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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176614
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20231206BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231206BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20231206BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20231206BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/62 Z
H01M10/0525
H01M10/0562
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088996
(22)【出願日】2022-05-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願、平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第2期)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(72)【発明者】
【氏名】高木 繁治
(72)【発明者】
【氏名】村田 充弘
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL07
5H029AM12
5H029HJ13
5H050AA02
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB08
5H050DA13
5H050EA01
5H050HA13
(57)【要約】
【課題】本開示は、充放電特性を向上させたリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】本開示のリチウムイオン二次電池は、正極電極体層、セパレータ層、及び負極電極体層をこの順に有しており、前記負極電極体層は、固体電解質及び負極活物質を含有しており、前記負極活物質は、CuKα線を用いたX線結晶回折測定により測定される(004)面の結晶子サイズの(110)面の結晶子サイズに対する比((004)面の結晶子サイズ/(110)面の結晶子サイズ)が0.683以上である黒鉛粒子である、リチウムイオン二次電池である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極電極体層、セパレータ層、及び負極電極体層をこの順に有しており、
前記負極電極体層は、固体電解質及び負極活物質を含有しており、
前記負極活物質は、CuKα線を用いたX線結晶回折測定により測定される(004)面の結晶子サイズの(110)面の結晶子サイズに対する比((004)面の結晶子サイズ/(110)面の結晶子サイズ)が0.683以上である黒鉛粒子である、
リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記黒鉛粒子は、球状粒子又は鱗片状粒子である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記黒鉛粒子は、CuKα線を用いたX線結晶回折測定により測定される(104)面の結晶子サイズが40Å以下である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記黒鉛粒子は、CuKα線を用いたX線結晶回折測定により測定される(004)面の積分強度の(110)面の積分強度に対する比が4.0以上である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記黒鉛粒子は、CuKα線を用いたX線結晶回折測定により測定される(004)面の積分強度の(110)面の積分強度に対する比が4.0以上である、請求項3に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記負極電極体層は、前記セパレータ層側から順に、負極活物質層及び負極集電体層が互いに積層された構造を有しており、
前記負極活物質及び前記固体電解質は、前記負極活物質層に含有されている、
請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記正極電極体層は、前記セパレータ層側から順に、正極活物質層及び正極集電体層が互いに積層された構造を有している、請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
前記セパレータ層は、固体電解質層である、請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
前記固体電解質は、硫化物固体電解質である、請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、バルクメソフェーズカーボンを炭化する工程と、得られた炭化材を黒鉛化する工程と、粉砕工程とを含む黒鉛粉末の製造方法であって、前記バルクメソフェーズカーボンは、X線小角散乱法により求めた異方性ドメイン径が1300Å以上のものであり、前記粉砕工程は、黒鉛化工程より前に高速粉砕と剪断粉砕の少なくとも一方を行うことを含んでいる、ことを特徴とする黒鉛粉末の製造方法を開示している。
【0003】
特許文献2は、一群のカーボン試料のX線回析パターンを測定する工程と、前記一群のカーボン試料のX線回折パターンから、Fundamental Parameter法(FP法)を用いて、前記一群のカーボン試料のa軸方向及びc軸方向を評価する面である(102)面又は(104)面の結晶子サイズ分布を測定し、当該結晶子サイズ分布のピークトップ又は分布幅を測定する工程と、前記一群のカーボン試料のうち、結晶子サイズ分布のピークトップ又は分布幅が各々異なる各カーボン試料を各電池の電極材料として用いて作製された一群の電池について低温特性評価及び/又は高率充放電特性評価を行い、得られた低温特性評価結果及び/又は高率充放電特性評価結果と、当該一群のカーボン試料の当該結晶子サイズ分布のピークトップ又は分布幅と、の相関関係を示すデータを導出する工程と、前記相関関係を示すデータに基づいて、前記一群のカーボン試料の前記結晶子サイズ分布のピークトップ又は分布幅に対応する評価用カーボンの当該結晶子サイズ分布のピークトップ又は分布幅を測定し、当該評価用カーボンの当該結晶子サイズ分布のピークトップ又は分布幅から、当該評価用カーボンの電池低温特性及び/又は電池高率充放電特性の評価を行う工程と、を有する、カーボンの評価方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-316105号公報
【特許文献2】特開2019-83163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウムイオン二次電池、特に全固体リチウムイオン二次電池において、充放電、特に高レートでの充放電、即ち急速充電を行った際の充放電特性を向上させることが求められている。
【0006】
本開示は、充放電特性を向上させたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示者は、以下の手段により上記課題を達成することができることを見出した:
《態様1》
正極電極体層、セパレータ層、及び負極電極体層をこの順に有しており、
前記負極電極体層は、固体電解質及び負極活物質を含有しており、
前記負極活物質は、CuKα線を用いたX線結晶回折測定により測定される(004)面の結晶子サイズの(110)面の結晶子サイズに対する比((004)面の結晶子サイズ/(110)面の結晶子サイズ)が0.683以上である黒鉛粒子である、
リチウムイオン二次電池。
《態様2》
前記黒鉛粒子は、球状粒子又は鱗片状粒子である、態様1に記載のリチウムイオン二次電池。
《態様3》
前記黒鉛粒子は、CuKα線を用いたX線結晶回折測定により測定される(104)面の結晶子サイズが40Å以下である、態様1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。
《態様4》
前記黒鉛粒子は、CuKα線を用いたX線結晶回折測定により測定される(004)面の積分強度の(110)面の積分強度に対する比が4.0以上である、態様1~3のいずれか一つに記載のリチウムイオン二次電池。
《態様5》
前記負極電極体層は、前記セパレータ層側から順に、負極活物質層及び負極集電体層が互いに積層された構造を有しており、
前記負極活物質及び前記固体電解質は、前記負極活物質層に含有されている、
態様1~4のいずれか一つに記載のリチウムイオン二次電池。
《態様6》
前記正極電極体層は、前記セパレータ層側から順に、正極活物質層及び正極集電体層が互いに積層された構造を有している、態様1~5のいずれか一つに記載のリチウムイオン二次電池。
《態様7》
前記セパレータ層は、固体電解質層である、態様1~6のいずれか一つに記載のリチウムイオン二次電池。
《態様8》
前記固体電解質は、硫化物固体電解質である、態様1~7のいずれか一つに記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、高レートでの充放電における充放電特性を向上させたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示の第一の実施形態に従う全固体リチウムイオン二次電池1を示す模式図である。
図2図2は、本開示の第一の実施形態に従う全固体リチウムイオン二次電池1が含有している黒鉛粒子100の模式図である。
図3図3は、本開示の第一の実施形態に従う全固体リチウムイオン二次電池1が含有している黒鉛粒子100の一部分の模式図である。
図4図4は、実施例1及び比較例1の黒鉛粒子の、CuKα線を用いたX線結晶回折測定により測定される(104)面の結晶子サイズを示すグラフである。
図5図5は、実施例1及び比較例1の黒鉛粒子の、CuKα線を用いたX線結晶回折測定により測定される(004)面の結晶子サイズの(110)面の結晶子サイズに対する比((004)面の結晶子サイズ/(110)面の結晶子サイズ)を示すグラフである。
図6図6は、実施例1及び比較例1の黒鉛粒子の、CuKα線を用いたX線結晶回折測定により測定される(110)面の積分強度に対する(004)面の積分強度を示すグラフである。
図7図7は、実施例1及び比較例1の全固体リチウムイオン二次電池の充放電レート特性を示すグラフである。
図8図8は、交流インピーダンス測定における対称セルの等価回路である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。なお、本開示は、以下の実施の形態に限定されるのではなく、開示の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0011】
本開示のリチウムイオン二次電池は、正極電極体層、セパレータ層、及び負極電極体層をこの順に有しており、負極電極体層は、固体電解質及び負極活物質を含有しており、負極活物質は、CuKα線を用いたX線結晶回折測定により測定される(004)面の結晶子サイズの(110)面の結晶子サイズに対する比((004)面の結晶子サイズ/(110)面の結晶子サイズ)が0.683以上である黒鉛粒子である、リチウムイオン二次電池である。
【0012】
図1は、本開示の第一の実施形態に従う全固体リチウムイオン二次電池1を示す模式図である。
【0013】
図1に示すように、本開示の第一の実施形態に従う全固体リチウムイオン二次電池1は、正極電極体層10、セパレータ層としての固体電解質層20、及び負極電極体層30をこの順に有している。ここで、正極電極体層10は、固体電解質層20側から順に、正極活物質層12及び正極集電体層11が互いに積層された構造を有している。また、負極電極体層30は、固体電解質層20側から順に、負極活物質層32及び負極集電体層31が互いに積層された構造を有している。負極活物質及び固体電解質は、負極活物質層32に含有されている。
【0014】
概して、リチウムイオン二次電池、特に全固体リチウムイオン二次電池において、高レートでの充放電特性、特に急速充電性能の向上が課題となっている。
【0015】
全固体リチウムイオン二次電池における高レートでの充放電特性は、負極電極体層の構成により大きな影響を受けると考えられる。これは、全固体リチウムイオン二次電池は、液系のリチウムイオン二次電池とは異なり、電解質と負極活物質との間で、リチウムイオンの円滑な拡散を可能にするSEI(Solid Electrolyte Interphase)ではなく、電解質の還元分解による高抵抗なSEIが形成されること、粒界に対して電解質が侵入できない部分が存在すること等に起因して、リチウムイオンの拡散性が低下することを一つの原因とする。
【0016】
この点に関して、負極活物質の表面及び内部におけるリチウム拡散性を向上することで、高レートでの充放電特性を向上させることができると考えられる。
【0017】
本開示のリチウムイオン二次電池は、負極活物質として、CuKα線を用いたX線結晶回折測定により測定される(004)面の結晶子サイズの(110)面の結晶子サイズに対する比((004)面の結晶子サイズ/(110)面の結晶子サイズ)が0.683以上である黒鉛粒子を含有している。
【0018】
このような黒鉛粒子は、等方的な粒子であり、図2及び3に示すように、黒鉛粒子100のエッジ面120が大きいため、エッジ面120からのリチウムイオンの脱挿入が容易になり、黒鉛粒子100の表面におけるリチウム拡散性が向上する。また、結晶子110と結晶子110との界面130が多いため、結晶子110と結晶子110との界面130を起点としてリチウムイオンが脱挿入しやすくなり、黒鉛粒子100の内部でのリチウム拡散性が向上する。また、リチウムイオンが結晶子110と結晶子110とを跨いで移動できることにより、黒鉛粒子100の結晶構造の積層構造に関して、積層方向のリチウム拡散性を向上させることができる。
【0019】
これにより、本開示のリチウムイオン二次電池は、充放電特性、特に高レートでの充放電における充放電特性が向上している。
【0020】
《負極電極体層》
負極電極体層は、固体電解質及び負極活物質を含有している。負極電極体層は、更にバインダ及び/又は導電助剤を含有していることができる。
【0021】
負極電極体層は、例えばセパレータ層側から順に、負極活物質層及び負極集電体層が互いに積層された構造を有していることができ、負極活物質及び固体電解質は、負極活物質層に含有されていることができる。負極活物質層は、負極活物質及び固体電解質に加えて、随意にバインダ及び導電助剤を含有していることができる。
【0022】
負極集電体層に用いられる材料は、ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、チタン、又はカーボン等であってよいが、これらに限定されない。中でも、負極集電体層の材料は、銅であることが好ましい。
【0023】
負極集電体層の形状は、特に限定されず、例えば、箔状、板状、又はメッシュ状等を挙げることができる。これらの中で、箔状が好ましい。
【0024】
〈負極活物質〉
負極活物質は、CuKα線を用いたX線結晶回折測定により測定される(004)面の結晶子サイズの(110)面の結晶子サイズに対する比((004)面の結晶子サイズ/(110)面の結晶子サイズ)が0.683以上である黒鉛粒子である。
【0025】
黒鉛粒子は、球状粒子又は鱗片状粒子であることができる。
【0026】
CuKα線を用いたX線結晶回折測定は、例えば全自動多目的水平型X線回折装置SmartLab(9kw)を用いて、集中法光学系、D/teX Ultraを使用し、管球をCu-Kα、出力を45kV-200mAとし、走査モードを連続、サンプリング間隔を0.01°、走査速度を1°/min、かつ走査角度を10~90°として実施してよい。
【0027】
(004)面及び(110)面の結晶子サイズは、それぞれX線結晶回折測定により得られるX線回折スペクトルにおける(004)面又は(110)面を示すピークの半値幅から算出することができる。
【0028】
より具体的には、結晶子サイズをD、シェラー定数をK、X線の波長をλ、半値幅をB、ブラッグ角をθとし、以下の計算式より算出することができる:
D=Kλ/BCosθ
【0029】
黒鉛粒子は、CuKα線を用いたX線結晶回折測定により測定される(004)面の結晶子サイズの(110)面の結晶子サイズに対する比((004)面の結晶子サイズ/(110)面の結晶子サイズ)が0.683~1.000であってよい。
【0030】
(004)面の結晶子サイズ/(110)面の結晶子サイズは、0.683以上、0.685以上、0.690以上、又は0.700以上であってよく、1.000以下、0.900以下、0.800以下、0.750以下、又は0.700以下であってよい。
【0031】
黒鉛粒子は、CuKα線を用いたX線結晶回折測定により測定される(104)面の結晶子サイズが40Å以下であってよい。
【0032】
(104)面の結晶子サイズは、40Å以下、35Å以下、30Å以下、又は25Å以下であってよく、5Å以上、10Å以上、15Å以上、又は20Å以上であってよい。
【0033】
黒鉛粒子は、CuKα線を用いたX線結晶回折測定により測定される(004)面の積分強度の(110)面の積分強度に対する比が4.0以上であってよい。
【0034】
(004)面の積分強度の(110)面の積分強度に対する比は、4.0以上、4.5以上、5.0以上、又は5.5以上であってよく、8.0以下、7.5以下、7.0以下、又は6.5以下であってよい。
【0035】
本開示の負極活物質としての黒鉛粒子は、例えば次のような方法によって製造することができる:
【0036】
原鉱石を粉砕し、浮遊選鉱法により黒鉛を回収、分級する。その後、黒鉛に対してハロゲンガスを吹き付け、高純度化処理を行うことにより、天然鱗片状黒鉛を取得する。次いで、高速気流中で天然鱗片状黒鉛を分散させ、体積粉砕・表面粉砕しつつ、剪断力を加えて球形化することにより、天然球形化黒鉛を得る。なお、天然鱗片状黒鉛を使用する場合には、球形化は行わない。
【0037】
得られた天然鱗片状黒鉛又は天然球形化黒鉛に対して、CuKα線を用いたX線結晶回折測定により(004)面及び(110)面の結晶子サイズ及び随意に積分強度を取得する。
【0038】
あらかじめ設定した値の(004)面の結晶子サイズ/(110)面の結晶子サイズを、本開示の負極活物質として用いる。
【0039】
なお、所望の(004)面及び(110)面の結晶子サイズ及び積分強度は、原鉱石の粉砕及び球形化における体積粉砕・表面粉砕の条件を適宜変えることによって得られる。
【0040】
〈固体電解質〉
固体電解質は、無機固体電解質であることが好ましい。無機固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、及び窒化物固体電解質が挙げられる。
【0041】
硫化物固体電解質の例として、硫化物系非晶質固体電解質、硫化物系結晶質固体電解質、又はアルジロダイト型固体電解質等が挙げられるが、これらに限定されない。具体的な硫化物固体電解質の例として、LiS-P系(Li11、LiPS、Li等)、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiBr-LiS-P、LiS-P-GeS(Li13GeP16、Li10GeP12等)、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、Li7-xPS6-xCl等;又はこれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0042】
酸化物固体電解質の例として、LiLaZr12、Li7-xLaZr1-xNb12、Li7-3xLaZrAl12、Li3xLa2/3-xTiO、Li1+xAlTi2-x(PO、Li1+xAlGe2-x(PO、LiPO、又はLi3+xPO4-x(LiPON)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
固体電解質は、ガラスであっても良く、ガラスセラミックスであっても良く、結晶材料であっても良い。ガラスは、原料組成物(例えばLiS及びPの混合物)を非晶質処理することにより得ることができる。非晶質処理としては、例えば、メカニカルミリングが挙げられる。メカニカルミリングは、乾式メカニカルミリングであっても良く、湿式メカニカルミリングであっても良いが、後者が好ましい。容器等の壁面に原料組成物が固着することを防止できるからである。また、ガラスセラミックスは、ガラスを熱処理することにより得ることができる。また、結晶材料は、例えば、原料組成物に対して固相反応処理することにより得ることができる。
【0044】
固体電解質の形状は、粒子状であることが好ましい。また、固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば、0.01μm以上である。一方、固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば、10μm以下であり、5μm以下であっても良い。固体電解質の25℃におけるリチウムイオン伝導度は、例えば1×10-4S/cm以上であり、1×10-3S/cm以上であることが好ましい。
【0045】
〈バインダ〉
バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ブタジエンゴム(BR)若しくはスチレンブタジエンゴム(SBR)等の材料、又はこれらの組合せであってよいが、これらに限定されない。
【0046】
〈導電助剤〉
導電助材としては、公知のものを用いることができ、例えば、炭素材料、及び金属粒子等が挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラックやファーネスブラック等のカーボンブラック、気相法炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも一種を挙げることができ、中でも、電子伝導性の観点から、VGCF、カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよい。金属粒子としては、ニッケル、銅、鉄、及びステンレス鋼等の粒子が挙げられる。
【0047】
《セパレータ層》
セパレータ層は、例えば固体電解質層であってよい。
【0048】
固体電解質層は、上記の固体電解質及び随意にバインダ等を含有していることができる。
【0049】
《正極電極体層》
正極電極体層は、セパレータ層側から順に、正極活物質層及び正極集電体層が互いに積層された構造を有していることができる。
【0050】
正極活物質層は、正極活物質及び随意に固体電解質、バインダ、及び導電助剤を含有していることができる。
【0051】
正極活物質は、例えばコバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、Li1+xMn2-x-y(Mは、Al、Mg、Co、Fe、Ni、及びZnから選ばれる1種以上の金属元素)で表される組成の異種元素置換Li-Mnスピネル等であってよいが、これらに限定されない。
【0052】
また、このような正極活物質は、例えば硫黄系活物質であってもよい。ここで、硫黄系活物質は、少なくともS元素を含有する活物質である。硫黄系活物質は、Li元素を含有していてもよく、含有していなくてもよい。硫黄系活物質としては、例えば、単体硫黄、硫化リチウム(LiS)、多硫化リチウム(Li、2≦x≦8)が挙げられる。
【0053】
正極集電体層に用いられる材料は、ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、チタン、又はカーボン等であってよいが、これらに限定されない。中でも、正極集電体層の材料は、アルミニウムであることが好ましい。
【0054】
正極集電体層の形状は、特に限定されず、例えば、箔状、板状、又はメッシュ状等を挙げることができる。これらの中で、箔状が好ましい。
【0055】
バインダ及び導電助剤は、負極電極体層に関して例示したものを採用してよい。
【実施例0056】
《実施例1~4及び比較例1~3》
〈全固体二次電池及び全固体対称セルの製造〉
以下の表1に示す形状及びCuKα線を用いたX線結晶回折測定における(004)面の結晶子サイズ/(110)面の結晶子サイズ(L004/L110)を有する黒鉛粒子を用いて、実施例1並びに比較例1の黒鉛粒子については、全固体二次電池を作製し、実施例2~4並びに比較例2及び3の黒鉛粒子については、全固体対称セルを作製した。
【0057】
【表1】
【0058】
正極活物質としてニッケルマンガンコバルト酸化物、負極活物質として表1に示す黒鉛粒子、及び固体電解質として硫化物固体電解質を用いて、各例の全固体二次電池及び全固体対称セルを作製した。
【0059】
[全固体二次電池の作製手順]
具体的には、正極活物質層に含まれる正極活物質として、元素モル比がNi:Co:Mn=5:2:3のLi(NiCoMn)O(以下、NCM523と表記する。)を用いた。正極活物質層に含まれる固体電解質として、アルジロダイト型硫化物固体電解質を用いた。導電助剤として、VGCF(登録商標)を用いた。正極活物質層に含まれるバインダとして、ゴム系バインダを用いた。NCM523、硫化物固体電解質、バインダ、および導電助剤を有機溶媒中に所定の配合比率で混合し、分散処理を施して正極スラリーを調整した。得られた正極スラリーを、正極集電体であるステンレス箔上に塗工し、真空乾燥処理を行い、有機溶媒を蒸散させ、正極を作製した。正極活物質層の重量は、1cm当たり15.4mgとした。
【0060】
固体電解質層に含まれる固体電解質として、正極活物質層で用いたものと同じアルジロダイト型硫化物固体電解質を用いた。固体電解質層の重量は、1cm当たり100mgとした。
【0061】
負極活物質層に含まれる黒鉛粒子としては、表1に示すものを用い、固体電解質としては、正極活物質層並びに固体電解質層で用いたものと同じアルジロダイト型硫化物固体電解質であって、平均粒径が異なるものを用いた。負極活物質層に含まれる固体粉末の総体積に対する黒鉛粒子および硫化物固体電解質の体積配合比率は、50%:50%とした。負極活物質層の重量は、1cm当たり12.3mgとした。
【0062】
1cmの穴の開いた中空マコールの中に、前述のアルジロダイト型硫化物固体電解質の粉末100mgを入れ、1tf/cmの圧力で1分間プレスして固体電解質層を一次成形した。次に、一次成形した固体電解質層の下側に、前述の体積配合比率50%:50%の負極粉末合剤12.3mgを入れ、1tf/cmの圧力で1分間プレスして、下側の負極活物質層を一次成形した。次に、固体電解質層の上側に、断面積が1cmとなるように円形に打ち抜いた前述の正極を入れ、6tf/cmの圧力で1分間プレスし、本成形した。本成形が終わった後、一旦、6tf/cmの圧力を解放して、拘束治具を用いて1.53tf/cmの圧力で拘束した。ここで、黒鉛の理論容量372mAh/g、NCM523を用いた正極の比容量162mAh/gとした場合の、負極活物質層の容量の、正極活物質層の容量に対する比(負極活物質層の容量/正極活物質層の容量)は、1.51であった。
【0063】
[全固体対称セルの作製手順]
全固体対称セルは、下から上に負極活物質層、固体電解質層、負極活物質層の順番で積層したセルである。最下層の負極活物質層と、最上層の負極活物質層は、可能な限り同じ材料構成、重量、厚み(充填率)に設定することで、交流インピーダンス法によりイオン輸送抵抗(Ω)を精度よく測定することができる。
【0064】
具体的には、中間層の固体電解質層に含まれる固体電解質として、全固体二次電池の正極活物質層並びに固体電解質層で用いたものと同じアルジロダイト型硫化物固体電解質を用いた。固体電解質層の重量は、1cm当たり100mgとした。
【0065】
最下層と最上層の負極活物質層に含まれる黒鉛粒子としては、表1に示すものを用い、固体電解質としては、全固体二次電池の負極活物質層で用いたものと同じアルジロダイト型硫化物固体電解質を用いた。負極活物質層に含まれる固体粉末の総体積に対する黒鉛粒子および硫化物固体電解質の体積配合比率は、50%:50%とした。負極活物質層の重量は、1cm当たり11.4mgとした。
【0066】
1cmの穴の開いた中空マコールの中に、前述のアルジロダイト型硫化物固体電解質の粉末100mgを入れ、1tf/cmの圧力で1分間プレスして固体電解質層を一次成形した。次に、一次成形した固体電解質層の下側に、前述の体積配合比率50%:50%の負極粉末合剤11.4mgを入れ、1tf/cmの圧力で1分間プレスして、最下層の負極活物質層を一次成形した。次に、固体電解質層の上側に、前述の体積配合比率50%:50%の負極粉末合剤11.4mgを入れ、1tf/cmの圧力で1分間プレスして、最上層の負極活物質層を一次成形した。次に、6tf/cmの圧力で1分間プレスし、本成形した。本成形が終わった後、一旦、6tf/cmの圧力を解放して、拘束治具を用いて1.53tf/cmの圧力で拘束した。
【0067】
なお、CuKα線を用いたX線結晶回折測定は、全自動多目的水平型X線回折装置SmartLab(9kw)を用いて、集中法光学系、D/teX Ultraを使用し、管球をCu-Kα、出力を45kV-200mAとし、走査モードを連続、サンプリング間隔を0.01°、走査速度を1°/min、かつ走査角度を10°~90°として実施した。
【0068】
なお、参考までに、実施例1及び比較例1で用いた黒鉛粒子のCuKα線を用いたX線結晶回折測定における(004)面の結晶子サイズ、(004)面の結晶子サイズ/(110)面の結晶子サイズ、及び(004)面の積分強度の(110)面の積分強度に対する比を、図4~6に示す。
【0069】
〈レート特性の評価〉
実施例1及び比較例1の全固体電池について、恒温槽25℃で8時間放置後に、25℃でカットオフ電圧4.2Vとして、0.17mAでCC充電し、カットオフ電流0.017mAとして、4.2VでCV充電し、25℃でカットオフ電圧3.0Vとして、0.17mAでCC放電し、カットオフ電流0.017mAでCC放電し、初期特性の評価を行った。この充放電を合計3回繰り返して、3回目のCC-CV放電容量をセル容量として、レート特性評価の際の電流値を決めた。
【0070】
次に、25℃でカットオフ電圧4.2Vとして、0.1C~2Cの間を0.1C刻みでCC充電し、CV充電せずに、25℃でカットオフ電圧3.0Vとして、CC充電と同じ電流値でCC放電し、カットオフ電流0.01CでCC放電し、レート特性の評価を行った。0.1CのCC充電を行った際の充電容量に対する、0.1Cから2CまでのCC充電を行った際の充電容量の割合(%)を計算した。
【0071】
測定結果を図7に示した。
【0072】
図7に示すように、(004)面の結晶子サイズ/(110)面の結晶子サイズが0.693であった実施例1の全固体二次電池では、放電容量の放電容量に対する割合(%)が、(004)面の結晶子サイズ/(110)面の結晶子サイズが0.641であった比較例1の全固体二次電池における放電容量の放電容量に対する割合(%)よりも大きかった。
【0073】
〈交流インピーダンス測定〉
実施例2~4並びに比較例2及び3で用いた黒鉛粒子を負極活物質として用いて負極活物質層を形成し、正極側にリチウム箔を用いて、それぞれ全固体対称セルを作製した。全固体対称セルの最下層と最上層の負極活物質層の間に、電圧振幅10mV、周波数域を7MHzから100mHzの範囲で交流電圧を印加し、BioLogic社製 VMP300を用いて、交流インピーダンス測定を行った。図8に示される等価回路で回路定数のフィッティングを行い、ワールブルク開回路の抵抗値Wo-Rを算出した。算出した抵抗値Wo-Rは、最下層と最上層の2層分の負極活物質層のイオン輸送抵抗値を示していることから、ワールブルク開回路の抵抗値Wo-Rの1/2が、負極活物質層の単層のイオン輸送抵抗(Ω)に相当する。
【0074】
各例の全固体対称セルについて、交流インピーダンス測定(25℃及び60℃)によりイオン輸送抵抗(Ω)を評価した。
【0075】
結果を表2に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
表2に示すように、(004)面の結晶子サイズ/(110)面の結晶子サイズがそれぞれ順に0.695、0.691、及び0.683であった実施例2~4では、(004)面の結晶子サイズ/(110)面の結晶子サイズが0.596及び0.593であった比較例2及び3よりも交流インピーダンスで測定したイオン輸送抵抗が低かった。
【0078】
このように、等方的な黒鉛粒子を負極活物質として採用した実施例2~4の全固体対称セルでは、電極抵抗の低減が確認され、負極におけるリチウムイオンの拡散性が極めて良好であるといえる。
【符号の説明】
【0079】
1 全固体リチウムイオン二次電池
10 正極電極体層
11 正極集電体層
12 正極活物質層
20 固体電解質層
30 負極電極体層
31 負極集電体層
32 負極活物質層
100 黒鉛粒子
110 結晶子
120 エッジ面
130 界面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8