(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176603
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】植物栽培用養液、及び植物の生産方法
(51)【国際特許分類】
A01G 31/00 20180101AFI20231206BHJP
【FI】
A01G31/00 601A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088972
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】522216569
【氏名又は名称】株式会社ミツバハーベスト
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】落合 孝夫
【テーマコード(参考)】
2B314
【Fターム(参考)】
2B314MA14
2B314MA21
(57)【要約】
【課題】植物の果実の生産性を向上可能な、養液を提供する。
【解決手段】植物の栽培に使用され、水と、硝酸態窒素及びアンモニア態窒素からなる群から選ばれる少なくとも一種と、リンと、を含み、前記硝酸態窒素及び前記アンモニア態窒素の総和100質量部に対する、前記リンのリン酸(P2O5)換算での含有量が75質量部以上である、植物栽培用養液。前記養液を植物に供給して、前記植物を栽培することを含む、植物の生産方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の栽培に使用され、
水と、
硝酸態窒素及びアンモニア態窒素からなる群から選ばれる少なくとも一種と、
リンと、を含み、
前記硝酸態窒素及び前記アンモニア態窒素の総和100質量部に対する、
前記リンのリン酸(P2O5)換算での含有量が75質量部以上である、植物栽培用養液。
【請求項2】
植物の栽培に使用され、
水と、
硝酸態窒素及びアンモニア態窒素からなる群から選ばれる少なくとも一種と、
リンと、
カリウムと、
カルシウムと、を含み、
前記硝酸態窒素及び前記アンモニア態窒素の総和100質量部に対し、
前記リンのリン酸(P2O5)換算での含有量が75~500質量部であり、
前記カリウムの酸化カリウム(K2O)換算での含有量が50~180質量部であり
前記カルシウムの酸化カルシウム(CaO)換算での含有量が30~85質量部である、請求項1に記載の植物栽培用養液。
【請求項3】
23.5℃におけるpHが5.0以上6.0未満である、請求項1又は2に記載の植物栽培用養液。
【請求項4】
25.2℃における電気導電率が2.3mS/cm以上である、請求項1又は2に記載の植物栽培用養液。
【請求項5】
前記アンモニア態窒素を含まない、請求項1又は2に記載の植物栽培用養液。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の養液を植物に供給して、前記植物を栽培することを含む、植物の生産方法。
【請求項7】
前記養液を加温して、前記植物に供給する、請求項6に記載の植物の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物栽培用養液、及び植物の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、植物の栽培の方法として、養液を使用して植物を栽培する養液栽培が盛んに行われている。養液栽培は、土耕栽培と比較して植物の生育管理が容易である、生産性の向上も見込めるため、様々な作物の生産に利用されている。養液栽培の栽培方式としては、水耕栽培、固形培地栽培、噴霧耕等が知られている。
【0003】
従来、植物栽培用の養液として、種々の組成の養液が開発されている。例えば、特許文献1には、植物栽培用の培地に適用される養液であって、水と、硝酸態窒素およびアンモニア態窒素の少なくとも一つと、リン酸と、酸化カリウムと、酸化カルシウムとを含み、硝酸態窒素およびアンモニア態窒素の総和を100重量部としたときに、リン酸の含有量は、48~70重量部であり、酸化カリウムの含有量は、160~180重量部であり、酸化カルシウムの含有量は、30~85重量部である養液が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、植物の果実の生産性向上の観点からは、従来の養液の成分組成については未だ検討の余地がある。
本発明は、植物の果実の生産性を向上可能な、植物栽培用養液を提供することを目的とする。
また本発明は、植物の果実の生産性を向上可能な、植物の生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
循環式の養液栽培において、循環槽から送り出された循環養液は、栽培ベッドに供給された後、栽培ベッドに布設された培地や、培地に植えられた栽培対象の植物の根に吸収されなかった成分が、戻り水として循環槽へと返送される。
本発明者らは、戻り水及び循環槽内の循環養液に含有される、窒素、リン、カリウム、カルシウム等の成分量を分析した結果、供給した養液に比べて、リンの含有量が著しく低下していることに着目した。そして、下記の成分量でリンを含む養液の使用により、植物の生産性を向上可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
【0007】
(1) 植物の栽培に使用され、
水と、
硝酸態窒素及びアンモニア態窒素からなる群から選ばれる少なくとも一種と、
リンと、を含み、
前記硝酸態窒素及び前記アンモニア態窒素の総和100質量部に対する、
前記リンのリン酸(P2O5)換算での含有量が75質量部以上である、植物栽培用養液。
(2) 植物の栽培に使用され、
水と、
硝酸態窒素及びアンモニア態窒素からなる群から選ばれる少なくとも一種と、
リンと、
カリウムと、
カルシウムと、を含み、
前記硝酸態窒素及び前記アンモニア態窒素の総和100質量部に対し、
前記リンのリン酸(P2O5)換算での含有量が75~500質量部であり、
前記カリウムの酸化カリウム(K2O)換算での含有量が50~180質量部であり
前記カルシウムの酸化カルシウム(CaO)換算での含有量が30~85質量部である、請求項1に記載の植物栽培用養液。
(3) 23.5℃におけるpHが5.0以上6.0未満である、前記(1)又は(2)に記載の植物栽培用養液。
(4) 25.2℃における電気導電率が2.3mS/cm以上である、前記(1)~(3)のいずれか一つに記載の植物栽培用養液。
(5) 前記アンモニア態窒素を含まない、前記(1)~(4)のいずれか一つに記載の植物栽培用養液。
(6) 前記(1)~(5)のいずれか一つに記載の養液を植物に供給して、前記植物を栽培することを含む、植物の生産方法。
(7) 前記養液を加温して、前記植物に供給する、前記(6)に記載の植物の生産方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、植物の果実の生産性を向上可能な、植物栽培用養液を提供できる。
また、本発明によれば、植物の果実の生産性を向上可能な、植物の生産方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の植物の生産方法に使用される栽培施設の構成の一例を示す概略構成図である。
【
図2】比較例又は実施例の植物栽培用養液を用いた場合での、トマトの果実の収量の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の植物栽培用養液、及び植物の生産方法の実施形態を説明する。以下、本発明の一実施形態の植物栽培用養液を、単に「養液」と云うことがある。
【0011】
≪養液≫
実施形態の養液は、植物の栽培に使用され、水と、硝酸態窒素及びアンモニア態窒素からなる群から選ばれる少なくとも一種と、リンと、を含み、
前記硝酸態窒素及び前記アンモニア態窒素の総和100質量部に対する、前記リンのリン酸(P2O5)換算での含有量が75質量部以上である。
【0012】
実施形態の養液において、硝酸態窒素及びアンモニア態窒素の総和100質量部に対する、前記リンのリン酸(P2O5)換算での含有量が75質量部以上であることにより、植物の果実の生産性を向上可能である。果実の生産性は、例えば、養液の組成を変えて、同一期間内に植物が生産した果実の新鮮重量を比較することで評価できる。
【0013】
実施形態の養液において、硝酸態窒素及びアンモニア態窒素の総和100質量部に対する、前記リンのリン酸(P2O5)換算での含有量は、75質量部以上であり、80質量部以上が好ましく、100質量部以上がより好ましい。
【0014】
前記リンの含有量の上限値としては特に制限されるものではないが、例えば、硝酸態窒素及びアンモニア態窒素の総和100質量部に対する、前記リンのリン酸(P2O5)換算での含有量は、500質量部以下であってもよく、300質量部以下であってもよく、200質量部以下であってもよい。
【0015】
上記に例示した前記リンの含有量の上限値と下限値とは自由に組み合わせることができる。硝酸態窒素及びアンモニア態窒素の総和100質量部に対する、前記リンのリン酸(P2O5)換算での含有量の数値範囲の一例としては、75~500質量部であってもよく、80~300質量部であってもよく、100~200質量部であってもよい。
【0016】
本明細書において、養液中のリンのリン酸(P2O5)換算での含有量は、実施形態の養液を試料として、JIS K 0102 46.3.1 ペルオキソ二硫酸カリウム分解法により取得された全りんの量(mg/L)の値に基づき、リン酸(P2O5)の量に換算して算出した値とする。
【0017】
実施形態の養液は、更にカリウムを含むことが好ましい。
実施形態の養液において、硝酸態窒素及びアンモニア態窒素の総和100質量部に対する、前記カリウムの酸化カリウム(K2O)換算での含有量は、50質量部以上であってもよく、80質量部以上であってもよく、100質量部以上であってもよい。
【0018】
前記カリウムの含有量の上限値としては特に制限されるものではないが、例えば、硝酸態窒素及びアンモニア態窒素の総和100質量部に対する、前記カリウムの酸化カリウム(K2O)換算での含有量は、180質量部以下であってもよく、160質量部未満であってもよく、155質量部以下であってもよい。
【0019】
上記に例示した前記カリウムの含有量の上限値と下限値とは自由に組み合わせることができる。硝酸態窒素及びアンモニア態窒素の総和100質量部に対する、前記カリウムの酸化カリウム(K2O)換算での含有量の数値範囲の一例としては、50~180質量部であってもよく、80質量部以上160質量部未満であってもよく、100~155質量部であってもよい。
【0020】
本明細書において、養液中のカリウムの酸化カリウム(K2O)換算での含有量は、実施形態の養液を試料として、JIS K 0101 49.2 フレーム原子吸光法により定量された、カリウムの量(mg/L)の値に基づき、酸化カリウム(K2O)の量に換算して算出した値とする。
【0021】
実施形態の養液は、更にカルシウムを含むことが好ましい。
実施形態の養液において、硝酸態窒素及びアンモニア態窒素の総和100質量部に対する、前記カルシウムの酸化カルシウム(CaO)換算での含有量は、30質量部以上であってもよく、30~85質量部であってもよく、40~75質量部であってもよい。
【0022】
本明細書において、養液中の前記カルシウムの酸化カルシウム(CaO)換算での含有量は、実施形態の養液を試料として、JIS K 0101 50.2 フレーム原子吸光法により定量された、カルシウムの量(mg/L)の値に基づき、酸化カルシウム(CaO)の量に換算して算出した値とする。
【0023】
実施形態の養液の一例として、植物の栽培に使用され、水と、硝酸態窒素及びアンモニア態窒素からなる群から選ばれる少なくとも一種と、リンと、カリウムと、カルシウムと、を含み、
前記硝酸態窒素及び前記アンモニア態窒素の総和100質量部に対し、
前記リンのリン酸(P2O5)換算での含有量が75~500質量部であり、
前記カリウムの酸化カリウム(K2O)換算での含有量が50~180質量部であり
前記カルシウムの酸化カルシウム(CaO)換算での含有量が30~85質量部である、養液を例示する。
【0024】
実施形態の養液に含まれる、硝酸態窒素及びアンモニア態窒素からなる群から選ばれる少なくとも一種の含有量に関し、実施形態の養液(1L)あたりに含有される、JIS K 0102 45.2 紫外線吸光光度法により取得される全窒素の量は、例えば、80~500mg/Lであってもよく、200~400mg/Lであってもよい。
【0025】
養液中に配合可能な硝酸態窒素及びアンモニア態窒素の配合成分としては、それぞれ硝酸塩及びアンモニウム塩が挙げられ、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硝酸アンモニウム等が挙げられる。
【0026】
本明細書において、養液中の硝酸態窒素及びアンモニア態窒素の含有量の総和は、実施形態の養液を試料として、JIS K 0102 45.2 紫外線吸光光度法に基づき測定できる。
【0027】
本明細書において、養液中の硝酸態窒素の含有量は、取得された硝酸態窒素に係る測定値を、窒素(N)の質量に換算して求められる。養液中のアンモニア態窒素の含有量は、取得されたアンモニア態窒素に係る測定値を、窒素(N)の質量に換算して求められる。
【0028】
例えば、実施例の養液のように、窒素成分として硝酸態窒素のみを含むことが判明している場合には、実施形態の養液を試料として、JIS K 0102 45.2 紫外線吸光光度法により取得された全窒素の量の値から硝酸態窒素の含有量を求めればよい。
【0029】
なお、JIS K 0102 45.1 総和法などにより、有機性窒素及びアンモニア態窒素と、亜硝酸態窒素及び硝酸態窒素とを分けて測定することもできる。
【0030】
実施形態の養液は、上記に例示した窒素、リン、カリウム、カルシウムの他に、更にその他の元素を含むことができる。その他の元素としては、マグネシウム、硫黄、マンガン、ホウ素、鉄、銅、亜鉛、モリブデン、塩素、ニッケル等が挙げられる。
【0031】
実施形態の養液は、水を含有し、上記に例示した各種成分を含むことのできる水溶液(いわゆる液体肥料)として使用される。
【0032】
実施形態の養液における、窒素、リン、カリウム、カルシウム、及びその他の元素については、これら元素を含む化合物やイオン等の、植物が吸収可能な形態として養液中に含まれてよい。
【0033】
実施形態の養液の、23.5℃におけるpHは、5.0以上7.0以下が好ましく、5.0以上6.0未満がより好ましい。
【0034】
実施形態の養液の成分濃度の指標となる電気伝導率は、養液の25.2℃における電気導電率が、1.0mS/cm以上であってよく、2.0mS/cm以上7.0mS/cm以下であってよく、2.3mS/cm以上5.0mS/cm以下であってよい。
【0035】
実施形態の養液における、前記アンモニア態窒素の含有量に対する前記硝酸態窒素の含有量の質量比(硝酸態窒素/アンモニア態窒素)は、10超であってよく、20以上であってよく、養液はアンモニア態窒素を含まないことが好ましい。
【0036】
上記に説明した実施形態の養液によれば、特許文献1の養液に比べ、リンの含有量が増量されており、植物の果実の生産性を向上可能である。
【0037】
本実施形態によれば、植物の果実の生産性を向上可能であるので、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標2「飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する」にも貢献可能である。
【0038】
≪生産方法≫
実施形態の生産方法は、上記実施形態の養液を植物に供給して、前記植物を栽培することを含む、植物の生産方法である。
【0039】
養液は、植物の根域に供給されることが好ましく、前記栽培としては、養液栽培が好ましい。
【0040】
養液栽培としては、水耕栽培、固形培地栽培、噴霧耕等が挙げられる。固形培地栽培に用いることのできる固形培地としては、珊瑚砂礫を含む培地が好ましい。
【0041】
養液栽培には、植物へ供給される養液が循環される循環式と、循環されない非循環式が知られる。
【0042】
図1は、実施形態の生産方法に使用可能な、循環式の栽培施設の構成の一例を示す模式図である。
栽培施設10は、実施形態の養液H1を貯留する調整槽121と、循環する循環養液H2を貯留する循環槽131と、循環槽131に貯留された循環養液H2が供給され、植物を栽培する栽培ベッド141,142とを含む。
【0043】
本発明の一実施形態の養液H1は、例えば以下のように、調整槽121において調整可能である。
【0044】
水タンク101は、水を貯留する。水タンク101内に貯留された水は、第1液槽111に供給されて、第1液槽111内に第1液肥が調整される。水タンク101に貯留された水は、第2液槽112に供給され、第2液槽112内に第2液肥が調整される。
【0045】
第1液肥と第2液肥は、本発明の一実施形態の養液における所定の配合に調整可能な範囲において、栽培施設10において栽培する対象の植物と、その植物の育成方法とに応じた液肥が用いられる。
例えば、第1液肥は、窒素、リン、カリウム、微量元素(必須微量元素)等を含むことができ、第2液肥は、窒素、カルシウム等を含むことができる。
【0046】
第1液槽111に貯留された第1液肥と、第2液槽112に貯留された第2液肥とが調整槽121に送液され、養液H1が調整される。このとき、第1液肥と第2液肥とが、実施形態の養液における所定の配合を満たすよう、調整槽121に送液されればよい。
このようにして本発明の一実施形態の養液H1を、調整槽121において調整可能である。
【0047】
得られた実施形態の養液H1は、調整槽121に貯留される。そして、養液H1が調整槽121から循環槽131へと送液され、循環養液H2として栽培ベッド141,142へと送液されて植物に供給されることで、前記植物を栽培可能である。
【0048】
第1栽培ベッド141は、循環槽131に貯留された循環養液H2が供給され、当該循環養液H2を収容し、栽培対象の植物を栽培する。
第2栽培ベッド142は、第1栽培ベッド141とは異なる栽培ベッドであり、循環槽131に貯留された循環養液H2が供給され、当該循環養液H2を収容し、栽培対象の植物を栽培する。ここでは、栽培ベッドが第1栽培ベッド141と第2栽培ベッド142の2つである場合について図示されているが、栽培ベッドは1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
排出経路145と排出経路146とから循環槽131に循環養液H2が運ばれることによって、循環槽131に貯留された循環養液H2が第1栽培ベッド141と第2栽培ベッド142とを循環するようになっている。
【0049】
栽培開始時、循環槽131内の循環養液H2は、調整槽121から新たに供給される。また、栽培中に、循環槽131内の循環養液H2が排液されて、調整槽121から送液される養液H1に新たに交換される場合がある。このような、調整槽121から養液H1が供給された供給直後の循環槽131内の循環養液H2の組成は、実施形態の養液H1の組成に調整可能である。
【0050】
一方、栽培中に循環する循環槽131及び栽培ベッド141,142内の循環養液H2の組成は、栽培ベッドにて植物が吸収した養分量によって、養液H1の組成から徐々に変化し得る。
【0051】
調整槽121から循環槽131への養液H1の供給の量や頻度は、植物の生育段階や生育環境に応じて適宜定めることができる。一例として、循環槽131内の循環養液H2の水位が設定値よりも低下した場合に、調整槽121から循環槽131へと養液H1を供給できる。
【0052】
循環槽131内の循環養液H2、又は循環槽131及び栽培ベッド141,142内の循環養液H2は、例えば、2~4週間に一度排液して、調整槽121から送液される養液H1へと新たに交換するとよい。
【0053】
前記養液を加温して前記植物に供給することもできる。例えば、供給直後の循環槽131内の循環養液H2(本発明の一実施形態の養液H1の組成に調整可能)の温度を20℃以上、好ましくは20~35℃の温度となるよう加温することで、植物におけるカリウムの吸収をより一層良好な状態とできる。上記加温は、供給前後で養液の温度差が生じ易い冬場に効果的である。
【0054】
栽培される植物の種類としては、特に限定されるものではないが、養液を養分として与えて生育可能な植物であればよく、トマト、パプリカ、メロン、イチゴ、ナス等の果菜類が好ましく、トマト等のナス科植物がより好ましく、ナス科の果菜類がさらに好ましく、トマトが特に好ましい。トマトは、所謂ミニトマト(チェリートマト)を含む。
【0055】
実施形態の植物の生産方法によれば、実施形態の養液を使用することから、植物の果実の生産性を向上可能である。
【実施例0056】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
[比較例1]
各成分(硝酸態窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン、ホウ素、鉄、銅、亜鉛、及びモリブデン)を含む原料成分が配合された、アンモニア態窒素を含まない市販の養液栽培用肥料養液(OATアグリオ株式会社製、OATハウスS1号)を用意し、これを比較例1の養液とした。
【0058】
表1に比較例1の養液の成分組成を示す。各成分の値はカタログ値である。
【0059】
【0060】
[実施例1~3]
比較例1の養液に、リン酸及び酸化カリウムを添加し、実施例1~3の養液を調製した。
【0061】
図1に示す構成の循環式の栽培装置を使用して、ビニールハウス温室内(温室内温度:10~34℃)で、培地として珊瑚砂礫を敷き詰めた栽培ベッドにミニトマト(品種名:千果、オレンジ千果、ラブリー藍、及びサンオレンジ)を定植し、養液栽培した。
各実施例1~3及び比較例1の養液は、
図1に示す調整槽に貯留した。調整槽で調製された養液は、循環槽に送液され、循環槽内の養液は、栽培ベッドに送液され、ミニトマトの栽培溶液として供給された後、戻り水として循環槽に返送される構成とした。
【0062】
循環槽内の循環養液は、循環槽内の養液の水位が設定値よりも低下した場合に、調整槽から適宜供給した。また、循環槽内の循環養液は、1~2週間に一度排液して、調整槽から送液される養液に新たに交換した。
【0063】
なお、実施例3の養液を使用した栽培では、交換直後の循環槽内の養液を、ヒーターを使用して20~25℃に加温し、加温を継続した。
【0064】
上記の交換直後の循環槽、又は調整槽内の養液における各成分量を測定した。成分の測定は、下記表2に示す測定方法により実施した。
なお、栽培中の循環槽及び栽培ベッド内の循環養液の組成は、栽培ベッドにてミニトマトが吸収した養分量によって変化するが、交換直後の循環槽内の養液の成分量は、本発明を適用した養液の成分量の規定を満たす調整値である。
【0065】
【0066】
上記の養液成分の測定結果を表3に示す。また、算出された各化合物量の含有量の換算値(N成分(硝酸体窒素)100質量部に対する質量部)を示す。
【0067】
【0068】
上記の比較例1、実施例1又は実施例3の養液を用いた場合での、ミニトマトの果実の収量の結果を
図2に示す。
図2に示される結果は、所定の栽培面積あたりで収穫されたミニトマトの果実の総収穫量(kg)を、月毎に示したグラフである。実施例では、10月から1月までのデータを示す。
【0069】
図2に示されるとおり、実施例1又は実施例3の養液を使用した栽培でのミニトマトの収穫量は、比較例1の養液を使用した栽培でのミニトマトの収穫量よりも飛躍的に向上していた。
【0070】
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。