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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176748
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】フロンの処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/70 20060101AFI20231206BHJP
   A62D 3/37 20070101ALI20231206BHJP
   A62D 3/20 20070101ALI20231206BHJP
【FI】
B01D53/70
A62D3/37
A62D3/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089187
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】岡野 浩二
(72)【発明者】
【氏名】岡嶌 健吾
【テーマコード(参考)】
4D002
【Fターム(参考)】
4D002AA22
4D002AA25
4D002BA02
4D002BA06
4D002BA12
4D002BA20
4D002DA02
4D002DA03
4D002DA05
4D002DA12
4D002DA35
4D002EA05
4D002FA10
4D002GA01
4D002GB11
(57)【要約】
【課題】本発明は効率よくヨードフルオロカーボンをフッ化水素及び炭酸ガスへと分解処理する方法を提供する。
【解決手段】式I-(CF2n-I(式中、nは2から12の整数である)で表されるヨードフルオロカーボンの処理方法であって、
前記ヨードフルオロカーボンを塩基の存在下、アルコール類と反応させることで対応のハイドロフルオロカーボンに還元し;
得られる反応液に水を添加することで水性層と、前記ハイドロフルオロカーボンを含有する有機層とに分離させ;次いで
前記有機層を、当該ハイドロフルオロカーボンのフッ化水素及び炭酸ガスに至る分解処理にかける;
ことを含む方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I-(CF2n-I(式中、nは2から12の整数である)で表されるヨードフルオロカーボンの処理方法であって、
前記ヨードフルオロカーボンを塩基の存在下、アルコール類と反応させることで対応のハイドロフルオロカーボンに還元し;
得られる反応液に水を添加することで水性層と、前記ハイドロフルオロカーボンを含有する有機層とに分離させ;次いで
前記有機層を、当該ハイドロフルオロカーボンのフッ化水素及び炭酸ガスに至る分解処理にかける;
ことを含む方法。
【請求項2】
前記アルコール類がメタノール及びイソプロピルアルコールの混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有機層を過熱蒸気分解処理にかけることで前記ハイドロフルオロカーボンをフッ化水素及び炭酸ガスにまで分解する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記過熱蒸気分解処理を880℃以上の温度で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
生成されたフッ化水素及び/又は炭酸ガスを中和する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロンの処理方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
フロンの一種である、ヨードフルオロカーボンは他のフロンと同様にオゾン層の破壊原因とされ、適正に廃棄処理する必要がある。フロンを分解し、フッ化水素や無害のフッ素とする技術は既存技術として存在する。例えば、燃焼熱分解法、触媒分解法、化学分解法、水を超臨界状態にしてフロンを反応させ、フロンを破壊する、といった方法がある。更にはフロンを分離し、分離されたフロンを破壊処理する方法と含有フロンの混合材と共に破壊処理する方法があるが、後者の場合の処理手段のほとんどは、燃焼熱分解法であり、その処理設備のほとんどは、焼成炉又は電気炉によるものである。しかしながら、ヨウ素やヨウ化物が共存すると炉が損傷されるといった課題があった。そこで、焼成炉や電気炉の損傷がない、効率的な処理方法の開発が望まれていた。
【0003】
本発明は焼成炉や電気炉の損傷がなく、効率よく、ヨードフルオロカーボンをヨウ素、ヨウ化物、フッ化水素及び炭酸ガスへと分解処理する方法を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7ー223981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者はヨードフルオロカーボンの廃棄処理の際、先ずヨードフルオロカーボンをヨウ化物とハイドロフルオロカーボンとに分離し、引き続き生成される液状のハイドロフルオロカーボンを効率よくフッ化水素及び炭酸ガスへと分解できる方法を見出した。したがって、本発明は以下のヨードフルオロカーボンの処理方法を提供する。
【0006】
1.式I-(CF2n-I(式中、nは2から12の整数である)で表されるヨードフルオロカーボンの処理方法であって、
前記ヨードフルオロカーボンを塩基の存在下、アルコール類と反応させることで対応のハイドロフルオロカーボンに還元し;
得られる反応液に水を添加することで水性層と、前記ハイドロフルオロカーボンを含有する有機層とに分離させ;次いで
前記有機層を、当該ハイドロフルオロカーボンのフッ化水素及び炭酸ガスに至る分解処理にかける;
ことを含む方法。
2.前記アルコール類がメタノール及びイソプロピルアルコールの混合物である、1に記載の方法。
3.前記有機層を過熱蒸気分解処理にかけることで前記ハイドロフルオロカーボンをフッ化水素及び炭酸ガスにまで分解する、1又は2に記載の方法。
4.前記過熱蒸気分解処理を880℃以上の温度で行う、1~3のいずれかに記載の方法。
5.生成されたフッ化水素及び/又は炭酸ガスを中和する工程をさらに含む、1~4のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、効率よくヨードフルオロカーボンをヨウ化物、ヨウ素、フッ化水素及び炭酸ガスへと分解処理できるといった効果が奏される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、ヨードフルオロカーボンの処理方法を提供する。好ましくは、ヨードフルオロカーボンは固体状であり、次式で表される:
I-(CF2n-I
(式中、nは2から12の整数、好ましくは6~10の整数である)。
【0009】
1)還元反応
ヨードフルオロカーボンは炭素数が単独のものでも、あるいは炭素数が様々な混合物、例えば、I-(CF26-IとI-(CF28-IとI-(CF210-Iの混合物などであってよい。ヨードフルオロカーボンの対応のハイドロフルオロカーボンへの還元は、例えば反応槽の中で固体状のヨードフルオロカーボンを好ましくはアルコール類に溶解し、アルカリ剤、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等といった塩基と反応させることで行われる。ヨードフルオロカーボンをアルコール類に溶解する際、アルコール類に対するヨードフルオロカーボンが好ましくは、10~60重量%、より好ましくは30~50重量%である。ヨードフルオロカーボン1molに対し使用する塩基の水性溶液の量は特に限定されるものではないが、例えば1mol以上、20mol以下の範囲が好ましく、1mol以上、10mol以下の範囲がさらに好ましく、1mol以上、5mol以下の範囲がより好ましい。
【0010】
I-(CF2n-Iを還元することで得られる対応のハイドロフルオロカーボンは、以下の式で表される:
H-(CF2n-H
(式中、nは「I-(CF2n-I」のnに対応する)。
【0011】
還元反応は、ヨードフルオロカーボンをアルコール類に溶解させ、塩基の水溶液と接触させることで行う。
アルコール類としてメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これらのアルコール類は単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。好ましくは、メタノールとイソプロピルアルコールとの混合物、例えば重量比でメタノール:イソプロピルアルコールが1:1~20:1、好ましくは5:1~10:1の混合物が使用される。
【0012】
アルコール類の添加量は、特に限定されるものではないが、還元するヨードフルオロカーボン1molに対し、1mol以上、100mol以下の範囲が好ましく、1mol以上、50mol以下の範囲がさらに好ましく、1mol以上、10mol以下の範囲がより好ましい。アルコール類の添加は還元反応が徐々に進行するよう時間をかけて滴下することが好ましい。例えばヨードフルオロカーボンの溶解液が20Lの場合、アルコール類は20~200分、好ましくは50~100分かけてゆっくりと滴下してよい。滴下温度はアルコール類を室温からその沸点よりも若干低い温度まで加熱させて行ってよい。例えばメタノールとイソプロピルアルコールとの混合物を使用する場合、50~55度℃の温度にて滴下できる。(メタノール及びイソプロピルアルコールの沸点はそれぞれ64.7℃及び82.5℃)。
【0013】
還元反応は、アルコール類の添加終了後、溶液を適宜攪拌することで行ってよい。好ましくは使用するアルコール類の沸点よりも若干低い温度にて数時間から数日、例えば10時間~3日間かけて行ってよい。
【0014】
2)水性層と有機層への分離
ハイドロフルオロカーボンへの還元後、当該溶液に水などの水性溶液を添加し、静置させることで有機層と水性層とに分離させる。ハイドロフルオロカーボンは有機層に含まる。水性層は塩基のヨウ化物、例えば塩基として水酸化カリウムを使用した場合、ヨウ素カリウムを含むことになる。
【0015】
3)ハイドロフルオロカーボンのフッ化水素及び炭酸ガスへの分解
上記有機層を加熱処理することでハイドロフルオロカーボンをフッ化水素と炭酸ガスへと分解することができる。加熱処理は好ましくは過熱蒸気分解装置を用いて処理を行う。過熱蒸気分解処理を行う場合、特に好ましい温度は800℃以上、1200℃以下、例えば880~1000℃であり、有機層溶液の処理流量速度は例えば1~10kg/Hr程度、好ましくは2~6kg/Hr程度であってよく、水蒸気流量速度は例えば1.0~10.0kg/Hr程度、好ましくは2~5kg/Hr程度であってよく、Airの流量速度は例えば1~30Nm3/Hr程度、好ましくは5~25Nm3/Hr程度であってよい。生成されたフッ化水素や炭酸ガスは、必要であれば例えば消石灰で中和処理してよい。
【0016】
本発明によれば、効率よくヨードフルオロカーボンをフッ化水素及び炭酸ガスへと分解処理できる。
【0017】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0018】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例0019】
<実施例1>
ヨードフルオロカーボンのハイドロフルオロカーボンへの還元
I-(CF26-IからI-(CF212-Iの混合物であるヨードフルオロカーボン17.9kgを、メタノール18.0kgとイソプロピルアルコール1.7kgの混合溶液に溶解させた。一方、65Lのフッ素樹脂ライニング反応槽に48%の水酸化カリウム水溶液14.8kgを仕込んでおき、この反応槽に、ヨードフルオロカーボンの溶解液を100分かけて、温度50~55℃にて滴下した。
【0020】
水酸化カリウム存在下でのヨードフルオロカーボンとメタノールとイソプロピルアルコールの混合物の反応式は以下の通り:
【化1】
【0021】
上記反応液を温度60~63℃で21時間攪拌して還元反応行った。この反応により、最終的にヨードフルオロカーボンの約98.5%がハイドロフルオロカーボンに還元された。この反応液を200Lのケミドラムに移し、純水を17.9kg添加し、攪拌後、静置させることで水性層と有機層に分離させた。ハイドロフルオロカーボンは有機層に含まれ、ヨウ素カリウムは水性層に含まれる。
【0022】
<実施例2>
ハイドロフルオロカーボンのフッ化水素及び炭酸ガスへの分解
下記表1に示す通りの組成を有するハイドロフルオロカーボンを含む有機層を表2に示す条件下で、過熱水蒸気分解処理にかけた。CD6HはH-(CF26-H、CD8HはH-(CF28-Hを表す。有機層はGCーMSにて分析して同定、定量した。その結果は表2に示すとおりである。
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
評価試験手順は以下の通り。
過熱蒸気分解槽は、内径125mmφ、長さ1,500mmの金属製円筒容器であり、この入口からハイドロフルオロカーボンを含む有機層を予め気化させて供給し、同時に水蒸気と純水の所定量を供給した。分解槽からの処理ガスの一部を10分毎にサンプリングし、ガス中のC6DH、C8DH及びCO濃度を測定し、定常状態であることを確認した。
【0025】
表2に示す通り、ハイドロフルオロカーボンはほぼ100%、フッ化水素と炭酸ガスに分解された。反応式を以下に示す。
【化2】
【0026】
以上より、C8DHを主成分とするハイドロフルオロカーボン液は過熱蒸気分解装置で分解可能であることがわかった。