(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176705
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】車体前部構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20231206BHJP
B62D 21/00 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
B62D25/20 C
B62D21/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089136
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100122426
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 清志
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA02
3D203AA31
3D203AA33
3D203BA16
3D203BA17
3D203BB12
3D203BB16
3D203BB17
3D203BB35
3D203BB43
3D203CA02
3D203CA23
3D203CA24
3D203CA33
3D203CA37
3D203CB03
3D203DB05
3D203DB07
(57)【要約】
【課題】複数の前面衝突形態において車体前部構造で衝突エネルギーを吸収させることにより、キャビンおよび電池パックの変形を防止できる。
【解決手段】車両Vの前後方向に延在するフロントサイドフレーム100と、フロントサイドフレーム100の下部側に設けられたサブフレームと、車両Vの底面の車幅方向に延在しフロントサイドフレーム100と結合されたトルクボックス50と、フロントサイドフレーム100の上部に結合されたトーボード40と、を含む車体前部構造Sであって、フロントサイドフレーム100の傾斜部SLとサブフレーム200とを結合する第1の伝達部材300と、サブフレーム200の下面とトルクボックス50の底面とを結合する第2の伝達部材310と、サブフレーム200の下面に設けられ、前方の一方端部がサブフレーム200に固定され、後方の他方端部は第1の伝達部材300に固定されている作動レバー320と、を備えている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前部に設けられ、前記車両の前後方向に延在する一対のフロントサイドフレームと、前記フロントサイドフレームの下部側に設けられ、前記車両の前輪を駆動するパワーユニット部の底面に位置する前記車両の前後方向に延在した一対のサブフレームと、車両底面の車幅方向に延在し、前記フロントサイドフレームに結合されたトルクボックスと、前記フロントサイドフレームの上部に結合されたトーボードと、を含む車体前部構造であって、
前記フロントサイドフレームと前記サブフレームとを結合する第1の伝達部材と、
前記サブフレームと前記トルクボックスとを結合する第2の伝達部材と、
前記サブフレームの下面に沿うように設けられ、前方の一方端部が前記サブフレームに固定され、後方の他方端部は前記第1の伝達部材に固定されている作動レバーと、
を備え、
前記フロントサイドフレームは、前記トーボードとの結合部から前記車両の後部下側に屈曲する傾斜部を有し、
前記第1の伝達部材は、前記サブフレームとの結合部から前記フロントサイドフレームの前記傾斜部と結合し、
前記第2の伝達部材は、一端部が前記トルクボックスの底面と結合し、他端部が前記トルクボックスの底面よりも高い位置にある前記サブフレームの下面に結合されていることを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記サブフレームに第1の脆弱部が設けられ、前記作動レバーの一端部は、前記第1の脆弱部よりも前方で前記サブフレームと固定され、前記作動レバーの他端部は、前記パワーユニット部の後方で前記第1の伝達部材に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記フロントサイドフレームの傾斜部に凹部が設けられ、前記第1の伝達部材の端部は、前記凹部に嵌合され結合されていることを特徴とする請求項2に記載の車体前部構造。
【請求項4】
前記フロントサイドフレームの車両前方側端部には、第2の脆弱部が設けられていることを特徴とする請求項3に記載の車体前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両の前面衝突においては、乗員の傷害を低減させる手段として乗員搭乗空間であるキャビンを変形させない事が有効であり、そのための様々な手段が設けられている。
これらの手段のひとつとして、近年、キャビンより前方の構造体で衝突エネルギーを吸収する構造が普及している。
一方で、車両がハイブリッド車両や電気自動車等の場合には、車両の動力源としての電池パックが、キャビン下部の床面に搭載されている場合がある。
電池パックには車両を駆動させる電力が蓄えられており、車両の前面衝突等により電池パックに変形や断線が発生した場合には、急激な異常反応が生じる虞もある。
そのため、ハイブリッド車両や電気自動車等の場合には、電池パックを損傷させないように、キャビンを変形させない構造に対する重要度が高まってきている。
【0003】
上記の要求に伴って、ハイブリッド車両や電気自動車等の電池を搭載した車両において前面衝突の衝撃が車両に加わった場合には、例えば、衝撃によるフロントサイドメンバの変形を制御することにより、衝突エネルギーが吸収されるとともに車両前部に備えられた駆動用モータを保護する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両の前面衝突においては、例えば、車両の正面全面が衝突体に衝突するフルラップ衝突、車両の正面片側が衝突体に衝突するオフセット衝突、あるいは、オフセット率が25%程度のスモールオーバラップ衝突等、複数の衝突形態を考慮する必要がある。
そのため、それぞれの衝突形態において、キャビンあるいは電池パックより前方の構造体で衝突エネルギーを吸収することにより、キャビンおよび電池パックを変形させない構造が求められている。
【0006】
特許文献1に記載の技術においては、クロスメンバに設けられた脆弱部により、車両側面のフロントサイドメンバが車幅方向内側に折れ曲がることにより、複数の衝突形態で発生する衝突エネルギーをより確実に吸収する構造が提案されている。
しかしながら、特許文献1に記載の技術においては、クロスメンバより後方に設けられているキャビンあるいは電池パックの保護についての衝撃吸収構造に関する考慮がされていないため、車両の両側面に設けられているフロントサイドメンバの脆弱部より後方に衝突エネルギーが伝達された場合には、キャビンあるいは電池パックを変形させてしまう虞があるという課題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであって、複数の前面衝突形態においても、キャビンおよび電池パックの変形を防止できる車体前部構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
形態1;本発明の1またはそれ以上の実施形態は、車両の前部に設けられ、前記車両の前後方向に延在する一対のフロントサイドフレームと、前記フロントサイドフレームの下部側に設けられ、前記車両の前輪を駆動するパワーユニット部の底面に位置する前記車両の前後方向に延在した一対のサブフレームと、車両底面の車幅方向に延在し、前記フロントサイドフレームに結合されたトルクボックスと、前記フロントサイドフレームの上部に結合されたトーボードと、を含む車体前部構造であって、前記フロントサイドフレームと前記サブフレームとを結合する第1の伝達部材と、前記サブフレームと前記トルクボックスとを結合する第2の伝達部材と、前記サブフレームの下面に沿うように設けられ、両端部が前記サブフレームに固定されている作動レバーと、を備え、前記フロントサイドフレームは、前記トーボードとの結合部から前記車両後部下側に屈曲する傾斜部を有し、前記第1の伝達部材は、前記サブフレームとの結合部から前記フロントサイドフレームの前記傾斜部と結合し、前記第2の伝達部材は、一端部が前記トルクボックスの底面と結合し、他端部が前記トルクボックスの底面よりも高い位置にある前記サブフレームの下面に結合されている車体前部構造を提案している。
【0009】
形態2;本発明の1またはそれ以上の実施形態は、前記サブフレームに第1の脆弱部が設けられ、前記作動レバーの一端部は、前記第1の脆弱部よりも前方で前記サブフレームと固定され、前記作動レバーの他端部は、前記パワーユニット部の後方で前記サブフレームに固定されている車体前部構造を提案している。
【0010】
形態3;本発明の1またはそれ以上の実施形態は、前記フロントサイドフレームの傾斜部に凹部が設けられ、前記第1の伝達部材の端部は、前記凹部に嵌合され結合されている車体前部構造を提案している。
【0011】
形態4;本発明の1またはそれ以上の実施形態は、前記フロントサイドフレームの車両前方側端部には、第2の脆弱部が設けられている車体前部構造を提案している。
【発明の効果】
【0012】
本発明の1またはそれ以上の実施形態によれば、複数の前面衝突形態においても、キャビンおよび電池パックの変形を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両を上方から見た構成図である。
【
図2】
図1に示された車体前部構造を、上方から見た構成図である。
【
図3】
図1に示された車体前部構造を右側方から見た側面図である。
【
図4】
図3に示されたAA部を上方から見た斜視図である。
【
図5】
図1に示された車体前部構造を下方から見た下方図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る車体前部構造における前面衝突時の車体前部構造の変形を示し、(a)は衝突前の側面図であり、(b)~(d)は前面衝突時の変形を時系列で示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、
図1から
図6を用いて、本実施形態に係る車体前部構造Sが適用された車両Vについて説明する。なお、図面に適宜示される矢印FRは、
図1に示す車両Vの前方(正面)を示し、矢印UPは正面視上方を示し、矢印LHは正面視左方を示している。また、以下の説明において、上下、前後、左右の方向を用いて説明するときには、特に断りのない限り、正面視での上下方向、正面視での前後方向、正面視での左右方向を示すものとする。
【0015】
<実施形態>
図1~
図5を用いて、車両Vに備えられた本実施形態に係る車体前部構造Sの構成について説明する。
【0016】
<車両Vの構成>
車両Vは、例えば、パワーユニット部20を駆動源とした電気自動車である。なお、車両Vは、例えば、エンジンとパワーユニット部20との複数の駆動源を有するハイブリッド電気自動車であってもよい。
【0017】
図1に示すように、車両Vは車体VSの内部に、前輪10と、パワーユニット部20と、電池パック30と、トーボード40と、トルクボックス50と、サイドシル60と、車体前部構造S(
図1の一点鎖線で囲まれた斜線部)と、を含んで構成されている。
【0018】
パワーユニット部20は、前輪10を駆動する図示しないモータ、変速機、クラッチ、駆動軸等で構成された駆動装置である。パワーユニット部20は、後述するフロントサイドフレーム100およびサブフレーム200に挟まれた空間に設置され、サブフレーム200の上面側に載置された状態で固定されている。
【0019】
電池パック30は、例えば、扁平した箱状に形成されている。電池パック30の内部には、多数の電池セルが直列に接続されており、パワーユニット部20へ供給する高電圧の出力が可能であり、車両の走行に必要な電力を蓄える。電池パック30は、後述するトルクボックス50およびサイドシル60等の頑強なフレームに囲まれた空間に設置されている。電池パック30は、例えば、電気自動車(EV:Electric Vehicle)、ハイブリッド電気自動車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)等の車両で利用される。
【0020】
トーボード40は、キャビンCAの前方部の上下方向に立ち上げられ、車両Vの前輪駆動装置とキャビンCAとを隔てる隔壁である。トーボード40は、後述するフロントサイドフレーム100の後部上側に溶接等により結合されている。
【0021】
トルクボックス50は、後述するフロントサイドフレーム100とサイドシル60との間に介在し、フロントサイドフレーム100とサイドシル60とを連結する部材である。トルクボックス50は、車両Vの底面に車幅方向に延在された骨格であり、トルクボックス50に対して、左右それぞれのフロントサイドフレーム100の一端部に溶接等により結合されている。トルクボックス50は、高剛性を有する金属等により形成され、略矩形閉断面形状を成している。トルクボックス50は、電池パック30の前方に位置し、トルクボックス50の端部は、トルクボックス50に対して、左右それぞれのサイドシル60の一端部と溶接等により結合されている。
また、トルクボックス50の前面側および上面側には、後述するトルクボックス50に対して、左右それぞれのフロントサイドフレーム100の一端部が溶接等により結合されている。
なお、トルクボックス50よりも後方は、保護領域PAであり、保護領域PAの上方に位置するキャビンCAおよび下方に位置する電池パック30の変形を防止する領域である。
【0022】
サイドシル60は、車両Vの車幅方向両側の側方底面に設けられている。サイドシル60は、前後方向に延在された骨格であり、高剛性を有する金属等により形成され、略矩形閉断面形状を成している。サイドシル60は、保護領域PAの両側の底辺を構成している。
【0023】
車体前部構造Sは、トルクボックス50よりも前方の車両前部室FAの内部に構成されている。なお、車体前部構造Sの構成については後述する。
【0024】
<車体前部構造Sの構成>
本実施形態に係る車体前部構造Sについて、
図2~
図5を用いて説明する。
車体前部構造Sは、
図2に示すように、フロントサイドフレーム100と、クロスメンバ110と、サブフレーム200と、サブクロスメンバ210と、第1の伝達部材300と、第2の伝達部材310と、作動レバー320と、を含んで構成されている。車体前部構造Sは、車両Vの車幅方向において左右対称に構成されている。
【0025】
フロントサイドフレーム100は、車両Vの前部の車幅方向に一対となって設けられ、車両Vの前輪を駆動するパワーユニット部20の上方に位置し、車両Vの前後方向に延在している。フロントサイドフレーム100は、
図3に示すように、トーボード40との結合部である屈曲部FP3から前記車両後部下側に屈曲する傾斜部SLを有している。また、フロントサイドフレーム100は、車両Vの後方側の一方端部が、トルクボックス50と溶接等により結合されている。フロントサイドフレーム100は、車両Vの骨格を構成し、高剛性を有する金属等により形成され略矩形閉断面形状を成している。フロントサイドフレーム100は、後述する脆弱部FP2と屈曲部FP3までを結ぶ辺と、屈曲部FP3と結合部WL5までを結ぶ辺とが成す角度ALが鈍角となるような屈曲部FP3を有している。そして、フロントサイドフレーム100には、屈曲部FP3と結合部WL4との間の傾斜部SLの前方側に、略矩形の凹部FP4が形成されている。フロントサイドフレーム100の凹部FP4には、第1の伝達部材300の一端部が嵌合し、凹部FP4において第1の伝達部材300とフロントサイドフレーム100とが溶接等により結合されている。また、凹部FP4は、その構造上、周囲と比較し強度が低くなる。そのため、凹部FP4は、フロントサイドフレーム100の傾斜部SLに設けられた脆弱部となる。
また、フロントサイドフレーム100の車両Vの前方側端部には、第2の脆弱部としての脆弱部FP2が設けられている。脆弱部FP2は、例えば、脆弱部FP2の後方のフロントサイドフレーム100よりも弱い部材で形成されており、略矩形閉断面形状を成している。脆弱部FP2は、パワーユニット部20よりも前方に設けられている。
また、フロントサイドフレーム100は、前面からのスモールオーバラップ衝突が発生した場合においても、フロントサイドフレーム100の前方端部が衝突を受け止めることができる位置に設けられている。具体的には、例えば、フロントサイドフレーム100の前方端部の中心は、車両Vの車幅端から車両Vの車幅の25%以内の距離に位置するように構成されている。
【0026】
クロスメンバ110は、
図2に示すように、フロントサイドフレーム100の前方部において、車幅方向に延在し、クロスメンバ110の端部は、車幅方向の左右それぞれのフロントサイドフレーム100と溶接等により結合されている。クロスメンバ110は、金属等により形成され、略矩形閉断面形状を成している。
【0027】
サブフレーム200は、
図3に示すように、フロントサイドフレーム100の下部側で、車幅方向両側に一対となって設けられ、パワーユニット部20の底面に位置し車両Vの前後方向に延在されている。サブフレーム200は、車前部の車幅方向両側において、高剛性を有する金属等により形成され、略矩形閉断面形状を成している。サブフレーム200の底面は、トルクボックス50の底面よりも上方に位置している。また、サブフレーム200は、前面からのスモールオーバラップ衝突が発生した場合においても、サブフレーム200の前方端部が衝突を受け止めることができる位置に設けられている。具体的には、例えば、サブフレーム200の前方端部の中心は、車両Vの車幅端から車両Vの車幅の25%以内の距離に位置するように構成されている。
また、サブフレーム200の車両Vの前方側上面には、パワーユニット部20よりも前方に位置する凹状の第1の脆弱部としての脆弱部FP1が設けられている。脆弱部FP1の前方部は、フロントサイドフレーム100に設けられた脆弱部FP2よりも強固に形成されている。
【0028】
サブクロスメンバ210は、
図2に示すように、サブフレーム200の間に車幅方向に延在している。サブクロスメンバ210は、パワーユニット部20の前方および後方に設けられている。サブクロスメンバ210は、金属等により形成され、略矩形閉断面形状を成している。サブクロスメンバ210の端部は、車幅方向のそれぞれのサブフレーム200と溶接等により結合されている。また、サブクロスメンバ210と、サブフレーム200とにより、井桁構造が形成されている。サブクロスメンバ210の上部には、パワーユニット部20を搭載する図示しないパワーユニットマウント部が構成される。
【0029】
第1の伝達部材300は、金属等により形成され略矩形閉断面形状を成し、端面は閉口されている。第1の伝達部材300は、フロントサイドフレーム100とサブフレーム200とを結合する。具体的には、
図3および
図4に示すように、第1の伝達部材300の一方端部は、サブフレーム200の後方に設けられた略矩形の貫通孔THに嵌合しサブフレーム200と結合され、サブフレーム200の下面側において作動レバー320とボルト等により固定されている。一方、第1の伝達部材300の他方端部は、フロントサイドフレーム100の傾斜部SLに設けられた凹部FP4に嵌合し、凹部FP4においてフロントサイドフレーム100と溶接等により結合されている。
【0030】
第2の伝達部材310は、高剛性の金属等により形成され、略矩形の閉断面あるいは中実断面を成している。第2の伝達部材310は、一方端部がトルクボックス50と溶接等により結合され、他方端部がサブフレーム200と溶接等により結合されている。具体的には、第2の伝達部材310の一方端部は、トルクボックス50の底面側において溶接等により結合部WL5に強固に結合されている。第2の伝達部材310の他方端部は、サブフレーム200の車幅方向後方の底面側の結合部WL3において、溶接等により強固に結合されている。また、第2の伝達部材310は、他方端部が、トルクボックス50の上方に位置するサブフレーム200と結合されているため、第2の伝達部材310の他方端部が車両前部上側に向かう傾斜を有している。また、
図5に示すように、第2の伝達部材310は、結合部WL3から結合部WL5に向かうにつれて車両Vの外側に向かうように配設されている。第2の伝達部材310は、結合部WL3における車幅方向の幅よりも結合部WL5における車幅方向の幅が広くなるように形成されている。
【0031】
作動レバー320は、高剛性の金属等により前後方向に延在され、略矩形の閉断面あるいは中実断面を成す略棒状に形成されている。また、作動レバー320は、サブフレーム200の下面に沿うように設けられ、前方の一方端部がサブフレーム200とボルト等により固定され、後方の他方端部はサブフレーム200を貫通した第1の伝達部材300の端部とボルト等により固定されている。具体的には、作動レバー320は、サブフレーム200の前方部の結合部WL1において、作動レバー320の前方の一方端部がサブフレーム200とボルト等により固定されている。結合部WL1は、サブフレーム200の脆弱部FP1よりも前方に位置する。また、作動レバー320は、結合部WL2においてサブフレーム200を貫通した第1の伝達部材300の端部においてボルト等により固定されている。結合部WL2は、結合部WL3よりも前方に位置する。そして、作動レバー320の結合部WL1と結合部WL2との間において、作動レバー320とサブフレーム200とは密接した状態になる。
【0032】
<作用・効果>
上記のように構成された本実施形態に係る車体前部構造Sは、衝突物が車両Vに前面衝突した場合には、車体前部構造Sにおいて衝突エネルギーを吸収することにより保護領域PAに設けられたキャビンCAおよび電池パック30の変形を防止する。
フルラップ衝突の場合には、車幅方向両方の衝撃吸収構造が作用し、オーバーラップ衝突およびスモールオーバラップ衝突の場合には、主に衝突が発生した側の衝撃吸収構造が作用する。以下、
図6(a)~(d)を用いて、正面視で右側の衝撃吸収構造に前面衝突が発生した場合の作用について説明する。
【0033】
図6(a)に示すように、衝突物FBが車両Vに前面衝突する場合には、矢印Aに示す方向から衝突エネルギーが発生する。
【0034】
図6(b)に示すように、衝突物FBが車両Vに前面衝突した場合には、サブフレーム200の前方部に設けられた脆弱部FP1およびフロントサイドフレーム100の前方部に設けられた脆弱部FP2に、矢印Aの方向から衝突エネルギーが伝達される。脆弱部FP1は脆弱部FP2の後部下側に設けられているため、先に脆弱部FP2の圧壊が開始され、直後に脆弱部FP1に衝突エネルギーが伝達される。脆弱部FP1は、サブフレーム200の上面に形成されているため、サブフレーム200の脆弱部FP1よりも先端に位置する部分が、矢印Cで示すように、サブフレーム200の軸方向に圧壊しながら、脆弱部FP1を支点として上方に屈曲するように変形する。また、脆弱部FP2は、脆弱部FP2の後方のフロントサイドフレーム100よりも変形しやすい構造となっているため、矢印Bで示すように、車両Vの後方に向けて圧壊するように変形する。そして、脆弱部FP1が屈曲し脆弱部FP2が圧壊するため、衝突エネルギーは、脆弱部FP1および脆弱部FP2の変形によって吸収される。
【0035】
さらに衝突エネルギーが大きい場合には、
図6(c)に示すように、サブフレーム200の前方部が矢印Dに示す方向に押されるため、作動レバー320の前方部が矢印Dに示す方向に押される。そして、作動レバー320の前方部は、サブフレーム200とともに結合部WL3を支点として下方向へ向かって変形する。したがって、サブフレーム200に伝達する矢印Fに示す後方へ向かう衝突エネルギーの一部は、矢印Dに示す下方向への運動エネルギーに変換されるため、衝突エネルギーは、運動エネルギーとして消費される。
【0036】
サブフレーム200の後端部は結合部WL3において第2の伝達部材310により固定されているため、作動レバー320の後端部は、矢印Eに示す方向に結合部WL2を介して第1の伝達部材300を押し上げる。したがって、サブフレーム200に伝達された矢印Fに示す後方への衝突エネルギーの一部は、矢印Eに示す第1の伝達部材300を上方向へ押し上げる運動エネルギーに変換されるため、衝突エネルギーは、運動エネルギーとして消費されるとともに、第1の伝達部材300への衝突エネルギーが分散される。
また、サブフレーム200には、矢印Fに示される衝突エネルギーが伝達されているため、第1の伝達部材300には、矢印Eに示される方向の衝突エネルギーとともに、矢印F方向の衝突エネルギーが伝達される。そして、第1の伝達部材300は、第2の伝達部材310が設置されている側を谷側にするように屈曲するため、衝突エネルギーは、第1の伝達部材300の変形によって吸収される。
そして、第1の伝達部材300に伝達された衝突エネルギーは、第1の伝達部材300とフロントサイドフレーム100との結合部である凹部FP4に伝達される。第1の伝達部材300は、フロントサイドフレーム100の凹部FP4を矢印Gの方向に押す。凹部FP4は、フロントサイドフレーム100の傾斜部SLの脆弱部であり、フロントサイドフレーム100の凹部FP4において矢印Gの方向に屈曲し、衝突エネルギーは、フロントサイドフレーム100に分散されるとともに、フロントサイドフレーム100の変形によって吸収される。
また、フロントサイドフレーム100は、矢印Hで示す衝突エネルギーにより屈曲部FP3が脆弱部となり、結合部WL4を支点として、屈曲部FP3が上方に変形しながら屈曲する。フロントサイドフレーム100が屈曲するため、衝突エネルギーは、フロントサイドフレーム100の変形によって吸収される。
【0037】
また、さらに衝突エネルギーが大きい場合には、
図6(d)に示されるように、サブフレーム200に伝達されている矢印Fに示される衝突エネルギーにより、サブフレーム200は、結合部WL1と結合部WL2との間の圧壊が進行する。そして、矢印Fに示される衝突エネルギーは、第2の伝達部材310が有する車両前部上側に向かう傾斜により、結合部WL5を支点とした矢印Jに示す後部上側へ伝達される。そのため、サブフレーム200の後方端部は、結合部WL5を支点として車両の後部上側に押し上げられる。つまり、第2の伝達部材310は、サブフレーム200をトルクボックス50に干渉しない方向へ変形させる。
また、フロントサイドフレーム100の矢印Hに示す衝突エネルギーにより、フロントサイドフレーム100は、脆弱部FP2と屈曲部FP3との間の圧壊が進行する。屈曲部FP3においては、矢印Mに示される方向に衝突エネルギーが伝達され、フロントサイドフレーム100は、トーボード40を押し上げる方向に屈曲する。さらに、フロントサイドフレーム100の傾斜部SLは、結合部WL4を支点として後部上側に向けて変形する。そして、矢印Hに示す衝突エネルギーは、フロントサイドフレーム100の変形によって吸収される。
【0038】
衝突エネルギーの入力が終了し、フロントサイドフレーム100およびサブフレーム200への衝突エネルギー伝達が終了することにより、車体前部構造Sの変形による衝突エネルギーの吸収は終了する。
【0039】
以上、本実施形態に係る車体前部構造Sは、車両Vの前部に設けられ、車両Vの前後方向に延在する一対のフロントサイドフレーム100と、フロントサイドフレーム100の下部側に設けられ、車両Vの前輪10を駆動するパワーユニット部20の底面に位置する車両Vの前後方向に延在した一対のサブフレーム200と、車両底面の車幅方向に延在し、フロントサイドフレーム100に結合されたトルクボックス50と、フロントサイドフレーム100の上部に結合されたトーボード40と、を含む車体前部構造であって、フロントサイドフレーム100とサブフレーム200とを結合する第1の伝達部材300と、サブフレーム200とトルクボックス50とを結合する第2の伝達部材310と、サブフレーム200の下面に沿うように設けられ、前方の一方端部がサブフレーム200に固定され、後方の他方端部は第1の伝達部材300に固定されている作動レバーと、を備え、フロントサイドフレーム100は、トーボード40との結合部である屈曲部FP3から車両Vの後部下側に屈曲する傾斜部を有し、第1の伝達部材300は、サブフレーム200との結合部WL2からフロントサイドフレーム100の傾斜部SLと結合し、第2の伝達部材310は、一端部がトルクボックス50の底面に結合され、他端部がトルクボックス50の底面よりも高い位置にあるサブフレーム200の下面に結合されている。
車体前部構造Sは、車両Vの前面衝突により発生した衝突エネルギーを、フロントサイドフレーム100およびサブフレーム200により受け止める。そして、サブフレーム200に伝達された衝突エネルギーは、サブフレーム200に結合されている第1の伝達部材300、第2の伝達部材310および作動レバー320に伝達される。第1の伝達部材300に伝達された衝突エネルギーは、フロントサイドフレーム100へ伝達され、第2の伝達部材310に伝達された衝突エネルギーは、トルクボックス50およびサイドシル60へ伝達される。また、作動レバー320に伝達された衝突エネルギーは、作動レバー320が変形することにより、第1の伝達部材300を介してフロントサイドフレーム100へ伝達される。また、フロントサイドフレーム100に伝達された衝突エネルギーは、フロントサイドフレーム100に設けられた脆弱部FP1、屈曲部FP3およびトルクボックス50へ伝達される。
つまり、第1の伝達部材300、第2の伝達部材310および作動レバー320は、フロントサイドフレーム100およびサブフレーム200に伝達された衝突エネルギーを、車体前部構造Sを構成するフロントサイドフレーム100、サブフレーム200、トルクボックス50、サイドシル60、脆弱部FP1、脆弱部FP2、屈曲部FP3、凹部FP4等に分散させることにより、車両前部室FAの内部において衝突エネルギーを吸収させることができる。
そのため、保護領域PAに存在するキャビンCAおよび電池パック30の変形を防止することができる。
【0040】
また、本実施形態に係る車体前部構造Sは、サブフレーム200に第1の脆弱部としての脆弱部FP1が設けられ、作動レバー320の一端部は、脆弱部FP1よりも前方でサブフレーム200と固定され、作動レバー320の他端部は、パワーユニット部20の後方で第1の伝達部材300に固定されている。
車両Vの前面衝突が発生した場合には、サブフレーム200の脆弱部FP1よりも前方部は、脆弱部FP1を軸方向に圧壊させながら、脆弱部FP1を支点として上方に屈曲する。衝突エネルギーがさらに印可されると、脆弱部FP1が軸方向に圧壊することによって、サブフレーム200の前方部は下方に押され、サブフレーム200の前方部は、結合部WL3を支点として、下方に変形しながらサブフレーム200の圧壊が進む。そして、作動レバー320は、結合部WL1と結合部WL2とを支点として下方に向けて湾曲するため、衝突エネルギーを吸収する。また、作動レバー320は、結合部WL2にて固定されている第1の伝達部材300を押し上げることにより、衝突エネルギーを第1の伝達部材300に分散させる。
つまり、車両Vの前面衝突が発生した場合には、車体前部構造Sは、サブフレーム200に設けられた脆弱部FP1を屈曲させ、作動レバー320を湾曲させることにより衝突エネルギーを吸収させる。そして、車体前部構造Sは、衝突エネルギーを作動レバー320から第1の伝達部材300に分散させることにより、車両前部室FAの内部において衝突エネルギーを吸収させることができる。
そのため、保護領域PAに存在するキャビンCAおよび電池パック30の変形を防止することができる。
【0041】
また、本実施形態に係る車体前部構造Sは、フロントサイドフレーム100の傾斜部SLに凹部FP4が設けられ、第1の伝達部材300の端部は、凹部FP4に嵌合され結合されている。
第1の伝達部材300の一方端部は、サブフレーム200に設けられた貫通孔THに嵌合し、作動レバー320とボルト等により固定され、第1の伝達部材300の他方端部は、フロントサイドフレーム100の傾斜部SLの前方面に設けられた凹部FP4に嵌合し、第1の伝達部材300とフロントサイドフレーム100とが結合されている。
そして、車両Vの前面衝突が発生した場合には、第1の伝達部材300は、サブフレーム200および作動レバー320から伝達される衝突エネルギーを、凹部FP4を介してフロントサイドフレーム100に伝達する。
つまり、第1の伝達部材300は、サブフレーム200に伝達されたトルクボックス50の方向に向かう衝突エネルギーの方向を後部上側の方向に変換させるとともに、衝突エネルギーを第1の伝達部材300およびフロントサイドフレーム100へ分散させることにより、車両前部室FAの内部において衝突エネルギーを吸収させることができる。
そのため、保護領域PAに存在するキャビンCAおよび電池パック30の変形を防止することができる。
【0042】
また、本実施形態に係る車体前部構造Sは、フロントサイドフレーム100の車両前方側端部には、第2の脆弱部としての脆弱部FP2が設けられている。脆弱部FP2は、車両Vの前面衝突が発生した場合には、脆弱部FP2がフロントサイドフレーム100の軸方向に圧壊する。このとき、サブフレーム200がフロントサイドフレーム100の下部側に設けられており、脆弱部FP2の圧壊の進行とともに、フロントサイドフレーム100の脆弱部FP1の圧壊が進行する。そして、サブフレーム200は、脆弱部FP1を支点として、サブフレーム200の前方部が軸方向に圧壊しながら上方に屈曲するように変形する。
つまり、脆弱部FP2は、圧壊することにより衝突エネルギーを吸収させるとともに、脆弱部FP2の下部側に設けられている脆弱部FP1と略同等に圧壊することにより、衝突エネルギーをフロントサイドフレーム100およびサブフレーム200へ分散させることができる。
そのため、保護領域PAに存在するキャビンCAおよび電池パック30の変形を防止することができる。
【0043】
なお、本実施形態においては、第2の伝達部材310は、結合部WL2から結合部WL5に向かうにつれて車両Vの外側に向かうように配設され、結合部WL2における車幅方向の幅よりも結合部WL5における車幅方向の幅が広くなるように形成されているように例示したが、平面視で略矩形に形成されていてもよい。また、第2の伝達部材310は、結合部WL5においてトルクボックス50と結合させるように例示したが、結合部WL5においてサイドシル60と結合してもよい。
【0044】
また、作動レバー320には、結合部WL1と結合部WL2との間に脆弱部を形成させてもよい。また、第1の伝達部材300には、結合部WL2と凹部FP4の間に脆弱部を形成させてもよい。
【0045】
以上、この発明の実施形態につき、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0046】
10;前輪
20;パワーユニット部
30;電池パック
40;トーボード
50;トルクボックス
60;サイドシル
100;フロントサイドフレーム
110;クロスメンバ
200;サブフレーム
210;サブクロスメンバ
300;第1の伝達部材
310;第2の伝達部材
320;作動レバー
CA;キャビン(乗員室)
FA;車両前部室
FP1;脆弱部
FP2;脆弱部
FP3;屈曲部
FP4;凹部
PA;保護領域
S;車体前部構造
SL;傾斜部
TH;貫通孔
V;車両
VS;車体
WL1;結合部
WL2;結合部
WL3;結合部
WL4;結合部
WL5;結合部