(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176600
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】光硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/58 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
C08G59/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088965
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】川島 啓佑
(72)【発明者】
【氏名】名和 穂菜美
(72)【発明者】
【氏名】松野 行壮
(72)【発明者】
【氏名】五十井 浩平
【テーマコード(参考)】
4J036
【Fターム(参考)】
4J036AD08
4J036AD11
4J036AD12
4J036DB21
4J036DB22
4J036DC26
4J036DC39
4J036HA02
4J036JA01
4J036JA07
(57)【要約】
【課題】金属被着体への腐食性を低減しつつ、優れた低温硬化性(具体的には、100℃未満の温度で硬化する性質)を有する光硬化性組成物を提供する。
【解決手段】本発明の光硬化性組成物は、
(A)成分:エポキシ基を1つ以上有し、エポキシ当量が100~200であるエポキシ樹脂と、
(B)成分:活性エネルギー線照射後に酸解離定数(pKa)13以上の強塩基を発生させる光塩基発生剤と、
(C)成分:カルボキシル基を1つ以上有する酸無水物と
を含んで成り、
前記(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計質量を100質量部としたとき、
前記(B)成分を5~10質量部含み、
前記(C)成分を20~30質量部含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:エポキシ基を1つ以上有し、エポキシ当量が100~200であるエポキシ樹脂と、
(B)成分:活性エネルギー線照射後に酸解離定数(pKa)13以上の強塩基を発生させる光塩基発生剤と、
(C)成分:カルボキシル基を1つ以上有する酸無水物と
を含んで成り、
前記(A)成分、前記(B)成分および前記(C)成分の合計質量を100質量部としたとき、
前記(B)成分を5~10質量部含み、
前記(C)成分を20~30質量部含む、光硬化性組成物。
【請求項2】
前記(B)成分は、2-(2-ニトロフェニル)プロピロキシカルボニル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジンである、請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項3】
前記(C)成分は、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸1,2-無水物である、請求項1または2に記載の光硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線などの活性エネルギー線の照射により液状から固体状に変化する光硬化性組成物は、熱により硬化する熱硬化性組成物と比較して、低い温度で硬化し得ることから省エネルギーの材料として、例えば、接着剤、コーティング材、およびレジスト材の用途で使用される。特に、耐熱性、絶縁性、および密着性などに優れるエポキシ樹脂を成分とする光硬化性組成物は、電子デバイス、および電子機器の製造過程で使用される。
【0003】
光硬化性組成物は、一般的に開始剤が光照射により発生する成分によって、ラジカル型、カチオン型、およびアニオン型の3種類に分類される。
実用化されているものとして、ラジカル型が主流である。一方でラジカル型の場合、空気中の酸素により重合反応が阻害されることから、酸素を遮断するために、特別な工夫が必要とされている。また、カチオン型の場合は酸素による重合反応の阻害がない一方で、開始剤から発生した、強酸が硬化後も残存するために、電子デバイスの接合に使用する際に金属の腐食が問題となる。
このような背景から、酸素阻害がなく、酸による金属腐食の問題が少ないアニオン型が注目されている。
【0004】
例えば、特許文献1に記載のアニオン型光硬化性組成物では、開始剤として、光塩基発生剤を用いることで、カチオン型の開始剤で発生する酸の腐食性を解決している。一方で、エポキシ樹脂への高い反応性により、硬化剤としてチオール系を用いることが検討されている。一方で、チオール系硬化剤を使用することにより、硫黄成分が硬化物中に残存し、臭気性や銀腐食性の問題がある。
そのため、特許文献2に記載のアニオン型硬化性組成物では、硬化剤として、酸無水物系が用いられており、硫黄成分の残存の懸念がなく、銀腐食性を解決している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-172672号公報
【特許文献2】特開2021-109924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、特許文献2に記載のアニオン型光硬化性組成物は酸無水物を含んで成るため、反応性が低く、硬化反応を促進させるために140℃以上での熱を加える必要があることを見出した。さらに、本発明者らは、当該アニオン型光硬化性組成物を140℃未満の弱耐熱性部品などの電子デバイスの接合用途に適用できないことを見出した。このように従来の光硬化性組成物では、金属被着体への腐食性を低減しつつ、低温(例えば、100℃未満の温度)で効果的に硬化することができなかった。
【0007】
本発明は、金属被着体(具体的には、銀被着体)への腐食性を低減しつつ、優れた低温硬化性(具体的には、100℃未満の温度で硬化する性質)を有する光硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の光硬化性組成物は、上記の課題を解決するために、
(A)成分:エポキシ基を1つ以上有し、エポキシ当量が100~200であるエポキシ樹脂と、
(B)成分:活性エネルギー線照射後に酸解離定数(pKa)13以上の強塩基を発生させる光塩基発生剤と、
(C)成分:カルボキシル基を1つ以上有する酸無水物と
を含んで成り、
前記(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計質量を100質量部としたとき、
前記(B)成分を5~10質量部含み、
前記(C)成分を20~30質量部含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の光硬化性組成物は、金属被着体への腐食性を低減しつつ、優れた低温硬化性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施例1~5の光硬化性組成物の組成および評価結果を示す表である。
【
図2】
図2は、比較例1~6の光硬化性組成物の組成および評価結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、具体的に説明する。本発明はかかる実施形態に限定されるものではない。本発明は、本発明の目的の範囲で、適宜変更して実施することできる。
【0012】
本明細書で言及する数値範囲は、「未満」、「より大きい」および「より小さい」のような特段の用語が付されない限り、下限値および上限値そのものも含むことを意図している。例えば、100~200といった数値範囲を例にとれば、その数値範囲は下限値「100」および上限値「200」を含むものとして解釈される。
【0013】
以下、光硬化性組成物について詳細に記載する。
【0014】
<光硬化性組成物>
本発明の実施形態(以下、本実施形態と称する)に係る光硬化性組成物は
(A)成分:エポキシ基を1つ以上有し、エポキシ当量が100~200であるエポキシ樹脂と、
(B)成分:活性エネルギー線照射後に酸解離定数(pKa)13以上の強塩基を発生させる光塩基発生剤と、
(C)成分:カルボキシル基を1つ以上有する酸無水物と
を含んで成る。
【0015】
また、本実施形態に係る光硬化性組成物は、上記(A)成分および(B)成分、(C)成分に加えて、本発明の主たる効果(光硬化性組成物の「金属被着体への腐食性の低減」および「優れた低温硬化性」)を損なわない範囲で、各種の添加剤等のその他成分が配合されていてもよい。添加剤としては、例えば、溶剤、反応性希釈剤または酸化防止剤等が挙げられる。
【0016】
本実施形態に係る光硬化性組成物は、優れた低温硬化性(100℃未満の温度で硬化する性質)を有する。その理由は以下のように考えられる。本実施形態に係る光硬化性組成物に活性エネルギー線が照射されると、(B)成分が分解し、pKa13以上の強塩基が発生する。発生した強塩基と(C)成分の酸無水物とが反応して、アニオン性活性種が発生する。発生したアニオン性活性種と(A)成分のエポキシ樹脂との硬化反応(すなわち、アニオン重合反応)が進行し、さらに、(C)成分の酸無水物に含まれるカルボキシル基が当該硬化反応を促進させることで、低温(具体的には、100℃未満の温度)での硬化が可能となる。
【0017】
また、本実施形態に係る光硬化性組成物は、金属被着体(具体的には、銀被着体)への腐食性を低減することができる。その理由は以下のように考えられる。本実施形態に係る光硬化性組成物の硬化反応の活性種は、活性エネルギー線が照射されたときに(B)成分が分解して発生する強塩基と、(C)成分の酸無水物との反応で生成するアニオン性活性種である。このアニオン性活性種は、例えば、酸または硫黄成分のような金属被着体への腐食性が比較的大きい成分ではなく、硬化反応において、このような腐食性の比較的大きい成分を生成しない。よって、本実施形態に係る光硬化性組成物の硬化反応で形成される硬化物は、その硬化物中に金属被着体に対する腐食性が比較的大きい成分(例えば、酸および硫黄成分など)は含み得ない。
【0018】
以上から、本実施形態に係る光硬化性組成物は、金属被着体(具体的には、銀被着体)への腐食性を低減しつつ、優れた低温硬化性(100℃未満の温度で硬化する性質)を有する。
【0019】
活性エネルギー線は、例えば、紫外線(UV)、電子線、α線、およびβ線等であり、具体的には紫外線である。
【0020】
活性エネルギー線の照射は、特に限定されないが、例えば、20℃以上30℃以下の温度で行い得る。
【0021】
以下、各成分について詳細に説明する。
[(A)成分:エポキシ樹脂]
(A)成分のエポキシ樹脂は、(エポキシ樹脂の1分子鎖当たり)エポキシ基を1つ以上有し、エポキシ当量が100~200である。(A)成分のエポキシ樹脂は、エポキシ基を1つ以上有しているため、本実施形態に係る光硬化性組成物は、塩基によるエポキシ基のアニオン重合反応を起こし、エポキシ樹脂の分子鎖が架橋され、架橋密度が比較的大きなエポキシ樹脂硬化物が得られる。よって、本実施形態に係る光硬化性組成物は、耐熱性、密着性、および保存性に優れた硬化物を形成することができる。
【0022】
(A)成分のエポキシ樹脂は、100~200のエポキシ当量を有する。(A)成分のエポキシ樹脂が100~200のエポキシ当量を有するため、光硬化性組成物の安定性および硬化性の低下を抑制できる。エポキシ当量が100未満であると、官能基密度が高くなり、光硬化性組成物の安定性が低下し(粘度が上昇しやすくなり)、エポキシ当量が200より大きいと、エポキシ基の官能基密度が低下するので、硬化性が低下する。
なお、エポキシ当量の測定方法は、日本工業規格(JIS)K7236:2001に準拠する方法によって、自動滴定装置(株式会社HIRANUMA製COM-A19)を用いて、当該方法で規定された滴定法によりエポキシ当量を決定することができる。
【0023】
(A)成分の含有量は、(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計質量100質量部に対して、好ましくは60~75質量部含む。すなわち、(A)成分の含有量(含有率(単位:質量%または質量百分率))は、(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計質量を100質量部(100質量%)に対して、好ましくは60~75質量部(60~75質量%)である。(A)成分の含有量が60~75質量部であると、アニオン重合反応において生成する強塩基と(C)成分の酸無水物との反応性が低下しにくく、かつ常温(例えば、25℃)での反応性が低下しやすく、本実施形態に係る光硬化性組成物の保存安定性と硬化性との両立が良好に両立し得る。
【0024】
(A)成分のエポキシ樹脂は、好ましくは芳香環構造または脂環式構造を有する。芳香環構造としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールEまたはビスフェノールF、およびフルオレンが挙げられる。脂環式構造としては、例えば、単環または多環の脂環式炭化水素環が挙げられる。単環の脂環式炭化水素環としては、例えば、シクロアルカン環が挙げられる。多環の脂環式炭化水素環としては、例えば、ビシクロアルカン環、トリシクロアルカン環、およびテトラシクロアルカン環が挙げられる。これらの中でも(A)成分のエポキシ樹脂は、硬化物の耐熱性をさらに向上させる観点から、芳香環構造を有することがより好ましく、ビスフェノールA、ビスフェノールEおよびビスフェノールFの構造を有することがさらに好ましい。つまり、さらに好ましくは、(A)成分のエポキシ樹脂が、ビスフェノールA、ビスフェノールE、およびビスフェノールFからなる群より選択される少なくとも1つの構造を含むエポキシ樹脂である。ここで、ビスフェノールF構造を含むエポキシ樹脂は、例えば、ビスフェノールF構造を含むエポキシ樹脂は、例えば、ビスフェノールFエポキシ樹脂である。
【0025】
(A)成分のエポキシ樹脂として具体的に市販されている商品としては、例えば、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(DIC株式会社製「EPICION835」、エポキシ樹脂の1分子鎖当たりのエポキシ基:1以上、エポキシ当量(165~180)が挙げられる。
【0026】
[(B)成分:光塩基発生剤]
(B)成分の光塩基発生剤は、活性エネルギー線照射後に酸解離定数(pKa)13以上の強塩基を発生させる。つまり、(B)成分の光塩基発生剤は、活性エネルギー線の照射により分解して13以上のpKaを有する強塩基を発生させる化合物である。また、発生した強塩基は、アニオン重合反応において(A)成分のエポキシ樹脂の有するエポキシ基と反応する。
【0027】
発生する塩基が13以上のpKaを有する強塩基であると、(A)成分のエポキシ樹脂との反応性が高まり、本実施形態に係る光硬化性組成物は低温(100℃未満の温度)で硬化することができる。一方、発生する塩基が13未満のpKaを有する弱塩基であると、(A)成分のエポキシ樹脂との反応性が低下して、光硬化性組成物は低温(100℃未満の温度)で硬化しにくくなる。なお、pKaは、以下のように決定する。中和滴定法を用いてpHを測定する。測定されたpHからHenderson式によるpHとpKaの関係を用いてpKaを算出する。
【0028】
(B)成分の光塩基発生剤は、活性エネルギー線(例えば、光、具体的には、紫外線)に対して潜在化された塩基を有する。すなわち、(B)成分の光塩基発生剤は、活性エネルギー線を照射することによって塩基を発生する化合物であり、活性エネルギー線の未照射下では塩基が発生しにくい化合物である。本実施形態に係る光硬化性組成物は(B)成分の光塩基発生剤を含んで成るため、活性エネルギー線未照射下の保管中には重合反応が進行せず、光硬化性組成物の粘度の増加が生じにくい。このため、保存安定性に優れる。
【0029】
(B)成分の光塩基発生剤は、UV照射後にpKa13以上の強塩基を発生させる光塩基発生剤が好ましい。
【0030】
(B)成分は、活性エネルギー線照射後に酸解離定数(pKa)13以上の強塩基を発生させる光塩基発生剤であれば、その分子量および構造は特に限定されず、各種のものを用いることができる。(B)成分の光塩基発生剤としては、例えば、2-ニトロフェニル基を有するカルバメート化合物が挙げられ、好ましくは非イオン性の2-ニトロフェニル基を有するカルバメート化合物である。非イオン性の2-ニトロフェニル基を有するカルバメート化合物としては、例えば、4-(メタクリロイルオキシ)ピペリジン-1-カルボン酸(2-ニトロフェニル)メチル、4-ヒドロキシピペリジン-1-カルボン酸(2-ニトロフェニル)メチル、および2-(2-ニトロフェニル)プロピロキシカルボニル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン(UV照射後に発生する塩基のpKa:13.6)が挙げられる。これらの中でも、(B)成分の光塩基発生剤は、好ましくは2-(2-ニトロフェニル)プロピロキシカルボニル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジンである。
【0031】
本実施形態に係る光硬化性組成物は、(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計質量を100質量部としたとき、(B)成分を1~10質量部含む。すなわち、(B)成分の含有量(含有率)は、(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計質量を100質量部(100質量%)に対して1~10質量部(1~10質量%)であり、好ましくは2~10質量部(2~10質量%)である。
【0032】
本実施形態に係る光硬化性組成物が上記範囲の含有量で(B)成分を含むことにより、光硬化性組成物の硬化反応が良好に進行し得る。(B)成分の含有量が小さすぎると(例えば、(B)成分の含有量が1質量部未満であると)、活性エネルギー線照射により発生する塩基の量が少なくなり、硬化が低温(100℃未満の温度)で進行しにくく、光硬化性組成物が十分に硬化できない。(B)成分の含有量が大きすぎると(例えば、(B)成分の含有量が10質量部を超えると)、光硬化性組成物中に遊離した塩基が多く存在し得る。このような場合、光硬化性組成物の保存安定性が低下する可能性がある。
【0033】
[(C)成分:酸無水物]
(C)成分の酸無水物は、(酸無水物1分子当たり)カルボキシル基を1つ以上有する酸無水物である。(C)成分の酸無水物に含まれるカルボキシル基は、(A)成分のエポキシ樹脂が有するエポキシ基と、(B)成分の光塩基発生剤および(C)成分の酸無水物に由来するアニオン活性種との硬化反応(アニオン重合反応)を促進し、硬化温度を下げ得る。(C)成分の酸無水物は、硬化反応において、(A)成分のエポキシ樹脂が有するエポキシ基と反応し得る。
カルボキシル基を有しない酸無水物は、(A)成分のエポキシ樹脂のエポキシ基との硬化反応を促進させにくく、その結果、硬化温度が十分に低下せず、低温(100℃未満の温度)で硬化しにくくなる。
【0034】
(C)成分の酸無水物としては、例えば、水素化トリメリット酸無水物(1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸無水物)、およびトリメット酸無水物(1,2,4-ベンゼントリカルボン酸1,2-無水物)が挙げられる。これらの中でも、(C)成分の酸無水物は、好ましくはトリメット酸無水物である。これは、本発明者らが硬化剤である酸無水物を鋭意検討した結果、トリメット酸無水物が硬化温度を効果的に低下させることを見出したことによる。
【0035】
(C)成分の酸無水物として具体的に市販されている商品としては、例えば、トリメット酸無水物(東京化成工業株式会社製、1つのカルボキシル基を有する)が挙げられる。
【0036】
本実施形態に係る光硬化性組成物は、(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計質量を100質量部としたとき、(C)成分を20~30質量部含む。すなわち、(C)成分の含有量(含有率)は、(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計質量を100質量部(100質量%)に対して20~30質量部(20~30質量%)である。
【0037】
本実施形態に係る光硬化性組成物が上記範囲の含有量で(C)成分を含むことにより、光硬化性組成物の硬化反応が良好に進行し得る。(C)成分の含有量が小さすぎると(例えば、(C)成分の含有量が20質量部未満であると)、エポキシ当量比より、(A)成分のエポキシ樹脂のエポキシ基と反応する酸無水物の量が少なくなり、硬化反応が低温(100℃未満の温度)で進行しにくく、光硬化性組成物が十分に硬化しない。(C)成分の含有量が大きすぎると(例えば、(C)成分の含有量が30質量部を超えると)、光硬化性組成物中に(A)成分のエポキシ樹脂と反応しない酸無水物(未反応の化合物)が残存する。このような場合、光硬化性組成物は残存した酸無水物により十分に硬化できない可能性がある。
【0038】
[光硬化性組成物の製造方法]
本実施形態に係る光硬化性組成物の製造方法について一例を挙げて説明する。
本実施形態に係る光硬化性組成物は、(A)成分および(B)成分、(C)成分を前述した質量百分率の範囲((A)成分、(B)成分および(C)成分の合計質量を100質量部としたとき、(B)成分の含有量が5~10質量部である範囲および(C)成分の含有量が20~30質量部である範囲)内になるように秤量し、さらに必要に応じてその他の成分も添加して、各成分を十分に混合することによって調製することができる。混合方法は、特に限定されないが、例えば、当業者に公知の混合装置等を用いることができる。
【0039】
本実施形態に係る光硬化性組成物は、(A)成分および(B)成分、(C)成分を前述した質量百分率の範囲内になるように配合することで、光硬化性組成物を低温(100℃未満の温度)で硬化し得る。そのため、本実施形態に係る光硬化性組成物は、100℃未満で硬化し得る低温硬化性の光硬化接着剤として有用に使用し得る。
【実施例0040】
以下、本発明について実施例を用いてより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。また、特に明記しない限り、実施例における%は質量基準である。
図1および
図2には、各実施例および比較例における(A)成分、(B)成分および(C)成分の配合量等の条件が表される。
【0041】
<実施例1>
[1.光硬化性組成物の調製]
実施例1について、以下詳細に説明する。
(1-1.(A)および(B)成分、(C)成分の準備)
(A)成分として、ビスフェノールFエポキシ樹脂(DIC株式会社製「EPICION835」、エポキシ樹脂の1分子鎖当たりのエポキシ基:1以上、エポキシ当量(165~180))を準備した。(B)成分として、非イオン性のカルバメート化合物の2-(2-ニトロフェニル)プロピロキシカルボニル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン(株式会社ナード研究所製「NPPOC-TMG」、UV照射後に発生する塩基のpKa:13.6)を準備した。(C)成分として、トリメット酸無水物(東京化成工業株式会社製「C0046」、カルボキシル基を1つ有する)準備した。
【0042】
(1-2.光硬化性組成物の調製)
(A)成分、(B)成分、(C)成分の配合量の合計が20質量部となるように、まず(A)成分13.0質量部と(B)成分1.7質量部、(C)成分5.3質量部を、自転公転脱泡撹拌機を用いて均一な溶液になるように混合し、実施例1の光硬化性組成物を作製した。
図1に実施例1の光硬化性組成物の組成を示す。
【0043】
図1は、実施例1~5の光硬化性組成物の組成を示す表である。より具体的には、光硬化性組成物の(A)および(B)、(C)成分の種類、およびそれぞれ配合量(単位:質量部)等を示す。
【0044】
[2.評価方法]
(2-1.光硬化性組成物の低温硬化性)
光硬化性組成物の低温硬化性は、紫外線(UV)照射直後(具体的には照射時間完了後10秒以内)の塗布膜における硬化の程度で評価した。まず、光硬化性組成物をUV照射型レオメータ(株式会社TAインスツルメント製「DHR-2」)の透明ステージに塗布し、塗布膜を形成した。
【0045】
次いで、塗布膜の貯蔵弾性率および損失弾性率を測定した。ギャップを100μmとし、光源としてバンドパスフィルターを備えた高圧水銀ランプを用いて、塗布膜に紫外線を照射した。UV照射条件は、365nmにおけるUV照射量が6000mJ/cm2であり、照度が60mW/cm2であり、照射時間が100秒であった。UV照射後、塗布膜を25℃に保温した。併せて、熱硬化型レオメータを用いて、塗布膜の貯蔵弾性率および損失弾性率を測定した。樹脂の硬化反応に伴う弾性率の急上昇開始時点の温度をグラフから読み取った。なお、本実施例および本比較例における急上昇とは、時間当たりの弾性率変化が10倍/分以上となる上昇をいう。レオメータの温度プロファイルは、15℃/分の昇温速度の条件で25℃から100℃に昇温し、温度100℃に到達した後、100℃を30分間保持して塗布膜に加熱を行うものであった。弾性率の測定結果から、下記評価基準に基づいて光硬化性組成物の低温硬化性を評価した。
【0046】
(低温硬化性の判定基準)
OK :温度プロファイル内(上記昇温条件で、100℃に到達後30分以内)で弾性率が急上昇する
NG :温度プロファイル内で弾性率が急上昇しない
【0047】
<実施例2~5および比較例1~6>
さらに、以下の試薬を準備した。
・(B)成分:N,N-ジエチルカルバミン酸9-アントリルメチル(富士フイルム和光純薬株式会社製「WPBG-018」、UV照射後に発生する塩基のpKa:10.8)
・(C)成分:ヘキサヒドロ無水フタル酸(新日本理化株式会社製「リカシッドHH」、カルボキシル基を有しない酸無水物)
次いで、実施例2~5および比較例1~6では、
図1~2に示す組成に変更した以外は、実施例1と同様にして光硬化性組成物をそれぞれ調製した。また、光硬化性組成物の低温硬化性を実施例1と同様にして評価した。評価結果を
図1~2に示す。
【0048】
<実施例1~5および比較例1~6>
図1に示すように、実施例1~5の光硬化性組成物は、(A)成分、(B)成分および(C)成分を含んでいた。(A)成分のエポキシ樹脂は、1つ以上のエポキシ基を有し、100~200の範囲内のエポキシ当量を有していた。(B)成分の光塩基発生剤は、活性エネルギー線照射後に酸解離定数(pKa)13以上の強塩基を発生させる光塩基発生剤であった。(B)成分の含有量は、(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計質量100質量部に対して5~10質量部の範囲内であった。(C)成分の酸無水物は、カルボキシル基を1つ以上有する酸無水物であった。(C)成分の含有量は、前記合計質量100質量部に対して20~30質量部の範囲内であった。つまり、実施例1~5の光硬化性組成物は、請求項1に係る発明の範囲内に包含される光硬化性組成物であった。
【0049】
また、
図1に示すように、実施例1~5の光硬化性組成物は、低温硬化性の評価結果はいずれもOKであった。
【0050】
図2に示すように、比較例1~6の光硬化性組成物は、請求項1に係る発明の範囲外の光硬化性組成物であり、かつ低温硬化性の評価結果はいずれもNGであった。
より具体的には、比較例1の光硬化性組成物では、(B)成分の含有量は前記合計質量100質量部に対して3質量部であり、5~10質量部の範囲外であった。温度プロファイル内で弾性率が急上昇せず、低温硬化性の評価結果はNGとなった。比較例1の光硬化性組成物はUV照射後に発生する強塩基の量が少なく反応が遅くなるため、100℃未満の温度で硬化が開始しなかったものと推察される。
【0051】
比較例2の光硬化性組成物では、(B)成分の含有量は前記合計質量100質量部に対して11質量部であり、5~10質量部の範囲外であった。温度プロファイル内で弾性率が急上昇せず、低温硬化性の評価結果はNGとなった。比較例2の光硬化性組成物はUV照射後に発生する強塩基の量が発生するが、発生した強塩基が(C)成分のカルボキシル基と優先的に反応し、(C)成分のカルボキシル基が硬化促進剤としての作用が抑制され、100℃未満での温度で硬化が開始しなかったものと推察される。
【0052】
比較例3の光硬化性組成物では、(C)成分の含有量は前記合計質量100質量部に対して19質量部であり、20~30質量部の範囲外であった。温度プロファイル内で弾性率が急上昇せず、低温硬化性の評価結果はNGとなった。比較例3の光硬化性組成物では、(A)成分のエポキシ樹脂の含有量が(C)成分の酸無水物の含有量と比較して大きいため、硬化成分中に未反応のエポキシ樹脂が残存して、硬化しきれなかったものと推察される。
【0053】
比較例4の光硬化性組成物では、(C)成分の含有量は前記合計質量100質量部に対して32質量部であり、20~30質量部の範囲外であった。温度プロファイル内で弾性率が急上昇せず、低温硬化性の評価結果はNGとなった。比較例4の光硬化性組成物では、(C)成分の酸無水物の含有量が(A)成分のエポキシ樹脂の含有量と比較して大きいため、硬化成分中に未反応の酸無水物が残存して、硬化しきれなかったものと推察される。
【0054】
比較例5の光硬化性組成物では、(B)成分としてのN,N-ジエチルカルバミン酸9-アントリルメチルは、UV照射後に発生する塩基のpKaは10.8であり、13以上の範囲外であった。温度プロファイル内で弾性率が急上昇せず、低温硬化性の評価結果はNGとなった。発生した塩基が弱塩基であるため、(A)成分のエポキシ樹脂との反応遅く、100℃未満の温度で硬化が開始しなかったものと推察される。
【0055】
比較例6の光硬化性組成物では、(C)成分の酸無水物はその分子構造内にカルボキシル基を有していない酸無水物であった。温度プロファイル内で弾性率が急上昇せず、低温硬化性の評価結果はNGとなった。(A)成分のエポキシ樹脂と(B)成分由来の塩基との反応を促進させる、カルボキシル基が存在しないことで、硬化反応が温和になり、100℃未満の温度で硬化が開始しなかったものと推察される。
【0056】
以上から、実施例1~5の光硬化性組成物は、比較例1~6の光硬化性組成物に比べ、低温硬化性(より具体的には、100℃未満の温度で、効果が進行する性質)に優れていることが明らかである。
本発明の光硬化性組成物は、金属被着体に対する腐食性(例えば、銀腐食性)が低減され、活性エネルギー線の照射と加熱により100℃未満の温度で硬化するため、弱耐熱性部品の接着剤として利用できる。これにより、設計の自由度が向上する。また、本発明の光硬化性組成物は、その硬化物の残存成分による金属に対する腐食性が低いため、例えば、金属配線、電極を有する部材の接着、およびコーティング材として利用できる。