(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176573
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】半導体レーザ装置
(51)【国際特許分類】
H01S 5/02355 20210101AFI20231206BHJP
【FI】
H01S5/02355
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088923
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕隆
(72)【発明者】
【氏名】坂井 繁太
(72)【発明者】
【氏名】萩元 将人
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173MC05
5F173MC12
5F173MD51
5F173MD65
5F173MD84
(57)【要約】
【課題】信頼性を改善した半導体レーザ装置を提供する。
【解決手段】半導体レーザ装置200Aは、サブマウント210と、サブマウント210に対してジャンクションダウン実装された端面発光型の半導体レーザチップ100Aを備える。半導体レーザチップ100Aの積層成長層120には、m個(m≧1)のレーザ共振器102が形成されている。ビームの出射方向をz軸、半導体基板110の厚さ方向をy軸、z軸およびy軸と直交する方向をx軸ととるとき、x軸方向に関して、m個のレーザ共振器102は、半導体基板110の第1面S1の中心xpから見て半導体基板110の第2面S2の中心xnと反対側に存在する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体レーザ装置であって、
サブマウントと、
前記サブマウントに対して、ジャンクションダウン実装された端面発光型の半導体レーザチップと、
を備え、
前記半導体レーザチップは、
半導体基板と、
前記半導体基板の第1面に形成される第1導電型クラッド層、発光層、第2導電型クラッド層を含む積層成長層であって、m個(m≧1)のレーザ共振器が形成されている積層成長層と、
前記m個のレーザ共振器と接続されるm個のP電極と、
前記半導体基板の第2面に形成されるN電極と、
を有し、
ビームの出射方向をz軸、前記半導体基板の厚さ方向をy軸、z軸およびy軸と直交する方向をx軸ととるとき、
前記x軸方向に関して、前記m個のレーザ共振器は、前記半導体基板の前記第2面の中心の直下を除く領域に存在することを特徴とする半導体レーザ装置。
【請求項2】
前記半導体基板は、前記第1面とのなす角度が鋭角である第1ペレタイズ面および前記第1面とのなす角度が鈍角である第2ペレタイズ面を有する傾角基板であり、
前記x軸方向に関して、前記m個のレーザ共振器の位置は、前記第1面の中心よりも、前記第1ペレタイズ面側であることを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ装置。
【請求項3】
前記m個のレーザ共振器のうち、前記第1ペレタイズ面に最も近いレーザ共振器の位置は、前記N電極の前記第1ペレタイズ面側の端よりも、前記第1ペレタイズ面側であることを特徴とする請求項2に記載の半導体レーザ装置。
【請求項4】
前記半導体レーザチップの側面は、前記サブマウントに近い第1部分において、前記サブマウントに対して実質的に垂直であり、前記サブマウントから遠い第2部分において、傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ装置。
【請求項5】
前記半導体レーザチップの側面は、前記第1部分において、絶縁層によって覆われていることを特徴とする請求項4に記載の半導体レーザ装置。
【請求項6】
前記半導体レーザチップの側面の前記絶縁層は、金属層によって覆われていることを特徴とする請求項5に記載の半導体レーザ装置。
【請求項7】
前記半導体レーザチップは、
前記m個のP電極と隣接しており、前記第2面の中心を含む領域に形成される幅広電極をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ装置。
【請求項8】
m≧2であり、前記P電極の幅は、前記レーザ共振器ごとに異なることを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体レーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高出力な端面発光型レーザとして、リッジストライプ型のレーザ共振器を備える半導体レーザが広く使用されている。
【0003】
特許文献1や特許文献2には、半導体レーザチップをサブマウントにジャンクションダウン実装する技術が開示される。特許文献1には、幅の狭い傾角基板を用いる半導体レーザ装置において、半導体レーザチップとサブマウントの良好な接合を実現するために、発光部を、ダイボンディングの荷重の直下に近づくようにオフセットして配置する技術が開示される。特許文献2には、発光部を、半導体レーザチップの中央に配置する技術が開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-59620号公報
【特許文献2】特開2010-245207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、特許文献1や特許文献2に記載される半導体レーザ装置について検討した結果、以下の課題を認識するに至った。特許文献1や特許文献2では、ジャンクションダウン実装の際のダイボンディングの荷重が、発光部、すなわちレーザ共振器に加わるため、信頼性が低下するおそれがある。なお、この問題を当業者の一般的な認識として把握してはならず、本発明者らが独自に認識したものである。
【0006】
本開示のある態様はかかる状況においてなされたものであり、その例示的な目的のひとつは、信頼性を改善した半導体レーザ装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のある態様は、半導体レーザ装置に関する。半導体レーザ装置は、サブマウントと、サブマウントに対して、ジャンクションダウン実装された端面発光型の半導体レーザチップと、を備える。半導体レーザチップは、半導体基板と、半導体基板の第1面に形成される第1導電型クラッド層、発光層、第2導電型クラッド層を含む積層成長層であって、m個(m≧1)のレーザ共振器が形成されている積層成長層と、m個のレーザ共振器と接続されるm個のP電極と、半導体基板の第2面に形成されるN電極と、を有する。ビームの出射方向をz軸、半導体基板の厚さ方向をy軸、z軸およびy軸と直交する方向をx軸ととるとき、x軸方向に関して、m個のレーザ共振器は、半導体基板の第2面の直下を除く領域に存在する。さらに好ましくは、半導体基板の第1面の中心から見て、半導体基板の第2面の中心と反対側に存在する。
【0008】
なお、以上の構成要素を任意に組み合わせたもの、構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明あるいは本開示の態様として有効である。さらに、この項目(課題を解決するための手段)の記載は、本発明の欠くべからざるすべての特徴を説明するものではなく、したがって、記載されるこれらの特徴のサブコンビネーションも、本発明たり得る。
【発明の効果】
【0009】
本開示のある態様によれば、半導体レーザ装置の信頼性を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1に係る半導体レーザ装置の断面図である。
【
図2】変形例1に係る半導体レーザ装置の断面図である。
【
図3】変形例2に係る半導体レーザ装置の断面図である。
【
図4】レーザ共振器の位置xcを説明する図である。
【
図5】
図5(a)~(c)は、変形例3に係る半導体レーザチップの断面図である。
【
図6】変形例4に係る半導体レーザ装置の断面図である。
【
図7】変形例5に係る半導体レーザ装置の断面図である。
【
図8】変形例6に係る半導体レーザ装置の断面図である。
【
図9】変形例7に係る
図1の半導体レーザ装置の断面図である。
【
図10】実施例2に係る半導体レーザ装置の断面図である。
【
図11】変形例8に係る半導体レーザ装置の断面図である。
【
図12】実施例3に係る半導体レーザ装置の断面図である。
【
図13】実施例4に係る半導体レーザ装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、または、実施形態の基本的な理解を目的としている。同概要は、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。またこの概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、実施形態の欠くべからざる構成要素を限定するものではない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0012】
一実施形態に係る半導体レーザ装置は、サブマウントと、サブマウントに対して、ジャンクションダウン実装された端面発光型の半導体レーザチップと、を備える。半導体レーザチップは、半導体基板と、半導体基板の第1面に形成される第1導電型クラッド層、発光層、第2導電型クラッド層を含む積層成長層であって、m個(m≧1)のレーザ共振器が形成されている積層成長層と、m個のレーザ共振器と接続されるm個のP電極と、半導体基板の第2面に形成されるN電極と、を有する。ビームの出射方向をz軸、半導体基板の厚さ方向をy軸、z軸およびy軸と直交する方向をx軸ととるとき、x軸方向に関して、m個のレーザ共振器は、半導体基板の第2面の中心の直下を除く領域に存在する。より好ましくは、m個のレーザ共振器は、半導体基板の第1面の中心から見て、半導体基板の第2面の中心と反対側に存在する。
【0013】
半導体レーザチップをサブマウントに対して接合(ダイボンディング)する際には、半導体レーザチップの裏面、すなわちジャンクションダウン実装においては半導体基板の第2面の中央に、コレット等によって荷重を加えられる。上記構成では、m個のレーザ共振器は、半導体基板の第1面の中心から、第2面の中心に対応する荷重位置から遠ざかる方向にオフセットして配置される。これにより、レーザ共振器に直接、大きな荷重がかかるのを防止でき、信頼性を改善できる。
【0014】
レーザ共振器のx方向における位置は、リッジ構造などの電流狭窄構造の中心位置を指すものとする。m≧2の場合、m個のレーザ共振器の位置は、両端のレーザ共振器の位置の中央を指すものとする。
【0015】
一実施形態において、半導体基板は、第1面とのなす角度が鋭角である第1ペレタイズ面および第1面とのなす角度が鈍角である第2ペレタイズ面を有する傾角基板であってもよい。なお、ペレタイズ面とは、半導体チップをウエハ等から個片化する際の切断面のことである。x軸方向に関して、m個のレーザ共振器の位置は、第1面の中心よりも、第1ペレタイズ面側であってもよい。
【0016】
一実施形態において、m個のレーザ共振器のうち、第1ペレタイズ面に最も近いひとつの位置は、N電極の第1ペレタイズ面側の端よりも、さらに第1ペレタイズ面側であってもよい。
【0017】
一実施形態において、半導体レーザチップの側面は、サブマウントに近い第1部分において、サブマウントに対して実質的に垂直であり、サブマウントから遠い第2部分において、傾斜していてもよい。この構造については、後に
図5等で詳細を説明する。この構造は、ペレタイズ前のウェハの状態において、半導体レーザチップのペレタイズ線に相当する位置に、ペレタイズ溝を形成することによって出現する。ペレタイズ溝を形成した後に、ペレタイズを行うことで、実際のペレタイズ線がずれた場合においても、ペレタイズ溝に沿って割れるため、レーザ共振器が半導体レーザチップの側面に近い場合に、レーザ共振器に影響が及ぶのを防止できる。
【0018】
一実施形態において、半導体レーザチップの側面は、第1部分において、絶縁層によって覆われていてもよい。レーザ共振器が、半導体レーザチップの側面に近い場合に、PN接合部分を絶縁層によって保護できるため、はんだや異物によるショートなどを防止できる。
【0019】
一実施形態において、半導体レーザチップの側面の絶縁層は、金属層によって覆われていてもよい。これにより、レーザ共振器の熱を、半導体レーザチップの側面の金属層を利用して排熱できる。
【0020】
一実施形態において、半導体レーザチップは、m個のP電極と隣接しており、半導体基板の第2面の中心を含む領域に形成される幅広電極をさらに有してもよい。これにより、幅広電極に強い荷重がかかることとなるため、半導体レーザチップとサブマウントの強固な接合を実現できる。
【0021】
一実施形態において、m≧2であり、P電極の幅は、レーザ共振器ごとに異なってもよい。P電極の幅を制御することで、複数のレーザ共振器間の放熱性のばらつきを低減でき、また複数のレーザ共振器間に生ずる応力のばらつきを低減できる。
【0022】
一実施形態に係る半導体レーザ装置は、サブマウントと、サブマウントに対して、ジャンクションダウン実装された端面発光型の半導体レーザチップと、を備える。半導体レーザチップは、半導体基板と、半導体基板の第1面に形成される第1導電型クラッド層、発光層、第2導電型クラッド層を含む積層成長層であって、m個(m≧1)のレーザ共振器が形成されている積層成長層と、m個のレーザ共振器と接続されるm個のP電極と、半導体基板の第2面に形成されるN電極と、を有する。ビームの出射方向をz軸、半導体基板の厚さ方向をy軸、z軸およびy軸と直交する方向をx軸ととるとき、x軸方向に関して、m個のレーザ共振器は、N電極の中心から見て、半導体基板の第1面の中心を始点に遠ざかる位置に存在する。
【0023】
ダイボンディングにおけるコレットの吸着位置は、半導体基板の第2面のN電極の中央付近に存在する場合がある。上記構成では、m個のレーザ共振器は、半導体基板の第1面の中心から、N電極の中心付近に存在する荷重位置から遠ざかる方向にオフセットして配置される。これにより、レーザ共振器に直接、大きな荷重がかかるのを防止でき、信頼性を改善できる。
【0024】
一実施形態に係る半導体レーザ装置は、サブマウントと、サブマウントに対して、ジャンクションダウン実装された端面発光型の半導体レーザチップと、を備える。半導体レーザチップは、半導体基板と、半導体基板の第1面に形成される第1導電型クラッド層、発光層、第2導電型クラッド層を含む積層成長層であって、m個(m≧1)のレーザ共振器が形成されている積層成長層と、m個のレーザ共振器と接続されるm個のP電極と、半導体基板の第2面に形成されるN電極と、を有する。ビームの出射方向をz軸、半導体基板の厚さ方向をy軸、z軸およびy軸と直交する方向をx軸ととるとき、x軸方向に関して、m個のレーザ共振器は、N電極に接続されたボンディングワイヤの中心から見て、半導体基板の第1面の中心を始点に遠ざかる位置に存在する。
【0025】
ダイボンディングにおけるコレットの吸着位置と、ボンディングワイヤの中心位置は、一致する場合が多い。このような場合、ボンディングワイヤの中心近傍に、ダイボンディング時の荷重位置が存在することとなる。上記構成では、m個のレーザ共振器は、半導体基板の第1面の中心から、ボンディングワイヤの中心付近に存在する荷重位置から遠ざかる方向にオフセットして配置される。これにより、レーザ共振器に直接、大きな荷重がかかるのを防止でき、信頼性を改善できる。
【0026】
(実施形態)
以下、本開示を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、開示を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも開示の本質的なものであるとは限らない。
【0027】
図面に記載される各部材の寸法(厚み、長さ、幅など)は、理解の容易化のために適宜、拡大縮小されている場合がある。さらには複数の部材の寸法は、必ずしもそれらの大小関係を表しているとは限らず、図面上で、ある部材Aが、別の部材Bよりも厚く描かれていても、部材Aが部材Bよりも薄いこともあり得る。
【0028】
(実施例1)
図1は、実施例1に係る半導体レーザ装置200Aの断面図である。半導体レーザ装置200Aは、端面発光型の半導体レーザチップ100Aおよびサブマウント210を備える。
図1は、発光端面から見た様子を示しており、ビームは、紙面垂直手前方向に出射するものとする。説明の便宜のために、ビームの出射方向(紙面奥行き方向)をz軸、半導体基板110の厚さ方向(紙面上下方向)をy軸、z軸およびy軸と直交する方向(紙面左右方向)をx軸とする座標軸を定義する。
【0029】
半導体レーザチップ100Aは、サブマウント210に対してジャンクションダウン実装される。
【0030】
半導体レーザチップ100Aは、半導体基板110および積層成長層120、P電極150、N電極152を含む積層構造を有している。半導体基板110は、赤色レーザの場合はN型GaAs基板であり、青色や緑色の場合には、N型のGaN基板であり得る。半導体基板110は、第1面S1、第2面S2、第1ペレタイズ面Sp1、第2ペレタイズ面Sp2を有する。半導体基板110の第1面S1側には、積層成長層120が形成される。積層成長層120は、N型クラッド層122、発光層130、P型クラッド層124、P型コンタクト層126を含む。発光層130は、N型ガイド層、活性層(量子井戸層)、P型ガイド層を含んでもよい。積層成長層120の上には、絶縁層140が形成される。
【0031】
積層成長層120には、光を閉じ込めるための導波路構造が形成され、この導波路構造の両端の劈開面がミラーとなり、レーザ共振器102をなしている。レーザ共振器102の出射端面がエミッタ104となり、エミッタ104からz方向(紙面手前方向)にビームが放射される。なお、劈開面上に反射率を調整した反射膜を形成してもよい。
【0032】
半導体レーザチップ100Aには、m個(m≧1)のレーザ共振器102が形成される。本実施形態においてm=1である。実施例3で説明するように、m≧2の場合、m個のレーザ共振器102は、x軸方向に隣接して配置される。
【0033】
導波路構造は、たとえばリッジ構造を用いることができる。リッジ構造は、P型クラッド層124を部分的に除去することにより形成したものである。リッジ構造を、単にリッジあるいはリッジストライブ構造とも称する。レーザ共振器102と隣接する領域にはバンク106が形成される。導波路構造は、埋め込み型のリッジ導波路とすることもできる。
【0034】
あるいは導波路構造は、導波路に沿って半導体基板110に溝を形成し、溝部分におけるN型クラッド層122の厚さが相対的に厚くなっているCSP(Channeled Substrate Planer)構造であってもよい。
【0035】
リッジ構造やCPS構造は、屈折率分布を利用した導波路構造であるが、本開示はそれに限定されず、利得分布を利用した利得導波路構造を利用してもよい。これらの構造は、光閉じ込め構造であるとともに、電流狭窄構造と把握することも可能である。
【0036】
半導体基板110の第2面S2には、N電極152が形成される。N電極152には、ボンディングワイヤ220の一端が接続される。ボンディングワイヤ220の他端は、サブマウント210上の配線パターンと接続される。
【0037】
積層成長層120の上(
図1においては紙面下側)であって、m個のレーザ共振器102それぞれに対応する位置には、P電極150が形成される。具体的には、絶縁層140は、レーザ共振器102に対応する部分に開口が形成されており、P型コンタクト層126と接するP電極150が形成される。P電極150は、レーザ共振器102を駆動するために使用されるため、駆動用電極と称する。
【0038】
また、バンク106に対応する領域には、P電極150と隣接して、幅広電極(バンク電極とも称する)154が形成される。この幅広電極154は、主としてサブマウント210との接合を目的としたものであるから、接合用電極とも称する。
図1の実施例では、P電極150と幅広電極154は電気的に絶縁されている。N電極152を上部電極と称する。またP電極150および幅広電極154を下部電極と総称する。
【0039】
半導体レーザチップ100Aは、サブマウント210にジャンクションダウン実装される。サブマウント210は、放熱性に優れた基板を用いることができ、たとえば窒化アルミニウム(AlN)等のセラミック基板が好適である。ジャンクションダウン実装は、半導体レーザチップ100Aの積層成長層120が、サブマウント210と向き合う態様での実装であり、具体的にはP電極150が、はんだ214によって、サブマウント210上の配線パターン212と電気的に接続され、機械的に接合される。また幅広電極154が、はんだ218によって、配線パターン216と機械的に接合される。
【0040】
ジャンクションダウン実装は、発熱部であるレーザ共振器102がサブマウント210に近づくため、冷却効率が高いという利点を有する。
【0041】
x軸方向に関して、レーザ共振器102の位置xcについて説明する。m=1の場合、位置xcは、エミッタ104の中心位置、言い換えると、電流狭窄構造(リッジ構造)の中心である。
【0042】
xpは、半導体基板110の第1面S1の中心であり、基準位置と称する。xnは、半導体基板110の第2面S2の中心である。半導体レーザチップ100Aをサブマウント210に接合する際には、第2面S2の中心位置xnをコレット等で吸着し、はんだを塗布したサブマウント210に押し付けるようにして荷重をかける。すなわち、第2面S2の中心位置xnは、ダイボンディング時の荷重位置とみなすことができる。なお、実際の荷重位置は、中心位置xnからずれていてもよい。
【0043】
本実施形態において、レーザ共振器102は、基準位置xpから見て第2面S2の中心位置である荷重位置xnとは反対側に位置している。言い換えると、レーザ共振器102は、半導体基板の第2面の中心から見て、半導体基板の第1面の中心を挟んで反対側に位置している。さらに言い換えると、レーザ共振器102は、荷重位置xnから遠ざかる位置xcにオフセットして配置される。これにより、ダイボンディングに際して、レーザ共振器102にかかる荷重を低減でき、機械的および光学的な影響を小さくできる。
【0044】
図1では、半導体基板110は、ペレタイズ面Sp1,Sp2が傾いている。これを傾角基板あるいは傾斜基板という。半導体基板110の第1ペレタイズ面Sp1は、第1面S1となす角が鋭角(<90°)であり、半導体基板110の第2ペレタイズ面Sp2は、第1面S1となす角が鈍角(>90°)である。レーザ共振器102の位置xcは、基準位置xpよりも、第1ペレタイズ面Sp1側の位置となっている。
【0045】
以上が半導体レーザ装置200Aの構成である。
【0046】
ダイボンディング時の荷重は、位置xnにおいて最も大きくなる。仮に、レーザ共振器102を、半導体基板110の第1面S1の中心である基準位置xpに配置したとすると、レーザ共振器102に、大きな荷重がかかる。この荷重は、レーザ共振器102に対して機械的に好ましくない影響を与え、信頼性を低下させるおそれがある。
図1の構造によれば、レーザ共振器102が、荷重位置xnから遠い位置に配置されるため、ダイボンディング時にレーザ共振器102に直接、大きな荷重がかかるのを防止でき、信頼性を改善できる。
【0047】
図1の構造は、レーザ共振器102の残留応力を減らすことができる。残留応力は、レーザ共振器102に対して光学的にも影響を及ぼす。具体的には残留応力は、導波路の屈折率変化を引き起こし、意図せぬ波長シフトや、導波方向のずれの原因となる。
図1の構造によれば、残留応力を低減できるため、光学的な性能を安定させることができる。
【0048】
また、幅広電極154が、荷重位置xnに存在することとなるため、はんだ218による接合強度を高めることができる。
【0049】
続いて半導体レーザ装置200Aの変形例を説明する。
【0050】
(変形例1)
図2は、変形例1に係る半導体レーザ装置200Aaの断面図である。半導体レーザ装置200Aaでは、P電極150と幅広電極154が電気的に連続して形成されている。また配線パターン212と216も電気的に連続している。
【0051】
(変形例2)
図3は、変形例2に係る半導体レーザ装置200Abの断面図である。この変形例では、レーザ共振器102の位置xcが、
図1の半導体レーザ装置200Aよりも、さらに第1ペレタイズ面Sp1に近い位置にオフセットしている。
【0052】
図3において、xdは、N電極152の第1ペレタイズ面Sp1側の端の位置を示している。この変形例では、レーザ共振器102の位置xcは、位置xdよりもさらに第1ペレタイズ面Sp1寄りである。
【0053】
図4は、レーザ共振器102の位置xcを説明する図である。半導体レーザチップ100Aの端部をx座標の原点にとる。xdは、N電極152の電極の端部の位置を表し、xeは、半導体基板110の第2面の端部の位置を表す。xc,xe,xdはそれぞれ、半導体レーザチップ100Aの端部からの距離を表す。
【0054】
この場合において、
xc≦xd
を満たすことが好ましい。たとえば半導体基板110の傾角θが10°、半導体基板110および積層成長層120の合計厚さtが100μmであるとき、xe=100μm×tan10°≒18μmとなる。チップ端xeからのN電極152の端部までの距離を20μmとすれば、xd=38μmとなる。したがって、xc≦38μmを満たすように設計すればよい。
【0055】
応力の影響をさらに低減するためには、
xc≦xe
とすることが好ましい。t=100μm、θ=10°であるとき、xc≦18μmを満たせばよい。
【0056】
位置xcと厚さtは、xc<t/3の関係を満たしてもよい。t=100μmの場合、xc≦33μmとなる。
【0057】
位置xcの下限は、ビーム径やP電極150の厚さによって制約される。具体的には、xcは1μmより大きくすると、性能の安定と、量産に耐えうる歩留まりが見込まれる。さらには、製造上の安定性を考慮すると、xc≧4μmとすればより好適である。
【0058】
まとめると、レーザ共振器102と半導体レーザチップ100Aの端部の距離xcは、上記実施例においては、好ましくは38μm以下であり、より好ましくは18μm以下である。また距離xcは、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは4μm以上である。
【0059】
(変形例3)
半導体レーザチップ100Aは、ペレタイズおよび劈開により、1枚のウェハから切り出して個片化したものである。変形例2のように、レーザ共振器102の位置xcを、第1ペレタイズ面Sp1に近づけると、ペレタイズ線(ペレタイズ面)の位置がx軸方向にずれた場合に、レーザ共振器102の光学的あるいは機械的な特性に影響を及ぼすおそれがある。したがって、ペレタイズの位置の精度を高める必要がある。
【0060】
図5(a)~
図5(c)は、変形例3に係る半導体レーザチップ100Acの断面図である。
図5(a)は、ペレタイズ前の半導体レーザチップ100Acを、
図5(c)は、ペレタイズ後の半導体レーザチップ100Acを示している。
【0061】
図5(a)に示すように、ペレタイズ前において、隣接する半導体レーザチップ100Acの間には、ウェハプロセスにおいてペレタイズ溝160が形成される。たとえば、半導体基板110上に、P型コンタクト層126まで形成した後に、エッチングによりペレタイズ溝160が形成される。その後、絶縁層や電極が形成される。
【0062】
ペレタイズ溝160は半導体基板110に対して垂直であり、ペレタイズ溝160の深さは、発光層130より深く、少なくともN型クラッド層122まで達している。ペレタイズ溝16の深さは、半導体基板110まで達していてもよい。
【0063】
ペレタイズ工程では、ペレタイズ溝160を通過するペレタイズ線162に沿って、ウェハを割ることにより、半導体レーザチップ100Acが切り出される。なお、ペレタイズ線162は通常、半導体基板110の結晶方位に沿った線となる。
【0064】
図5(b)を参照する。個片化された半導体レーザチップ100Acの第1ペレタイズ面Sp1側に着目する。ペレタイズ溝を形成した後に、ペレタイズを行うと、積層成長層120の側面は、ペレタイズ溝160の跡が残るため、半導体基板110の表面に対して、実質的に垂直な方向を向く。一方、半導体基板110のペレタイズ面Sp1は、半導体基板110の結晶方位に応じた角度を向いている。その結果、半導体レーザチップ100Acの側面は、平坦とはならずに、角度φが付くこととなる。
【0065】
第2ペレタイズ面Sp2側に着目する。積層成長層120の側面には、ペレタイズ溝160の跡の大部分が残り、J字形状の断面となる。一方、半導体基板110の側面(ペレタイズ面Sp2)は、半導体基板110の結晶方位に応じた方向θを向いている。
【0066】
図5(b)に示すように、絶縁層140は、ペレタイズ溝160の表面にも形成することが好ましい。これにより、半導体レーザチップ100Acの側面Sp1,Sp2において、PN接合部分を保護できるため、はんだや異物によるショートなどを防止できる。側面におけるPN接合の保護を、ペレタイズ溝160を形成しない一般的な製造方法で実現しようとした場合、ペレタイズ後に、追加のプロセスで保護膜を形成する必要がある。これに対して、ペレタイズ溝160の表面に絶縁層140を形成しておけば、ペレタイズ後の追加のプロセスが不要であるという利点がある。
【0067】
図5(c)には、ペレタイズ溝160の変形例が示される。この例では、ペレタイズ溝160の表面に、絶縁層140が形成され、さらにその上に、電極151が形成される。この電極151は、P電極150と連続していることが望ましい。
【0068】
図5(c)の構造によれば、絶縁層140によるPN接合の保護の効果が得られる。さらに、追加の電極151が、放熱性を高める機能を奏する。この電極151は、熱源となるレーザ共振器102に近い位置に存在しているため、高い放熱効果が期待できる。電極151をP電極150と連続させることにより、放熱効果を一層高めることができる。
【0069】
(変形例4)
図6は、変形例4に係る半導体レーザ装置200Adの断面図である。この変形例では、半導体基板110として、傾角基板に代えて、ペレタイズ面が垂直な、断面が長方形の基板が使用される。この変形例では、荷重位置xnが半導体基板110の第1面S1の中心である基準位置xpと一致している点である。この場合においても、レーザ共振器102は、荷重位置xnから見て、基準位置xpを始点に遠ざかる位置xcに存在するという条件が満たされている。
【0070】
(変形例5)
図7は、変形例5に係る半導体レーザ装置200Aeの断面図である。この変形例では、
図6と同様に、ペレタイズ面が垂直な半導体基板110が使用される。
図7には、ダイボンディングの様子が示されている。半導体レーザチップ100Aeは、コレット10によってサブマウント210に対して押え付けられる。この変形例では、コレット10の位置xzは、第2面S2の中心xnからずれており、位置xzが正確な荷重位置となる。この場合、レーザ共振器102は、荷重位置xzからみて、基準位置xpのペレタイズ面に近い側に位置する。
【0071】
(変形例6)
図8は、変形例6に係る半導体レーザ装置200Afの断面図である。この変形例では、半導体基板110として、断面が台形の傾角基板が使用される。
【0072】
(変形例7)
図9は、変形例7に係る半導体レーザ装置200Agの断面図である。この変形例では、リッジと隣接するバンクが省略されている。幅広電極154は、荷重位置xnを含む広い範囲にわたって形成される。
図9の幅広電極154の厚さは、
図1等の幅広電極154の厚さに比べて大きく、本変形例ではサブマウント210と接合時にレーザ共振器102と同程度の高さを構成している。
【0073】
(その他の変形例)
P電極150と隣接して、接合用電極として幅広電極154が形成されているが、接合用電極の幅や構造は特に限定されない。たとえば、幅が狭い電極を、x軸方向に複数並べて配置してもよい。言い換えると、幅広電極154をx軸方向に複数に分割して形成してもよい。
【0074】
(実施例2)
図10は、実施例2に係る半導体レーザ装置200Bの断面図である。半導体レーザ装置200Bは、マルチビームレーザであり、x軸方向に離間して形成される複数m個(m≧2)のレーザ共振器102_1~102_mを備える。
図7ではm=2である。
【0075】
m≧2の場合、m個のレーザ共振器102の位置xcは、一方の端のレーザ共振器102_1のエミッタ104_1と、他方の端のレーザ共振器102_mのエミッタ104_mとの中心位置である。m=2の例では、両端のレーザ共振器102_1,102_2それぞれの位置をx1,x2とすれば、xc=(x1+x2)/2となる。
【0076】
実施例1と同様に、2個のレーザ共振器102_1,102_2の中心位置xcは、荷重位置xnから見て、基準位置xpと反対側である。つまり2個のレーザ共振器102_1,102_2の中心位置xcは、荷重位置xnから遠ざかる方向にオフセットしている(図中、(i))。
【0077】
さらに言えば、2個のレーザ共振器102_1,102_2それぞれの位置x1,x2も、基準位置xpを始点として、荷重位置xnから遠ざかる同じ方向にオフセットしていると把握できる(図中、(ii)、(iii))。
【0078】
実施例2に関する変形例を説明する。
【0079】
(変形例8)
図11は、変形例8に係る半導体レーザ装置100Baの断面図である。この変形例において、レーザ共振器102_1、102_2のP電極150_1,150_2の幅Δx1,Δx2が異なっている。電極幅Δx1,Δx2によって、レーザ共振器102_1,102_2の放熱特性を調整することができ、レーザ共振器102_1,102_2の動作温度を均一化できる。また電極幅Δx1,Δx2によって、レーザ共振器102_1,102_2の残留応力を調整することができ、レーザ共振器102_1,102_2の光学的特性を均一化できる。
【0080】
(その他の変形例)
図10では、m=2を例示したが、mは3以上であってもよい。また実施例1に関連して説明した変形例は、実施例2に適用することが可能である。
【0081】
(実施例3)
図12は、実施例3に係る半導体レーザ装置200Cの断面図である。半導体レーザ装置200Cは、マルチビームレーザであり、2個の半導体レーザチップ100Cと、サブマウント210と、を備える。2個の半導体レーザチップ100Cは、実施例1の半導体レーザチップ100Aと同様の構成を有しており、x軸方向に関して対称である。
【0082】
実施例1で説明したように、レーザ共振器102を第1ペレタイズ面Sp1に近接して形成することにより、2つのエミッタ104の距離Waは、半導体レーザ装置200Cの用途に応じて設計されるが、たとえば100μm以下である。2個の半導体レーザチップ100Cのギャップgをゼロ付近まで近づけた場合、レーザ共振器102の位置xcと、半導体レーザチップ100Cの端部の距離Weは、Wa/2=50μm以下となる。
【0083】
より具体的には、一例として、2つのエミッタ104の距離Waは、Wa≦50μmとすることができる。この場合、距離Weは≦25μmとなる。Wa≦30μmとすれば、We≦15μmとなる。
【0084】
実施例3において、半導体レーザチップ100Cの半導体基板110は、傾角基板に限定されず、
図6や
図8の半導体基板110であってもよい。
【0085】
また実施例3において、半導体レーザチップ100Cは、2個、またはそれより多いレーザ共振器102を有してもよい。この場合、x軸方向に関して線対称になるように
図10の半導体レーザチップ100Bを構成および配置してもよい。
【0086】
(実施例4)
図13は、実施例4に係る半導体レーザ装置200Dの断面図である。これまでの説明では、半導体レーザチップ100の第2面S2の中心付近に、ダイボンディング時の荷重位置が存在するものと仮定して説明した。実施例4では、N電極152が、半導体レーザチップ100Dの第2面S2において、右側(あるいは左側)にオフセットして配置される。この場合、コレットの吸着位置は、N電極152の中心付近となり、荷重位置xnは、第2面S2の中心から外れることとなる。
【0087】
実施例4では、N電極152の中心を荷重位置xnであるものとして設計される。レーザ共振器102は、N電極152の中心である荷重位置xnから見て、基準位置xpと反対側に位置している。言い換えると、レーザ共振器102は、基準位置xpを始点として、荷重位置xnから遠ざかる位置xcにオフセットして配置される。これにより、ダイボンディングに際して、レーザ共振器102にかかる荷重を低減でき、機械的および光学的な影響を小さくできる。
【0088】
(実施例5)
実施例1~3では、半導体レーザチップ100の第2面S2の中心付近に荷重位置xnが存在することを前提として、実施例4では、N電極152の中心付近に荷重位置xnが存在することを前提とした。実施例5では、実施例4と同様に
図13を用いて説明できるが、ボンディングワイヤ220の中心位置の近傍に、荷重位置xnが存在することを前提として、レーザ共振器102の位置が決められる。すなわち、レーザ共振器102は、ボンディングワイヤ220の中心である荷重位置xnから見て、基準位置xpと反対側のペレタイズ面Sp1に近い側に位置している。言い換えると、レーザ共振器102は、基準位置xpを始点として、荷重位置xnから遠ざかる位置xcにオフセットして配置される。これにより、ダイボンディングに際して、レーザ共振器102にかかる荷重を低減でき、機械的および光学的な影響を小さくできる。
【0089】
実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0090】
100 半導体レーザチップ
102 レーザ共振器
110 半導体基板
120 積層成長層
122 N型クラッド層
124 P型クラッド層
126 P型コンタクト層
130 発光層
140 絶縁層
150 P電極
152 N電極
154 幅広電極
160 ペレタイズ溝
Sp1 第1ペレタイズ面
Sp2 第2ペレタイズ面
200 半導体レーザ装置
210 サブマウント
220 ボンディングワイヤ