(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176770
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】診断支援方法、診断支援装置、診断支援システムおよび診断評価方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20180101AFI20231206BHJP
C12N 15/19 20060101ALN20231206BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20231206BHJP
【FI】
C12Q1/68
C12N15/19
C12N15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089232
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】510058069
【氏名又は名称】有限会社ハヌマット
(71)【出願人】
【識別番号】513001606
【氏名又は名称】EAファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】楠 正人
(72)【発明者】
【氏名】問山 裕二
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 太
(72)【発明者】
【氏名】西中 大輔
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ43
4B063QR32
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】従来に比べて実現可能性が高くかつ再現性よくヒト潰瘍性大腸炎患者由来の大腸癌発症の可能性を判別し、医師が診断するための補助的な支援情報を提供する診断支援方法等を提供する。
【解決手段】ヒト潰瘍性大腸炎患者から採取した生体試料のDNAにおける、特定のメチル化可変領域(DMR)の中に存在する全てのCpGサイトのメチル化情報を取得し、特定のDMRの各々の平均メチル化率を算出し、算出した特定のDMRの各々の平均メチル化率と多変量判別式とを用いて解析し、その解析結果は、被験者に関する大腸癌発症の診断の支援情報として用いられ、特定のDMRは、表1に示されるTNFSF4、NFATC1、CACNA1A、CACNA1C、CACNA1E、CACNA1G、CACNG3、CACNG8、RYR1、FAM222A及びMDGA1からなる群から選択される二箇所以上のDMRを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症に関する診断を支援するための診断支援方法であって、
被験者であるヒト潰瘍性大腸炎患者から採取した直腸粘膜組織又は大腸粘膜組織のDNAにおける、複数の特定のメチル化可変領域(DMR)の中に存在する全てのCpGサイトのメチル化情報を取得し、前記特定のDMRの各々の平均メチル化率を算出する第一工程と、
前記被験者について算出した前記特定のDMRの各々の平均メチル化率と、予め定められた多変量判別式と、を用いて解析する第二工程と、
を有し、
前記第二工程における解析結果は、前記被験者に関する大腸癌発症の診断の支援情報として用いられ、
前記特定のDMRは、表1に示されるTNFSF4、NFATC1、CACNA1A、CACNA1C、CACNA1E、CACNA1G、CACNG3、CACNG8、RYR1、FAM222A及びMDGA1からなる群から選択される二箇所以上のDMRを含む、
ことを特徴とする診断支援方法。
【表1】
【請求項2】
前記特定のDMRは、表1に示されるTNFSF4及びNFATC1を少なくとも含む、
請求項1に記載の診断支援方法。
【請求項3】
前記特定のDMRは、表1に示されるCACNA1A、CACNA1C、CACNA1E、CACNA1G、CACNG3、CACNG8、及びRYR1からなる群から選択される一箇所以上のDMRを更に含む、
請求項2に記載の診断支援方法。
【請求項4】
前記特定のDMRは、表1に示されるFAM222A及びMDGA1からなる群から選択される一箇所以上のDMRを更に含む、
請求項2又は3に記載の診断支援方法。
【請求項5】
前記第二工程は、前記特定のDMRの平均メチル化率及び前記多変量判別式に加え、更に、予め定められた閾値を用いて解析する、
請求項1に記載の診断支援方法。
【請求項6】
前記多変量判別式は、ヒト潰瘍性大腸炎に罹患した後に大腸癌の診断を受けた患者からなる第一の母集団から得られた前記特定のDMRの平均メチル化率と、ヒト潰瘍性大腸炎に罹患した後に大腸癌発症の診断を未だ受けていない患者からなる第二の母集団から得られた前記特定のDMRの平均メチル化率と、を説明変数とする多変量解析によって定められた関数式であり、
前記閾値は、前記第二工程が行われる事前に前記多変量判別式に基づいて予め定められた値である、
請求項5に記載の診断支援方法。
【請求項7】
前記閾値は、5%を超え25%を下回る値であり、
前記第二工程における解析は、前記被験者について算出された前記特定のDMRの平均メチル化率が前記閾値を上回る場合、前記被験者の大腸癌発症について陽性と判定する、
請求項6に記載の診断支援方法。
【請求項8】
前記第一の母集団及び前記第二の母集団を構成する患者は、ヒト潰瘍性大腸炎の罹患から経過した年数が10年以上の患者である、
請求項6又は7に記載の診断支援方法。
【請求項9】
前記多変量判別式が、ロジスティック回帰式、線形判別式、ナイーブベイズ分類器で作成された式、又はサポートベクターマシンで作成された式である、
請求項1に記載の診断支援方法。
【請求項10】
前記被験者であるヒト潰瘍性大腸炎患者から採取したDNAが直腸粘膜組織である、
請求項1に記載の診断支援方法。
【請求項11】
前記第一工程における算出と前記第二工程における解析は、情報処理装置によって実現される処理であり、
前記情報処理装置は、前記第二工程における解析の結果に基づいて、前記被験者について大腸癌発症の診断を確定するための検査を推奨するか否かを示す情報を、前記支援情報として生成する第三工程を、更に有する、
請求項1に記載の診断支援方法。
【請求項12】
ヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症に関する診断を支援するための診断支援装置であって、
被験者であるヒト潰瘍性大腸炎患者から採取した直腸粘膜組織又は大腸粘膜組織のDNAにおける、複数の特定のメチル化可変領域(DMR)の中に存在する全てのCpGサイトのメチル化情報を取得し、前記特定のDMRの各々の平均メチル化率を算出するメチル化率算出手段と、
前記被験者について算出された前記特定のDMRの各々の平均メチル化率と、予め定められた多変量判別式と、を用いて解析する解析手段と、
前記解析手段による解析結果に基づいて、前記被験者の大腸癌発症の診断に用いる支援情報を生成する診断支援手段と、
を備え、
前記特定のDMRは、表1に示されるTNFSF4、NFATC1、CACNA1A、CACNA1C、CACNA1E、CACNA1G、CACNG3、CACNG8、RYR1、FAM222A及びMDGA1からなる群から選択される二箇所以上のDMRを含む、
ことを特徴とする診断支援装置。
【請求項13】
ヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症に関する診断を支援するための診断支援装置と、データベースと、を備える診断支援システムであって、
前記診断支援装置は、
被験者であるヒト潰瘍性大腸炎患者から採取した直腸粘膜組織又は大腸粘膜組織のDNAにおける、複数の特定のメチル化可変領域(DMR)の中に存在する全てのCpGサイトのメチル化情報を取得し、前記特定のDMRの各々の平均メチル化率を算出するメチル化率算出手段と、
前記被験者について算出された前記特定のDMRの各々の平均メチル化率と、前記データベースに予め記憶されている多変量判別式と、を用いて解析する解析手段と、
前記解析手段による解析結果に基づいて、前記被験者の大腸癌発症の診断に用いる支援情報を生成する診断支援手段と、
を備え、
前記特定のDMRは、表1に示されるTNFSF4、NFATC1、CACNA1A、CACNA1C、CACNA1E、CACNA1G、CACNG3、CACNG8、RYR1、FAM222A及びMDGA1からなる群から選択される二箇所以上のDMRを含む、ことを特徴とする診断支援システム。
【請求項14】
ヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症に関する診断を支援するための診断評価方法であって、
被験者であるヒト潰瘍性大腸炎患者から採取した直腸粘膜組織又は大腸粘膜組織のDNAにおける、複数の特定のメチル化可変領域(DMR)の中に存在する全てのCpGサイトのメチル化情報を取得し、前記特定のDMRの各々の平均メチル化率を算出する第一工程と、
前記被験者について算出された前記特定のDMRの各々の平均メチル化率と、予め定められた多変量判別式と、を用いて解析する第二工程と、
を有し、
前記第二工程における解析結果は、前記被験者に関する大腸癌発症の診断の支援情報として用いられ、
前記特定のDMRは、表1に示されるTNFSF4、NFATC1、CACNA1A、CACNA1C、CACNA1E、CACNA1G、CACNG3、CACNG8、RYR1、FAM222A及びMDGA1からなる群から選択される二箇所以上のDMRを含む、ことを特徴とする診断評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症に関する診断を支援又は評価するための診断支援方法、診断支援システム、診断評価方法および診断支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
潰瘍性大腸炎は、主に大腸粘膜に潰瘍やびらんができる、原因不明の炎症性腸疾患である。完治は非常に困難であり、寛解・再燃を繰り返す。症状としては、下痢や腹痛、粘血便などの大腸の局所症状や、発熱、嘔吐、頻脈、貧血などの全身症状がある。潰瘍性大腸炎患者では大腸癌が発生しやすいため、大腸癌の早期発見が特に重要である。
【0003】
通常、大腸癌の早期発見のために大腸内視鏡検査が行われる。しかしながら、早期の大腸癌を視認により検出することは、手技者である医師の技量によるところが大きく、一般的に困難である。特に潰瘍性大腸炎患者の場合は、元々腸粘膜に炎症があるため、大腸癌の検出をさらに難しくしている。また、大腸内視鏡検査は患者の負担が大きく、検査自体を受診しないケースが多いという問題もある。
【0004】
大腸内視鏡検査およびその関連検査の労働集約的な性質と経費は、長期間にわたって広範囲の潰瘍性大腸炎を伴う多くの潰瘍性大腸炎患者のサーベイランスを困難にしている。潰瘍性大腸炎患者において、大腸癌のリスクが高い患者と低い患者とを、大腸癌検出マーカーを利用した簡便なスクリーニングによってサブグループ化することで区別することが可能になれば、潰瘍性大腸炎患者の癌検出サーベイランスにメリットをもたらすと考えられる。
【0005】
一方で、特許文献1には、潰瘍性大腸炎において、腫瘍性組織におけるmiR-1、miR-9、miR-124、miR-137、及びmiR-34b/cの5種のmiRNA遺伝子のメチル化率が、非腫瘍性組織に比べて有意に高く、よって非癌部である結腸粘膜から採取された生体試料中の前記5種のmiRNA遺伝子のメチル化率は、潰瘍性大腸炎患者の大腸癌検出マーカーとなり得ることが報告されている。
【0006】
また、特許文献2において、本発明者等は特定のDNA領域におけるDNAメチル化率を大腸癌検出マーカーとする潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症の可能性を判定する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2014/151551号
【特許文献2】国際公開第2018/008740号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症可能性を判定するにあたり、特許文献2のように広範な種類のメチル化可変領域のメチル化率を測定するには多くのDNAメチル化情報の処理を行わねばならず、現実的に実現可能な手法とは必ずしも言えなかった。そのため、より実現可能性が高く、かつ再現性よく、ヒト潰瘍性大腸癌患者の大腸癌発症可能性を判定し、より効果的に大腸癌発症に関する診断を支援又は評価する診断支援方法、診断支援システム、診断評価方法及び当該方法を実施する診断支援装置が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討し、ヒト潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis;以下本願明細書において「UC」ということがある。)患者(以下本願明細書において「UC患者」ということがある。)のゲノムDNA中のCpGサイト(シトシン-ホスホジエステル結合-グアニン)のメチル化率を網羅的に調べたところ、大腸癌を発症したUC患者(発癌潰瘍性大腸炎患者)と大腸癌を発症していないUC患者(非癌潰瘍性大腸炎患者)においてメチル化率に顕著な差がある、特許文献2に開示のメチル化可変領域(differentially methylated region;以下本願明細書において「DMR」ということがある。)とは異なる新規の11種類のDMR(後掲の表1参照)を見出し、これらのうち複数のDMRにおけるメチル化率を用いて解析することによって本発明を完成させた。
【0010】
【0011】
本発明によれば、ヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症に関する診断を支援するための診断支援方法であって、被験者であるヒト潰瘍性大腸炎患者から採取した直腸粘膜組織又は大腸粘膜組織のDNAにおける、複数の特定のメチル化可変領域(DMR)の中に存在する全てのCpGサイトのメチル化情報を取得し、前記特定のDMRの各々の平均メチル化率を算出する第一工程と、前記被験者について算出した前記特定のDMRの各々の平均メチル化率と、予め定められた多変量判別式と、を用いて解析する第二工程と、を有し、前記第二工程における解析結果は、前記被験者に関する大腸癌発症の診断の支援情報として用いられ、前記特定のDMRは、表1に示されるTNFSF4、NFATC1、CACNA1A、CACNA1C、CACNA1E、CACNA1G、CACNG3、CACNG8、RYR1、FAM222A及びMDGA1からなる群から選択される二箇所以上のDMRを含む、ことを特徴とする診断支援方法が提供される。
【0012】
本発明によれば、ヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症に関する診断を支援するための診断支援装置であって、被験者であるヒト潰瘍性大腸炎患者から採取した直腸粘膜組織又は大腸粘膜組織のDNAにおける、複数の特定のメチル化可変領域(DMR)の中に存在する全てのCpGサイトのメチル化情報を取得し、前記特定のDMRの各々の平均メチル化率を算出するメチル化率算出手段と、前記被験者について算出された前記特定のDMRの各々の平均メチル化率と、予め定められた多変量判別式と、を用いて解析する解析手段と、前記解析手段による解析結果に基づいて、前記被験者の大腸癌発症の診断に用いる支援情報を生成する診断支援手段と、を備え、前記特定のDMRは、表1に示されるTNFSF4、NFATC1、CACNA1A、CACNA1C、CACNA1E、CACNA1G、CACNG3、CACNG8、RYR1、FAM222A及びMDGA1からなる群から選択される二箇所以上のDMRを含む、ことを特徴とする診断支援装置が提供される。
【0013】
本発明によれば、ヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症に関する診断を支援するための診断支援装置と、データベースと、を備える診断支援システムであって、前記診断支援装置は、被験者であるヒト潰瘍性大腸炎患者から採取した直腸粘膜組織又は大腸粘膜組織のDNAにおける、複数の特定のメチル化可変領域(DMR)の中に存在する全てのCpGサイトのメチル化情報を取得し、前記特定のDMRの各々の平均メチル化率を算出するメチル化率算出手段と、前記被験者について算出された前記特定のDMRの各々の平均メチル化率と、前記データベースに予め記憶されている多変量判別式と、を用いて解析する解析手段と、前記解析手段による解析結果に基づいて、前記被験者の大腸癌発症の診断に用いる支援情報を生成する診断支援手段と、を備え、前記特定のDMRは、表1に示されるTNFSF4、NFATC1、CACNA1A、CACNA1C、CACNA1E、CACNA1G、CACNG3、CACNG8、RYR1、FAM222A及びMDGA1からなる群から選択される二箇所以上のDMRを含む、ことを特徴とする診断支援システムが提供される。
【0014】
本発明によれば、ヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症に関する診断を支援するための診断評価方法であって、被験者であるヒト潰瘍性大腸炎患者から採取した直腸粘膜組織又は大腸粘膜組織のDNAにおける、複数の特定のメチル化可変領域(DMR)の中に存在する全てのCpGサイトのメチル化情報を取得し、前記特定のDMRの各々の平均メチル化率を算出する第一工程と、前記被験者について算出された前記特定のDMRの各々の平均メチル化率と、予め定められた多変量判別式と、を用いて解析する第二工程と、を有し、前記第二工程における解析結果は、前記被験者に関する大腸癌発症の診断の支援情報として用いられ、前記特定のDMRは、表1に示されるTNFSF4、NFATC1、CACNA1A、CACNA1C、CACNA1E、CACNA1G、CACNG3、CACNG8、RYR1、FAM222A及びMDGA1からなる群から選択される二箇所以上のDMRを含む、ことを特徴とする診断評価方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
上記発明によれば、ヒト潰瘍性大腸炎患者から採取された直腸粘膜又は大腸粘膜組織のDNA中の特定のDNRの平均メチル化率を調べることによって、従来に比べて実現可能性が高くかつ再現性よくヒト潰瘍性大腸炎患者由来の大腸癌発症の可能性を判別し、医師が診断するための補助的な支援情報を提供する診断支援装置、診断支援システム、診断評価方法及び診断支援方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施に関するフローチャートである。
【
図2】本発明の実施に関するシステム構成図である。
【
図3】実施例1において、表1に示されるCpGサイト及びDMRのうちTNFSF4及びNFATC1のメチル化率に基づく癌・非癌患者別の結果を示す図である。
【
図4】実施例1において、表1に示されるCpGサイト及びDMRのうちCACNA1A及びRYR1のメチル化率に基づく癌・非癌患者別の結果を示す図である。
【
図5】実施例1において、表1に示されるCpGサイト及びDMRのうちFAM222A及びMDGA1のメチル化率に基づく癌・非癌患者別の結果を示す図である。
【
図6】実施例1において、TNFSF4及びNFATC1のメチル化率をDMRバイオマーカーとした場合の、潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症の有無の検査の箱ひげ図及びROC曲線である。
【
図7】実施例1において、TNFSF4及びNFATC1のメチル化率に加えて、更にCACNA1Eのメチル化率をDMRバイオマーカーとした場合の、潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症の有無の検査の箱ひげ図及びROC曲線である。
【
図8】実施例1において、TNFSF4、NFATC1、及びCACNA1Eのメチル化率に加えて、更にMDGA1のメチル化率をDMRバイオマーカーとした場合の、潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症の有無の検査の箱ひげ図及びROC曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の代表的な実施形態を説明するが、本発明はこれに限られるものではなく、本発明の目的を達成する範囲において変更可能である。
【0018】
<DNAメチル化とDNAメチル化率>
ゲノムDNAの塩基配列中には、核酸塩基であるシトシン(Cytosione)とグアニン(Guanine)が連続するCG配列が集中して存在する領域(CpGサイト;Cytosine-Phosphodiester-Guanine Site)が存在し、CpGサイトのシトシン残基は、5位の炭素がメチル化修飾を受け得る。本発明及び本願明細書において、CpGサイトのメチル化率とは、一の生物個体から採取された生体試料中のDNAに含まれるCpGサイトのうち、メチル化されているシトシン残基(メチル化シトシン)量とメチル化されていないシトシン残基(非メチル化シトシン)量とを測定し、両者の和に対するメチル化シトシン量の割合(%)を意味する。
【0019】
<DMR>
本発明においてはメチル化可変領域(differentially methylated region;以下本願明細書において「DMR」ということがある。)を大腸癌発症に関する診断を支援するためのバイオマーカーとして用いる(以下、本願明細書において「DMRバイオマーカー」ともいう。)。このようなDMRバイオマーカーとして用いられるDMR及びそこに含まれるCpGサイトとしては、メチル化率が非癌潰瘍性大腸炎患者群と発癌潰瘍性大腸炎患者群とで大きく相違するものが好ましい。両群の差が大きいほど、大腸癌の発症の有無をより確実に検出することができる。
ここで、発癌潰瘍性大腸炎患者(発癌UC患者)群とは、ヒト潰瘍性大腸炎に罹患した後に大腸癌の診断を受けた患者からなる母集団であり、本発明の「第一の母集団」に相当する。より詳細には、発癌潰瘍性大腸炎患者群には、(1)ヒト潰瘍性大腸炎罹患後に大腸癌と診断されて未だ治療を行っていない患者、(2)ヒト潰瘍性大腸炎罹患後に大腸癌の診断を受け、治療等を行っている患者、(3)ヒト潰瘍性大腸炎罹患後に大腸癌の診断を受け、一度は大腸癌が治癒・寛解に至ったものの大腸癌が再発した患者、が含まれ得る。本発明における「第一の母集団」は、上記の(1)~(3)の全てを網羅するデータを収集して実施される必要はなく、(1)~(3)の一部に関するデータに基づいて実施されてもよい。
また、非癌潰瘍性大腸炎患者(非癌UC患者)群とは、ヒト潰瘍性大腸炎に罹患した後に大腸癌発症の診断を未だ受けていない患者からなる母集団であり、本発明の「第二の母集団」に相当する。より詳細には(1)ヒト潰瘍性大腸炎罹患後に大腸癌発症の診断を未だ受けていない患者、(2)ヒト潰瘍性大腸炎患者罹患後に大腸癌と診断を受け、大腸癌が治癒・寛解に至った患者、が含まれ得る。本発明における「第二の母集団」は上記の(1)~(2)の全てを網羅するデータを収集して実施される必要はなく、(1)~(2)の一部に関するデータに基づいて実施されてもよい。
本発明においてDMRバイオマーカーとして用いるDMR及びそこに含まれるCpGサイトは、いずれも発癌潰瘍性大腸炎患者のメチル化率が非癌潰瘍性大腸炎患者よりも有意に高い、すなわち、大腸癌の発症によりメチル化率が高くなるものである。
【0020】
本発明においてDMRバイオマーカーとして用いられるDMR及びそこに含まれるCpGサイトとしては、同一の発癌UC患者において、大腸の非癌部位と癌部位とのメチル化率の差が小さいものがより好ましい。
このようなCpGサイトのメチル化率又はDMRの平均メチル化率をDMRバイオマーカーとすることにより、発癌UC患者の非癌部位から採取された直腸粘膜組織又は大腸粘膜組織を用いる場合であっても、癌部位から採取された直腸粘膜組織又は大腸粘膜組織を用いた場合と同様に、高感度に大腸癌発症可能性の有無を示すDNAメチル化情報を得ることができる。
【0021】
本発明においてDMRバイオマーカーとして用いられるDMR及びそこに含まれるCpGサイトは表1の記載で特定されるDMR及びそこに含まれるCpGサイトである。
表中、「Gene Symbol」は、当該DMRが示す遺伝子の名称を示す。「Ensemble ID」は当該DMRを示す遺伝子に紐づけられたIDであり、これを参照することで当該DMRの具体的な塩基配列を特定することが可能である。「染色体番号」は当該DMRが存在するヒトゲノム染色体の番号を示す。「DMR Start」、「DMR End 」は当該染色体のゲノム配列上の位置を示す数値であり、「Width」は当該DMRの塩基対の個数を示す数値である。なお、これらの数値は一例であり、参照するゲノムDNAのデータベースにより異なる場合もあるが、その場合はGene Symbol及び/又はEnsemble IDによるDMRの領域の特定が優先され、当業者であればこの記載を基に適宜特定のDMRの領域を特定することが可能である。
【0022】
【0023】
本発明においてDMRバイオマーカーとして用いられるDMRは表1に記載のDMRから選択される二箇所以上を含み、三箇所以上、四箇所以上、五箇所以上、六箇所以上、七箇所以上、八箇所以上を含んでもよく、11種類のDMRのうち、いずれの二箇所以上のDMRを含むものであってもよいが、TNFS4及びNFATC1が少なくとも含まれることが好ましい。
これら二箇所のDMRがコードする遺伝子は、T細胞活性化経路に関与、又は細胞接着/遊走に関与する遺伝子である。より具体的には、TNFSF4(TNF Superfamily Member4)はTNFスーパーファミリーに属する1回膜貫通型の共刺激分子をコードする遺伝子であり、OX40Lとも表記されうる。ここから翻訳されるタンパク質は、T細胞と抗原提示細胞の相互作用において機能し、活性化T細胞の内皮細胞への接着を調節する機能を有する。NFATC1(Nuclear Factor of Activated T Cells 1)はNFATのアイソフォームの1種をコードする遺伝子であり、ここから翻訳されるタンパク質は、Rel Homology domain(RHD)のN末端側に位置するCalcium regulatory domain(CRD)を介してカルシウム依存性ホスファターゼと結合する機能を有する。
【0024】
本発明においてDMRバイオマーカーとして用いられるDMRは、上述の二箇所に加えて、CACNA1A、CACNA1C、CACNA1E、CACNA1G、CACNG3、CACNG8及びRYR1からなる群から選択される一箇所以上を更に含むことができる。
これら七箇所のDMRがコードする遺伝子は、電位依存性カルシウムチャネルを構成する各種タンパク質やリアノジン受容体をコードし、ここから翻訳されるタンパク質は、細胞内カルシウムイオン濃度の調節に関与する。
【0025】
本発明においてDMRバイオマーカーとして用いられるDMRは、上述の二箇所及び/又は上述の七箇所から選ばれる一箇所以上のDMRに加えて、FAM222A及びMDGA1からなる群から選択される一箇所以上を更に含むことができる。
FAM222Aは詳細な機能が未だ解明されていないタンパク質をコードする遺伝子であり、C12orf34とも表記されうる。MDGA1(MAM Domain Containing Glycosylphosphatidylinositol Anchor 1)はイムノグロブリンスーパーファミリーに属するGPIアンカー型の細胞外タンパク質をコードする遺伝子である。
【0026】
被験者であるヒト潰瘍性大腸炎患者から採取するDNAは、直腸粘膜組織又は大腸粘膜組織のいずれでもよいが、直腸粘膜組織とすることがより好ましい。大腸深部の粘膜は内視鏡等を用いて採取する必要があり、それを採取する際の患者の負担が大きい。その一方で、肛門付近の直腸粘膜は比較的容易に採取でき、それを採取する際の患者の負担が小さい。大腸の非癌部位と癌部位とのメチル化率の差が小さいCpGサイト又はDMRをマーカーとすることにより、癌部位が形成される位置にかかわらず、肛門付近の直腸粘膜を用いて大腸癌を発症している可能性の高い患者を漏れなく検出することができる。
【0027】
<DNAメチル化情報>
本発明及び本願明細書においてDNAメチル化情報とは、CpGサイトのメチル化率を示す数値データ、DMR全体のメチル化率を示す数値データ、DMRに含まれるすべてのCpGサイトのメチル化率の平均を示す数値データ、DMRメチル化レベルの数値(β値)の数値データ、発癌UC患者のβ値と非癌UC患者のβ値の差であるΔβ値の数値データが含まれる。DNAメチル化情報は、コンピュータで利用可能な形式にて、CD、DVD、ハードディスク、あるいは半導体メモリ等のコンピュータで読取り可能な記憶媒体に保存された状態で提供されるデータであってもよい。
なお、本願明細書におけるコンピュータは、本発明の情報処理装置と同義であるものとして以下説明する。
【0028】
<DNAメチル化情報の処理方法>
本発明の実施に係るDNAメチル化情報の処理方法について、
図1と
図2を用いて説明する。
図1は、本発明の実施に関するフローチャートである。
図2は、本発明の実施に関するシステム構成図である。
なお、
図2は、コンピュータ10とデータベース20とが互いに独立した構成であるものとして図示している。但し、本発明の実施において、必ずしもコンピュータ10とデータベース20とが互いに独立している必要はなく、コンピュータ10とデータベース20が一体的な構成として実現されてもよい(コンピュータ10に相当する構成が、データベース20に相当する構成を組み込んでもよい)。
【0029】
(1)DNA回収/サンプル調製
先ず、被験者であるヒト潰瘍性大腸炎患者から採取した生体試料(直腸粘膜組織又は大腸粘膜組織)からDNAが回収され、サンプル調製が行われる(ステップS101)。
ここで、ステップS101におけるDNA回収/サンプル調製は、ヒトによって手動で実現されてもよいし、不図示の装置によって機械的に実現されてもよい。
DNAの回収方法は、公知の方法であれば特に限定されず、市販のDNA抽出・精製キット等を用いることができる。また、生体試料は採取した直後にDNA回収を行ってもよく、各種前処理を施した後にDNA回収を行ってもよい。ここで、各種前処理は、生体試料を凍結させたり、常法に従いホルマリン固定及びパラフィン包埋を施されたFFPEサンプルを調整したりすることを指す。市販のDNA抽出・精製キットとしては、例えば、後述する参考例1のようにQIAmp DNA FFPE tissue kit(Qiagen社製)を用いることができる。
サンプル調製は、DNA中のCpGサイトのメチル化率を測定できる状態にする方法であれば特に限定されるものではない。CpGサイトのメチル化率を測定する方法としては、特定のCpGサイトについてメチル化されたシトシン残基とメチル化されていないシトシン残基とを区別して定量可能な方法であり、当該技術分野において公知の方法としては、バイサルファイトシーケンス法、COBRA(Combined Bisulfite Restriction Analysis)法、qAMP(quantitative analysis of DNA methylation using real-time PCR)法、MIAM(Microarrau-based Integrated Anlysis of Methylation by Isoschizomers)法等があげられる。
なお、ステップS101における生体試料の採取は、例えば、特許文献2、国際公開パンフレットWO2018/008153号、国際公開パンフレットWO2018/062361号等に記載の大腸粘膜採取用キット、大腸粘膜採取具、大腸粘膜採取補助具等を用いることがより好ましい。
【0030】
(2)DNAメチル化情報の取得/特定のDMRの平均メチル化率の算出
次に、コンピュータ10は、ステップS101において調製されたサンプルから測定される特定のDMR(表1に示されるDMR)の中に存在するCpGサイトのメチル化情報を取得し、特定のDMRの平均メチル化率を算出する(ステップS103)。
ステップS103において算出されるDMRの平均メチル化率は、任意のDMRに存在する全てのCpGサイトのメチル化率の相加平均値(算術平均値)又は相乗平均値(幾何平均値)を意味するが、これ以外の平均値でもよい。
ステップS103における特定のDMRの平均メチル化率の算出に用いられるDNAメチル化情報は、ヒトによってコンピュータ10に手動入力されてもよいし、不図示の記憶媒体に保存された状態で提供され、当該記憶媒体からコンピュータ10に読み込まれることによって取得されてもよい。
ステップS103における特定のDMRの平均メチル化率の算出は、ヒトによる手動の実行命令(DNAメチル化情報の手動入力とは別の操作)を契機としてコンピュータ10が実行してもよいし、コンピュータ10がDNAメチル化情報を取得するのと同時に又は連続的に自動的に実行してもよい。
【0031】
(3)被験者の大腸癌発症に関する解析
次に、コンピュータ10は、ステップS103において被験者について算出された複数の特定のDMRの各々の平均メチル化率を用いて、被験者であるUC患者の大腸癌発症可能性について解析して解析結果を得る(ステップS105)。
ステップS105の解析において、コンピュータ10は、データベース20に格納されている多変量判別式を用いる。当該多変量判別式は、ステップS105の解析の事前に予め定められた関数式である。より具体的には、当該多変量判別式は、上記の発癌潰瘍性大腸炎患者群(第一の母集団に相当)から得られた特定のDMRの各々の平均メチル化率と、上記の非癌潰瘍性大腸炎患者群(第二の母集団に相当)から得られた特定のDMRの各々の平均メチル化率と、を説明変数とする多変量解析によって定められた関数式である。
また、被検者である第一の母集団、及び第二の母集団のいずれかに属するヒト潰瘍性大腸炎患者は、潰瘍性大腸炎の診断を受けてから10年以上の罹患年数を有する者であることが好ましい。このように長期にわたり罹患が継続している患者においては、腸管粘膜での広範囲かつ高度な炎症が長期間持続しており、慢性的な炎症が原因となる遺伝的および後天的な形質転換を獲得する可能性が高まるため、罹患年数を長く有する者であるほど、特定のDMRの各々の平均メチル化率、β値やΔβ値のようなDNAメチル化情報等、大腸癌発症可能性を評価する重要な指標が安定的に得られやすいと考えられる。なお、UC患者の大腸癌発症には一般的な散発性大腸癌とは異なり、慢性炎症の長期持続によるDNA障害が重要であることが知られている。
【0032】
また、ステップS105の解析において、コンピュータ10は、上記の多変量判別式に加え、更に、予め定められた閾値を用いて解析することもできる。当該閾値は、ステップS105の解析の事前に予め定められた値であり、その値は上記の多変量判別式に基づく応答変数として定められてもよい。当該閾値は、解析対象となる患者群の症例数に応じて変化しうるが、5%を下限とし、25%を上限とし、5%を超え25%を下回る数値であればいずれでもよく、特に限定されないが、例えば、5%を超え20%を下回る数値、5%を超え15%を下回る数値、5%を超え10%を下回る数値、10%を超え25%を下回る数値、15%を超え25%を下回る数値、20%を超え25%を下回る数値があげられる。
【0033】
データベース20に格納される多変量判別式は、多変量解析の対象となるDNAメチル化情報(第一の母集団及び第二の母集団から得られた特定のDMRの平均メチル化率)を蓄積し、その蓄積したDNAメチル化情報を機械学習することによって、蓄積に応じてブラッシュアップされてもよい。
上記の多変量判別式の作成に用いられる機械学習は、本発明の目的を達成する範囲において既知の手法のいずれも適用可能であり、その結果として作成される多変量判別式は、ロジスティック回帰式、線形判別式、ナイーブベイズ分類器で作成された式、又はサポートベクターマシンで作成された式のいずれであってもよい。
【0034】
ステップS105の解析において、コンピュータ10は、少なくとも二箇所以上のDMRについて、被験者から抽出したDNA中における平均メチル化率を上記の多変量判別式及び/又は上記の閾値を用いて解析し、その解析結果を得る。
ここでコンピュータ10が得る解析結果は、被験者から得られた特定のDNRの各々の平均メチル化率を上記の多変量判別式の変数に代入して得られる結果を示す情報であってもよく、被験者から得られた特定のDNRの各々の平均メチル化率と上記の閾値の大小関係を示す情報であってもよく、これらの情報に基づいて大腸癌発症の可能性が高い患者/低い患者を判別した結果を示す情報であってもよい。
例えば、被験者について算出された特定のDMRの平均メチル化率が上記の閾値を上回る場合、コンピュータ10は、その被験者の大腸癌発症について陽性と判定する。なお、コンピュータ10が陽性と判定したとしても、それに応じて生成する支援情報は、大腸癌発症を確定的に示す内容にならないことは当業者であれば十分に理解できる。コンピュータ10が生成する支援情報は、あくまで、医師による診断を補助するための情報に過ぎないからである。
被験者について算出された特定のDMRの平均メチル化率が上記の閾値を下回る場合、特異度が50%程度であって偽陰性の可能性もあるので、コンピュータ10は、必ずしも陰性と判定する必要はない。
【0035】
(4)支援情報の生成
次に、コンピュータ10は、ステップS105において得られた解析結果に基づいて、被験者であるUC患者の大腸癌発症の診断を支援する支援情報を生成する(ステップS107)。
ステップS107において生成される支援情報は、医師が被験者について大腸癌発症の診断する際に有用な情報であればよく、その態様は文字列、数値、画像等のいずれであってもよい。例えば、当該支援情報は、「発症可能性が高い」または「発症可能性が低い」等の大腸癌発症可能性の高さを示す特定の文字列であってもよく、被験者について大腸癌発症の診断を確定するための検査(例えば、内視鏡検査等)の受診を推奨するか否かを示す文字列であってもよく、0~100%の範囲内の任意の割合等の数値であってもよく、上述の文字列や数値を単独でまたは組み合わせて表示する画像であってもよい。
ステップS107において生成された支援情報は、コンピュータ10によって出力されてもよく、コンピュータ10に接続された不図示のプリンタ、モニタ、ディスプレイ等の出力装置によって出力されてもよい。
【0036】
上述したステップS103は本発明の「第一工程」に相当する処理であり、上述したステップS105は本発明の「第二工程」に相当する処理である。
ステップS105における解析に用いられる特定のDMRは、表1に示されるDMR(TNFSF4、NFATC1、CACNA1A、CACNA1C、CACNA1E、CACNA1G、CACNG3、CACNG8、RYR1、FAM222A及びMDGA1)からなる群から選択される二箇所以上のDMRを含む。
また、ステップS105における解析結果は、ステップS107において被験者に関する大腸癌発症の診断の支援情報として用いられる。
従って、上述したDNAメチル化情報の処理方法は、本発明に係る診断支援方法及び診断評価方法を含んでいる。
なお、本発明の「第一工程」及び「第二工程」に相当するステップS103及びステップS105の処理の主体が、コンピュータ10である実施形態を説明したが、本発明の実施はこれに限られない。本発明の目的を達成する範囲において、それぞれの処理の一部又は全部が、ヒトによって手動で実現されてもよく、又は、ヒトとコンピュータの協働によって実現されてもよい。
【0037】
また、上述したステップS103、ステップS105、及びステップS107を実行するコンピュータ10は、本発明の「メチル化率算出手段」と「解析手段」と「診断支援手段」とを備えるので、本発明に係る診断支援装置に相当するものである。そして、コンピュータ10とデータベース20とを組み合わせたコンピュータシステムが、本発明に係る診断支援システムに相当する。
ここで、診断支援装置(コンピュータ10)は、本発明に係る診断支援方法を実行するプログラムまたはソフトウェアと、当該プログラムまたは当該ソフトウェアを実行するハードウェアとから構成される装置である。当該ハードウェアの代表的な例は、CPU(又はプロセッサ)、RAM、ROM、ハードディスク、ディスプレイ、キーボード、マウス、通信インターフェース等が挙げられる。診断支援装置(コンピュータ10)は、本発明に係る診断支援方法を実現する各機能に対応するモジュールを有するプログラムをRAMまたはROMに格納しておき、CPU(又はプロセッサ)によって当該プログラムを実行してもよい。また、このようなプログラムも本発明の範囲に含まれる。
【0038】
以上、代表的な実施形態に基づいて本発明を説明した。本発明に係る診断支援方法、診断支援システム、診断評価方法及び診断支援装置は、ヒトUC患者の大腸癌発症可能性を判定するために用いることができ、ゲノムDNA中のDMR及びそこに含まれるCpGサイトのうち、発癌潰瘍性大腸炎患者群と非癌潰瘍性大腸炎患者群とでメチル化率について有意な差が認められるDMRをマーカーとすることを特徴とする。そして、これらのマーカーとなるCpGサイトのメチル化率又はDMRの平均メチル化率をマーカーとして、ヒトUC患者が大腸癌を発症している可能性が高いか否かを示す支援情報を生成して出力することによって、視認判別が非常に困難であるヒトUC患者における大腸癌の発症可能性をより客観的かつ感度よく検出することができ、医師が内視鏡検査等による確定診断のための検査を行うか否かの判断を補助し、大腸癌の早期発見が期待できる。さらには、本発明に係る診断支援方法及び診断支援装置を用いることによって、内視鏡検査等の患者への負担の大きい検査をヒトUC患者に実施する必要があるか否かのスクリーニングに用いることができ、より効率的な大腸癌検診等に用いることができる。また、本発明によって大腸癌の早期発見や、効率的な大腸癌検診が実現されることにより、大腸癌の適切な治療方法を、それを必要とする被検者に適切に提供することができる。大腸癌の治療方法としては、一般に大腸癌の治療に用いることができる抗癌剤として知られている治療用薬剤を、各々の薬剤に応じた有効量を、当該被検者に各々の薬剤に適した投与経路で投与することによって実現可能である。
【0039】
本発明は以下の技術思想を包含する。
(1)ヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症に関する診断を支援するための診断支援方法であって、被験者であるヒト潰瘍性大腸炎患者から採取した直腸粘膜組織又は大腸粘膜組織のDNAにおける、複数の特定のメチル化可変領域(DMR)の中に存在する全てのCpGサイトのメチル化情報を取得し、前記特定のDMRの各々の平均メチル化率を算出する第一工程と、前記被験者について算出した前記特定のDMRの各々の平均メチル化率と、予め定められた多変量判別式と、を用いて解析する第二工程と、を有し、前記第二工程における解析結果は、前記被験者に関する大腸癌発症の診断の支援情報として用いられ、前記特定のDMRは、表1に示されるTNFSF4、NFATC1、CACNA1A、CACNA1C、CACNA1E、CACNA1G、CACNG3、CACNG8、RYR1、FAM222A及びMDGA1からなる群から選択される二箇所以上のDMRを含む、ことを特徴とする診断支援方法。
(2)前記特定のDMRは、表1に示されるTNFSF4及びNFATC1を少なくとも含む、(1)に記載の診断支援方法。
(3)前記特定のDMRは、表1に示されるCACNA1A、CACNA1C、CACNA1E、CACNA1G、CACNG3、CACNG8、及びRYR1からなる群から選択される一箇所以上のDMRを更に含む、(2)に記載の診断支援方法。
(4)前記特定のDMRは、表1に示されるFAM222A及びMDGA1からなる群から選択される一箇所以上のDMRを更に含む、(2)又は(3)に記載の診断支援方法。
(5)前記第二工程は、前記特定のDMRの平均メチル化率及び前記多変量判別式に加え、更に、予め定められた閾値を用いて解析する、(1)から(4)のいずれか一つに記載の診断支援方法。
(6)前記多変量判別式は、ヒト潰瘍性大腸炎に罹患した後に大腸癌の診断を受けた患者からなる第一の母集団から得られた前記特定のDMRの平均メチル化率と、ヒト潰瘍性大腸炎に罹患した後に大腸癌発症の診断を未だ受けていない患者からなる第二の母集団から得られた前記特定のDMRの平均メチル化率と、を説明変数とする多変量解析によって定められた関数式であり、前記閾値は、前記第二工程が行われる事前に前記多変量判別式に基づいて予め定められた値である、(5)に記載の診断支援方法。
(7)前記閾値は、5%を超え25%を下回る値であり、前記第二工程における解析は、前記被験者について算出された前記特定のDMRの平均メチル化率が前記閾値を上回る場合、前記被験者の大腸癌発症について陽性と判定する、(6)に記載の診断支援方法。
(8)前記第一の母集団及び前記第二の母集団を構成する患者は、ヒト潰瘍性大腸炎の罹患から経過した年数が10年以上の患者である、(6)又は(7)に記載の診断支援方法。
(9)前記多変量判別式が、ロジスティック回帰式、線形判別式、ナイーブベイズ分類器で作成された式、又はサポートベクターマシンで作成された式である、(1)から(8)のいずれか一つに記載の診断支援方法。
(10)前記被験者であるヒト潰瘍性大腸炎患者から採取したDNAが直腸粘膜組織である、(1)から(9)のいずれか一つに記載の診断支援方法。
(11)前記第一工程における算出と前記第二工程における解析は、情報処理装置によって実現される処理であり、前記情報処理装置は、前記第二工程における解析の結果に基づいて、前記被験者について大腸癌発症の診断を確定するための検査を推奨するか否かを示す情報を、前記支援情報として生成する第三工程を、更に有する、(1)から(10)のいずれか一つに記載の診断支援方法。
(12)ヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症に関する診断を支援するための診断支援装置であって、被験者であるヒト潰瘍性大腸炎患者から採取した直腸粘膜組織又は大腸粘膜組織のDNAにおける、特定のメチル化可変領域(DMR)の中に存在する全てのCpGサイトのメチル化情報を取得し、前記特定のDMRの各々の平均メチル化率を算出するメチル化率算出手段と、前記被験者について算出された前記特定のDMRの各々の平均メチル化率と、予め定められた多変量判別式と、を用いて解析する解析手段と、前記解析手段による解析結果に基づいて、前記被験者の大腸癌発症の診断に用いる支援情報を生成する診断支援手段と、を備え、前記特定のDMRは、表1に示されるTNFSF4、NFATC1、CACNA1A、CACNA1C、CACNA1E、CACNA1G、CACNG3、CACNG8、RYR1、FAM222A及びMDGA1からなる群から選択される二箇所以上のDMRを含む、ことを特徴とする診断支援装置。
(13)ヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症に関する診断を支援するための診断支援装置と、データベースと、を備える診断支援システムであって、前記診断支援装置は、被験者であるヒト潰瘍性大腸炎患者から採取した直腸粘膜組織又は大腸粘膜組織のDNAにおける、複数の特定のメチル化可変領域(DMR)の中に存在する全てのCpGサイトのメチル化情報を取得し、前記特定のDMRの各々の平均メチル化率を算出するメチル化率算出手段と、前記被験者について算出された前記特定のDMRの各々の平均メチル化率と、前記データベースに予め記憶されている多変量判別式と、を用いて解析する解析手段と、前記解析手段による解析結果に基づいて、前記被験者の大腸癌発症の診断に用いる支援情報を生成する診断支援手段と、を備え、前記特定のDMRは、表1に示されるTNFSF4、NFATC1、CACNA1A、CACNA1C、CACNA1E、CACNA1G、CACNG3、CACNG8、RYR1、FAM222A及びMDGA1からなる群から選択される二箇所以上のDMRを含む、ことを特徴とする診断支援システム。
(14)ヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症に関する診断を支援するための診断評価方法であって、被験者であるヒト潰瘍性大腸炎患者から採取した直腸粘膜組織又は大腸粘膜組織のDNAにおける、複数の特定のメチル化可変領域(DMR)の中に存在する全てのCpGサイトのメチル化情報を取得し、前記特定のDMRの各々の平均メチル化率を算出する第一工程と、前記被験者について算出された前記特定のDMRの各々の平均メチル化率と、予め定められた多変量判別式と、を用いて解析する第二工程と、を有し、前記第二工程における解析結果は、前記被験者に関する大腸癌発症の診断の支援情報として用いられ、前記特定のDMRは、表1に示されるTNFSF4、NFATC1、CACNA1A、CACNA1C、CACNA1E、CACNA1G、CACNG3、CACNG8、RYR1、FAM222A及びMDGA1からなる群から選択される二箇所以上のDMRを含む、ことを特徴とする診断評価方法。
(a)被験者であるヒト潰瘍性大腸炎患者から採取した直腸粘膜組織又は大腸粘膜組織のDNAから取得した、特定のメチル化可変領域(DMR)の中に存在する全てのCpGサイトのメチル化情報の使用であって、前記メチル化情報に基づいて前記特定のDMRの各々の平均メチル化率を算出し、算出した前記特定のDMRの各々の平均メチル化率と、予め定められた多変量判別式と、を用いて解析し、解析した結果に基づいて、前記被験者の大腸癌発症の診断に用いる支援情報を生成し、前記特定のDMRは、表1に示されるTNFSF4、NFATC1、CACNA1A、CACNA1C、CACNA1E、CACNA1G、CACNG3、CACNG8、RYR1、FAM222A及びMDGA1からなる群から選択される二箇所以上のDMRを含む、ことを特徴とするメチル化情報の使用。
(b)被験者であるヒト潰瘍性大腸炎患者の大腸癌発症に関する診断を支援するためのDNAメチル化率分析用マーカーに用いられる、DNA断片の応用であって、前記DNA断片は前記被検者から採取した直腸粘膜組織又は大腸粘膜組織のDNAから取得したDNA断片であり、前記DNA断片に含まれる複数の特定のメチル化可変領域(DMR)の中に存在する全てのCpGサイトのメチル化率を測定してメチル化情報を取得し、前記メチル化情報に基づいて前記特定のDMRの各々の平均メチル化率を算出し、算出した前記特定のDMRの各々の平均メチル化率と、予め定められた多変量判別式と、を用いて解析し、解析した結果に基づいて、前記被験者の大腸癌発症の診断に用いる支援情報を生成し、前記特定のDMRは、表1に示されるTNFSF4、NFATC1、CACNA1A、CACNA1C、CACNA1E、CACNA1G、CACNG3、CACNG8、RYR1、FAM222A及びMDGA1からなる群から選択される二箇所以上のDMRを含む、ことを特徴とする、応用。
【実施例0040】
次に、実施例等を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
[参考例1]
(1)解析対象としたUC患者群
上記の多変量判別式及び閾値を定める際に解析対象としたUC患者142名(発癌UC患者39名及び非癌UC患者103名)に関する情報を表2に示す。なお、解析対象としたUC患者は、いずれもヒト潰瘍性大腸炎の罹患から経過した年数が10年以上の患者とした。
【0042】
【0043】
(2)DNAのメチル化レベルの網羅的解析
(2-1)生体試料の採取及びDNA抽出
上記発癌UC患者及び非癌UC患者の直腸粘膜組織を経肛門的に採取し、-80℃に凍結してサンプルとした。サンプルの一部を切り出し、QIAmp DNA FFPE tissue kit(Qiagen社製)を使用してDNAを抽出した。
【0044】
(2-2)DNAサンプルの品質評価
得られたDNAの濃度は次のようにして求めた。すなわち、Quant-iT PicoGreen dsDNA Assay Kit(Life Technologies社製)を用いて各サンプルの蛍光強度を測定し、キット付属のλ-DNAの検量線を用いて濃度を算出した。
次に、各サンプルをTE(pH8.0)にて1ng/μLに希釈し、Illumina FFPE QC Kit(Illumina社製)及びFast SYBR Green Master Mix(Life Technologies社製)を用いてリアルタイムPCRを行い、Ct値を求めた。サンプルとポジティブコントロールとのCt値の差(以下、ΔCt値)をサンプルごとに算出し、品質を評価した。ΔCt値が5未満のサンプルは品質良好と判断し、以降のステップに進めた。
【0045】
(2-3)バイサルファイト処理
EZ DNA Methylation Kit(ZYMO RESEARCH社製)を使用して、DNAサンプルに対してバイサルファイト処理を実施した。
【0046】
(2-4)分解DNAの修復及び全ゲノム増幅
バイサルファイト処理後のDNAに対して、Infinium HD FFPE Restore Kit(Illumina社製)を使用し、分解DNAを修復した。修復されたDNAをアルカリ変性した後、中和させ、HumanMethylation EPIC DNA Analysis Kit(Illumina社製)の全ゲノム増幅用の酵素とプライマーを添加し、37℃のIncubation Oven(Illumina社製)で20時間以上、等温で反応させることによって、全ゲノムを増幅させた。
【0047】
(2-5)全ゲノム増幅したDNAの断片化と精製
全ゲノム増幅したDNAに、HumanMethylation EPIC DNA Analysis Kit(Illumina社製)の断片化用の酵素を添加し、Microsample Incubator(SciGene)で37℃、1時間反応させた。断片化したDNAに、共沈剤と2-プロパノールを加えて遠心分離処理し、DNAを沈澱させた。
【0048】
(2-6)ハイブリダイゼーション
沈澱させたDNAに、Hybridization bufferを加え、48℃のHybridization Oven(Illumina社製)で1時間反応させ、DNAを溶解させた。溶解させたDNAを95℃のMicrosample Incubator(SciGene社製)で20分間インキュベートして1本鎖に変性させた後、HumanMethylation EPIC DNA Analysis Kit(Illumina社製)のBeadChip上に分注した。48℃のHybridization Ovenで16時間以上反応させ、BeadChip上のプローブと1本鎖DNAをハイブリダイズした。
【0049】
(2-7)標識反応及びスキャニング
ハイブリダイゼーション後のBeadChip上のプローブを伸長反応させ、蛍光色素を結合させた。次いで、当該BeadChipをiSCANシステム(Illumina社製)でスキャンし、メチル化蛍光強度及び非メチル化蛍光強度を測定した。実験終了時に、スキャンデータが全て揃っていること、及びスキャンが正常に行われたことを確認し、全スキャンデータを格納したデータベースを作成した。
【0050】
[実施例1]
(1)DNAメチル化レベルの定量及び比較解析
参考例1で用いた解析対象集団のDNAメチル化情報のスキャンデータを用いて定量統計解析ソフトウェアR(Version: 3.6.3、64bit、Windows(登録商標))のChAMPパッケージ(Version:2.18.3)を用いてスキャンデータを解析した。
【0051】
スキャンデータであるIDATファイルから強度データを読み込み、デフォルト設定であるBIMQ法(β混合分位正規化)を使用して正規化し、発癌UC患者及び非癌UC患者の条件間でDNAメチル化レベルが異なるDNAメチル化可変領域プローブ(DMP)の検出を行った。BH法により補正p値<0.05のプローブをDMPとして検出した。
【0052】
次に、ProbeLASSO法を用いて、DMPより補正p値<0.05の条件下で、DNAメチル化可変領域(DMR)の検出を行った。
【0053】
DMRの条件は、ProbeLASSO領域内に3個以上の隣接プローブが存在し、かつProbeLASSO領域は2kbに設定した。メチル化レベルが高い場合、β値は1に近づき、メチル化レベルが低い場合、β値は0に近づく。非癌UC患者直腸サンプル群(n=103)に対する発癌UC患者直腸サンプル群(n=39)のDNAメチル化レベルの比較解析には、ChAMPにより算出される発癌UC患者直腸サンプル群(n=39)の平均β値から非癌UC患者直腸サンプル群(n=103)の平均β値を差し引いた値(Δβ値)を用いた。
【0054】
(2)多変量解析によるDMRの選択
DNAメチル化レベルの定量及び比較解析の結果を用いて、統計解析ソフトウェアR(Version: 3.6.3、64bit、Windows(登録商標))を用いて、ElasticNet正則化及びロジスティック回帰分析を実施した。また、網羅的DNAメチル化解析データからCpGバイオマーカー候補を選定する手段として、Δβの絶対値に基づいた絞り込みが報告されている(BMC Med genomics vol.4, p.50, 2011; Sex Dev vol.5, p.70, 2011)。これらの方法に準じて、BeadChipに搭載されている719,407個のCpGサイトからバイオマーカー候補を抽出した。
【0055】
具体的には、まず、719,407個のCpGサイトから、ProbeLASSOアルゴリズムにより、DNAメチル化可変領域として2,998個のDMRを抽出し、さらに、その中からΔβ値の絶対値が0.05超である854個のDMRを抽出した。次に、発癌UC患者と非癌UC患者を区別する重要なバイオマーカー候補を選択することを目的に、ElasticNet正則化を実施した。
【0056】
854個のDMRのうちElasticNet正則化により、上位に位置付けられた5CpGサイトを領域中に含むDMRの結果を表3に示す。
【0057】
【0058】
[実施例2~4:臨床サンプルの多変量解析]
表2に示したUC患者群のデータから算出された特定のDMRにおける平均メチル化率に基づき、全142サンプルのロジスティック回帰を行った。具体的には、39名の発癌UC患者及び103名の非癌UC患者の直腸粘膜組織から採取された検体のDMRメチル化レベルの数値(β値)を用いてロジスティック回帰モデルに基づく多変量判別式を作成して大腸癌患者と非癌患者の判別を行った。
また、当該多変量判別式に対して39名の発癌UC患者のメチル化率を代入して得られる応答変数及び外れ値1名を除外した38名の発癌UC患者のメチル化率を代入して得られる応答変数のそれぞれに基づいて、本発明の実施に用いる閾値を定めた。なお、閾値を定めるにあたり感度については100%で固定した。大腸癌発症の診断を支援するという本発明の目的に照らせば、偽陽性は内視鏡等の精密検査で確定できるので許容できるが、偽陰性は避けたいからである。
上記の多変量解析の結果を、表4に示す。
【0059】
【0060】
DMRバイオマーカーとしてTNFS4及びNFATC1を選択したロジスティック回帰では、ROC-AUCが0.849となった(実施例2;
図6)。また、DMRバイオマーカーとしてTNFS4及びNFATC1に加え、更にCACNA1Eを選択したロジスティック回帰では、ROC-AUCが0.886となった(実施例3;
図7)。さらに、DMRバイオマーカーとしてTNFS4、NFATC1及びCACNA1Eに加え、更にMDGA1を選択したロジスティック回帰では、ROC-AUCが0.903となった(実施例4;
図8)。実施例2-4のいずれにおいても0.8以上と高かった。これらの結果から、選択された複数箇所のDMRの平均メチル化率に基づいて、高感度かつ高特異度で、大腸癌発症の可能性を評価できることが確認された。
【0061】
上記の実施例2-4のいずれにおいても、DMRバイオマーカーとして用いられるDMRには、少なくともTNFS4及びNFATC1が含まれる。
実施例3では、TNFS4及びNFATC1に加え、更にCACNA1EをDMRバイオマーカーとして選択した。なお、実施例の記載は省略するが、CACNA1Eに代えて又は更に追加して、CACNA1A、CACNA1C、CACNA1G、CACNG3、CACNG8、及びRYR1からなる群から選択される一箇所以上のDMRをDMRバイオマーカーとして選択しても、実施例3と同程度の結果になることがわかっている。
実施例4では、TNFS4、NFATC1及びCACNA1Eに加え、更にMDGA1をDMRバイオマーカーとして選択した。なお、実施例の記載は省略するが、MDGA1に代えて又は更に追加して、FAM222AをDMRバイオマーカーとして選択しても、実施例4と同程度の結果になることがわかっている。
【0062】
また、上記の実施例2-4において、39名の発癌UC患者のメチル化率に基づいて定められる閾値は、7%を超え10%を下回る範囲に収まる値であった。一方、外れ値1名を除外した38名の発癌UC患者のメチル化率に基づいて定められる閾値は、実施例3で10%程度、実施例4で約20%に上昇した。