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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176838
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】3相交流電動機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/05 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
H02P21/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089349
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江口 悟司
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA18
5H505BB04
5H505DD03
5H505DD05
5H505DD08
5H505DD11
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG01
5H505GG02
5H505GG04
5H505HB01
5H505JJ25
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL41
5H505MM17
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、3相交流電動機の各相の電流検出DCオフセットを迅速に抑制することである。
【解決手段】位置制御装置20は、3相交流電動機に流れる3相の電流のうちの少なくとも2相である処理対象相の電流を検出し、オフセット補償量に基づいて処理対象相の電流検出値に対してオフセット補償処理を施し、オフセット補償処理後の処理対象相の電流検出値に基づいて、3相交流電動機の制御を行う。オフセット補償量を求める処理は、トルク指令値信号について、トルクリップルの周波数成分のフーリエ係数を求める処理と、処理対象相のトルク振幅成分を求める処理と、処理対象相のトルク振幅成分に基づいて、処理対象相についてのオフセット補償量を求める処理とを含む。処理対象相のトルク振幅成分を求める処理は、上記のフーリエ係数と、トルク指令値信号の基準時刻における3相交流電動機の電気角とに基づく処理を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相交流電動機に流れる3相の電流のうちの少なくとも2相である処理対象相の電流を検出し、
予め求められたオフセット補償量に基づいて前記処理対象相の電流検出値に対してオフセット補償処理を施し、
前記オフセット補償処理後の前記処理対象相の電流検出値に基づいて、前記3相交流電動機の制御を行い、
前記オフセット補償量を求める処理は、
前記3相交流電動機に対するトルク指令値信号について、トルクリップルの周波数成分のフーリエ係数を求める処理と、
前記3相交流電動機の前記処理対象相のトルク振幅成分を求める処理であって、前記フーリエ係数と、前記トルク指令値信号の基準時刻における前記3相交流電動機の電気角と、に基づいて、前記処理対象相の前記トルク振幅成分を求める処理と、
前記処理対象相の前記トルク振幅成分に基づいて、前記処理対象相についての前記オフセット補償量を求める処理とを含むことを特徴とする、3相交流電動機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制御装置において、
前記オフセット補償量を求める処理は、
オフセット補償変化量であって、前記処理対象相について先に求められた前記オフセット補償量に対するオフセット補償変化量を、前記処理対象相の前記トルク振幅成分に基づいて求め、
前記処理対象相についての前記オフセット補償変化量と、前記処理対象相について先に求められた前記オフセット補償量とに基づいて、前記処理対象相について新たな前記オフセット補償量を求める処理を含むことを特徴とする、3相交流電動機の制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の制御装置において、
前記トルク指令値信号は、
一定速度で回転する前記3相交流電動機に対するトルク指令値を示すことを特徴とする、3相交流電動機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NC工作機械等の軸制御において、送り軸や主軸の速度や回転角(制御対象の位置)、あるいは、一般産業機械において、制御対象の速度や伝達トルクを、同期電動機や誘導電動機などの3相交流電動機によって制御する際の、電動機の電流制御に関するものである。
【0002】
以降では、NC工作機械の軸制御における本発明技術の利用例を詳説するが、本発明技術は、3相交流電動機でトルク・速度・位置を高精度に制御する用途全般に適用できる技術である。
【背景技術】
【0003】
一般に、NC工作機械の軸制御には、3相交流電動機(以降、単に、交流電動機あるいはモータの呼称も用いる)が採用される事が多い。3相交流電動機では、相互に120degずれた電気的位置に、U相,V相,W相の電線を配置して、各相の電流を高精度に制御することで、交流電動機として高いトルク制御性を実現できる。
【0004】
高精度な電流制御を行うためには、各相の電流を広い周波数帯域で高精度に検出する必要がある。しかしながら、電流検出回路には、高周波ノイズの転化や温度ドリフト等の影響で、(直流的な)DCオフセット分が重畳し、その結果、トルク出力には、電流周波数の脈動(トルクリップル)が発生する。
【0005】
図6は、3相交流電動機を駆動モータに用いた、従来の位置制御装置200の一例を示すブロック図である。以下、本例の位置制御装置200について説明する。上位装置(図示しない)より、本例の位置制御装置200に対して、位置指令値Xが出力される。モータ300に締結された位置検出器301より出力されるモータ300の回転角θmは、モータに接続されて駆動される負荷302の位置を示す位置検出値であり、減算器50で位置指令値Xから減算され、その出力は位置偏差DIFとなる。
【0006】
位置偏差DIFは、位置偏差増幅器51で位置ループゲインKp倍に増幅されて速度指令値ωmが出力される。一方で、微分器52は位置検出値θmを時間微分して速度検出値ωmを出力する。減算器53では、速度指令値ωmから、速度検出値ωmが減算され、減算器53の出力である速度偏差は、速度制御器54でPI(比例積分)増幅される。速度制御器54の出力が、モータのトルク指令値τcとなる。
【0007】
電流ベクトル制御演算部57は、永久磁石型同期電動機(一般に、表面磁石同期電動機(SPMSM)と埋込磁石同期電動機(IPMSM)に分類される)や、リラクタンス型同期電動機(SynRM)の場合は、モータのトルク指令値τcに対して、モータのN-τ(速度-トルク)特性や、速度検出値ωmなどから、q軸電流指令値iqとd軸電流指令値idを演算出力する。
【0008】
一方で、誘導電動機(IM)の場合は、電流ベクトル制御演算部57は、当該誘導電動機の界磁弱め特性と速度検出値ωmから、d軸電流指令値idを演算出力し、トルク指令値τcと、d軸電流検出値idから、q軸電流指令値iqを演算出力する。さらに、d軸電流検出値idとq軸電流指令値iqから、滑り角速度ωsを演算し、後述する電気角速度ωreと加算(図示しない)して、電流角速度ωと、その時間積分である電流位相角θを演算出力する。
【0009】
位置検出値θmは、乗算器55で、モータ対極数p倍されて、電気角θreとなる。微分器56は、電気角θreを時間微分して、電気角速度ωreを出力する。(通常、同期電動機では、電気角速度ωre=電流角速度ωになる。)モータのU相電流iu0と、V相電流iv0は、U相電流検出回路65とV相電流検出回路66により検出される。各相電流検出値には、前述したDCオフセット分が重畳している。
【0010】
電流検出オフセット補償値調整器100は、電気角速度ωre(IMの場合は、電流角速度ω)とトルク指令値τcから、U相オフセット補償量ducと、V相オフセット補償量dvcを調整出力する。加算器67は、iu0とducを加算して、U相電流iuを出力する。同様に、加算器68は、iv0とdvcを加算して、V相電流ivを出力する。
【0011】
なお、W相電流iwは、iw=-(iu+iv)で算出できる。この様に、3相電流は、iu+iv+iw=0となるため、通常は、3相の内2相を検出して、残る1相は演算で算出することが多い。3相→d-q変換器62は、U相電流iuとV相電流ivおよび電気角θre(IMの場合は電流位相角θ)から、座標変換によって、d軸電流検出値idと、q軸電流検出値iqを演算出力する。
【0012】
減算器58は、d軸電流指令値idからd軸電流検出値idを減算して、d軸電流誤差Δidを演算する。d軸電流制御器59は、d軸電流誤差ΔidをPI(比例積分)増幅する誤差増幅器と、q軸との干渉成分を補償する非干渉化補償部(図示しない)から構成される。d軸電流制御器59は、誤差増幅器出力と非干渉化補償値を加算して、d軸電圧指令値vdを出力する。
【0013】
減算器60は、q軸電流指令値iqからq軸電流検出値iqを減算して、q軸電流誤差Δiqを演算する。q軸電流制御器61は、q軸電流誤差ΔiqをPI(比例積分)増幅する誤差増幅器と、d軸との干渉成分を補償する非干渉化補償部(図示しない)、さらに、モータの誘起電圧を補償する誘起電圧補償部(図示しない)から構成される。q軸電流制御器61は、誤差増幅器出力と非干渉化補償値および誘起電圧補償値を加算して、q軸電圧指令値vqを出力する。
【0014】
d-q→3相変換器63は、d軸電圧指令値vdと、q軸電圧指令値vqおよび電気角θre(IMの場合は電流位相角θ)から、座標変換によって、U相制御電圧指令値vu、V相制御電圧指令値vv、W相制御電圧指令値vwを演算出力する。
【0015】
PWMインバータ64は、各相制御電圧指令値(vu,vv,vw)を入力として、これを電力増幅して、モータ駆動の相電圧(vu,vv,vw)を出力する。各出力相電圧は、モータの各相に印加され、各相電流が発生する。
【0016】
図7は、従来の電流検出オフセット補償値調整器100の構成の一例を示すブロック図である。電気角速度ωre(IMの場合は、電流角速度ω)とトルク指令値τcを、FFT変換部101に入力する。電流検出に重畳するDCオフセットは、電気角速度ωre(IMの場合は、電流角速度ω)の角周波数を持つトルクリップルに転化するため、FFT変換部101は、この角周波数成分のトルクリップル振幅に相当するフーリエ係数絶対値|Ck|を出力する。
【0017】
選択器102は、U相電流検出のオフセット補償量を調整するか、V相電流検出のオフセット補償量を調整するかを決定する選択器である。最初に、U相側を選択すると、U相オフセット補償値調整部103は、U相電流検出オフセット補償量ducを、特定のピッチで変化させながら、角周波数ωre(IMの場合は、ω)のトルクリップル振幅|Ck|の最小値を与えるducを探索する。
【0018】
次に、V相側を選択する。V相オフセット補償値調整部104は、V相電流検出オフセット補償量dvcを、特定のピッチで変化させながら、角周波数ωre(IMの場合は、ω)のトルクリップル振幅|Ck|の最小値を与えるdvcを探索する。この様なU相側とV相側の対動作を、探索ピッチを縮小しながら、数サイクル繰返すことで、最終的に、重畳したDCオフセットを相殺または抑制するオフセット補償量を演算出力する。
【0019】
以上で、従来の電流検出オフセット補償の動作アルゴリズムの一例を説明したが、この様な相選択を伴う探索的アルゴリズムでは、各相を同時に演算できないため、トルクリップルの大きさが定常的に変動する状態や、各相の電流検出に重畳するDCオフセットの差が、著しく大きい時など、好適なオフセット補償量を演算できない場合があった。
【0020】
なお、以下の特許文献1には、本発明に関連する技術として、3相交流モータの電流センサのオフセット誤差に起因するトルクリップルを低減する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2019-221105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の目的は、3相交流電動機の各相の電流検出DCオフセットを迅速に抑制することである。また、実施形態では、電流検出に重畳するDCオフセットに起因した、電気角速度ωre(IMの場合は、電流角速度ω)の角周波数のトルクリップルの大きさが、定常的に変動する状態や、各相の電流検出DCオフセットの差が著しく大きい時などにおいても、最適なオフセット補償量を各相同時に演算出力することで、トルクリップルの大きさを最小化できる電流検出オフセット補償値演算器を具備した3相交流電動機の制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、3相交流電動機に流れる3相の電流のうちの少なくとも2相である処理対象相の電流を検出し、予め求められたオフセット補償量に基づいて前記処理対象相の電流検出値に対してオフセット補償処理を施し、前記オフセット補償処理後の前記処理対象相の電流検出値に基づいて、前記3相交流電動機の制御を行い、前記オフセット補償量を求める処理は、前記3相交流電動機に対するトルク指令値信号について、トルクリップルの周波数成分のフーリエ係数を求める処理と、前記3相交流電動機の前記処理対象相のトルク振幅成分を求める処理であって、前記フーリエ係数と、前記トルク指令値信号の基準時刻における前記3相交流電動機の電気角と、に基づいて、前記処理対象相の前記トルク振幅成分を求める処理と、前記処理対象相の前記トルク振幅成分に基づいて、前記処理対象相についての前記オフセット補償量を求める処理とを含むことを特徴とする。
【0024】
望ましくは、前記オフセット補償量を求める処理は、オフセット補償変化量であって、前記処理対象相について先に求められた前記オフセット補償量に対するオフセット補償変化量を、前記処理対象相の前記トルク振幅成分に基づいて求め、前記処理対象相についての前記オフセット補償変化量と、前記処理対象相について先に求められた前記オフセット補償量とに基づいて、前記処理対象相について新たな前記オフセット補償量を求める処理を含む。
【0025】
望ましくは、前記トルク指令値信号は、一定速度で回転する前記3相交流電動機に対するトルク指令値を示す。
【0026】
一実施形態においては、3相交流電動機のトルク・速度・位置の制御装置において、3相交流電動機を一定速で回転させてサンプリング収集したトルク指令値信号から演算した電流周波数成分のトルクリップルに対するフーリエ係数と、サンプリング開始時の電流位相とから、任意の1相の電流検出に重畳するDCオフセット誤差に起因したトルクリップル振幅と、他の2相の内の1相の電流検出に重畳するDCオフセット誤差に起因したトルクリップル振幅を同時に導出し、該トルクリップル振幅から、各相の電流検出オフセット誤差補償量を演算して、電流検出に補正を加える、電流検出オフセット補償値演算器を具備する。
【0027】
また、一実施形態においては、電流検出オフセット誤差補償量の演算は、複数サイクル繰返すことで、トルクリップルを漸近的に減少収束させるアルゴリズムを持つことを特徴とした電流検出オフセット補償値演算器を具備する。
【0028】
本発明の一実施形態では、電流検出に重畳するDCオフセットに起因した、電気角速度ωre(IMの場合は、電流角速度ω)の角周波数のトルクリップルの振幅と位相を、フーリエ係数C1として、同時且つ高速に検出する。フーリエ係数C1から、各相の電流検出オフセットの極性と相対比率を解析的に求め、各相の電流検出オフセット補償値増分量を演算する。この演算サイクルを繰り返すことで、各相のオフセット補償量を漸近的に最適値へ収束させる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、各相の電流検出DCオフセットを迅速に抑制することができる。また、本発明の一実施形態による3相交流電動機の位置制御装置では、電気角速度ωre(IMの場合は、電流角速度ω)の角周波数のトルクリップルの原因となる、各相の電流検出に重畳するDCオフセットを、解析的アルゴリズムで、高速且つ各相同時に求めたオフセット補償量で相殺または抑制することができる。このため、トルクリップルの大きさが定常的に変動する状態や、各相のDCオフセットの差が著しく大きい時などにおいても、各相のオフセット補償量を最適化して、トルクリップルの大きさを最小化できる。なお、本発明技術は、3相交流電動機でトルク・速度・位置を高精度に制御する用途全般に適用でき、同様な効果が享受できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の3相交流電動機を駆動モータに用いた位置制御装置の構成例を示すブロック図である。
図2】本発明の電流検出オフセット補償値演算器の一例を示すブロック図である。
図3】電流検出オフセット補償値演算器の動作シーケンスを説明するフローチャートである。
図4】永久磁石型同期電動機のトルクリップル周波数におけるフーリエ係数C1のベクトル図である。
図5】誘導電動機やリラクタンス型同期電動機のトルクリップル周波数におけるフーリエ係数C1のベクトル図である。
図6】従来の3相交流電動機を駆動モータに用いた位置制御装置の構成例を示すブロック図である。
図7】従来の電流検出オフセット補償値調整器の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための最良の形態について例を用いて説明する。図1は、本発明による3相交流電動機の位置制御装置20の構成概要の一例を示すブロック図である。図6に示される構成要素と同一の構成要素については同一の符号を付して、その説明を簡略化する。位置制御装置20は、プログラムを実行することで各構成要素の機能を実現するプロセッサや、デジタル電子回路、アナログ電子回路によって構成されてよい。
【0032】
最初に、各相電流検出に重畳するDCオフセットと、これに起因したトルクリップルτripの関係について明記しておく。永久磁石型同期電動機(SPMSMとIPMSM)では、d軸電流指令値id=0の下でも、永久磁石界磁とq軸電流iqの間でトルクを発生できる。ここで、U相,V相の電流検出DCオフセットをdu,dvとおいて、モータが電気角速度ωreの一定速で回転する際の、3相電流iu,iv,iwを、式(1)で表現する。なお、本明細書では、記載の簡略化のため、sin関数は「S」と表記され、cos関数は「S」と表記される。
【0033】
【数1】
ここで、Isは相電流振幅である。
【0034】
3相→d-q変換器62によって、q軸電流iqは、式(2)となる。
【0035】
【数2】
【0036】
SPMSMの場合、発生トルクτは、マグネットトルクで、q軸電流iqに比例(τ∝iq)する。特に、電流検出DCオフセットdu,dvに起因したトルクリップルτripは、式(3)で表現できる。
【0037】
【数3】
ただし、Aは、τripとdu,dv間の単位を合わせるための定数(A>0)である。
つまり、電流検出DCオフセットdu,dvは、電気角速度ωre(= p・ωm)の角周波数を持つトルクリップルτripに転化する。
【0038】
一方、3相→d-q変換器62によって、d軸電流idは、式(4)となる。
【0039】
【数4】
【0040】
IPMSMのリラクタンストルクτrは、iq・idに比例(τr ∝iq・id)する。電流検出DCオフセットの2乗項は小さいため、無視すると、
【0041】
【数5】
これは、式(3)のマグネットトルクリップルτripの定数倍になる。つまり、IPMSMの総トルク(=マグネットトルク+リラクタンストルク)のトルクリップルも、SPMSM同様に、式(3)で表現できる。
【0042】
図2は、図1の本発明における電流検出オフセット補償値演算器1の構成の一例を示すブロック図である。以降、電流検出オフセット補償値演算器1の動作について説明する。図3は、電流検出オフセット補償値演算器1の動作シーケンスの各Stepを説明するフローチャートである。
【0043】
(Step1).電流検出DCオフセットに起因したトルクリップルが大きく発生する速度領域の中で、式(6)を満たす、電気角速度ωreと、サンプリング総点数Nを選び、id=0の下、モータを一定速ωreで動作させる。
【0044】
【数6】
ここで、Tsはサンプリング周期である。
【0045】
(Step2).N点のトルク指令値信号τc[n]を、サンプリング周期Tsで収集する。
なお、τc[0]時の電気角θreをθ0として保存しておく。
【0046】
(Step3).公知の離散系フーリエ変換(DFT)の基本波成分のフーリエ係数C1を式(7)から演算する。
【0047】
【数7】
(Step2)と、(Step3)が、図2のフーリエ係数演算部2の動作になる。
【0048】
電気角速度ωreのトルクリップルτripは、式(3)から、duに起因するトルク振幅成分τuと、dvに起因するトルク振幅成分τvとの合成であり、フーリエ係数C1とは、図4の関係となる。
【0049】
式(3)のトルクリップルτripは、前記のトルク振幅成分τuとτvを用いて、式(8)で表記できる。
【0050】
【数8】
ただし、Bは、τripとτu,τv間の単位を合わせるための定数(B>0)である。
【0051】
(Step5).図4のτuとτvについては、フーリエ係数C1との間に、式(9.1),式(9.2)の関係が成立する。
【0052】
【数9】
【0053】
この連立方程式を解くと、図4のτu,τvは、式(10)で表現できる。
【0054】
【数10】
(Step5)が、図2の各相トルク振幅成分演算部3の動作になる。
【0055】
(Step6).導出したτu,τvから、電流検出オフセット補償増分量Δduc,Δdvcを式(11)で演算する。
【0056】
【数11】
ただし、ゲインGは、0<G≦B/Aの範囲の定数とする。
【0057】
今回サイクル(第mサイクル)の電流検出オフセット補償量duc[m]およびdvc[m]は、前回サイクル(第m-1サイクル)の電流検出オフセット補償量duc[m-1]およびdvc[m-1]と、電流検出オフセット補償増分量ΔducおよびΔdvcによって表される。すなわち、今回サイクル(第mサイクル)の電流検出オフセット補償量duc[m]およびdvc[m]は、式(12)によって、トルクリップルを0に漸近収束させる様に動作する。
【0058】
【数12】
(Step6)が、図2の各相電流検出オフセット補償値設定部4の動作になる。
【0059】
このように、本発明の実施形態に係る位置制御装置20は、3相交流電動機に流れる3相の電流のうちの2相(U相およびV相)の電流を検出し、予め求められたオフセット補償量に基づいて2相の電流検出値に対してオフセット補償処理を施し、オフセット補償処理後の2相の電流検出値に基づいて、3相交流電動機の制御を行う。
【0060】
オフセット補償量を求める処理は、3相交流電動機に対するトルク指令値信号(トルク指令値信号τc[n])について、トルクリップルの周波数成分のフーリエ係数C1を求める処理を含む。トルク指令値信号は、一定速度で回転する3相交流電動機に対するトルク指令値を示す信号であってよい。また、オフセット補償量duc[m]およびdvc[m]を求める処理は、3相交流電動機の2相のトルク振幅成分(τuおよびτv)を求める処理を含む。2相のトルク振幅成分を求める処理は、フーリエ係数C1と、トルク指令値信号τc[n]の基準時刻(n=0)における3相交流電動機の電気角θ0と、に基づいて、2相のトルク振幅成分(τuおよびτv)を求める処理を含む。さらに、2相のトルク振幅成分(τuおよびτv)に基づいて、2相についてのオフセット補償量duc[m]およびdvc[m]を求める処理を含む。
【0061】
また、オフセット補償量duc[m]およびdvc[m]を求める処理は、2相について先に求められたオフセット補償量duc[m-1]およびdvc[m-1]に対するオフセット補償変化量(オフセット補償増分量ΔducおよびΔdvc)を、2相のトルク振幅成分(τuおよびτv)に基づいて求め、2相についてのオフセット補償変化量と、2相について先に求められたオフセット補償量duc[m-1]およびdvc[m-1]とに基づいて、2相について新たなオフセット補償量duc[m]およびdvc[m]を求める処理を含む。ここでは、U相およびV相を直接の処理対象とし、W相についてはU相およびV相の演算結果に基づいて処理を実行する例が示されたが、U相、V相およびW相の3相を直接の処理対象の相(処理対象相)としてもよい。
【0062】
以上が、電流検出オフセット補償値演算器1の動作説明になるが、図3の(Step4)に示した様に、(Step3)で、フーリエ係数C1を演算した後、フーリエ係数の大きさ|C1|と、トルクリップル振幅の収束基準値τrefとの比較を行い、|C1|≦τrefとなるまで、(Step2)から(Step6)までの動作シーケンスを実行して、電流検出オフセット補償量duc,dvcの演算を繰り返す。|C1|≦τrefとなると、電流検出オフセット補償量duc,dvcの演算を完了し、モータの一定速動作を終了する。
【0063】
ここまでの一連の動作説明は、永久磁石型同期電動機(SPMSMとIPMSM)の場合について記述している。次に、誘導電動機(IM)やリラクタンス型同期電動機(SynRM)の場合における電流検出オフセット補償値演算器1の動作について、永久磁石型同期電動機(SPMSMとIPMSM)の場合との差異について説明する。IMやSynRMの場合は、q軸電流iqと、d軸電流idの間でトルクを発生(τ∝iq・id)するから、d軸電流指令値id≠0が前提条件になる。
【0064】
そこで、図1の電流ベクトル制御演算部10では、q軸電流指令値iqと、d軸電流指令値idを演算した後、iqとidのベクトル合成電流Iを求め、さらに、Iとidのなす角ψを演算しておく。
【0065】
IMやSynRMの場合は、モータが電流角速度ω(SynRMの場合は、電気角速度ωre)の一定速で回転する際の、電流検出DCオフセットdu,dvと、3相電流iu,iv,iwとの関係は、Iとidのなす角ψを用いて、式(13)で表現できる。
【0066】
【数13】
以下、SynRMを例として説明する。(SynRMは、同期電動機であるため、電流角速度ω→電気角速度ωreになる。)
【0067】
3相→d-q変換器62によって、q軸電流iqは式(14)、d軸電流idは式(15)となる。
【0068】
【数14】
【0069】
【数15】
【0070】
ここで、微小な電流検出DCオフセットの2乗項を無視して、発生トルクτを演算すると、式(16)となる。
【0071】
【数16】
【0072】
特に、電流検出DCオフセットdu,dvに起因したトルクリップルτripは、式(17)で表現できる。
【0073】
【数17】
ただし、Aは、SynRMの場合におけるτripとdu,dv間の単位合わせ定数(A>0)であって、式(3)のAとは異なるが、便宜上、Aと表現しておく。つまり、SynRMの場合も、電流検出DCオフセットは、電流角速度ωreの角周波数を持つトルクリップルτripに転化する。
【0074】
次に、SynRMの場合の、電流検出オフセット補償値演算器1の動作シーケンス(Step)について説明する。(Step3)までは、永久磁石型同期電動機(SPMSMとIPMSM)の場合と同じである。SynRMの場合、トルク振幅成分τu,τvと、フーリエ係数C1との関係は、図5の関係となる。
【0075】
よって、式(17)のトルクリップルτripは、トルク振幅成分τu,τvを用いて、式(18)で表記できる。
【0076】
【数18】
ただし、Bは、SynRMの場合におけるτripとτu,τv間の単位合わせ定数(B>0)であって、式(8)のBとは異なるが、便宜上、Bと表現しておく。
【0077】
τu,τvと、フーリエ係数C1との関係は、図5で示されるから、式(19.1),式(19.2)の関係が成立する。
【0078】
【数19】
【0079】
この連立方程式を解くと、図5のτu,τvは、式(20)で表現できる。
【0080】
【数20】
つまり、SynRMでは、図2の各相トルク振幅成分演算部3の動作である、(Step5)のシーケンスを、式(20)に基づいて実行する。以降、(Step6)と(Step4)のシーケンスについては、前述の永久磁石型同期電動機(SPMSMとIPMSM)の場合と同様である。
【0081】
次に、IMの場合について説明する。モータが電流角速度ωの一定速で回転する際の、電流検出DCオフセットdu,dvと、3相電流iu,iv,iwとの関係は、Iとidのなす角ψを用いて、前述の式(13)で表現できる。3相→d-q変換器62によって、q軸電流iqは式(21)となる。
【0082】
【数21】
【0083】
なお、IMの場合は、一定速下では、id=一定値に設定され、電流検出DCオフセットが存在しても、d軸電流idは、id=idと制御される。このため、トルクリップルτripは、SPMSMの場合と同様に、q軸電流iqのリップル成分に比例し、式(22)で表現できる。
【0084】
【数22】
ただし、Aは、IMの場合におけるτripとdu,dv間の単位合わせ定数(A>0)であって、IMの場合は、電流検出DCオフセットは、電流角速度ωの角周波数を持つトルクリップルτripに転化する。
【0085】
次に、IMの場合の、電流検出オフセット補償値演算器1の動作シーケンス(Step)について説明する。(Step3)までは、電気角速度ωreを電流角速度ωに置き換えれば動作は同じである。ただし、IMの場合、電流角速度ωと電気角速度ωreの間に、滑り角速度ωsの差があるため、負荷が重い場合は、滑り角速度ωsを考慮して、電流角速度ωとなる電気角速度ωreで、モータを一定速動作させる必要がある。
【0086】
IMの場合、トルク振幅成分τu,τvと、フーリエ係数C1との関係は、永久磁石型同期電動機(SPMSMとIPMSM)と同様に、図4の関係となる。よって、式(22)のトルクリップルτripは、トルク振幅成分τu,τvを用いて、式(23)で表記できる。
【0087】
【数23】
ただし、Bは、IMの場合におけるτripとτu,τv間の単位合わせ定数(B>0)である。
【0088】
τu,τvと、フーリエ係数C1との関係は、図4で示されるから、式(9.1),式(9.2)の関係が成立し、この連立方程式を解くと、τu,τvは、式(10)で表現できる。つまり、IMでは、図2の各相トルク振幅成分演算部3の動作である、(Step5)のシーケンスを、式(10)に基づいて実行する。以降、(Step6)と(Step4)のシーケンスについても、前述の永久磁石型同期電動機(SPMSMとIPMSM)の場合と同様である。
【0089】
3相交流電動機が、永久磁石型同期電動機(SPMSMとIPMSM)である場合についても同様に、位置制御装置20は、3相交流電動機に流れる3相の電流のうちの2相(U相およびV相)の電流を検出し、予め求められたオフセット補償量duc[m]およびdvc[m]に基づいて2相の電流検出値に対してオフセット補償処理を施し、オフセット補償処理後の2相の電流検出値に基づいて、3相交流電動機の制御を行う。
【0090】
オフセット補償量を求める処理は、3相交流電動機に対するトルク指令値信号(トルク指令値信号τc[n])について、トルクリップルの周波数成分のフーリエ係数C1を求める処理を含む。トルク指令値信号は、一定速度で回転する3相交流電動機に対するトルク指令値を示す信号であってよい。また、オフセット補償量duc[m]およびdvc[m]を求める処理は、3相交流電動機の2相のトルク振幅成分(τuおよびτv)を求める処理を含む。2相のトルク振幅成分を求める処理は、フーリエ係数C1と、トルク指令値信号τc[n]の基準時刻(n=0)における3相交流電動機の電気角θ0と、に基づいて、2相のトルク振幅成分(τuおよびτv)を求める処理を含む。さらに、2相のトルク振幅成分(τuおよびτv)に基づいて、2相についてのオフセット補償量duc[m]およびdvc[m]を求める処理を含む。
【0091】
また、オフセット補償量duc[m]およびdvc[m]を求める処理は、2相について先に求められたオフセット補償量duc[m-1]およびdvc[m-1]に対するオフセット補償変化量(オフセット補償増分量ΔducおよびΔdvc)を、2相のトルク振幅成分(τuおよびτv)に基づいて求め、2相についてのオフセット補償変化量と、2相について先に求められたオフセット補償量duc[m-1]およびdvc[m-1]とに基づいて、2相について新たなオフセット補償量duc[m]およびdvc[m]を求める処理を含む。ここでは、U相およびV相(V相およびW相)を直接の処理対象とし、V相(U相)については、U相およびW相(V相およびW相)の演算結果に基づいて処理を実行してもよい。
【0092】
以上、説明した様に、図1の本発明による3相交流電動機の位置制御装置20によれば、駆動モータが、永久磁石型同期電動機(SPMSMとIPMSM)の場合も、d軸電流指令値id≠0を前提条件とする、誘導電動機(IM)やリラクタンス型同期電動機(SynRM)の場合でも、適切な各相オフセット補償量を演算出力して、電流検出DCオフセットに起因したトルクリップルの大きさを最小化できる。
【符号の説明】
【0093】
1 電流検出オフセット補償値演算器,2 フーリエ係数演算部,3 各相トルク振幅成分演算部,4 各相電流検出オフセット補償値設定部,10,57 電流ベクトル制御演算部,20 位置制御装置(本発明),50 減算器,51 位置偏差増幅器,52 微分器,53 減算器,54 速度制御器,55 乗算器,56 微分器,58 減算器,59 d軸電流制御器,60 減算器,61 q軸電流制御器,62 3相→d-q変換器,63 d-q→3相変換器,64 PWMインバータ,65 U相電流検出回路,66 V相電流検出回路,67 加算器,68 加算器,100 電流検出オフセット補償値調整器,101 FFT変換部,102 選択器,103 U相オフセット補償値調整部,104 V相オフセット補償値調整部,200 位置制御装置(従来),300 モータ,301 位置検出器,302 負荷。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7