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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176586
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】誘導装置
(51)【国際特許分類】
   F41G 7/22 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
F41G7/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088941
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】和田 将典
(57)【要約】
【課題】飛しょう体が飛しょうしているときにおける目標変更の許容度を高くすることができる誘導装置を得ること。
【解決手段】誘導装置1は、飛しょう体の加速度に加算されるバイアス加速度を表す予測誘導項を設定して飛しょう体と目標との相対運動をシミュレーションする運動予測計算処理と、シミュレーションされた相対運動における飛しょう体の運動エネルギーの損失量を表す評価値を求めて、評価値が減少する態様により予測誘導項を修正する評価および予測誘導項修正処理と、を実行する運動エネルギー評価部11を備える。運動エネルギー評価部11は、予測誘導項の修正と修正された予測誘導項による相対運動のシミュレーションとを評価値が収束するまで繰り返し、評価値が収束したときにおける予測誘導項を含む第1の誘導指令を算出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動する目標へ飛しょう体を誘導する誘導装置であって、
前記飛しょう体の加速度に加算されるバイアス加速度を表す予測誘導項を設定して前記飛しょう体と前記目標との相対運動をシミュレーションする運動予測計算処理と、シミュレーションされた前記相対運動における前記飛しょう体の運動エネルギーの損失量を表す評価値を求めて、前記評価値が減少する態様により前記予測誘導項を修正する評価および予測誘導項修正処理と、を実行する運動エネルギー評価部を備え、
前記運動エネルギー評価部は、前記予測誘導項の修正と修正された前記予測誘導項による前記相対運動のシミュレーションとを前記評価値が収束するまで繰り返し、前記評価値が収束したときにおける前記予測誘導項を含む第1の誘導指令を算出することを特徴とする誘導装置。
【請求項2】
前記第1の誘導指令による前記飛しょう体の誘導を継続した場合における前記飛しょう体と前記目標との会合の成立性を評価して評価結果を出力する会合成立性評価部を備えることを特徴とする請求項1に記載の誘導装置。
【請求項3】
前記第1の誘導指令による前記飛しょう体の誘導を継続する継続時間を、前記目標の位置と前記目標の速度とに基づいて設定する継続時間設定部を備え、
前記会合成立性評価部は、設定された前記継続時間において前記第1の誘導指令による前記飛しょう体の誘導を継続した場合における会合の成立性を評価することを特徴とする請求項2に記載の誘導装置。
【請求項4】
前記目標の位置と前記目標の速度と前記飛しょう体の位置と前記飛しょう体の速度とに基づいて第2の誘導指令を生成する誘導指令生成部と、
会合が成立することを示す前記評価結果に基づいて前記第1の誘導指令を出力し、会合が不成立であることを示す前記評価結果に基づいて第2の誘導指令を出力することによって、前記第1の誘導指令の出力と前記第2の誘導指令の出力とを切り替える誘導指令切替部と、を備えることを特徴とする請求項2または3に記載の誘導装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、移動する目標へ飛しょう体を誘導する誘導装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ネットワークにより目標についての情報を共有する飛しょう体の運用において、飛しょう体を有効に活用するために、飛しょう体が飛しょうしている間に状況に応じて目標を変更可能であることが求められる。
【0003】
特許文献1には、目標と飛しょう体との相対運動を計算し、相対運動の結果に基づいて、飛しょう体が目標と会合する誘導完了までの飛しょう体の加速度指令値を計算する誘導装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5577807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
飛しょう体が飛しょうしているときにおける目標変更の許容度を高くするためには、飛しょう体の高度と速度とを保持する必要がある。ただし、目標を変更するための機動の前における目標の運動によっては、目標への会合のための誘導により飛しょう体の高度と速度とが急速に低下する場合がある。飛しょう体の高度と速度とが低下する場合、飛しょう体を目標に会合させることが困難となり、目標変更の許容度が低くなる場合がある。このように、目標へ一律に飛しょう体を追随させることによって、飛しょう体が飛しょうしているときにおける目標変更の許容度が低くなる場合がある。
【0006】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、飛しょう体が飛しょうしているときにおける目標変更の許容度を高くすることができる誘導装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示にかかる誘導装置は、移動する目標へ飛しょう体を誘導する誘導装置である。本開示にかかる誘導装置は、飛しょう体の加速度に加算されるバイアス加速度を表す予測誘導項を設定して飛しょう体と目標との相対運動をシミュレーションする運動予測計算処理と、シミュレーションされた相対運動における飛しょう体の運動エネルギーの損失量を表す評価値を求めて、評価値が減少する態様により予測誘導項を修正する評価および予測誘導項修正処理と、を実行する運動エネルギー評価部を備える。運動エネルギー評価部は、予測誘導項の修正と修正された予測誘導項による相対運動のシミュレーションとを評価値が収束するまで繰り返し、評価値が収束したときにおける予測誘導項を含む第1の誘導指令を算出する。
【発明の効果】
【0008】
本開示にかかる誘導装置は、飛しょう体が飛しょうしているときにおける目標変更の許容度を高くすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1にかかる誘導装置の構成例を示すブロック図
図2】実施の形態1にかかる誘導装置の運動エネルギー評価部による処理の手順を示すフローチャート
図3】実施の形態1にかかる誘導装置の運動エネルギー評価部による処理について説明するための図
図4】実施の形態1にかかる誘導装置によって誘導される飛しょう体の動作について説明するための図
図5】実施の形態1にかかる制御回路の構成例を示す図
図6】実施の形態1にかかる専用のハードウェア回路の構成例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、実施の形態にかかる誘導装置を図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかる誘導装置1の構成例を示すブロック図である。誘導装置1は、飛しょう体に搭載されて、移動する目標へ飛しょう体を誘導する。誘導装置1は、飛しょう体の前方部に設けられる。
【0012】
誘導装置1は、受信器2と、慣性装置3と、信号処理器4とを備える。信号処理器4は、目標運動計算部10と、運動エネルギー評価部11と、継続時間設定部12と、目標機動設定部13と、会合成立性評価部14と、誘導指令生成部15と、誘導指令切替部16とを備える。
【0013】
受信器2は、飛しょう体が飛しょうを開始した後において、目標の観測情報を誘導装置1の外部から受信する。受信器2は、受信した観測情報を信号処理器4へ出力する。慣性装置3は、現時点における、飛しょう体の位置および速度を求める。慣性装置3は、飛しょう体の位置情報および速度情報を信号処理器4へ出力する。
【0014】
目標の観測情報は、目標運動計算部10へ入力される。目標運動計算部10は、目標の観測情報に基づいて、現時点における、目標の位置および速度を計算する。目標運動計算部10は、運動エネルギー評価部11と、継続時間設定部12と、目標機動設定部13と、誘導指令生成部15との各々へ目標の位置情報および速度情報を出力する。
【0015】
飛しょう体の位置情報および速度情報は、運動エネルギー評価部11と誘導指令生成部15との各々へ入力される。運動エネルギー評価部11は、目標の位置情報および速度情報と飛しょう体の位置情報および速度情報とに基づいて、飛しょう体の高度および速度の損失を抑えた誘導のための誘導指令を算出する。以下、運動エネルギー評価部11によって算出される誘導指令を、第1の誘導指令と称する。運動エネルギー評価部11は、算出された第1の誘導指令を会合成立性評価部14と誘導指令切替部16との各々へ出力する。
【0016】
継続時間設定部12は、目標の位置情報および速度情報に基づいて継続時間を設定する。継続時間は、高度および速度の損失を抑えた誘導を継続する時間とする。すなわち、継続時間は、第1の誘導指令による誘導を継続する時間である。継続時間設定部12は、設定された継続時間を示す値を運動エネルギー評価部11と会合成立性評価部14との各々へ出力する。
【0017】
目標機動設定部13は、あらかじめ設定された複数の目標機動モデルを保持する。目標機動モデルは、目標が空中にて取り得る動作を表すモデルとする。目標機動設定部13は、目標の位置情報および速度情報と各目標機動モデルとに基づいて、機動時における目標の予測航路を生成する。目標機動設定部13は、生成された予測航路を示す情報を会合成立性評価部14へ出力する。
【0018】
会合成立性評価部14は、第1の誘導指令による飛しょう体の誘導を継続した場合における飛しょう体と目標との会合の成立性を、第1の誘導指令と、継続時間と、目標の予測航路とに基づいて評価する。会合成立性評価部14は、継続時間において第1の誘導指令によって飛しょう体を誘導した場合における飛しょう体の動作と予測航路上の目標の動作とをシミュレーションする。会合成立性評価部14は、シミュレーションの結果に基づいて目標への飛しょう体の会合の成否を予測することによって、会合の成立性を評価する。会合成立性評価部14は、会合の成立性の評価結果を誘導指令切替部16へ出力する。
【0019】
誘導指令生成部15は、飛しょう体を誘導するための誘導指令を、目標の位置と目標の速度と飛しょう体の位置と飛しょう体の速度とに基づいて生成する。誘導指令生成部15は、比例航法による飛しょう体の誘導のための加速度である比例航法加速度を算出する。誘導指令生成部15は、算出された比例航法加速度により予想会合点へ飛しょう体を飛しょうさせる誘導指令を生成する。予想会合点は、飛しょう体と目標との会合が予想される点とする。以下、誘導指令生成部15によって生成される誘導指令を、第2の誘導指令と称する。誘導指令生成部15は、誘導指令切替部16へ第2の誘導指令を出力する。
【0020】
誘導指令切替部16は、会合成立性評価部14による会合の成立性の評価結果に基づいて、第1の誘導指令の出力と第2の誘導指令の出力とを切り替える。誘導指令切替部16は、会合が成立することを示す評価結果に基づいて第1の誘導指令を出力し、会合が不成立であることを示す評価結果に基づいて第2の誘導指令を出力することによって、第1の誘導指令の出力と第2の誘導指令の出力とを切り替える。
【0021】
次に、運動エネルギー評価部11が実行する処理の詳細について説明する。図2は、実施の形態1にかかる誘導装置1の運動エネルギー評価部11による処理の手順を示すフローチャートである。運動エネルギー評価部11は、運動予測計算処理と、評価および予測誘導項修正処理とを実行する。
【0022】
ステップS1およびステップS2は、運動予測計算処理に含まれる手順である。ステップS1において、運動エネルギー評価部11は、予測誘導項を設定する。予測誘導項は、比例航法による飛しょう体の誘導のための比例航法加速度に加算されるバイアス加速度を表す。ステップS2において、運動エネルギー評価部11は、飛しょう体と目標との相対運動をシミュレーションする。運動エネルギー評価部11には、目標の位置情報および速度情報が目標運動計算部10から入力される。運動エネルギー評価部11には、飛しょう体の位置情報および速度情報が慣性装置3から入力される。運動エネルギー評価部11は、ステップS1において設定された予測誘導項と、目標の位置情報および速度情報と、飛しょう体の位置情報および速度情報とに基づいて、相対運動をシミュレーションする。運動エネルギー評価部11は、シミュレーションの結果を基に、評価および予測誘導項修正処理を実行する。
【0023】
ステップS3およびステップS4は、評価および予測誘導項修正処理に含まれる手順である。ステップS3において、運動エネルギー評価部11は、ステップS2においてシミュレーションされた相対運動における飛しょう体の運動エネルギーの損失量を表す評価値を求める。実施の形態1において、運動エネルギーの損失量とは、高度の損失量と速度の損失量とであるものとする。運動エネルギー評価部11には、設定された継続時間を示す値である設定値が継続時間設定部12から入力される。運動エネルギー評価部11は、設定された継続時間における飛しょう体の高度の損失量と設定された継続時間における飛しょう体の速度の損失量との指標である評価値を算出する。継続時間の設定値は、飛しょう体の運動エネルギーの損失量の評価期間を表す値ともいえる。
【0024】
運動エネルギー評価部11は、シミュレーション結果を評価関数に適用することによって、評価期間における運動エネルギーの損失量を算出する。評価期間は、継続時間設定部12によって設定される継続時間である。評価関数は、次の式(1)により表される。なお、Jは評価関数、Nは評価期間を表す。Ki-1,Kiは、次の式(2)により表される速度エネルギーKとする。Ui-1,Uiは、次の式(3)により表される運動エネルギーUとする。なお、mは飛しょう体の質量、vは飛しょう体の速度、gは重力加速度、hは飛しょう体の高度を表す。
【0025】
【数1】
【0026】
【数2】
【0027】
【数3】
【0028】
ステップS4において、運動エネルギー評価部11は、評価値が減少する方へ予測誘導項を修正する。運動エネルギー評価部11は、予測誘導項を増加させることによって評価値が減少する場合には予測誘導項を増加させる修正を行い、予測誘導項を減少させることによって評価値が減少する場合には予測誘導項を減少させる修正を行う。このように、運動エネルギー評価部11は、評価値が減少する態様により予測誘導項を修正する。
【0029】
ステップS5において、運動エネルギー評価部11は、評価関数の最小値に評価値が収束したか否かを判断する。評価関数の最小値に評価値が収束していないと判断された場合(ステップS5,No)、運動エネルギー評価部11は、手順をステップS1へ戻す。運動エネルギー評価部11は、ステップS4において修正された予測誘導項をステップS1において設定して、ステップS2からステップS5の手順を繰り返す。
【0030】
一方、評価関数の最小値に評価値が収束したものと判断された場合(ステップS5,Yes)、ステップS6において、運動エネルギー評価部11は、第1の誘導指令を算出する。運動エネルギー評価部11は、評価値が収束したときにおける予測誘導項を比例航法加速度に加算することによって、第1の誘導指令を算出する。このように、運動エネルギー評価部11は、予測誘導項の修正と修正された予測誘導項による相対運動のシミュレーションとを評価値が収束するまで繰り返し、評価値が収束したときにおける予測誘導項を含む第1の誘導指令を算出する。運動エネルギー評価部11は、算出された第1の誘導指令を出力する。以上により、運動エネルギー評価部11は、図2に示す手順による処理を終了する。
【0031】
図3は、実施の形態1にかかる誘導装置1の運動エネルギー評価部11による処理について説明するための図である。運動予測計算処理には、図2のステップS1による予測誘導項設定と、ステップS2によるシミュレーションである会合シミュレーションとが含まれる。図3には、運動予測計算処理と、評価および予測誘導項修正処理とが繰り返される間における、運動予測計算処理において設定される予測誘導項の変化と、会合シミュレーションの結果の変化と、評価および予測誘導項修正処理により算出される評価値の変化との例を示す。
【0032】
図3では、予測誘導項と時間との関係を表すグラフにより、設定される予測誘導項を表す。グラフの縦軸は予測誘導項を表す。グラフの横軸は時間を表す。図3では、1回目の予測誘導項設定からn回目の予測誘導項設定までにグラフが変化する様子を示す。nは、2以上の任意の整数とする。
【0033】
図3では、会合シミュレーションによる飛しょう体20と目標21との相対運動のシミュレーション結果を、飛しょう体20の予測航路22と目標21の予測航路23とにより表す。図3に示す例では、目標21の予測航路23は、矢印24により示す方向へ旋回する航路とする。破線は、予測航路22を移動する飛しょう体20と予測航路23を移動する目標21とを結ぶ線とする。図3では、1回目の会合シミュレーションからn回目の会合シミュレーションまでにシミュレーション結果が変化する様子を示す。
【0034】
図3では、評価および予測誘導項修正処理により算出される評価値を、評価関数を表すグラフ上の点25により表す。グラフの縦軸は評価値を表す。グラフの横軸は予測誘導項を表す。破線のグラフは、評価関数を表す。矢印26は、点25から評価関数のグラフに沿って評価値を変化させる場合における、評価値が低下する方向を表す。図3では、1回目からn回目までの評価および予測誘導項修正処理における評価値の変化と予測誘導項が修正される様子とを示す。
【0035】
運動エネルギー評価部11は、1回目の予測誘導項設定において、予測誘導項の初期値を設定する。初期値は、例えばゼロとする。運動エネルギー評価部11は、初期値である予測誘導項と、目標の位置情報および速度情報と、飛しょう体の位置情報および速度情報とに基づいて、1回目の会合シミュレーションを実行する。運動エネルギー評価部11は、比例航法加速度に予測誘導項を加算することによって、会合シミュレーションにおける誘導指令を算出する。
【0036】
運動エネルギー評価部11は、1回目の会合シミュレーションの結果を基に、1回目の評価および予測誘導項修正処理を実行する。1回目の評価および予測誘導項修正処理により、運動エネルギー評価部11は、評価値を算出して、評価値が減少する態様により予測誘導項を修正する。図3に示す例では、予測誘導項を減少させることによって、1回目に算出された評価値は減少する。このため、運動エネルギー評価部11は、1回目の評価および予測誘導項修正処理では、予測誘導項を減少させる修正を行う。その後、運動エネルギー評価部11は、予測誘導項設定に処理を戻して、2回目の予測誘導項設定を行う。
【0037】
2回目の予測誘導項設定では、1回目の評価および予測誘導項修正処理による修正後の予測誘導項が設定される。図3に示すように、2回目の予測誘導項設定における予測誘導項のグラフは、1回目の予測誘導項設定の場合から変化する。運動エネルギー評価部11は、設定された予測誘導項を基に、2回目の会合シミュレーションを実行する。予測誘導項が修正されることによって、図3に示すように、2回目の会合シミュレーションによって算出される予測航路22は、1回目の会合シミュレーションによって算出される予測航路22から変化する。図3では、1回目の会合シミュレーションによって算出される予測航路22を、一点鎖線により表す。運動エネルギー評価部11は、2回目の会合シミュレーションの結果を基に、2回目の評価および予測誘導項修正処理を実行する。その後も、運動エネルギー評価部11は、運動予測計算処理と、評価および予測誘導項修正処理とを繰り返す。
【0038】
図3では、n回目の評価および予測誘導項修正処理において、評価関数の最小値である評価値が算出されるとする。運動エネルギー評価部11は、評価関数の最小値に評価値が収束したときにおける予測誘導項、すなわち、n回目の予測誘導項設定により設定された予測誘導項を、比例航法加速度に加算する。運動エネルギー評価部11は、比例航法加速度に予測誘導項を加算することによって、第1の誘導指令を算出する。このように、運動エネルギー評価部11は、評価関数の最小値に評価値が収束するまで運動予測計算処理と評価および予測誘導項修正処理とを繰り返すことによって予測誘導項を求めて、予測誘導項を含む第1の誘導指令を算出する。
【0039】
図4は、実施の形態1にかかる誘導装置1によって誘導される飛しょう体20の動作について説明するための図である。飛しょう体27および飛しょう体28の各々は、目標21とし得る飛しょう体であって、例えば航空機である。図4において、一点鎖線の矢印は、飛しょう体20の航跡を表す。破線の矢印は、飛しょう体27の航跡または飛しょう体28の航跡を表す。図4では、誘導装置1が搭載された飛しょう体20と、2つの飛しょう体27,28との各々が飛しょうしている様子を、鉛直面と水平面との各々により模式的に表す。
【0040】
図4の上段には、飛しょう体27が目標21であって、誘導装置1が飛しょう体27へ飛しょう体20を誘導している状態を示す。また、飛しょう体27への飛しょう体20の誘導が継続されているときに、図4の上段に示すように飛しょう体27が鉛直下方へ旋回する運動を行うとする。すなわち、飛しょう体27が高度を低下させるとする。なお、飛しょう体27が高度を低下させる前は、飛しょう体27は、飛しょう体28と同じ高度において飛しょう体28の斜め後を飛行していたとする。
【0041】
仮に、誘導装置1が目標21である飛しょう体27へ一律に飛しょう体20を追随させる場合、図4の下段に示すように、飛しょう体20は、飛しょう体27に合わせて高度を低下させる機動を行う。その際に、飛しょう体20の高度が失われるとともに、機動に伴う空気抵抗によって飛しょう体20の速度が失われる。この場合において飛しょう体20を誘導させる目標21を飛しょう体27から飛しょう体28へ変更するとしても、飛しょう体20の高度および速度が失われていることによって、飛しょう体20を飛しょう体28に会合させることができないこととなる。このように、目標21を変更する前における会合を成立させるために、目標21へ一律に飛しょう体20を追随させることによって、飛しょう体20が飛しょうしているときにおける目標変更の許容度が低くなる場合がある。
【0042】
実施の形態1にかかる誘導装置1は、飛しょう体20の運動エネルギーを評価し、運動エネルギーの損失量を抑えた誘導のための第1の誘導指令を算出する。誘導装置1は、飛しょう体20の運動エネルギーの損失量が抑えられることによって、目標変更の許容度を高くすることが可能となる。誘導装置1は、会合が成立することを示す評価結果を得た場合には第1の誘導指令を出力し、会合が不成立であることを示す評価結果を得た場合には第2の誘導指令を出力することによって、第1の誘導指令の出力と第2の誘導指令の出力とを切り替える。誘導装置1は、目標21に対する飛しょう体20の追随を開始するタイミングを、会合成立の評価が会合不成立の評価に変わる限界にまで遅らせることができる。誘導装置1は、目標21へ飛しょう体20を誘導することと、飛しょう体20が飛しょうしているときにおける目標変更の許容度を高くすることとを両立させ得る誘導則を得ることができる。
【0043】
次に、実施の形態1にかかる誘導装置1の信号処理器4を実現するハードウェアについて説明する。信号処理器4は、処理回路により実現される。処理回路は、プロセッサがソフトウェアを実行する回路であっても良いし、専用の回路であっても良い。処理回路がソフトウェアにより実現される場合、処理回路は、例えば、図5に示す制御回路である。図5は、実施の形態1にかかる制御回路30の構成例を示す図である。
【0044】
制御回路30は、入力部31、プロセッサ32、メモリ33および出力部34を備える。入力部31は、信号処理器4の外部から入力されたデータを受信してプロセッサ32に与えるインターフェース回路である。出力部34は、プロセッサ32またはメモリ33からのデータを信号処理器4の外部に送るインターフェース回路である。
【0045】
処理回路が図5に示す制御回路30である場合、目標運動計算部10、運動エネルギー評価部11、継続時間設定部12、目標機動設定部13、会合成立性評価部14、誘導指令生成部15、および誘導指令切替部16の各部は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアまたはファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ33に格納される。処理回路では、メモリ33に記憶されたプログラムをプロセッサ32が読み出して実行することにより、信号処理器4の各部の機能を実現する。すなわち、処理回路は、信号処理器4の処理が結果的に実行されることになるプログラムを格納するためのメモリ33を備える。また、これらのプログラムは、信号処理器4の手順および方法をコンピュータに実行させるものであるともいえる。
【0046】
プロセッサ32は、CPU(Central Processing Unit、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、またはDSP(Digital Signal Processor)ともいう)である。メモリ33は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等の、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスクまたはDVD(Digital Versatile Disc)等が該当する。
【0047】
図5は、汎用のプロセッサ32およびメモリ33により各構成要素を実現する場合のハードウェアの例であるが、信号処理器4は、専用のハードウェア回路により実現されても良い。図6は、実施の形態1にかかる専用のハードウェア回路35の構成例を示す図である。
【0048】
専用のハードウェア回路35は、入力部31、出力部34および処理回路36を備える。処理回路36は、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせた回路である。信号処理器4の各部を機能別に処理回路36で実現しても良いし、各機能をまとめて処理回路36で実現しても良い。なお、信号処理器4は、制御回路30とハードウェア回路35とが組み合わされて実現されても良い。
【0049】
実施の形態1によると、誘導装置1は、飛しょう体20の運動エネルギーの損失量を表す評価値を求めて評価値が減少する態様により予測誘導項を修正し、評価値が収束したときにおける予測誘導項を基に第1の誘導指令を算出する。これにより、誘導装置1は、飛しょう体20が飛しょうしているときにおける目標変更の許容度を高くすることができるという効果を奏する。また、誘導装置1は、飛しょう体20と目標21との会合の成立性を評価した結果に基づいて第1の誘導指令の出力と第2の誘導指令の出力とを切り替えることによって、目標21へ飛しょう体20を誘導することと、飛しょう体20が飛しょうしているときにおける目標変更の許容度を高くすることとの両立が可能となる。
【0050】
以上の実施の形態に示した構成は、本開示の内容の一例を示すものである。実施の形態の構成は、別の公知の技術と組み合わせることが可能である。本開示の要旨を逸脱しない範囲で、実施の形態の構成の一部を省略または変更することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 誘導装置、2 受信器、3 慣性装置、4 信号処理器、10 目標運動計算部、11 運動エネルギー評価部、12 継続時間設定部、13 目標機動設定部、14 会合成立性評価部、15 誘導指令生成部、16 誘導指令切替部、20,27,28 飛しょう体、21 目標、22,23 予測航路、24,26 矢印、25 点、30 制御回路、31 入力部、32 プロセッサ、33 メモリ、34 出力部、35 ハードウェア回路、36 処理回路。
図1
図2
図3
図4
図5
図6