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特開2023-176832評価システム、評価方法、および評価プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176832
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】評価システム、評価方法、および評価プログラム
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20231206BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALN20231206BHJP
【FI】
C12M1/34 A
C12Q1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089336
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】322004393
【氏名又は名称】株式会社エビデント
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100182936
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】下地 恵令奈
(72)【発明者】
【氏名】出澤 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】鎌戸 耀子
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB11
4B029FA02
4B029FA04
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】望ましい分化状態の目的細胞が得られたのかを評価する。
【解決手段】一実施形態に係る評価システムは、細胞集塊の画像から細胞集塊を構成する細胞の形状に関する特徴量を取得する取得部と、取得部によって取得された特徴量と、所定閾値とに基づいて、細胞集塊を構成する細胞の分化状態を評価して評価結果を出力する評価部と、を有する。
【選択図】図8



【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞集塊の画像から前記細胞集塊を構成する細胞の形状に関する特徴量を取得する取得部と、
前記取得部によって取得された特徴量と、所定閾値とに基づいて、前記細胞集塊を構成する前記細胞の分化状態を評価して評価結果を出力する評価部と、
を有する、評価システム。
【請求項2】
前記特徴量は、前記細胞の形状が真球から外れている度合いを表す真球度を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の評価システム。
【請求項3】
前記所定閾値は、所定の分化状態にあることを示すマーカー分子が発現していることが確認された細胞の前記特徴量と、前記マーカー分子が発現していないことが確認された細胞の前記特徴量とを仕分ける値に設定されている、ことを特徴とする請求項1に記載の評価システム。
【請求項4】
前記評価部は、前記特徴量が前記所定閾値よりも小さい場合に前記細胞が前記所定の分化状態にあると評価し、前記特徴量が前記所定閾値よりも大きい場合に、前記細胞が前記所定の分化状態にないと評価する、ことを特徴とする請求項3に記載の評価システム。
【請求項5】
前記評価部は、更に、前記所定の分化状態よりも分化が進んだ第2の分化状態にあることを示す第2のマーカー分子が発現していることが確認された細胞の前記特徴量と、前記第2のマーカー分子が発現していないことが確認された細胞の前記特徴量とを仕分ける値に設定された第2の閾値に基づいて、前記細胞が前記第2の分化状態にあるか否かを評価する、ことを特徴とする請求項4に記載の評価システム。
【請求項6】
前記評価部は、前記細胞集塊を構成する細胞のそれぞれについて前記細胞の分化状態を評価して、前記細胞集塊に含まれる細胞のうちで前記所定の分化状態に分化している細胞が占める割合を特定する、請求項4に記載の評価システム。
【請求項7】
前記評価部は、前記細胞集塊を構成する細胞のうちで前記所定の分化状態に分化している細胞の前記割合が、所定の割合以上であるかを評価する、請求項6に記載の評価システム。
【請求項8】
コンピュータが実行する評価方法であって、前記コンピュータが、
細胞集塊の画像から前記細胞集塊を構成する細胞の形状に関する特徴量を取得し、
取得された前記特徴量と、所定閾値とに基づいて、前記細胞集塊を構成する前記細胞の分化状態を評価して評価結果を出力する、
ことを含む、評価方法。
【請求項9】
細胞集塊の画像から前記細胞集塊を構成する細胞の形状に関する特徴量を取得し、
取得された前記特徴量と、所定閾値とに基づいて、前記細胞集塊を構成する前記細胞の分化状態を評価して評価結果を出力する、
処理をコンピュータに実行させる、評価プログラム。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞の分化を評価する評価システム、評価方法、および評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生医療や疾患解析などの用途において大きな可能性を有する幹細胞が注目されている。幹細胞は自己複製能と分化能とを有する細胞であり、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、体性幹細胞などの種類が存在する。それらの中でも、細胞に遺伝子を加えることにより人工的に作製可能なiPS細胞には、大きな注目が集まっている。
【0003】
また、例えば、iPS細胞などの幹細胞からオルガノイドを作製する技術が知られている。なお、オルガノイドは、例えば、臓器特異的な細胞から成る臓器様物である。形成されたオルガノイドは臓器様の機能を有するため、創薬研究、臓器特有の病態モデルの解明等に用いることができる。これまでに、脳、腸、胃、腎臓、肝臓、眼球などの様々オルガノイドが作製されている。
【0004】
また、細胞の品質を評価することに関連する技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-73942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、細胞が、目的のオルガノイドに分化したかどうか、または、オルガノイドが成熟したかどうかなどの分化状態を評価することが求められることがある。なお、成熟とは、分化誘導されることでオルガノイドを構成する細胞が臓器様機能を有することである。分化状態は、例えば、細胞自体の分化状態、およびオルガノイドにおける分化した細胞の混合割合などに依存して評価される。
【0007】
分化状態を評価は、例えば、細胞における遺伝子の発現状態を特定したり、または細胞形状を観察したりすることにより行われている。しかしながら、遺伝子の発現状態は、例えば、蛍光染色などの細胞に侵襲的な手法を用いて特定されている。こうした侵襲的な手法を用いる場合、細胞の分化状態が正確に評価できたとしても、その細胞をその後の移植や病態モデルの解明等の用途に利用することが難しい。また、細胞形状を観察することで分化状態を評価する場合も、人手による判断には個人差が生じることがあるため、定量的な判断が難しいことがある。
【0008】
そのため、幹細胞を分化させて所望の機能を有する目的細胞が得られたのかを非侵襲的に高い精度で評価することのできる技術の提供が望まれている。
【0009】
1つの側面では、本発明は、望ましい分化状態の目的細胞が得られたのかを評価するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一つの態様の評価システムは、細胞集塊の画像から細胞集塊を構成する細胞の形状に関する特徴量を取得する取得部と、取得部によって取得された特徴量と、所定閾値とに基づいて、細胞集塊を構成する細胞の分化状態を評価して評価結果を出力する評価部と、を有する。
【0011】
本発明の一つの態様のコンピュータが実行する評価方法は、コンピュータが、細胞集塊の画像から細胞集塊を構成する細胞の形状に関する特徴量を取得し、取得された特徴量と、所定閾値とに基づいて、細胞集塊を構成する細胞の分化状態を評価して評価結果を出力する、ことを含む。
【0012】
本発明の一つの態様の評価プログラムは、細胞集塊の画像から細胞集塊を構成する細胞の形状に関する特徴量を取得し、取得された特徴量と、所定閾値とに基づいて、細胞集塊を構成する細胞の分化状態を評価して評価結果を出力する、処理をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0013】
望ましい分化状態の目的細胞が得られたのかを評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係る評価システムの構成を例示した図である。
図2】コンピュータの構成を例示したブロック図である。
図3】実施形態に係るスタック画像を例示する図である。
図4】実施形態に係る閾値の設定処理の動作フローを例示する図である。
図5】実施形態に係る閾値の設定を例示する図である。
図6】細胞の分化と発現遺伝子の変化を例示する図である。
図7】細胞の分化におけるステージごとの閾値の設定を例示する図である。
図8】実施形態に係る細胞の分化状態の判定処理の動作フローを例示する図である。
図9】細胞集塊の分化状態を判定するための閾値の設定処理の動作フローを例示する図である。
図10】実施形態に係る細胞集塊を選別処理の動作フローを例示する図である。
図11】実施形態に係る細胞集塊の分化割合の評価結果を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。なお、複数の図面において対応する要素には同一の符号を付す。
【0016】
図1は、本実施形態に係る評価システム1の構成を例示した図である。図2は、コンピュータ20の構成を例示したブロック図である。評価システム1は、自己複製能(self-renewal potency)と分化能(differentiation potency)とを有する幹細胞の分化を評価するシステムである。評価システム1は、図1に示すように、幹細胞を撮影する顕微鏡装置10と、幹細胞の分化を評価するコンピュータ20とを備えている。
【0017】
評価システム1では、コンピュータ20が、顕微鏡装置10で撮影した幹細胞の画像に写る細胞の形状に基づいて、その細胞が利用目的に適した状態まで分化しているかを推定する。
【0018】
これにより、目的の分化状態の細胞が得られているかを判断することが可能になる。また、細胞分化の失敗が推定される場合には、その細胞を破棄して細胞の品質を維持したり、あるいは、細胞培養の継続を中止することで、無駄な培養を回避したりすることが可能になる。
【0019】
評価システム1が評価する幹細胞は、例えば、ES細胞、iPS細胞などである。ただし、ES細胞やiPS細胞のような多能性幹細胞(Pluripotent stem cell)に限らず、多分化能幹細胞(Multi-potent stem cell)であってもよい。多分化能幹細胞は、ある程度分化の方向が決まっている幹細胞であり、例えば、代表的な体性幹細胞である間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell)などである。
【0020】
分化誘導とは、幹細胞を分化させることをいい、分化誘導方法には、少なくとも幹細胞に作用させる刺激、即ち、分化誘導因子が含まれる。分化誘導方法には、さらに、分化誘導因子(刺激)を作用させる時期が含まれてもよい。また、分化誘導方法は、単一の処理であってもよく、順次に行われる一連の処理であってもよい。分化誘導因子は、化合物であってもよく、例えば、培養液に投与される液性因子、幹細胞に遺伝子導入される遺伝子などであってもよい。また、分化誘導因子は、物理的刺激であってもよく、例えば、熱、光、電気であってもよく、圧力、振動などの機械的刺激であってもよい。
【0021】
分化の成否とは、幹細胞から目的の細胞への分化が成功するか否かをいい、分化後の細胞が分化能を有するか否かは問わない。このため、例えば、iPS細胞から中胚葉へ分化することを分化成功と解釈してもよい。また、iPS細胞から中胚葉を経て造血幹細胞へ分化したことを分化成功と解釈してもよい。また、iPS細胞から中胚葉、造血幹細胞を経て血液細胞(血小板、赤血球、白血球)へ分化したことを分化成功と解釈してもよい。
【0022】
以下、図1および図2を参照しながら、評価システム1の構成について説明する。顕微鏡装置10は、例えば、幹細胞などの試料Sを撮影する。一例では、評価システム1の撮影部として動作する。顕微鏡装置10は、分化誘導対象である幹細胞などの対象細胞を撮影することで、対象細胞の画像を生成する。即ち、顕微鏡装置10は、対象細胞の画像を取得するために対象細胞を撮影する。
【0023】
顕微鏡装置10は、図1に示すように、例えば、デジタルカメラ11と、蛍光フィルタキューブ12と、ターレット13と、対物レンズ(位相差対物レンズ14、対物レンズ15)と、ステージ16と、位相差コンデンサ17と、光源(光源18、光源19)を備えている。
【0024】
デジタルカメラ11は、例えば、入射した観察光を電気信号に変換するイメージセンサを含んでいる。イメージセンサは、例えば、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサなどであり、二次元イメージセンサである。デジタルカメラ11は、カラーカメラであってもよい。デジタルカメラ11は、例えば、幹細胞などの試料Sを撮影して、細胞画像を生成する。デジタルカメラ11が生成した細胞画像は、デジタルカメラ11からコンピュータ20へ出力される。
【0025】
蛍光フィルタキューブ12は、例えば、ダイクロイックミラー、励起フィルタ、吸収フィルタを含んでいる。蛍光フィルタキューブ12は、ターレット13に配置されていて、光路に対して挿脱自在である。顕微鏡装置10が蛍光画像を生成する場合には蛍光フィルタキューブ12は光路上に配置されている。顕微鏡装置10が位相差画像を生成する場合には蛍光フィルタキューブ12は光路外に配置される。
【0026】
位相差対物レンズ14および対物レンズ15は、レボルバに装着された顕微鏡対物レンズであり、観察法に応じて切り替えて使用される。位相差対物レンズ14は、位相差画像を生成する場合に使用される対物レンズである。位相差対物レンズ14は、直接光と回折光に位相差を与えるための位相膜が位相差対物レンズ14内部の瞳位置に設けられている。対物レンズ15は、蛍光画像を生成する場合に使用される対物レンズである。
【0027】
ステージ16には、試料Sが配置される。ステージ16は、電動ステージであっても手動ステージであってもよい。位相差コンデンサ17は、位相差画像を生成する場合に使用されるコンデンサである。位相差コンデンサ17は、位相差対物レンズ14内部に設けられた位相膜と光学的に共役な位置に、リングスリットを備えている。
【0028】
光源18と光源19は、例えば、水銀ランプ、キセノンランプ、LED光源などである。光源18と光源19は、観察法に応じて切り替えて使用される。光源18は、位相差画像を生成する場合に使用される光源である。光源18は、光源18から出射した光で試料Sを透過照明法を用いて照明する。光源19は、蛍光画像を生成する場合に使用される光源である。光源19は、光源19から出射した光で試料Sを落射照明法を用いて照明する。
【0029】
顕微鏡装置10は、位相差画像と蛍光画像の両方を細胞画像として生成可能である。ただし、観察対象の細胞が、その後、臨床応用されたりする場合、非侵襲的に撮影されることが望ましく、顕微鏡装置10は、観察対象の細胞を非染色で撮影してよい。
【0030】
コンピュータ20は、図2に示すように、例えば、1つ以上のプロセッサ21と、1つ以上の記憶装置22と、入力装置23と、表示装置24と、通信装置25を備えていて、それがバス26を通じて接続されている。なお、コンピュータ20は、例えば、汎用装置ではなく専用装置であってもよい。
【0031】
1つ以上のプロセッサ21のそれぞれは、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)などを含むハードウェアであり、1つ以上の記憶装置22に記憶されている図示しないプログラムを実行することで、プログラムされた処理を行う。また、1つ以上のプロセッサ21は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などを含んでもよい。
【0032】
1つ以上のプロセッサ21は、例えば、後述の動作フローの処理を記述したプログラムを記憶装置22から読み出して実行することで、取得部および評価部として動作してよい。
【0033】
1つ以上の記憶装置22のそれぞれは、例えば、1つまたは複数の任意の半導体メモリを含み、さらに、1つまたは複数のその他の記憶装置を含んでもよい。半導体メモリは、例えば、RAM(Random Access Memory)などの揮発性メモリ、ROM(Read Only Memory)、プログラマブルROM、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリを含んでいる。RAMには、例えば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)などが含まれてもよい。その他の記憶装置には、例えば、磁気ディスクを含む磁気記憶装置、光ディスクを含む光学記憶装置などが含まれてもよい。
【0034】
1つ以上の記憶装置22は、非一時的なコンピュータ読取可能媒体であり、評価システム1の記憶部の一例である。記憶装置22の少なくとも1つは、後述の動作フローの処理を実行するためのプログラム、および分化状態を判定するための閾値を記憶している。
【0035】
入力装置23は、利用者が直接操作する装置であり、例えば、キーボード、マウス、タッチパネルなどである。表示装置24は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイなどである。ディスプレイには、タッチパネルが内蔵されてもよい。通信装置25は、評価システム1の通知部の一例である。通信装置25は、有線通信モジュールであっても無線通信モジュールであってもよい。
【0036】
コンピュータ20は、例えば、入力装置23または通信装置25を介して顕微鏡装置10で撮影された対象細胞画像を取得する。また、入力装置23および通信装置25は、分化先の情報を取得してもよい。分化先の情報は、対象細胞に適用される分化誘導方法と対応する分化先を示す情報である。
【0037】
なお、図1に示す構成は、評価システム1の構成の一例である。また、図2に示す構成は、コンピュータ20のハードウェア構成の一例である。評価システム1およびコンピュータ20の構成は、これらの構成に限定されるものではない。
【0038】
続いて、実施形態に係る細胞の分化状態の評価について説明する。分化とは、例えば、細胞が特定の機能を持つ細胞に変化することをいう。幹細胞およびiPS細胞などの細胞から様々なオルガノイドを作成する技術が知られている。
【0039】
上述のように、細胞が、目的のオルガノイドに分化したかどうかの判定、およびオルガノイドの成熟度の判定といった細胞の分化状態の評価が求められることがある。そして、例えば、細胞の分化状態を評価するために、遺伝子およびタンパク質などのマーカー分子の発現状態の特定、および細胞形状の観察などが行われている。
【0040】
(マーカー分子の発現による分化状態の評価)
マーカー分子で評価する場合、細胞で発現しているマーカー分子により評価が行われる。なお、マーカー分子は、例えば、特定の細胞に特異的に発現する遺伝子、およびタンパク質などであってよい。また更には、マーカー分子は、特定の細胞に特異的に発現する分子により生成される化合物、あるいは、特定の細胞に特異的に発現する化合物であってもよい。
【0041】
例えば、特定の成熟細胞で発現するマーカー分子が知られている。以下には、成熟細胞において、発現するマーカー分子を例示する。
肝臓:アルブミン(ALB)、α-フェトプロテイン(AFP)、チロシン-アミノ基転移酵素(TAT)、プレグナンX受容体(PXR)
脳(神経細胞):MAP2
心筋:Mlc2v、Mlc2a
【0042】
そのため、例えば、幹細胞を心筋に分化させるように分化誘導したとする。この場合、処理した細胞において、Mlc2vおよびMlc2aなどのマーカー分子が発現していることを確認できれば、その細胞は、心筋への分化が成功したと評価することができる。
【0043】
(細胞の形状による分化状態の評価)
細胞の成熟度合を、細胞の形状から推定することも行われている。例えば、目的細胞の種類によっては成熟が進むと細胞の密着結合が明確化して多角形になることがある。この場合、細胞の形状が多角形になっていれば、細胞の分化に成功した、或いは細胞が目的の成熟度まで成熟したと推定することができる。
【0044】
しかしながら、細胞におけるマーカー分子の発現による分化状態の評価では、細胞に侵襲的な手法(蛍光染色等)を用いることになる。そのため、評価後に細胞を利用することができなくなってしまう。また、細胞の形状から分化状態を推定する場合、推定を行う人の個人差などにより推定結果にばらつきが生じてしまい、精度が低下することがある。その結果、例えば、得られる細胞の分化状態の質を均一にすることが難しいことがある。
【0045】
そのため、細胞の分化状態を非侵襲的に、かつ、定量性を高めて評価することのできる技術の提供が望まれている。
【0046】
以下で述べる実施形態では、マーカー分子の発現により特定した細胞の分化状態と、細胞の形状に関する特徴量とを対応づける。それにより、細胞の分化状態を、特徴量を用いてより高い定量性で評価することが可能になる。
【0047】
なお、特徴量には、例えば、細胞の真球度を用いることができる。真球度は、例えば、細胞の形状が真球から外れている度合いを表す値である。細胞は、未分化の状態では真球に近い形状をしている。一方、細胞は分化すると、分化後の細胞の特性に応じて形状に変化し、その結果、徐々に真球から外れた形状に変化する傾向がある。そのため、真球度に基づいて、細胞の分化状態を評価することが可能である。そこで、以下で述べる実施形態では、マーカー分子の発現により特定される細胞の分化状態と対応づけて、細胞の真球度に閾値を設定する。それにより、例えば、真球度がその所定閾値よりも大きい場合には、細胞が未分化である、または十分に分化していないと判定することが可能になる。一方で、真球度が所定閾値よりも小さい場合には、細胞が十分に分化していると判定することが可能になる。その結果、細胞の分化状態を非侵襲的に高い定量性で評価することが可能になる。以下、実施形態を更に詳細に説明する。
【0048】
(真球度の算出)
真球度について例示する。実施形態ではコンピュータ20は、立体細胞のスタック画像を取得する。例えば、顕微鏡装置10により、図1のZ方向に位置の異なる複数のスライスで細胞を撮影した画像からスタック画像が生成されてよく、コンピュータ20は、生成されたスタック画像を顕微鏡装置10から取得してよい。
【0049】
図3は、実施形態に係るスタック画像300を例示する図である。図3(a)には、未分化状態での細胞のZ方向のスタック画像300が例示されている。また、図3(b)は、目的細胞に分化している状態での細胞のZ方向のスタック画像300が例示されている。各スタック画像300は、複数のスライス画像から構成されている。なお、スライス画像の積層の間隔を、Z方向の観察の幅に合わせることで、スライス画像を積層したスタック画像300で、細胞の3次元形状を表すことができる。
【0050】
そして、実施形態ではコンピュータ20は、細胞の形状(例えば、輪郭)に内接する内接球を配置する。内接球は、例えば、細胞の本体および細胞が有する突起部分などに配置されてよい。なお、例えば、Z方向に積層されたスライス画像間に細胞または突起部がまたがって存在している場合、コンピュータ20は、内接球もまたがるように配置する。一枚のスライス画像内に細胞または突起部が収まっている場合には、コンピュータ20は、一枚のスライス画像の厚さ内において内接球を配置する。
【0051】
例えば、コンピュータ20は、初めに内接球を複数配置し、それらの内接球のうちから直径が最大となる内接球を決定することで、細胞に内接する最大の内接球を配置してよい。
【0052】
図3(c)には、細胞が未分化の状態のスタック画像300に配置された内接球310が例示されている。また、図3(d)には、細胞が目的細胞に分化した状態のスタック画像300に配置された内接球310が例示されている。図3(c)および図3(d)に示すように、細胞が分化したことにより、未分化の状態よりも細胞の形状が真球から外れた形状に変化している。その結果、細胞に配置される内接球のサイズは未分化の状態よりも目的細胞に分化した状態では小さくなっている。
【0053】
続いて、コンピュータ20は、初めに配置した内接球を除いた細胞内の領域において直径が最大となるように次の内接球を配置する。コンピュータ20は、この処理を、内接球のサイズが、所定の下限値未満となるまで繰り替えし実行する。
【0054】
次に、コンピュータ20は、細胞の本体と突起部とを区別する。例えば、内接球の直径に対する閾値を予め設定しておく。そして、コンピュータ20は、設定されている閾値以上の直径を有する内接球が配置された領域を細胞の本体、閾値よりも小さい直径を有する内接球が配置された領域を突起部と判定する。なお、閾値は、例えば、内接球の最大サイズに対する比率(例えば、内接球の直径の最大値の1/20の長さ(画素数))で設定されてよい。
【0055】
次に、コンピュータ20は、各内接球の体積を算出し、細胞の本体に分類された内接球の体積の合計と、突起部に分類された内接球の体積の合計とをそれぞれ算出する。そして、コンピュータ20は、真球度を算出する。真球度は、例えば、以下の式1により算出することができる。
真球度=細胞の本体の体積/突起部の体積 ・・・式1
【0056】
なお、式1において、細胞の本体の体積には、例えば、細胞の本体に分類された内接球の体積の合計を用いることができる。また、突起部の体積には、例えば、突起部に分類された内接球の体積の合計を用いることができる。
【0057】
図3(c)および図3(d)で例示するように、細胞が未分化の状態では細胞が真球に近い形状を有するため、初期に配置される内接球310のサイズが、分化した細胞よりも大きくなる傾向がある。従って、式1において細胞の本体の体積は、分化した細胞よりも未分化の細胞の方が大きい値となる傾向がある。
【0058】
また、配置した内接球から外れる領域のサイズは、細胞が未分化の状態では小さくなる傾向がある。一方で、細胞が分化すると、分化先の細胞種などに応じて細胞の形状が変化し、突起が増えたり、突起のサイズが大きくなったりする。そのため、式1において突起部の体積は、分化した細胞の方が未分化の細胞のよりも大きい値となる傾向がある。
【0059】
結果として、式1で求められる真球度は、未分化の細胞の方が、分化した細胞よりも高い値となる傾向を示す。それゆえ、真球度を用いて細胞が目的細胞に分化しているか否かを判定することが可能である。
【0060】
一例では、複数の未分化の細胞から決定された真球度と、複数の分化した目的細胞から決定された真球度とを仕分けられる値に閾値を設定することで、閾値を用いて細胞が目的細胞に分化しているか否かを判定することが可能である。また、以下で述べるように、遺伝子の発現に基づいて細胞の分化状態を特定し、その分化状態と対応づけて真球度に対する閾値を設定することで、真球度を用いて細胞の分化状態を判定することが可能になる。
【0061】
なお、細胞の分化状態の判定に利用可能な細胞形状の特徴量は、真球度に限定されるものではない。例えば、細胞の直径サイズ、細胞のスライス画像における角や突起の数などその他の特徴量が用いられてもよく、さらにはそれらの特徴量が組み合わせられた複数の特徴量で評価が実行されてもよい。また、細胞の分化状態の判定には、例えば、特開2009-63509に記載される技術が利用されてもよい。
【0062】
続いて、実施形態に係る細胞の分化状態の判定に用いる閾値の設定について説明する。図4は、実施形態に係る閾値の設定処理の動作フローを例示する図である。例えば、コンピュータ20は、閾値の設定処理の実行指示が入力されると、図4の動作フローの実行を開始してよい。
【0063】
ステップ401(以降、ステップを“S”と記載し、例えば、S401と表記する)においてコンピュータ20は、細胞画像を取得する。例えば、コンピュータ20の記憶装置22には、顕微鏡装置10で撮影された複数の細胞のスタック画像が記憶されていてよい。そして、コンピュータ20は、複数の細胞のうちで評価対象とした細胞のスタック画像を記憶装置22から読み出して取得してよい。
【0064】
S402においてコンピュータ20は、取得した細胞画像に写る細胞の分化先を示す情報の入力を受け付ける。分化先を示す情報は、例えば、細胞画像に写る細胞の培養において使用した分化の誘導因子の情報であってよく、別の例では、肝臓、脳神経細胞、心筋といった分化先の細胞種を示す情報であってよい。ユーザは、例えば、入力装置23を介して分化先の細胞種を示す情報をコンピュータ20に入力してよい。
【0065】
S403においてコンピュータ20は、例えば、目的細胞に特異的なマーカーの有無を判定する。例えば、コンピュータ20は、評価対象の細胞において分化先の目的細胞に特異的なマーカー遺伝子が発現しているか否かを判定する。なお、マーカーの発現は、様々な既知の手法で特定することができ、対象分子を標識して観察したり、対象分子による薬物代謝活性等を指標にしたりして、判定または評価することができる。マーカーの発現は、遺伝子レベルで判定されてもよいし、タンパク質レベルで判定されてもよい。一例として、分化誘導した目的細胞の分化先の細胞種が心筋であるとする。この場合、分化誘導した後の細胞において、Mlc2vおよびMlc2aなどのマーカー分子が発現していることを確認できれば、その細胞は、心筋への分化が成功したと判定することができる。
【0066】
S403の処理は、遺伝子マーカーの発現、および翻訳産物のタンパク質などのマーカー分子の発現を侵襲的な手法を用いて確認することで実施されてよい。例えば、蛍光染色、および細胞集塊を破壊して細胞を分散させて1細胞解析が行われてもよい。
【0067】
S404においてコンピュータ20は、細胞形状の特徴量を取得する。例えば、細胞形状の特徴量には、真球度を用いることができる。例えば、コンピュータ20は、細胞のスタック画像に内接円を配置し、式1を用いて真球度を決定してよい。
【0068】
S405においてコンピュータ20は、次の細胞を処理するか否かを判定する。一例では、ユーザが入力装置23を介して次の細胞を処理するか否かを示す指示を、コンピュータ20に入力してよい。この場合、コンピュータ20はS405において、次の細胞を処理することを示す指示が入力されるとYESと判定し、一方、次の細胞を処理しないことを示す指示が入力されるとNOと判定する。また、読み込んだ細胞画像に処理対象とする複数の細胞が写っている場合、コンピュータ20はS405において、未処理の細胞があればYESと判定してよく、一方、全ての細胞に処理を実行していればNOと判定してよい。そして、S405において次の細胞を処理する場合(S405がYES)、フローはS401に戻り、コンピュータ20は、次の細胞に対して処理を繰り返す。一方、S405において次の細胞を処理しない場合(S405がNO)、フローはS406に進む。
【0069】
S406においてコンピュータ20は、得られた特徴量に基づいて細胞の分化状態を判定するための閾値を設定する。なお、設定した細胞の分化状態を判定するための閾値を、所定閾値と呼ぶことがある。所定閾値は、例えば、所定の分化状態にあることを示すマーカー分子が発現していることが確認された細胞の特徴量と、マーカー分子が発現していないことが確認された細胞の特徴量とを仕分ける値に設定されてよい。例えば、細胞の分化状態を測るための細胞形状の特徴量として真球度を用いるとする。そして、細胞が未分化の状態か、目的細胞に分化しているかを評価対象とする。この場合、コンピュータ20は、マーカー分子が発現していない未分化の細胞に対して決定した真球度の集合と、マーカー分子が発現しており、目的細胞に分化している細胞に対して決定した真球度の集合とを分けるように閾値を設定してよい。
【0070】
図5は、実施形態に係る閾値の設定を例示する図である。図5には、縦軸に真球度および横軸に細胞がとられたグラフが示されている。また、図5において白丸(〇)で示される細胞は、未分化の細胞であり、黒丸(●)で示される細胞は、目的細胞に分化している細胞である。なお、分化しているか否かは、例えば、S403の処理でマーカー分子の有無を確認することで特定されてよい。
【0071】
上述のように、未分化の細胞では、分化した細胞よりも真球度が高くなる傾向にある。コンピュータ20は、得られた未分化の細胞の真球度と、分化した細胞の真球度とに基づいて、これらの2つのグループの真球度をできるだけ仕分けられるように閾値を設定する。それにより、コンピュータ20は、閾値を用いて細胞が分化しているか否かを判定することが可能になる。
【0072】
なお、評価対象とする分化状態は、未分化の状態か、分化している状態かの判定に限定されるものではない。例えば、分化による細胞の成熟の度合いを測るために閾値が設定されてもよい。例えば、細胞が分化して成熟していく過程で、発現するマーカー分子が変化することがある。
【0073】
図6は、細胞の分化と発現遺伝子の変化とを例示する図である。図6に示すように、例えば、細胞Aが分化して成熟し、細胞Bになるとする。また、分化の過程において、ステージ1ではマーカーAの遺伝子が発現しており、ステージ2ではマーカーBの遺伝子が発現しており、ステージ3の細胞Bにまで成熟した状態ではマーカーCの遺伝子が発現しているものとする。この場合に、それぞれのマーカー遺伝子が発現しているステージごとに閾値を設定することで、細胞の形状から分化の度合いを判定することも可能である。
【0074】
図7は、細胞の分化におけるステージごとの閾値の設定を例示する図である。図7において、縦軸に真球度および横軸に細胞がとられたグラフが示されている。なお、細胞が、分化におけるどのステージにあるかは、発現しているマーカー分子から特定することができる。例えば、未分化の細胞は黒四角(■)で示されており、マーカーAの発現しているステージ1の細胞は白丸(〇)で示されており、マーカーBの発現しているステージ2の細胞は白四角(□)で示されており、マーカーCの発現しているステージ3の細胞は黒丸(●)で示されている。図7の例では、細胞の分化が進むにつれて真球度が徐々に下がっている。
【0075】
そして、図7の例では、それぞれのステージの真球度を分けるように、閾値A、閾値B、および閾値Cが設定されている。例えば、閾値Aは、未分化の細胞の真球度と、ステージ1の細胞の真球度とを分けるように設定されている。また、閾値Bは、ステージ1の細胞の真球度と、ステージ2の細胞の真球度とを分けるように設定されている。閾値Cは、ステージ2の細胞の真球度と、ステージ3の細胞の真球度とを分けるように設定されている。このように、細胞の分化の成熟におけるステージと対応づけて閾値を設定することで、真球度から細胞の分化の度合いを推定することができる。
【0076】
続いて、設定した閾値を用いた細胞の分化状態の判定について説明する。図8は、実施形態に係る細胞の分化状態の判定処理の動作フローを例示する図である。コンピュータ20は、例えば、細胞の分化状態の判定処理の実行指示が入力されると、図8の動作フローを開始してよい。
【0077】
続く、S801からS803の処理は、例えば、S401、S402、およびS404の処理とそれぞれ対応していてよく、一例ではS401、S402、およびS404の処理と同様に実行されてよい。
【0078】
S804においてコンピュータ20は、細胞集塊を構成する細胞の分化状態を評価した評価結果を出力する。例えば、コンピュータ20は、特徴量が所定閾値よりも小さい場合に細胞が所定の分化状態にあると評価し、特徴量が所定閾値よりも大きい場合に、細胞が所定の分化状態にはないと評価してよい。例えば、評価対象の細胞が未分化の状態か、それとも目的細胞に分化しているかを判定するとする。この場合には、これらの状態を分けるように図4の動作フローにより閾値を設定する。そして、コンピュータ20は、設定された閾値を用いて細胞の分化状態を評価する。この場合、コンピュータ20は、例えば、評価対象の細胞の真球度が閾値よりも大きければ分化した状態にない(すなわち、未分化である)と評価結果を出力してよい。また、コンピュータ20は、評価対象の細胞の真球度が閾値よりも小さければ分化していると評価結果を出力してよい。なお、真球度が閾値と一致する場合は、閾値の設定の仕方によってどちらに仕分けられてもよく、この例では、分化した状態、または未分化の状態のいずれかに分けられてよい。
【0079】
また、図7に例示したように、分化のステージに応じて複数の閾値が設定されている場合に、コンピュータ20は、S804で分化のステージを特定してもよい。例えば、図7の場合、評価対象の細胞の真球度が、閾値Aよりも大きい場合に、コンピュータ20は、未分化と評価結果を出力してよい。また、評価対象の細胞の真球度が、閾値Bよりも大きく閾値Aよりも小さい場合、コンピュータ20は、分化状態がステージ1と評価結果を出力してよい。評価対象の細胞の真球度が、閾値Cよりも大きく閾値Bよりも小さい場合、コンピュータ20は、分化状態がステージ2と評価結果を出力してよい。評価対象の細胞の真球度が、閾値Cよりも小さい場合、コンピュータ20は、分化状態がステージ3と評価結果を出力してよい。このように、閾値を分化のステージに応じて設定することで、細胞の分化がどのステージまで進んでいるかを評価結果として出力することも可能である。
【0080】
なお、上述のように、図4の動作フローにおいて閾値は、マーカー分子の発現を確認することで分化状態と対応づけられている。そのため、一例では、S804の処理では分化状態の評価結果としてマーカー遺伝子の発現の有無を示す情報が出力されてもよい。
【0081】
S805においてコンピュータ20は、処理を終了するか否かを判定する。例えば、分化状態を評価する対象とする全ての細胞について処理が実行されている場合、コンピュータ20はS805においてYESと判定し、処理を終了してよい。一方、例えば、分化状態を評価する対象とする細胞のうちで、未処理の細胞がまだ残っている場合、コンピュータ20はS805においてNOと判定し、フローはS801に戻り、未処理の細胞に対して処理を繰り返してよい。
【0082】
以上で述べたように、実施形態によれば、細胞の形状から得られた特徴量に対して設定した閾値を用いることで、分化状態を評価することができる。なお、細胞の形状から得られた特徴量に対する閾値を用いた評価は、細胞の画像に対して非侵襲的に実行することができる。そのため、例えば、細胞の破壊および染色は行わなくても、断層の観察が可能なOCT(Optical Coherence Tomography)技術などを使って形状情報を取得すれば、評価を実施することが可能である。そのため、分化状態を判定した後の細胞を様々な用途で利用することが可能である。また、閾値を用いて、複数の細胞を一律に評価することができるため、例えば、人手により判断する場合のような判定者の個人差などによる判定結果のばらつきを抑制することができる。
【0083】
また、上述の実施形態では閾値の設定において、細胞の分化状態をマーカー分子の発現により厳密に特定している。そのため、閾値用いて細胞を評価することで、細胞の分化状態を高い精度で識別することができる。
【0084】
また更に、図7を参照して例示したように、分化のステージを検出して閾値を設定することで、ステージごとに分化状態を判定するといった細かな判定を実行することもできる。例えば、コンピュータ20は、所定の分化状態よりも分化が進んだ第2の分化状態にあることを示す第2のマーカー分子が発現していることが確認された細胞の特徴量と、第2のマーカー分子が発現していないことが確認された細胞の特徴量とを仕分ける値に第2の閾値を設定する。それにより、コンピュータ20は、第2の閾値に基づいて、細胞が第2の分化状態にあるか否かを評価することができる。
【0085】
以上で述べたように、実施形態によれば、望ましい分化状態の目的細胞が得られたのかを容易に評価することができる。
【0086】
なお、上述の実施形態では個々の細胞の分化状態を判定する例を述べているが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、分化させた細胞を臨床応用などの用途で利用する場合、細胞単体の分化状態だけでなく、細胞が寄り集まった細胞集塊に含まれる細胞のうちで目的の細胞に分化している細胞が占める割合が高いことが重要なこともある。そのため、実施形態は細胞集塊などの細胞の集合の分化状態を判定するために利用されてもよい。
【0087】
図9は、細胞集塊の分化状態を判定するための閾値の設定処理の動作フローを例示する図である。例えば、コンピュータ20は、細胞集塊の分化状態を判定するための閾値の設定処理の実行指示が入力されると、図9の動作フローの実行を開始してよい。
【0088】
S901においてコンピュータ20は、細胞集塊の画像を取得する。例えば、コンピュータ20の記憶装置22には、顕微鏡装置10で撮影された細胞集塊の画像が記憶されていてよい。そして、コンピュータ20は、記憶装置22から細胞集塊の画像を読み出して取得してよい。なお、S901で取得する細胞集塊の画像は、例えば、利用において望ましい分化が起きた細胞集塊と、利用において望ましくない分化が起きた細胞集塊を撮影した画像とが含まれていてよい。また、細胞集塊の画像には、例えば、集塊になっている複数の細胞のスタック画像が含まれている。
【0089】
S902においてコンピュータ20は、細胞集塊の画像に写る複数の細胞から細胞形状の特徴量を取得する。ここでは、細胞形状の特徴量として真球度を用いる例を述べる。コンピュータ20は、細胞集塊の画像に写る複数の細胞のそれぞれのスタック画像に基づいて式1により真球度を求める。
【0090】
S903においてコンピュータ20は、閾値を用いて細胞集塊を構成する細胞のそれぞれについて細胞の分化状態を評価して、細胞集塊のうちで所定の分化状態に分化している細胞が占める割合を取得する。例えば、コンピュータ20は、S902で特定した真球度が所定閾値よりも小さい場合に分化した細胞と判定し、一方、真球度が所定閾値よりも大きい場合に未分化の細胞と判定して、複数の細胞のうち分化している細胞が占める割合(以下、分化割合と呼ぶことがある)を取得する。なお、所定閾値は、例えば、図4の動作フローにより設定されてよい。
【0091】
S904においてコンピュータ20は、次の細胞集塊を処理するか否かを判定する。一例では、ユーザが入力装置23を介して次の細胞集塊を処理するか否かを示す指示を、コンピュータ20に入力してよい。この場合、コンピュータ20はS904において、次の細胞集塊を処理することを示す指示が入力されるとYESと判定し、一方、次の細胞集塊を処理しないことを示す指示が入力されるとNOと判定する。また、例えば、記憶装置22に処理対象とする複数の細胞集塊の画像が記憶されている場合、コンピュータ20はS904において、未処理の細胞集塊の画像があればYESと判定してよく、一方、全ての細胞集塊の画像に処理を実行していればNOと判定してよい。そして、S904において次の細胞集塊を処理する場合(S904がYES)、フローはS901に戻り、コンピュータ20は、次の細胞集塊に対して処理を繰り返す。一方、S904において次の細胞集塊を処理しない場合(S904がNO)、フローはS904に進む。
【0092】
S905においてコンピュータ20は、得られた分化割合に基づいて、細胞集塊の分化割合に対する閾値を設定し、本動作フローは終了する。上述のように、細胞集塊の画像として、例えば、利用において望ましい分化が起きた細胞集塊と、利用において望ましくない分化が起きた細胞集塊を撮影した画像とが含まれていてよい。そして、S905ではコンピュータ20は、利用において望ましい分化が起きた細胞集塊の分化割合と、利用において望ましくない分化が起きた細胞集塊の分化割合とを仕分けられるように分化割合の閾値を設定する。それにより、コンピュータ20は、分化割合の閾値を用いて細胞集塊が利用において望ましいレベルで分化しているか否かを判定することが可能になる。そして、利用において望ましい分化割合を有する細胞集塊を選別することが可能になる。
【0093】
続いて、利用において望ましい分化割合を有する細胞集塊を選別する処理について説明する。図10は、実施形態に係る細胞集塊を選別処理の動作フローを例示する図である。例えば、コンピュータ20は、細胞集塊を選別処理の実行指示が入力されると図10の動作フローを開始してよい。
【0094】
なお、S1001からS1005の処理は、例えば、S801からS805の処理と対応していてよく、一例では、S801からS805の処理と同様の処理が実行されてよい。
【0095】
S1006においてコンピュータ20は、細胞集塊の分化割合を取得する。例えば、コンピュータ20は、S1001からS1005の処理で閾値を用いて判定した細胞の分化状態の判定結果に基づいて、細胞集塊に含まれる細胞のうち分化している細胞が占める割合を特定する。
【0096】
S1007においてコンピュータ20は、細胞集塊の質の評価結果を出力し、本動作フローは終了する。例えば、コンピュータ20は、S1006で得られた画像に写る細胞集塊の分化割合が、所定の割合以上であるか否かを示す評価結果を出力する。なお、細胞集塊の質の評価に用いる所定の割合には、図9の動作フローにより設定した細胞集塊の分化割合の閾値を用いることができる。
【0097】
図11は、実施形態に係る細胞集塊の質の評価結果を例示する図である。図11には、縦軸に分化割合および横軸に細胞集塊がとられたグラフが示されている。また、図11では、分化割合の閾値(例えば、70%)以上の割合で分化した細胞が含まれている細胞集塊が黒丸(●)で示されており、一方、分化割合の閾値(例えば、70%)未満の割合で分化した細胞が含まれている細胞集塊が白丸(〇)で示されている。
【0098】
以上の図9から図11を参照して述べたように、実施形態によれば、例えば、培養により得られた細胞集塊が、利用において望ましい分化割合で分化しているか否かを非侵襲的に評価することができる。そのため、質の高い細胞集塊を選別することが可能になる。また、複数の細胞集塊を、細胞形状の特徴量に対して設定した閾値により一律に同じ基準で評価することができるため、例えば、判定者の個人差などによる判定結果のばらつきを抑制することができる。
【0099】
以上で述べたように、実施形態によれば目的細胞が得られたのかを容易に判定することが可能になる。
【0100】
なお、上述の実施形態の例えば、S404、S803、S902、およびS1003の処理において、コンピュータ20のプロセッサ21は記憶装置22のプログラムを読み出して実行することで取得部として動作する。また、例えば、S804、S1004、およびS1007の処理において、コンピュータ20のプロセッサ21は記憶装置22のプログラムを読み出して実行することで評価部として動作する。
【0101】
以上において、実施形態を例示したが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、上述の動作フローは例示であり、実施形態はこれに限定されるものではない。可能な場合には、動作フローは、処理の順番を変更して実行されてもよく、別に更なる処理を含んでもよく、または、一部の処理が省略されてもよい。
【0102】
また、上述の実施形態ではオルガノイドを構成する細胞を例に、分化状態を評価する説明を行っているが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、細胞は、スフェロイドを構成する細胞であってもよい。
【0103】
また、上述の実施形態では、1つのマーカー分子の発現に基づき特定された細胞の分化状態と、細胞の形状の特徴量とを対応づけて閾値を設定する例が述べられているが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、別の実施形態では、複数のマーカー分子の発現に基づき特定された細胞の分化状態と、細胞の形状の特徴量とを対応づけて閾値が決定されてもよい。
【0104】
また同様に、上述の実施形態では細胞形状の特徴量に、真球度を用いる例が示されているが、細胞の直径サイズ、細胞のスライス画像における角や突起の数などその他の特徴量が用いられてもよく、さらにはそれらの特徴量が組み合わせられた複数の特徴量で評価が実行されてもよい。
【0105】
また、上述の実施形態において閾値は、或る状態の細胞の真球度(例えば、未分化の細胞の真球度)と、或る状態から更に分化が進んだ別の状態の細胞(例えば、分化した細胞の真球度)とを100%の精度で分けられなくてもよい。例えば、閾値には、対象の細胞の状態を所定以上の精度(例えば、80%以上など)で分類できる値が用いられてもよい。
【0106】
また、上述の実施形態では、1つのコンピュータ20が、分化状態の評価を実行する例を述べているが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、実施形態に係る処理は、サーバ-クライアントシステムなどのように複数のコンピュータ20による協働で実行されてもよい。例えば、上述のコンピュータ20が実行する処理の一部は、別のコンピュータ20により実行されてもよい。また、コンピュータ20の記憶装置22に記憶されているデータの一部は、別のコンピュータ20から取得されてもよい。
【0107】
以上において、いくつかの実施形態が説明される。上述した実施形態は、発明の理解を容易にするために具体例を示したものであり、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。上述の実施形態を変形した変形形態および上述した実施形態に代替する代替形態が包含され得る。つまり、各実施形態は、その趣旨および範囲を逸脱しない範囲で構成要素を変形することが可能である。また、1つ以上の実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより、新たな実施形態を実施することができる。また、各実施形態に示される構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよく、または実施形態に示される構成要素にいくつかの構成要素を追加してもよい。さらに、各実施形態に示す処理手順は、矛盾しない限り順序を入れ替えて行われてもよい。即ち、本発明の幹細胞の分化を評価するシステム、方法、および、プログラムは、特許請求の範囲の記載を逸脱しない範囲において、さまざまな変形、変更が可能である。
【0108】
本明細書において、“Aに基づいて”という表現は、“Aのみに基づいて”を意味するものではなく、“少なくともAに基づいて”を意味し、さらに、“少なくともAに部分的に基づいて”をも意味している。即ち、“Aに基づいて”はAに加えてBに基づいてもよく、Aの一部に基づいてよい。
【0109】
本明細書において、名詞を修飾する“第1の”、“第2の”などの用語は、名詞で表現される要素の量または順序を限定するものではない。これらの用語は、2つ以上の要素間を区別するために用いられ、それ以下でもそれ以上でもない。従って、“第1の”と“第2の”要素が特定されていることは、“第1の”要素が“第2の”要素に先行することを意味するものではなく、また、“第3の”要素の存在を否定するものでもない。
【符号の説明】
【0110】
1 :評価システム
10 :顕微鏡装置
11 :デジタルカメラ
12 :蛍光フィルタキューブ
13 :ターレット
14 :位相差対物レンズ
15 :対物レンズ
16 :ステージ
17 :位相差コンデンサ
18 :光源
19 :光源
20 :コンピュータ
21 :プロセッサ
22 :記憶装置
23 :入力装置
24 :表示装置
25 :通信装置
26 :バス
300 :スタック画像
310 :内接球
S :試料


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11