(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176589
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】Ni-Al-X系合金材料、Ni-Al-X系合金製造物および該製造物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 19/03 20060101AFI20231206BHJP
C22C 19/05 20060101ALI20231206BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20231206BHJP
B22F 5/04 20060101ALI20231206BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20231206BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20231206BHJP
B22F 10/64 20210101ALI20231206BHJP
C22C 1/04 20230101ALI20231206BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20231206BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20231206BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20231206BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C22C19/03 H
C22C19/05 C
B22F10/28
B22F5/04
B22F1/00 M
B22F1/05
B22F10/64
C22C1/04 B
B33Y80/00
B33Y70/00
B33Y10/00
C22C30/00
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088948
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】池田 稜平
(72)【発明者】
【氏名】太田 敦夫
(72)【発明者】
【氏名】今野 晋也
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA07
4K018BA04
4K018BB04
4K018KA12
4K018KA23
(57)【要約】
【課題】微細組織が制御されたNi-Al系合金β相物品および該物品を得るための合金材料を提供する。
【解決手段】本発明に係るNi-Al-X系合金材料は、20原子%以上30原子%以下のAlと、10原子%以上35原子%以下のXと、100質量ppm以上300質量ppm以下のOと、Niおよび不可避不純物の残部とからなる合金組成を有し、前記XはFe、Co、CrまたはTiであり、B2構造を有するβ相の結晶粒の中に、平均サイズが0.3μm以上5μm以下の偏析セルが形成しており、該偏析セルの境界領域には前記Ni-Al-X系合金の構成成分の一部が偏析している、ことを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni-Al-X系合金材料であって、
20原子%以上30原子%以下のAlと、10原子%以上35原子%以下のXと、100質量ppm以上300質量ppm以下のOと、Niおよび不可避不純物の残部とからなる合金組成を有し、
前記XはFe、Co、CrまたはTiであり、
母結晶粒の中に、平均サイズが0.3μm以上5μm以下の偏析セルが形成しており、該偏析セルの境界領域には前記Ni-Al-X系合金の構成成分の一部が偏析している、
ことを特徴とするNi-Al-X系合金材料。
【請求項2】
請求項1に記載のNi-Al-X系合金材料において、
前記Ni-Al-X系合金材料は、粉末であり、該粉末の粒子径が5μm以上100μm以下の範囲にあることを特徴とするNi-Al-X系合金材料。
【請求項3】
請求項1に記載のNi-Al-X系合金材料において、
前記Ni-Al-X系合金材料は、付加造形体であり、前記母結晶粒の平均粒径が5μm以上20μm以下の範囲にあることを特徴とするNi-Al-X系合金材料。
【請求項4】
Ni-Al-X系合金製造物であって、
20原子%以上30原子%以下のAlと、10原子%以上35原子%以下のXと、100質量ppm以上300質量ppm以下のOと、Niおよび不可避不純物の残部とからなる合金組成を有し、
前記XはFe、Co、CrまたはTiであり、
前記Ni-Al-X系合金製造物は、B2構造を有するβ相の結晶粒からなり、該結晶粒の平均粒径が5μm以上30μm以下の範囲にある、
ことを特徴とするNi-Al-X系合金製造物。
【請求項5】
請求項4に記載のNi-Al-X系合金製造物において、
前記Ni-Al-X系合金製造物は、室温の引張強さが1200 MPa以上であり、室温の比強度が170 MPa/(g/cm3)以上であることを特徴とするNi-Al-X系合金製造物。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載のNi-Al-X系合金製造物において、
前記Ni-Al-X系合金製造物は、タービン静翼、タービン動翼、タービン燃焼器ノズルまたは熱交換器であることを特徴とするNi-Al-X系合金製造物。
【請求項7】
請求項4又は請求項5に記載のNi-Al-X系合金製造物の製造方法であって、
前記合金組成を有するNi-Al-X系合金粉末を用意する合金粉末用意工程と、
前記Ni-Al-X系合金粉末を敷き詰めて所定厚さの合金粉末床を用意する合金粉末床用意素工程と、前記合金粉末床の所定の領域にレーザ光を照射して該領域の前記Ni-Al-X系合金粉末を局所溶融急速凝固させるレーザ溶融凝固素工程と、を繰り返して付加造形体を形成する選択的レーザ溶融工程と、
前記付加造形体に対して、1200℃以上1400℃以下の温度範囲の熱処理を施して前記β相の単相組織を生成させるβ相単相化熱処理工程とを有し、
前記Ni-Al-X系合金粉末は、その粒子径が5μm以上100μm以下の範囲にあり、母結晶粒の中に平均サイズが0.3μm以上5μm以下の偏析セルが形成しており、該偏析セルの境界領域には前記Ni-Al-X系合金の構成成分の一部が偏析している、
ことを特徴とするNi-Al-X系合金製造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ni基合金材料の技術に関し、特にNi-Al-X(X=Fe、Co、CrまたはTi)合金材料、該材料から製造したNi-Al-X系合金製造物および該製造物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護のため、移動機械や発電プラントにおけるCO2ガスの排出削減を目指して、原動機の効率向上の技術開発に多大な努力がはらわれている。これらの技術は主流体温度の高温化を伴うことが多く、主流体温度の高温化に耐えかつ要求される機械的特性(例えば、引張特性)を満たす耐熱合金材料の開発も重要な課題の一つである。
【0003】
Ni(ニッケル)基合金材料は、代表的な耐熱合金材料であり、超合金とも称されて高温環境下で使用される部材(例えば、タービン動翼、タービン静翼、ロータディスク、燃焼器部材、ボイラー部材、ターボチャージャー部材、排気バルブ部材など)に広く用いられている。今までに行われてきた種々の合金組成改良および製造プロセス改良によって、現在ではL12構造を有するγ’相(例えばNi3(Al,Ti)相)による析出強化がNi基合金材料の主流になっている。
【0004】
一方、原動機の効率向上の技術課題に対し、使用部材の軽量化/慣性質量低減は有効なアプローチのうちの一つである。使用部材の軽量化/慣性質量低減により、原動機全体としての軽量化や出力変動に対するレスポンス向上が可能になり、燃料消費率の低減に寄与することができる。
【0005】
Ni基合金材料の軽量化に関して、例えば特許文献1(特開平5-86431)がある。特許文献1には、約48乃至約57原子%のNi、約0.01乃至約0.5原子%のFe(鉄)及び残部のAl(アルミニウム)から成るβ相アルミニウム化ニッケル合金、が開示されている。特許文献1によると、当該β相アルミニウム化ニッケル合金は、従来のNi基超合金の約2/3の密度を有すると共に、高い塑性加工性を示すとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Ni-Al系合金のβ相は、金属間化合物相であるため、微細組織制御の観点で技術的に未解明な領域がまだ多く残っており、広く利用される実用材料に至っていない。しかしながら、Ni-Al系合金β相の軽量性は大変魅力的であり、合金物品の微細組織を効果的に制御することができれば実用材料化が期待される。
【0008】
本発明の目的は、Ni-Al系合金β相物品の微細組織を制御する技術(微細組織が制御されたNi-Al系合金β相物品および該物品を得るための合金材料)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(I)本発明の一態様は、Ni-Al-X系合金材料であって、
20原子%以上30原子%以下のAlと、10原子%以上35原子%以下のXと、100質量ppm以上300質量ppm以下のO(酸素)と、Niおよび不可避不純物の残部とからなる合金組成を有し、
前記XはFe、Co(コバルト)、Cr(クロム)またはTi(チタン)であり、
母結晶粒の中に、平均サイズが0.3μm以上5μm以下の偏析セルが形成しており、該偏析セルの境界領域には前記Ni-Al-X系合金の構成成分の一部が偏析している、
ことを特徴とするNi-Al-X系合金材料を提供するものである。
【0010】
本発明は、上記のNi-Al-X系合金材料(I)において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(i)前記Ni-Al-X系合金材料は、粉末であり、該粉末の粒子径が5μm以上100μm以下の範囲にある。
(ii)前記Ni-Al-X系合金材料は、付加造形体であり、前記母結晶粒の平均粒径が5μm以上20μm以下の範囲にある。
【0011】
(II)本発明の他の一態様は、Ni-Al-X系合金製造物であって、
20原子%以上30原子%以下のAlと、10原子%以上35原子%以下のXと、100質量ppm以上300質量ppm以下のOと、Niおよび不可避不純物の残部とからなる合金組成を有し、
前記XはFe、Co、CrまたはTiであり、
前記Ni-Al-X系合金製造物は、B2構造を有するβ相の結晶粒からなり、該結晶粒の平均粒径が5μm以上30μm以下の範囲にある、
ことを特徴とするNi-Al-X系合金製造物を提供するものである。
【0012】
本発明は、上記のNi-Al-X系合金製造物(II)において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(iii)前記Ni-Al-X系合金製造物は、室温の引張強さが1200 MPa以上であり、室温の比強度が170 MPa/(g/cm3)以上である。
(iv)前記Ni-Al-X系合金製造物は、タービン静翼、タービン動翼、タービン燃焼器ノズルまたは熱交換器である。
【0013】
(III)本発明の更に他の一態様は、上記のNi-Al-X系合金製造物の製造方法であって、
前記合金組成を有するNi-Al-X系合金粉末を用意する合金粉末用意工程と、
前記Ni-Al-X系合金粉末を敷き詰めて所定厚さの合金粉末床を用意する合金粉末床用意素工程と、前記合金粉末床の所定の領域にレーザ光を照射して該領域の前記Ni-Al-X系合金粉末を局所溶融急速凝固させるレーザ溶融凝固素工程と、を繰り返して付加造形体を形成する選択的レーザ溶融工程と、
前記付加造形体に対して、1200℃以上1400℃以下の温度範囲の熱処理を施して前記β相の単相組織を生成させるβ相単相化熱処理工程とを有し、
前記Ni-Al-X系合金粉末は、その粒子径が5μm以上100μm以下の範囲にあり、母結晶粒の中に平均サイズが0.3μm以上5μm以下の偏析セルが形成しており、該偏析セルの境界領域には前記Ni-Al-X系合金の構成成分の一部が偏析している、
ことを特徴とするNi-Al-X系合金製造物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、Ni-Al系合金β相物品の微細組織を制御するためのNi-Al-X(X=Fe、Co、CrまたはTi)合金材料、該材料から製造したNi-Al-X系合金製造物および該製造物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係るNi-Al-X系合金製造物の製造方法の工程例を示すフロー図である。
【
図2】合金粉末用意工程で得られるNi-Al-X系合金粉末の微細組織の一例を示す走査型電子顕微鏡(SEM)観察像である。
【
図3】選択的レーザ溶融工程で得られるNi-Al-X系合金付加造形体の微細組織の一例を示すSEM観察像である。
【
図4】β相単相化熱処理工程で得られるNi-Al-X系合金製造物の微細組織の一例を示すSEM観察像である。
【
図5】本発明に係るNi-Al-X系合金製造物の一例であり、高温部材としてのタービン動翼を示す斜視模式図である。
【
図6】本発明に係るNi-Al-X系合金製造物の他の一例であり、高温部材としてのタービン静翼を示す斜視模式図である。
【
図7】本発明に係る高温部材を装備するガスタービンの一例を示す断面模式図である。
【
図8】本発明に係るNi-Al-X系合金製造物の他の一例であり、高温部材としての熱交換器を示す斜視模式図である。
【
図9】参照合金材料RM-1の鍛造体のSEM観察像である。
【
図10】参照合金製造物RP-1のSEM観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[本発明の基本思想]
従来技術において、Ni-Al系合金材料の研究開発は、鋳造物品を対象として行われていることが多い。鋳造物品における析出相は、基本的に相平衡状態図に合致するものであり、当該物品の形状や微細組織の制御は、しばしば塑性加工と熱処理との組み合わせによって行われる。
【0017】
これに対し、本発明では、合金物品の製造方法として付加造形法(AM法)を利用する。AM法による合金物品の製造は、複雑形状を有する物品であってもニアネットシェイプで直接的に造形できることから、製造ワークタイムの短縮や製造歩留まりの向上の観点(すなわち、製造コストの低減の観点)で有用になると近年期待されている技術である。
【0018】
本発明者等は、Ni-Al系合金β相物品の微細組織を制御する技術について鋭意研究を行った結果、母材料の段階の微細組織を制御することに解の可能性を見出し、本発明を完成させた。
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る実施形態を製造手順に沿って説明する。
【0020】
[Ni-Al-X系合金製造物の製造方法]
図1は、本発明に係るNi-Al-X系合金製造物の製造方法の工程例を示すフロー図である。本発明に係るNi-Al-X系合金製造物の製造方法は、概略的に、母材料となるNi-Al-X系合金粉末を用意する合金粉末用意工程S1と、用意したNi-Al-X系合金粉末を用いて所望形状のAM体を形成する選択的レーザ溶融工程S2と、形成したAM体に対してβ相の単相組織を生成させる熱処理を行うβ相単相化熱処理工程S3とを有する。工程S1で得られる合金粉末および工程S2で得られるAM体は、それぞれ本発明に係るNi-Al-X系合金材料の一形態であり、工程S3で得られるAM-熱処理物品は、本発明に係るNi-Al-X系合金製造物の一形態となる。
【0021】
なお、必要に応じて、工程S3で得られたAM-熱処理物品に対して、表面処理層(例えば、熱遮蔽被覆:TBC)を形成したり表面仕上げをしたりする仕上工程S4を更に行ってもよい。工程S4は、必須の工程ではないが、Ni-Al-X系合金製造物の形状や使用環境を考慮して適宜行えばよい。工程S4を経たAM-熱処理物品も、本発明に係るNi-Al-X系合金製造物の一形態となる。表面処理層の形成が熱処理を伴うものであり、かつ当該熱処理温度が工程S3の温度条件に合致する場合は、工程S3と工程S4とを同時に行うことに相当する。
【0022】
以下、各工程をより詳細に説明する。
【0023】
(合金粉末用意工程)
本工程S1は、所定の合金組成を有するNi-Al-X系合金粉末を用意する工程である。該合金組成は、20原子%以上30原子%以下のAlと、10原子%以上35原子%以下のXと、100質量ppm以上300質量ppm以下のOとを含み、残部がNiおよび不可避不純物からなることが好ましい。X成分としては、Fe、Co、CrまたはTiが好ましい。
【0024】
Ni、AlおよびX成分の含有率を好ましい範囲内に制御することにより、最終的な合金製造物においてβ相の単相組織を生成させることができる。また、O成分の含有率を好ましい範囲内に制御することにより、最終的な合金製造物においてβ相結晶粒が微細化して、合金製造物の良好な機械的特性に寄与することができる。言い換えると、合金組成を好ましい範囲内に制御することにより母材料の微細組織を制御でき、その結果、最終的な合金製造物の微細組織を制御できる。
【0025】
Al成分の下限は、22原子%以上がより好ましく、24原子%以上が更に好ましい。Al成分の上限は、28原子%以下がより好ましく、26原子%以下が更に好ましい。X成分の下限は、12原子%以上がより好ましく、14原子%以上が更に好ましい。X成分の上限は、34原子%以下がより好ましく、33原子%以下が更に好ましい。また、O成分の下限は、110質量ppm以上がより好ましく、120質量ppm以上が更に好ましい。O成分の上限は、280質量ppm以下がより好ましく、250質量ppm以下が更に好ましい。
【0026】
合金粉末を用意する方法・手法としては、基本的に従前の方法・手法を利用できる。例えば、所望の合金組成となるように原料を混合・溶解・鋳造して母合金塊(マスターインゴット)を作製する母合金塊作製素工程(S1a)と、該母合金塊から合金粉末を形成するアトマイズ素工程(S1b)とを行えばよい。
【0027】
O含有率の制御をアトマイズ素工程S1bで行うことは好ましい。アトマイズ方法は、基本的に従前の方法・手法を利用できる。例えば、アトマイズ雰囲気中の酸素量(酸素分圧)を制御しながらのガスアトマイズ法や遠心力アトマイズ法を好ましく用いることができる。
【0028】
合金粉末の粒径は、次工程の選択的レーザ溶融工程S2におけるハンドリング性や合金粉末床の充填性の観点から、5μm以上100μm以下が好ましく、10μm以上70μm以下がより好ましく、10μm以上50μm以下が更に好ましい。合金粉末の粒径が5μm未満になると、次工程S2において合金粉末の流動性が低下し(合金粉末床の形成性が低下し)、AM体の形状精度が低下する要因となる。一方、合金粉末の粒径が100μm超になると、次工程S2において合金粉末床の局所溶融・急速凝固の制御が難しくなり、合金粉末の溶融が不十分になったりAM体の表面粗さが増加したりする要因となる。
【0029】
上記のことから、合金粉末の粒径を5μm以上100μm以下の範囲に分級する合金粉末分級素工程(S1c)を行うことは、好ましい。なお、本発明においては、得られた合金粉末の粒径分布を測定した結果、所望の範囲内にあることを確認した場合も、本素工程S1cを行ったものと見なす。工程S1によって得られた合金粉末は、本発明に係るNi-Al-X系合金材料の一形態となる。
【0030】
図2は、合金粉末用意工程S1で得られるNi-Al-X系合金粉末の微細組織の一例を示す走査型電子顕微鏡(SEM)観察像である。工程S1で得られるNi-Al-X系合金粉末は、各粒子を構成する結晶粒の中に、平均サイズが0.3μm以上5μm以下の偏析セルが形成している。エネルギー分散型X線分析装置(EDX)を用いて偏析セルの組成分布を調査したところ、Ni-Al-X系合金の構成成分の一部が偏析セルの境界領域(微小セルの外周領域、細胞壁のような領域)に偏析していることを確認した。言い換えると、合金構成成分の一部が細胞壁のような境界領域に偏析して細胞状の微細組織を形成しているものを偏析セルと称している。
【0031】
なお、本発明において、偏析セルのサイズとは、基本的に長径と短径との平均と定義するが、長径と短径とのアスペクト比が3以上の場合は、短径の2倍を採用するものとする。
【0032】
(選択的レーザ溶融工程)
選択的レーザ溶融工程S2は、用意したNi-Al-X系合金粉末を用いて選択的レーザ溶融(SLM)法により所望形状のAM体を形成する工程である。具体的には、Ni-Al-X系合金粉末を敷き詰めて所定厚さの合金粉末床を用意する合金粉末床用意素工程(S2a)と、合金粉末床の所定の領域にレーザ光を照射して該領域のNi-Al-X系合金粉末を局所溶融・急速凝固させるレーザ溶融凝固素工程(S2b)と、を繰り返してAM体を形成する工程である。
【0033】
本工程S2においては、最終的なNi-Al-X系合金製造物で望ましい微細組織を得るために、合金粉末床の局所溶融・急速凝固を制御してAM体の微細組織を制御する。
【0034】
図3は、選択的レーザ溶融工程S2で得られるNi-Al-X系合金AM体の微細組織の一例を示すSEM観察像である。工程S2で得られるNi-Al-X系合金AM体は、AM体を構成する母結晶粒(平均粒径5μm以上20μm以下)の中に、平均サイズが0.3μm以上5μm以下の偏析セルが形成している。EDXを用いて偏析セルの組成分布を調査したところ、工程S1で得られる合金粉末と同様に、Ni-Al-X系合金の構成成分の一部が偏析セルの境界領域に偏析していることが確認された。工程S2によって得られたAM体も、本発明に係るNi-Al-X系合金材料の一形態となる。
【0035】
(β相単相化熱処理工程)
β相単相化熱処理工程S3は、形成したNi-Al-X系合金AM体をβ相の単相組織にする熱処理工程である。β相単相化熱処理の温度は、1200℃以上1400℃以下が好ましく、1250℃以上1350℃以下がより好ましい。β相単相化熱処理における保持時間に特段の限定はなく、被熱処理体の体積/熱容量や温度を考慮して適宜設定すればよい。熱処理後の冷却方法にも特段の限定はなく、水冷、油冷、空冷、炉冷のいずれでも構わない。
【0036】
工程S3によって、AM体内で偏析セルの均質化(偏析していた成分の均質化)と結晶粒の再結晶とが生じてβ相の単相組織となる。同時に、前工程S2の急速凝固の際に生じる可能性のあるAM体の内部ひずみを緩和することができる。再結晶の際に、β相結晶粒の平均結晶粒径を5μm以上30μm以下の範囲に制御することが好ましい。当該範囲に平均結晶粒径を制御することにより、望ましい機械的特性(例えば、引張強さ、延性)を確保することができる。
【0037】
工程S3で得られるAM-熱処理物品は、本発明に係るNi-Al-X系合金製造物の一形態となる。
【0038】
なお、本発明のNi-Al-X系合金製造物は、O成分の含有率を所定の範囲内に制御していることから、再結晶で生成するβ相結晶粒が過度に粗大化することなく、平均粒径で5~30μmの範囲に微細化していると考えられる。
【0039】
図4は、β相単相化熱処理工程S3で得られるNi-Al-X系合金製造物の微細組織の一例を示すSEM観察像である。当該微細組織は、隣り合う母相結晶粒の間にγ相などの他相が介在しておらず、β相の単相組織になっていることが確認される。
【0040】
(仕上工程)
前述したように、仕上工程S4は、工程S3を経たAM-熱処理物品に対して、表面処理層を形成したり表面仕上げをしたりする工程である。本工程S4は必須の工程ではないが、Ni-Al-X系合金製造物の用途・使用環境に応じて適宜行えばよい。表面処理層の形成や表面仕上げに特段の限定はなく、従前の方法を適宜利用できる。本工程S4を経たAM-熱処理物品も、本発明に係るNi-Al-X系合金製造物の一形態となる。
【0041】
[Co基合金製造物]
図5は、本発明に係るNi-Al-X系合金製造物の一例であり、高温部材としてのタービン動翼を示す斜視模式図である。タービン動翼100は、概略的に、翼部110とシャンク部120とルート部(ダブティル部とも言う)130とから構成される。シャンク部120は、プラットホーム121とラジアルフィン122とを備えている。翼部110の内部には、しばしば冷却構造が形成される。
【0042】
図6は、本発明に係るNi-Al-X系合金製造物の他の一例であり、高温部材としてのタービン静翼を示す斜視模式図である。タービン静翼200は、概略的に、翼部210と内輪側エンドウォール220と外輪側エンドウォール230とから構成される。翼部210の内部には、しばしば冷却構造が形成される。
【0043】
図7は、本発明に係る高温部材を装備するガスタービンの一例を示す断面模式図である。ガスタービン300は、概略的に、吸気を圧縮する圧縮機部310と燃料の燃焼ガスをタービン翼に吹き付けて回転動力を得るタービン部320とから構成される。本発明の高温部材は、タービン部320内のタービンノズル321やタービン動翼100やタービン静翼200として好適に用いることができる。
【0044】
本発明の高温部材は、ガスタービン用途に限定されるものではなく、他のタービン用途(例えば、蒸気タービン用途)であってもよいし、他の機械/装置における高温環境下で使用される部材であってもよい。
【0045】
図8は、本発明に係るNi-Al-X系合金製造物の他の一例であり、高温部材としての熱交換器を示す斜視模式図である。熱交換器400は、プレートフィン型熱交換器の例であり、基本的にセパレート層410とフィン層420とが交互に積層された構造を有している。フィン層420の流路幅方向の両端は、サイドバー部430で封じられている。隣接するフィン層420に高温流体と低温流体とを交互に流通させることにより、高温流体と低温流体との間で熱交換がなされる。
【0046】
本発明に係る熱交換器400は、従来の熱交換器における構成部品(例えば、セパレートプレート、コルゲートフィン、サイドバー)をろう付け接合や溶接接合することなしに一体形成されることから、従来の熱交換器よりも耐熱化や軽量化することができる。また、流路表面に適切な凹凸形状を形成することにより、流体を乱流化して熱伝達効率を向上させることができる。熱伝達効率の向上は、熱交換器の小型化につながる。
【実施例0047】
以下、実験例により本発明をさらに具体的に説明する。
【0048】
[実験1]
(発明合金材料IM-1~IM-2および参照合金材料RM-1の作製)
表1に示す化学組成を有するNi-Al-X系合金材料を用意した。発明合金材料IM-1~IM-2は、本発明に係る合金組成を有するNi-Al-X系合金材料であり、参照合金材料RM-1は、O含有率が本発明の規定を外れるNi-Al-X系合金材料である。IM-1~IM-2およびRM-1においては、X成分をFeとした。
【0049】
【0050】
各合金材料は次のような手順で作製した。まず、原料を混合した後、真空高周波誘導溶解法により溶解・鋳造して母合金塊(質量:約2 kg)を作製する母合金塊作製素工程S1aを行った。次に、該母合金塊を再溶解して、雰囲気中の酸素分圧を制御しながらのガスアトマイズ法により合金粉末を形成するアトマイズ素工程S1bを行って、IM-1~IM-2の合金粉末を作製した。
【0051】
得られたIM-1~IM-2の合金粉末に対して、合金粉末の粒径を制御するための合金粉末分級素工程S1cを行って粉末粒径を5~25μmの範囲に分級した。
【0052】
つぎに、IM-1~IM-2の合金粉末を用いてSLM法により直方体形状(40 mm×10 mmの面×40 mmの高さ、面が合金粉末床の敷設面、高さ方向が造形方向)のAM体を形成した(選択的レーザ溶融工程S2)。SLM条件は、レーザ光の出力Pを95 W、合金粉末床の厚さhを25μmとし、レーザ光の走査速度S(mm/s)を種々変更することによって局所入熱量P/S(単位:W・s/mm=J/mm)を制御した。なお、局所入熱量の制御は、冷却速度の制御に相当する。
【0053】
一方、RM-1に関しては、合金の清浄度を高める(少なくともO成分含有率を低下させる)ため、母合金塊に対して真空アーク再溶解(VAR)法による再溶解・清浄化を行って、RM-1の合金鋳塊を作製した。その後、熱間鍛造を行って円柱形状(直径15 mm×高さ800 mm)の鍛造体を形成した。
【0054】
[実験2]
(発明合金製造物IP-1~IP-2および参照合金製造物RP-1の作製)
実験1で用意したIM-1~IM-2のAM体およびRM-1の鍛造体に対して、1300℃で15分間保持した後に水冷するβ相単相化熱処理を施して、発明合金製造物IP-1~IP-2および参照合金製造物RP-1を作製した。
【0055】
[実験3]
(合金材料および合金製造物の性状調査)
実験1~実験2で作製した発明合金材料IM-1~IM-2(それぞれ合金粉末とAM体)、参照合金材料RM-1(鍛造体)、発明合金製造物IP-1~IP-2、および参照合金製造物RP-1から、微細組織観察用の試験片をそれぞれ採取し、微細組織観察(SEM観察)を行った。さらに、得られたSEM観察像に対して画像処理ソフトウェア(ImageJ、米国National Institutes of Health(NIH)開発のパブリックドメインソフトウェア)を用いた画像解析により、偏析セルの平均サイズおよび結晶粒の平均粒径を測定した。
【0056】
また、微細組織観察用の試験片を用いて、X線回折(XRD)測定による結晶相の同定と試料の密度測定とを行った。
【0057】
実験2で作製したIP-2およびRP-1から、機械的特性試験用の試験片をそれぞれ採取し、室温引張試験を行って引張強さを測定した。
【0058】
【0059】
図2はIM-1の合金粉末のSEM観察像であり、
図3はIM-2のAM体のSEM観察像であり、
図4はIP-2のSEM観察像である。
図9はRM-1の鍛造体のSEM観察像であり、
図10はRP-1のSEM観察像である。
【0060】
IM-1の合金粉末は、各粒子を構成する結晶粒の中に平均サイズが0.3μm以上5μm以下の偏析セルが形成しており、IM-2のAM体も、AM体を構成する結晶粒の中に平均サイズが0.3μm以上5μm以下の偏析セルが形成している(
図2~
図3参照)。また、IP-2では、平均粒径が5μm以上30μm以下の範囲にあるβ相結晶粒からなる単相組織になっている(
図4参照)。
【0061】
これらに対し、
図9に示したように、RM-1の鍛造体は、平均粒径が100μm以上のβ相母相結晶粒の間にγ相結晶が介在する二相組織になっている。また、
図10に示したように、RP-1は、β相結晶粒からなる単相組織になっているが、β相結晶粒の平均粒径が400μm以上に粗大化している。
【0062】
【0063】
表2に示したように、本発明の合金製造物IP-2は、従来の鋳造-鍛造製造物RP-1に比して、β相の平均粒径が1桁以上小さく、引張強さが1.5倍以上高いことが分かる。
【0064】
1200 MPa以上の室温引張強さは、従来のγ’相(L12構造)析出強化Ni基合金物品(例えば、Alloy 718物品)と同等である。一方、発明合金製造物の密度6.97 g/cm3は、Alloy 718物品の密度8.19 g/cm3に比して約15%軽量である。すなわち、本発明の合金製造物は、従来のγ’相析出強化Ni基合金物品よりも比強度(引張強さを密度で除したもの)が高い。言い換えると、Alloy 718物品と同じ機械的強度を確保する場合に、より薄く・軽くすることができる。
【0065】
なお、発明合金製造物の比強度約190 MPa/(g/cm3)は、代表的なAl基合金物品の比強度(A2024(超ジュラルミン)の約160 MPa/(g/cm3)を優に超え、高比強度材として知られているA7075(超々ジュラルミン)の約190 MPa/(g/cm3))と同等の比強度を有し、発明合金製造物の体積引張強さは、当該Al基合金の3倍以上である。
【0066】
これらの実験結果から、本発明に係る合金製造物および該合金製造物の基となる合金材料は、従来のγ’相析出強化Ni基合金と同等の機械的特性を示しながら軽量化することができる。
【0067】
なお、本明細書では割愛したが、X成分をCo、CrまたはTiとした場合も上記と同様の結果が得られることを別途確認している。
【0068】
上述した実施形態や実験例は、本発明の理解を助けるために説明したものであり、本発明は、記載した具体的な構成のみに限定されるものではない。例えば、実施形態の構成の一部を当業者の技術常識の構成に置き換えることが可能であり、また、実施形態の構成に当業者の技術常識の構成を加えることも可能である。すなわち、本発明は、本明細書の実施形態や実験例の構成の一部について、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。
100…タービン動翼、110…翼部、120…シャンク部、121…プラットホーム、122…ラジアルフィン、130…ルート部、200…タービン静翼、210…翼部、220…内輪側エンドウォール、230…外輪側エンドウォール、300…ガスタービン、310…圧縮機部、320…タービン部、321…タービンノズル、400…熱交換器、410…セパレート層、420…フィン層、430…サイドバー部。