(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176740
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】有機リン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 9/50 20060101AFI20231206BHJP
B01J 31/24 20060101ALN20231206BHJP
【FI】
C07F9/50
B01J31/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089178
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 務
【テーマコード(参考)】
4G169
4H050
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169BA27B
4G169BC66B
4G169BE27B
4G169CB25
4G169CB46
4H050AA02
4H050AC80
4H050AD15
4H050BB15
4H050BC10
4H050BC19
4H050BD70
4H050BE61
4H050WA15
4H050WA26
(57)【要約】 (修正有)
【課題】収率が高く、製造コストを低減できる有機リン化合物の製造方法の提供。
【解決手段】特定の化合物と有機リチウム化合物とを反応させて、Liを有するジフェニルホスフィン化合物を得る工程と、該化合物と、ジハロホスフィン化合物とを反応させて、式(4)で表される有機リン化合物を得る工程と、を含む有機リン化合物の製造方法である。
(式中、R
1およびR
2は、H、または連結基を介して芳香環を形成してもよい;R
3は、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
(式(1)中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素、または、連結基を介して芳香環を形成してもよい。)
で表される化合物と有機リチウム化合物とを、有機溶媒の存在下、-100℃以上-50℃以下の温度で反応させて、下記式(2):
【化2】
(式(2)中、R
1およびR
2は、式(1)と同様である。)
で表される化合物を得る第1の工程と、
前記第1の工程で得られた上記式(2)で表される化合物と、下記式(3):
【化3】
(式(3)中、R
3は、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基を示す。)
で表される化合物とを、有機溶媒の存在下、-100℃以上0℃以下の温度下で反応させた後、前記有機溶媒の還流温度で反応させて、下記式(4):
【化4】
(式(4)中、R
1およびR
2は、式(2)と同様であり、R
3は、式(3)と同様である。)
で表される有機リン化合物を得る第2の工程と、
を含む、有機リン化合物の製造方法。
【請求項2】
前記有機リチウム化合物が、ブチルリチウムである、請求項1に記載の有機リン化合物の製造方法。
【請求項3】
前記第1の工程における有機溶媒が、エーテル系溶媒を含む、請求項1または2に記載の有機リン化合物の製造方法。
【請求項4】
前記第2の工程における有機溶媒が、エーテル系溶媒を含む、請求項1または2に記載の有機リン化合物の製造方法。
【請求項5】
前記第2の工程において、前記有機溶媒の還流温度が20℃以上90℃以下である、請求項1または2に記載の有機リン化合物の製造方法。
【請求項6】
前記第2の工程での反応時間が0.1時間以上5時間以下である、請求項1または2に記載の有機リン化合物の製造方法。
【請求項7】
前記第2の工程において、反応系内に飽和食塩水およびアルコール性水溶液の少なくとも1種を添加して反応を失活させる、請求項1または2に記載の有機リン化合物の製造方法。
【請求項8】
前記第2の工程で得られた上記式(4)で表される化合物を精製する第3の工程をさらに含む、請求項1または2に記載の有機リン化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機リン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機リン化合物は、例えば、難燃剤、可塑剤、殺虫剤、医農薬、金属錯体の配位子等の様々な製品に幅広く使用されている化学物質である。特に、有機リン化合物は、機能性材料として電子材料分野等の様々な分野において工業的に注目されている。近年では、鉄系触媒の配位子として様々な有機リン化合物の開発が行われている。
【0003】
例えば、非特許文献1では、原料として(2-ブロモフェニル)ジフェニルホスフィンを用いたビス[2-(ジフェニルフォスフィノ)フェニル]フェニルホスフィンの合成方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Organometallics 2015, 34, 5009-5014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の合成方法では、ビス[2-(ジフェニルフォスフィノ)フェニル]フェニルホスフィンの収率が36%と低かった。そのため、製造コストが高く、実用化には改善の余地があった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、収率が高く、製造コストを低減できる有機リン化合物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、反応工程を工夫することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] 下記式(1):
【化1】
(式(1)中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素、または、連結基を介して芳香環を形成してもよい。)
で表される化合物と有機リチウム化合物とを、有機溶媒の存在下、-100℃以上-50℃以下の温度で反応させて、下記式(2):
【化2】
(式(2)中、R
1およびR
2は、式(1)と同様である。)
で表される化合物を得る第1の工程と、
前記第1の工程で得られた上記式(2)で表される化合物と、下記式(3):
【化3】
(式(3)中、R
3は、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基を示す。)
で表される化合物とを、有機溶媒の存在下、-100℃以上0℃以下の温度下で反応させた後、前記有機溶媒の還流温度で反応させて、下記式(4):
【化4】
(式(4)中、R
1およびR
2は、式(2)と同様であり、R
3は、式(3)と同様である。)
で表される有機リン化合物を得る第2の工程と、
を含む、有機リン化合物の製造方法。
[2] 前記有機リチウム化合物が、ブチルリチウムである、[1]に記載の有機リン化合物の製造方法。
[3] 前記第1の工程における有機溶媒が、エーテル系溶媒を含む、[1]または[2]に記載の有機リン化合物の製造方法。
[4] 前記第2の工程における有機溶媒が、エーテル系溶媒を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の有機リン化合物の製造方法。
[5] 前記第2の工程において、前記有機溶媒の還流温度が20℃以上90℃以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の有機リン化合物の製造方法。
[6] 前記第2の工程での反応時間が0.1時間以上5時間以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の有機リン化合物の製造方法。
[7] 前記第2の工程において、反応系内に飽和食塩水およびアルコール性水溶液の少なくとも1種を添加して反応を失活させる、[1]~[6]のいずれかに記載の有機リン化合物の製造方法。
[8] 前記第2の工程で得られた上記式(4)で表される化合物を精製する第3の工程をさらに含む、[1]~[7]のいずれかに記載の有機リン化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、収率が高く、製造コストを低減できる有機リン化合物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[有機リン化合物の製造方法]
本発明による有機リン化合物の製造方法は、第1の工程および第2の工程を含むものであり、第3の工程をさらに含んでもよい。以下、各工程について詳述する。
【0011】
(第1の工程)
第1の工程は、下記式(1):
【化5】
で表される化合物と有機リチウム化合物とを、有機溶媒の存在下、-100℃以上-50℃以下の温度で反応させて、下記式(2):
【化6】
(式(2)中、R
1およびR
2は、式(1)と同様である。)
で表される化合物を得る工程である。
【0012】
上記式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素、または、連結基を介して芳香環を形成してもよい。芳香環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、およびアントラセン環が挙げられる。これらの中でも、ベンゼン環およびナフタレン環が好ましく、ベンゼン環がより好ましい。
【0013】
上記式(1)で表される原料化合物の好ましい実施形態としては、以下の化合物が挙げられる。
【化7】
【0014】
有機リチウム化合物としては、アルキルリチウムを用いることが好ましい。アルキルリチウムのアルキル基の炭素数は、好ましくは1~6であり、より好ましくは1~4である。アルキル基は、直鎖状および分岐鎖状のいずれであってもよい。アルキルリチウムとしては、例えば、メチルリチウム、ブチルリチウム(n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム)が挙げられる。ブチルリチウムの中でも、反応性の観点から、n-ブチルリチウムを用いることが好ましい。
【0015】
第1の工程における雰囲気としては、特に限定されないが、酸素等による影響を抑制する観点から、不活性気体雰囲気下が好ましく、窒素又はアルゴン雰囲気下がより好ましい。
【0016】
第1の工程における反応温度は、-100℃以上-50℃以下であり、好ましくは-95℃以上-55℃以下であり、より好ましくは-90℃以上-60℃以下である。第1の工程における反応温度が上記数値範囲内であれば、副生成物の発生を抑制し、収率を向上させることができる。
【0017】
第1の工程における反応時間は、特に制限されないが、好ましくは0.1時間以上5時間以下であり、より好ましくは0.2時間以上4時間以下であり、さらに好ましくは0.5時間以上3時間以下である。第1の工程における反応時間が上記数値範囲内であれば、製造工程の時間を短縮し、製造効率を向上させることができる。
【0018】
上記式(1)で表される化合物と有機リチウム化合物の添加量は、反応が進行すれば特に限定されないが、上記式(1)で表される化合物1molに対して、有機リチウム化合物1.0~2.0molであることが好ましく、1.0~1.5molであることがより好ましい。
【0019】
第1の工程で用いる有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、グライム、ジグライム等のエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン、o-,m-,p-キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;ヘキサフルオロベンゼン、m-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、p-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、α,α,α-トリフルオロメチルベンゼン、ジクロロペンタフルオロプロパン等の含フッ素有機溶媒等が挙げられる。これらの中でも、エーテル系溶媒を用いることが好ましい。
【0020】
上記式(2)中、R1およびR2は、式(1)と同様である。また、上記式(2)中、R1およびR2の好ましい態様も、上記式(1)中のR1およびR2の好ましい態様と同様である。
【0021】
上記式(2)で表される化合物の好ましい実施形態としては、以下の化合物が挙げられる。
【化8】
【0022】
(第2の工程)
第2の工程は、第1の工程で得られた上記式(2)で表される化合物と、下記式(3):
【化9】
で表される化合物とを、有機溶媒の存在下、-100℃以上0℃以下の温度下で反応させた後(第1段階)、前記有機溶媒の還流温度で反応させて(第2段階)、下記式(4):
【化10】
で表される有機リン化合物を得る工程である。
【0023】
上記式(3)中、R3は、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基を示す。脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは1~20であり、より好ましくは3~15である。
【0024】
上記の置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、およびアリールオキシ基等が挙げられる。
【0025】
上記の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、2-メチルプロピル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、シクロヘキシルメチル基、ネオペンチル基、2-エチルブチル基、イソプロピル基、2-ブチル基、シクロヘキシル基、3-ペンチル基、tert-ブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、2-エチルヘキシル基、2-ブチルオクチル基等の直鎖状、分岐鎖状のアルキル基;2-プロペニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、2,4-ペンタジエニル基等のアルケニル基;エチニル基等のアルキニル基が挙げられる。
【0026】
上記の芳香族炭化水素基は、ヘテロ原子を含むものであってもよい。上記の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基;チエニル基、フリル基、ピリジル基等の芳香族ヘテロ環炭化水素基; ピリジルオキシ基、チエニルオキシ基等のヘテロアリールオキシ基;フェニルチオ基、ナフチルチオ基等の芳香族炭化水チオ基;ピリジルチオ基、チエニルチオ基等の芳香族ヘテロ環炭化水素チオ基;フェノキシカルボニル基、ナフトキシカルボニル基等の芳香族炭化水素オキシカルボニル基;ピリジルオキシカルボニル基等の芳香族ヘテロ環炭化水素オキシカルボニル基;ベンゼンスルホニル基、モノフルオロベンゼンスルホニル基等のアリールスルホニル基;チエニルスルホニル基等のヘテロアリールオキシスルホニル基等が挙げられる。
【0027】
上記式(3)で表される化合物の好ましい実施形態としては、以下の化合物が挙げられる。
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【0028】
第2の工程における雰囲気としては、特に限定されないが、酸素等による影響を抑制する観点から、不活性気体雰囲気下が好ましく、窒素又はアルゴン雰囲気下がより好ましい。
【0029】
第2の工程では、第1段階の低温で反応させた後、一旦室温付近まで温度を上昇させ、第2段階の高温で反応させる。
第2の工程における第1段階の反応温度は、-100℃以上0℃以下であり、好ましくは-95℃以上-25℃以下であり、より好ましくは-90℃以上-50℃以下である。第2の工程における第1段階の反応温度が上記数値範囲内であれば、副生成物の発生を抑制し、収率を向上させることができる。
第2の工程における第2段階の反応温度は、有機溶媒の還流温度であり、使用する有機溶媒の種類に応じて適宜、調節することができる。第2の工程における第2段階の反応温度は、例えば、好ましくは20℃以上90℃以下であり、より好ましくは30℃以上85℃以下であり、より好ましくは40℃以上80℃以下である。第2の工程における第2段階の反応温度が上記数値範囲内であれば、反応を効率良く促進し、製造工程の時間を短縮することができる。
【0030】
第2の工程における反応時間(第1段階および第2段階の合計時間)は、特に制限されないが、好ましくは0.1時間以上5時間以下であり、より好ましくは0.2時間以上4時間以下であり、さらに好ましくは0.5時間以上3時間以下である。第2の工程における反応時間が上記数値範囲内であれば、製造工程の時間を短縮し、製造効率を向上させることができる。
【0031】
上記式(2)で表される化合物と上記式(3)で表される化合物の添加量は、反応が進行すれば特に限定されないが、上記式(2)で表される化合物1molに対して、上記式(3)で表される化合物0.5~1.0molであることが好ましく、0.5~0.7molであることがより好ましい。
【0032】
第2の工程で用いる有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、グライム、ジグライム等のエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン、o-,m-,p-キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;ヘキサフルオロベンゼン、m-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、p-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、α,α,α-トリフルオロメチルベンゼン、ジクロロペンタフルオロプロパン等の含フッ素有機溶媒等が挙げられる。これらの中でも、エーテル系溶媒を用いることが好ましい。
【0033】
上記式(4)中、R1およびR2は、式(2)と同様である。また、上記式(4)中、R1およびR2の好ましい態様も、上記式(2)中のR1およびR2の好ましい態様と同様である。
上記式(4)中、R3は、式(3)と同様である。また、上記式(4)中、R3の好ましい態様も、上記式(3)中のR3の好ましい態様と同様である。
【0034】
上記式(4)で表される化合物の好ましい実施形態としては、以下の化合物が挙げられる。
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【0035】
第2の工程においては、有機溶媒の還流温度での反応の後、反応系内に反応失活剤を添加して、反応を止めることが好ましい。反応失活剤としては、特に限定されず、従来公知の物を用いることができる。反応失活剤としては、例えば、飽和食塩水およびアルコール性水溶液等が挙げられる。アルコール性水溶液としては、メタノール、エタノール、ブタノール等が挙げられる。
【0036】
(第3の工程)
第3の工程は、第2の工程で得られた上記式(4)で表される化合物を精製する工程である。精製方法は、特に限定されず、従来公知の精製方法を適用することができる。精製方法としては、例えば、再結晶、分液、減圧ろ過、溶媒留去、有機溶媒による洗浄、および超音波洗浄等が挙げられる。
【実施例0037】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
[実施例1]
反応容器の中に、(2-ブロモフェニル)ジフェニルホスフィン1.025g、n-ブチルリチウム0.197g、およびテトラヒドロフラン(THF)7mLを加え、窒素雰囲気下、-78℃で1時間反応させた。続いて、反応容器の中に、ジクロロフェニルホスフィン0.270gを加え、-78℃で1時間反応させた。その後、反応温度を上げ、THFの還流温度(約65℃)で1時間還流させて、ビス[2-(ジフェニルフォスフィノ)フェニル]フェニルホスフィンを合成した。一連の反応を下記式で示す。
【化21】
【0039】
次に、反応容器の中に、飽和食塩水50mLを加えて、反応を失活させた。得られた反応生成物に塩化メチレンを加えて溶媒抽出を行い、さらに硫酸ナトリウムを加えて脱水を行った。その後、有機層の有機溶媒を減圧下で蒸発させて、粗結晶を回収した。粗結晶をメタノール中で超音波洗浄を行い、ビス[2-(ジフェニルフォスフィノ)フェニル]フェニルホスフィンの結晶を得た。得られたビス[2-(ジフェニルフォスフィノ)フェニル]フェニルホスフィンの収率は79%であった。
【0040】
[比較例1]
非特許文献1(Organometallics 2015, 34, 5009-5014)に記載の方法に従って、ビス[2-(ジフェニルフォスフィノ)フェニル]フェニルホスフィンを合成した。具体的には、反応容器の中に、(2-ブロモフェニル)ジフェニルホスフィン2.600g、n-ブチルリチウム0.512gのノルマルヘキサン溶液5mL、およびジエチルエーテル30mLを加え、窒素雰囲気下、-40℃で10分間反応させた後、室温で2時間反応させた。続いて、反応容器の中に、ジクロロフェニルホスフィン0.682gのジエチルエーテル溶液10mLを加え、室温で終夜反応させて、ビス[2-(ジフェニルフォスフィノ)フェニル]フェニルホスフィンを合成した。反応中には、白色固体が析出してこれをろ過した。
【0041】
次に、得られた白色固体をジエチルエーテルで洗浄した後、乾燥した。続いて、塩化メチレンを加えて溶媒抽出を行い、有機層の有機溶媒を減圧下で蒸発させて、粗結晶を回収した。次に、粗結晶を、フラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル充填、塩化メチレンとヘキサンの混合溶媒使用)を用いて精製し、ビス[2-(ジフェニルフォスフィノ)フェニル]フェニルホスフィンの結晶を得た。得られたビス[2-(ジフェニルフォスフィノ)フェニル]フェニルホスフィンの収率は36%であった。
【0042】
上記の実施例1および比較例1を比較すると、実施例1では、製造工程における溶媒量を削減しながら、ビス[2-(ジフェニルフォスフィノ)フェニル]フェニルホスフィンの収率を向上させることができた。したがって、本発明の製造方法によれば、製造コストを削減することができる。
【0043】
(Fi系触媒の性能評価)
上記の実施例1で得られたビス[2-(ジフェニルフォスフィノ)フェニル]フェニルホスフィンを用いて、下記の方法によりFi系触媒を合成し、Fi系触媒の性能評価を行った。
具体的には、上記の実施例で得られたビス[2-(ジフェニルフォスフィノ)フェニル]フェニルホスフィン0.070g、ベンゾチオフェン0.135g、鉄(III)アセチルアセトナート0.035gの脱水THF溶液3mLを添加し、室温で攪拌してFi系触媒を合成した。
続いて、合成したFi系触媒、2モル/L規定のトリメチルアルミニウムのトルエン溶液0.50mL、シュウ酸ジエチル0.073gを添加し、70℃の一定温度の条件で反応させた。下記反応式における目的化合物への転化率を算出し、Fi系触媒のカップリング性能を評価した。反応後、9時間で転化率は53%に達しており、Fi系触媒が優れた反応活性を有することを確認できた。
【化22】