(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176743
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】回転角度検出方法、回転角度検出プログラム、及び、回転角度検出装置
(51)【国際特許分類】
H02P 7/06 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
H02P7/06 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089182
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】前田 亮
(72)【発明者】
【氏名】都 軍安
(72)【発明者】
【氏名】木村 渉
【テーマコード(参考)】
5H571
【Fターム(参考)】
5H571AA03
5H571CC01
5H571EE02
5H571JJ03
5H571JJ16
5H571JJ17
5H571JJ26
5H571LL01
5H571LL22
5H571LL32
(57)【要約】
【課題】温度変化によるモータの回転しやすさの変化に起因して惰性回転によるモータの回転角度が変化する場合でも、モータの回転角度を正確に検出できる回転角度検出方法、回転角度検出プログラム、及び、回転角度検出装置、を提供する。
【解決手段】回転角度検出方法は、電動機に流れる電流を測定する電流測定処理と、前記電流測定処理によって測定される電流値に基づいて、前記電動機の回転角度を求める回転角度検出処理とを含み、前記回転角度検出処理では、前記電動機の駆動が停止される時点の直前の前記電動機の回転角速度と、前記電動機の駆動が停止される時点から前記電流測定処理によって測定される電流値の極性が反転する時点までの時間と、前記電流測定処理によって測定される電流値の極性が反転する時点から前記電流測定処理によって測定される電流値がゼロになる時点までの時間とに基づいて、惰性回転における回転角度を求める。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機に流れる電流を測定する電流測定処理と、
前記電流測定処理によって測定される電流値に基づいて、前記電動機の回転角度を求める回転角度検出処理と
を含む回転角度検出方法であって、
前記回転角度検出処理では、前記電動機の駆動が停止される時点の直前の前記電動機の回転角速度と、前記電動機の駆動が停止される時点から前記電流測定処理によって測定される電流値の極性が反転する時点までの期間と、前記電流測定処理によって測定される電流値の極性が反転する時点から前記電流測定処理によって測定される電流値がゼロになる時点までの期間とに基づいて、前記電動機の惰性回転における回転角度を求める、回転角度検出方法。
【請求項2】
前記回転角度検出処理では、前記電動機の駆動が停止される時点の直前の前記電動機の回転角速度と、前記電動機の駆動が停止される時点から前記電流測定処理によって測定される電流値の極性が反転する時点までの期間とを掛け合わせた値を用いて、前記惰性回転における前記回転角度を求める、請求項1に記載の回転角度検出方法。
【請求項3】
前記回転角度検出処理では、前記電動機の駆動が停止される時点の直前の前記電動機の回転角速度と、前記電流測定処理によって測定される電流値の極性が反転する時点から前記電流測定処理によって測定される電流値がゼロになる時点までの期間と、所定の定数C(C≦0.5)とを掛け合わせた値を用いて、前記惰性回転における前記回転角度を求める、請求項1に記載の回転角度検出方法。
【請求項4】
前記回転角度検出処理では、前記電動機の駆動が停止される時点の直前の前記電動機の回転角速度ω0と、前記電動機の駆動が停止される時点から前記電流測定処理によって測定される電流値の極性が反転する時点までの期間Tconと、前記電流測定処理によって測定される電流値の極性が反転する時点から前記電流測定処理によって測定される電流値がゼロになる時点までの期間Tattと、所定の定数C(C≦0.5)とを用いて、次式(1)に従って前記惰性回転における前記回転角度θを求める、請求項1に記載の回転角度検出方法。
【数1】
【請求項5】
前記回転角度検出処理では、前記電流測定処理によって測定される電流値の極性が反転する時点から前記電流測定処理によって測定される電流値がゼロになる時点までの期間Tattが所定の時間閾値よりも短い場合に、前記式(1)に従って前記惰性回転における前記回転角度θを求める、請求項4に記載の回転角度検出方法。
【請求項6】
前記回転角度検出処理では、前記電流測定処理によって測定される電流値の極性が反転する時点から前記電流測定処理によって測定される電流値がゼロになる時点までの期間が所定の時間閾値以上の場合には、前記電動機の駆動が停止される時点の直前の前記電動機の回転角速度ω0、前記電動機の駆動が停止される時点から前記電流測定処理によって測定される電流値の極性が反転する時点までの期間Tcon、及び、前記電流の減衰の時定数τに基づいて、次式(2)に基づいて、前記電動機の前記惰性回転における前記回転角度を求める、請求項1に記載の回転角度検出方法。
【数2】
【請求項7】
前記回転角度検出処理は、
前記電動機に印加される電圧を測定する電圧測定処理と、
前記電動機に流れる電流のリップルを検出するリップル検出処理と
を有し、
前記回転角度検出処理では、前記電動機に駆動電圧が印加されている間は、前記リップル検出処理で検出されたリップル数に基づいて前記電動機の回転角度を算出するとともに、前記電流測定処理によって測定される電流値と、前記電圧測定処理によって測定される電圧値とに基づいて前記リップル数を補正する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の回転角度検出方法。
【請求項8】
電動機に流れる電流を測定する電流測定処理と、
前記電流測定処理によって測定される電流値に基づいて、前記電動機の回転角度を求める回転角度検出処理と
を含む処理をコンピュータに実行させる回転角度検出プログラムであって、
前記回転角度検出処理では、前記電動機の駆動が停止される時点の直前の前記電動機の回転角速度と、前記電動機の駆動が停止される時点から前記電流測定処理によって測定される電流値の極性が反転する時点までの期間と、前記電流測定処理によって測定される電流値の極性が反転する時点から前記電流測定処理によって測定される電流値がゼロになる時点までの期間とに基づいて、前記電動機の惰性回転における回転角度を求める、回転角度検出プログラム。
【請求項9】
電動機に流れる電流を測定する電流測定処理を行う電流測定部と、
前記電流測定部によって測定される電流値に基づいて、前記電動機の回転角度を求める回転角度検出部と
を含み、
前記回転角度検出部は、前記電動機の駆動が停止される時点の直前の前記電動機の回転角速度と、前記電動機の駆動が停止される時点から前記電流測定部によって測定される電流値の極性が反転する時点までの期間と、前記電流測定部によって測定される電流値の極性が反転する時点から前記電流測定部によって測定される電流値がゼロになる時点までの期間とに基づいて、前記電動機の惰性回転における回転角度を求める、回転角度検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転角度検出方法、回転角度検出プログラム、及び、回転角度検出装置、に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、全閉位置と全開位置との間で車両の窓を移動させるパワーウィンドウ用のモータの開、閉操作用の操作スイッチと、前記操作スイッチの開、閉操作に基づく電源から前記モータへの駆動電流のリップル数に基づいて前記モータの回転量を算出する算出手段と、前記全開位置と前記全閉位置との間を前記窓が閉方向および開方向それぞれに移動している間における前記操作スイッチの停止操作に基づく前記モータの停止回数をカウントするカウント手段と、前記操作スイッチの停止操作に基づく前記モータの停止の際の慣性力による前記モータの回転量に基づいて予め設定された補正量を記憶する記憶手段とを含む窓位置検出装置がある。窓位置検出装置は、前記算出手段により算出された前記モータの回転量と、前記停止回数と、前記補正量とに基づいて、前記窓の推定位置を導出する推定手段と、前記モータにより移動する前記窓が前記全閉位置または前記全開位置に到達したことを検出する検出手段と、前記全閉位置または前記全開位置に前記窓が到達したことが前記検出手段により検出されたときに前記推定手段により導出された前記窓の推定位置の誤差量と、前記停止回数とに基づいて、前記補正量を書き換え補正する補正手段とを備える(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の窓位置検出装置は、経年変化によるモータの停止の際の慣性力による回転量(惰性回転によるモータの回転角度)の変化に対応することはできるが、例えば、寒暖の温度差等による窓の開閉のしやすさの変化等に起因する惰性回転によるモータの回転角度の変化に対応することはできない。バッテリーは、温度が下がると内部抵抗が上昇して、出力電圧が低下する。モータの駆動電圧が低い状態では、回転速度が遅くなり、惰性回転期間中のモータの回転角度が小さくなる。この為、惰性回転によるモータの回転角度を正しく検出できない。また、このような問題は、パワーウィンドウ(車両の窓)以外の物品をモータで駆動する場合に同様に生じうる。
【0005】
そこで、温度変化によるモータの回転速度の変化に起因して惰性回転によるモータの回転角度が変化する場合でも、モータの回転角度を正確に検出できる回転角度検出方法、回転角度検出プログラム、及び、回転角度検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の実施形態の回転角度検出方法は、電動機に流れる電流を測定する電流測定処理と、前記電流測定処理によって測定される電流値に基づいて、前記電動機の回転角度を求める回転角度検出処理とを含み、前記回転角度検出処理では、前記電動機の駆動が停止にされる時点の回転角速度と、前記電動機の駆動が停止にされる時点から前記電流測定処理によって測定される電流値の極性が反転する時点までの時間と、前記電流測定処理によって測定される電流値の極性が反転する時点から前記電流測定処理によって測定される電流値がゼロになる時点までの時間とに基づいて、前記電動機の惰性回転における回転角度を求める。
【発明の効果】
【0007】
温度変化によるモータの回転しやすさの変化に起因して惰性回転によるモータの回転角度が変化する場合でも、モータの回転角度を正確に検出できる回転角度検出方法、回転角度検出プログラム、及び、回転角度検出装置、を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の回転角度検出装置100を示す図である。
【
図2】DCモータ10と駆動回路20の接続状態を示す図である。
【
図3】DCモータ10を停止にする前後の電流iと角速度ωの時間変化を示す図である。
【
図4】DCモータ10が惰性回転を行う期間が長い場合におけるDCモータ10の角速度ωと電流iを示す図である。
【
図5】DCモータ10が惰性回転を行う期間が短い場合におけるDCモータ10の角速度ωと電流iを示す図である。
【
図6】回転角度検出部133Bが回転角度を検出する処理を表すフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の回転角度検出方法、回転角度検出プログラム、及び、回転角度検出装置を適用した実施形態について説明する。
【0010】
<実施形態>
図1は、実施形態の回転角度検出装置100を示す図である。回転角度検出装置100が回転角度を検出する電動機は、車両のパワーウィンドウを駆動する電動機に限られないが、ここでは、一例として、実施形態の回転角度検出装置100をパワーウィンドウの電動機の回転角度検出装置として用いる形態について説明する。
【0011】
図1には、回転角度検出装置100の他に、DC(Direct Current)モータ10、抵抗器15、駆動回路20、直流電源30、パワーウィンドウ50、及び駆動機構51を示す。
【0012】
DCモータ10は、端子11、12を有し、端子11、12に接続される駆動回路20によって駆動される。抵抗器15は、DCモータ10の端子12に接続されており、DCモータ10の電流を検出するために用いられる。駆動回路20は、直流電源30から供給される直流電力でDCモータ10を駆動する。駆動回路20は、図示しない駆動制御部によって制御されることによってDCモータ10を駆動するが、ここでは駆動制御部を省略する。
【0013】
パワーウィンドウ50は、車両のパワーウィンドウであり、DCモータ10のロータ(回転子)から駆動機構51を介して伝達される駆動力によって開閉される窓ガラスである。駆動機構51は、車両のドアパネルの内部等に設けられ、DCモータ10のロータの回転力をパワーウィンドウ50の上下方向の駆動力に変換するラック&ピニオンやスライダ・クランク等の機械的な機構である。
【0014】
回転角度検出装置100は、フィルタ回路110、IC(Integrated Circuit)チップ120、及び、マイクロコンピュータ130を含む。
【0015】
フィルタ回路110は、LPF(Low Pass Filter)111、112を有する。LPF111にはDCモータ10の端子11、12の間の電圧が入力され、電圧に含まれる周波数の高いノイズ等を除去してマイクロコンピュータ130に出力する。LPF112には抵抗器15の両端間の電圧がDCモータ10の電流を表す電圧として入力され、電圧に含まれる周波数の高いノイズ等を除去してマイクロコンピュータ130に出力する。
【0016】
ICチップ120は、BPF(Band Pass Filter)121とリップル検出部122を有する。DCモータ10のロータが一定の角度回転する毎に、DCモータ10を流れる電流にリップルが生じる。BPF121には抵抗器15の両端間の電圧がDCモータ10の電流を表す電圧として入力され、電圧に含まれる周波数の高いノイズと周波数の低いノイズ等を除去してリップル検出部122に出力する。リップル検出部122は、リップル検出処理部の一例であり、BPF121から入力される電流を表すデータに含まれるリップルを検出するリップル検出処理を行い、パルスに変換してマイクロコンピュータ130に出力する。
【0017】
マイクロコンピュータ130は、A/D(Analog to Digital)コンバータ131、132、及び処理部133を有する。マイクロコンピュータ130は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、入出力インターフェース、及び内部バス等を含むコンピュータによって実現される。処理部133は、マイクロコンピュータ130が実行するプログラムの機能(ファンクション)を機能ブロックとして示したものである。
【0018】
A/Dコンバータ131は、LPF111の出力をデジタル信号に変換して処理部133に出力する。A/Dコンバータ131は、電圧測定処理部の一例であり、LPF111が出力した信号の電圧を測定する電圧測定処理を行う。LPF111の出力は、DCモータ10の電圧の移動平均になる。A/Dコンバータ131の出力は、DCモータ10の平均の電圧値を表すデジタルデータである。
【0019】
A/Dコンバータ132は、LPF112の出力をデジタル信号に変換して処理部133に出力する。LPF112の出力は、DCモータ10の電流の移動平均になる。A/Dコンバータ132の出力は、DCモータ10の平均の電流値を表すデジタルデータである。
【0020】
処理部133は、電流測定部133A、回転角度検出部133B、及びメモリ133Cを有する。電流測定部133A、回転角度検出部133Bは、マイクロコンピュータ130が実行するプログラムの機能(ファンクション)を機能ブロックとして示したものである。また、メモリ133Cは、マイクロコンピュータ130のメモリを機能ブロックとして表したものである。
【0021】
電流測定部133Aは、A/Dコンバータ132の出力に基づき、DCモータ10に流れる電流を測定する電流測定処理を行う。電流測定部133Aは、測定した電流値を表すデータを回転角度検出部133Bに出力する。
【0022】
回転角度検出部133Bは、A/Dコンバータ131の出力(電圧値)と、電流測定部133Aの出力(電流値)と、リップル検出部122から入力されるパルスとに基づいて、DCモータ10の惰性回転の期間における回転角度を求める回転角度検出処理を行う。DCモータ10の惰性回転とは、駆動回路20からDCモータ10に電圧が印加されて(電力が供給されて)DCモータ10が駆動されている状態から、電圧の印加が遮断されて、DCモータ10のロータがイナーシャによって惰性で回転することをいう。DCモータ10が惰性回転を行うのは、図示しない駆動制御部が駆動回路20を制御して、駆動回路20からDCモータ10に印加される電圧が遮断されたときである。
【0023】
回転角度検出部133Bは、DCモータ10に駆動電圧が印加されている間は、リップル検出部122で検出されたリップル数に基づいてDCモータ10の回転角度を算出するとともに、電流測定部133Aによって測定される電流値と、LPF111から出力されA/Dコンバータ131から出力される電圧値とに基づいて、リップル検出部122で検出されたリップル数を補正する。DCモータ10に駆動電圧が印加されている間とは、惰性で回転しているのではなく、駆動電圧によってDCモータ10が駆動されている状態である。電流値と電圧値とでDCモータ10に供給される電力が分かるため、リップル数と電力の両方を用いることで、DCモータ10の回転角度を算出できる。回転角度検出部133Bは、DCモータ10に供給される電力に基づいて、電力に応じたリップル数が得られているかどうかを監視する。ノイズ等によって、リップルの検出漏れや、リップルの誤検出があると、回転角度検出部133Bが、電力に基づき算出したDCモータ10の回転角度と、リップル数に基づき算出したDCモータ10の回転角度が一致しない。回転角度検出部133Bが、電力に基づき算出したDCモータ10の回転角度と、リップル数に基づき算出したDCモータ10の回転角度が一致しない場合、リップル数を補正してから、DCモータ10の回転角度を算出する。
【0024】
回転角度検出部133Bは、DCモータ10の惰性回転の期間におけるDCモータ10のロータの回転角度を求める。本明細書では、DCモータ10のロータの回転角度を、DCモータ10の回転角度と記載する。なお、具体的な回転角度の求め方については、
図2乃至
図6を用いて後述する。
【0025】
メモリ133Cは、電流測定部133A及び回転角度検出部133Bが処理を実行する際に利用するプログラム及びデータ、A/Dコンバータ131の出力(電圧値)、電流測定部133Aの出力(電流値)、及び、リップル検出部122から入力されるパルスのデータ等を格納する。
【0026】
次に、
図2を用いて、DCモータ10と駆動回路20の接続状態について説明する。
図2は、DCモータ10と駆動回路20の接続状態を示す図である。駆動回路20は、2つのスイッチ21、22を有する。
図2(A)にはDCモータ10を駆動する駆動回路20の接続状態を示す。
【0027】
DCモータ10を駆動するには、スイッチ21、22を切り替えてDCモータ10を直流電源30に接続する。また、
図2(B)には、DCモータ10の一方の端子を開放した状態を示す。DCモータ10の駆動を停止する際には、短時間だけ、
図2(B)の状態にした後に、
図2(C)の状態にする。
図2(C)は、DCモータ10を制動する駆動回路20の接続状態を示す。DCモータ10の駆動を停止するには、スイッチ21を切り替えてDCモータ10の両端に直流電源30が印加されないようにする。一例として、DCモータ10の駆動を停止する状態では、DCモータ10の両端子はともに直流電源30の負端子に接続する。これは、DCモータ10の両端が短絡された状態である。DCモータ10の両端を短絡すると、DCモータ10の回転により発生する逆起電力が、DCモータ10に接続された抵抗器15で消費され、DCモータが制動される。
【0028】
ところで、駆動回路20からDCモータ10に電圧が印加されてDCモータ10が駆動されている状態から、DCモータ10の駆動が停止されて、ロータの回転が止まるまでの時間は、状況によって異なる。
【0029】
例えば、DCモータ10の温度が低い(例えば、-30℃以下)状態では、直流電源30の電圧が低下し、DCモータ10の回転速度が遅くなる。DCモータ10の回転速度が遅いと、DCモータ10の両端が短絡されてから、DCモータが止まるまでの時間が短くなる。
【0030】
一方、DCモータ10の温度が高く、駆動回路20からDCモータ10に印加される電圧が十分に大きいような状態では、DCモータ10の回転速度が速くなる。DCモータ10の回転速度が速いと、DCモータ10の駆動が停止してからロータが止まるまでの時間が長くなる。
【0031】
DCモータ10の駆動が停止してから、ロータが停止するまでの時間が短いと、ロータの減速状態を示す時定数の算出精度が低下する。そこで、回転角度検出装置100は、DCモータ10のロータが惰性で回転する時間が長い場合と、惰性で回転する時間が短い場合とで、DCモータ10の惰性回転の期間における回転角度の算出方法を使い分ける。DCモータ10のロータが惰性で回転する時間が長いか、惰性で回転する時間が短いかは、DCモータ10に流れる電流が反転してからDCモータ10に流れる電流がゼロになるまでの期間Tattが所定の時間閾値よりも短いかどうかで判定する。この処理については後述する。
【0032】
<DCモータ10のロータが惰性で回転する時間が長い場合の回転角度の算出方法>
直流モータの理論によってDCモータ10について成立する回路方程式について説明する。DCモータ10について直流モータの理論より、次の式(1)、(2)が成立する。LはDCモータ10のインダクタンス、RはDCモータ10の抵抗、JはDCモータ10のロータのイナーシャ、KeはDCモータ10の逆起電力定数、KtはDCモータ10のトルク定数、KvはDCモータ10の粘性摩擦係数、FはDCモータ10の負荷、uは駆動回路20からDCモータ10に印加される駆動電圧、iは
図1の電流測定部133Aで測定されるDCモータ10に流れる電流である。電流iは、電流測定部133AがA/Dコンバータ132の出力を測定して得る電流値であり、時系列的に並べると電流波形を表す。
【0033】
【0034】
【0035】
DCモータ10を停止する際には、まず、
図2(B)に示すように、駆動回路20のスイッチ21を開放する。次に、
図2(C)に示すように駆動回路20のスイッチ21を設置側に切り替える。この為、DCモータ10を停止する命令が出されると、暫くほぼ同じ速度で回転してから、減速する。また、インダクタンスLのエネルギ放電の完了時に電流iの変化分(di/dt)がゼロであるとすると、式(1)より電流iとDCモータ10の角速度(回転角速度)ωとの間に式(3)で表される比例的な関係が成立する。角速度ωはDCモータ10の回転子(ロータ)の角速度である。
【0036】
【0037】
式(3)を式(2)に代入し、DCモータ10の端子11、12が短絡された状態における負荷Fをゼロと仮定して微分方程式を解くと、角速度は次式(4)で表すことができる。ここで、ω0はDCモータ10が惰性回転を開始したときの角速度であり、τはDCモータ10の角速度ωの減衰の時定数である。
【0038】
【0039】
また、DCモータ10の角速度ωの減衰の時定数τは、次式(5)で表すことができる。
【0040】
【0041】
式(5)から分かるように、時定数τは多くのパラメータの変動の影響を受ける。ところで、式(3)と式(4)から分かるように、DCモータ10の惰性回転の角速度ωは指数カーブで減衰し、電流iも同じ指数カーブで減衰することになる。すなわち、DCモータ10の電流iの減衰の時定数は、DCモータ10の角速度の減衰の時定数τと等しい。
【0042】
図3は、DCモータ10を制動する前後の電流iと角速度ωの時間変化を示す図である。
図3の角速度は、DCモータ10のロータの回転角度を測定するセンサを用いて調べた。実際の製品では、ロータの回転角度を測定するセンサを設けない。実際の製品では、電流iのみ測定し、DCモータ10のロータの回転角度を算出する。
図3(A)には、DCモータ10を制動する前後の電流iと角速度ωの時間変化をそのまま示す。DCモータ10を制動するとDCモータ10は惰性で回転し、角速度ωは指数カーブで減衰し、一定期間経過後に電流iも同じ指数カーブで減衰する。電流iは、逆起電力による電流として流れるため、電流iの流れる向きが反転し、ピークに達した後に、電流iと角速度ωが、同様の指数カーブで減衰する。逆起電力による電流は、DCモータ10が駆動のときに流れる電流とは逆方向に流れる逆方向電流である。
【0043】
ここで、
図3(A)における電流iの波形を-K倍して角速度ωに重ねると、
図3(B)に示すように、惰性回転の期間では電流iが角速度ωに重なる。DCモータ10の電流iの減衰の時定数は、DCモータ10の角速度の減衰の時定数τと等しい。このため、回転角度検出装置100では、DCモータ10の角速度の減衰の時定数τの代わりにDCモータ10の電流iの減衰の時定数τを利用して、電流iから角速度ωを求め、求めた角速度ωに基づいてDCモータ10の惰性回転の期間における回転角度を検出する。すなわち、回転角度検出装置100は、DCモータ10の惰性回転の期間における電流iに基づいて求まる電流iの減衰の時定数τをDCモータ10の惰性回転の期間における角速度の減衰の時定数τとして推定して用いることで、DCモータ10の惰性回転の期間における回転角度を検出する。
【0044】
次に、
図4を用いてDCモータ10の電流iに基づいて角速度ωを検出する方法について説明する。
図4は、DCモータ10が惰性回転を行う期間が長い場合におけるDCモータ10の角速度ωと電流iを示す図である。
図4には
図3(B)における惰性回転の期間を拡大して示す。すなわち、
図4に示す電流iは、
図3(A)における電流iの波形を-K倍した波形で表されている。なお、DCモータ10が惰性回転を行う期間が長い場合とは、DCモータ10に流れる電流が反転してからDCモータ10に流れる電流がゼロになるまでの期間Tattが所定の時間閾値以上である場合である。
【0045】
以下では、
図4に示すように角速度ωの波形と重ねるために-K倍した電流iの波形を用いて電流積分値等を計算する方法について説明するが、実際の計算では電流iを-K倍しなくてよい。このため、計算方法を説明するにあたっては、電流iをそのまま用いて説明する。
【0046】
図4において、時点t0は、DCモータ10を制動する命令が出された時点である。DCモータ10は、時点t0から、惰性回転を始める。時点t0における角速度ω0は、駆動中のDCモータ10の角速度である。角速度ω0は、リップル検出部122から入力されるパルスに基づいて算出可能である。DCモータ10を制動する命令が出されると、最初に、駆動回路20は
図2(B)の接続状態になる。
【0047】
ここでは、DCモータ10が惰性回転を始める時点t0から、DCモータ10の電流iがゼロになる時点tendまでの期間を用いて説明する。電流iがゼロになるときは、DCモータ10の回転が止まるときであると考えられるため、時点tendにおけるDCモータ10の角速度ωendはゼロになると考えられる。
【0048】
時点t1は、電流iの極性が反転する時点である。時点t1は、
図4に示す-K倍した電流-Kiの値が負から正に反転する(極性が反転する)時点であり、実際の電流iの値が正から負に反転する(極性が反転する)時点である。このため、時点t1における電流値i1はゼロである。
【0049】
DCモータ10を制動する命令が出されてから暫くすると、駆動回路20は
図2(C)の接続状態に切り替わる。駆動回路20が
図2(C)の接続状態になると、逆起電力によってDCモータ10が駆動されているときとは逆方向の電流が流れる。時点t1は、逆起電力による逆方向の電流によって電流iの極性が反転する時点である。また、時点t1における角速度ω1は、角速度ω0と等しいものとして取り扱う。DCモータ10を制動する命令が出されてから、逆起電力が発生する時点t1までは、逆起電力が抵抗で消費されることに起因したブレーキが殆どかからない。
【0050】
時点t2は、電流-Kiが最大値を取る(電流iがピーク値を取る)時点である。すなわち、時点t2は、実際の電流iの絶対値がピーク値を取る時点である。さらに換言すれば、時点t2は、実際の電流iが最小値を取る時点である。
図4では、t2で電流iが最大値を示しているが、
図4は、電流の符号を逆にしたグラフの為、時刻t2で電流iが最小値になる。時点t2における電流値i2は、実際の電流iの最小値であり、絶対値のピーク値である。電流iは変動があるため、電流測定部133Aによって測定される電流iが所定範囲に入ったときに、回転角度検出部133Bは電流iの絶対値がピーク値を取ったと判定すればよい。時点t2における角速度ω2は、時点t1における角速度ω1よりも減衰している。逆方向の電流iに起因したブレーキがかかっているからである。
【0051】
時点t3は、時点t2から所定時間ΔTが経過後(所定時間経過後)の時点である。所定時間ΔTは、電流-Kiが最大値を取ってから、電流-Kiの値の振れ幅がある程度落ち着くまでに要すると考えられる時間(期間)である。実際の電流iで言えば、所定時間ΔTは、電流iの絶対値がピーク値を取ってから、電流iの値の振れ幅がある程度落ち着くまでに要すると考えられる時間(期間)である。所定時間ΔTは、一例として、時点t2から、電流iがゼロになる時点tendまでの所要時間の1/10程度である。所定時間ΔTを表すデータは、予めメモリ133Cに格納しておけばよい。
【0052】
前述したように惰性回転の開始から一定期間経過後、電流iが角速度ωと同じ指数カーブで減衰することから式(4)より、時点t3以降における電流iは、時点t3における電流値i3を用いて次式(6)で表すことができる。
【0053】
【0054】
また、
図4における時点t3と、電流iがゼロになる時点tendとの間のある時点をt4とする。また、時点t3から時点t4までの電流iの電流積分値をSi3、時点t4から時点tendまでの電流iの電流積分値をSi4とする。
【0055】
回転角度検出部133Bは、時点t3から時点t4を経て時点tendに至るまでの電流iの電流積分値Si3+Si4と、時点t4から時点tendまでの電流iの電流積分値Si4とを求める。電流積分値Si3+Si4は、第1電流積分値の一例であり、電流積分値Si4は、第2電流積分値の一例である。
【0056】
電流積分値Si3+Si4と電流積分値Si4は、それぞれ次式(7)、(8)で求めることができる。
【0057】
【0058】
【0059】
式(7)及び式(8)によって実現される電流iの積分処理は、フィルタ処理に相当するフィルタ効果を奏するため、電流iに含まれるリップル成分を除去する効果がある。
【0060】
時点t4は、次式(9)で表すことができる。式(9)のKrは、1未満(Kr<1)の調整係数である。
【0061】
【0062】
時点t4は、時点t3と時点tendとの間であれば、どのような時点であってもよいが、後述する電流積分値Si3、Si4を利用した計算の都合上、電流積分値Si4が小さくなりすぎないようにするために時点tendまでにある程度の期間があり、また、電流積分値Si3と電流積分値Si4とが等しくならないように設定されることが好ましい。
【0063】
DCモータ10の電流iの減衰の時定数τは、式(7)及び式(8)より、次式(10)のように求めることができる。DCモータ10の電流iの減衰の時定数τは、DCモータ10の角速度の減衰の時定数と等しいため、DCモータ10の角速度の減衰の時定数の代わりに求められる。
【0064】
【0065】
式(10)における自然対数は、(Si3+Si4)/Si4という割り算処理を含むため、LPF112及びA/Dコンバータ132等の回路に含まれる誤差が相殺される。よって、式(10)を用いれば、電流の測定誤差を低減する効果が得られる。
【0066】
また、DCモータ10の電流iの減衰の時定数τは、式(10)の代わりに、式(7)から直接的に次式(11)のように求めてもよい。
【0067】
【0068】
式(11)を用いて時定数τを計算すると、式(10)を用いて時定数τを計算する場合よりも計算回数が少なく簡単で済むが、電流i3を利用するため、式(10)を用いて計算する時定数τよりもリップル成分や測定誤差の影響を受けやすい。このため、式(10)と式(11)のどちらを用いるかは、回転角度検出装置100の用途等によって決めればよい。
【0069】
時点t0でDCモータ10を制動する命令が出されてから時点t1まで、駆動回路20は
図2(B)の接続状態になる。
図2(B)の状態では、スイッチ21の一端が電気的にどこにも接続されず、DCモータ10の両端が開放される。DCモータ10の両端が開放されている間は、DCモータ10は駆動されている時と、ほぼ同じ速度で回転する。DCモータ10の回転角度を次のように求めることができる。
【0070】
ここでは、電源をオフにする(DCモータ10の駆動を停止する)時点t0から時点tendまでの期間(時間)を期間Tcon、Tattに分けて計算する。期間Tconは、時点t0から時点t1までの期間である。すなわち、Tcon=t1-t0である。期間Tattは、時点t1から時点tendまでの期間である。すなわち、Tatt=tend―t1である。
【0071】
期間Tconでは、DCモータ10のロータに逆起電力によって発生する電流iに起因したブレーキが殆どかからない。このため、期間TconにおけるDCモータ10の角速度ωの平均は、DCモータ10駆動中の角速度ω0と同等であり、DCモータ10は等速回転しているとみなせる。角速度ω0は、DCモータ10が駆動されている最中にリップル検出部122から入力されるパルスに基づいて算出することができる。期間TconにおいてDCモータ10が回転する回転角度θ1は、次式(12)によって求めることができる。
【0072】
【0073】
また、期間Tattでは、駆動回路20が
図2(C)の接続状態になり、DCモータ10の角速度は減衰する。期間Tattの始点である時点t1での角速度ω1は、時点t1の直前までの角速度ω0とほぼ等しい。このため、期間TattにおいてDCモータ10が回転する回転角度θ2は、式(4)より次式(13)によって求めることができる。
【0074】
【0075】
以上より、駆動回路20がDCモータ10を制動命令が出された時点t0から電流iがゼロになる時点tendまでの期間におけるDCモータ10の回転角度θは、期間Tconにおける回転角度θ1と期間Tattにおける回転角度θ2との合計の角度として、次式(14)で求めることができる。
【0076】
【0077】
このように、回転角度検出装置100は、DCモータ10のロータが惰性で回転する時間が長い場合において、DCモータ10が惰性回転を行う期間における回転角度θを求めることができる。次に、DCモータ10のロータが惰性で回転する期間が短い場合における回転角度の算出方法について説明する。
【0078】
<DCモータ10のロータが惰性で回転する期間が短い場合における回転角度の算出方法>
DCモータ10のロータが惰性で回転する期間短い場合は、DCモータ10の温度が低く(例えば、-30℃以下)、DCモータ10に印加される電圧が低い状態等である。このような状態では、DCモータ10に流れる電流が反転してからDCモータ10に流れる電流がゼロになるまでの期間Tattが所定の時間閾値Tthよりも短くなる。回転角度検出部133Bは、期間Tattが所定の時間閾値Tthよりも短い場合には、以下のようにしてDCモータ10の回転角度θを求める。
【0079】
図5は、DCモータ10が惰性回転を行う期間が短い場合におけるDCモータ10の角速度ωと電流iを示す図である。DCモータ10のロータが惰性回転を行う期間が
図5に示すように短い状態では、電流iの極性が反転する時点t1から、DCモータ10の電流iがゼロになる時点tendまでの期間Tattが短くなる。このため、上述の式(14)では、DCモータ10の回転角度θが正確に求められない。期間Tattが短い場合には、DCモータ10の電流iの減衰の時定数τを上述の式(10)に従って求めると、測定値に対して誤差が大きくなり、時定数τを正確に求められない。よって、回転角度θを正確に求められなくなる。
【0080】
ここで、DCモータ10の回転角度θは、
図5に示す角速度ωを積分した値であるため、期間Tattが所定の時間閾値Tthよりも短い場合においても、DCモータ10の回転角度θは、
図5に示す期間Tattにおける角速度ωと横軸とで囲まれた部分の面積Sωになる。
【0081】
ここで、面積Sωは、時間方向の長さが期間Tattで、高さが時点t1における角速度ω1の破線で示す三角形の面積のうちの一部であると捉えることができ、面積Sωに所定係数を乗じることで近似的に求めることができると考えられる。
【0082】
所定係数をCとすると、期間Tattが所定の時間閾値Tthよりも短い場合における、期間TattでのDCモータ10の回転角度θattは、次式(15)で表すことができる。
【0083】
【0084】
ここで、0.5×Cを所定係数として再定義すると、所定係数Cは0.5以下の係数となり、式(15)は次式(16)になる。
【0085】
【0086】
また、時点t0でDCモータ10を制動する命令が出されてから、電流iがゼロになる時点tendまでの期間(Tcon+Tatt)におけるDCモータ10の回転角度θは、期間Tconにおける回転角度θconと期間Tattにおける回転角度θattとの合計の角度として、次式(17)で求めることができる。
【0087】
【0088】
ここで、期間Tattの間におけるDCモータ10の回転角度をθattから所定係数Cを求めると、次式(18)のように表すことができる。
【0089】
【0090】
一例として、DCモータ10の温度を-30℃から0℃(-30℃以上、0℃以下)の範囲内の複数の温度に設定し、DCモータ10の駆動電圧を複数の電圧値に設定する実験によって、所定係数Cの値を求めたところ、式(16)が成り立つことを確認することができた。
【0091】
所定係数Cの値は、一例として0.36であり、DCモータ10の種類、パワーウィンドウ50のウェザーストリップの種類、及び、駆動機構51の種類等によって、0.1≦C≦0.5の値を取りうる。
【0092】
以上より、DCモータ10のロータが惰性で回転する期間が短く、期間Tattが所定の時間閾値Tthよりも短い場合には、式(17)に従ってDCモータ10の回転角度θを求めばよいことが分かった。
【0093】
<フローチャート>
ここで、
図6を用いて、回転角度検出部133Bが回転角度を検出する処理について説明する。
図6は、回転角度検出部133Bが回転角度を検出する処理を表すフローチャートを示す図である。
図6に示す処理は、実施形態の回転角度検出プログラムを処理部133が実行することによって実現される処理であり、実施形態の回転角度検出方法によって実現される処理である。より具体的には、前提として電流測定部133AがDCモータ10の電流iを測定する電流測定処理を実行し、回転角度検出部133Bが以下に示す回転角度検出処理を実行する。
【0094】
回転角度検出部133Bは、DCモータ10を制動する命令が実行されると、
図6の処理をスタートする。回転角度検出部133Bは、図示しない駆動制御部が駆動回路20にDCモータ10を制動する制御指令を出力した時点をt0とすればよい。なお、回転角度検出部133Bは、一例として、A/Dコンバータ131から入力されるDCモータ10の電圧値がゼロ(又はゼロに近い所定値以下)になった場合に、DCモータ10の駆動が停止されたと判定してもよい。また、回転角度検出部133Bは、電流測定部133Aによって測定されるDCモータ10の電流iの極性が反転する時点をt1とすればよい。また、DCモータ10の電流iがゼロになったかどうかは、電流測定部133Aによって測定されるDCモータ10の電流iがゼロになったかどうかで判定すればよい。回転角度検出部133Bは、電流測定部133Aによって測定されるDCモータ10の電流iがゼロになった時点をtendとすればよい。
【0095】
回転角度検出部133Bは、DCモータ10の駆動が停止される直前にリップル検出部122によって変換されたパルスに基づいて、DCモータ10の駆動が停止される直前の角速度ω0を算出する(ステップS1)。
【0096】
回転角度検出部133Bは、時点t0から電流iがゼロになるまで(時点tendまで)、電流測定部133Aによって測定される電流iと時刻(時点)をメモリ133Cに記録する(ステップS2)。具体的な一例として、回転角度検出部133Bは、周期タスク(マイクロコンピュータ130のタイマ等を利用して一定周期毎に起動されるタスク)の動作毎に、時点t0からの経過時間と、その時点の電流値とをペアでメモリ133Cに順次記録する。ステップS2では、電流iの極性が反転する時点t1、電流iがピークになる時点t2も記録される。具体的な一例として、回転角度検出部133Bは、メモリ133Cに記録した経過時間と電流値とのペアデータを時点t0から順次チェックし、電流値がゼロ又は電流値の極性が反転した時点の経過時間をt1としてメモリ133Cに記録する。また、回転角度検出部133Bは、全データの電流値のうち、最小の電流値に対応する経過時間をt2としてメモリ133Cに記録する。
【0097】
回転角度検出部133Bは、DCモータ10の電流iがゼロになったかどうかを判定する(ステップS3)。電流iがゼロになっていなければ、ステップS2で記録を継続する。
【0098】
回転角度検出部133Bは、DCモータ10の電流iがゼロになったら(ステップS3のYes)、期間Tattを算出する(ステップS4)。回転角度検出部133Bは、時点t1から時点tendまでの期間をTattとして算出すればよい。
【0099】
回転角度検出部133Bは、期間Tattが所定の時間閾値Tth未満であるかどうかを判定する(ステップS5)。期間Tattが所定の時間閾値Tth以上である場合には式(14)に基づいて回転角度θを算出し、期間Tattが所定の時間閾値Tth未満である場合には式(17)に基づいて回転角度θを算出することが適切であるため、いずれであるかを判定する。
【0100】
回転角度検出部133Bは、期間Tattが所定の時間閾値Tth未満である(S5:YES)と判定すると、式(17)に基づいて回転角度θを算出する(ステップS6)。
【0101】
<式(17)に基づく回転角度θの算出処理>
回転角度検出部133Bは、ステップS6の処理では、時点t0から時点t1までの期間をTconとして算出するとともに、時点t1から時点tendまでの期間をTattとして算出する。また、回転角度検出部133Bは、後述するステップS1の処理で角速度ω0を算出しておく。そして、回転角度検出部133Bは、角速度ω0、期間Tcon、及び期間Tattを式(17)に代入することで、回転角度θを算出すればよい。
【0102】
一方、回転角度検出部133Bは、ステップS5において、期間Tattが所定の時間閾値Tth未満ではない(S5:NO)と判定すると、ステップS7に進む。
【0103】
回転角度検出部133Bは、式(9)で時点t4を算出するとともに、電流積分値Si3+Si4と電流積分値Si4をそれぞれ次式(7)、(8)に基づいて求める(ステップS7)。なお、時点t3は、時点t2に所定時間ΔTを加算することで求まる。回転角度検出部133Bは、時点t3、時点t4、電流積分値Si3+Si4、電流積分値Si4をメモリ133Cに格納する。
【0104】
回転角度検出部133Bは、式(10)に基づいてDCモータ10の電流iの減衰の時定数τを求める(ステップS8)。また、回転角度検出部133Bは、式(11)を使用して時点数τを求めてもよい。また、回転角度検出部133Bは、式(11)で使用する電流i3は、時点t3のときの電流値をメモリ133Cから電流i3として取り出せばよい。
【0105】
回転角度検出部133Bは、式(14)に基づいて、DCモータ10の電源をオフにした時点t0から電流iがゼロになる時点tendまでの期間におけるDCモータ10の回転角度θを求める(ステップS9)。回転角度検出部133Bは、
図6に示すステップS5において、期間Tattが所定の時間閾値Tth未満ではない(S5:NO)と判定すると、ステップS9で式(14)に基づいて算出した回転角度θを
図6のステップS4Bで算出した結果として出力する。以上で一連の処理が終了する(エンド)。
【0106】
<効果>
以上のように、実施形態の回転角度検出方法は、DCモータ10に流れる電流を測定する電流測定処理と、電流測定処理によって測定される電流値に基づいて、DCモータ10の回転角度θを求める回転角度検出処理とを含む回転角度検出方法である。回転角度検出処理では、DCモータ10の駆動が停止される時点t0の直前のDCモータ10の角速度ω0と、DCモータ10の駆動が停止される時点t0から電流測定処理によって測定される電流値の極性が反転する時点t1までの期間Tconと、電流測定処理によって測定される電流値の極性が反転する時点t1から電流測定処理によって測定される電流値がゼロになる時点tendまでの期間Tattとに基づいて、惰性回転における回転角度θを求める。このため、DCモータ10の温度が低く(例えば、0℃以下)、駆動回路20からDCモータ10に印加される電圧が低くて惰性で回転する時間が短い場合においても、DCモータ10の回転角度を正確に検出できる。
【0107】
したがって、温度変化によるDCモータ10の回転しやすさの変化に起因して惰性回転によるDCモータ10の回転角度が変化する場合でも、DCモータ10の回転角度を正確に検出できる、回転角度検出方法、回転角度プログラム、及び、回転角度検出装置100を提供することができる。また、角速度が最高速度に到達する前に駆動が停止された場合のように、DCモータ10の駆動力が低い場合でも、惰性回転による回転角度θを正確に求めることができる。
【0108】
また、回転角度検出処理では、DCモータ10の駆動が停止される時点t0の直前のDCモータ10の角速度ω0と、DCモータ10の駆動が停止される時点t0から電流測定処理によって測定される電流値の極性が反転する時点t1までの期間Tconとを掛け合わせた値を用いて、惰性回転における回転角度θを求める。このため、DCモータ10の駆動が停止されてから逆方向の電流iに起因したブレーキが殆んど掛からない期間Tconにおいて、概ね同じ角速度ω0で回転していることを利用して、惰性回転期間中の回転角度を正確に求めることができる。
【0109】
また、回転角度検出処理では、DCモータ10の駆動が停止される時点t0の直前のDCモータ10の角速度ω0と、電流測定処理によって測定される電流値の極性が反転する時点t1から電流測定処理によって測定される電流値がゼロになる時点tendまでの期間Tattと、所定の定数C(C≦0.5)とを掛け合わせた値を用いて、惰性回転における回転角度θを求める。このため、温度変化によるDCモータ10の回転しやすさの変化が生じても、変化したDCモータ10の回転しやすさに対応して、DCモータ10の回転角度を正確に検出することができる。
【0110】
回転角度検出処理では、DCモータ10の駆動が停止される時点t0の直前のDCモータ10の角速度ω0と、DCモータ10の駆動が停止される時点t0から電流測定処理によって測定される電流値の極性が反転する時点t1までの期間Tconと、電流測定処理によって測定される電流値の極性が反転する時点t1から電流測定処理によって測定される電流値がゼロになる時点tendまでの期間Tattと、所定の定数C(C≦0.5)とを用いて、次式(19)に従って惰性回転における回転角度θを求める。
【0111】
【0112】
このため、DCモータ10の駆動が停止されてから逆方向の電流iに起因したブレーキが殆んど掛からない期間Tconにおいて、概ね同じ角速度ω0で回転していることを利用して、惰性回転期間中の回転角度を正確に求めることができる。また、温度変化によるDCモータ10の回転しやすさの変化が生じても、変化したDCモータ10の回転しやすさに対応して、DCモータ10の回転角度を正確に検出することができる。
【0113】
回転角度検出処理では、電流測定処理によって測定される電流値の極性が反転する時点t1から電流測定処理によって測定される電流値がゼロになる時点tendまでの期間Tattが所定の時間閾値Tthよりも短い場合に、式(1)に従って惰性回転における回転角度θを求める。このため、DCモータ10の温度が低く(例えば、0℃以下)、かつ、駆動回路20からDCモータ10に印加される電圧が低くて惰性で回転しにくい状態を期間Tattと所定の時間閾値Tthとに基づいて容易に判定可能であり、DCモータ10が惰性で回転しにくい状態においても、DCモータ10の回転角度を正確に検出できる。
【0114】
また、回転角度検出処理では、電流測定処理によって測定される電流値の極性が反転する時点t1から電流測定処理によって測定される電流値がゼロになる時点tendまでの期間Tattが所定の時間閾値Tth以上の場合には、DCモータ10の駆動が停止される時点t0の直前の角速度ω0、DCモータ10の駆動が停止される時点t0から電流測定処理によって測定される電流値の極性が反転する時点t1までの期間Tcon、及び、電流の減衰の時定数τに基づいて、次式(20)に基づいて、DCモータ10の惰性回転における回転角度θを求める。
【0115】
【0116】
このため、DCモータ10が惰性で回転する時間が長い場合において、角速度ωの減衰の時定数τの代わりに利用可能な電流iの減衰の時定数τを用いて、DCモータ10の惰性回転における回転角度を求めることができる。
【0117】
また、回転角度検出処理は、DCモータ10に印加される電圧を測定する電圧測定処理と、DCモータ10に流れる電流のリップルを検出するリップル検出処理とを有し、回転角度検出処理では、DCモータ10に駆動電圧が印加されている間は、リップル検出処理で検出されたリップル数に基づいてDCモータ10の回転角度θを算出するとともに、電流測定処理によって測定される電流値と、電圧測定処理によって測定される電圧値とに基づいてリップル数を補正する。このため、DCモータ10に駆動電圧が印加されている間に、リップル数を補正して、DCモータ10の回転における回転角度を正確に求めることができる。
【0118】
また、DCモータ10のロータが惰性で回転する時間が長い場合において、DCモータ10が惰性回転を行う期間における回転角度θを非常に簡単に求めることができる。また、時定数τは、式(10)によって惰性回転の期間にリアルタイムで求めることができるため、従来手法におけるパラメータ誤差の問題や、角度累積誤差の問題を解消することができ、非常に高い精度で回転角度を検出することができる。また、例えば、パワーウィンドウ50を含むシステムにおける回転角度の精度を大きく向上させることができ、個体差、環境変化、経年変化への対応能力を大幅に改善することができる。したがって、DCモータ10が惰性回転を行っているときに高精度にDCモータ10の回転角度を求めることができる回転角度検出方法、回転角度検出プログラム、及び、回転角度検出装置100を提供することができる。
【0119】
回転角度検出装置100は、DCモータ10の惰性回転の期間における電流に基づいて電流iの減衰の時定数τを求め、求めた時定数τをDCモータ10の惰性回転の期間における角速度の減衰の時定数τとして推定して、DCモータ10の回転角度を求めるので、電流iに基づいて簡単にDCモータ10の回転角度検出することができる。
【0120】
また、回転角度検出装置100が検出する回転角度θに基づいてパワーウィンドウ50の開閉量を算出することができる。例えば、パワーウィンドウ50を全開と全閉との間の位置で止めた場合に、パワーウィンドウ50の開閉量を高精度に求めることができる。パワーウィンドウ50は、挟み込み防止機構を備えることが義務づけられており、パワーウィンドウ50を全開と全閉との間の位置で止めてから次に開閉させる際には、パワーウィンドウ50が止まっていた位置を正確に検出する必要がある。
【0121】
また、回転角度検出装置100は、ホールIC等の高額な装置を用いてパワーウィンドウ50の開閉量を検出することなく、DCモータ10の回転角度を非常に高精度に検出できるため、製造コストを大幅に低減することができる。
【0122】
また、時点t3、時点t4、時点tend、電流積分値Si3+Si4、及び、電流積分値Si4に基づいて電流iの減衰の時定数τが求められる。よって、電流iの時間的な変化に基づいて、角速度ωの減衰の時定数τの代わりに利用可能な電流iの減衰の時定数τを簡単に求めることができる。また、電流積分値を求めるための積分処理はフィルタ処理に相当するため、電流iに含まれるリップル成分を除去できる効果があり、DCモータ10の回転角度を非常に高精度に検出することができる。
【0123】
また、式(10)に基づいて電流iの減衰の時定数τを求めることができるので、処理部133が実行するプログラムに式(10)を組み込むことによって、角速度ωの減衰の時定数τの代わりに利用可能な電流iの減衰の時定数τを簡単に求めることができる。また、積分処理のフィルタ効果を利用して、処理部133が実行するプログラムに従って電流iに含まれるリップル成分を除去して、DCモータ10の回転角度を非常に高精度に検出することができる。また、式(10)における自然対数は電流積分値の割り算処理を含むため、抵抗器15、LPF112及びA/Dコンバータ132等の回路に含まれる誤差が相殺される。よって、DCモータ10の回転角度を非常に高精度に検出することができる。
【0124】
また、時点t3と、時点t3から時点tendまでに電流測定部133Aによって測定される電流値の電流積分値Si3+Si4とに基づいて、電流iの減衰の時定数τを求めるので、角速度ωの減衰の時定数τの代わりに利用可能な電流iの減衰の時定数τを少ない計算回数でより簡単に求めることができる。また、電流積分値を求めるための積分処理はフィルタ処理に相当するため、電流iに含まれるリップル成分を除去できる効果があり、DCモータ10の回転角度を高精度に検出することができる。
【0125】
また、式(11)に基づいて、電流iの減衰の時定数τを求めることができるので、処理部133が実行するプログラムに式(11)を組み込むことによって、角速度ωの減衰の時定数τの代わりに利用可能な電流iの減衰の時定数τを簡単に求めることができる。
【0126】
また、DCモータ10の駆動が停止される時点t0の直前の角速度ω0、時点t1、及び、DCモータ10の電流iの減衰の時定数τに基づいてDCモータ10の惰性回転における回転角度を求めるので、角速度ωの減衰の時定数τの代わりに利用可能な電流iの減衰の時定数τを用いて、DCモータ10の惰性回転における回転角度を求めることができる。
【0127】
また、式(14)に基づいて、DCモータ10の惰性回転における回転角度を求めるので、処理部133が実行するプログラムに式(14)を組み込むことによって、角速度ωの減衰の時定数τの代わりに利用可能な電流iの減衰の時定数τを用いて、DCモータ10の惰性回転における回転角度を求めることができる。
【0128】
以上、本開示の例示的な実施形態の回転角度検出方法、回転角度検出プログラム、及び、回転角度検出装置、について説明したが、本開示は、具体的に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0129】
10 DCモータ
11、12 端子
15 抵抗器
20 駆動回路
30 直流電源
50 パワーウィンドウ
51 駆動機構
100 回転角度検出装置
110 フィルタ回路
111、112 LPF
120 ICチップ
121 BPF
122 リップル検出部
130 マイクロコンピュータ
131、132 A/Dコンバータ
133 処理部
133A 電流測定部
133B 回転角度検出部
133C メモリ