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特開2023-176758マイクロ波解体用接着剤、接着シート及び接着物の解体方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176758
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】マイクロ波解体用接着剤、接着シート及び接着物の解体方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 201/00 20060101AFI20231206BHJP
   C09J 5/00 20060101ALI20231206BHJP
   C09J 161/06 20060101ALI20231206BHJP
   C09J 161/28 20060101ALI20231206BHJP
   C09J 127/16 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C09J201/00
C09J5/00
C09J161/06
C09J161/28
C09J127/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089215
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000822
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル知財
(72)【発明者】
【氏名】西野 孝
(72)【発明者】
【氏名】松本 拓也
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040DC091
4J040EB031
4J040EB131
4J040LA09
4J040MA10
4J040MB03
4J040PA42
(57)【要約】
【課題】マイクロ波照射による誘電加熱により接着解体に利用できる接着剤を提供する。
【解決手段】マイクロ波解体用接着剤は、10GHzにおける比誘電率が8.0以上である接着成分を有する。ここで、接着成分については、10GHzにおける比誘電率が8.0以上の強誘電性ポリマーである。具体的には、マイクロ波解体用接着剤の接着成分については、ポリ(フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン)共重合体である。ポリ(フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン)共重合体は、10GHzにおける比誘電率が10~14である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
10GHzにおける比誘電率が8.0以上である接着成分を有するマイクロ波解体用接着剤。
【請求項2】
前記接着成分が、10GHzにおける比誘電率が8.0以上の強誘電性ポリマーであることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波解体用接着剤。
【請求項3】
前記接着成分が、フェノール樹脂系またはメラミン樹脂系であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波解体用接着剤。
【請求項4】
前記接着成分が、ポリ(フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン)共重合体であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波解体用接着剤。
【請求項5】
前記接着成分が、ポリ(フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン)共重合体、又は、ポリ(フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン-クロロフルオロエチレン)共重合体であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波解体用接着剤。
【請求項6】
前記比誘電率が10.0より大きいことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波解体用接着剤。
【請求項7】
請求項1~6の何れかのマイクロ波解体用接着剤を用いた接着シート。
【請求項8】
請求項1~6の何れかのマイクロ波解体用接着剤、又は、請求項1~6の何れかのマイクロ波解体用接着剤を用いた接着シートにより接着された同種もしくは異種の2つの基材からなる接着物に対し、所定時間、マイクロ波を照射するステップを含む、接着物の解体方法。
【請求項9】
請求項1~6の何れかのマイクロ波解体用接着剤、又は、請求項1~6の何れかのマイクロ波解体用接着剤を用いた接着シートにより、電子部品もしくは光学部品を製造する方法。
【請求項10】
請求項1~6の何れかのマイクロ波解体用接着剤、又は、請求項1~6の何れかのマイクロ波解体用接着剤を用いた接着シートにより、食品梱包用の容器もしくは袋を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波解体用接着剤、接着シート、及び、接着物の解体方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
接着は、溶接では困難な異種材料の一体化が可能であることや、機械的接合に比べて安価・簡便・軽量であるなど多くの利点を有し、材料の一体化のための単純かつ必要不可欠な技術である。一方で、強固に一旦接着した材料の解体は難しく、接着された基材を分離してリサイクルを図る観点では課題がある。そこで、使用時は十分な接着強度を保ち、使用後に外部刺激を与えることにより容易に解体できる解体用接着剤が注目されている。
しかし、既存の解体用接着に用いられる光やpHなどの外部刺激は、日常生活で起こりうる刺激であることから、意図しない解体の危険性がある。そこで、解体が必要な時にのみ解体が進行するように、日常的には露出されない特殊な刺激をトリガーとして接着物を解体する技術として、電子レンジ等に用いているマイクロ波を利用する方法がある。
【0003】
本発明者らは、既に、接着成分にイオン液体を配合することで、マイクロ波を照射することにより接着物の解体を実現できることを示している(特許文献1を参照)。特許文献1に開示された技術は、接着成分にイオン液体を添加することにより、接着剤をマイクロ波に応答する組成物として接着解体に利用するものである。しかしながら、特許文献1に開示された技術では、高価なイオン液体を利用し、かつ、予め接着成分に添加の必要があることから、プロセスとして一手間かかるといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-214558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の如く、マイクロ波に応答する従来の接着剤は、予め接着成分に高価なイオン液体を添加するプロセスが必要であった。
かかる状況に鑑みて、本発明は、高価なイオン液体の添加プロセスを不要とし、マイクロ波加熱による接着解体に利用できる接着剤、それを用いた接着シート及び接着物の解体方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のマイクロ波解体用接着剤は、10GHzにおける比誘電率が8.0以上である接着成分を有する。ここで、接着成分については、10GHzにおける比誘電率が8.0以上の強誘電性ポリマーであることが好ましい。具体的には、本発明のマイクロ波解体用接着剤の接着成分については、ポリ(フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン)共重合体(P(VDF-TrFE))、ポリ(フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン)共重合体(P(VDF-HFP))、又は、ポリ(フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン-クロロフルオロエチレン)共重合体(P(VDF-TrFE-CFE))であることが好ましく、特に、接着特性に優れたポリ(フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン)共重合体であることが好ましい。ポリ(フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン)共重合体は、10GHzにおける比誘電率が10~14である。
【0007】
また、接着成分がフェノール樹脂系またはメラミン樹脂系である。上記の比誘電率が10.0より大きい場合、より好ましい。
本発明のマイクロ波解体用接着剤を用いて、接着シートにすることもできる。接着シートは、紙やプラスチックフィルムや布などの支持体となるものに接着剤を薄く均一に塗布されたものである。
【0008】
本発明の接着物の解体方法は、本発明のマイクロ波解体用接着剤、又は、該マイクロ波解体用接着剤を用いた接着シートにより接着された同種もしくは異種の2つの基材からなる接着物に対し、所定時間、マイクロ波を照射するステップを含む方法である。
本発明の電子部品もしくは光学部品を製造する方法は、本発明のマイクロ波解体用接着剤、又は、該マイクロ波解体用接着剤を用いた接着シートにより、電子部品もしくは光学部品を製造する方法である。
本発明の食品梱包用の容器もしくは袋を製造する方法は、本発明のマイクロ波解体用接着剤、又は、該マイクロ波解体用接着剤を用いた接着シートにより、容器もしくは袋を製造する方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のマイクロ波解体用接着剤によれば、接着成分がマイクロ波に対して応答性を有することで、高価なイオン液体の添加プロセスを不要とし、マイクロ波加熱による接着解体に利用できるといった効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】マイクロ波応答性の試験装置の模式図
図2】接着試験片の説明図
図3】マイクロ波照射によって誘電加熱され被着体が解体する説明図
図4】マイクロ波照射前後での剪断剥離試験の結果を示すグラフ(実施例1)
図5】接着成分のDSCサーモグラム(実施例2)
図6】接着成分のマイクロ波照射前におけるX線回折プロファイル(実施例2)
図7】マイクロ波照射前後のX線回折プロファイル(実施例2)
図8】接着成分の赤外線吸収スペクトル(実施例2)
図9】マイクロ波照射下での温度測定の結果を示すグラフ(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のマイクロ波解体用接着剤は、10GHzにおける比誘電率が8.0以上である接着成分を有する接着剤である。本発明の接着剤の接着成分は、イオン液体の添加が不要で、接着成分自体が強誘電性を有するためマイクロ波照射により接着機能が無くなり解体されるものである。本発明の接着剤の接着成分は、10GHzにおける比誘電率が8.0以上の強誘電性ポリマーであり、具体的な強誘電性ポリマーとしては、ポリ(フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン)共重合体などが挙げられる。
【0012】
本発明の接着剤の接着成分として、強誘電性ポリマーは、マイクロ波に対して応答性が高く、例えば、ポリ(フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン)共重合体(P(VDF-TrFE))を接着成分として用いて接着された被着体の解体をマイクロ波の照射によって行った結果、接着解体が行われた。一方、同条件で、ポリスチレン(PS)では接着解体が行われなかったことから、接着成分が強誘電性を有することが、接着解体にとって重要な因子であることがわかった。
【0013】
ここで、本発明のマイクロ波解体用接着剤には、接着成分以外の他の成分が配合されてもよい。接着成分以外の他の成分としては、一般的な接着剤に配合される成分が挙げられ、例えば、耐熱安定剤、耐光安定剤、難燃剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、防カビ剤、発泡剤、充填材(フィラー)等が挙げられる。
【0014】
また、本発明のマイクロ波解体用接着剤の適用方法は、通常の接着剤と同様の適用方法である。例えば、2つの被着体の間の接着面に、本発明の接着剤を薄く均一に塗布し、所定時間、固定することで接着を行える。接着剤の固定は、常温で行なってもよいし、加熱下で行なってもよい。また、マイクロ波解体用接着剤を基材に塗布する際は、手作業による塗布、ロールコーターやスプレーコーター等の公知の塗布装置によるものでも構わない。
【0015】
本発明のマイクロ波解体用接着剤を適用する被着体の材質としては、プラスチック、金属、セラミックス、樹脂、木材、紙など特に限定されるものではない。本発明のマイクロ波解体用接着剤は、異種の材料からなる2つの被着体を接着することでもよく、或いは、同種の2つの被着体を接着するのでもよい。
【0016】
本発明のマイクロ波解体用接着剤を適用される用途は、特に限定されず、具体例を挙げると、食品容器など利用終了後に解体されリサイクルする分野、壁材など必要に応じて剥離が求められる建材分野、家電やスマートフォンなど使用後にリサイクルが求められる電材分野などが挙げられる。
【0017】
本発明のマイクロ波解体用接着剤により接着された被着体は、解体が必要なときに、マイクロ波を照射することにより解体できるという利点がある。本発明のマイクロ波解体用接着剤は強誘電性ポリマーなどの強誘電性の接着成分を含むものであり、マイクロ波照射により接着剤で形成される層(接着層)の温度が急激に上昇し、これにより接着層の接着強度が低下して接着物の解体が可能になるものである。
【0018】
本発明の接着剤において、被着体の解体は、マイクロ波を照射しながら2つの被着体が分離するような荷重を一方の被着体に加えることで行える。また、被着体にマイクロ波を照射した後に、速やかに荷重を被着体に加えることでも行える。マイクロ波を照射する装置としては、特に限定されず、家庭用の電子レンジや、ハンディータイプのマイクロ波照射装置を使用できる。電子レンジは、食品に含まれる水分子をマイクロ波(2.4GHz)で振動させることで誘電加熱するものであるが、本発明の接着剤の場合には、10GHzにおける比誘電率が8.0以上の接着成分を振動させて加熱し、接着成分の融点付近まで温度を上昇させて、接着強度を低下させて被着体を解体する。
【0019】
被着体の解体を実現するためのマイクロ波の照射条件は、特に限定されず、例えば、マイクロ波の周波数は300MHz~3THz、出力は10~10000W程度であり、マイクロ波を接着物に照射する時間は1秒~10分間程度である。また、本発明の接着剤の解体性能に応じて、或いは、接着成分の種類に応じて、照射するマイクロ波の周波数を調節可能である。
【0020】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【実施例0021】
本実施例では、接着成分として、ポリ(フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン)共重合体(P(VDF-TrFE))(比誘電率=10~14)を用いて、被着体のポリイミドの接着を試みた。なお、比較例として、ポリスチレン(比誘電率=2.4~2.7)を用いて、被着体のポリイミドの接着を試みた。
ここで、本実施例で用いる接着成分であるポリ(フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン)共重合体(P(VDF-TrFE))、および、比較例1として用いる接着成分であるポリスチレン(PS)の構造式と比誘電率を下記表1に示している。
【0022】
【表1】
【0023】
接着フィルムは、図1(1)に示すように、メチルイソブチルケトン(ナカライテスク製)に、共重合比が1対1であるポリ(フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン)共重合体(P(VDF-TrFE))(Piezotech(登録商標)FC50、Piezotec製)を全量に対し10重量%となるように混合し、60℃で5時間撹拌することにより、P(VDF/TrFE)のメチルイソブチルケトン溶液を作製した。作製した溶液を厚さ200μmのテフロン(登録商標)シート(中興化成工業製)にキャストし、室温で24時間成形した後、50℃のオーブンで12時間乾燥させ、実施例1のP(VDF/TrFE)の接着フィルム(厚さ約80μm)を作製した。
また、比較例1として、汎用高分子であるポリスチレン(PS)(スタイロン679、旭ダウ 製)を用いて、同様に接着フィルムを作製した。
【0024】
被着体としては、厚さ125μmのポリイミド(カプトン(登録商標)、東レ・デュポン製)フィルム(幅10mm,長さ15mm)を使用した。図1(2)に示すように、実施例1のP(VDF/TrFE)の接着フィルムを、接着面積が10mm×5mmとなるように、2枚のポリイミドフィルムに挟み込んだ。これをホットプレス(170℃、2分、0MPa、その後、3分、6MPa)により接着した後、徐冷することにより、マイクロ波応答性試験用の試験片を作製した。
また、比較例1のポリスチレン(PS)の接着フィルムも、同様の方法で試験片を作製した。
【0025】
図2は、作製した試験片を用いたマイクロ波応答性の試験装置の模式図を示している。図2中、試験片10は、2枚の被着体11と、両被着体に挟まれた接着層12とから構成される。接着層の大きさは幅10mm×長さ5mmである。作製された各試験片の上下に穴を開け、上側の穴に通した糸で電子レンジ内に試験片を吊るし、下側の穴に通した糸を用いて250gの荷重13を試験片に掛けた。この状態で、周波数2.45GHz、出力500Wの条件で、10分間、マイクロ波を試験片に照射し、解体に至るまでのマイクロ波照射時間(マイクロ波の照射開始から、接着部分が下にずれて、荷重を掛けた側の被着体が落下するまでに要する時間)を測定した。
【0026】
(マイクロ波応答性試験によるマイクロ波解体性の評価)
下記表2は、実施例1及び比較例1の各接着フィルムによる各試験片におけるマイクロ波照射下での解体試験の結果を示す。比較例1の接着フィルムを用いた試験片は、マイクロ波を10分間(600秒)照射しても解体に至らなかったのに対し、実施例1の接着フィルムを用いた試験片は、約152秒で接着解体に至った。したがって、実施例1の接着フィルムの試験片は、マイクロ波により容易に解体できることが示された。なお、実施例1及び比較例1の各試験片いずれにおいても剥離の形態はすべて凝集破壊であった。
また、後述する実施例2で示すマイクロ波照射下の温度測定の結果から、照射開始から解体した152秒付近で、接着層の温度が152~168℃に至ったことがわかった。示差走査熱量測定(DSC)の結果から、実施例1の接着フィルムの試験片の融点(T)は、162.2℃であるので、接着層がマイクロ波により誘電加熱され、その融点付近に達したことが解体の原因であると推察した。
【0027】
【表2】
【0028】
以上から、接着成分が強誘電性ポリマーであるポリ(フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン)共重合体である接着剤の場合では、マイクロ波照射によって誘電加熱され接着剤の温度が上昇して融点付近となり接着強度が低下し、被着体の解体が生じることがわかった(図3)。
一方、接着成分が強誘電性ポリマーではないポリスチレンである接着剤の場合では、接着解体が生じないことから、接着成分が強誘電率を有することが重要であることがわかった。
【0029】
剪断剥離試験について説明する。剪断剥離試験では、マイクロ波応答性試験と同様に、被着体として2枚のポリイミドフィルムに実施例1の接着フィルム、比較例1の接着フィルムを挟み込んだものを試験片として使用した。但し、マイクロ波応答性試験の試験片と異なり、ポリイミドフィルムの大きさは幅15mm、長さ25mmであり、接着面積は15mm×10mmに変更した。
【0030】
図4は、実施例1及び比較例1の試験片における、マイクロ波照射前後での剪断剥離試験の結果を示している。何れも左側はマイクロ波照射前、右側は照射後を示している。図4のグラフより、実施例1の接着フィルムは、比較例1の接着フィルムより高い接着強度を示すことがわかった。また、マイクロ波照射前後での接着強度には大きな差がないことがわかった。照射後の強度がわずかに低下したのは、熱による接着層の劣化であると推察した。
【実施例0031】
本実施例では、フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンの共重合組成比の異なるポリ(フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン)共重合体(P(VDF/TrFE))を用いて、実施例1と同様に接着フィルムを作製し3種類の試験片を作製した。作製した3種類の試験片におけるマイクロ波応答性の確認試験と、試験片からポリイミドフィルムを剥がして各種物性測定試験を行った結果について説明する。ここで、共重合組成比の異なるポリ(フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン)共重合体としては、Piezotech(登録商標)のFC50、FC30、FC20(Piezotec社製)の3種類を用いた。下記表3は、それぞれの理論共重合組成比を示したものである。
【0032】
【表3】
【0033】
図5は、実施例2A、2B、2Cの接着成分の示差走査熱量測定(DSC)によるサーモグラムを示している。示差走査熱量計(リガク製、Thermo plus EVOII DSC8230)を用いて、窒素雰囲気下、30~250℃までの範囲にて、昇温速度10℃/分の試料重量
4.46-5.31mgにて、Alパンを用いて測定を行い、昇温過程における吸熱ピーク温度より融点(T)及びキュリー 温度(T)を求めた。ここで、Tは、強誘電性から常誘電性への相転移温度である。図5のグラフにおいて、最も鋭いピークはTを示し、それぞれのTより低温側のピークはキュリー温度(T)を示す。図5のグラフより、実施例2A、2B、2CにおけるそれぞれのTは162.2℃、154.1℃、151.6℃であり、Tは62.6℃、92.4℃、139.4℃であった。
【0034】
図6は、実施例2A、2B、2Cの接着成分のマイクロ波照射前におけるX線回折プロファイルを示している。X線回折プロファイルの測定は、ディフラクトメーター(リガク製、RINT2100)を用いて対称反射法で実施した。管電圧40kV、管電流20mAのCuKa線(α=1.5418オングストローム)、走査速度2°/分、ステップサンプリング0.02、走査範囲2θ=10~45°、発散スリット1/2°、受光スリット0.3nm、散乱スリット1/2°の条件で測定を行った。各試料の結晶化度(X)は、カーブ分離ソフトを用いて結晶と非晶にピーク分離して、X=100×結晶の面積/(結晶+非晶の面積)から求めた。
図6に示すように、実施例2A、2B、2Cにおいて、それぞれ18.8、20.0、20.1付近に(110)反射に由来するピーク、および19.1、19.8、20.1付近に(200)反射に由来するピークが確認され、強誘電性を示すβ型結晶構造を有することがわかった。また、ピーク位置が実施例2C、2B、2Aにかけて低波数側にシフトしているが、TrFE分率の増加に伴い格子間距離が増加するためである。また、ピーク分離により算出した実施例2A、2B、2Cにおけるそれぞれの結晶化度は、72.7%、56.4%および64.8%であった。
【0035】
図7は、実施例2Aのマイクロ波照射前後におけるX線回折プロファイルを示している。マイクロ波照射前後それぞれにおいて、18.8および18.7付近に(110)反射、および、19.1および19.2付近に(200)反射に由来するピークが確認されたことから、どちらも強誘電性を示すβ型結晶構造を有し、結晶型はマイクロ波照射によって変化しないことがわかった。
【0036】
図8は、実施例2A、2B、2Cの接着フィルムの赤外線吸収スペクトル(600~1600cm-1の部分)の測定結果を示している。赤外線吸収スペクトルの測定には、島津フーリエ変換赤外分光光度計(島津製作所製、IRTracer-100)を用いた。測定は、積算20回、分解能4cm-1、KBr錠剤法にて波数範囲4000~400cm-1の条件で実施した。
図8に示すように、850、1190、1295、1400cm-1付近に、β型結晶構造に由来するピークが観察された。P(VDF/TrFE)は、主にα、β、γの3種類の結晶型が存在するが、そのうちβ型結晶構造が、極性のモーメントの向きがそろっているために最大の誘電率を示す。また、890、1110cm-1付近に、γ型結晶構造に由来するピークが観察された。ここで、γ型結晶構造はβ型の次に高い極性を示すものである。また、無極性の766cm-1付近に現われるα型結晶構造に由来するピークは確認できなかった。
従って、P(VDF/TrFE)の結晶構造に関して、X線回折法及び赤外線吸収スペクトルの結果を考慮すると、実施例2A、2B、2Cは、一部にγ型を含むβ型結晶構造を有することがわかった。
【0037】
図9は、実施例2A、2B、2C及び比較例1の接着フィルムにおけるマイクロ波照射下でのin-situ温度測定の結果を示している。マイクロ波照射下in-situ温度測定は、光ファイバー温度計(安立計器製、FL-2000)を用いてマイクロ波照射中の試料の温度変化を測定した。試料2枚を用いて光ファイバー温度計の温度検出部を挟むようにテープで固定したものを、電子レンジ内の中央付近に固定し、マイクロ波(2.45GHz、500W、300秒)を照射して、その場の温度変化を測定した。
図9のグラフから、強誘電率を有する実施例2A、2B、2Cの接着フィルムが、比較例1のポリスチレン(PS)の接着フィルムと比べて、マイクロ波照射により急速に誘電加熱されることが確認された。また、実施例2A、2B、2Cの3種の接着フィルムのうち、最も結晶化度が高い実施例2Aが最も高温まで加熱されることが確認された。実施例2Aは、加熱開始後約150秒で融点付近の160℃に達しており、それ以上の温度上昇はほとんど確認されなかった。なお、図9の各グラフで周期的な揺らぎが見られるが、これは電子レンジ内のマイクロ波照射が周期的に行われていることに起因するものである。
【符号の説明】
【0038】
10 試験片
11 被着体
12 接着層
13 荷重
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9