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  • 特開-鋼材接合体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176786
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】鋼材接合体
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/00 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
B23K20/00 310G
B23K20/00 310L
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089265
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 敬人
(74)【代理人】
【識別番号】100197538
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 功
(74)【代理人】
【識別番号】100176751
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 耕平
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 節雄
(72)【発明者】
【氏名】細木 真保
(72)【発明者】
【氏名】井戸原 修
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA02
4E167AB09
4E167BA07
(57)【要約】
【課題】異なる形状の鋼材同士が接合された接合強度に優れた鋼材接合体を提供する。
【解決手段】流路Cを構成する第1鋼材1Aの流路上面C1と第2鋼材1Bの表面1B1同士が接合された流路構造を有する鋼材接合体であって、接合された接合界面Iの炭素濃度は、接合界面Iで最大ピーク値を有し、かつ、接合界面Iから離間するにしたがい減少する鋼材接合体1を採用する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路を構成する第1鋼材の流路上面と第2鋼材の表面同士が接合された流路構造を有する鋼材接合体であって、
前記接合された接合界面の炭素濃度は、前記接合界面で最大ピーク値を有し、かつ、
前記接合界面から離間するにしたがい減少する鋼材接合体。
【請求項2】
前記流路は、直線部及び曲線部を有する請求項1に記載の鋼材接合体。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱間鋼材の接合を実際の工場で簡単にかつ能率的に行うことができ、しかも後続の圧延工程に支障のない程度に高い接合強度を得られる技術の開発を課題として、接合面に炭素質物質を塗布または散布して熱間鋼材を重ね合わせ又は突き合わせて、還元雰囲気下で加熱し圧接する鋼材の熱間接合方法が開示されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-7970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、板状の鋼材同士が接合された鋼材接合体を開示するものであり、異なる形状の鋼材同士が接合された鋼材接合体を開示するものではない。
そこで、本発明は、異なる形状の鋼材同士が接合された接合強度に優れた鋼材接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る鋼材接合体は、流路を構成する第1鋼材の流路上面と第2鋼材の表面同士が接合された流路構造を有する鋼材接合体であって、前記接合された接合界面の炭素濃度は、前記接合界面で最大ピーク値を有し、かつ、前記接合界面から離間するにしたがい減少することを特徴とする。
【0006】
前記流路は、直線部及び曲線部を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、異なる形状の鋼材同士が接合された接合強度に優れた鋼材接合体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係る鋼材接合体を説明するための概念図であり、(a)は斜視図、(b)は(a)のα領域における側面図である。
図2】本発明の効果を説明するための鉄-セメンタイト系の状態図である。
図3】本発明の効果を説明するための概念図であり、詳しくは、接合界面Iで起こる反応を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る鋼材接合体を説明するための概念図であり、(a)は斜視図、(b)は(a)のα領域における側面図である。
本実施形態に係る鋼材接合体1は、流路Cを構成する第1鋼材1Aの流路上面C1と第2鋼材1Bの表面1B1同士が接合された流路構造を有する鋼材接合体であって、前記接合された接合界面Iの炭素濃度は、前記接合界面Iで最大ピーク値を有し、かつ、前記接合界面Iから離間するにしたがい減少することを特徴としている。
【0010】
本実施形態に係る鋼材接合体1は、上記のように、異なる形状の鋼材同士が接合されており、かつ、接合された接合界面Iの炭素濃度は、前記接合界面Iで最大ピーク値を有し、かつ、前記接合界面Iから離間するにしたがい減少しているため、接合強度にも優れている。
従って、本実施形態に係る鋼材接合体1は、流路構造体として様々な用途(例えば、積層金型等)に用いることができる。
【0011】
前記接合界面Iにおける炭素濃度の最大ピーク値は、0.20mass%以上2.10mass%以下であることが好ましい。
このような最大ピーク値の炭素濃度とすることで、鋼材1A、1B同士の接合強度を高めることができる。また、接合界面I付近の外周面の耐摩耗性も向上させることができる。
【0012】
詳しくは、接合界面Iの炭素濃度が2.10mass%以下であるため、接合界面Iにおける凝固組織の晶出が抑制される。従って、接合界面Iにおいて、硬くて脆い凝固組織の晶出を抑制することができるため、鋼材1A、1B同士の接合強度を向上させることができる。また、接合界面Iの炭素濃度が0.20mass%以上であるため、接合界面Iの硬さを高めることができる。従って、接合界面I付近の外周面の耐摩耗性も向上させることができる。
【0013】
前記炭素濃度は、0.20mass%以上0.90mass%以下であることが好ましい。前記接合界面Iの炭素濃度を0.20mass%以上0.90mass%以下とすることで、前記鋼材1A、1B同士の接合強度をより有効に向上させることができる。
詳しくは、接合界面Iの炭素濃度を0.90mass%以下とすることで、オーステナイト粒界でのセメンタイトの析出が抑制される。従って、接合界面Iにおいて、硬くて脆いオーステナイト粒界でのセメンタイトの析出を抑制することができるため、鋼材1A、1B同士の接合強度をより向上させることができる。
【0014】
本実施形態に係る鋼材接合体1における接合界面Iの炭素濃度の測定は、接合界面Iに沿って鋼材接合体1を切断し(不図示)、その断面を研磨し、電子線マイクロアナライザー(EPMA)やエネルギー分散型X線分析(EDX)等の元素分布測定装置を用いて測定することができる。本発明において、接合界面Iの炭素濃度の数値は、前記研磨した断面の任意の5箇所を測定し、その平均値により算出されるものである。
【0015】
また、本実施形態に係る鋼材接合体1は、接合界面Iから離間するにしたがい炭素濃度が減少する(図1(b)参照)。従って、接合界面Iでは、炭素濃度が高いため(図1(b)に示す最大ピーク値)、鋼材1A、1B同士の接合強度を向上させることができる。また、炭素濃度が減少する領域における接合界面Iとは反対側(接合前の鋼材1A、1B領域側(素材側))の炭素濃度が接合界面Iより低いため、鋼材1A、1B側は「伸び」を発現することができる。
従って、本実施形態に係る鋼材接合体1は、鋼材1A、2A側に「伸び」が必要な用途に好適に使用することもできる。
また、接合界面Iから離間するにしたがい炭素濃度が減少するため、接合界面Iでの延性・靭性も改善されると考えられる。
【0016】
本実施形態に係る鋼材接合体1における接合界面Iから離間するにしたがい減少する炭素濃度の測定は、接合界面Iに沿って鋼材接合体1を切断後、切断した接合界面Iの表面から離隔する方向(鋼材1A、1B側の方向)に更に切断し、その後、離隔する方向に切断した断面を研磨し、電子線マイクロアナライザー(EPMA)やエネルギー分散型X線分析(EDX)等の元素分布測定装置を用いて測定することができる。
本発明において、接合界面Iから離間するにしたがい炭素濃度が減少する減少傾向の測定は、研磨した離隔する方向の断面を接合界面Iから鋼材1A、1B側の各々の方向に対して、接合界面Iの炭素濃度から鋼材1A、1Bの素材の炭素濃度になるまでの間の直線上の任意の5箇所(計10箇所)の炭素濃度を上記のような元素分布測定装置を用いて測定し、接合界面Iからの距離を横軸、炭素濃度を縦軸とし、距離に対する炭素濃度をプロットした図1(b)に示すようなグラフを作成することで、確認することができる。
【0017】
また、本実施形態に係る鋼材接合体1は、接合界面Iの組織形態によらないが、当該接合界面Iはパーライトで構成されていることが好ましい。このパーライトは、オーステナイト状態の鋼材接合体1を、空冷又は徐冷することで得ることができる。接合界面Iがパーライトで構成されていることで、引張強度及び曲げ強度が高くなるため、接合界面Iの接合強度をより向上させることができる。なお、接合界面Iの組織形態は、接合界面Iに沿って鋼材接合体1を切断し、この切断した断面を研磨後、この研磨した断面にナイタール腐食を施した状態で光学顕微鏡にて確認することができる。
【0018】
接合界面Iは、オーステナイト粒界でのセメンタイトを備えていないことが好ましい。粒界セメンタイトが存在すると、それを起点として、引張及び曲げにおいてクラックが入りやすくなる可能性がある。
なお、上記にいう「備えていない」とは、粒界セメンタイトを全く備えていないということではなく、接合界面Iにおける粒界セメンタイトの存在比が10%未満であることをいう。ここで、接合界面Iにおける粒界セメンタイトの存在比の確認は、前記断面にナイタール腐食を施した後、当該断面にJIS G0555に準拠した点算法を用いて行う。
【0019】
ちなみに、本実施形態に係る鋼材接合体1において、接合する鋼材(素材)1A、1Bの材質は、任意の鋼材であって、互いに一体化することが可能な金属であれば特に限定されない。また、前記接合界面Iや接合前の複数の鋼材(素材)1A,1Bの炭素以外の合金元素については特に限定されず、例えば、JIS G 4051に規定されているような、概ね、Si:1.50mass%以下、Mn:1.00mass%以下を含み、残部Fe及び不可避的不純物からなる組成を有している。接合前の複数の鋼材(素材)1A、1Bの形状は、接合面をそれぞれ有し、この接合面同士を重ね合わせて、互いに一体化することが可能であれば特に限定されない。当該鋼材(素材)1A、1Bは、例えば、円柱形状、角柱形状、ねじ形状、凹凸形状等を採用することができる。
【0020】
以下に、本実施形態に係る鋼材接合体1において、鋼材同士の接合力が高められるメカニズムについて図面を用いて説明する。
図2は、本発明の効果を説明するための鉄-セメンタイト系の状態図である。図3は、本発明の効果を説明するための概念図であり、詳しくは、接合界面Iで起こる反応を示す概念図である。
【0021】
本実施形態に係る鋼材接合体1の製造方法としては、接合する鋼材同士の少なくともどちらか一方の接合面(第1鋼材1Aであれば流路上面C1、第2鋼材1Bであれば表面1B1)に炭素粉(炭素質物質)を配置し、この炭素質物質を介して接合する鋼材の接合面同士C1、1B1を重ね合わせた鋼材を所定の雰囲気下(例えば、非酸化性雰囲気下)、最高到達温度1150℃以上1500℃以下(好ましくは、1150℃以上1300℃以下)で加熱する(図3(a)を参照)。
【0022】
鋼材同士の接合面の温度が例えば1250℃に達すると、鋼材と炭素質物質との界面において炭素濃度が3.5mass%の液相Lが生成する(図2中□で示す部分を参照)。この液相Lは、炭素質物質が無くなるまで増加する(図3(b)を参照)。
【0023】
なお、1250℃における、「オーステナイト相γ」領域と「オーステナイト相γ+液相L」領域との界面(図2中〇で示す部分を参照)の炭素濃度は1.6mass%である(図2を参照)。1250℃での炭素の拡散は極めて速く、この温度に保持すると、炭素は、鋼材の接合面から内部のオーステナイト相γ 内に速い速度で拡散していく。その結果、この液相Lとオーステナイトγ 界面において、オーステナイト相γ 側は炭素濃度を1.6mass%に保とうとして液相L側から炭素を奪い取る。一方、液相Lは炭素濃度を3.5mass%に保とうとするため液相Lが減少する(図3(c)を参照)。最終的に、液相Lは消滅して鋼材同士の接合が完了する(図3(d)を参照)。
【0024】
なお、液相Lが消滅した直後は、この接合面の炭素濃度が高い場合がある。また、上述した粒界セメンタイトの析出を抑制する場合は、鋼材接合体1では、この接合界面Iの炭素濃度を0.20mass%以上0.90mass%以下に低下させる必要がある。この接合界面における炭素濃度の低下は、前記最高到達温度での加熱維持時間を長くすることで制御することができる。
【0025】
なお、ここでいう炭素質物質は、接合する鋼材の少なくともどちらか一方の接合面に配置し、この接合面同士が一体化することができれば、材質、形状は、特に限定されない。 炭素質物質は、例えば、平均粒径が1μmのグラファイト粒子の粉体(炭素粉)を用いることができる。
【0026】
前記流路Cは、図1に示すように、直線部Cs及び曲線部Ccを有することが好ましい。
本実施形態に係る鋼材接合体1は、図1に示すように、直線部Cs及び曲線部Ccを有しているため、流路構造体として、更に、汎用性を広げることができる。
【実施例0027】
実施例では、図1に示すような第1鋼材1A(X方向の幅:20mm、Y方向の幅:20mm、Z方向の幅:10mm)、第2鋼材1B(X方向の幅:25mm、Y方向の幅:25mm、Z方向の幅:10mm)の大きさで、炭素濃度が0.045mass%の鋼材(低炭素鋼)を2個用意した。
【0028】
そして、試験体として、これら2個の鋼材同士(第1鋼材1Aの流路上面C1と第2鋼材1Bの表面1B1)を接合し、図1に示すような鋼材接合体1を作製した。
この際、2個の鋼材の各々の接合面C1、1B1の両方に炭素粉(炭素質物質)を配置し、この炭素質物質を介して接合する鋼材の接合面同士を重ね合わせた。
次いで、非酸化性雰囲気(アルゴンガス)下にて、最高到達温度1250℃で炉加熱を行い、その後、徐冷した。
ここで、2個の鋼材の各々の接合面C1、1B1に配置する炭素粉の質量は、図2及び図3に示すような接合界面Iの反応が起こりうる質量になるように調整した。また、最高到達温度での加熱維持時間を制御することにより、炉加熱後の接合界面Iの炭素濃度が0.20mass%になるように調整した。
【0029】
実施例1では、作製した試験体(鋼材接合体)について、以下に示す「接合強度及び耐摩耗性の確認」を行った。
(濃度傾斜層の有無、接合界面の主な組織構造、接合強度及び耐摩耗性の確認)
作製した試験体(鋼材接合体)について、濃度傾斜層(接合界面から離間するにしたがい炭素濃度が減少する濃度傾斜層)の有無、接合界面の主な組織構造、接合強度(〇高い、△低い)、耐摩耗性(〇高い、△低い)を確認した。
【0030】
濃度傾斜層の有無は、上述した距離に対する炭素濃度をプロットした図1(b)に示すようなグラフを作成した上で、炭素濃度の減少傾向があるかないかで判断した。接合界面Iの主な組織構造(金属組織)の確認は、作製した鋼材接合体の接合界面Iの所定箇所を、ナイタール腐食した状態で、光学顕微鏡にて観察した。金属組織(パーライト等)の存在の有無の確認は、金属組織画像を処理することで行った。接合強度は、引張強度として測定を行い評価した。この引張強度はJIS9号A(G.L100mm)を用いて試験を行った。また、耐摩耗性は、摩耗試験機を用いて、乾式環境下で速度及び最終荷重を調整し、相手材には粒度番号400番の立方晶系窒化ケイ素からなる砥石を用い、接合部外周面の比摩耗量により評価した。以下に示す表1には、上記確認事項について確認した結果を示す。
【0031】
【表1】
【0032】
表1の結果からわかるように、実施例では、接合強度及び耐摩耗性が高いことが確認された。
【符号の説明】
【0033】
1 鋼材接合体
1A 第1鋼材
1B 第2鋼材

図1
図2
図3