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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176527
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】水処理方法及び水処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/30 20230101AFI20231206BHJP
【FI】
C02F3/30 Z
C02F3/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088854
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 拳人
(72)【発明者】
【氏名】油井 啓徳
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 吉昭
【テーマコード(参考)】
4D040
【Fターム(参考)】
4D040AA04
4D040AA42
4D040AA46
4D040AA55
4D040BB01
4D040BB42
4D040BB51
4D040BB82
4D040BB91
4D040BB92
4D040BB93
(57)【要約】
【課題】嫌気反応槽の立ち上げにおいて、処理対象とする有機物の分解活性が低い嫌気性汚泥を植種源とした場合でも、有機物を含有する被処理水を処理することが可能な水処理方法を提供する。
【解決手段】有機物を含有する被処理水を嫌気性条件下で生物処理する嫌気反応槽により前記被処理水を処理する水処理方法であって、前記嫌気反応槽に、嫌気性汚泥及び前記有機物の分解活性を有する好気性汚泥を投入することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物を含有する被処理水を嫌気性条件下で生物処理する嫌気反応槽により前記被処理水を処理する水処理方法であって、
前記嫌気反応槽に、嫌気性汚泥及び前記有機物の分解活性を有する好気性汚泥を投入することを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
前記好気性汚泥は、処理対象となる有機物を含む被処理水で馴養された汚泥であることを特徴とする請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
前記嫌気反応槽に、前記好気性汚泥を連続的又は間欠的に投入することを特徴とする請求項1又は2に記載の水処理方法。
【請求項4】
前記嫌気反応槽内の槽内水又は前記嫌気反応槽から排出された処理水の酸化還元電位が-200mV以上の際に、前記嫌気反応槽内の槽内水又は前記嫌気反応槽から排出された処理水の酸化還元電位が-250mV以下になるように、前記嫌気反応槽に前記好気性汚泥を投入することを特徴とする請求項1又は2に記載の水処理方法。
【請求項5】
前記嫌気反応槽のCODcr処理速度が0.2kg-CODcr/m/day以下の際に、前記嫌気反応槽に前記好気性汚泥を投入することを特徴とする請求項1又は2に記載の水処理方法。
【請求項6】
有機物を含有する被処理水を嫌気性条件下で生物処理する嫌気反応槽を備える水処理装置であって、
前記嫌気反応槽に、嫌気性汚泥及び前記有機物の分解活性を有する好気性汚泥を投入することを特徴とする水処理装置。
【請求項7】
前記好気性汚泥は、処理対象となる有機物を含む被処理水で馴養された汚泥であることを特徴とする請求項6に記載の水処理装置。
【請求項8】
前記嫌気反応槽に、前記好気性汚泥を連続的又は間欠的に投入することを特徴とする請求項6又は7に記載の水処理装置。
【請求項9】
前記嫌気反応槽内の槽内水又は前記嫌気反応槽から排出された処理水の酸化還元電位が-200mV以上の際に、前記嫌気反応槽内の槽内水又は前記嫌気反応槽から排出された処理水の酸化還元電位が-250mV以下になるように、前記嫌気反応槽に前記好気性汚泥を投入することを特徴とする請求項6又は7に記載の水処理装置。
【請求項10】
前記嫌気反応槽のCODcr処理速度が0.2kg-CODcr/m/day以下の際に前記嫌気反応槽に前記好気性汚泥を投入することを特徴とする請求項6又は7に記載の水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物を含む被処理水を処理する水処理方法及び水処理装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
被処理水の生物処理方法は、用いる微生物の種類および有機物の分解経路に応じて、好気性生物処理と嫌気性生物処理に分類される。好気性生物処理は、例えば、空気等の酸素含有気体で排水を曝気し、好気性生物を含む好気性汚泥によって有機物を生物処理する方法である。嫌気性生物処理は、例えば、曝気を必要としない嫌気性生物を含む嫌気性汚泥によって有機物を生物処理する方法である。
【0003】
嫌気性生物処理に利用される嫌気性汚泥(植種源)としては、例えば、食品工場、飲料工場、製紙工場、化学工場、畜産排水処理、下水処理等で使用される嫌気性汚泥(グラニュール汚泥、消化汚泥等)が挙げられる。
【0004】
例えば、非特許文献1には、被処理水における処理対象とする有機物の割合を徐々に高めていくことで、嫌気性汚泥を馴養することが示されている。
【0005】
また、例えば、特許文献1には、イソプロピルアルコールを含有する排水を嫌気性生物処理する方法において、予めイソプロピルアルコールの分解産物であるアセトンを含有する排水で下水消化汚泥を馴養すると、立ち上げ期間が短縮されたことが示されている。
【0006】
また、例えば、特許文献2には、好気性生物処理を立ち上げる際、好気性汚泥の存在下で、グラニュール汚泥またはその破砕物を投入すると、グラニュール汚泥またはその破砕物が担体の役割を果たし、好気性生物処理の運転立ち上げ期間を短縮することが記載されている。
【0007】
また、例えば、特許文献3,4には、非生物担体が充填された嫌気性生物処理を立ち上げる際、グラニュール汚泥を投入することで、嫌気性生物処理の運転立ち上げ期間を短縮することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011-212584号公報
【特許文献2】特許第4899253号公報
【特許文献3】特許第5685902号公報
【特許文献4】特許第6241187号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Danshita et al., J. Environ. Sci. Health(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、嫌気性生物処理を行う嫌気反応槽の立ち上げにおいて、植種源として嫌気性汚泥を嫌気反応槽へ投入しても、排水中に嫌気性汚泥が処理し難い有機物が含まれている場合には、排水を良好に処理することができない。通常、嫌気反応槽を立ち上げる際には、植種源として食品工場、飲料工場、製紙工場、化学工場、畜産排水処理、下水処理等で利用される嫌気性汚泥が投入されるが、当該嫌気性汚泥には、電子産業工場から排出される有機物 (例えばイソプロピルアルコール) を分解する微生物はわずかにしか含まれない。すなわち、電子産業工場から排出される有機物を含有する排水で馴養されていない嫌気性汚泥を嫌気反応槽へ投入し、電子産業工場から排出される有機物を含有する排水を嫌気反応槽に通水しても、有機物はほとんど分解されない。その結果、嫌気反応槽が好気雰囲気となり、嫌気反応が進まず、更には、好気雰囲気によって嫌気性汚泥中の嫌気性生物の活性が失われる。
【0011】
そこで、本開示では、嫌気反応槽の立ち上げにおいて、処理対象とする有機物の分解活性が低い嫌気性汚泥を植種源とした場合でも、有機物を含有する被処理水を嫌気性生物処理することが可能な水処理方法及び水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示は、有機物を含有する被処理水を嫌気性条件下で生物処理する嫌気反応槽により前記被処理水を処理する水処理方法であって、前記嫌気反応槽の立ち上げに際して、前記嫌気反応槽に、嫌気性汚泥及び前記有機物の分解活性を有する好気性汚泥を投入することを特徴とする。
【0013】
また、上記水処理方法において、前記好気性汚泥は、処理対象となる有機物を含む被処理水で馴養された汚泥であることが好ましい。
【0014】
また、上記水処理方法において、前記立ち上げ工程では、前記嫌気反応槽に、前記好気性汚泥を連続的又は間欠的に投入することが好ましい。
【0015】
また、上記水処理方法において、前記嫌気反応槽内の槽内水又は前記嫌気反応槽から排出された処理水の酸化還元電位が-200mV以上の際に、前記嫌気反応槽内の槽内水又は前記嫌気反応槽から排出された処理水の酸化還元電位が-250mV以下になるように、前記嫌気反応槽に前記好気性汚泥を投入することが好ましい。
【0016】
また、上記水処理方法において、前記嫌気反応槽のCODcr処理速度が0.2kg-CODcr/m/day以下の際に、前記嫌気反応槽に前記好気性汚泥を投入することが好ましい。
【0017】
また、本開示は、有機物を含有する被処理水を嫌気性条件下で生物処理する嫌気反応槽を備える水処理装置であって、前記嫌気反応槽の立ち上げに際して、前記嫌気反応槽に、嫌気性汚泥及び前記有機物の分解活性を有する好気性汚泥を投入することを特徴とする。
【0018】
また、上記水処理装置において、前記好気性汚泥は、処理対象となる有機物を含む被処理水で馴養された汚泥であることが好ましい。
【0019】
また、上記水処理装置において、前記嫌気反応槽の立ち上げに際して、前記嫌気反応槽に、前記好気性汚泥を連続的又は間欠的に投入することが好ましい。
【0020】
また、上記水処理装置において、前記嫌気反応槽内の槽内水又は前記嫌気反応槽から排出された処理水の酸化還元電位が-200mV以上の際に、前記嫌気反応槽内の槽内水又は前記嫌気反応槽から排出された処理水の酸化還元電位が-250mV以下になるように、前記嫌気反応槽に前記好気性汚泥を投入することが好ましい。
【0021】
また、上記水処理装置において、前記嫌気反応槽のCODcr処理速度が0.2kg-CODcr/m/day以下の際に、前記嫌気反応槽に前記好気性汚泥を投入することが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、処理対象とする有機物の分解活性が低い嫌気性汚泥を植種源とした場合でも、有機物を含有する被処理水を処理することが可能な水処理方法及び水処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態に係る水処理装置の構成の一例を示す模式図である。
図2】実施例1におけるリアクター内の槽内水の酸化還元電位(mV)の経時変化を示すグラフである。
図3】実施例1におけるリアクターのCODcr処理速度(kg-CODcr/m/day)の経時変化を示すグラフである。
図4】実施例2及び比較例において測定したメタンガス発生量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本実施形態について以下説明する。本実施形態は本開示を実施する一例であって、本開示は本実施形態に限定されるものではない。
【0025】
図1は、本実施形態に係る水処理装置の構成の一例を示す模式図である。図1に示す水処理装置1は、原水槽10、嫌気反応槽12、原水送水ライン14a,14b、pH調整剤供給ライン16、栄養剤供給ライン18、循環ライン20、処理水ライン22、ガス排出ライン24、ポンプ26を備える。原水槽10には、撹拌装置28が設けられており、撹拌装置28で濃度の均一化を行うことが好ましい。
【0026】
原水送水ライン14aは原水槽10に接続されている。原水送水ライン14bの一端は原水槽10に接続され、他端は、嫌気反応槽12の下部の流入部に接続されている。原水送水ライン14bにはポンプ26が設置されている。pH調整剤供給ライン16及び栄養剤供給ライン18は原水槽10に接続されている。
【0027】
図1の水処理装置1の動作の一例について説明する。まず、嫌気反応槽12の立ち上げに際して、嫌気性汚泥を嫌気反応槽12に投入する。嫌気性汚泥の投入方法は、特に制限されず、例えば、作業者が行ってもよいし、嫌気性汚泥が収容された槽から送液ラインを通して嫌気反応槽12に供給してもよい。次に、ポンプ26を稼働させ、原水槽10内の有機物を含有する被処理水を原水送水ライン14bから嫌気反応槽12に供給する。この際、必要に応じて、pH調整剤供給ライン16から、アルカリ剤や酸剤等のpH調整剤を原水槽10に供給したり、栄養剤供給ライン18から、栄養剤を原水槽10に供給したりする。また、嫌気反応槽12の立ち上げの際には、嫌気性汚泥を馴養させるために、嫌気反応槽12に供給された有機物を含有する被処理水を循環ライン20から排出して、再度原水送水ライン14bから嫌気反応槽12に供給する被処理水の循環を所定期間実施することが好ましい。
【0028】
また、嫌気反応槽12の立ち上げに際しては、被処理水中の有機物に対して分解活性を有する好気性汚泥を嫌気反応槽12に投入する。好気性汚泥の投入は、嫌気性汚泥の投入と共に行ってもよいし、被処理水の循環を所定期間実施して、嫌気性汚泥を投入する前に行ってもよい。好気性汚泥の投入方法は特に制限されず、例えば、作業者が行ってもよいし、好気性汚泥が収容された槽から汚泥投入ラインを通して嫌気反応槽12や原水槽10に供給してもよい。なお、原水槽10に供給された好気性汚泥は、ポンプ26を稼働させることで、被処理水と共に原水送水ライン14bを通り、嫌気反応槽12の流入部から嫌気反応槽12内に供給される。
【0029】
ここで、嫌気反応槽12内は嫌気条件下であるが、被処理水中には微量の酸素が含まれるため、嫌気反応槽12内に供給された被処理水中の有機物の一部は、嫌気反応槽12内に投入した好気性汚泥により処理される。そして、好気性汚泥による有機物の処理に伴い、嫌気反応槽12内の槽内水の酸化還元電位が下げられるため、嫌気性汚泥中の嫌気性生物の活性を向上させることができる。その結果、嫌気反応槽12の立ち上げにおいて、処理対象とする有機物の分解活性が低い嫌気性汚泥を植種源として嫌気反応槽12に投入した場合でも、有機物を含有する被処理水が処理される。
【0030】
嫌気反応槽12内で生物処理された処理水は、処理水ライン22から排出される。また、嫌気性汚泥によって有機物が分解されることによりメタンガスが生成されるが、生成したメタンガスはガス排出ライン24から排出される。
【0031】
以下に、本実施形態に係る水処理装置1の各構成や処理条件等について詳述する。
【0032】
<被処理水>
本実施形態において、処理対象となる有機物を含有する被処理水は特に限定されるものではないが、例えば、電子産業排水の純水、超純水を使用する工程等から排出されるアルキルアンモニウム塩含有排水や炭素数6以下の有機物性排水 (例えば、イソプロピルアルコール、モノエタノールアミン等) などが挙げられる。
【0033】
<嫌気反応槽>
嫌気反応槽12としては、有機物を含有する被処理水を嫌気性条件下で生物処理することができる従来公知の反応槽であればよく、例えば、担体を使用した固定床式又は流動床式の反応槽、UASB方式、EGSB方式等に代表されるグラニュールを利用した上向流汚泥床式の反応槽、嫌気性膜分離バイオリアクター (AnMBR) 等が挙げられる。嫌気反応槽12は、被処理水を連続的に供給しながら、処理水を連続的に排出する連続式の反応槽でもよいし、被処理水の供給及び処理水の排出を間欠的に行うバッチ式の反応槽でもよい。
【0034】
<投入汚泥>
嫌気反応槽12に投入する嫌気性汚泥(植種源)としては、特に制限されるものではないが、例えば、食品工場、飲料工場、製紙工場、化学工場、畜産排水処理、下水処理等で使用されるグラニュール汚泥、消化汚泥が挙げられる。ただし、高濃度に汚泥を保持できることや、沈降速度が速く汚泥が流出しにくいことから、グラニュール汚泥が望ましい。
【0035】
上記工場(例えば、食品工場、飲料工場、製紙工場、化学工場)や排水処理で使用されるグラニュール汚泥や消化汚泥は、電子産業工場から排出される有機性排水に含まれる有機物の分解能力に乏しい。したがって、上記工場(例えば、食品工場、飲料工場、製紙工場、化学工場)や排水処理で使用されるグラニュール汚泥や消化汚泥は、電子産業工場から排出される有機性排水に含まれる有機物の分解速度が遅いため、嫌気反応槽12のメタン生成が生じる域で酸化還元電位を維持できなくなり、グラニュール汚泥や消化汚泥中の嫌気性生物の活性が低下する場合がある。しかし、本実施形態のように、処理対象の有機物を分解できる好気性汚泥を投入することで、有機物の一部が好気的に分解され(嫌気反応槽12内は曝気等をしない嫌気条件であるが、被処理水中に含まれる微量の酸素が利用される)、嫌気反応槽12内の槽内水の酸化還元電位が下がるため、嫌気性生物によるメタン生成が進行しやすくなる。
【0036】
嫌気性生物によるメタン発酵が生じる酸化還元電位は-200mV以下、メタン発酵が活発に生じる酸化還元電位は-250mV以下とされている。そこで、より効率的にメタン発酵を行う点で、嫌気反応槽12内の槽内水の酸化還元電位が-200mV以上の際に、嫌気反応槽12内の槽内水または嫌気反応槽12から排出された処理水の酸化還元電位が-250mV以下となるように好気性汚泥を投入することが好ましい。具体的には、嫌気反応槽12や処理水ライン22に酸化還元電位計(例えば、HORIBA社製HO-300)を設置して、嫌気反応槽12に設置した酸化還元電位計により測定された槽内水の酸化還元電位が-200mV以上となった場合に、好気性汚泥の投入量を増やして、槽内水又は処理水の酸化還元電位を-250mV以下に下げる。
【0037】
また、嫌気反応槽12のCODcr処理速度が、0.2kg-CODcr/m/day以下の際には、嫌気反応槽12に好気性汚泥を投入することが好ましい。これにより、嫌気反応槽12内の槽内水の酸化還元電位の上昇を抑制できる。
【0038】
好気性汚泥は、処理対象である被処理水に含まれる有機物に対して分解活性を有する好気性汚泥であれば特に限定されないが、処理対象である被処理水によって馴養された汚泥であることが好ましい。例えば、好気性汚泥を投入した槽内に処理対象である有機物を含有する被処理水を投入した後、所定期間、曝気処理して、好気性汚泥を馴養する。曝気処理の期間(馴養期間)は特に限定されないが、10日以上であることが好ましい。処理対象である有機物を含有する被処理水によって馴養された好気性汚泥を、嫌気反応槽12に投入することにより、処理対象とする有機物の分解活性が低い嫌気性汚泥を植種源とした場合でも、嫌気反応槽12内の槽内水の酸化還元電位の上昇をより抑制できる。
【0039】
好気性汚泥の一度に投入する前記好気性汚泥の量は、嫌気反応槽1mあたり0.01~5kgの範囲であることが好ましく、0.01~3kgの範囲であることがより好ましい。好気性汚泥の投入量が上記範囲よりも少な過ぎると好気性汚泥を用いることによる本開示の効果を十分に得ることができない場合があり、多過ぎると嫌気反応槽12内の充填率が高くなって、嫌気反応槽12から流出する汚泥量も増えてしまうため好ましくない。
【0040】
また、脱窒の電子供与体として、処理対象の有機物を添加している脱窒菌を含有する汚泥を嫌気反応槽12へ投入しても良い。
【0041】
また、嫌気反応槽12の後段に好気反応槽を設け、好気反応槽で発生した余剰汚泥を嫌気反応槽12及び/又は原水槽10に返送しても良い。
【0042】
<嫌気反応槽の運転条件>
嫌気性汚泥に含まれる嫌気性生物、特にメタン生成菌の活性を高めるため、嫌気反応槽12内のpHは6.8~7.6の範囲が好ましく、7.0~7.3の範囲がより好ましい。嫌気反応槽12内のpH調整は、原水槽10にpH調整剤を供給することにより行われることが望ましい。なお、処理水のpHを嫌気反応槽12内のpHの指標として用いても良い。
【0043】
本実施形態で用いられるpH調整剤としては、塩酸等の酸剤、水酸化ナトリウム等のアルカリ剤等でよい。また、pH調整剤は、例えば、緩衝作用を持つ重炭酸ナトリウム、リン酸緩衝液等でもよい。
【0044】
本実施形態では、嫌気性汚泥に含まれる嫌気性生物の分解活性を良好に維持するために、栄養剤を供給することが好ましい。栄養剤としては、特に制限されるものではないが、例えば、炭素源、窒素源、リン源、その他無機塩類等が挙げられる。
【0045】
嫌気反応槽12の水温は、20oC以上が好ましく、25~35oCの範囲がより好ましい。嫌気性汚泥による有機物の分解は、20℃未満でも可能であるが、20℃以上の方が、分解反応速度を高く維持できる。嫌気反応槽12の水温調整方法は、特に制限されるものではないが、例えば、蒸気を原水槽10に供給することで、嫌気反応槽12内の水温を調整してもよいし、嫌気反応槽12にヒータを設置して、ヒータの熱により嫌気反応槽12内の水温を調整しても良い。また、例えば、加温した希釈水を原水槽10や嫌気反応槽12に供給することで、嫌気反応槽12内の水温を調整してもよい。また、嫌気性汚泥による嫌気性生物処理により、メタンガスが発生するが、発生したメタンガスを、メタンガスボイラーで熱エネルギーとして回収し、該熱エネルギーを嫌気反応槽12に供給し、水温を調整してもよい。
【0046】
<担体>
投入した汚泥の流出を防ぐために、嫌気反応槽12内へ非生物担体を投入することが好ましい。担体としては、嫌気性生物処理で従来使用される担体であれば良く、特に制限されるものではない。担体としては、例えば、ポリウレタン等のスポンジ担体、ポリビニルアルコール(PVA)等のゲル担体、繊維状担体、不織布成型品、ポリプロピレン製等の成型品等が挙げられる。成型品の形態としては、特に制限されるものではなく、例えば、ハニカム型、V型等の網状骨格体、網状マット状、網様パイプ状、網様ボール状等様々な形態が可能である。また、図示はしていないが担体を充填した嫌気反応槽12内上部に気固液分離装置を設置することがより好ましい。
【実施例0047】
以下、本開示を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本開示はこれに限定されるものではない。
【0048】
<実施例1>
有効容積19.8Lのリアクターに、アクチライトスーパーII(オルガノ(株)製)を有効容積に対してかさ体積が80%になるように充填した。リアクターに、植種源として飲料工場の排水処理施設を由来とする嫌気グラニュール(汚泥濃度41000mg/L)をリアクターの容積の10%量(v/v)添加し、また、イソプロピルアルコールを有機物源とする合成排水 (CODcr1000 mg/L(TOC260mg/L))を通水した。通水時の合成排水の水温は25℃、pHは6~8となるように調整した。また、合成排水に、栄養剤(オルガノ(株)製のオルガミンNP-51)、微量元素(オルガノ(株)製のオルガミンT-3)を添加した。
【0049】
通水開始から12日目は、前記合成排水をリアクター内で循環させ、嫌気グラニュールの回分培養期間とした。そして、12日目以降は循環を止めて、連続通水に切り替えた。通水開始から12日目、15日目、18日目、21日目、26日目に、イソプロピルアルコールを含有する合成排水で馴養した好気性汚泥(汚泥濃度17000mg/L)を、リアクターの流入部から0.1~1L投入した。
【0050】
図2は、実施例1におけるリアクター内の槽内水の酸化還元電位(mV)の経時変化を示すグラフである。図3は、実施例1におけるリアクターのCODcr処理速度(kg-CODcr/m/day)の経時変化を示すグラフである。通水開始から12日までの嫌気性グラニュールの回分培養期間の間は、図2に示す通り、リアクター内の槽内水の酸化還元電位は-150mV以上であり、図3に示す通り、CODcr処理速度は最大でも0.26kg-CODcr/m/dayだった。そして、合成排水を連続通水に切り替えて、リアクターに好気性汚泥を間欠的に投入(通水開始から12日目、15日目、18日目、21日目、26日目:図2及び3の黒塗りのプロット)していくことで、リアクター内の槽内水の酸化還元電位は徐々に低下していった。また、CODcr処理速度は、通水開始から55日目までは、0.5 kg-CODcr/m/day以下で推移したが、それ以降はCODcr処理速度が上昇し、1.0kg-CODcr/m/day以上となった。
【0051】
<実施例2>
容積200mLのガラス瓶に、イソプロピルアルコールを主成分とした電子工場模擬排水(CODcr=1000mg/L)を添加した。また、当該ガラス瓶に、栄養剤(オルガノ(株)製のオルガミンNP-51)、微量元素(オルガノ(株)製のオルガミンT2)を添加した。培地を窒素曝気した後、MLSSが4000mg/Lとなるように、ビール工場由来の嫌気グラニュールと、イソプロピルアルコールを含有する合成培地で馴養した好気性汚泥を、当該ガラス瓶に添加した。好気性汚泥の添加量は、MLSSの20%量(800mg/L)とした。汚泥添加後にpHが7.0となるように、pH調整剤を当該ガラス瓶に添加した。当該ガラス瓶をゴム栓つきのキャップで密閉し、気相部を窒素で置換した。嫌気グラニュールが破砕されないように、当該ガラス瓶内の攪拌子を緩やかに回しながら35oCで、生物処理した。ガラス瓶内で発生したバイオガスに含まれる二酸化炭素は石灰ソーダで吸収し、残ったメタンガスの発生量を測定した。
【0052】
<比較例>
イソプロピルアルコールを主成分とした電子工場模擬排水(CODcr=1000mg/L)で馴養した好気性汚泥をガラス瓶に添加しなかったこと以外は、実施例2と同じ条件で生物処理を行った。
【0053】
図4は、実施例2及び比較例において測定したメタンガス発生量を示すグラフである。図4に示す通り、実施例2では実験開始直後からメタンガスが発生した。一方、比較例では22時間後からメタンガスが発生した。実施例2においてより早くメタンガスが発生した理由としては、投入した好気性汚泥がイソプロピルアルコールを酸化し、メタン生成が生じるように培地の酸化還元電位を下げて、嫌気グラニュールの活性を向上させたためであると考えられる。最終的なメタンガス発生量は、実施例2は4.7mL、比較例は1.7mLだった。比較例では嫌気グラニュールがメタン生成を生じる前にダメージを受けたため、実施例2よりメタンガス発生量が少なかったと考えられる。嫌気グラニュールを構成する微生物は、絶対嫌気性であるが、好気性汚泥を投入したことで迅速に培地中の酸化還元電位が下がり、嫌気グラニュールがダメージを受けなかったために、実施例2の方が比較例よりもメタンガス発生量が多かったと推測される。
【0054】
実施例1、実施例2及び比較例の結果から、嫌気反応槽の立ち上げに際して、嫌気反応槽に、嫌気性汚泥及び有機物の分解活性を有する好気性汚泥を投入することで、嫌気反応槽の立ち上げにおいて、処理対象とする有機物の分解活性が低い嫌気性汚泥を植種源とした場合でも、有機物を含有する被処理水を処理することが可能であると言える。
【0055】
(付記)
(1)有機物を含有する被処理水を嫌気性条件下で生物処理する嫌気反応槽により前記被処理水を処理する水処理方法であって、
前記嫌気反応槽に、嫌気性汚泥及び前記有機物の分解活性を有する好気性汚泥を投入することを特徴とする水処理方法。
(2)前記好気性汚泥は、処理対象となる有機物を含む被処理水で馴養された汚泥であることを特徴とする上記(1)に記載の水処理方法。
(3)前記嫌気反応槽に、前記好気性汚泥を連続的又は間欠的に投入することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の水処理方法。
(4)前記嫌気反応槽内又は前記嫌気反応槽から排出された処理水の槽内水の酸化還元電位が-200mV以上の際に、前記嫌気反応槽内の槽内水又は前記嫌気反応槽から排出された処理水の酸化還元電位が-250mV以下になるように、前記嫌気反応槽に前記好気性汚泥を投入することを特徴とする上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の水処理方法。
(5)前記嫌気反応槽のCODcr処理速度が0.2kg-CODcr/m/day以下の際に、前記嫌気反応槽に前記好気性汚泥を投入することを特徴とする上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の水処理方法。
(6)有機物を含有する被処理水を嫌気性条件下で生物処理する嫌気反応槽を備える水処理装置であって、
前記嫌気反応槽に、嫌気性汚泥及び前記有機物の分解活性を有する好気性汚泥を投入することを特徴とする水処理装置。
(7)前記好気性汚泥は、処理対象となる有機物を含む被処理水で馴養された汚泥であることを特徴とする上記(6)に記載の水処理装置。
(8)前記嫌気反応槽に、前記好気性汚泥を連続的又は間欠的に投入することを特徴とする上記(6)又は(7)に記載の水処理装置。
(9)前記嫌気反応槽内の槽内水の酸化還元電位が-200mV以上の際に、前記嫌気反応槽内の槽内水又は前記嫌気反応槽から排出された処理水の酸化還元電位が-250mV以下になるように、前記嫌気反応槽に前記好気性汚泥を投入することを特徴とする上記(6)~(8)のいずれか1つに記載の水処理装置。
(10)前記嫌気反応槽のCODcr処理速度が0.2kg-CODcr/m/day以下の際に、前記嫌気反応槽に前記好気性汚泥を投入することを特徴とする上記(6)~(9)のいずれか1つに記載の水処理装置。
【符号の説明】
【0056】
1 水処理装置、10 原水槽、12 嫌気反応槽、14a,14b 原水送水ライン、16 pH調整剤供給ライン、18 栄養剤供給ライン、20 循環ライン、22 処理水ライン、24 ガス排出ライン、26 ポンプ、28 撹拌装置。
図1
図2
図3
図4