(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176604
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】加工装置の状態判定方法
(51)【国際特許分類】
C03B 11/00 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
C03B11/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088976
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100183265
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 剣一
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 有斗
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正行
(72)【発明者】
【氏名】和田 紀彦
(57)【要約】
【課題】複数の装置に跨り金型を移動させる加工装置における金型移動に伴う摩耗状態を検出することで加工装置の状態を判定する状態判定方法を提供する。
【解決手段】複数のプレス装置における積載面が第1方向に沿って連続して配置され、隣第1方向に沿って積載面上を滑らせて金型を移動させる加工装置における状態判定方法であり、状態判定方法は、検査治具を、所定のプレス装置の加工中心に対して、第1方向と直交する第2方向にオフセットさせて積載面に設置するステップと、所定のプレス装置において検査治具をプレスし、プレスの荷重中心を算出するステップと、第2方向におけるオフセットの位置と荷重中心の位置とに基づいて、載置面の摩耗状態を判定し、摩耗状態に基づいて加工装置の状態を判定するステップと、を含む。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型が積載される積載面を有し、前記積載面に積載された前記金型に対してプレス荷重を付与する複数のプレス装置と、複数の前記積載面が第1方向に沿って連続するように前記複数のプレス装置が並んで配置され、隣接する前記プレス装置間において、前記第1方向に沿って前記積載面上を滑らせて前記金型を移動させる移動装置と、を備える加工装置の状態判定方法であって、
上下面が平行である検査治具を、所定の前記プレス装置の加工中心に対して、前記第1方向と直交する第2方向にオフセットさせて前記積載面に設置するステップと、
前記所定のプレス装置において前記検査治具をプレスし、前記プレスの荷重中心を算出するステップと、
前記第2方向における前記オフセットの位置と前記荷重中心の位置とに基づいて、前記載置面の摩耗状態を判定し、前記摩耗状態に基づいて前記加工装置の状態を判定するステップと、を含む、加工装置の状態判定方法。
【請求項2】
前記プレスの荷重中心を算出するステップにおいて、前記第2方向において異なる位置に配置された複数の荷重センサにより前記載置面に付加される荷重を検出し、前記検出された荷重を用いて前記プレスの荷重中心を算出する、請求項1に記載の加工装置の状態判定方法。
【請求項3】
前記加工装置の状態を判定するステップにおいて、前記第2方向における前記所定のプレス装置の前記加工中心から前記プレスの荷重中心までの第1距離と、前記第2方向における前記所定のプレス装置の前記加工中心から前記オフセットの位置までの第2距離との差分を算出し、前記差分が大きい程、前記載置面の摩耗量が大きいと判定する、請求項1または2に記載の加工装置の状態判定方法。
【請求項4】
前記移動装置は、前記第2方向に延びる搬送アームと、前記搬送アームを前記第1方向に沿って移動させることで、前記載置面上を滑らせて前記金型または前記検査治具を移動させる第1移動装置と、前記搬送アームを前記第2方向に沿って移動させる第2移動装置とを備え、前記金型を移動させる場合とは前記第2方向において異なる位置に前記搬送アームを位置させた状態にて前記検査治具を移動させて、前記載置面にオフセットさせて設置する、請求項1または2に記載の加工装置の状態判定方法。
【請求項5】
上下面が平行である円柱形状の前記検査治具を、前記載置面にオフセットさせて設置する、請求項1または2に記載の加工装置の状態判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数の装置に跨り金型を移動させる加工装置における状態判定方法に関する。特に、加熱軟化した光学素材を、一対の金型に挟持してプレス成形することによって光学素子を得る光学素子成形装置の状態判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこのような加工装置、例えば光学素子成形装置としては、光学素子としてガラスレンズを成形するガラスレンズ成形装置がある。ガラスレンズ成形装置として、順送りする金型搬送機構の位置決め精度を高めた装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示されているガラスレンズ成形装置では、金型の搬送方向(X方向)に連続するように並べられた複数の金型載置テーブルに対して、金型を次の載置テーブルに順次送るための搬送装置が備えられている。搬送装置は、搬送アームと、搬送アームをX方向に移動させる駆動機構と、金型をX方向と、X方向に直交するY方向とに位置決めする位置決め部とを備える。位置決め部は、載置テーブル上に固定されたX方向に延びる第1平面状部と、搬送アームに固定されたX方向に延びる第2平面状部と、搬送アームに固定されたY方向に延びる第3平面状部とを備える。金型を第1平面状部と第2平面状部と第3平面状部とで囲むことにより、金型をX方向およびY方向に位置決めした状態で、搬送アームにより載置テーブル上を滑らせながら金型を移動させている。このような従来の装置では、金型を搬送するにあたって、搬送位置の再現性良く次工程の載置テーブルに金型を移載できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のガラスレンズ成形装置では、搬送位置の再現性良く金型を移載することが可能なので、金型載置テーブルの表面は常に金型移動に伴って同じ場所が擦過される。その結果、金型載置テーブルにおいて擦過される表面の摩耗がそれ以外の表面よりも進むことになる。この金型載置テーブルの下部には熱源となるカートリッジヒータを内蔵し、ここから金型に伝熱することでガラス成形が行われる。金型載置テーブルの表面が部分的に摩耗することによりその直上に配置された金型への伝熱状態が変化するので同じプロセス条件とならず、成形されたガラスレンズの形状や内部ひずみが変化するという課題を有している。このような課題は、ガラスレンズの成形に限られず、光学素子の成形にも共通する課題である。
【0006】
本開示は、このような従来の課題を解決するもので、複数の装置に跨り金型を移動させる加工装置における金型移動に伴う摩耗状態を検出することで加工装置の状態を判定する状態判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一の態様にかかる加工装置の状態判定方法は、金型が積載される積載面を有し、積載面に積載された金型に対してプレス荷重を付与する複数のプレス装置と、複数の積載面が第1方向に沿って連続するように複数のプレス装置が並んで配置され、隣接するプレス装置間において、第1方向に沿って積載面上を滑らせて金型を移動させる移動装置と、を備える加工装置の状態判定方法であって、上下面が平行である検査治具を、所定のプレス装置の加工中心に対して、第1方向と直交する第2方向にオフセットさせて積載面に設置するステップと、所定のプレス装置において検査治具をプレスし、プレスの荷重中心を算出するステップと、第2方向におけるオフセットの位置と荷重中心の位置とに基づいて、載置面の摩耗状態を判定し、摩耗状態に基づいて加工装置の状態を判定するステップと、を含むものである。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、複数の装置に跨り金型を移動させる加工装置における金型移動に伴う摩耗状態を検出することで加工装置の状態を判定する状態判定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】ガラスレンズのプレス成形の工程を分割して生産が可能なガラスレンズ成形装置の一例を示す図
【
図3】金型搬送によって生じたヒータプレートの摩耗状態を説明する図
【
図4】ヒータプレートの摩耗により生じる問題点ついて説明する図
【
図5】本実施の形態の状態判定方法において、検査治具による摩耗状態の計測を説明する図
【
図6】本実施の形態の状態判定方法において、1軸式の荷重センサを4個配置した一例を説明する図
【
図7】本実施の形態の状態判定方法において、摩耗状態の判定方法を説明する図
【
図8】本実施の形態の状態判定方法において、摩耗状態の判定方法を説明する図
【
図9】本実施の形態の状態判定方法において、送り装置により検査治具を搬送する動作を説明する図
【
図10】本実施の形態の状態判定方法において、送り装置により検査治具を搬送する動作を説明する図
【
図11】本実施の形態の状態判定方法において、成形レンズの偏芯量θと(r-a)値の関係を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の第1態様にかかる加工装置の状態判定方法は、金型が積載される積載面を有し、積載面に積載された金型に対してプレス荷重を付与する複数のプレス装置と、複数の積載面が第1方向に沿って連続するように複数のプレス装置が並んで配置され、隣接するプレス装置間において、第1方向に沿って積載面上を滑らせて金型を移動させる移動装置と、を備える加工装置の状態判定方法であって、上下面が平行である検査治具を、所定のプレス装置の加工中心に対して、第1方向と直交する第2方向にオフセットさせて積載面に設置するステップと、所定のプレス装置において検査治具をプレスし、プレスの荷重中心を算出するステップと、第2方向におけるオフセットの位置と荷重中心の位置とに基づいて、第1方向に沿った載置面の摩耗状態を判定し、摩耗状態に基づいて加工装置の状態を判定するステップと、を含むものである。
【0011】
本開示の第2態様にかかる加工装置の状態判定方法は、第1態様において、プレスの荷重中心を算出するステップにおいて、第2方向において異なる位置に配置された複数の荷重センサにより載置面に付加される荷重を検出し、検出された荷重を用いてプレスの荷重中心を算出するものである。
【0012】
本開示の第3態様にかかる加工装置の状態判定方法は、第1または第2態様において、加工装置の状態を判定するステップにおいて、第2方向における所定のプレス装置の加工中心からプレスの荷重中心までの第1距離と、第2方向における所定のプレス装置の加工中心からオフセットの位置までの第2距離との差分を算出し、差分が大きい程、載置面の摩耗量が大きいと判定するものである。
【0013】
本開示の第4態様にかかる加工装置の状態判定方法は、第1から第3態様のいずれかの態様において、移動装置は、第2方向に延びる搬送アームと、搬送アームを第1方向に沿って移動させることで、載置面上を滑らせて金型または検査治具を移動させる第1移動装置と、搬送アームを前記第2方向に沿って移動させる第2移動装置とを備え、金型を移動させる場合とは第2方向において異なる位置に搬送アームを位置させた状態にて検査治具を移動させて、載置面にオフセットさせて設置するものである
【0014】
本開示の第5態様にかかる加工装置の状態判定方法は、第1から第4態様のいずれかの態様において、上下面が平行である円柱形状の検査治具を、載置面にオフセットさせて設置するものである。
【0015】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
(実施の形態)
本開示の実施の形態に係る光学素子の成形装置の一例として、光学素子としてガラスレンズを成形するガラスレンズ成形装置50を
図1に示す。
図1に示すガラスレンズ成形装置50は、ガラスレンズの成形プロセスを多段階に分割し、かつ複数の金型1を使って生産性を高めたガラスレンズ成形装置である。ガラスレンズ成形装置50は、加圧装置の加圧源として、例えば、エアシリンダを使用した装置である。
【0017】
図1に示すように、ガラスレンズ成形装置50では、右側から左側にかけて金型1が搬送されながら、金型1に対して複数の工程が順次行われる。具体的には、ガラスレンズ成形装置50では、図示右側から左側にかけて、金型1のそれぞれの搬送位置において、レンズ投入工程、加熱工程、プレス成形工程、冷却1工程、冷却2工程、レンズ取出工程が順次行われることで成形工程が行われる。なお、以降の説明では、それぞれの工程が行われる成形装置50内の位置を「~部」(例えば、加熱工程であれば加熱部)と称する。図では省略しているが、ガラスレンズ成形装置50は、金型1を順次一定間隔のサイクルタイム(例えば、10分毎)で移動させる移動装置(金型送り装置、
図2にて60で図示)を備えている。また、金型1は一対の金型で構成されており、上型(上パンチ(第1金型に対応))2と下型(下パンチ(第2金型に対応))3とを備えている。ガラスレンズ成形装置50は、金型1が載置される積載面を有するヒータプレート8を有し、積載面に積載された金型1に対してプレス荷重を付与する複数のプレス装置40を備えている。具体的には、加熱工程、プレス成形工程、冷却1工程および冷却2工程の4つの工程に対応するように4つのプレス装置40が並んで配置されている。4つのプレス装置40におけるそれぞれの載置面は金型1の送り方向に連続している。
【0018】
レンズ投入工程では、金型1から上型2を取り外して、光学材料であるガラス素材5a下型3上に置く。その後、上型2を胴型4に挿入し、ガラス素材5aを下型3と上型2の間で挟持し、ガラス素材5aが一対の金型1内に収容された状態とする。一定時間後、投入部シャッター11aが開き、送り機構により横滑りするかの如く加工室内55に金型1が搬送され、加熱部のヒータブロック7の中央付近に金型1が配置される。加工室55は、金型1の酸化防止の目的で、真空もしくは窒素等の不活性ガス雰囲気に保たれている。
【0019】
加熱部のヒータブロック7には、例えば複数の棒状のカートリッジヒータ6が挿入されており、更にその上に硬い硬度を有するヒータプレート8を取付け、所定の温度を維持するように制御されている。この加熱部のヒータプレート8上に置かれた直後の金型1は、加熱部のヒータプレート8の設定温度より低いので、この工程ではプレス軸10により金型1に対して荷重を掛けることはほとんど無い。何故ならば、ガラス素材5aの温度が低い状態で荷重を掛けた場合、ガラス素材5aが割れたり、上型2や下型3のガラス素材5aとの接触面が傷ついたりするからである。上型2においても所定の温度まで所定の時間で加熱する必要があるので、上側2のヒータプレート8は、上型2と接するように設けられている。この加熱工程での後半において、ガラス素材5aは、十分に熱変形が可能な温度に達する。所定時間の経過後、移動装置によって金型1はヒータプレート8の上を横滑りしながら成形部に搬送され、プレス成形部において加熱される。
【0020】
プレス成形部のヒータプレート8上に金型1が置かれると、プレス軸10が下降して上型2を押し下げてガラス素材5aを押しつぶし、ガラス素材5aに対して金型形状を転写する。所定時間の経過後、移動装置によって金型1は冷却1部に搬送され、プレス成形部には次の金型1が配置されて、次の金型1に対してプレス成型工程が行われる。
【0021】
冷却1部のヒータプレート8上に金型1が配置されると、プレス軸10が下降し、レンズ形状に変形したガラス素材5bは、上型2と下型3とに挟持される。冷却1部のヒータプレート8の設定温度は、成形部のヒータプレート8の温度よりわずかに低く設定されている。そのため、温度が下がることでガラス素材5bは収縮し、収縮することで上型2および下型3による形状の転写が完全になされる。所定時間の経過後、移動装置によって金型1は冷却2部に搬送され、冷却1部には次の金型1がプレス成形部より搬送される。
【0022】
冷却2部のヒータプレート8上に金型1が配置されると、プレス軸10が下降し、冷却1部と同様に、レンズ形状に変形したガラス素材5bは、上型2と下型3とに挟持される。冷却2部のヒータプレート8の設定温度は、金型1の取出温度に設定されており、急速に金型温度が下がる。所定時間の経過後、取出部シャッター11bが開き、移動装置よって加工室55外にある取出部に金型1が搬送され、冷却2部には次の金型1が冷却1部より搬送される。
【0023】
取出部に移動した金型1は上型2が取り外されて、下型3から成形されたガラス素材5b、すなわち成形レンズ5bが取出される。更に金型1は、レンズ投入部に移動し、次の新しいガラス素材5aが収容されて、同様の工程が繰り返して行われる。
【0024】
図1を用いて、ガラスレンズ成形装置50におけるプロセス概要を説明したが、プロセス時間(サイクルタイム)に合わせて、加熱工程を2段階に分けて加熱したり、冷却工程を更に多段階に分けたりしてもよい。ヒータプレート8の設定温度(加熱温度)は、工程毎に異なることは言うまでもないが、概ね加熱工程と成工程の温度が他の工程よりも高くなっている。具体的には成形工程の場合、成形するガラス素材5aの特性によってヒータプレート8の設定温度が異なることは言うまでもないが、ガラス転移点を超えて屈伏点付近の温度が必要なことから600℃前後に達することもある。成形工程に続く冷却1工程での設定温度は成形工程より低く、冷却2部の設定温度は取出温度なので冷却1部より低い。
【0025】
また、金型1から上型2を取り外して成形されたガラスレンズ5bを取出す工程や、新たなガラス素材5aを挿入し組立てたりする工程を自動化してもよい。これにより生産性を高めることができる。
【0026】
本実施の形態のガラスレンズ成形装置50が備える金型の移動装置である送り装置60による金型1の竿送り動作について、
図2を用いて説明する。
【0027】
図1に示すように、ガラスレンズ成形装置50では、成形工程が複数の工程に分割されており、例えば、加熱工程、プレス成形工程、冷却1工程、冷却2工程の4つの工程に分割されており、4つのプレス装置40がそれぞれの工程に対応して配置されている。金型送り装置60は、4工程のそれぞれの金型1を同時に次工程へ送る機構を備えている。
【0028】
図2(a)に示すように、ガラスレンズ成型装置50において、それぞれのプレス装置40のヒータプレート8の上面に金型1が積載されている。このヒータプレート8の上面が、金型1が載置される載置面となっている。それぞれのヒータプレート8は金型1の送り方向であるX方向(第1方向)に沿って連続するように配置されている。X方向に直交する第2方向がY方向となっている。送り装置60は、4本の搬送アーム57と、それぞれの搬送アーム57をX方向に移動させる第1移動装置58と、それぞれの搬送アーム57をY方向に移動させる第2移動装置59とを備える。搬送アーム57は、Y方向に延びており、金型1と接触可能であって、第1移動装置58と第2移動装置59とに連結されている。第1移動装置58はアクチュエータ等の駆動源58aを含み、第2移動装置59はアクチュエータ等の駆動源59aを含み、例えばボールネジ機構を用いた構成が採用される。また、それぞれのプレス装置40の加工中心であるプレス中心P、例えばヒータプレート8の中心Pを結ぶラインが、金型1の送りラインLとなっており、この送りラインLはX方向に沿っている。
【0029】
送り装置60による金型1の移動における基本動作は、工程の上流側から下流側に向かって送り方向であるX方向に沿って金型1を搬送する。以下簡単に動作について説明する。
【0030】
図2(a)は、送り装置60の初期位置を示す。初期位置は、金型1に対する各工程における成形プロセス中の搬送アーム57の待機位置となる。この待機位置では、搬送アーム57は送りラインLより待避した位置に位置された状態となっている。次に、それぞれの工程において成形プロセスが完了すると、
図2(b)に示すように第2移動装置59により4本の搬送アーム57がY方向に一体的に移動する。これにより搬送アーム57は待避した位置から移動されて送りラインL上に位置する。つづけて
図2(c)に示すように第1移動装置58により4本の搬送アーム57がX方向に一体的に移動する。金型1は、搬送アーム57によって載置面上に滑るようにX方向に移動し、隣接した下流側の工程であるプレス装置40の載置面へと移動する。
【0031】
このような金型移動は、ガラス成形条件によって異なるが、例えばガラスレンズ成形装置のヒータプレートの温度が600℃付近となった状態でなされる。その結果、
図3に示すように、プレス装置40における下側のヒータプレート8の上面である積載面が金型1により擦過が繰り返されて、ヒータプレート8の摩耗が生じる。金型1は成形するレンズ径によって外径サイズが異なることが一般的であるのに対して、金型1の通るパスラインはヒータプレート8の中央付近で変わることがない。何故ならば、ヒータプレート8に接するヒータブロック7内にカートリッジヒータ6が内蔵されており、ヒータプレート8の面での温度の均一性を担保するためには、金型1のパスラインがヒータプレート8の中央付近とすることが望ましいからである。その結果、金型1はヒータプレート8の中央付近にて滑るように移動されることとなり、パスライン、すなわち送りラインLにおいて摩耗が容易に生じることとなる。
【0032】
図4を使って、ヒータプレート8の上面である積載面が摩耗した場合に生じる問題点を説明する。
図4は、Y-Z断面を示し、紙面に直交する方向に金型1が送られるものとする。なお、Z方向は、X方向およびY方向に直交する方向である。
【0033】
各種外形サイズの異なる金型1が、ガラスレンズの生産に伴って長期間に下側のヒータプレート8の上を擦過すると、ヒータプレート8に摩耗が生じる。上側のヒータプレートは、金型移動時に金型1とは接触しないので、ほとんど摩耗しない。摩耗した下側のヒータプレート8の上面に金型1が移動し成形プロセスが開始すると、
図4に示すように金型1の姿勢が水平面(X-Y面)に対して傾く場合がある。金型1がこのような姿勢になると、ヒータプレート8と金型1との間に隙間が生じ、両者が十分に接触した状態とはならず一様な伝熱が行われないため、均一加熱ができない。加えて、プレス軸10が下降しプレスが始まると、金型1に偏荷重が生じるので、上型2と胴型4とが引っかかってプレスできなくなる場合がある。仮にプレスできたとしても成形されたレンズに偏芯が生じるなどの品質面での課題が生じる場合がある。そのために、下側のヒータプレート8の上面は、定期的に平面度を保つようなメンテナンスが必要である。
【0034】
図5に、本案実施の形態のガラスレンズ成形装置50における加工状態に影響を与える摩耗状態を計測する方法を説明する図を示す。
図5は、
図1に示したガラスレンズ成形装置50における任意の工程(任意のプレス装置40)のY-Z面から見た図である。
【0035】
ガラスレンズ成形装置50には、金型1の代わりに、金型1とほぼ同様な形状をした検査治具15が設置されている。
【0036】
検査治具15は、上面と下面とが金型1と同様に平行になっている。検査治具15の形状は、上面と下面が平行であること以外に特段の形状の制約はないが、以降で説明する搬送の問題を考慮すると、金型と同様なサイズの円柱状の形状が好都合である。検査治具15が金型1と大きく異なる形状(例えば矩形状)であってもよいが、搬送アーム57によって検査治具15を搬送しにくくなる。搬送治具15の高さ方向の寸法においても、金型1と大きく異なる場合、ガラスレンズ成形機50に投入できないなどの問題が生じる場合があるため、金型1と大きく異ならないことが望ましい。また、検査治具15は、金型1と同様な材料である金属により形成されていることが望ましい。
【0037】
また、通常の成形プロセスでは金型1がヒータプレート8の中央である送りラインLを通過(
図5の紙面に対し、直交する方向(X方向)に金型1が移動)する。これに対して、送りラインLから一定量aだけY方向にオフセットした位置を、検査治具15が通過するように設定されている。オフセット量aについては後述する(
図7参照)。
【0038】
プレス装置40の主要な装置構成は
図1で説明した通りであり、金型1と接するヒータプレート8と、ヒータブロック7と、各ヒータブロック7に接して配置された断熱材9とを備える。上部側および下部側は上下対称に構成され、上部側についてはプレス軸10に連結され、加工室52の上部にプレス軸10がつながっている。金型1や検査治具15が移動するときはプレス軸10が上方に移動し、上側のヒータプレート8は金型1や検査治具15から離れた状態となる。プレス中は、プレス軸10が下方へ移動して金型1や検査治具15と接した状態となる。
【0039】
下方の断熱材9の下部には、複数の荷重センサとして、例えば4個1組となる荷重センサ21が設置されている。ガラスレンズ成形装置50は、構成部の動作および装置全体のシーケンスを制御する制御装置30と、荷重アンプ34と、表示部35とを備える。制御装置30は、演算部31と、ヒータ制御部32と、記憶部33とを備える。複数の荷重センサ21からの信号は、荷重アンプ34を介して制御装置30の内部にある演算部31に入力される。温度を制御するためのヒータ制御部32は、演算部31からの指令と温度センサ(図示しない)からの温度などに基づいてカートリッジヒータ6を駆動して、金型1の加熱温度を制御する。
【0040】
演算部31およびヒータ制御部32は、プログラムを実行することにより所定の機能を実現するCPUまたはMPUのような汎用プロセッサを含む。演算部31およびヒータ制御部32は、メモリに格納された制御プログラムを呼び出して実行することにより、カートリッジヒータ6の温度制御に関する制御を実現する。演算部31およびヒータ制御部32は、ハードウェアとソフトウェアの協働により所定の機能を実現するものに限定されず、所定の機能を実現する専用に設計されたハードウェア回路でもよい。例えば、CPU、MPU、GPU、FPGA、DSP、ASIC等、種々のプロセッサで実現することができる。
【0041】
記憶部33は種々の情報を記録する記録媒体である。記憶部33は、例えば、フラッシュメモリ、SSD(Solid State Device)、ハードディスク、その他の記憶デバイス又はそれらを適宜組み合わせて実現される。
【0042】
表示部35は、ガラスレンズ成形装置50の制御に関する情報を、ユーザに認識可能に提示する装置であり、例えば液晶ディスプレイなどである。
【0043】
この制御装置30の詳細動作を再度、
図1を使って説明する。初めに、制御指令に基づいてヒータブロック7及びヒータプレート8が所定の温度となるようにカートリッジヒータ6のパワーを調整する。この温度は、加熱部、プレス成形部、冷却1部、冷却2部で異なっているが、温度制御のシーケンスとしては同様なシーケンスが採用されている。
【0044】
投入部において、金型1を投入する際には、制御指令に基づいて投入部シャッター11aが開き、加工室内55に金型1は送り装置60により横滑りするかの如く加熱部のヒータブロック7の中央付近に置かれる。加工室52は、金型の酸化防止の目的で真空もしくは窒素等の不活性ガス雰囲気に保たれている。ガラスレンズ成形に必要な条件に達していない場合、制御装置30の指令により、ガラスレンズ成形装置50が動作しないようになっている。
【0045】
加熱部のヒータブロック7には、複数の棒状のカートリッジヒータ6が挿入されており、更にその上に硬い硬度を有するヒータプレート8を取付け、所定の温度を維持するように制御装置30によって制御されている。この加熱部のヒータプレート8上に置かれた直後の金型1は、加熱部のヒータプレート8の設定温度より低い。上部のプレス軸10は制御装置30の指令に基づいて下降するが、この工程では金型1に対して荷重を掛けることはほとんど無い。何故ならば、ガラス素材5aの温度が低い状態で荷重を掛けた場合、ガラス素材5aが割れたり、上型2や下型3のガラス素材5aとの接触面が傷ついたりするからである。上型2においても所定の温度まで所定の時間で加熱する必要があるので、上側のヒータプレート8は、上型2と接するような位置にある。この加熱工程での後半において、ガラス素材5aは、十分に熱変形が可能な温度に達する。制御装置30のシーケンスにより所定時間の経過後、金型1はヒータプレート8の上を横滑りながら成形部に送られ、プレス成形部において加熱される。
【0046】
プレス成形部のヒータプレート8上に金型1が置かれると、制御装置30のシーケンスによりプレス軸10が下降して上型2を押し下げてガラス素材5aを押しつぶし、ガラス素材5aに対して金型形状を転写する。制御装置30の指令により、所定時間の経過後、金型は冷却1部に送られ、プレス成形部には次の金型1が置かれて、次の金型1に対してプレス成形工程が行われる。
【0047】
冷却1部のヒータプレート8上に金型1が置かれると、制御装置30の指令によりプレス軸10が下降し、レンズ形状に変形したガラス素材5bは、上型2と下型3とに挟持される。冷却1部のヒータプレート8の設定温度は、成形部のヒータプレート8の温度よりわずかに低く設定されている。そのため、温度が下がることでガラス素材5bは収縮し、収縮することで上型2および下型3による形状の転写が完全になされる。制御装置30の指令により所定時間の経過後、金型1は冷却2部に送られ、冷却1部には次の金型1がプレス成形部より送られる。
【0048】
冷却2部のヒータプレート8上に金型1が配置されると、制御装置30の指令によりプレス軸10が下降し、冷却1部と同様に、レンズ形状に変形したガラス素材5bは、上型2と下型3に挟持される。冷却2部のヒータプレート8の設定温度は、金型1の取出温度に設定されており、急速に金型温度が下がる。制御装置30の指令により所定時間の経過後、取出部シャッター11bが開き、加工室55外にある取出部に金型1が送られ、冷却2部には次の金型1が冷却1部より送られる。
【0049】
制御装置30により制御されるガラスレンズ成形装置50の主なシーケンスは、以上の通りである。
【0050】
荷重中心(COP)検出するために用いられる4個の荷重センサ21は、ガラスレンズ成形装置50が備える全てのプレス装置40に必要なわけではない。ガラスレンズ成形装置50のプレス装置40のうちのどこか1つのプレス装置40に荷重センサ21が設置してあればよい。例えば、プレス成形部のプレス装置40に荷重センサ21が設置してあることが最も望ましい。このような荷重センサ21としては、荷重を検出できるものであればよく、例えば1軸式のセンサを用いてもよい。
【0051】
次に、4個1組の荷重センサ21がどのように作用するかを、
図6の模式図を用いて説明する。
【0052】
図6(a)において、4個の荷重センサ21(4個の荷重センサを個別に示す場合には21a、21b、21c、21dとする。)から荷重中心(COP)を検出する方法を説明する。
図6(a)に示すように4個の荷重センサ21は、X軸を基準としてY軸方向に±m、Y軸を基準としてX軸方向に±nの位置に配置されている。金型1はX軸とY軸との交点で置かれて成形プロセスが行われる。成形プロセスが終了すると、X軸方向の下流側(X軸(+))に金型1が送られる。
【0053】
図5に示したように検査治具15を上下のヒータプレート8によって挟み付けて検査軸15に荷重が掛かると、4個の荷重センサ21のそれぞれにて荷重Z1、Z2、Z3、Z4が検出される。この検出された荷重値が荷重アンプ34を介して演算部31に入力される。演算部31では、荷重値であるZ1~Z4と、荷重センサ21の位置情報であるXY座標を用いて、荷重の中心位置(ax、ay)が演算される。
図6(b)に具体的な演算方法を示す。荷重の中心位置は、ax=-My/Fz、ay=Mx/Fzに基づいて算出される。なお、ここでも説明では、axとayとの両方について算出する場合について説明したが、Y方向における荷重の中心位置ayだけを算出してもよい。ayだけを算出するような場合、少なくともY方向において異なる位置に複数の荷重センサが配置されていればよい。
【0054】
図5ではヒータプレート8について摩耗のない場合を示したが、ヒータプレート8に摩耗が生じている場合を
図7に示す。
図7(a)は、Y-Z面から見たプレス装置40の部分的な側面図であり、
図7(b)は、
図7(a)におけるA-A面の断面図である。
【0055】
図7(a)に示すように、下側のヒータプレート8が摩耗しているので、検査治具15は若干傾いて設置される。検査治具15は、その中心が通常の金型1が通る送りラインLから一定量aだけオフセットして設置されている。ヒータプレート8に摩耗が生じると、検査治具15の姿勢が傾くため、検査治具15を挟み付けた時の荷重の中心位置は、Y方向にrだけ移動した位置となる(a<r)。ここで、送りラインLから距離として、一定量aを第1距離とし、rを第2距離とする。
【0056】
このヒータプレート8の摩耗量測定においては、
図7(b)に示すように、検査治具15のパスラインを通常のガラスレンズ成形時の金型1のパスラインに対して、オフセット量aを設けたことがポイントである。オフセット量aの値は、特に限定はされないが金型直径の1/2程度の値とすることが好ましい。
図7(a)に示したように、オフセット量aが金型直径の1/2程度であれば、Y-Z面における検査治具15の図示右端下部はヒータプレート8において摩耗が生じていない部分を通過し、反対側の図示左端下部は摩耗が生じている部分を通過することになる。このような状態が生じることにより、荷重中心COPを計測する上で摩耗が生じていた時に顕著に(a<r)の関係が計測可能となる。
【0057】
図8に、本実施の形態における摩耗判定方法を説明する図を示す。
図8に示す内容は、例えば表示部35への表示イメージとなっている。
【0058】
検査治具15を通常の金型が通過する送りラインLよりY方向にaだけオフセットした位置で挟み付けたとき、
図5に示したようにヒータプレート8に全く摩耗が生じてない場合を考える。荷重中心は検査治具15をaだけオフセットした位置に設置してあるので、
図8に示すように荷重中心はY方向にaだけずれた位置となる。
【0059】
一方、検査治具15を通常の金型が通過する送りラインLよりY方向にaだけオフセットした位置で挟み付けたとき、
図7で示したようにヒータプレート8に摩耗が生じた場合を考えると、荷重中心はY方向にrだけずれた位置となる。
【0060】
すなわち、ヒータプレート8に摩耗が生じているか否かに応じて、荷重中心の位置が異なることが分かる。このことから、ヒータプレート8の摩耗を検出することが可能となる。実際の生産の中では、
図8に示したように荷重中心は初期位置であるaから、ヒープレート8の摩耗の進行に合わせて徐々にY方向にずれてrとなる。具体的に、rの距離が何ミリになったらヒータプレート8を交換したり、メンテナンスしたりするかは、加工装置や要求精度などに応じて、ユーザによって任意の値が設定されてよい。第1距離aと第2距離rとの差分を用いて、差分が大きくなる程、摩耗量が大きいと判断することができる。ヒータプレート8の摩耗が進行すればするほど、
図4で説明したように生産するうえでトラブルが生じたり、成形されたガラスレンズの品質面で問題が生じたりする。
【0061】
図9を用いて検査治具15を送り装置60により搬送する動作を説明する。送り装置60により検査治具15を搬送する場合、金型1をすべて排出した後、検査治具15を加工室内55の最初の位置に投入する。
【0062】
図9(a)は、送り装置60の搬送アーム57が送りラインLよりY方向に待避した待機位置に位置された状態となっている。次に、
図9(b)に示すように、搬送アーム57が待避位置からY方向に移動する。このY方向の位置は、通常の金型の通る送りラインLよりY方向にaだけオフセットした位置である。その後、
図9(c)に示すように、搬送アーム57はX方向に移動して、送りラインLよりaだけオフセットした位置に配置された検査治具15がX方向に移動される。送り装置60がこのような動作を繰り返すことにより検査治具15をX方向に移動させることができる。
【0063】
本実施の形態におけるヒータプレート8の摩耗を測定する方法は、
図7を用いて説明したように、通常の金型1が通る送りラインLよりY方向にaだけオフセットした位置に検査治具15を配置して搬送することに特徴がある。よって、金型1を搬送するときと、検査治具15を搬送するときとで、搬送アーム57のY軸方向への位置決めを少なくとも2箇所行う必要がある。このような2箇所の位置決めは第2移動装置59により行われ、このような第2移動装置59の駆動源としては、エアシリンダやリニア駆動するアクチュエータを採用してもよい。このような搬送アーム57のY方向への2つの位置決め位置の情報については、制御装置30の記憶部33に予め記憶されており、制御装置30により位置決め位置の情報を用いて搬送アーム57の位置決め動作が制御される。
【0064】
具体的な検査治具15を用いた下側のヒータプレート8の摩耗検出方法について、
図5および
図9を用いて説明する。この摩耗検出方法は、ヒータプレート8の温度が通常のガラスレンズ生産中の温度であっても実施可能である。ただし、後述する様に精度良く摩耗を測定する必要があるならば、常温状態にて実施することが望ましい。以下では、ガラスレンズ生産中の温度のまま、下側のヒータプレートの摩耗量を測定するシーケンスを一例として説明する。
【0065】
初めに、ガラスレンズ成形装置50においてガラスレンズ成形中であったならば、金型1を全て排出させる。すなわち、新たな金型1の投入を止めて、最後の金型1が排出されるのを待つ。これらの動作は、制御装置30の指令によって行われる。
【0066】
次に、表示部35(
図5参照)において、ユーザが例えば摩耗検出モードに切り替えることにより、制御装置30において摩擦検出モードが開始される。その後、検査治具15をガラスレンズ成形装置50の投入部より投入する。制御装置30からの指令に基づいて、送り装置60が制御され、通常の金型1の通る送りラインLよりY方向にaだけオフセットした位置を検査治具15が送られる。荷重センサ21が設けられているポジション、例えばプレス成形部におけるプレス装置40のヒータプレート8の上面に検査治具15が搬送アーム57により位置決めされる。その後、プレス装置40のプレス軸10が下降し、検査治具15が上下のヒータプレート8で挟持された状態となる。この時、検査治具15は、通常のガラスレンズ生産時の金型1の挙動とは異なり、投入部より短時間でプレス成形部に到達する。そのため、検査治具15の温度がプレス成形部の設定温度と比較して低い場合がある。検査治具15の温度が設定温度よりも低い場合、検査治具15が熱膨張することにより荷重センサ21により荷重値を正確に検出することができないことがある。検査治具15の温度が上昇するまでしばらく待ってから荷重を計測した方がより正確な値となる。このように温度上昇のために待つ時間としては、検査治具15の熱特性によって異なるが、例えば10~15分程度としてもよい。検査治具15がプレス成形部の設定温度に達した後、荷重センサ21の測定値から算出された荷重中心(COP)の値は、
図8で説明したように、摩耗がほとんど生じていない場合については検査治具15のY方向へのオフセット位置aに近い値を示す。一方、ヒータプレート8に摩耗が生じている場合については検査治具15が傾くことによりオフセット値aより大きな値であるrを示すこととなる。これらの荷重中心の値は、検査日時とともに下側のヒータプレート8の上面である載置面の“摩耗値”として、制御装置30の記憶部33に保存され、必要に応じて後からでも取り出して確認することができる。
【0067】
荷重中心の値の算出が終わると、検査治具15は装置より排出される。その後、ガラスレンズの生産を再開することが可能である。
【0068】
以上のシーケンスは、ガラスレンズ生産中に一時的に生産を中止し、ヒータプレート8の摩耗を検査する様態として説明した。ヒータプレート8の温度が高く、投入した直後の検査治具15の温度は低く、測定誤差を生む要因となるため、望ましくは、ガラスレンズ成形装置50全体のカートリッジヒータ6を停止し、常温中で計測するようにしてもよい。ヒータプレート8の摩耗状態は、経時変化するものであり、摩耗量の絶対値の正しさを議論することなく、摩耗値の増加の仕方に基づいて摩耗状態を判断してもよい。また、上述したようにヒータプレート8の温度を使用温度にしたままで摩耗状態を計測してもよい。
【0069】
次に、
図9に示した検査治具15を用いた計測をするタイミングについて説明する。下側のヒータプレート8に摩耗が生じた場合、上下のヒータプレート8の平行度が変化したのと等価である。すなわち、平行度が悪くなると、成形したレンズの偏芯(特にチルト)が悪化する。例えば、R1面およびR2面共に非球面レンズ(両非球面レンズ)の場合、光軸が1本しか無いので精度悪化が顕著となる。この偏芯量(透過偏芯)θ(秒)の許容度(公差)は、レンズによって異なるので一概に言えないが、荷重中心の値を計測した(r-a)値と強い相関を持つ。そのため、レンズの機種毎に偏芯量θと(r-a)値の関係を記したグラフを求め(例えば
図11参照)、ガラスレンズの成形品質と関係付けるようにしてもよい。
【0070】
その上で本開示の考案者らは、上述したように荷重中心の計測値rは、ガラスレンズ成形装置の制御装置30の記憶部33内に記憶されているので、随時そのトレンドグラフから、最適なヒータプレート8の交換時期(メンテナンスのタイミング)を類推するのが実用的であることを提案する。言い換えると、荷重センサによる摩耗量計測のタイミングは、毎日1回とか、1000ショットに1回とかの定期的なタイミングとする。そして、算出された荷重中心の値であるr値のトレンドから、その時生産しているレンズの偏芯量を類推してヒータプレート8のメンテナンスを実施するタイミングを類推するような使い方が望ましいと思われる。
【0071】
検査治具15の搬送方法としては、
図9に示す送り装置60に代えて
図10に示すような送り装置70を用いてもよい。
【0072】
図9の送り装置60では、搬送アーム57のY方向の位置決めを行う第2移動装置59が、一つのアクチュエータ59aで駆動されていたため、金型1と検査治具15を混在して搬送することができなかった。
図10の送り装置70では、Y方向の位置決めをプレス装置毎に独立して行うことができる構成を示している。
【0073】
送り装置70は、搬送アーム57のY方向の移動を搬送アーム57毎に個別に行う第2移動装置79を備える。第2移動装置79は、搬送アーム57のX方向の移動を行う第1移動装置78に連結されているため、第1移動装置78によりX方向に移動させるときは、全ての搬送アーム57が一体的に移動する。よって、
図10に示す送り装置70によれば、金型1と検査治具15とを混在して流すことが可能となり、利便性が向上する。すなわち、
図9に示す送り装置60で説明した動作では、ガラスレンズ生産中の金型を排出させる必要があったが、
図10の構成の場合、生産中の金型に交じって検査治具15を搬送させることができる。したがって、摩耗量の測定のために金型1を排出する時間を短縮することができ、より生産性が高くなる。
【0074】
以上述べた実施の形態において、
図5、
図7、
図9における検査治具15の使用に際しては、通常の金型1の通るパスライン(X方向の送りラインL)に対してY方向にaだけオフセットした位置に検査治具15を配置させることを説明した。この理由は、荷重重心の移動量を計測するためには、Y方向のオフセット量が一定の値(値a)としておくことが望ましいからである。また、検査治具15のX方向への送り動作中においてもY方向のオフセット量aが変化しないことが望ましい。移動中は必ずしもY方向のオフセット量がaである必要は無いが、意図的にオフセット量を変えるとなると不必要な動作が増えるからである。
【0075】
本実施の形態の加工装置の状態判定方法は、ガラスレンズ成形装置50に適用される。ガラスレンズ成形装置50は、金型1が積載されるヒータプレート8の積載面を有し、積載面に積載された金型1に対してプレス荷重を付与する複数のプレス装置40と、複数の積載面がX方向に沿って連続するように複数のプレス装置40が並んで配置され、隣接するプレス装置40間において、X方向に沿って積載面上を滑らせて金型1を移動させる送り装置60と、を備える。加工装置の状態判定方法は、上下面が平行である検査治具15を、所定のプレス装置40の加工中心であるプレス中心Pに対して、X方向と直交するY方向にオフセットさせて積載面に設置するステップと、所定のプレス装置40において検査治具15をプレスし、プレスの荷重中心COPを算出するステップと、Y方向におけるオフセットの位置aと荷重中心の位置rとに基づいて、X方向に沿った載置面の摩耗状態を判定し、摩耗状態に基づいて加工装置の状態を判定するステップと、を含む。
【0076】
検査治具15におけるプレスの荷重中心を算出するステップにおいて、Y方向において異なる位置に配置された複数の荷重センサ21によりヒータプレートの載置面に付加される荷重を検出し、検出された複数の荷重情報が制御装置30の演算部31に入力されて、演算部31にて荷重情報を用いてプレスの荷重中心を算出する。
【0077】
上述の説明では、光学素子としてレンズを成形する場合を例としたが、成形される対象はレンズに限られず、レンズ以外の光学素子であってもよい。また、光学材料としてガラス素材を例として説明したが、成形できる材料であればガラス素材以外の材料を採用してもよい。
【0078】
また、本開示の加工装置の状態検出方法は、ガラスレンズ成形装置のみに適用されることに限られない。例えば、複数の装置に跨り金型を移動させる加工装置に適用することができ、金型移動に伴う摩耗状態を検出することで加工装置の状態を判定することができる。
【0079】
また、プレス軸10を降下させることで、下型3に対して上型2を押し下げる場合を例としたが、下型3が上型2に対して押し上げられる構成でもよい。上型2と下型3とが互いに近づくように相対的な移動を行うような構成であればよい。
【0080】
また、制御装置30において記憶部33に荷重中心rの値に対する閾値が予め記憶されており、算出されたr値が閾値を超えていると判断される場合に、装置の状態が良くないものとしてメンテナンスが必要であると判断するようにしてもよい。また、第1距離aと第2距離rとの差分に対する閾値を記憶部33に記憶させて、差分が閾値を超えていると判断される場合に、メンテナンスが必要であると判断するようにしてもよい。
【0081】
なお、上記様々な実施の形態のうちの任意の実施の形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本開示の光学素子の成形装置は、ヒータプレートの摩耗状態を評価することで、装置の状態を判定できる機能を有しているので、光学素子の成形精度を向上させることができ、歩留まりを向上させることが期待できる。そのため、ガラスレンズに限ることなく樹脂のリヒート成形等においても利用できる。
【符号の説明】
【0083】
1.金型
2.上型
3.下型
4.胴型
5.ガラス,(a ガラス素材,b 成形レンズ)
6.カートリッジヒータ
7.ヒータブロック(HB)
8.ヒータプレート
9.断熱材
10.プレス軸
11.シャッター(11a入口,11b出口)
15.検査治具
21.荷重センサ(21a,21a,21a,21a:1軸荷重センサ)
22.エアシリンダ
30.制御装置
31.演算部
32.ヒータ制御部
33.記憶部
34.荷重アンプ
35.表示部
40.プレス装置
50.ガラス成形装置(全体)
51.ベース
52.加工室
55.加工室内(チャンバー)
57.搬送アーム
58.第1移動装置(58a:駆動源)
59.第2移動装置(59a:駆動源)
60.送り装置
70.送り装置
P.プレス中心(加工中心)
L.送りライン(パスライン)