(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176606
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】バイオ電極、バイオ電極の製造方法及び電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20231206BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20231206BHJP
H01M 8/16 20060101ALI20231206BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/86 B
H01M4/88 K
H01M8/16
H01M4/90 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088978
(22)【出願日】2022-05-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「大学発新産業創出プログラム 社会還元加速プログラム(SCORE)大学推進型」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻村 清也
(72)【発明者】
【氏名】エムディ モタハー ホサイン
(72)【発明者】
【氏名】栗山 宏斗
(72)【発明者】
【氏名】シュウ アンキ
【テーマコード(参考)】
5H018
【Fターム(参考)】
5H018BB06
5H018BB12
5H018BB13
5H018BB16
5H018BB17
5H018EE16
(57)【要約】
【課題】メディエータが電極に固定化された新規なバイオ電極、バイオ電極の製造方法及び電気化学デバイスの提供。
【解決手段】導電性基材と、前記導電性基材にアミド基を介して結合しているメディエータ分子と、を含むバイオ電極。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基材と、前記導電性基材にアミド基を介して結合しているメディエータ分子と、を含むバイオ電極。
【請求項2】
表面にカルボキシ基を有する導電性基材を準備する工程と、
前記カルボキシ基を、第1級アミンと反応してアミド基を形成する官能基に変換する工程と、
第1級アミノ基を持つメディエータ分子の前記第1級アミノ基と、前記官能基とを反応させる工程と、を含む、バイオ電極の製造方法。
【請求項3】
前記官能基はハロゲン化アシル基又は活性エステル基である、請求項2に記載のバイオ電極の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のバイオ電極を含む、電気化学デバイス。
【請求項5】
酵素又は微生物をさらに含む、請求項4に記載の電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオ電極、バイオ電極の製造方法及び電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
酵素や微生物を電極の触媒(以下、バイオ触媒ともいう)として利用し、糖類、アルコールその他のバイオマス資源を燃料として発電するバイオ燃料電池をはじめとした電気化学デバイスの研究及び開発がなされている。
酵素や微生物を利用する電気化学デバイスは一般に、燃料の酸化を促進するバイオ触媒を含む負極(アノード)と、酸素の還元を促進するバイオ触媒を含む正極(カソード)と、を備えている。負極において燃料の酸化(たとえば、グルコースからグルコノラクトンへの変化)によって取り出された電子は正極に移動し、この電子を用いて酸素が還元されて水(H2O)が生じる。この過程で生じる電子の移動が発電などに利用される。
【0003】
バイオ触媒を利用する電気化学デバイスでは、バイオ触媒と電極との間の電子の移動を媒介するメディエータと称される物質を用いる場合がある。
メディエータによる電子伝達作用の効率や安定性を高める方法として、メディエータを電極に固定する技術が種々検討されている。
例えば、非特許文献1には電子線グラフト重合によりメディエータとしてのフェロセンを電極の表面に固定化する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. Power Sources, 479, 228807 (2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に記載された方法は電子線の照射、グラフト重合等の工程を経るため生産効率の点で改善の余地がある。
本発明は上記事情に鑑み、メディエータが電極に固定化された新規なバイオ電極、バイオ電極の製造方法及び電気化学デバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための具体的手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1>導電性基材と、前記導電性基材にアミド基を介して結合しているメディエータ分子と、を含むバイオ電極。
<2>表面にカルボキシ基を有する導電性基材を準備する工程と、
前記カルボキシ基を、第1級アミンと反応してアミド基を形成する官能基に変換する工程と、
第1級アミノ基を持つメディエータ分子の前記第1級アミノ基と、前記官能基とを反応させる工程と、を含む、バイオ電極の製造方法。
<3>前記官能基はハロゲン化アシル基又は活性エステル基である、<2>に記載のバイオ電極の製造方法。
<4><1>に記載のバイオ電極を含む、電気化学デバイス。
<5>酵素又は微生物をさらに含む、<4>に記載の電気化学デバイス。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、メディエータの電子伝達作用の効率を高めることができる共重合体、この共重合体を用いたバイオ電極材料、バイオ電極及び電気化学デバイスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1で作製した電気化学デバイスの評価結果を示すグラフである。
【
図2】実施例1で作製した電気化学デバイスの評価結果を示すグラフである。
【
図3】実施例1で作製した電気化学デバイスの評価結果を示すグラフである。
【
図4】実施例1で作製した電気化学デバイスの評価結果を示すグラフである。
【
図5】実施例1で作製した電気化学デバイスの評価結果を示すグラフである。
【
図6】実施例1で作製した電気化学デバイスの評価結果を示すグラフである。
【
図7】実施例1で作製した電気化学デバイスの評価結果を示すグラフである。
【
図8】実施例1で作製した電気化学デバイスの評価結果を示すグラフである。
【
図9】実施例1で作製した電気化学デバイスの評価結果を示すグラフである。
【
図10】実施例2で作製した電気化学デバイスの評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
【0010】
<バイオ電極>
本開示のバイオ電極は、導電性基材と、前記導電性基材にアミド基を介して結合しているメディエータ分子と、を含む。
上記バイオ電極では、メディエータ分子が導電性基材にアミド基を介して結合している。このため、例えば、メディエータ分子を物理吸着により導電性基材に結合させた場合に比べ、メディエータ分子が導電性基材に固定された状態が安定して維持される。
【0011】
本開示のバイオ電極をバイオ触媒とともに燃料電池のような電気化学デバイスに用いると、バイオ触媒と電極の間の電子の伝達がメディエータ分子によって効率よく媒介され、電気化学デバイスの能力が向上する。
【0012】
本開示において「バイオ電極」とは、バイオ触媒を利用する電気化学デバイスに用いられる電極を意味する。
本開示のバイオ電極において、メディエータ分子が導電性基材にアミド基を介して結合する部位は特に制限されず、導電性基材の表面の全体であっても、表面の一部であってもよい。
【0013】
(導電性基材)
バイオ電極に含まれる導電性基材の材質は特に制限されず、炭素材料、金属等の導電性材料から選択できる。
炭素材料としては、黒鉛、カーボンブラック(ケッチェンブラック、アセチレンブラック等)、MgO鋳型炭素粒子、カーボンナノ材料(カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンナノホーン、カーボンナノワイヤ等)などが挙げられる。炭素材料は1種のみを用いても2種以上を併用してもよい。
【0014】
導電性基材は、少なくとも一部が粒子状又は繊維状であることが好ましい。
導電性基材の少なくとも一部が粒子状又は繊維状であると、メディエータ分子を導電性基材に結合させる部位を充分に確保でき、充分な量のメディエータ分子を導電性基材に結合させることができる。
粒子状の導電性基材としては、MgO鋳型炭素等の鋳型法により作製される多孔質の炭素粒子が挙げられる。
繊維状の導電性基材としては、炭素繊維からなるカーボンフェルト、カーボンクロス等が挙げられる。
【0015】
導電性材料は全体が導電性を有していても、一部が導電性を有していてもよい。
バイオ電極は、導電性基材を支持するための支持体を含んでもよい。
【0016】
(メディエータ分子)
バイオ電極に含まれるメディエータ分子は特に制限されず、バイオ触媒と電極との間の電子伝達を媒介する性質を持つ分子(レドックス分子)から選択できる。
バイオ電極に含まれるメディエータ分子は、1種のみでも2種以上であってもよい。
【0017】
メディエータ分子が導電性基材にアミド基を介して結合した状態は、例えば、第1級アミノ基を持つメディエータ分子の第1級アミノ基を導電性基材側の官能基と反応させて得られる。
【0018】
第1級アミノ基を持つメディエータ分子として具体的には、アズールA(3-アミノ-7-(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム・クロリド)、チオニン(3,7-ジアミノフェノチアジン)、トルイジンブルー(3-アミノ-2-メチル-7-(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウム・クロリド)等のフェノチアジン誘導体、アミノフェロセン、ニュートラルレッド、アミノアントラキノン、アミノナフトキノン、アミノベンゾキノン、アミノ基を有するリガンド(アミノピリジン、ジアミノビピリジン等)を配位子とし、鉄、オスミウム、ルテニウム、ニッケル、銅等の遷移金属を中心金属とする金属錯体などが挙げられる。
【0019】
(バイオ触媒)
本開示のバイオ電極は、バイオ触媒を含んでいてもよい。
バイオ触媒として具体的には、酵素及び微生物が挙げられる。
バイオ電極をアノードとして使用する場合、バイオ電極は燃料の酸化を促進するバイオ触媒を含む。燃料の酸化を促進するバイオ触媒は、燃料を加水分解等により酸化可能な状態にするバイオ触媒と、酸化を促進するバイオ触媒との組み合わせであってもよい。
バイオ電極に含まれるバイオ触媒は、1種のみでも2種以上であってもよい。
【0020】
燃料がグルコースである場合の酵素としては、グルコースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、ピラノースオキシダーゼ及びセロビオースデヒドロゲナーゼが挙げられる。
燃料がフルクトースである場合の酵素としては、フルクトースオキシダーゼ及びフルクトースデヒドロゲナーゼが挙げられる。
燃料がスクロースである場合の酵素としては、インベルターゼとグルコースデヒドロゲナーゼの組み合わせが挙げられる。
燃料がデンプンである場合の酵素としてはアミラーゼとグルコースデヒドロゲナーゼの組み合わせが挙げられる。
燃料が乳酸である場合の酵素としては、乳酸オキシダーゼ及び乳酸デヒドロゲナーゼが挙げられる。
燃料がアルコールである場合の酵素としては、アルコールオキシダーゼ及びアルコールデヒドロゲナーゼが挙げられる。
燃料がアルデヒドである場合の酵素としては、アルデヒドオキシダーゼ及びアルデヒドデヒドロゲナーゼが挙げられる。
燃料がピルビン酸である場合の酵素としては、ピルビン酸オキシダーゼ及びピルビン酸デヒドロゲナーゼが挙げられる。
【0021】
バイオ電極材料をカソードの材料として使用する場合、バイオ電極材料は酸素の還元を促進するバイオ触媒を含む。
酸素の還元を促進する酵素として具体的には、ビリルビンオキシダーゼ、ラッカーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ等が挙げられる。
【0022】
バイオ触媒として利用できる微生物としては、シェワネラ属の微生物、ジオバクター属の微生物などが挙げられる。
【0023】
(その他の成分)
バイオ電極は、導電性基材、メディエータ分子及びバイオ触媒以外の成分を含んでいてもよい。
例えば、バイオ電極はバイオ触媒を導電性基材に固定するための材料を含んでもよい。
バイオ触媒を導電性基材に固定するための材料として具体的には、架橋剤、バインダー等が挙げられる。これらの材料はバイオ触媒を導電性基材に直接固定しても間接的に固定してもよい。
【0024】
架橋剤としては、分子中に2つ以上の架橋性基を有する化合物が挙げられる。架橋性基としてはエポキシ基、アミノ基、アルデヒド基、カルボキシ基、NHSエステル基等が挙げられる。
架橋剤として具体的には、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(PEGDGE)、1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタン(AEE)、グルタルアルデヒド等が挙げられる。
【0025】
バインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルアルコール(PVA)、NafionTM等のポリマー材料が挙げられる。
【0026】
<バイオ電極の製造方法>
本開示のバイオ電極の製造方法は、
表面にカルボキシ基を有する導電基材を準備する工程と、
前記カルボキシ基を第1級アミンと反応してアミド基を形成する官能基に変換する工程と、
第1級アミノ基を持つメディエータ分子の前記第1級アミノ基と前記官能基とを反応させる工程と、を含む。
【0027】
上記方法によれば、導電性基材にアミド基を介してメディエータ分子が結合した状態のバイオ電極を製造することができる。
【0028】
上記方法では、電子線グラフト重合、電解重合等の他の手法に比べて簡便な手法でメディエータ分子を導電性基材に結合させることができ、バイオ電極を効率よく製造することができる。また、メディエータ分子をポリマー鎖ではなくアミド基を介して結合させるため、メディエータ分子と導電性基材との距離の制御に関わる技術的な問題が小さい。
【0029】
表面にカルボキシ基を有する導電基材を準備する工程では、例えば、導電性基材の表面にカルボキシ基を生成する工程を実施する。導電性基材の表面にカルボキシ基を生成する工程を実施する方法は特に制限されず、公知の手法で実施できる。
導電性基材の表面にカルボキシ基を生成する方法として具体的には、導電性基材を硝酸、オゾン等の酸化剤で処理する方法が挙げられる。
表面にカルボキシ基を有する導電基材を準備する工程には、カルボキシ基が表面に存在する導電性基材を購入などにより調達することも含まれる。
【0030】
導電性基材の表面にあるカルボキシ基は、第1級アミンと反応してアミド基を形成する官能基に変換される。
第1級アミンと反応してアミド基を形成する官能基としては、ハロゲン化アシル基(-COX、Xはハロゲン原子)、活性エステル基等が挙げられる。
【0031】
第1級アミンと反応してアミド基を形成する官能基の種類は、バイオ電極に用いられるメディエータ分子の種類に応じて選択してもよい。たとえば、メディエータ分子として使用される物質の中には水性溶媒又は有機溶媒に対して難溶性のものがある。
ハロゲン化アシル基は、有機溶媒中でメディエータ分子の持つ第1級アミノ基と反応させる場合(すなわち、水に難溶性の物質をメディエータ分子として利用する場合)に好適である。
活性エステル基は、水性溶媒中でメディエータ分子の持つ第1級アミノ基と反応させる場合(すなわち、水溶性の物質をメディエータ分子として利用する場合)に好適である。
【0032】
カルボキシ基をハロゲン化アシル基に変換する方法は特に制限されず、公知の手法で実施できる。
例えば、カルボキシ基を塩化チオニル又はシアヌル酸クロリドと反応させてカルボキシ基を-COClに変換する方法が挙げられる。
【0033】
カルボキシ基を活性エステル基に変換する方法は特に制限されず、公知の手法で実施できる。
例えば、カルボキシ基にN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)と1-エチル-3-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]カルボジイミド(EDC)を反応させてカルボキシ基をNHSエステル基に変換する方法が挙げられる。
【0034】
カルボキシ基を第1級アミンと反応してアミド基を形成する官能基に変換する工程の後、得られた官能基と、第1級アミノ基を持つメディエータ分子の第1級アミノ基とを反応させる。
【0035】
第1級アミンと反応してアミド基を形成する官能基とメディエータ分子の第1級アミノ基とを反応させる方法は特に制限されず、公知の手法で実施できる。
例えば、メディエータ分子を溶解した液体と、第1級アミンと反応してアミド基を形成する官能基を有する導電性基材とを接触させる方法が挙げられる。
【0036】
本開示のバイオ電極の製造方法は、必要に応じて上記以外の工程を含んでいてもよい。
例えば、導電性基材にバイオ触媒を担持させる工程を含んでいてもよい。
導電性基材にバイオ触媒を担持させる方法は特に制限されず、公知の手法で実施できる。
例えば、バイオ触媒を溶解又は分散した液体と導電性基材とを接触させる方法が挙げられる。
バイオ触媒は、架橋剤、バインダー等の材料によって導電性基材に固定されてもよい。
【0037】
バイオ触媒は、導電性基材と化学的に結合させてもよい。例えば、バイオ触媒の表面に存在する第1級アミノ基を、導電性基材の表面にある第1級アミンと反応してアミド基を形成する官能基と反応させて、バイオ触媒を導電性基材にアミド基を介して結合させてもよい。
【0038】
<電気化学デバイス>
本開示の電気化学デバイスは、上述したバイオ電極を含む。電気化学デバイスは、上述したバイオ電極をアノードとして含んでいても、カソードとして含んでいても、アノード及びカソードの両方として含んでいてもよい。
電気化学デバイスの例として具体的には、バイオ燃料電池、バイオリアクター、バイオセンサー等が挙げられる。
【0039】
以下、電気化学デバイスの一例としてバイオ燃料電池の構成について説明する。
バイオ燃料電池は、カソード及びアノードを少なくとも備えている。
バイオ燃料電池に燃料を供給すると、アノードにおいて燃料の酸化により生じた電子はカソードに移動し、カソードにおける酸素の還元に用いられる。この過程で生じる電子の移動が発電に利用される。
【0040】
本開示の電気化学デバイスは、バイオ触媒を含んでもよい。バイオ触媒としては、上述した酵素及び微生物が挙げられる。
バイオ触媒は、電極に固定された状態であっても、電極に固定されていない状態(例えば、電解液中に存在する)であってもよい。
【0041】
バイオ燃料電池に使用される燃料は、バイオ触媒によって酸化が促進される物質であればその種類は特に制限されない。燃料として具体的には、糖類、アルコール類、アルデヒド類、アミノ酸類、アミン類、酢酸、乳酸、尿酸等の有機酸類、水素等が挙げられる。
【0042】
バイオ燃料電池に使用される燃料は、1種のみでも2種以上であってもよい。燃料は、そのままの状態でバイオ触媒が酸化可能なものであっても、加水分解等により酸化可能な状態になるもの(たとえば、加水分解によりグルコースになるデンプン)であってもよい。
【実施例0043】
以下、実施例に基づき本開示を更に詳細に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
<実施例1>
導電性基材として、酸化マグネシウムテンプレート多孔質炭素(MgOC)を使用した。MgOCとしては、孔径が50nm、100nm、200nmのものをそれぞれ使用した。
【0045】
MgOC(200mg)を65%HNO3(10mL)と混合し、この混合物を80℃で3時間攪拌しながら加熱する酸化処理を行った。処理後のMgOCを濾過し、脱イオン水でpHが7.0になるまで洗浄した。その後60℃で12時間乾燥させて、表面にカルボキシ基が生成したMgOC(以下、MgOC-COOHと表記する)を得た。
処理後のMgOCに対してX線光電子分光分析(XPS)を実施したところ、酸素原子に相当するピークが検出され、カルボキシ基が生成したことが確認された。
【0046】
100mgのMgOC-COOHを10mLのジクロロメタン(DCM)に超音波で十分に分散させた。次に、分散液を0℃の環境に置き、100μLのトリエチルアミンを加えた。その後、得られた混合液に塩化チオニル(SOCl2)200μLを滴下し、0℃で30分間保持した。その後、混合液を室温で3時間攪拌し、濾過し、40℃で1時間、真空下で乾燥させて、カルボキシ基が-COClに変換されたMgOC(以下、MgOC-COClと表記する)を得た。
処理後のMgOCに対してX線光電子分光分析(XPS)を実施したところ、塩素原子に相当するピークが検出され、カルボキシ基の少なくとも一部が-COClに変換されたことが確認された。
【0047】
MgOC-COCl(40mg)と300μLのポリ(ビニリデンジフルオライド)(PVDF)と300μLのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)の混合物を、2分間超音波処理して組成物を調製した。この組成物をグラッシーカーボン電極(GC、端部の表面積0.071cm2)上に滴下し、60℃で12時間乾燥させて電極を形成した。この電極をGC-MgOC-COClと表記する。
【0048】
第1級アミノ基を持つメディエータ分子としてのチオニン(TH)、トルイジンブルー(TB)又はアズールA(AA)を、DMSOに濃度が5mg/mLとなるようにそれぞれ溶解して、メディエータ溶液を得た。1.5mLチューブにメディエータ溶液(500μL)とトリエチルアミン(10μL)を入れ、よく混和して混合溶液を得た。この混合溶液にGC-MgOC-COClを浸漬し、40℃でインキュベートした。その後、DMSOで洗浄し、さらに水で洗浄し、乾燥庫で30分間乾燥させて、メディエータ分子が第1級アミノ基に由来するアミド基を介してMgOCに結合した状態の電極を得た。
【0049】
<比較例1>
MgOC(40mg)と、200μLのPVDFと、400μLのNMPの混合物に対して2分間の超音波処理を行って組成物を得た。この組成物をGC電極の端部に滴下し、60℃で16時間乾燥させて電極を形成した。この電極をGC-MgOCと表記する。
GC-MgOCを実施例1と同様にして得たメディエータ溶液に浸漬して、メディエータをMgOCに吸着させた。その後水で洗浄し、乾燥庫で30分間乾燥させて電極を得た。
【0050】
<酵素の固定>
グルコース脱水素酵素(FAD-GDH)(175μg)と、架橋剤としてbis(NHS)PEG9(100μg)と、界面活性剤としてTritonTM-X(3.5μg)を含む混合液(29μL)を調製した。この混合液の4μL(1電極あたり38μg、528μg/cm2に相当)を、実施例1及び比較例1で得た電極の電極が形成された部分に塗布し、乾燥庫(湿度1%、26℃)で12時間硬化させて、FAD-GDHを電極に固定した。
【0051】
<電気化学性能の評価>
電気化学的測定に先立ち、電極をリン酸緩衝液(pH7.0)で洗浄し、結合が緩い分子や遊離の分子を除去した。
電極の電気化学的性能は、200mMのグルコースを含むリン酸緩衝液(pH7.0、25℃)において、印加電位0.2Vでクロノアンペロメトリーにより評価した。
具体的には、FAD-GDHを固定した電極を作用極とし、Ag|AgCl|KCl(飽和)を参照極とし、Pt線を対極とする標準的な3電極セルを作製し、このセルを用いて時間(h)ごとの電流値を測定した。結果を
図1~
図9に示す。
【0052】
図1、
図2及び
図3はMgOCの孔径が200nmであり、メディエータ分子がそれぞれTH、TB又はAAである場合の結果を示す。
図4、
図5及び
図6はMgOCの孔径が100nmであり、メディエータ分子がそれぞれTH、TB又はAAである場合の結果を示す。
図7、
図8及び
図9はMgOCの孔径が50nmであり、メディエータ分子がそれぞれTH、TB又はAAである場合の結果を示す。
【0053】
図1~
図9に示すように、メディエータ分子をアミド基を介して結合した状態(Grafted)のMgOCをアノードとして用いた実施例1は、メディエータ分子を吸着(Adsorbed)させた状態のMgOCをアノードとして用いた比較例1に比べて優れた電気化学性能を示した。
【0054】
<実施例2>
導電性基材として、カーボンフェルト(CF、日本カーボン社製、5cm×5cm×1cm)を使用した。
【0055】
300mLの70%濃硝酸にCFを14時間浸漬し、60℃で加熱した。加熱終了後、CFを蒸留水で洗浄液のpHが7.0になるまで洗浄し、48時間真空中で乾燥させて、表面にカルボキシ基が生成したCF(以下、CF-COOHと表記する)を得た。
【0056】
240mLのエタノールと60mLの水の混合液に0.015molのN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)と0.015molの1-エチル-3-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]カルボジイミド(EDC)を加え、EDCとNHSの濃度がそれぞれ50mMである組成物300mLを調製した。この組成物にCF-COOHを2時間浸漬し、洗浄して、カルボキシ基がNHSエステル基に変換されたCF(以下、CF-CO-O-NHSと表記する)を得た。
【0057】
第1級アミノ基を持つメディエータ分子としてトルイジンブルー(TB)、アズールA(AA)又はニュートラルレッド(NR)を水に溶解して、濃度が1mMのメディエータ溶液をそれぞれ調製した。それぞれのメディエータ溶液にCF-CO-O-NHSを1時間浸漬し、蒸留水で洗浄して、メディエータ分子がアミノ基に由来するアミド基を介してCFに結合した状態の電極を得た。
【0058】
<比較例2>
上記の処理を行っていないCFを比較用の電極として使用した。
【0059】
実施例2及び比較例2の電極をアノードとし、撥水加工を施したカーボンクロス電極上に非白金系の酸素還元触媒を修飾したガス拡散電極をカソードとし、バイオ触媒としてのシェワネラ菌と燃料としての乳酸とを含むリン酸緩衝液を電解液として、微生物燃料電池を作製した。カソードとアノードの間を1kΩの抵抗で接続し、時間(day)ごとの端子間電圧を計測した。結果を
図10に示す。
【0060】
図10に示すように、メディエータ分子がアミド基を介して結合したCFをアノードとして用いた場合(TB、AA及びNR)は、メディエータ分子を結合させていないCFをアノードとして用いた場合(Bare)に比べて高い端子間電圧を示した。