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特開2023-176777インジケーター用粉体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176777
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】インジケーター用粉体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20231206BHJP
   G01N 31/00 20060101ALI20231206BHJP
   C09C 3/10 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C09K3/00 Y
G01N31/00 B
C09C3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089253
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 裕
【テーマコード(参考)】
2G042
4J037
【Fターム(参考)】
2G042AA01
2G042BA04
2G042BA07
2G042BB01
2G042DA08
2G042FA11
2G042FB08
4J037CC15
4J037DD05
4J037EE35
(57)【要約】
【課題】水と接触することで変色する水溶性のインジケーター成分を含み、かつ粉体として維持されうるインジケーター用粉体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本開示の一態様に係るインジケーター用粉体は、水と接触すると変色する水溶性のインジケーター成分(A)と、水溶性高分子(B)と、を含有する。そのインジケーター用粉体は、平均粒子径が15μm以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と接触すると変色する水溶性のインジケーター成分(A)と、水溶性高分子(B)と、を含有し、
平均粒子径が15μm以下である、
インジケーター用粉体。
【請求項2】
前記水溶性高分子(B)が、ポリビニルアルコールを含有する、
請求項1に記載のインジケーター用粉体。
【請求項3】
前記インジケーター成分(A)は、水溶性の塩基性化合物(a1)と、塩基と反応することにより変色する水溶性の有機化合物(a2)とを、含有する、
請求項1又は2に記載のインジケーター用粉体。
【請求項4】
前記塩基性化合物(a1)は、有機酸塩(a12)を含有し、
前記有機酸塩(a12)は、有機酸のアルカリ金属塩と、有機酸のアルカリ土類金属塩とのうち少なくとも一方を含有する、
請求項3に記載のインジケーター用粉体。
【請求項5】
前記インジケーター成分(A)と、前記水溶性高分子(B)との合計に対する、前記有機酸塩(a12)の割合は、0.3質量%以上3.0質量%以下である、
請求項4に記載のインジケーター用粉体。
【請求項6】
水と接触すると変色する水溶性のインジケーター成分(A)と、水溶性高分子(B)と、水と、を含む混合物をスプレードライ法によって粉末化する粉末化工程を含む、
インジケーター用粉体の製造方法。
【請求項7】
前記混合物をスプレードライ法によって粉末化する際、100℃以上160℃以下の温度のノズルから前記混合物を吐出する、
請求項6に記載のインジケーター用粉体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インジケーター用粉体及びその製造方法に関する。より詳細には、インジケーター成分を含有するインジケーター用粉体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
湿度の変化を確認するに当たり、水と接触すると変色する化合物を含む湿度インジケーターが使用されている。特許文献1には、フタレイン系色素等のトリフェニルメタン系色素にアクリルアミド部位を導入した後、水溶性ビニルモノマーとの共重合による高分子化を行うことにより得られる呈色高分子化合物が記載されている。この呈色高分子化合物は、コバルト化合物を含有しない湿度インジケーターを提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-085473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、水と接触することで変色する水溶性のインジケーター成分を含み、かつ粉体として維持されうるインジケーター用粉体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係るインジケーター用粉体は、水と接触すると変色する水溶性のインジケーター成分(A)と、水溶性高分子(B)と、を含有する。そのインジケーター用粉体は、平均粒子径が15μm以下である。
【0006】
本開示の一態様に係るインジケーター用粉体の製造方法は、水と接触すると変色する水溶性のインジケーター成分(A)と、水溶性高分子(B)と、水と、を含む混合物をスプレードライ法によって粉末化する粉末化工程を含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、水と接触することで変色する水溶性のインジケーター成分を含み、かつ粉体として維持されうるインジケーター用粉体及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.概要
本開示のインジケーター用粉体及びその製造方法に至った経緯について説明する。
【0009】
湿度変化に応じて変色する湿度インジケーターとして利用される化合物として、特許文献1(特開2020-085473号公報)に、有害なコバルト化合物を含まない水溶性の有機色素化合物(呈色高分子化合物)が開示されている。この有機色素化合物を物品にコーティング等することにより、物品に湿度インジケーターとしての機能を付与することができる。
【0010】
しかし、発明者の調査によると、水溶性の有機色素化合物は樹脂と馴染みにくい場合が多く、そのため成形用の樹脂組成物にその有機色素化合物を分散させることは容易でない。このため、樹脂組成物から作製される物品自体にインジケーターとしての機能を付与することは困難である。
【0011】
発明者は、有機色素化合物を粉体化することで樹脂への分散性を高めることも検討したが、有機色素化合物は水溶性であるため乾燥しても塊状になりやすく、粉体化することは難しかった。
【0012】
そこで、発明者は、水と接触することで変色する水溶性のインジケーター成分を含み、かつ粉体として維持されうるインジケーターを得るべく、鋭意研究を行った結果、本開示の発明に至った。
【0013】
なお、本開示は上記の経緯によって制限されるものではない。すなわち、例えばインジケーター成分は有機色素化合物のみには制限されず、インジケーター用粉体の用途は樹脂組成物及び物品中に分散させることのみには限られない。
【0014】
本実施形態に係るインジケーター用粉体は、水と接触すると変色する水溶性のインジケーター成分(A)と、水溶性高分子(B)と、を含有する。そのインジケーター用粉体の平均粒子径は15μm以下である。これにより、本実施形態に係るインジケーター用粉体は、水と接触することで変色する水溶性のインジケーター成分(A)を含み、かつ粉体として維持されうる。なお、水溶性のインジケーター成分(A)における「水溶性」とは、23℃での水への溶解度が、20g/100g-HO以上であることを意味する。また、水溶性高分子(B)における「水溶性」とは、23℃での水への溶解度が、30g/100g-HO以上であることを意味する。
【0015】
本実施形態に係るインジケーター用粉体は、水溶性高分子(B)を含むため、水溶性のインジケーター成分(A)のみでは粉体になりにくい場合であっても、粉体として維持されうる。また、インジケーター用粉体が水溶性高分子(B)を含有することにより、インジケーター用粉体が水に触れると吸湿しやすくなる。このため、インジケーター用粉体が水と接触すると、そのインジケーター用粉体中のインジケーター成分(A)が速やかに変色しうる。これにより、インジケーター用粉体が水と接触することで変色する性能を損ないにくくすることができる。
【0016】
更に、本実施形態に係るインジケーター用粉体は、平均粒子径が15μm以下である。このようにインジケーター用粉体の平均粒子径が、特定の数値範囲に調整されていることにより、インジケーター用粉体中の粒子の比表面積が大きくなり、インジケーター用粉体が水と接触した際に生じる変色の程度が大きくなる。また、特にインジケーター用粉体を樹脂組成物に含有させる場合には、樹脂組成物中のインジケーター用粉体の分散性が良好になる。
【0017】
このインジケーター用粉体は、種々の用途に用いられうる。インジケーター用粉体は、例えば、樹脂組成物の添加剤として適用されうる。この場合、このインジケーター用粉体を含有する樹脂組成物からインジケーター用粉体を含む成形品が得られる。
【0018】
2.インジケーター用粉体
以下、本開示のインジケーター用粉体の具体的な構成について詳細に説明する。
【0019】
[物性]
本実施形態に係るインジケーター用粉体の物性について説明する。
【0020】
本実施形態に係るインジケーター用粉体の平均粒子径は、上述の通り、15μm以下である。この場合、インジケーター用粉体中の粒子の比表面積が大きくなり、インジケーター用粉体が水と接触した際に生じる変色の程度が大きくなりやすい。なお、本開示におけるインジケーター用粉体の平均粒子径は、走査電子顕微鏡(SEM)により取得した画像を用いることによって求めることができる。
【0021】
また、インジケーター用粉体の平均粒子径は、10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましい。この場合、インジケーター用粉体が、水と接触した際に生じる変色の程度がより大きくなりやすい。また、インジケーター用粉体の平均粒子径は、3μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましい。この場合、インジケーター用粉体が凝集しにくくなる。
【0022】
インジケーター用粉体の粒子の形状は、例えば、球状等が挙げられる。インジケーター用粉体の粒子の形状は、球状が好ましい。インジケーター用粉体の粒子の形状が球状である場合、インジケーター用粉体が、流動性のあるさらさらした性状を有しやすくなり、樹脂組成物中に均一に分散しやすくなる。また、球状は、真球状及び楕円体状を含む。なお、本明細書において、「真球状」とは、厳密な意味での真球状でなく、略真球状も含む概念である。
【0023】
[成分]
本実施形態に係るインジケーター用粉体に含まれる成分について説明する。
【0024】
(インジケーター成分)
本実施形態に係るインジケーター用粉体は、上述の通り、水と接触すると変色する水溶性のインジケーター成分(A)を含有する。これにより、インジケーター用粉体が、水と接触することで変色することができる。より詳細に説明すると、インジケーター用粉体は大気中の湿度が高くなると、より多くの水と接触することになる。より多くの水と接触したインジケーター用粉体は、変色の程度が大きくなりやすい。
【0025】
インジケーター成分(A)は、例えば水溶性の塩基性化合物(a1)と、塩基と反応することにより変色する水溶性の有機化合物(a2)とを含有する。
【0026】
塩基性化合物(a1)は、水に溶解すると、電離して塩基を発生させる。その塩基性化合物(a1)から発生した塩基が、有機化合物(a2)と反応することで、有機化合物(a2)が変色する。これにより、インジケーター用粉体が水と接触したときに変色しやすくなる。
【0027】
また、インジケーター用粉体がより多くの水と接触すると、より多くの塩基性化合物(a1)が水に溶解し電離する。このため、塩基性化合物(a1)が、より多くの塩基を発生させやすくなる。そして、有機化合物(a2)は、より多くの塩基と反応することでより変色しやすくなる。したがって、インジケーター用粉体は、水溶性の塩基性化合物(a1)と、塩基と反応することにより変色する水溶性の有機化合物(a2)とを含有している場合、より多くの水と接触したインジケーター用粉体は、変色の程度がより大きくなりやすい。
【0028】
塩基性化合物(a1)は、常温(25℃)で固体であることが好ましい。この場合、インジケーター用粉体が水と接触しないときに変色することを抑制することができる。これにより、インジケーター用粉体が、湿度の変化に応じて変色しやすくなる。
【0029】
塩基性化合物(a1)は、強塩基性を有することが好ましい。この場合、インジケーター用粉体が湿度の変化に応じて変色しやすくなる。塩基性化合物(a1)の具体的な例としては、例えばアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属ホウ酸塩、アルカリ土類金属ホウ酸塩、有機酸塩(a12)等が挙げられる。
【0030】
アルカリ金属水酸化物は、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等よりなる群から選択される少なくとも一種を含有する。これらの中でも、アルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウムが特に好ましい。
【0031】
アルカリ土類金属水酸化物は、例えば、水酸化マグネシウム及び水酸化カルシウム等よりなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0032】
アルカリ金属炭酸塩は、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウム等よりなる群から選択される少なくとも一種を含有する。これらの中でも、アルカリ金属炭酸塩は、炭酸ナトリウムが特に好ましい。
【0033】
アルカリ土類金属炭酸塩は、例えば、炭酸マグネシウム及び炭酸カルシウム等よりなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0034】
アルカリ金属ホウ酸塩は、四ホウ酸リチウム、四ホウ酸ナトリウム及び四ホウ酸カリウム等よりなる群から選択される少なくとも一種を含有する。これらの中でも、アルカリ金属ホウ酸塩は、四ホウ酸ナトリウムが特に好ましい。
【0035】
アルカリ土類金属ホウ酸塩は、ホウ酸カルシウム及びホウ酸マグネシウム等よりなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0036】
塩基性化合物(a1)は、上述の通り、有機酸塩(a12)を含有してもよい。この有機酸塩(a12)は、強塩基性を有する化合物である。インジケーター用粉体が、有機酸塩(a12)を含んでいる場合、インジケーター用粉体と、水とが接触したときに発生する塩基の量を調整することができる。これにより、インジケーター用粉体が湿度の変化に応じて変色しやすくなり、かつ過度に変色することを抑制することができる。
【0037】
有機酸塩(a12)は、例えば有機酸のアルカリ金属塩と、有機酸のアルカリ土類金属塩とのうち少なくとも一方を含有する。有機酸のアルカリ金属塩は、例えば有機酸と、アルカリ金属及びアルカリ金属水酸化物のうち少なくとも一方との反応によって生成する。また、有機酸のアルカリ土類金属塩は、例えば有機酸と、アルカリ土類金属及びアルカリ土類金属水酸化物のうち少なくとも一方との反応によって生成する。
【0038】
有機酸のアルカリ金属塩は、例えば、オレイン酸リチウム、オレイン酸ナトリウム及びオレイン酸カリウム等よりなる群から選択される少なくとも一種を含有する。また、これらの中でも、有機酸のアルカリ金属塩は、オレイン酸カリウムが特に好ましい。この場合、インジケーター用粉体が湿度の変化に応じて特に変色しやすくなり、かつ過度に変色することを特に抑制することができる。
【0039】
有機酸のアルカリ土類金属塩は、例えば、オレイン酸マグネシウム及びオレイン酸カルシウム等よりなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0040】
有機化合物(a2)は、光を吸収することができ、かつこの有機化合物(a2)によって吸収された光の波長及びその波長の範囲がpHの変化に応じて変化する性質を有する化合物であることが好ましい。このような有機化合物(a2)の例として、例えばpH指示薬として利用されている化合物が挙げられる。
【0041】
有機化合物(a2)は、例えば、メチルバイオレット、クリスタルバイオレット、マラカイトグリーン、チモールブルー、メチルイエロー、ブロモフェノールブルー、コンゴーレッド、メチルオレンジ、ブロモクレゾールグリーン、メチルレッド、リトマス、ブロモクレゾールパープル、ブロモチモールブルー、フェノールレッド、ニュートラルレッド、ナフトールフタレイン、クレゾールレッド、クレゾールフタレイン、フェノールフタレイン、チモールフタレイン及びアリザリンイエロー等よりなる群から選択される少なくとも一種を含有する。これらの中で、有機化合物(a2)は、クレゾールレッドを含有することが特に好ましい。
【0042】
(水溶性高分子)
本実施形態に係るインジケーター用粉体は、上述の通り、水溶性高分子(B)を含有する。インジケーター用粉体は、この水溶性高分子(B)を含有していることにより、水と接触することで変色するインジケーター成分(A)を含み、かつ粉体として維持されうる。
【0043】
水溶性高分子(B)の融点は、140℃以上160℃以下であることが好ましい。この場合、インジケーター用粉体を含有する樹脂組成物が成形される際の成形温度を調節することができる。これにより、このインジケーター用粉体を含有する樹脂組成物から所望の形状を有するペレット等の成形物が得られやすくなる。また、水溶性高分子(B)の融点が140℃以上である場合、インジケーター用粉体が常温で固体となるため、インジケーター用粉体が、粉体として維持されやすくなる。更に、水溶性高分子(B)の融点が上記の数値範囲内である場合、常温での水溶性高分子(B)の水への溶解性が向上しやすくなる。このため、後述のインジケーター成分(A)と、水溶性高分子(B)と、水とを含有する混合物が作製されやすくなる。なお、水溶性高分子(B)の融点は、融点測定装置を用いて、測定試料を昇温したときの融解ピークを読み取ることによって測定される。このときの測定試料の重量は100mgであり、昇温条件は10℃/minである。なお、融点測定装置は、例えばヤマト科学株式会社製のMP80が用いられる。
【0044】
水溶性高分子(B)は、例えばポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びヒドロキシルエチルセルロース等よりなる群から選択される少なくとも一種を含有する。これらの中で、水溶性高分子(B)は、特にポリビニルアルコールを含有することが好ましい。この場合、後述の混合物からインジケーター用粉体を作製する際の加熱により、インジケーター用粉体が変色することを抑制することができる。また、インジケーター用粉体を含有する樹脂組成物を成形する際の加熱により成形品が変色することを抑制することができる。
【0045】
ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをけん化することで合成することができる。ポリビニルアルコールのけん化度は60mol%以上70mol%以下であることが好ましい。この場合、インジケーター用粉体が、水と接触することで変色する水溶性のインジケーター成分を含み、かつ粉体として維持されうる。なお、ポリビニルアルコールのけん化度とは、ポリビニルアルコール中のアセチルオキシ基とヒドロキシ基との合計に対する、ヒドロキシ基の割合(mol%)を示す。本明細書におけるポリビニルアルコールのけん化度は、JIS K 6726:1994に準拠した方法により測定することができる。
【0046】
ポリビニルアルコールの重合度は、200以上400以下であることが好ましい。この場合、インジケーター用粉体が、水と接触することで変色する水溶性のインジケーター成分を含み、かつ粉体として維持されうる。
【0047】
ポリビニルアルコールとしては、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、JMR-10M(日本酢ビ・ポバール社製)、JMR-20M(日本酢ビ・ポバール社製)、JMR-10H(日本酢ビ・ポバール社製)、JMR-10L(日本酢ビ・ポバール社製)、JMR-3M(日本酢ビ・ポバール社製)、JMR-8M(日本酢ビ・ポバール社製)、JMR-10M(日本酢ビ・ポバール社製)等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ポリビニルアルコールは、JMR-10M(日本酢ビ・ポバール社製)、JMR-20M(日本酢ビ・ポバール社製)、JMR-10H(日本酢ビ・ポバール社製)又はJMR-10L(日本酢ビ・ポバール社製)が特に好ましい。
【0048】
(その他の成分)
本実施形態に係るインジケーター用粉体は、本開示の効果を損なわない範囲内で、上述したインジケーター成分(A)及び水溶性高分子(B)に加えて、インジケーター成分(A)及び水溶性高分子(B)以外の成分を含有してもよい。
【0049】
本実施形態に係るインジケーター用粉体は、インジケーター成分(A)及び水溶性高分子(B)に加えて、更にポリオールを含んでいてもよい。ポリオールは、インジケーター用粉体の劣化を抑制することができる。
【0050】
ポリオールは、例えばエチレングリコール、グリセリン、エリトリトール、キシリトール、マンニトール及びソルビトール等よりなる群から選択される少なくとも一種を含有する。これらの中で、ポリオールは、特にソルビトールを含有することが好ましい。この場合、インジケーター用粉体の劣化を特に抑制することができる。
【0051】
インジケーター用粉体は、インジケーター成分(A)と、水溶性高分子(B)に加えて、更に潮解性化合物を含有していてもよい。インジケーター用粉体が、潮解性化合物を含む場合、インジケーター用粉体が水に触れると吸湿しやすくなる。これにより、インジケーター用粉体中のインジケーター成分(A)が速やかに変色しうる。なお、潮解性化合物とは、水を吸収しやすく、かつその吸収した水に溶解する性質を有する化合物である。潮解性化合物としては、例えばアルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ土類金属硫酸塩等が挙げられる。
【0052】
アルカリ金属ハロゲン化物は、例えば、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム等のアルカリ金属フッ化物;塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等のアルカリ金属塩化物;臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム等のアルカリ金属臭化物;及びヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム等のアルカリ金属ヨウ化物等よりなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0053】
アルカリ土類金属ハロゲン化物は、例えば、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム等のアルカリ土類金属フッ化物;塩化マグネシウム、塩化カルシウム等のアルカリ土類金属塩化物;臭化マグネシウム、臭化カルシウム等のアルカリ土類金属臭化物;及びヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム等のアルカリ土類金属ヨウ化物等よりなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0054】
アルカリ金属硫酸塩は、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム及び硫酸カリウム等よりなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0055】
アルカリ土類金属硫酸塩は、硫酸カルシウム及び硫酸マグネシウム等よりなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
【0056】
また、本実施形態に係るインジケーター用粉体は、コバルト化合物を含まないことが好ましい。また、インジケーター用粉体は、コバルト化合物を含めた重金属化合物を含まないことが好ましい。
【0057】
[含有率]
本実施形態に係るインジケーター用粉体に含まれる成分の含有率について説明する。
【0058】
インジケーター用粉体全体に対するインジケーター成分(A)の割合は、83.0質量%以上93.0質量%以下であることが好ましい。この場合、インジケーター用粉体の生産性が高まりやすくなる。
【0059】
インジケーター用粉体全体に対する塩基性化合物(a1)の割合は、2.0質量%以上12.0質量%以下であることが好ましい。この場合、インジケーター用粉体は、水と接触したときに変色しやすくなる。
【0060】
インジケーター用粉体において、インジケーター成分(A)と、水溶性高分子(B)との合計に対する、有機酸塩(a12)の割合は、0.3質量%以上3.0質量%以下であることが好ましい。この場合、インジケーター用粉体は、水と接触することで変色しやすくなる。有機酸塩(a12)の割合は、0.3質量%以上である場合、インジケーター用粉体が、湿度の変化に応じて変色しやすくなる。また、有機酸塩(a12)の割合は、3.0質量%以下である場合、インジケーター用粉体が、水と接触したときに、過度に変色することを抑制することができる。インジケーター成分(A)と、水溶性高分子(B)との合計に対する、有機酸塩(a12)の割合は、0.5質量%以上であることがより好ましくい。また、インジケーター成分(A)と、水溶性高分子(B)との合計に対する、有機酸塩(a12)の割合は、2.0質量%以下であることがより好ましい。
【0061】
インジケーター用粉体全体に対する有機化合物(a2)の割合は、4.0質量%以上8.0質量%以下であることが好ましい。この場合、樹脂組成物中のインジケーター用粉体の分散性が高まりやすくなる。
【0062】
インジケーター用粉体全体に対する水溶性高分子(B)の割合は、3.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。この場合、インジケーター用粉体の収率が向上しやすくなる。
【0063】
3.インジケーター用粉体の製造方法
本実施形態に係るインジケーター用粉体の製造方法について説明する。
【0064】
インジケーター用粉体の製造方法は、水と接触すると変色する水溶性のインジケーター成分(A)と、水溶性高分子(B)と、水と、を含む混合物を作製する混合工程と、その混合物をスプレードライ法によって粉末化する粉末化工程とを含む。
【0065】
特に、本実施形態では、混合物をスプレードライ法によって粉末化する粉末化工程が重要である。例えば、スプレードライ法によって粉末化することによって、インジケーター用粉体は、微粒子化されやすくなる。また、スプレードライ法が適用された場合、インジケーター用粉体の粒径の制御が容易となる。このため、スプレードライ法で得られたインジケーター用粉体は、粒径が揃いやすい。更にスプレードライ法で得られたインジケーター用粉体は、球状になりやすく、このため流動性が良好になる傾向がある。
【0066】
以下、上記の混合工程及び粉末化工程について順に説明する。
【0067】
[混合工程]
本実施形態に係る混合工程について説明する。
【0068】
混合工程とは、インジケーター成分(A)、水溶性高分子(B)、及び水等の成分を含む原料を混合することにより、インジケーター用粉体を製造するために必要な混合物を作製する工程である。
【0069】
混合物は、上述の通りインジケーター成分(A)と、水溶性高分子(B)と、水とを含む。また、インジケーター成分(A)、水溶性高分子(B)、及び水に加えて、上述のポリオール、潮解性化合物等の成分を含む原料が適宜使用されてもよい。更に、混合物は、インジケーター成分(A)と、水溶性高分子(B)とを溶解させるために、水に加えて、水以外の有機溶剤等が使用されてもよい。このような有機溶剤の例としては、例えばメタノール、エタノール、1-プロパノール等が挙げられる。
【0070】
混合物は、例えば、次のように作製される。まず、インジケーター成分(A)と、水とを先に混合させることによってインジケーター成分(A)を含有した水溶液を作製する。そして、インジケーター成分(A)を含有した水溶液を撹拌させながら、その水溶液中に水溶性高分子(B)を加えていくことで混合物が作製される。この水溶性高分子(B)は、あらかじめ水に溶解させた水溶液が使用されてもよい。すなわち、この水溶性高分子(B)を含有する水溶液が、インジケーター成分(A)を含有した水溶液に加えられることにより、混合物が作製されてもよい。なお、混合物を作製する方法は、上記の手順に限定されない。すなわち、インジケーター用粉体を得ることができれば、上記の成分を含む原料を加える順番などは適宜変更されてもよい。例えば、インジケーター成分(A)を含有した水溶液を撹拌させたところに、水溶性高分子(B)が加えられてから、有機酸塩(a12)等のインジケーター成分(A)の一部が後から加えられてもよい。
【0071】
混合工程において、混合物は、例えば使用される原料がすべて加えられてから、常温で撹拌される。
【0072】
混合工程において、混合物は、水溶性高分子(B)を水に溶解させるために、加温されながら撹拌されてもよい。これにより、水溶性高分子(B)が水に溶解しやすくなり、混合物が作製されやすくなる。混合物が加温されながら撹拌される場合、混合物の温度は、60℃以上85℃以下であることが好ましい。この混合物の温度が、60℃以上である場合、水溶性高分子(B)を混合物中で均一に溶解させることができる。また、この混合物の温度が、85℃以下である場合、混合物中のインジケーター成分(A)及び水溶性高分子(B)が加熱により劣化することを抑制することができる。
【0073】
[粉末化工程]
本実施形態に係る粉末化工程について説明する。
【0074】
粉末化工程は、混合工程で得られた混合物をスプレードライ法によって粉末化することで、インジケーター用粉体を得るための工程である。混合物が粉末化される際には、例えば噴霧乾燥装置(スプレードライヤ装置)等の機器が使用される。
【0075】
まず、混合工程で作製された混合物は、ポンプなどにより噴霧乾燥装置に供給される。より詳細には、この混合物は噴霧乾燥装置が有するノズルへ供給される。このとき、混合物は、ノズルから吐出された後に乾燥されやすくなるよう、予熱されていてもよい。
【0076】
混合物は、450g/h以上550g/h以下の供給速度で、ノズルへ供給されることが好ましい。供給速度が、450g/h以上である場合、インジケーター用粉体の収率が向上しやすくなる。また、供給速度が550g/h以下である場合、インジケーター用粉体の平均粒子径が調整されやすくなる。
【0077】
噴霧乾燥装置のノズルに供給された混合物が吐出する際に、その混合物は、例えば圧縮空気によって噴霧されることが好ましい。この場合、混合物は微粒子化された状態で噴霧されうる。
【0078】
混合物をノズルから吐出するにあたり、0.4MPa以上1.0MPa以下の噴霧圧力で、ノズルから前記の混合物を吐出することが好ましい。この場合、インジケーター用粉体の形状が球状になりやすく、かつインジケーター用粉体の平均粒子径が調整されやすい。
【0079】
また、本実施形態では、ノズルから吐出された混合物が乾燥されやすいように、ノズルが加温されていることが好ましい。
【0080】
混合物をスプレードライ法によって粉末化する際、100℃以上160℃以下の温度のノズルから混合物を吐出することが好ましい。100℃以上の温度のノズルから混合物を吐出した場合、インジケーター用粉体の平均粒子径及び性状が調節されやすくなる。また、160℃以下の温度のノズルから混合物を吐出した場合、インジケーター用粉体が、加熱により劣化し変色することを抑制することができる。言い換えれば、インジケーター用粉体の水と接触することで変色しやすくなる性能を損なわないようにすることができる。また、ノズルから前記の混合物を吐出する際のノズルの温度は、120℃以下であることがより好ましい。
【0081】
また、ノズルの温度が低下しないようにするために、噴霧乾燥装置はノズルの周辺部を加温できるようなエアヒーターを備えていてもよい。このエアヒーターは、温められた空気をノズルに送ることができる。また、エアヒーターから送られる空気は、ごみなどの異物がインジケーター用粉体に混入しないように、フィルター等を通過させてもよい。
【0082】
このように噴霧乾燥装置のノズルから吐出され、微粒子化した混合物が乾燥され粉末化されることによって、本実施形態に係るインジケーター用粉体が得られる。また、得られたインジケーター用粉体は、所望の平均粒子径を有することができるように、サイクロン等の分級装置を通過させることによって、比較的大きな及び小さな粒子径を有するインジケーター用粉体が除去されてもよい。また、分級装置により除かれた比較的大きな及び小さな粒子径のインジケーター用粉体は、バグフィルタ等の集塵装置を使用することによって回収されてもよい。回収されたインジケーター用粉体は、その平均粒子径が本開示の性能を損なわない範囲内、すなわち15μm以下であれば、特に問題なくインジケーター用粉体として用いることができる。
【0083】
上記のような製造方法で作製されたインジケーター用粉体は、水と接触することで変色しやすい性質を有する。したがって、このインジケーター用粉体を含有する樹脂組成物から、湿度インジケーターとして機能する物品が作製されうる。
【実施例0084】
以下、本開示の具体的な実施例を提示する。ただし、本開示は実施例のみに制限されない。
【0085】
1.混合物の作製
表1の「原料」の欄に示す比率で原料を配合し、常温で5分混合してから、更に80℃まで昇温させ、5分撹拌させて、混合物を作製した。
【0086】
なお、表1に示す原料の詳細は次の通りである。
-インジケーターインク:dahatech社製。品番GV3540ン00JP500(37.5質量%水溶液)(組成:精製水:62.5質量%、グリセリン:20.0質量%、ソルビトール:5.0質量%、アルカリ試薬(炭酸ナトリウムと四ホウ酸ナトリウムと硫酸マグネシウムとの混合物):6.0質量%、RHインジケーター試薬(クレゾールレッドとエタノールの混合物):6.5質量%)。
-ポリビニルアルコール1:日本酢ビ・ポバール株式会社製。品番JMR10M(融点150℃、けん化度65mol%、重合度250)。
-ポリビニルアルコール2:日本酢ビ・ポバール株式会社製。品番JMR20M(融点170℃、けん化度70mol%、重合度350)。
-オレイン酸カリウム:日本油脂株式会社製。品番ノンサールOK-1(20.0質量%水溶液)。
【0087】
2.混合物の粉末化
「1.混合物の作製」で作製された混合物をスプレードライヤ(プリス株式会社製 品番スプレーボーイ)に表1の「条件」の欄に示す供給速度に従って供給し、表1の「条件」の欄に示すノズル温度に従って、混合物を吐出し噴霧乾燥することでインジケーター用粉体を得た。なお、このときのノズルの吐出圧力は0.4MPaであった。なお、スプレードライヤで粉末化されたインジケーター用粉体は、流動性の良好な粉体であった。また、得られたインジケーター用粉体をSEMにより観察したところ、粒径の揃った球状の粒子が観察された。
【0088】
3.測定
[平均粒子径]
実施例1~8、比較例1~2のインジケーター用粉体を、走査電子顕微鏡(SEM)(日本電子株式会社製、品番JSM-IT500)を用いて観測することにより画像を取得した。その画像に写ったインジケーター用粉体の粒子の中から無作為に選択した200個の粒子の最大径の平均値を平均粒子径とした。なお、SEM画像の倍率は4000倍であった。
【0089】
[発色確認結果]
実施例1~8、比較例1~2のインジケーター用粉体に関して、目視で色味を確認し、その結果を表1に示した。なお、インジケーターとしての機能が充分に保たれている場合、インジケーター用粉体は、明瞭な緑色を示す。
【0090】
[収率]
実施例1~8、比較例1~2のインジケーター用粉体の収率を確認した。なお、収率は、次の式によって求められる。
(収率)=(回収したインジケーター用粉体の質量)/(使用した原料の質量)×100
【0091】
[水中添加後の色安定までの時間]
実施例1~8、比較例1~2のインジケーター用粉体に関して、各々測り取ったインジケーター用粉体0.1gを温度25℃の水100gに添加した後、インジケーター用粉体が添加された水の変色を目視で確認し、下記の基準で評価した。
【0092】
A:インジケーター用粉体を水に添加してから、1分後から3分後以内で、水の変色が完了し、水の色が変化しなくなる
B:インジケーター用粉体を水に添加してから、3分経過後から5分後以内で、水の変色が完了し、水の色が変化しなくなる
C:インジケーター用粉体を水に添加してから、5分経過後に、水の変色が完了し、水の色が変化しなくなる
【0093】
【表1】
【0094】
実施例1~5では、実施例6と比較すると、オレイン酸カリウムの量が少なすぎないために、インジケーターとしての機能が高まりやすいことが確認された。
【0095】
実施例1~5では、実施例7と比較すると、オレイン酸カリウムの量が多すぎないために、インジケーターとしての機能が高まりやすいことが確認された。
【0096】
実施例1~5では、実施例8と比較すると、ノズル温度が高すぎないため、インジケーターとしての機能が高まりやすいことが確認された。
【0097】
実施例1~8では、比較例1と比べると、ポリビニルアルコールの量が多すぎず、インジケーター用粉体の平均粒子径が大きくなりすぎなかった。その結果、実施例1~8では、比較例1と比べると、水中にインジケーター用粉体を添加してから、水の変色が完了し、水の色の変化が起こらなくなるまでに要する時間が短くなった。
【0098】
実施例1~8では、比較例2と比べると、インジケーターインクに加えて、水溶性高分子、オレイン酸カリウムを含む混合物が使用されてインジケーター用粉体が作製された。このため、生成したインジケーター用粉体がスプレードライヤ装置の配管等に付着しにくく、その結果インジケーター用粉体の収率が高まりやすくなった。