IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士電機株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人九州大学の特許一覧

特開2023-176749炭化珪素半導体装置及び炭化珪素半導体装置の製造方法
<>
  • 特開-炭化珪素半導体装置及び炭化珪素半導体装置の製造方法 図1
  • 特開-炭化珪素半導体装置及び炭化珪素半導体装置の製造方法 図2
  • 特開-炭化珪素半導体装置及び炭化珪素半導体装置の製造方法 図3
  • 特開-炭化珪素半導体装置及び炭化珪素半導体装置の製造方法 図4
  • 特開-炭化珪素半導体装置及び炭化珪素半導体装置の製造方法 図5
  • 特開-炭化珪素半導体装置及び炭化珪素半導体装置の製造方法 図6
  • 特開-炭化珪素半導体装置及び炭化珪素半導体装置の製造方法 図7
  • 特開-炭化珪素半導体装置及び炭化珪素半導体装置の製造方法 図8
  • 特開-炭化珪素半導体装置及び炭化珪素半導体装置の製造方法 図9
  • 特開-炭化珪素半導体装置及び炭化珪素半導体装置の製造方法 図10
  • 特開-炭化珪素半導体装置及び炭化珪素半導体装置の製造方法 図11
  • 特開-炭化珪素半導体装置及び炭化珪素半導体装置の製造方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176749
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置及び炭化珪素半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20231206BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20231206BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20231206BHJP
   H01L 29/739 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
H01L29/78 652K
H01L29/78 652T
H01L29/78 653A
H01L29/78 658E
H01L29/78 658G
H01L29/78 658F
H01L29/78 655A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089192
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 豊
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健志
(72)【発明者】
【氏名】辻 英徳
(72)【発明者】
【氏名】田中 悟
(57)【要約】
【課題】トレンチ内壁の清浄化ができ、移動度の向上が可能なSiC半導体装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】n型のドリフト領域2と、ドリフト領域2上に配置されたp型のベース領域3と、ベース領域3の上部に選択的に埋め込まれ、ドリフト領域2よりも高不純物密度のn型の主電極領域4と、主電極領域4からベース領域3を貫通してドリフト領域2に達するトレンチ5と、トレンチ5の内側に設けられた絶縁ゲート構造(6,7)と、を備える。トレンチ5の内壁面が、トレンチ5の深さ方向の第1段差で規定される第1テラスと深さ方向に交差する方向の第2段差で規定される第2テラスとを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型のドリフト領域と、
前記ドリフト領域上に配置された第2導電型のベース領域と、
前記ベース領域の上部に選択的に埋め込まれ、前記ドリフト領域よりも高不純物密度の第1導電型の主電極領域と、
前記主電極領域から前記ベース領域を貫通して前記ドリフト領域に達するトレンチと、
前記トレンチの内側に設けられた絶縁ゲート構造と
を備え、
前記トレンチの内壁面が、前記トレンチの深さ方向の第1段差で規定される第1テラスと前記深さ方向に交差する方向の第2段差で規定される第2テラスとを有することを特徴とする炭化珪素半導体装置。
【請求項2】
前記第1テラス及び第2テラスそれぞれの幅が、10nm以上、500nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項3】
前記第1段差及び第2段差それぞれの深さが、0.5nm以上、10nm以下であることを特徴とする請求項2に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項4】
前記主電極領域の上面が<0001>方向に対して<11-20>方向にオフ角を有する面であり、前記トレンチの前記側壁面の面方位が(11-20)面又は(1-100)面であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項5】
前記側壁面の面方位が(11-20)面であり、前記深さ方向が<0001>方向で、前記交差する方向が<1-100>方向であることを特徴とする請求項4に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項6】
第1導電型のドリフト領域の上面に第2導電型のベース領域を形成する工程と、
前記ベース領域の上部に、前記ドリフト領域よりも高不純物密度の第1導電型の主電極領域を形成する工程と、
前記主電極領域の上面から前記ベース領域を貫通して前記ドリフト領域に達するトレンチを形成する工程と、
圧力が67Pa以上4000Pa以下の水素含有雰囲気中で加熱して前記トレンチの内壁面を水素エッチングする工程と、
前記トレンチの内側にゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記ゲート絶縁膜の上に、前記ベース領域の表面ポテンシャルを制御するゲート電極を形成する工程と
を含むことを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記水素エッチングする工程は、1300℃以上1600℃以下の温度で加熱することを特徴とする請求項6に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記水素エッチングする工程における水素含有雰囲気には、3%以上100%以下の水素が含まれることを特徴とする、請求項6又は7に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記水素含有雰囲気中に酸化性ガスを0.5ppm以上50ppm以下の濃度で添加することを特徴とする請求項8に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素(SiC)半導体装置及びその製造方法に関し、特にトレンチゲート型のSiC半導体装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SiCを用いたトレンチゲート型のMOS電界効果トランジスタ(FET)では、一般的にRIEによりトレンチを掘り、トレンチ形状ラウンド化処理、犠牲酸化層形成・除去、または等方プラズマエッチング処理を行い、ゲート酸化膜形成を行う。しかし、これらの工程を経た後、MOSFETのチャネルを形成するトレンチ側壁面の表面はSiCの酸化による表面析出炭素、あるいはプラズマエッチングタメージの影響が残っており、ゲート酸化膜/SiC界面の界面準位や表面ラスネスに起因するキャリア散乱のため電界効果移動度が低下してしまうという問題がある。
【0003】
特許文献1には、水素アニールを行った後に窒素添加アニールを行ってトレンチ側壁面のテラス部の算術平均粗さを、0.1nm以下として界面ラフネス散乱を低減することが記載されている。特許文献1では、トレンチ形成後の水素アニールは40000Paと高い圧力で行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021‐44355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、トレンチ内壁の清浄化ができ、移動度の向上が可能なSiC半導体装置及びSiC半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、(a)第1導電型のドリフト領域と、(b)ドリフト領域上に配置された第2導電型のベース領域と、(c)ベース領域の上部に選択的に埋め込まれ、ドリフト領域よりも高不純物密度の第1導電型の主電極領域と、(d)主電極領域からベース領域を貫通してドリフト領域に達するトレンチと、(e)トレンチの内側に設けられた絶縁ゲート構造とを備え、トレンチの内壁面が、トレンチの深さ方向の第1段差で規定される第1テラスと深さ方向に交差する方向の第2段差で規定される第2テラスとを有するSiC半導体装置であることを要旨とする。
【0007】
本発明の他の態様は、(a)第1導電型のドリフト領域の上面に第2導電型のベース領域を形成する工程と、(b)ベース領域の上部に、ドリフト領域よりも高不純物密度の第1導電型の主電極領域を形成する工程と、(c)主電極領域の上面からベース領域を貫通してドリフト領域に達するトレンチを形成する工程と、(d)圧力が67Pa(0.5Torr)以上4000Pa(30Torr)以下の水素含有雰囲気中で加熱してトレンチの内壁面を水素エッチングする工程と、(e)トレンチの内側にゲート絶縁膜を形成する工程と、(f)ゲート絶縁膜の上に、チャネル形成領域の表面ポテンシャルを制御するゲート電極を形成する工程とを含むSiC半導体装置の製造方法であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、トレンチ内壁の清浄化ができ、移動度の向上が可能なSiC半導体装置及びSiC半導体装置の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係るSiC半導体装置の一例を示す断面概略図である。
図2】実施形態に係るSiC半導体装置の製造方法の工程の一例を説明するための断面概略図である。
図3】実施形態に係るSiC半導体装置の製造方法の工程の一例を説明するための図2に引き続く断面概略図である。
図4】実施形態に係るSiC半導体装置の製造方法の工程の一例を説明するための図3に引き続く断面概略図である。
図5】実施形態に係るSiC半導体装置の製造方法の工程の一例を説明するための図4に引き続く断面概略図である。
図6】実施形態に係るSiC半導体装置の製造方法の工程の一例を説明するための図5に引き続く断面概略図である。
図7】実施形態に係るSiC半導体装置の製造方法の工程の一例を説明するための図6に引き続く断面概略図である。
図8】SiC半導体装置のトレンチ側壁の一例を示す断面概略図である。
図9】実施例によるトレンチ内壁面のAFM像の一例を示す図である。
図10】比較例によるトレンチ内壁面のAFM像の一例を示す図である。
図11】比較例によるトレンチ内壁面のAFM像の他の例を示す図である。
図12】実施形態に係るSiC半導体装置の移動度の評価結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付し、重複する説明を省略する。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は実際のものとは異なる場合がある。また、図面相互間においても寸法の関係や比率が異なる部分が含まれ得る。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。
【0011】
本明細書においてMISトランジスタのソース領域は絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)のエミッタ領域として選択可能な「一方の主領域(第1主領域)」である。又、MIS制御静電誘導サイリスタ(SIサイリスタ)等のサイリスタにおいては、一方の主領域はカソード領域として選択可能である。MISトランジスタのドレイン領域は、IGBTにおいてはコレクタ領域を、サイリスタにおいてはアノード領域として選択可能な半導体装置の「他方の主領域(第2主領域)」である。本明細書において単に「主領域」と言うときは、当業者の技術常識から妥当な第1主領域又は第2主領域のいずれかを意味する。
【0012】
また、以下の説明における上下等の方向の定義は、単に説明の便宜上の定義であって、本発明の技術的思想を限定するものではない。例えば、対象を90°回転して観察すれば上下は左右に変換して読まれ、180°回転して観察すれば上下は反転して読まれることは勿論である。また以下の説明では、第1導電型がn型、これと反対となる第2導電型がp型の場合について例示的に説明する。しかし、導電型を逆の関係に選択して、第1導電型をp型、第2導電型をn型としても構わない。またnやpに付す+や-は、+及び-が付記されていない半導体領域に比して、それぞれ相対的に不純物密度が高い又は低い半導体領域であることを意味する。ただし同じnとnとが付された半導体領域であっても、それぞれの半導体領域の不純物密度が厳密に同じであることを意味するものではない。また、本明細書では、ミラー指数の表記において、“-”はその直後の指数につくバーを意味しており、指数の前に“-”を付けることで負の指数をあらわしている。
【0013】
(SiC半導体装置の構造)
本発明の実施形態に係るSiC半導体装置は、図1に示すように、第1導電型(n型)のドリフト領域2と、ドリフト領域2の上面側に配置された第2導電型(p型)のベース領域3を備えるトレンチゲート型のMOSFETである。ドリフト領域2の下面側にはドリフト領域2よりも高不純物密度のn型のドレイン領域(第1主領域)1が設けられている。ベース領域3の上部にはドリフト領域2よりも高不純物密度のn型の第2主領域(ソース領域)4が設けられている。ソース領域4の上面には、表面電極(ソース電極)8が設けられる。ドレイン領域1の下面には、裏面電極(ドレイン電極)9が設けられる。
【0014】
ソース電極8及びドレイン電極9は、それぞれソース領域4及びドレイン領域1にオーミック接続されている。ソース電極8及びドレイン電極9は、例えば、Alからなる単層膜や、ニッケルシリサイド(NiSix)、窒化チタン(TiN)、Alの順で積層された金属膜が使用可能である。なお、図示は省略したが、ソース電極8とベース領域3とを電気的に接続するp型のベースコンタクト領域がソース領域4に隣接して配置されてもよい。
【0015】
ソース領域4の上面から深さ方向にベース領域3を貫通して底部がドリフト領域2に達するトレンチ5が設けられている。トレンチ5の内側に、絶縁ゲート構造(6,7)が設けられる。絶縁ゲート構造(6,7)は、トレンチ5の底面及び側面に設けられたゲート絶縁膜6、及びトレンチ5内にゲート絶縁膜6を介して埋め込まれたゲート電極(制御電極)7を有する。
【0016】
本発明の実施形態においては、ドレイン領域1はSiCからなる半導体基板(SiC基板)で構成され、ドリフト領域2及びベース領域3はSiCからなるエピタキシャル層(SiC層)で構成されるものとする。SiC結晶には結晶多形が存在し、主なものは立方晶の3C、及び六方晶の4H、6H及び立方晶である。室温における禁制帯幅は3C-SiCでは2.23eV、4H-SiCでは3.26eV、6H-SiCでは3.02eVの値が報告されている。本発明の実施形態では、4H-SiCを用いて説明する。
【0017】
実施形態に係るSiC半導体装置では、ドレイン領域1の上面が(0001)面(Si面)又は(000-1)面(C面)であり、<0001>(c軸)方向に対して<11-20>(a軸)方向に1°~8°程度、例えば4°のオフ角θを有する。オフ角θは、(0001)面(Si面)又は(000-1)面(C面)であるc軸に垂直な面(基底面)と、ドレイン領域1の上面とがなす角度である。またドレイン領域1の上面としてSi面、チャネルとなるトレンチ5の側面としては(1-100)m面を用いて説明する。なお、ドレイン領域1の上面をC面としてもよく、トレンチ5の側面を(11-20)a面としてもよい。
【0018】
ゲート絶縁膜6としては、シリコン酸化膜(SiO膜)の他、シリコン酸窒化(SiON)膜、SiO膜より比誘電率の大きな単層膜或いはこれらの複数を積層した複合膜等が採用可能である。具体的には、ストロンチウム酸化物(SrO)膜、シリコン窒化物(Si)膜、アルミニウム酸化物(Al)膜、マグネシウム酸化物(MgO)膜、イットリウム酸化物(Y)膜等が採用可能である。他にもハフニウム酸化物(HfO)膜、ジルコニウム酸化物(ZrO2)膜、タンタル酸化物(Ta)膜、ビスマス酸化物(Bi)膜等が採用可能である。ゲート電極7の材料としては、例えば燐(P)や硼素(B)等の不純物を高濃度に添加したポリシリコン層(ドープドポリシリコン層)が使用可能である。
【0019】
図1に示すように、実施形態に係るSiC半導体装置では、ゲート電極7に電圧を印加してゲート絶縁膜6とベース領域3との界面にチャネルとなる反転層を形成する。このとき、ソース電極8とドレイン電極9間に電圧を印加することで、ソース領域4からキャリア(電子)がチャネルに注入される。注入されたキャリアは、ドリフト領域2を走行してドレイン領域1に流れ込む。
【0020】
実施の形態に係る半導体装置では、後述するように、水素含有雰囲気中、低圧力、高温で内壁面を水素エッチング処理したトレンチ5を用いている。低圧力、高温で水素エッチング処理を行うことにより、トレンチ5内壁のダメージ層や炭素析出物を除去して清浄化することができ、チャネルを走行する電子の散乱を低減することが可能となる。
【0021】
(SiC半導体装置の製造方法)
次に、図2図7に示す工程図を用いて、実施形態に係るトレンチゲート型のSiC半導体装置の製造方法を説明する。なお、以下に述べるMOSFETの製造方法は一例であり、特許請求の範囲に記載した趣旨の範囲であれば、この変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により実現可能であることは勿論である。
【0022】
まず、窒素(N)等のn型不純物が添加されたn型の4H-SiC基板(基板)1sを用意する。基板1sは、上面がオフ角を有するSi面であり、c軸に対してa軸方向に0°以上、8°以下の範囲、例えば4°程度傾斜した基板である。基板1sの上面に、N等のn型不純物が添加されたn型のドリフト領域2をエピタキシャル成長させる。引き続き、ドリフト領域2の上面に、アルミニウム(Al)等のp型不純物が添加されたベース領域3をエピタキシャル成長させる。ベース領域3の上部に、多段イオン注入技術等を用いて燐(P)等のn型不純物を注入する。熱処理を行うことにより注入されたn型不純物イオンを活性化させ、図2に示すように、ベース領域3の上部にn+型のソース領域4を形成する。p型のベースコンタクト領域を設ける場合、熱処理前にアルミニウム(Al)等のp型不純物をイオン注入してp型のベースコンタクト領域を形成する。
【0023】
次に、ソース領域4の上面に、化学気相成長法(CVD法)等により、SiO等の酸化膜を成膜する。成膜した酸化膜の上面にフォトレジスト膜を塗布し、フォトリソグラフィ技術等を用いてフォトレジスト膜をパターニングする。パターニングされたフォトレジスト膜には、平面視で、基板1sの上面がオフ角で傾斜する方向である<11-20>方向に延伸する開口部が形成される。パターニングされたフォトレジスト膜をエッチングマスクとして、トリフルオロメタン(CHF3)/四フッ化メタン(CF4)/アルゴン(Ar)混合ガスを用いたドライエッチング技術により酸化膜をパターニングする。その後、パターニングされた酸化膜をエッチングマスクとして、六フッ化硫黄(SF6)/酸素(O2)/Ar混合ガスを用いた誘導結合型反応性イオンエッチング(ICP-RIE)等のドライエッチング技術により、図3に示すように、ソース領域4及びベース領域3を貫通してドリフト領域2に達するトレンチ5sが選択的に形成される。トレンチ5sは、平面視ではa軸方向に延伸するが、ウェハの方位合せ誤差として延伸方向はa軸方向から±5°程度の誤差を含む。
【0024】
エッチングマスクとして用いた酸化膜をフッ酸(HF)等によりウェットエッチングして除去する。その後、水素(H2)含有ガス雰囲気中、67Pa以上4000Paの圧力、1300℃以上1600℃以下の温度で水素エッチング処理を行う。この低圧水素エッチング処理により、図4に示すように、ソース領域4の上面と、トレンチ5sの側壁及び底面との表面層が清浄化され、トレンチ5が形成される。水素含有ガス雰囲気は、水素(H2)が3%以上100%以下の範囲で、Ar、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)等の希ガスが含有される。水素含有ガスは、低圧水素エッチング装置の排気能力に依るが、100sccm以上の流量であることが望ましい。
【0025】
次に、図5に示すように、減圧(LP)熱化学気相成長法(CVD)等により、トレンチ5の内面及びソース領域4の上面に高温シリコン酸化(HTO)膜等の絶縁膜6sを堆積する。LP熱CVDは、例えば、シラン(SiH)及び酸素(O)の混合ガスを用いて、0.2Pa程度の圧力で600℃程度の温度の堆積条件を採用可能である。引き続き、窒素(N2)ガスに一酸化窒素(NO)ガスを10%程度添加した大気圧のガス雰囲気中、1150℃以上1300℃以下の温度で窒化処理を行う。なお、窒化処理には、NOに代えて亜酸化窒素(N2O)ガスを用いてもよい。窒化処理により、HTO膜とSiCとの界面でのC原子が抜けた空格子点に置換原子のNが置換した終端層が形成される。
【0026】
窒化処理後、LP‐CVD法等により、絶縁膜6sの上面にP等の不純物を高濃度で添加したドープドポリシリコン層を堆積する。フォトリソグラフィ技術及びドライエッチング技術等により、図6に示すように、ドープドポリシリコン層を選択的に除去して絶縁膜6sで覆われたトレンチ5を埋め込むようにゲート電極7を形成する。引き続き、フォトリソグラフィ技術及びドライエッチング技術等により、絶縁膜6sを選択的に除去する。その結果、図7に示すように、ゲート絶縁膜6及びゲート電極7からなる絶縁ゲート構造(6、7)が形成される。ゲート電極7を形成した後、ゲート電極7を覆うように層間絶縁膜を設けて、層間絶縁膜と絶縁膜6sを同時に、選択的に除去してもよい。次いで、スパッタリング法又は蒸着法等により堆積したアルミニウム等の金属膜を、フォトリソグラフィ技術及びドライエッチング技術等により選択的に除去して、露出したソース領域4の上面にソース電極8を形成する。
【0027】
次に、化学機械研磨(CMP)等により、基板1sの下面を研磨して厚み調整をして、ドレイン領域1を形成する。その後、スパッタリング法あるいは真空蒸着法等により、ドレイン領域1の下面にAl等の金属膜からなる裏面電極(ドレイン電極)9を形成する。このようにして、図1に示した実施形態に係るSiC半導体装置半導体装置が完成する。
【0028】
<水素エッチング処理>
通常、SiC基板にトレンチを形成すると、トレンチ側壁は主面に対する垂直面ではなく、垂直面から5°程度傾いた面となる。一般にSiC基板1s上面が(0001)Si面に対して<11-20>方向に向かって4°~8°程度傾斜していることから、Si面の基板を用いて、m面をチャネル形成面に用いたトレンチゲート型MOSFETを作製すると、実際のチャネル形成面はm面からc軸方向だけでなく、a軸方向にも傾いた面となる。また、ウェハのオリフラ形成面が想定されるm面よりずれることにより、オリフラで方位合せして形成されたトレンチの延伸方向にa軸方向より5°程度のズレが含まれることでも、チャネル形成面がm面からc軸方向だけでなくa軸方向に傾いた面となる。水素ガスを用いるトレンチアニールなどによって清浄なトレンチ内壁面を形成すると、a軸方向及びc軸方向の傾斜に応じて、異なる2方向のそれぞれに現れる段差(ステップ)と、ステップ間のテラスとを有するステップ‐テラス構造が形成される。図8は、トレンチをc軸方向又はa軸方向に切った断面拡大図である。トレンチ側壁LcはドライエッチングやSiC基板のオフ角に起因する傾斜角αで傾斜し、ステップStと隣のステップSt間で規定されるテラスTeとからなるステップ‐テラス構造を有する。図8中、「e」はキャリアである電子を示す。このとき、ステップStの間隔が短かすぎてテラスTeの幅が狭いと、チャネルを走る電子「e」がステップStで受ける散乱が増加する。そのため、電界効果移動度が低下してしまうので、ステップ間隔が広いことが好ましい。
【0029】
水素エッチング処理でのエッチング速度はSiの蒸発量に比例するため、エッチング速度の向上には、Siが効率よく蒸発するよう、高温、低ガス圧とする必要がある。通常実施されているトレンチアニールで用いられる10640Pa~13333Paのガス圧では、トレンチ内壁のエッチング速度はほぼゼロである。一方、400Pa程度の低ガス圧ではエッチング速度が大きくなり、1500℃程度で数nm/minのエッチング速度が得られている。トレンチ形成時ドライエッチング等で生じるトレンチ内壁のダメージ層は数nmあると考えられる。そのため、水素エッチングを低圧で行うことでトレンチ内壁のダメージ層や炭素析出物を除去して清浄化ができ、ラフネス散乱を低減することが可能となる。
【0030】
また、水素雰囲気中に露出されるSiC基板上面のSi面はトレンチ内壁面のm面よりもエッチング速度が大きくなる。トレンチ内では、水素ガスの供給が滞り、実質的にガス流量が遅くなるためと考えられる。そのため、n型のソース領域4の上面が削れることによって半導体装置が高抵抗化し易くなる。半導体装置の高抵抗化を抑えるためには、ソース領域4の深さを400nm~800nm程度として、水素エッチング処理により、トレンチ5の内壁面では数nmのダメージ層を除去しつつ、ソース領域4の上面では削れ量を150nm以下とする必要がある。このように、ソース領域4の削れ量を考慮すると、水素エッチング処理は、例えば、ガス圧力を400Pa程度、温度を1500℃程度の時、処理時間は2分~3分が好ましい。
【0031】
水素エッチング処理の温度条件としては、1300℃以上1600℃以下の範囲、好ましくは1400℃以上1500℃以下の範囲が好ましい。温度が1300℃未満であれば、トレンチ5の内壁面の水素エッチングがほとんどできない。温度が1600℃を超えると、トレンチ5の内壁面にステップバンチングが生じるため好ましくない。圧力条件は、67Pa以上4000Pa以下の範囲、より好ましくは67Pa以上1333Pa以下の範囲が好ましい。圧力が67Pa未満では水素分子の供給が減り、炭素析出が顕著となる。また、圧力が4000Paを超えるとトレンチ5の内壁面の水素エッチングが生じにくくなる。
【0032】
また、エッチング処理が数分と短時間ではSiC基板の面内温度分布によるエッチングむらが発生する恐れがある。この場合、エッチング速度を低下させることで、処理時間を制御する必要がある。エッチング速度の低減は、Si蒸発を低減できる1300℃以上1500℃以下の比較的低い温度範囲、もしくは400Pa以上4000Pa以下の雰囲気圧力範囲にすることで可能である。水素エッチング処理の温度及び雰囲気圧力によってエッチング速度を調整して処理時間を最低5分以上とすることが好ましい。また、雰囲気ガス中の水素濃度を下げることでエッチング速度を低下させることもできる。この時、水素濃度が3%未満となると、エッチング速度が低下しすぎてエッチング処理の再現性に問題が生じるため、雰囲気ガス中の水素濃度は3%以上が好ましい。
【0033】
<半導体装置の評価>
実施形態に係るSiC半導体装置を作製して電界効果移動度の評価を行うとともに、トレンチ内壁面の原子間力顕微鏡(AFM)観察を行った。実施例1~4及び比較例1~3の試料について、トレンチ形成後の水素エッチング処理を100%水素雰囲気で、温度、ガス圧及び時間のエッチング条件を変化させて実施した。実施例1は、処理温度が1500℃、ガス圧が400Pa、処理時間が2分である。実施例2は、実施例1よりも処理温度を1300℃と低くし、エッチング速度の低下する分、ガス圧を133Paに下げて処理時間を19分と長くしている。実施例3は、処理温度は実施例1と同じ1500℃で、ガス圧を4000Paと高くしてエッチング速度を下げ、処理時間を45分と長くしている。実施例4は、処理温度を1550℃と高くし、ガス圧を1333Pa、処理時間を5分としている。比較例1は、実施例1及び2と同様に処理温度を1500℃とし、ガス圧を実施例3よりも5333Paと高くし、処理時間を68分と長くしている。比較例2は、実施例4と同様に処理温度を1550℃とし、ガス圧を6666Paと実施例4より高くし、処理時間を40分と長くしている。比較例3は、実施例3と同様に処理温度を1500℃、ガス圧を4000Paとして、処理時間を2分と短くしている。また、水素エッチング処理を実施せずに作製した試料を比較例4とした。
【0034】
実施例1~4及び比較例1~4のそれぞれの試料について、TEG等の評価用素子を切り取り、燐酸や希フッ酸等のウェットエッチング剤を用いてトレンチ5に埋め込まれた絶縁ゲート構造(6,7)を除去してトレンチ5の内壁面を露出させAFM観察を実施した。図9に実施例1~4のAFM像を、図10に比較例1~3のAFM像を、図11に比較例4のAFM像を示す。実施例1~4のトレンチ内壁面AFM像では、図9に示すように、c軸及びa軸の異なる2方向のそれぞれで、ステップとステップ間で規定されるテラスととからなるステップ‐テラス構造が確認できる。このように、実施例1~4のそれぞれについて、水素エッチングによる表面清浄化が十分であり、SiC結晶軸のc軸方向とa軸方向の傾斜により生じる2方向ステップ‐テラス構造が形成されると考えられる。2方向ステップ‐テラス構造は、c軸及びa軸のそれぞれの方向で、テラス幅が10nm以上500nm以下であり、ステップ高さ(段差深さ)が0.5nm以上10nm以下である。
【0035】
比較例1~3のトレンチ内壁面のAFM像では、図10に示すように、c軸方向の傾斜により生ずる1軸方向のステップ‐テラス構造が確認される。水素エッチングにより表面が清浄化されると、表面の結晶面であるm面からの傾斜によってステップ‐テラス構造が形成されるが、図10のAFM像からはa軸方向のステップ‐テラス構造は確認でできなかった。比較例1~3では、a軸方向の傾斜で形成されるステップ高さが小さくテラス幅も小さくなることが考えられる。あるいは、比較例1及び2は、それぞれ処理温度が同じ実施例3及び4と比べてガス圧が30Paを越えて高く、比較例3は、処理時間が実施例3の45分と比べて2分と短く、水素エッチング量が不十分と考えられる。このように、表面の清浄化が不十分となり、AFM像としてa軸方向ではステップ及びテラスが明確に確認できず、c軸方向のみのステップ‐テラス構造が確認されたと考えられる。また、水素エッチングを行っていない比較例4では、図11に示すように、明確なステップ‐テラス構造が観察できなかった。これはトレンチ内壁面にSiCの自然酸化膜またはゲート絶縁膜形成時の影響で生成した炭素析出物が不規則に表面を覆っている影響とも考えられる。
【0036】
図12は、水素エッチング処理の条件及びAFM像観察結果と共に、MOSFETの電界効果移動度の測定結果を示す表である。図12の表に示すように、実施例1~4の試料は、電界効果移動度が68cm2/Vs~72cm2/Vsであるのに対し、比較例1~4の試料は、50cm2/Vs~54cm2/Vsである。このように、トレンチ内壁面に2方向ステップ‐テラス構造を有する実施例1~4の試料では電界効果移動度が70cm2/Vs程度と高い値が得られる。一方、トレンチ内壁面に、ステップ‐テラス構造がないか、あるいは1方向ステップ‐テラス構造を有する比較例1~4の試料では電界効果移動度が50cm2/Vs程度と減少している。このように、トレンチ内壁面のAFM像が表面の清浄化の指標となることが確認された。実施形態に係るSiC半導体装置では、低ガス圧水素エッチング処理において処理温度及び処理時間を適切に調整することにより、トレンチ内壁の清浄化ができ、チャネルの移動度の向上が可能となる。
【0037】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明の第1~第3実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0038】
上述のように、実施形態においては、水素エッチング処理の雰囲気ガスとして、100%水素ガス又は3%以上の水素と希ガスとの混合ガスを用いている。しかし、雰囲気ガスに0.5ppm以上、50ppm以下の範囲の微量の酸素(O)などの酸化性ガスを添加してもよい。一般的に、水素エッチング処理により、トレンチ内壁面にステップ‐テラス構造を形成しても、そのステップ端(キンク)などでクラスタ化した炭素析出物が形成されてしまうことがある。炭素析出物は半導体装置の製造過程でも除去されないため、最終的なMOSFETにおいてMOS界面で余剰炭素として欠陥や表面ラフネスとして働いてしまう。水素だけのエッチングではクラスタ化した炭素析出物の除去は困難である。水素以外のガスで炭素と効率よく反応するガスとして酸素がある。一般的に酸素は水素と反応すると考えられるが、低酸素濃度では水素との反応が起こりにくく、一部は酸素のまま存在する。水素エッチング雰囲気に0.5ppm以上、50ppm以下の微量酸素を添加すると、炭素析出物の除去能力が向上して水素エッチング速度が増大することが確認された。微量酸素を添加して水素エッチング処理を行ったMOSFETの試料では、電界効果移動度の向上が実現でき、炭素析出物が除去されていることが確認された。酸素添加濃度が0.5ppm未満ではエチング速度の増加は確認されず、酸素添加濃度が50ppmを超えると、トレンチ内壁面に多数のピットが形成されてしまい、表面凹凸が増加する結果が得られた。なお、酸化性ガスとして酸素を用いて説明したが、酸化性ガスとしてオゾン(O)、一酸化窒素(NO)、亜酸化窒素(NO)などが採用可能である。
【0039】
上記の実施形態においてMOSFETを例示的に説明したが、本発明の適用の対象となる半導体装置はMOSFETに限定されるものではない。本発明の半導体装置は、例えば、半導体層の上に絶縁膜を介して電極が配置されているトレンチ構造を有するIGBT等の種々のトレンチ構造を有する半導体装置に適用可能である。
【0040】
このように、上記の実施形態及び各変形例において説明される各構成を任意に応用した構成等、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0041】
1…ドレイン領域(第2主領域)
1s…基板
2…ドリフト領域
3…ベース領域
4…ソース領域(第1主領域)
5…トレンチ
6…ゲート絶縁膜
7…ゲート電極(制御電極)
8…ソース電極(表面電極)
9…ドレイン電極(裏面電極)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12