(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176566
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】中継装置及び中継方法
(51)【国際特許分類】
H04J 99/00 20090101AFI20231206BHJP
H04L 27/26 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
H04J99/00 100
H04L27/26 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088912
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 剛志
(72)【発明者】
【氏名】小畑 晴香
(72)【発明者】
【氏名】清水 逸平
(72)【発明者】
【氏名】多田 康崇
(72)【発明者】
【氏名】多賀 昇
(72)【発明者】
【氏名】増田 隆史
(57)【要約】
【課題】多重信号を中継する中継装置及び中継方法を提供すること。
【解決手段】実施形態に係る中継装置は、第1の電力レベルの第1の変調信号と第1の電力レベルとは異なる第2の電力レベルの第2の変調信号を含む多重信号を受信する受信部と、多重信号を復調する復調部と、復調部の出力を復号する復号部と、復号部の出力を符号化する符号部と、符号部の出力を変調する変調部と、復調部の出力から変調部の出力をキャンセルするキャンセル部と、キャンセル部の出力信号を送信する送信部と、を具備する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電力レベルの第1の変調信号と前記第1の電力レベルとは異なる第2の電力レベルの第2の変調信号を含む多重信号を受信する受信部と、
前記多重信号を復調する復調部と、
前記復調部の出力を復号する復号部と、
前記復号部の出力を符号化し、符号化信号を変調する変調部と、
前記復調部の出力から前記変調部の出力をキャンセルするキャンセル部と、
前記キャンセル部の出力信号を送信する第1の送信部と、を具備する中継装置。
【請求項2】
前記変調部の出力信号は、前記第1の変調信号に対応する信号である、請求項1に記載の中継装置。
【請求項3】
前記多重信号を増幅する増幅部と、
前記増幅部の出力信号を送信する第2の送信部と、をさらに具備する請求項1に記載の中継装置。
【請求項4】
前記キャンセル部の出力の値を判定する判定部をさらに具備し、
前記第1の送信部は、前記判定部の判定結果を示す信号を送信する、請求項1に記載の中継装置。
【請求項5】
前記判定部の判定結果を示す信号と前記変調部の出力信号を多重する多重部をさらに具備し、
前記第1の送信部は、前記多重部の多重結果を示す信号を送信する、請求項4に記載の中継装置。
【請求項6】
前記多重部は、前記判定部の判定結果を示す信号と前記変調部の出力信号を、互いに異なる電力レベルで多重し、
前記判定結果を示す信号の電力レベルと前記第2の変調信号の電力レベルとは異なり、
前記変調部の出力信号の電力レベルと前記第1の変調信号の電力レベルとは異なる、請求項5に記載の中継装置。
【請求項7】
前記判定部は、硬判定または軟判定により前記値を判定する、請求項4に記載の中継装置。
【請求項8】
前記判定部は、
前記第2の変調信号が誤り訂正符号化されている場合、前記軟判定により前記値を判定し、
前記第2の変調信号が誤り訂正符号化されていない場合、前記硬判定により前記値を判定する、請求項7に記載の中継装置。
【請求項9】
前記多重信号は、前記第2の変調信号が誤り訂正符号化されているか否かを示すフラグを含む、請求項8に記載の中継装置。
【請求項10】
少なくとも前記多重信号の一部の信号品質を測定する品質測定部をさらに具備し、
前記判定部は、
前記少なくとも前記多重信号の一部の信号品質が第1品質より悪い場合、前記軟判定により前記値を判定し、
前記少なくとも前記多重信号の一部の信号品質が第1品質より良い場合、前記硬判定により前記値を判定する、請求項7に記載の中継装置。
【請求項11】
第1の電力レベルの第1の変調信号と前記第1の電力レベルとは異なる第2の電力レベルの第2の変調信号を含む多重信号を受信し、
前記多重信号を復調し、
復調結果を示す信号を復号し、
復号結果を示す信号を符号化し、符号化信号を変調し、
前記復調結果を示す信号から変調結果を示す信号をキャンセルし、
キャンセル結果を示す信号を送信する、中継方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、無線信号の中継装置及び中継方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中継装置は、送信装置から送信された信号を受信し、受信した信号を処理し、処理後の信号を受信装置へ送信する。
【0003】
近年、周波数利用効率を向上させるために、2つの異なる信号を異なる電力で加算した階層多重信号を送信することにより、2つの異なる信号を同時刻に同帯域で送信する階層分割多重(Layered Division Multiplexing:LDM)方式が提案されている。この明細書では、階層多重信号を単に多重信号と呼ぶこともある。
【0004】
従来の中継装置は、LDM方式を考慮していないので、多重信号を正しく復調することができず、多重信号を中継することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-67123号公報
【特許文献2】特開2021-72614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、多重信号を中継する中継装置及び中継方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係る中継装置は、第1の電力レベルの第1の変調信号と第1の電力レベルとは異なる第2の電力レベルの第2の変調信号を含む多重信号を受信する受信部と、多重信号を復調する復調部と、復調部の出力を復号する復号部と、復号部の出力を符号化する符号部と、符号部の出力を変調する変調部と、復調部の出力から変調部の出力をキャンセルするキャンセル部と、キャンセル部の出力信号を送信する送信部と、を具備する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態に係るシステムの一例を説明するための概念図。
【
図2】第1の実施形態に係る中継器の一例を説明するためのブロック図。
【
図3】第1の実施形態に係る中継器の出力部の例を説明するためのブロック図。
【
図4】第1の実施形態に係るASK方式で変調された信号の時間波形の一例を示す図。
【
図5】第1の実施形態に係るASK方式で変調された信号の時間波形の他の例を示す図。
【
図6】第1の実施形態に係るLDM方式の階層多重の一例を説明するためのブロック図。
【
図7】第1の実施形態に係る階層多重信号の一例を説明するための図。
【
図8】第1の実施形態に係る第1の信号と第2の信号の一例を説明するための図。
【
図9】第1の実施形態に係る中継器の復調部における振幅調整後の受信信号の一例を説明するための図。
【
図10】第1の実施形態と比較例における送信機、中継器、受信機それぞれの各部で処理された信号の一例を示す図。
【
図11】第2の実施形態に係る中継器の一例を示すブロック図。
【
図12】第3の実施形態に係る中継器の一例を示すブロック図。
【
図13】第1の実施形態に係る送信機が送信する1個のOFDMセグメントの一例を説明するための図。
【
図14】第4の実施形態に係る中継器の一例を示すブロック図。
【
図15】第5の実施形態に係る中継器の一例を示すブロック図。
【
図16】第5の実施形態に係る中継器におけるコンスタレーションマップを示す図。
【
図17】第5の実施形態に係る尤度操作部134の動作の一例を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、実施形態を説明する。以下の説明は、実施形態の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、実施形態の技術的思想は、以下に説明する構成要素の構造、形状、配置、材質等に限定されるものではない。当業者が容易に想到し得る変形は、当然に開示の範囲に含まれる。説明をより明確にするため、図面において、各要素のサイズ、厚み、平面寸法又は形状等を実際の実施態様に対して変更して模式的に表す場合もある。複数の図面において、互いの寸法の関係や比率が異なる要素が含まれることもある。複数の図面において、対応する要素には同じ参照数字を付して重複する説明を省略する場合もある。いくつかの要素に複数の呼称を付す場合があるが、これら呼称の例はあくまで例示であり、これらの要素に他の呼称を付すことを否定するものではない。また、複数の呼称が付されていない要素についても、他の呼称を付すことを否定するものではない。なお、以下の説明において、「接続」は直接接続のみならず、他の要素を介した接続も含む場合もある。
【0010】
以下、図面を参照しながら本実施の形態について詳細に説明する。
【0011】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係るシステムの一例を説明するための概念図である。システムは、送信機12と中継器14と受信機16とを備える。送信機12は、符号化された送信信号を送信する。中継器14は、送信機12が送信した送信信号を受信し、受信信号を処理し、送信信号を生成し、送信信号を送信する。送信信号は、階層多重信号のうちの少なくとも一部の信号である。受信機16は、中継器14が送信した信号を受信する。
【0012】
送信機12が送信する信号は、無線信号である。この無線信号は、第1の信号と、第1の信号と電力レベルの異なる第2の信号との階層多重信号である。例えば、第1の信号の電力レベルは、第2の信号の電力レベルより大きい。
【0013】
送信機12と受信機16の間に複数の中継器14が配置されてもよい。1つの中継器14が送信した信号を他の中継器14が受信してもよい。
【0014】
図2は、第1の実施形態に係る中継器14の一例である中継器14aを説明するためのブロック図である。中継器14aは、受信アンテナ22、復調部24、復号部26、符号化・変調部28、キャンセル部30、及び出力部32を備える。符号化・復調部28は、符号化部と復調部に分かれていてもよい。
【0015】
復調部24は、受信アンテナ22から入力された無線信号を復調する。復調部24は、複数の部、例えば、帯域外の無線信号を除去するフィルタ部、無線信号のレベルを増幅するアンプ部、無線信号をベースバンド周波数のアナログ信号に変換するダウンコンバート部、ベースバンド周波数のアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換部、サンプルタイミング、または、シンボルタイミングを調整するタイミング同期処理部を含む。複数の部の処理は、記載した順番通り実行してもよいし、記載した順番と異なる順番で実行してもよい。
【0016】
復調部24は、階層多重信号を復調し、復調後の信号(例えば、タイミング同期処理部の出力信号)を復号部26に出力する。復調部24は、復調処理後の信号(例えば、タイミング同期処理部の出力信号)をキャンセル部30に出力する。復調部24は、復調処理途中の信号(例えば、A/D変換部の出力信号)をキャンセル部30に出力してもよい。
【0017】
復号部26は、復調部24から出力された信号を入力し、入力信号を第1の信号の符号化に対応する復号方法で復号し、復号した信号を符号化・変調部28に出力する。
【0018】
符号化・変調部28は、入力した信号を第1の信号の符号化方法で符号化し、符号化信号を第1の信号の変調方式で変調し、変調した符号化信号をキャンセル部30に出力する。第1の信号の電力レベルは、第2の信号の電力レベルと比べて十分大きいため、第1の信号を復調、復号する際に、第2の信号の中身がいかようであっても、第2の信号は雑音と同様にほとんど無視して復調、復号できるので、符号化・変調部28の出力は、第1の信号である。
【0019】
キャンセル部30は、復調部24から入力した階層多重信号から符号化・変調部28から入力した第1の信号に対応する信号をキャンセルする。このキャンセルによって、階層多重信号から第2の信号に対応する信号を取り出すために、符号化・変調部28からキャンセル部30に入力した第1の信号をレベル調整(
図6で後述するように、×β)してもよいし、キャンセル部30が含むバッファで入力した信号間のタイミングを調整してもよい。復調部24からキャンセル部への第2の信号の出力は、1クロック期間で可能である。しかし、第1の信号は、復号部26で復号し、符号化・変調部28で符号化と変調が行われる。この処理は数クロック期間を要する。復調部24からキャンセル部に入力した第2の信号を、その分だけ待たせる必要があるため、タイミングが調整される。なお、復調部24のタイミング同期処理は、受信信号をオーバーサンプリングし、その中から最適なサンプルタイミングを見つけるサンプルタイミング同期を指す。他の実施形態においては、GI付きの信号からシンボルタイミングを見つけるシンボルタイミング同期や、フレームの先頭を見つけるフレームタイミング同期を指すこともある。キャンセル部30は、キャンセルによって得た第2の信号に対応する信号を出力部32に供給する。
【0020】
出力部32は、キャンセル部30が出力した第2の信号に対応する信号を無線信号、または、光信号で送信する。中継器14aが送信する信号は、無線信号、または、光信号である。
【0021】
図3は、第1の実施形態に係る中継器14aの出力部32の例を説明するためのブロック図である。
【0022】
図3(a)に示す出力部32aは、変調部40と、送信アンテナ42を備える。変調部40は、複数の部、例えば、D/A変換部、アナログベースバンド信号をRF周波数に変換するアップコンバート部、帯域外の信号を除去するフィルタ部、無線信号のレベルを増幅するアンプ部を含む。送信アンテナ42は、無線信号を放射する。中継器14aが送信する無線信号の周波数は、送信機12が送信する無線信号の周波数と同じ周波数でもよいし、異なる周波数でもよい。
【0023】
図3(b)に示す出力部32bは、復号部46と光信号出力部48を備える。復号部46は、キャンセル部30が出力した信号を第2の信号の符号化に対応する復号方法で復号する。光信号出力部48は、復号部46が出力した信号を光信号に変換して出力する。このように中継器14aが受信信号を復調、復号してから中継すると、受信機16で復調、復号する必要がなくなる。中継器14aが出力部32bを備える場合、中継器14aと他の中継器14a、または中継器14aと受信機16は、光ファイバーにより接続される。光ファイバーによる信号の伝送では、信号の伝送品質の劣化が殆ど生じない。
【0024】
(中継器14aの動作)
中継器14aの具体的な動作を説明する。ここでは、送信機12の変調方式は振幅変調(Amplitude Shift Keying)方式である場合を説明する。
【0025】
図4は、第1の実施形態に係るASK方式で変調された信号の時間波形の一例を示す。
図4(a)は、振幅値が1である信号の時間波形の例を示す。
図4(b)は、振幅値が0である信号の時間波形の例を示す。シンボル長をtsとする。
図4(a)は、バイナリ1(0b1)の波形を表し、
図4(b)は、バイナリ0(0b0)の波形を表すとする。
図4は、振幅値が0と1の2値であり、1シンボルで伝送するビット数が1ビットの場合の例である。第1の信号と第2の信号の変調方式が共通の方式(ともにASK方式)であってもよいし、互いに異なる変調方式であってもよい。
【0026】
図5は、第1の実施形態に係るASK方式で変調された信号の時間波形の他の例を示す。
図5は、振幅値が0と0.33と0.67と1の4値であり、1シンボルで伝送するビット数が2ビットの場合の例である。
図5(a)は、バイナリ11(0b11)の波形を表し、
図5(b)は、バイナリ10(0b10)の波形を表し、
図5(c)は、バイナリ00(0b00)の波形を表し、
図5(d)は、バイナリ01(0b01)の波形を表すとする。
図5の符号化法は、グレイコードとも称される。
【0027】
図6は、第1の実施形態に係るLDM方式の階層多重の一例を説明するためのブロック図である。階層多重は、第1の信号生成部52と、第1の電力調整部54と、第2の信号生成部62と、第2の電力調整部64と、加算部56により実行される。第1の信号生成部52は、第1の信号を生成して、第1の信号を第1の電力調整部54に出力する。第1の電力調整部54は、入力した第1の信号の電力レベルを調整し、調整後の第1の信号を加算部56に出力する。第2の信号生成部62は、第2の信号を生成して、第2の信号を第2の電力調整部64に出力する。第2の電力調整部64は、入力した第2の信号の電力レベルを調整し、調整後の第2の信号を加算部56に出力する。加算部56は、入力した2つの信号を加算して、加算結果を示す階層多重信号を出力する。第1の電力調整部54は、入力信号にβを乗算する。第2の電力調整部64は、入力信号にαβを乗算する。αはスケーリング係数、βは正規化係数と称される。こではα<1とするが、これに限定されない。
【0028】
図7は、第1の実施形態に係る階層多重信号の一例を説明するための図である。第2の信号にはスケーリング係数αが乗算されているので、第2の信号の信号レベルは、第1の信号の信号レベルより低い。そのため、第1の信号は上位階層信号とも称され、第2の信号は下位階層信号とも称される。2つの階層信号の電力レベル比(第2の信号の電力レベルに対する第1の信号の電力レベルの割合)は、インジェクションレベルと称される。インジェクションレベルの例は、23dB又は15dBである。
【0029】
LDM方式の階層多重の一応用例は、サービス統合地上デジタル放送(Integrated Services Digital Broadcasting-Terrestrial:ISDB-T)方式と称される現行の地上デジタルテレビジョン放送の次世代規格で検討されている。LDM方式を利用することにより、次世代方式と現行方式の共存が可能である。
【0030】
一例として、ISDB-T方式に準拠する信号(以下、ISDB-T信号と称される)を第1の信号とし、ISDB-T方式を高度化させた次世代地上デジタルテレビジョン放送方式(例えば、4K8K方式、あるいはスーパーハイビジョン(SHV)方式)に準拠する信号(以下、SHV信号と称される)を第2の信号として階層多重信号を送信する。これにより、SHV信号に新たな周波数を割り当てることなく、SHV信号を送信することができる。
【0031】
なお、2つの階層の信号に限らず、3つ以上の階層の信号を多重してもよい。複数の異なる信号に限らず、複数の同じ信号を異なる電力で多重してもよい。例えば、階層多重信号はISDB-T信号を含まず、SHV信号が上位階層と下位階層で多重されてもよい。
【0032】
送信機12の符号化を説明する。符号化方式の一例は、リピティション方式である。0b1を3回リピティションして符号化すると、符号化信号は0b111となり、0b0を3回リピティションして符号化すると、符号化信号は0b000となる。0b11を3回リピティションして符号化すると、符号化信号は0b111111となり、0b10を3回リピティションして符号化すると、符号化信号は0b111000となり、0b00を3回リピティションして符号化すると、符号化信号は0b000000となり、0b01を3回リピティションして符号化すると、符号化信号は0b000111となる。
【0033】
中継器14a、または、受信機16で符号化信号を復号する場合、多数決判定で復号してもよい。例えば、符号化信号0b001を受信した場合、0b1よりも0b0のビット数が多いので、符号化信号0b001を0b0として復号する。
【0034】
図8は、第1の実施形態に係る第1の信号と第2の信号の一例を説明するための図である。
図8(a)は第1の信号生成部52が生成した時間波形の一例を示す。第1の信号の符号化は3回リピティションする方式とする。
図8(a)は、符号化前の第1の信号が0b101…、符号化後の第1の信号が0b111000111…となる信号を信号生成部52がASKで変調した場合である。
図8(b)は、第2の信号生成部62が生成した時間波形の一例を説明するための図である。第2の信号の符号化は5回リピティションする方式とする。
図8(b)は、符号化前の第2の信号が0b10…、符号化後の第2の信号が0b1111100000…となる信号をASKで変調した場合である。
図8(c)は、第1の信号と第2の信号が階層多重された信号の時間波形の一例を説明するための図である。
図8(c)の階層多重は、スケーリング係数α=0.1(振幅は0.1倍)、正規化係数β=1とした場合の階層多重である。電力調整後の第1の信号の振幅値は0.0、または、1.0であり、電力調整後の第2の信号の振幅値は0.0、または、0.1であるので、階層多重後のASK変調信号(
図8(c))の振幅値は、0.0、0.1、1.0、または、1.1である。送信機12は、
図8(c)に示す階層多重信号を送信する。
【0035】
図9は、第1の実施形態に係る中継器14aの復調部24における振幅調整された受信信号の一例を説明するための図である。
図9は、復調部24のアンプ部により振幅調整された信号を示す。振幅調整は、受信した信号の電力レベルを調整することである。無線信号は、後述するパイロット信号を含む。パイロット信号は既知信号である。アンプ部は、受信信号に含まれるパイロット信号の電力レベルが既知信号の電力レベルと一致するように、受信した信号の電力レベルを調整する。あるいは、送信機12で0b0と0b1が等確率で発生すると仮定し、受信した複数シンボルの値の平均値が0.55になるように調整してもよい。
【0036】
送信機12が送信した信号は、伝搬ロスによる減衰、伝送路におけるマルチパスの影響、または、中継器14aで発生する白色雑音(Additive White Guissian Noise:AWGN)の影響等により、中継器14aにより正しく受信されない場合がある。
図8(c)に示す送信信号の振幅は、1シンボル目から順に、1.1、1.1、1.1、0.1、0.1、0.0、1.0、…である。
図9に示す中継器14の復調部24の振幅調整後の信号の振幅は、1シンボル目から順に、1.1、1.1、1.1、0.6、0.1、0.0、1.0、…である。
図9の信号の4シンボル目(3ts<t<4ts)の振幅0.6は、送信信号(
図8(c))の4シンボル目の振幅0.1に対して変化している。
【0037】
復号部26は、復調部24のタイミング同期処理後の信号の振幅を、0と1のどちらか一方の近い値に判定(硬判定)する。タイミング同期処理後の信号の振幅は、
図9に示すように、1シンボル目から順に、1.1、1.1、1.1、0.6、0.1、0.0、1.0、…であるので、硬判定結果は、1シンボル目から順に、1、1、1、1、0、0、1、…である。復号部26は、さらにこの判定結果を3シンボル毎に多数決判定で復号する。復号結果は0b10…である。
【0038】
符号化・変調部28は、復号部26の出力をリピティション方式で符号化する。符号化信号は、0b111000…である。硬判定結果1、1、1、1、0、0、1、…と、符号化信号1、1、1、0、0、0、1、…は4シンボル目のビットが異なっている。硬判定結果の4シンボル目のビット1が符号化信号ではビット0に変更されている。符号化・変調部28は、この符号化信号をASK方式で変調する。変調結果は、振幅が1.0、1.0、1.0、0.0、0.0、0.0、…の無線信号である。変調結果は、第1の信号に対応する信号である。
【0039】
キャンセル部30は、復調部24のアンプ処理後の信号(
図9)から符号化・変調部28による変調結果をキャンセルし、振幅0.1、0.1、0.1、0.6、0.1、0.0、…のASK方式の変調信号を得る。この信号は、第2の信号に対応する信号である。
【0040】
出力部32は、この変調信号を無線信号、または光信号として送信する。
【0041】
出力部32が送信する信号の振幅は、0.1、0.1、0.1、0.6、0.1、0.0、…である。第2の信号の振幅は0.0と0.1であるので、受信機16は、その中間の0.05を基準として復号する。受信機16により復号結果は、1、1、1、1、1、0、0、…である。このため、受信機16は第1の実施形態に係る中継器14aから送信された信号に基づいて第2の信号を生成することができる。このように、中継器14aは、受信信号を復号し、符号化し、復調することにより、受信信号に含まれる変調信号の振幅の変化(信号品質の劣化)を補正(補償)することができる。なお、出力部32は、キャンセル部から入力した振幅を増幅して送信しても良い。例えば、振幅を10倍増幅し、振幅0.1を振幅1.0として、振幅0.0を振幅0.0として送信しても良い。
【0042】
(比較例)
比較例として、復号処理を実行せず、符号化・変調の代わりに変調処理のみを実行する中継器を想定する。比較例の中継器では、中継器14aの復号部26が省略され、符号化・変調部28の代わりに変調部が備えられている。また、復調部28は硬判定処理を行う硬判定処理部を含むこととする。比較例では、復調結果が変調され、この変調結果が復調部24の復調結果からキャンセルされる。
【0043】
比較例の復調部24のアンプ処理後の振幅調整された信号(
図9)の硬判定後の信号は、1シンボル目から順に、1、1、1、1、0、0、1、…である。変調部は、硬判定結果をASK方式で変調する。変調結果は、振幅が1.0、1.0、1.0、1.0、0.0、0.0、1.0、…の信号である。
【0044】
キャンセル部30は、復調部24のアンプ処理後の信号(
図9)から変調部による変調結果の信号をキャンセルし、振幅が0.1、0.1、0.1、0.0、0.1、0.0、…のASK方式の変調信号を得る。このASK方式の変調信号の4番目のシンボルは、0.6-1.0=-0.4であるが、振幅にマイナスは無いので、0.0としている。キャンセル部30から出力される信号の振幅は、0.0と0.1であるので、その中間の0.05を復号の基準とすると、振幅が0.1、0.1、0.1、0.0、0.1、0.0、…のASK方式の変調信号は受信機16において、1、1、1、0、1、0、…として復号される可能性が高い。中継器が送信する信号がすでに誤りを含むので、受信機16における受信性能は劣化する。
【0045】
図10は、第1の実施形態と比較例における送信機、中継器、受信機それぞれの各部で処理された信号の一例を示す。
【0046】
第1の実施形態に係る中継器14aにおいて、キャンセル部30は、階層多重信号から第1の信号に対応する信号をキャンセルすることにより、第2の信号に対応する信号を精度よく生成することができる。復号部26は、第1の信号に対応する信号のみ復号してから生成している。第1の実施形態に係る中継器14aによれば、第1の信号に対応する信号と第2の信号に対応する信号の両信号を復号してから生成する場合に比べて、中継に要する時間を短くすることができる。もし、中継器14aから復号部26と符号化・変調部28が省略されれば、中継時間はさらに短くなるが、キャンセル部30が出力する第2の信号に対応する信号の精度は低い。
【0047】
第1の実施形態に係る中継器14aは、階層多重信号の中の下位階層信号を高品質で中継することができる。
【0048】
[第2の実施形態]
図11は、第2の実施形態に係る中継器14bの一例を示すブロック図である。中継器14bが中継器14aと違う点は、アンプ部102と出力部32aが追加されている点である。
【0049】
受信アンテナ22で受信した階層多重信号は、復調部24とアンプ部102に出力される。アンプ部102は階層多重信号の電力レベルを増幅して、出力部32aへ出力する。出力部32aは、増幅された階層多重信号を無線信号として送信する。
【0050】
中継器14bは、アンプ部102を介して階層多重信号を中継することにより、復調部24、復号部26、符号化・変調部28、キャンセル部30等で生じる遅延が無い低遅延の中継をすることができる。また、中継が低遅延なので、受信機16は、低遅延で階層多重信号を受信することができる。
【0051】
アンプ部102は、電力レベルを増幅するので、受信機16は、階層多重信号を比較的大きな電力レベルで受信することができる。受信機16は、階層多重信号から第1の信号を得ることはできる。第1の信号は第2の信号に比べて電力レベルがかなり大きいので、第2の信号に比べると、信号品質の劣化は殆どない。
【0052】
中継器14bは、中継器14aと同様に第2の信号に対応する信号を出力部32から送信するので、受信機16は、信号品質が劣化していない第2の信号を得ることができる。
【0053】
受信機16は、送信機12が送信し、中継器14bを介していない階層多重信号(ダイレクト信号)と、送信機12が送信し、中継器14bを介した階層多重信号(中継信号)をほぼ同時に受信できる。ほぼ同時とは、両信号の時間差をΔtとした場合、Δt<ts(シンボル長)を意味する。受信機16は、同一の情報(階層多重信号)を同じタイミングで送信機12と中継器14bの両方から受信できる。すなわち、受信機16の受信性能の改善が期待できる。
【0054】
ただし、受信機16の位置によっては、中継器14bからの送信信号しか受信できず、かつ、電波伝搬の減衰や白色雑音(AWGN)によって第1の信号は正しく復調できるが、第2の信号は正しく復調できないという場合も考えられる。そのような場合、中継器14bの出力部32がキャンセル部30の出力信号を、第1の信号とは異なる周波数で送信すれば、受信機16は、第2の信号を受信することができる。あるいは、中継器14bの出力部32がキャンセル部30の出力信号を光ファイバーを介して受信機16へ送信すれば、受信機16は、第2の信号を受信することができる。なお、受信機が受信した中継器14bの送信信号と送信機12の送信信号の周波数が異なる場合は、それらの時間差がシンボル長を超えていても混信することは無い。
【0055】
第2の実施形態に係る中継器14bは、下位階層信号を高品質で中継することができ、上記階層信号を低遅延で中継することができる。
【0056】
[第3の実施形態]
図12は、第3の実施形態に係る中継器14cの一例を示すブロック図である。中継器14cが中継器14aと違う点は、判定部106と選択部108が追加されている点である。
【0057】
キャンセル部30は、第2の信号(下位階層信号)に対応する信号を、判定部106と選択部108に出力する。判定部106は、硬判定部112と軟判定部114を備える。判定部106は、第2の信号に対応する信号の振幅が0、または、1であるかを硬判定、または、軟判定により決定する。選択部108は、硬判定部112と軟判定部114のいずれかを選択する。判定部106は、判定結果を出力部32へ出力する。
【0058】
第1の信号に対応する信号の振幅が変化した場合、第2の信号に対応する信号の振幅は正しい振幅から大きくずれている。振幅が大きくずれたまま第2の信号に対応する信号を中継するよりも、第2の信号に対応する信号を軟判定、または、硬判定により決定してから中継した方が中継後の信号を受信する受信機16において、受信性能の改善が期待できる。
【0059】
なお、出力部32と受信機16が光ファイバーで接続される場合、判定部106は省略可能である。受信機16は、判定部を備えているので、光ファイバーの伝送による通信品質の劣化が無い場合、中継器の判定部が判定を行っても、受信機の判定部が判定を行っても、同様の判定結果が期待できる。
【0060】
送信機12は、第1の信号を誤り訂正符号化する。送信機12は、第2の信号を誤り訂正符号化する場合と、しない場合がある。
【0061】
第2の信号が誤り訂正符号化されていない場合、判定部106が硬判定により振幅を決定する方が、軟判定により振幅を決定するよりも、受信機16における受信性能が良い。受信機16で受信する信号は、送信機12と中継器14c間で発生したノイズや歪の影響と中継器14cと受信機16間で発生したノイズや歪の影響の両方を受ける。硬判定は、これらのノイズや歪の影響を低減できる。ただし、軟判定もこれらのノイズを低減できる。低減する度合いが軟判定よりも硬判定の方が大きいだけである。
【0062】
一方、第2の信号が誤り訂正符号化されている場合、判定部106が軟判定により振幅を決定する方が、硬判定により振幅を決定するよりも、受信機16における受信性能が良い場合がある。中継器14cが軟判定により振幅を決定した場合、誤差が生じる可能性があるが、受信機16は、復号処理において、その誤差を訂正できる。中継器14cが硬判定により振幅を決定する場合、真の値(送信機12が送信した値)とは異なる値に判定(誤判定)される可能性がある。誤判定は、判定境界を超えた場合にされる。ASK変調方式の場合、送信側と受信側は、振幅0なら0b0、振幅1なら0b1とすることを予め共有する。受信側では、AWGNなどの影響により、振幅の値は、振幅0と振幅1だけでなく、0.1,0.45,0.55,1.1などの値をとる。それぞれの振幅の値が、0b0なのか、0b1なのかが判定される。通常の判定では、0と1の真ん中である0.5を境界として0.5より小さければ0b0と、そうでなければ0b1と判定される。復号などの処理をしなければ、受信側は、判定後の0b0、または0b1が正しいのか誤判定なのかわからない。送信側で0b0(振幅0)とした信号が受信側で境界の0.5を超えて受信すると0b1と判定され、誤判定となる。軟判定では、判定境界を超えた場合の誤判定の悪影響が低減される。軟判定によって誤判定の影響を低減し、受信機16において誤り訂正復号することにより、正しい信号を得ることができる可能性がある。
【0063】
選択部108は、第2の信号が誤り訂正符号化されているか否かを、キャンセル部30の出力信号に基づいて、判定する。選択部108は、判定結果に応じて、硬判定部112と軟判定部114のいずれかを選択する。選択部108は、第2の信号を誤り訂正符号化したか否かを示すフラグの情報を得るために、必要な処理を行っても良い。別の例としては、第2の信号を誤り訂正符号化したか否かを示すフラグを第1の信号から得ても良いし、別の手段で得ても良い。
【0064】
送信機12は、第2の信号を誤り訂正符号化したか否かを示すフラグを多重信号に含めて送信することができる。
【0065】
送信機12は、信号変調方式の一例として、直交周波数分割多重(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:OFDM)変調を利用する。
図13は、第3の実施形態に係る送信機12が送信する1個のOFDMセグメントの一例を説明するための図である。
図13の例では、1個のOFDMセグメントは432個のキャリアを含む。OFDMセグメントのキャリア数はこの例に限らず、108個又は216個のキャリアを含むこともある。432個のキャリアは纏めてシンボルグループと称される。周波数方向に連続する13個のOFDMセグメントは1OFDMシンボルと称される。すなわち、1OFDMシンボルは、5616(=13×432)キャリアである。時間方向に連続する204個のOFDMシンボルはOFDMフレームと称される。
【0066】
送信機12は、OFDMセグメントにパイロット信号を挿入する(432キャリアの一部をパイロット信号とする)。パイロット信号は既知信号である。OFDMセグメントにパイロット信号が挿入されることにより、受信側装置は、受信したパイロット信号を既知の信号と比較することにより伝搬路の周波数特性を推定することができる。受信側装置は、推定結果に応じて伝搬路の周波数特性を補正することにより、伝搬路の周波数特性の劣化を補償することができる。伝搬路の周波数特性が劣化すると、伝送データが誤る可能性がある。伝搬路の周波数特性の劣化を補償すると、伝送誤りを減らすことができる。
【0067】
パイロット信号は、周波数方向(キャリア方向)に分散して挿入されるスキャッタードパイロット信号(SP信号と称される)と、OFDMセグメント以外の伝送帯域内の周波数で時間方向に連続して挿入されるコンティニュアルパイロット信号(連続パイロット信号、CP信号とも称される)を含む。なお、SP信号は時間方向(シンボル方向)にも分散して挿入されてもよい。
【0068】
CP信号が使われる場合、1OFDMシンボルは5617キャリアである。Si,j(i=0~383、j=0~203)は、SP信号などを除くキャリアを表わす。
【0069】
SP信号が使われる場合、送信機12は、12個のキャリア毎に1個のSP信号をOFDMセグメントに挿入する。周波数方向におけるSP信号の挿入周期は、第1周期(12個のキャリア)である。送信機12は、時間(シンボル番号)方向において、4個のキャリア毎に1個のSP信号を挿入する。時間方向におけるSP信号の挿入周期は、第2周期(4個のキャリア)である。
【0070】
なお、SP信号が挿入されるキャリアのキャリア番号は、数シンボルグループ毎に同じでも構わない。例えば、シンボル番号4のシンボルグループについては、シンボル番号0のシンボルグループの場合と同様に、キャリア番号0、12、…のキャリアにSP信号が挿入される。
【0071】
送信機12は、さらにTMCC(Transmission and Multiplexing Configuration Control)信号とAC(Auxiliary Channel)信号もOFDMセグメントに挿入する。
【0072】
TMCC信号は、制御情報を伝送するための信号である。制御信号は、階層構成やOFDMセグメントの伝送パラメータ等、受信装置の復調と復号動作を補助する情報である。制御情報は、システム識別、伝送パラメータ切替指標、起動制御信号(緊急警報放送用起動フラグ)、カレント情報、ネクスト情報等を含む。カレント情報は各階層信号の現在の伝送パラメータを示し、ネクスト情報は各階層信号の切り替え後の伝送パラメータを示している。ネクスト情報は、切り替えカウントダウン前において任意の時刻に設定、或いは変更ができるが、カウントダウン中は変更できない。
【0073】
カレント・ネクスト情報に含まれる各階層信号の伝送パラメータ情報は、キャリア変調マッピング方式を表す。例えば、伝送パラメータ情報“001”はQPSK方式を表し、伝送パラメータ情報“010”は16QAM方式を表し、伝送パラメータ情報“011”は64QAM方式を表し、伝送パラメータ情報“111”は当該階層が未使用であること、またはネクスト情報が存在しないことを表す。送信装置は、伝送パラメータ情報をTMCC信号以外に信号、例えばAC信号に含めて中継装置へ送信してもよいし、チャンネル推定のためのパイロット信号以外の制御情報のいずれかに含めて送信してもよい。
【0074】
AC信号は放送に関する付加情報を伝送するための拡張用信号である。付加情報は、変調波の伝送制御に関する付加情報、または地震動警報情報である。送信機12は、第2の信号が誤り訂正符号化されているか否かを示す符号化フラグをAC信号に含ませる。送信装置は、符号化フラグをAC信号以外の信号、例えばTMCC信号に含めて送信してもよいし、チャンネル推定のためのパイロット信号以外の制御情報のいずれかに含めて送信してもよい。
【0075】
TMCC信号とAC信号のキャリアは、マルチパスによる伝搬路特性の周期的な歪みの影響を軽減するために、周波数方向にランダムに配置されている。
【0076】
選択部108は、キャンセル部30から出力されるOFDMフレームを復調し、復調信号を復号し、符号化フラグを検出する。選択部108は、検出した符号化フラグに基づいて硬判定部112、または、軟判定部114を選択する。
【0077】
選択部108は、キャンセル部30の出力信号に含まれる情報に基づくのではなく、任意の基準に従って硬判定部112、または、軟判定部114を選択する選択情報を記憶するメモリを備え、選択情報に基づいて、硬判定部112、または、軟判定部114の選択を決定してもよい。中継器14cはメモリに選択情報を書き込むための入力部を備え、中継器14cのユーザが選択情報を書き換えてもよい。
【0078】
第3の実施形態に係る中継器14cにおいて、判定部106は、キャンセル部30により得られた下位階層信号に対応する信号を下位階層信号が誤り訂正符号化されているか否かに応じて硬判定又は軟判定し、出力部32は判定結果を示す信号を送信するので、下位階層信号を高品質で中継することができる。
【0079】
[第4の実施形態]
図14は、第4の実施形態に係る中継器14dの一例を示すブロック図である。中継器14dが中継器14cと違う点は、多重部122が追加されている点である。
【0080】
判定部106は、第2の信号(下位階層信号)に対応する信号の判定結果を多重部122に出力する。符号化・変調部28は、変調後の第1の信号に対応する信号をキャンセル部30に出力するとともに、多重部122にも出力する。多重部122は、入力した第1の信号に対応する信号と判定後の第2の信号に対応する信号を多重する。多重部122は、第1の信号に対応する信号と第2の信号に対応する信号の多重信号を出力部32へ出力する。出力部32は、多重信号を無線、または、光信号で送信する。
【0081】
多重部122は、第1の信号に対応する信号と第2の信号に対応する信号のタイミングを合わせるために、第1の信号に対応する信号を記憶するバッファと第2の信号に対応する信号を記憶するバッファを備えていてもよい。復調部24が、キャンセル部30に出力する信号と復号部26に出力する信号に同じインジケータを付加する。多重部122は、入力した第1の信号に対応する信号に付加されているインジケータと第2の信号に対応する信号に付加されているインジケータに基づいて、2つの信号を多重するタイミングを調整する。
【0082】
多重部122は、第1の信号に対応する信号と第2の信号に対応する信号のレベルを調整するために、レベル調整機能を備えていてもよい。例えば、判定部106が判定後の出力を正規化し、符号化・変調部28が変調後の出力を正規化している場合、判定部106からの入力を
図6の第1の電力調整部54と同様な回路で電力調整し、符号化・変調部28からの入力を
図6の第2の電力調整部64と同様な回路で電力調整し、多重してもよい。
【0083】
多重部122が電力調整に用いるスケーリング係数αと正規化係数βの値は、送信機12の第2の電力調整部64が用いるスケーリング係数αと第1の電力調整部54が用いる正規化係数βの値と異なる値でもよい。例えば、中継器14dを経由して受信する受信機16の地理的な範囲が限定されていて、中継器14dを経由する信号の信号対雑音電力比(SNR)が比較的高いことが想定される場合、受信機16は、第1の信号を高品質で受信できることが予想される。その場合、送信機12のスケーリング係数αよりも中継器14dのスケーリング係数αを大きく(インジェクションレベルを小さく)設定してもよい。このようにすると、第1の信号の通信品質を一定以上に保ちつつ、第2の信号を受信できる可能性を広げることができる。
【0084】
第4の実施形態に係る中継器14dは、多重部122を備えるので、受信した階層多重信号から生成した高品質の階層多重信号を中継できる。
【0085】
[第5の実施形態]
図15は、第5の実施形態に係る中継器14eの一例を示すブロック図である。中継器14eが中継器14dと違う点は、判定部106に含まれる機能ブロックを明示的に示した点と、選択部108を判定部106b内に含めた点と、復調部24aから判定部106bに含まれる信号品質測定部146への信号の送信が追加された点である。
【0086】
復調部24aは、受信アンテナ22から入力した無線信号を復調する。復調部24aは、復調部24と同じでもよいが、ここでは、復調部24と異なるとする。復調部24aは、複数の部、例えば、帯域外の無線信号を除去するフィルタ部、無線信号のレベルを増幅するアンプ部、無線信号をベースバンド周波数のIチャネルとQチャネルの信号に変換する直交復調部、ベースバンド周波数のアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換部、シンボルタイミングを調整するタイミング同期処理部、時間領域の信号を周波数領域の信号に変換するFFT部、伝送路の歪を補正する等化部を含む。
【0087】
判定部106bは、尤度計算部132と、尤度操作部134と、ビット確率計算部136と、シンボル確率計算部138と、軟レプリカ生成部140と、雑音電力計算部144と、信号品質測定部146を備える。
【0088】
復調部24aは、階層多重信号を復調し、復調後の信号(例えば、等化部の出力信号)を復号部26とキャンセル部30に出力する。
【0089】
図13を参照して説明したように、OFDMセグメントにパイロット信号が挿入される。復調部24aの等化部は、OFDMセグメントからパイロット信号を取り出し、取り出したパイロット信号を既知の信号と比較することにより伝搬路の周波数特性を推定し、推定した周波数特性に応じて受信信号を処理し、伝送路の歪を補正する。等化部は、周波数特性の推定結果を信号品質測定部146に供給する。
【0090】
キャンセル部30は、復調部24aの出力から符号化・変調部28の出力をキャンセルして得た第2の信号(下位階層信号)に対応する信号を尤度計算部132と雑音電力計算部144に出力する。
【0091】
雑音電力計算部144は、第2の信号に対応する信号に含まれる雑音電力を計算し、計算した雑音電力を尤度計算部132と信号品質測定部146に出力する。
【0092】
尤度計算部132は、キャンセル部30から第2の信号に対応する信号を入力し、雑音電力計算部144から雑音電力を入力し、ビット毎の対数尤度比(Log-Likelihood Ratio:LLR)を計算する。尤度計算部132は、計算したLLRを尤度操作部134に出力する。
【0093】
信号品質測定部146は、雑音電力計算部144から入力した雑音電力と復調部24aから入力した周波数特性の情報から第2の信号の信号品質を測定する。信号品質測定部146は、測定した信号品質を尤度操作部134に出力する。
【0094】
尤度操作部134は、尤度計算部132からLLRを入力し、信号品質測定部146から信号品質を入力する。尤度操作部134は、予め記憶している複数の尤度操作関数の中から信号品質に基づいて一つの尤度操作関数を選択する。尤度操作部134は、選択した尤度操作関数を用いてLLRを変更し、変更後の新たなビット毎のLLRを出力する。
【0095】
ビット確率計算部136は、尤度操作部134からLLRを入力し、ビット毎のビット確率を計算し、ビット確率を出力する。
【0096】
シンボル確率計算部138は、ビット確率計算部136からビット確率を入力し、コンスタレーションマップ上に予め設定された信号点の確率を計算し、信号点毎の確率を集計してシンボル確率を計算する。シンボル確率計算部138は、計算したシンボル確率を軟レプリカ生成部140に出力する。
【0097】
軟レプリカ生成部140は、シンボル確率を入力し、第2の信号に対応する信号である軟レプリカを生成し、多重部122に出力する。
【0098】
多重部122は、軟レプリカと、符号化・変調部28から変調後の第1の信号に対応する信号を入力する。多重部122は、入力した第1の信号に対応する信号と軟レプリカ(第2の信号に対応する信号)を多重して出力する。
【0099】
尤度操作部134は、信号品質測定部146で測定した信号品質が或る基準品質より悪い場合、判定部106bが軟判定処理、または、これに近い処理を行うような尤度操作関数を選択する。
【0100】
一方、尤度操作部134は、信号品質が基準品質より良い場合、判定部106bが硬判定処理、または、これに近い処理を行うような尤度操作関数を選択する。この明細書では、硬判定によって生成されたレプリカも軟レプリカと称する。
【0101】
これにより、信号品質が悪い場合には、尤度操作部134は、尤度計算部132が計算したLLRを、ノイズなどの影響がほとんど除去されることなくそのまま重畳された信号から計算されたLLRに変更する。また、信号品質が良い場合には、尤度操作部134は、尤度計算部132が計算したLLRを、ノイズなどの影響がほとんど除去された信号から計算されたLLRに変更する。
【0102】
このように変更されたLLRに基づいて生成された第2の信号に対応する信号と、符号化・変調部28から変調後の第1の信号に対応する信号が多重部122におり階層多重され、送信される。受信機16は、高品質な階層多重信号を受信することができる。
【0103】
(中継器14eの具体動作)
送信機12が送信する第1の信号の一次変調方式をQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)方式、第2の信号の一次変調方式を16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)方式、第1の信号と第2の信号の2次変調方式をOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)方式として、中継器14eの動作を具体的に説明する。
【0104】
図16(a)は、第1の信号をQPSK方式で変調した場合の信号点の配置を示すコンスタレーションマップである。
図16(b)は、第2の信号を16QAMで変調した場合の信号点の配置を示すコンスタレーションマップである。
図16(c)は、第1の信号と第2の信号を階層多重した信号の信号点の配置を示すコンスタレーションマップである。階層多重する方法に関しては、
図6と同様に多重してもよい。
【0105】
送信機12は、階層多重した信号をシリアル/パラレル変換し、IFFT処理し、ガードインターバル(GI)を付加し、OFDMで2次変調した信号を生成し、送信する。
【0106】
雑音電力計算部144は、入力した第2の信号に対応する信号に含まれる雑音電力を計算する。第2の信号が16QAMで変調されている場合、入力したシンボルの信号点と、入力したシンボル信号点と最も近いコンスタレーションマップ上の信号点との距離の2乗を計算する。この2乗した値が雑音電力である。雑音電力計算部144は、複数の入力シンボル信号点から計算した複数の雑音電力の平均値を雑音電力として計算してもよい。
【0107】
尤度計算部132は、第2の信号に対応する信号と雑音電力を用いてビット毎のLLRを計算する。1シンボルは複数ビットのデータを伝送するとする。尤度計算部132は、1シンボルのk番目のビットのLLRを式1により計算する。
【数1】
ここで、y
I、y
Qは、受信シンボルのk番目のビットのI成分、Q成分を示す。x
j,I、y
j,Qは、j番目の送信シンボルのI成分、Q成分を示す。σ
2は中継器14eで推定される雑音分散である。J
k,0は、コンスタレーションマップ上の信号点の中のk番目のビットが0である信号点の集合である。J
k,1はコンスタレーションマップ上の信号点の中でk番目のビットが1である信号点の集合である。
【0108】
信号品質測定部146は、雑音電力を入力し、周波数特性の情報を入力する。周波数特性の情報とは、パイロットサブキャリアなどによって推定された各サブキャリアの伝送路の周波数特性を表す値(複素数)である。各サブキャリアの伝送路の周波数特性を表す値の絶対値が大きいほどそのサブキャリアの信頼性は高くなる。n番目のサブキャリアの伝送路の周波数特定(複素数)をfnとすると、信号品質測定部146は、信号品質Qを式2のように測定する。
【0109】
Q=(|fn|2)/σ2 式2
信号品質測定部146は、測定した信号品質を尤度操作部134に出力する。
【0110】
尤度操作部134は、尤度計算部132からLLRを入力し、信号品質測定部146から信号品質を入力する。尤度操作部134は、入力した信号品質と予め設定されたしきい値を比較し、しきい値の方が高かった場合、判定部106bが軟判定処理、または、これに近い処理を行うような尤度操作関数g1(x)を選択する。尤度操作部134は、入力した信号品質と予め設定されたしきい値を比較し、信号品質の方が高かった場合、判定部106bが硬判定処理、または、これに近い処理を行うような尤度操作関数g2(x)を選択する。
【0111】
尤度操作部134は、LLRを入力xとし、尤度操作関数g1(x)、または、g2(x)で得られた値を変更後の新たなLLRとして出力する。
【0112】
図17は、第5の実施形態に係る尤度操作部134の動作の一例を説明するための図である。
図17(a)は、尤度操作関数g
1(x)の一例を説明するための図である。尤度操作関数g
1(x)は、LLRの下限を-aに制限(リミッタ処理)し、LLRの上限を+aに制限する関数である。尤度操作関数g
1(x)は、-a≦x≦+aの場合は、入力xをそのまま出力し(g
1(x)=x)、x<-aの場合は、出力を-aに固定し(g
1(x)=-a)、x>+aの場合は、出力を+aに固定する(g
1(x)=a)。
【0113】
図17(b)は、尤度操作関数g
2(x)の一例を説明するための図である。尤度操作関数g
2(x)は、-b≦x≦+bの場合は、入力xに傾きa/bを乗算した値を出力し(g
2(x)=(a/b)x)、x<-bの場合は、出力を-aに固定し(g
2(x)=-a)、x>+bの場合は、出力を+aに固定する(g
2(x)=a)。ここで、0<b<aである。
【0114】
k番目のビット確率Pk(0)とPk(1)は、Pk(0)+Pk(1)=1である。ビット確率計算部136は、尤度操作関数により変更されたLLRkを用いてビット確率Pk(0)、Pk(1)を式3、式4により計算する。
【0115】
P
k(0)=exp(LLR
k)/(1+exp(LLR
k)) 式3
P
k(1)=1/((1+exp(LLR
k)) 式4
シンボル確率計算部138は、シンボルが表すビット系列に応じてシンボル確率を式5により計算する。
【数2】
ここで、vは1つのシンボルが表すビット数を示し、b
j(k)は任意の信号点x
jが表すビット系列のk番目のビットを示す。
【0116】
軟レプリカ生成部140は、シンボル確率Q(x
j)を用いて式6、式7により軟レプリカの位置(I座標、Q座標)を計算する。
【数3】
なお、尤度操作関数における判定の度合いを判定率と称する。判定率は、判定が硬判定に近いほど高いとする。例えば、
図17(a)における-a<x<+aの範囲の尤度操作関数g1(x)の傾き、または、
図17(b)における-b<x<+bの範囲の尤度操作関数g2(x)の傾きをcとした場合、cの値を判定率としてもよい。あるいは、リミットされないxの範囲の幅をdとした場合、1/dとの値を判定率としてもよい。例えば、
図17(a)の場合、リミットされないxの範囲の幅は2a(-a<x<+a)であるため1/d=1/(2a)である。同様に、
図17(b)の場合、リミットされないxの範囲の幅は2b(-b<x<+b)であるため1/d=1/(2b)である。
【0117】
信号品質に応じて尤度操作関数を変えることができるので、信号品質に応じた判定率で判定することができる。その結果、受信機16における受信性能の向上が期待できる。
【0118】
第5の実施形態に係る中継器14eは、キャンセル部30により得られた下位階層信号に対応する信号を下位階層信号の信号品質に応じて硬判定又は軟判定し、判定結果を示す信号と上位階層信号に対応する信号と階層多重することにより、階層多重信号を高品質で中継することができる。
【0119】
第4の実施形態に係る中継器14dと第5の実施形態に係る中継器14eは多重部122を備えるが、他の中継器14に信号を中継する場合、階層多重信号を送信する。中継器14dと中継器14eは受信機16に信号を中継する場合、階層多重信号を送信してもよいし、下位階層信号に対応する信号を送信してもよい。
【0120】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0121】
12…送信機、14…中継器、16…受信機、22…受信アンテナ、24…復調部、26…復号部、28…符号化・変調部、30…キャンセル部、32…出力部、40…変調部、44…復調部、46…復号部、48…光信号出力部