(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176840
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】血圧改善剤およびこれを含有する血圧改善用飲食品
(51)【国際特許分類】
A23L 33/105 20160101AFI20231206BHJP
A61K 36/894 20060101ALI20231206BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20231206BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K36/894
A61P9/12
A61P3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089352
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】520196667
【氏名又は名称】株式会社沖縄テレビ開発
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大田 直也
(72)【発明者】
【氏名】家光 素行
【テーマコード(参考)】
4B018
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB08
4B018LB09
4B018LB10
4B018LE03
4B018MD09
4B018MD48
4B018MD53
4B018MF04
4B018MF07
4C088AB84
4C088AC13
4C088BA07
4C088MA02
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA42
4C088ZC35
(57)【要約】
【課題】トゲドコロの新たな生理活性に基づく新たな技術を提供する。
【解決手段】トゲドコロ加工物を含有することを特徴とする血圧改善剤およびこれを含有する血圧改善用飲食品。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トゲドコロ加工物を含有することを特徴とする血圧改善剤。
【請求項2】
トゲドコロ加工物が、トゲドコロを有機酸水溶液中で加熱処理したものである請求項1記載の血圧改善剤。
【請求項3】
更に、血糖値を改善するものである請求項1記載の血圧改善剤。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の血圧改善剤を含有する血圧改善用飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トゲドコロ加工物を含有することを特徴とする血圧改善剤およびこれを含有する血圧改善用飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
トゲドコロ (Dioscorea esculenta) は、東南アジア原産の食用ヤマイモであり、国内では主に沖縄において栽培され、クーガ芋とも呼称される。近年トゲドコロの生理活性について研究が進められており、例えば、抗疲労作用、持久力増強作用、脂肪燃焼促進作用等を有することが報告されている(特許文献1、2)。
【0003】
しかしながら、トゲドコロの生理活性はまだ一部しか研究されていないため、まだ知られていない生理活性が多数ある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2008/123417号パンフレット
【特許文献2】特開2012-31153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、トゲドコロの新たな生理活性に基づく新たな技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、トゲドコロ加工品が血圧を改善することを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明はトゲドコロ加工品を含有することを特徴とする血圧改善剤である。
【0008】
また、本発明は、上記血圧改善剤を含有する血圧改善用飲食品である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の血圧改善剤は、血圧を改善することができる。また、本発明の血圧改善剤は血圧の改善と共に血糖値を改善させることができる。
【0010】
従って、本発明の血圧改善剤は、血圧の改善ができると共に、糖尿病の改善にも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は実施例2において収縮期血圧(SBP)を測定した結果である。
【
図2】
図2は実施例2において拡張期血圧(DBP)を測定した結果である。
【
図3】
図3は実施例2において血中のHbA1cを測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の血圧改善剤は、トゲドコロ加工物を含有するものである。
【0013】
このトゲドコロ加工物は、トゲドコロ(Dioscorea esculenta;クーガ芋)を原料として、これを常法で加工したものであれば、特に限定されない。このトゲドコロの使用部位は特に制限されるものではなく、例えば、根茎、根、茎、葉などを使用できるが、ジオスゲニン含有量の向上等の観点から、根茎を用いることが好ましい。
【0014】
トゲドコロ加工物としては、収穫したトゲドコロを破砕、粉砕処理等を施した破砕物、粉砕物等の処理物を用いてもよく、さらにこれらを乾燥処理した乾燥破砕物、乾燥粉砕物等を用いることができる。
【0015】
ジオスゲニン含有量の向上等の観点からは、トゲドコロの加工物としてトゲドコロの乾燥粉砕物を用いることが好ましい。乾燥粉砕物の大きさに特に制限はないが、例えば、粒径0.1~1mm程度のものが生産効率等の観点から好ましい。またその水分含量にも制限はないが、例えば、7~10質量%(以下、単に「%」で示す)程度が好ましい。トゲドコロ乾燥粉砕物は、例えば、トゲドコロの根茎を厚さ3mm程度にスライスし、70~80℃の熱風で5時間程度乾燥して水分8%程度に調整した乾燥チップを、粗粉砕機で粒径0.5mm程度に粉砕することによって調製することができる。
【0016】
トゲドコロの加工物のジオスゲニン含有量を更に向上させるために、トゲドコロを原料として何らかの処理、例えば、特開2021-185875号公報に記載の有機酸水溶液中での加圧加熱処理をしたり、特許第5684989号に記載の酵素剤および/または麹菌で処理等やそれらの処理を一部改変等してもよいが、特開2021-185875号公報に記載の有機酸水溶液中での加圧加熱処理を一部改変して、トゲドコロを加熱処理することが好ましく、トゲドコロを有機酸水溶液中で加熱処理することがより好ましい。
【0017】
具体的に、トゲドコロを加熱処理する方法は特に限定されないが、例えば、温度は80~140℃が好ましく、90~130℃がより好ましい。加熱処理は、水の存在下で行い、例えば、トゲドコロを水中に分散ないし浸漬した状態で行う。
【0018】
加熱処理の際の圧力は、特に限定されないが、例えば、常圧または加圧で行うことが好ましい。加圧の場合の圧力は50~400kPaが好ましく、100~300kPaがより好ましい。
【0019】
加熱処理を常圧で行う場合には、容器に入れた水を加熱することによって行うことができる。また、加熱処理を加圧で行う場合には、例えば、オートクレーブ等の密閉容器中で、水を加熱するか、水蒸気を容器中に注入することによって、上記温度および圧力の範囲に調整して加熱処理を行うことができる。水蒸気は飽和水蒸気または過熱水蒸気を用いることができ、トゲドコロに水蒸気が直接接触しなくてもよいが、直接接触させることが好ましい。
【0020】
加熱処理の処理時間は、トゲドコロの処理量等に応じて適宜設定できるが、例えば、0.2~1.5時間が好ましく、0.3~1時間がより好ましい。
【0021】
加熱処理において、トゲドコロを分散ないし浸漬する水は、ジオスゲニン含有量向上等の観点から有機酸水溶液であることが好ましい。有機酸としては、クエン酸、酢酸、フマル酸、酒石酸、グルコン酸、コハク酸、りんご酸、乳酸などが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。これらの中でも、ジオスゲニン含有量向上等の観点から、クエン酸、酢酸、乳酸、グルコン酸、りんご酸が好ましく、特にクエン酸が好ましい。有機酸水溶液中の有機酸の濃度は特に制限されないが、0.1~0.75Mが好ましく、0.25~0.5Mがより好ましい。また有機酸水溶液のpHは、1.5~2.0が好ましい。
【0022】
加熱処理後、固液分離処理により固形分を分離して回収することによって本発明のトゲドコロ加工品を得ることができる。固液分離処理としては、濾過、遠心分離、プレス、蒸散等公知の方法を用いることができる。回収した固形分は、必要に応じて、さらに洗浄処理、乾燥処理等を行ってもよく、また粉砕処理等を施してもよい。水による洗浄処理を行うことによって、ジオスゲニン含有量をさらに高めることができる。洗浄処理としては、固液分離したトゲドコロに対し、例えば10~30容量倍の水に浸漬したり、流水に晒す方法などが挙げられる。乾燥処理後の水分活性は、例えば0.7aw以下が好ましく、0.5aw以下がより好ましい。
【0023】
上記のようにしてトゲドコロを有機酸水溶液中で加熱処理して得られるトゲドコロ加工物はジオスゲニン高含有のものであり、例えば、乾燥重量100g当たりのジオスゲニン含有量が、好ましくは500mg以上、より好ましくは800mg以上、さらに好ましくは1200mg以上である。
【0024】
また、トゲドコロを有機酸水溶液中で加熱処理して得られるトゲドコロ加工物は、粘度の上昇が抑制されるため、食感が良好なものである。
【0025】
上記したトゲドコロ加工物の形状は特に限定されず、チップ状、フレーク状、顆粒状、粉末状など各種形状を取り得るが、食品素材として汎用できることから、粉末状であることが好ましい。粉末の大きさは特に制限されるものではないが、例えば、平均粒径60~1500μmが好ましく、60~500μmがより好ましい。本明細書において、平均粒径は顕微鏡法によって測定される値を意味する。
【0026】
以上説明したトゲドコロ加工物は、血圧を改善することができるため、これを有効成分とすることにより血圧改善剤として用いることができる。ここで血圧の改善とは、収縮期血圧(SBP)、拡張期血圧(DBP)等の血圧を低下させる効果があることをいい、特に拡張期血圧(DBP)を有意に低下させる効果があることをいう。本発明の血圧改善剤におけるトゲドコロ加工物の含有量は特に制限されるものではなく、目的や、形状等に応じて適宜設定されるが、例えば、ジオスゲニン換算で1日あたり、8mg以上、好ましくは10~50mg摂取すればよい。本発明の血圧改善剤の摂取時期は特に限定されないが、トゲドコロジオスゲニンは脂溶性の成分であり、油分と摂取することで吸収性が高まる可能性が報告されていることから、例えば、食事の前後に摂取することが好ましい。
【0027】
なお、本発明の血圧改善剤は血圧の改善と共に血糖値を改善することができる。ここで血糖値は、ヘモグロビンA1c(HbA1c)に基づく血糖値のことをいう。ここで血糖値の改善とは、血糖値を有意に低下させる効果があることをいう。そのため、本発明の血圧改善剤は糖尿病の改善にも利用できる。
【0028】
本発明の血圧改善用飲食品は、上記トゲドコロ加工物を含有する血圧改善剤を公知の食品素材および/または食品添加物に配合し、常法に従って製造することができる。
【0029】
本発明の血圧改善用飲食品の形態は特に限定されず、例えば、液状、錠剤、カプセル、ペースト、顆粒、ゲル等とすることができる。飲食品としては、各種サプリメント、パン、ビスケット、ホットケーキ、麺、錠菓等のデンプンを主体とする食品、ガム、キャンディー、和菓子、ゼリー、グミキャンディー等の菓子類、ハム、ソーセージ等の畜肉食品、ちくわ、かまぼこ等の魚肉食品、魚介類食品、豆腐、納豆などの発酵食品、ドレッシング、醤油、ジャム、ふりかけ等の調味料、茶、ジュース、清涼飲料、酒類等の飲料、青汁、プロテイン、プロテインバー等の健康食品等が挙げられる。その他、ペット用サプリメントとしても利用可能である。
【実施例0030】
以下、実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0031】
実 施 例 1
顆粒の製造:
収穫したトゲドコロを乾燥した後、100~300メッシュに粉砕した。ジオスゲニン含有量向上と長期保存等の観点からこの乾燥粉砕物をトゲドコロ乾燥破砕物に対して20倍量の0.5Mのクエン酸水溶液(pH1.5~2.0)に浸漬した。その後、オートクレーブで110~130℃の温度、100~300kPaの圧力で20~30分加圧加熱処理を行った。加圧加熱処理後、容器から取り出したトゲドコロ加圧加熱処理物に付着した糖やクエン酸を除去するため20倍量の水に浸漬し、これを2回繰り返した。この時、水を除去する目的で遠心分離器を用いて固液分離させ固形分を回収した。回収した固形分はスプレードライで乾燥および粉末化してトゲドコロ加工物を得た。このトゲドコロ加工物に純水を加え造粒装置にて顆粒とした。この顆粒は1.8gで20mgのジオスゲニンを含むものであった。
【0032】
参 考 例 1
プラセボ顆粒の製造:
市販のコーンフラワー(マサ粉)を購入し、これに純水を加え造粒装置にてトウモロコシ顆粒とした。
【0033】
実 施 例 2
血圧および血糖値改善試験:
以下の表1に記載の条件で血圧および血糖値改善試験を行った。また、各群の特性を表2に示した。本試験においては、トゲドコロ摂取には実施例1で製造した顆粒、プラセボ摂取には参考例1で製造したトウモロコシ顆粒を用いた。トゲドコロ摂取およびプラセボ摂取は、同じ形状でかつサプリメントを提供する検者がどちらのサプリメントを提供しているかをわからないようにパッケージし、二重盲検法で実施した。試験終了後に、被験者の収縮期血圧と、拡張期血圧を血圧計で測定した。また、被験者の血液を採取し、血中のHbA1cを測定した。これらの結果を
図1~3に示した。
【0034】
【0035】
【0036】
血圧はトゲドコロを摂取した群では、プラセボ摂取群よりも低下した。特に拡張期血圧(DBP)は統計学的に有意に低下した(p<0.05)。一方、収縮期血圧(SBP)もトゲドコロ摂取により低下傾向が見られたが、統計学的な有意差は見られなかった(p=0.239)。また、HbA1cはトゲドコロを摂取した群では、プラセボ摂取群よりも統計学的に有意に低下した(p<0.05)。
【0037】
なお、各群には高血圧の投薬をしている被験者もいたが、群間の差の結果には影響がなかった。
【0038】
実 施 例 3
錠剤の製造:
収穫したトゲドコロを乾燥した後、3~10mmに破砕した。ジオスゲニン含有量向上と長期保存等の観点からこの乾燥粉砕物をトゲドコロ乾燥破砕物に対して20倍量の0.5Mのクエン酸水溶液(pH1.5~2.0)に浸漬した。その後、90~100℃の温度、常圧で30~60分加熱処理を行った。常圧加熱処理後、容器から取り出したトゲドコロ常圧加熱処理物を流水で洗浄し、付着した糖質とクエン酸を除去した。洗浄した流水のpHが5.5~6.5になったことを確認して、ストレーナーにあげて水を切って軽く乾かし、その後乾燥機へ投入して水分活性0.5aw以下まで乾燥させてトゲドコロ加工物を得た。このトゲドコロ加工物を粉末状にして、打錠装置にて打錠して錠剤とした。この錠剤は、1gあたり10~15mgのジオスゲニンを含むものであった。
【0039】
実 施 例 4
トゲドコロ入りプロテインの製造:
実施例3の方法で得られたトゲドコロ加工物を、タンパク質を主原料としたプロテイン製品(動物性、植物性問わない)に加えてトゲドコロ入りプロテインとした。
【0040】
実 施 例 5
トゲドコロ入りプロテインバーの製造:
実施例3の方法で得られたトゲドコロ加工物に、プロテイン、アーモンド等のナッツ類、オーツ麦等の穀物類を加えて加熱し、ココアパウダーや砂糖などで適宜味付けをしたものを固めてトゲドコロ入りプロテインバーとした。
【0041】
実 施 例 6
トゲドコロ入り青汁の製造:
実施例3の方法で得られたトゲドコロ加工物を、大麦若葉やケール等で製造した青汁に適宜加えてトゲドコロ入り青汁とした。
【0042】
実 施 例 7
トゲドコロ入りふりかけの製造:
醤油、みりん、酒、砂糖を鍋にかけ、そこに実施例3の方法で得られたトゲドコロ加工物と鰹節、ごまを入れ、汁気がなくなるまで加熱してふりかけとした。
【0043】
実 施 例 8
清涼飲料水の製造:
砂糖に水を加え加熱しながらかき混ぜて溶解し糖液を作った。これに実施例3の方法で得られたトゲドコロ乾燥物とシークヮーサー果汁を加えて、撹拌しシロップを作った。さらに、このシロップに蒸留水を加えて清涼飲料とした。
【0044】
実 施 例 9
トゲドコロゼリーの製造:
寒天に水を加え加熱して溶かし、そこに実施例8の方法で得られたシロップを加えて、粗熱がとれるまで常温で放冷し、その後冷蔵庫で冷却してゼリーとした。
【0045】
実 施 例 10
ペット用サプリメントの製造:
実施例3の方法で得られたトゲドコロ乾燥物と鰹節、みりん、砂糖を鍋にかけ汁気がなくなるまで加熱してペット用サプリメントとした。