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  • 特開-原子炉格納容器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176611
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】原子炉格納容器
(51)【国際特許分類】
   G21C 13/00 20060101AFI20231206BHJP
   G21C 13/024 20060101ALI20231206BHJP
   G21C 9/004 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
G21C13/00 220
G21C13/024 210
G21C9/004
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088985
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 憲弥
【テーマコード(参考)】
2G002
【Fターム(参考)】
2G002BA00
2G002CA01
2G002DA10
2G002EA10
(57)【要約】
【課題】内側鋼板と外側鋼板の間のコンクリート層からの蒸気の背圧による内側鋼板の座屈を防止することができる原子炉格納容器を提供する。
【解決手段】鋼板で構成された第1層と、第1層より外側に設けられ、コンクリートで構成された第2層と、第2層より外側に設けられ、鋼板で構成された第3層と、を備えた原子炉格納容器を、原子炉格納容器の内部にある上部ドライウェルと接する部分の第1層と、第2層との間に、上部が解放された空間部が存在する構成とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板で構成された第1層と、
前記第1層より外側に設けられ、コンクリートで構成された第2層と、
前記第2層より外側に設けられ、鋼板で構成された第3層と、を備えた原子炉格納容器であって、
前記原子炉格納容器の内部にある上部ドライウェルと接する部分の前記第1層と、前記第2層との間に、上部が解放された空間部が存在する
原子炉格納容器。
【請求項2】
前記空間部の下にサンドクッションが接続され、前記サンドクッションに、原子炉格納容器の外部へ延びる排水管が接続されている請求項1に記載の原子炉格納容器。
【請求項3】
前記第1層の外側に、CT鋼若しくはFB鋼が配置されて、前記第1層の鋼板が補強されている請求項1に記載の原子炉格納容器。
【請求項4】
前記空間部は、前記上部ドライウェルの上方に設けられ冷却水を収容する冷却プールと、通じている請求項1に記載の原子炉格納容器。
【請求項5】
前記冷却プールと前記空間部との間に、開閉可能な接続部が設けられている請求項4に記載の原子炉格納容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SC構造を有する原子炉格納容器に関する。
【背景技術】
【0002】
次期の原子炉・次世代の原子炉では、鋼板とコンクリートをスタッドで一体化したSC構造を原子炉格納容器に適用した、SC構造格納容器(SCCV)を採用することが、現地工事省力化及び工期短縮の観点から有望視されている。
【0003】
特許文献1では、施工時における作業性を向上させるとともに、事故時においても内側鋼板の亀裂や破断の発生を低減して、安全性を確保することができる原子炉格納容器を提供することを目的としている。
特許文献1の原子炉格納容器では、具体的には、コンクリート層を内側鋼板と外側鋼板で挟み込み、内側鋼板には溝が形成されている。この溝が変形することによって、内側鋼板に生じる熱ひずみを緩和し、内側鋼板及びコンクリートに生じる亀裂や破断の発生を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-281379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
SCCVでは、事故時の温度条件が厳しい(200℃程度)、上部ドライウェル部の内側の鋼板が、鋼板のスラスト力で座屈する可能性がある。そのため、スタッドのピッチを狭くすること、より強度が高い鋼板を使用する必要があること、及び、内側鋼板と外側鋼板の間のコンクリート層からの蒸気の背圧による内側鋼板の座屈防止のための蒸気抜き機構が必要となる、という課題を有している。
【0006】
特許文献1の原子炉格納容器では、上述したように、内側鋼板に溝が形成されていることにより、内側鋼板に生じる熱ひずみを緩和することができる。
しかしながら、特許文献1の原子炉格納容器では、溝が形成されている内側鋼板とコンクリート層との間の空間部が閉じた空間となっているため、コンクリート層からの蒸気の背圧を開放することができず、蒸気の背圧により内側鋼板に座屈が発生する虞がある。
【0007】
上述した問題の解決のために、本発明においては、内側鋼板と外側鋼板の間のコンクリート層からの蒸気の背圧による内側鋼板の座屈を防止することができる原子炉格納容器を提供するものである。
【0008】
また、本発明の上記の目的及びその他の目的と本発明の新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面によって明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の原子炉格納容器は、鋼板で構成された第1層と、第1層より外側に設けられ、コンクリートで構成された第2層と、第2層より外側に設けられ、鋼板で構成された第3層と、を備えた原子炉格納容器である。
そして、本発明の原子炉格納容器は、原子炉格納容器の内部にある上部ドライウェルと接する部分の第1層と、第2層との間に、上部が解放された空間部が存在する。
【発明の効果】
【0010】
上述の本発明の原子炉格納容器によれば、上部ドライウェルと接する部分の第1層と、第2層との間に、上部が解放された空間部が存在するので、第2層のコンクリートからの蒸気の背圧を空間部から解放することができる。これにより、蒸気の背圧による内側の鋼板の座屈の発生を防止することができる。
【0011】
なお、上述した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1の原子炉格納容器の模式断面図である。
図2図1の要部の拡大断面図である。
図3】実施例2の原子炉格納容器の要部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施の形態及び実施例について、文章もしくは図面を用いて説明する。ただし、本発明に示す構造、材料、その他具体的な各種の構成等は、ここで取り上げた実施の形態や実施例に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。また、本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0014】
本発明の原子炉格納容器は、鋼板で構成された第1層と、第1層より外側に設けられ、コンクリートで構成された第2層と、第2層より外側に設けられ、鋼板で構成された第3層と、を備えた原子炉格納容器である。即ち、本発明の原子炉格納容器は、鋼板とコンクリートと鋼板とから成る、前述したSC構造を有する。
【0015】
そして、本発明の原子炉格納容器は、原子炉格納容器の内部にある上部ドライウェルと接する部分の第1層と、第2層との間に、上部が解放された空間部が存在する。
【0016】
本発明の原子炉格納容器の構成によれば、上部ドライウェルと接する部分の第1層と、第2層との間に、上部が解放された空間部が存在するので、第2層のコンクリートからの蒸気の背圧を空間部から解放することができる。これにより、蒸気の背圧による内側の鋼板の座屈の発生を防止することができる。
【0017】
上記の原子炉格納容器において、第1層の外側に、空間部の下にサンドクッションが接続され、サンドクッションに、原子炉格納容器の外部へ延びる排水管が接続されている構成とすることができる。
この構成の場合、第1層の鋼板を外側から冷却水で冷却して、使用後の冷却水をサンドクッションと排水管を通じて、原子炉格納容器の外部に排出することができる。
【0018】
上記の原子炉格納容器において、第1層の外側に、CT鋼若しくはFB鋼が配置されて、第1層の鋼板が補強されている構成とすることができる。
この構成の場合、第1層の外側に配置されたCT鋼若しくはFB鋼によって、第1層の鋼板を補強して、耐震性能を向上することができる。
【0019】
上記の原子炉格納容器において、空間部が、上部ドライウェルの上方に設けられ冷却水を収容する冷却プールと、通じている構成とすることができる。
この構成の場合、冷却プールから空間部に冷却水を流して、第1層の鋼板を冷却することができる。
【0020】
上記の構成において、さらに、冷却プールと空間部との間に、開閉可能な接続部が設けられている構成とすることができる。
この構成の場合、接続部の開閉を制御することにより、空間部に流す冷却水の流量や、冷却水による第1層の鋼板の冷却の有無を、調整することができる。
【実施例0021】
続いて、原子炉格納容器の具体的な実施例を説明する。
【0022】
(実施例1)
以下、実施例1の原子炉格納容器を、図1図2を参照して説明する。
図1は、実施例1の原子炉格納容器の模式断面図である。図1では、原子炉格納容器3を含む原子炉建屋の断面図を模式的に示している。
また、図2は、図1の要部の拡大断面図である。
【0023】
図1に示すように、本実施例の原子炉格納容器3は、炉心1が収容された原子炉圧力容器2を内部に有しており、内側の第1層の内側鋼板11と、中間の第2層のコンクリート12と、外側の第3層の外側鋼板13との3層構造となっている。即ち、この原子炉格納容器3は、前述したSC構造を有している。
第1層の内側鋼板11と、第3層の外側鋼板13とは、図示しないが、それぞれ筒状に形成されている。
【0024】
原子炉圧力容器2と原子炉格納容器3との間は、下部のサプレッションプール4と、上部の上部ドライウェル5とに分かれており、サプレッションプール4と上部ドライウェル5とは、それらの間に設けられたダイアフラムフロア6によって隔離されている。
サプレッションプール4の底部には、冷却水7が収容されている。
【0025】
上部ドライウェル5のさらに上方には、水を収容する冷却プール8,9,10が設けられている。隣接する各冷却プール8,9,10の間は、コンクリートにより隔離されている。
冷却プール8,9,10は、例えば、サプレッションプール、使用済み燃料プール、機器仮置きプール、等として使用される。
【0026】
本実施例の原子炉格納容器3は、特に、図1図2に示すように、上部ドライウェル5と接する部分の第1層の内側鋼板11と、第2層のコンクリート12との間に、空間部14が設けられている。
空間部14は、図2の拡大断面図に示す範囲の部分では、ほぼ均一の厚さとなっていて、上部では、原子炉格納容器3の径の縮小に伴い、上にいくほど厚くなっている。また、空間部14は、特許文献1の構成の閉じた空間部とは異なり、上部が解放されている。
【0027】
なお、原子炉格納容器3のうち、上部ドライウェル5と接する部分以外の、サプレッションプール4と接する部分では、空間部を設けないで、第1層の内側鋼板11と第2層のコンクリート12とが接している。
また、第1層の内側鋼板11は、図1図2に示すように、上部ドライウェル5と接する部分と、サプレッションプール4と接する部分とが、連続して形成された一体の鋼板となっている。
【0028】
さらに、本実施例では、上部ドライウェル5の上の冷却プール9の下のコンクリートを貫通して、冷却プール9と空間部14とを接続する接続部15が設けられている。この接続部15は、弁等の開閉可能な構成とされる。この接続部15により、冷却プール9と空間部14とが通じている。
【0029】
そして、接続部15を開放することにより、矢印Wで示すように、冷却プール9内の水を、内側鋼板11に沿って空間部14に流すことができ、この水Wにより内側鋼板11を冷却することができる。これにより、事故時に、冷却プール9から水を流して、内側鋼板11を冷却することができる。
また、接続部15の開閉を制御することにより、空間部14に流す水Wの流量や、水Wによる第1層の内側鋼板11の冷却の有無を、調整することができる。
なお、空間部14に流入した水を排出するために、図示しない箇所の空間部14に、排出口を設けることが好ましい。
【0030】
また、空間部14に水Wを流すことにより、ダイアフラムフロア6よりも上の原子炉格納容器3(内側鋼板11など)を、図示しない配管が貫通している、所謂ペネトレーション部において、ペネトレーション部を冷却や封水することが可能である。
【0031】
本実施例によれば、内側鋼板11とコンクリート12との間に空間部14が設けられているので、内側鋼板11がコンクリート12に対して独立している。これにより、内側鋼板11は、上部ドライウェルの200℃程度の高温に曝されても、熱歪みに対して自由に変形させることができるので、内側鋼板11の熱変形による座屈の発生を防止できる。
そして、本実施例では、内側鋼板11に対して、特許文献1の構成の溝部のような加工を施す必要がないため、内側鋼板に溝部を設けた特許文献1の構成と比較して、内側鋼板11の製造コストを低減することができる。
【0032】
また、本実施例によれば、内側鋼板11とコンクリート12との間に、空間部14が設けられているため、コンクリート12からの蒸気の背圧は、内側鋼板11には直接作用しないことから、蒸気の背圧による内側鋼板11の座屈を防止できる。
特に、空間部14が、特許文献1の構成の閉じた空間部とは異なり、上部が広くなっていて解放されているため、コンクリート12からの蒸気の背圧を上部へ逃すことができる。
【0033】
また、本実施例によれば、上部ドライウェル5の上方に設けられ、冷却水を収容する冷却プール9と、空間部14とが、接続部15で通じているため、接続部15を通じて冷却水プール9の水Wを空間部14に流して、内側鋼板11を冷却することができる。
【0034】
以上述べた作用効果が得られるので、本実施例によれば、耐熱性能、耐圧性能、冷却性能をすべて備えた原子力格納容器3を提供することができる。
【0035】
(実施例2)
次に、実施例2の原子炉格納容器を説明する。
図3は、実施例2の原子炉格納容器の要部の拡大断面図を示す。
図3において、実施例1の原子炉格納容器3と同様の構成要素には、同一の符号を付している。
【0036】
本実施例の原子炉格納容器3は、図3に示すように、空間部14に流入した水Wを排出するために、空間部14の下にサンドクッション18が設けられ、サンドクッション18から原子炉格納容器3の外部へ排水管19が延びている。
また、図2に示した実施例1の原子炉格納容器3と同様に、空間部14は、図2の拡大断面図に示す範囲の部分では、ほぼ均一の厚さとなっている。
その他の構成は、図1図2に示した実施例1の構成と同様であるので、重複説明を省略する。
【0037】
本実施例によれば、実施例1と同様に、上部ドライウェル5と対向する部分において、内側鋼板11とコンクリート12との間に空間部14が設けられ、空間部14が接続部15を介して図1に示した冷却プール9と通じている。
これにより、本実施例によれば、実施例1と同様に、耐熱性能、耐圧性能、冷却性能をすべて備えた原子力格納容器3を提供することができる。
【0038】
また、本実施例によれば、空間部14の下にサンドクッション18が設けられ、サンドクッション18から原子炉格納容器3の外部へ排水管19が延びているので、空間部14に入った水を、サンドクッション18及び排水管19を通じて容易に排出できる。
【0039】
(変形例)
上述した実施例に対する一変形例として、第1層の内側鋼板の外側にCT鋼若しくはFB鋼を設けて、内側鋼板を補強する構成を採用することもできる。
この構成の場合、第1層の内側鋼板の外側に設けたCT鋼若しくはFB鋼と、第2層のコンクリートとの間に、空間部を有する。
CT鋼若しくはFB鋼は、内側鋼板と接していても、内側鋼板との間に空間部を有していてもよい。
内側鋼板の外側をCT鋼若しくはFB鋼で補強することにより、原子炉格納容器の耐震性を向上することができる。
【0040】
また、実施例1及び実施例2では、図2及び図3の拡大断面図の範囲の部分において、空間部14の厚さがほぼ均一であったが、空間部の厚さはほぼ均一である構成に限定されない。
例えば、上方が厚くて下方が薄くなるように、空間部とコンクリートとの境界面が斜面となっている構成を採用することも可能である。この構成の場合、空間部の上方が厚いので蒸気が逃げやすくなる。また、境界面が斜面であるため、境界面が水平面に垂直な面である実施例1及び実施例2の構成と同様に、冷却水の流れを妨げない。
【0041】
また、上述した実施例に対する他の変形例として、冷却プール9と接続部15を通じて空間部14へ水Wを流す構成の代わりに、他の構成によって空間部へ水を流す構成を、採用することも可能である。例えば、他の冷却プールや給水設備から給水管を通じて、空間部に水を供給する構成も可能である。
上述した実施例のように、冷却プール9と接続部15を通じて空間部14へ水Wを流す構成を採用した場合には、水Wの速度や流量を大きくできる利点を有する。
【0042】
なお、本発明は、上述した実施の形態及び実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した各実施の形態及び実施例は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0043】
1…炉心、2…原子炉圧力容器、3…原子炉格納容器、4…サプレッションプール、5…上部ドライウェル、6…ダイアフラムフロア、7…冷却水、8,9,10…冷却プール、11…内側鋼板、12…コンクリート、13…外側鋼板、14…空間部、15…接続部、18…サンドクッション、19…排水管、W…水
図1
図2
図3