールリップ140の芯体円輪部113の車体側の面113bに対向して配置される対向面140a(以下「シールリップ140の対向面140a」という。)には、軸方向の車輪側に突出して形成された螺旋状突条部141及び環状突条部142が設けられている。螺旋状突条部141及び環状突条部142は、芯体円輪部113の車体側の面113bに摺接している。螺旋状突条部141は、環状突条部142よりも内径側である開口部16側に設けられている。そして、螺旋状突条部141は、シールリップ140の外径側の端部140eから内径側の端部140dにかけて、外輪2Aの回転方向(主な回転方向)とは逆回りに形成されている。外部空間からシールリップ140の対向面140aと芯体部材11の芯体円輪部113の車輪側の面113bとの間に侵入した泥水等の異物は、回転側部材である外輪2Aの回転に伴う遠心力により、螺旋状突条部141を伝って外部空間側へスムーズに排出される。
【0068】
図9(a)(b)の密封装置10B,10Cの構成は、上述の説明や図示したものに限定されることはない。密封装置10B,10Cでは、シールリップ140と対向する芯体円輪部113がシールリップ140よりも車輪側に位置しているため、螺旋状突条部141及び環状突条部142は軸方向の車輪側に突出して形成されている。なお、シールリップ140と対向する芯体部材11の部材がシールリップ140よりも軸方向の車体側に位置していれば、螺旋状突条部141及び環状突条部142は、対向する芯体部材11の部材に向けて軸方向の車体側に突出して形成されればよい。また、螺旋状突条部141及び環状突条部142が軸方向に突出して形成されている場合も、図4と同様に、いずれか一方が芯体部材11に摺接する構成であってもよく、その両方が芯体部材11に摺接せずに近接する構成であってもよい。また、図9(a)(b)では、螺旋状突条部141及び環状突条部142は間隔をあけて隣接しているが、図4(c)のように間隔をあけずに隣接してもよい。
【符号の説明】
【0069】
1 軸受装置
2 外輪(固定側部材)
2A 外輪(回転側部材)
3 ハブ輪
4 内輪部材(回転側部材)
4A 内輪部材(固定側部材)
5 内輪(回転側部材)
5A 内輪(固定側部材)
10,10’,10’’,10A,20 密封装置
11 芯体部材
110 第1芯体円筒部
112 芯体円板部
113 芯体円輪部
114 第2芯体円筒部
13 スリンガ部材
130 第1スリンガ円筒部
131 スリンガ円板部
132 第2スリンガ円筒部
14 シール部材(スリンガ側シール部材)
140 シールリップ
140a 対向面
141 螺旋状突条部
142 環状突条部
16 開口部
R,R1,R2 ラビリンス
S 内部空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9