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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176844
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】静止誘導電器
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/10 20060101AFI20231206BHJP
   H01F 30/10 20060101ALI20231206BHJP
   H01F 27/28 20060101ALI20231206BHJP
   H01F 27/08 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
H01F27/10
H01F30/10 S
H01F27/28 176
H01F27/08 150
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089360
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100132067
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 喜雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120444
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 雅章
(72)【発明者】
【氏名】神谷 陽
【テーマコード(参考)】
5E043
5E050
【Fターム(参考)】
5E043DB05
5E043DB06
5E043DB08
5E050CA02
(57)【要約】
【課題】折流部材にて巻線が部分的に高温になる場所を効率良く冷却できるようにすること。
【解決手段】静止誘導電器は、上下方向に複数積層された状態で内側円筒(12)及び外側円筒(13)の間の空間(SP)に配置される円板巻線(11)を備えている。空間には、内側円筒と円板巻線の内周側との間に形成された内側垂直冷却路(16)と、外側円筒と円板巻線の外周側との間に形成された外側垂直冷却路(17)とが形成される。折流部材(20)は、内側垂直冷却路及び外側垂直冷却路の上下方向複数箇所に設けられる。折流部材は、各垂直冷却路の流体の流れを妨げる案内部(21)を備え、複数箇所の折流部材の少なくとも一部にて案内部に流体が通過する開口(26)が形成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側円筒と、外側円筒と、上下方向に複数積層された状態で前記内側円筒及び前記外側円筒の間の空間に配置される円板巻線とを備え、前記空間の下方から上方に流体を流して前記円板巻線を冷却する静止誘導電器であって、
前記空間には、前記内側円筒と前記円板巻線の内周側との間に形成された内側垂直冷却路と、
前記外側円筒と前記円板巻線の外周側との間に形成された外側垂直冷却路と、が形成され、
前記内側垂直冷却路及び前記外側垂直冷却路の上下方向複数箇所に設けられた折流部材を備え、
前記折流部材は、前記内側垂直冷却路または前記外側垂直冷却路における上下方向の流体の流れを妨げる案内部を備え、
前記複数箇所の折流部材の少なくとも一部にて、前記案内部に流体が通過する開口が形成されることを特徴とする静止誘導電器。
【請求項2】
前記空間に設けられる前記複数箇所の折流部材のうち、最下部の前記折流部材の前記案内部に前記開口が形成されることを特徴とする請求項1に記載の静止誘導電器。
【請求項3】
前記折流部材は、前記円板巻線の側面に取り付けられる板状の取付部を更に備え、
前記案内部は、板状として前記取付部と一体形成され、前記取付部との境界にて折り曲げて形成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の静止誘導電器。
【請求項4】
前記開口は、前記案内部に複数形成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の静止誘導電器。
【請求項5】
前記開口が形成される前記折流部材が複数とされ、前記折流部材の上下方向の位置に応じて前記開口の形状及び開口面積の少なくとも一方が異なって形成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の静止誘導電器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静止誘導電器に関し、特に、巻線を内側円筒と外側円筒との間に配置して冷却用の流体を流す静止誘導電器に関する。
【背景技術】
【0002】
変圧器やリアクトル等の静止誘導電器の巻線にあっては、絶縁油、SF6、空気等の流体を流すことで、運転時の損失による発熱を冷却する構成が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の誘導電器巻線は、水平流体通路となる間隔を保って高さ方向に円板状巻線層を積み重ね、かかる円板状巻線層を内側絶縁筒と外側絶縁筒との間に配置して構成されている。円板状巻線層と、内側、外側絶縁筒との間には内側、外側垂直流体通路が形成され、かかる内側、外側垂直流体通路を折流板によって交互に閉鎖して折流区間が形成されている。特許文献1では、下方の折流区間から上方の折流区間に順に、内側、外側垂直流体通路を通じて水平流体通路に流体を流すことで巻線を冷却するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63-305727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
静止誘導電器の巻線を冷却する構成では、冷却効率を良好に得るために巻線を冷却しつつ巻線全体の温度の均一化を図ることが必要になる。このため、巻線の上下方向の何れの場所においても流体の流れに淀みが生じることを抑制することが求められる。しかしながら、特許文献1のように内側、外側垂直流体通路を交互に閉鎖して折流区間が形成される構成では、折流板の設置箇所によっては淀みが生じ、巻線が部分的に高温になる、という問題がある。よって、折流板の設置箇所等において巻線が部分的に高温になる場所の冷却を促進できるようにすることが望まれていた。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、折流部材にて巻線が部分的に高温になる場所を効率良く冷却することができる静止誘導電器を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明における一態様の静止誘導機器は、内側円筒と、外側円筒と、上下方向に複数積層された状態で前記内側円筒及び前記外側円筒の間の空間に配置される円板巻線とを備え、前記空間の下方から上方に流体を流して前記円板巻線を冷却する静止誘導電器であって、前記空間には、前記内側円筒と前記円板巻線の内周側との間に形成された内側垂直冷却路と、前記外側円筒と前記円板巻線の外周側との間に形成された外側垂直冷却路と、が形成され、前記内側垂直冷却路及び前記外側垂直冷却路の上下方向複数箇所に設けられた折流部材を備え、前記折流部材は、前記内側垂直冷却路または前記外側垂直冷却路における上下方向の流体の流れを妨げる案内部を備え、前記複数箇所の折流部材の少なくとも一部にて、前記案内部に流体が通過する開口が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、円板巻線の冷却にて折流部材を設けた構成としつつ折流部材によって流体の流れに淀みが生じる箇所でも、該折流部材に形成される開口を通じて流体が流れる量を増やすことができる。これにより、折流部材に対し、上下方向の流体の流れを所定量妨げつつ、該流体の流れを所定量促進して淀みが発生することを抑制することができる。これにより、折流部材の設置箇所にて巻線が部分的に高温になることが回避可能となって巻線全体の温度の均一化を図ることができ、巻線の冷却効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態に係る変圧器の部分概略断面図である。
図2】実施の形態に係る変圧器の概略平面断面図である。
図3図1のC-C線断面図である。
図4】内側冷却路に設けられる折流部材の展開図である。
図5】外側冷却路に設けられる折流部材の展開図である。
図6】最下部の折流部材の一例を示す展開図である。
図7】最下部の折流部材の他の一例を示す展開図である。
図8】最下部の折流部材の更に他の一例を示す展開図である。
図9】実施の形態における巻線の温度を推定したグラフと、比較構造における巻線の温度をシミュレーションしたグラフとを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態に係る静止誘導電器について、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下においては、本発明に係る静止誘導電器を油入絶縁変圧器に適用する場合について説明する。しかしながら、本発明の適用対象は、油入絶縁変圧器に限定されるものではなく適宜変更が可能である。例えば、乾式変圧器やガス変圧器に適用することもできる。静止誘導機器としては変圧器の他、リアクトルとすることが例示できる。
【0011】
実施の形態の変圧器(油入絶縁変圧器)は、特に限定されるものでないが、上下方向に延在する鉄心の脚部に巻回されて同心円上に配置された外側巻線(誘導電器巻線)及び内側巻線(誘導電器巻線)を備え、それらが密閉された筐体内に配置されている。外側巻線及び内側巻線は、径寸法が異なる以外は、ほぼ同様の構成をなしており、以下においては、外側巻線だけに関する冷却構造について説明する。また、以下の説明では、外側巻線を単に「巻線」と称して説明する。
【0012】
図1は、実施の形態に係る静止誘導電器の部分概略断面図である。図2は、実施の形態に係る静止誘導電器の概略平面断面図である。なお、図1は、図2のA-A線断面図である。図1に示すように、巻線10は、複数の円板巻線11を上下方向に積層するように形成されている。円板巻線11は素線を円板状に巻回することによって形成される。巻線10は、絶縁性の内側円筒12と外側円筒13との間の空間SPに配置されている。巻線10、内側円筒12及び外側円筒13は、上下方向に延びる鉄心の脚部(不図示)を中心として同心に配置されている。
【0013】
巻線10、内側円筒12及び外側円筒13を収容する筐体(不図示)内には、絶縁及び冷却を行う流体(絶縁油)が充填されている。充填された流体は、図1の太線矢印で示すように、空間SPの内部を下方から上方に流れて循環され、巻線10が冷却されるようになる。流体の循環は、自然対流を利用する場合と、ポンプ等で強制的に循環させる場合とがあり、自然対流でも強制対流でも各円筒12、13間での流体の流れは上向きとなる。従って、流体の流れは、巻線10や各円筒12、13の「下側」が上流側となり、「上側」が下流側となる。なお、循環する流体にあっては、筐体の外部に設置された熱交換器を介して強制的に熱交換をするようにしてもよい。
【0014】
上下に隣り合う円板巻線11の間には、水平スペーサ(図示省略)を介して水平冷却路15が形成されている。内側円筒12と円板巻線11(巻線10)の内周側の端部との間には、内側縦スペーサ(スペーサ)S1(図2参照、図1では不図示)を介して内側垂直冷却路16が形成されている。外側円筒13と円板巻線11の外周側の端部との間には、外側縦スペーサ(スペーサ)S2(図2参照、図1では不図示)を介して外側垂直冷却路17が形成されている。内側縦スペーサS1及び外側縦スペーサS2は、上下方向(図2の紙面直交方向)に延出し、且つ、円板巻線11の周方向に等角度毎に複数設けられている。本実施の形態では、内側縦スペーサS1及び外側縦スペーサS2は、それらの円板巻線11の周方向における角度位置が同一となるよう(円板巻線11の径方向に並ぶよう)複数(図2では16体)ずつ設けられている。
【0015】
図1に戻り、内側垂直冷却路16及び外側垂直冷却路17の上下複数箇所には折流部材20が設けられている。折流部材20は、内側垂直冷却路16及び外側垂直冷却路17にて、上下に並ぶ円板巻線11の所定設置数毎に設けられる。本実施の形態では、折流部材20は、上下に並ぶ4体の円板巻線11毎に、内側垂直冷却路16及び外側垂直冷却路17における上下方向の流体の流れを交互に妨げるように設けられている。ここにおいて、上下に隣り合う折流部材20の間の領域が、それぞれ折流区間SEとして形成される。
【0016】
それぞれの折流区間SEでは、流体の流入部及び流出部が形成されている。流入部は、下方に隣り合う折流区間SEの最上位の円板巻線11における内外の端部において、折流部材20が非設置となる方の端部側に形成される。流出部は、折流区間SEの最上位の円板巻線11における内外の端部において、折流部材20が非設置となる方の端部側に形成される。例えば、図1中上方から3番目の折流区間SEでは、図中太線矢印で示すように、内側垂直冷却路16を流れる流体が水平冷却路15を流れてから外側垂直冷却路17に流入する。そして、その流体は、図1中上方から2番目の折流区間SEにて、外側垂直冷却路17から水平冷却路15を経て内側垂直冷却路16を流れる。従って、上述のように折流部材20を交互に設けたことで、上下に隣り合う折流区間SEの水平冷却路15での流体の流れを左右で逆向きとし、上方に向かってジグザグに流体が流れて効率的に各円板巻線11を冷却可能となっている。
【0017】
続いて、折流部材20の具体的構成及び取付方法について説明する。折流部材20は、それぞれ板状の取付部21、案内部22及び延長部23が一体形成され、図1の断面視でコ字状(U字状)をなす形状に設けられている。
【0018】
図3は、図1のC-C線断面図である。図1及び図3に示すように、内側垂直冷却路16に設けられる折流部材20の取付部21は、円板巻線11の側面となる内周面に沿って配置される。外側垂直冷却路17に設けられる折流部材20の取付部21は、円板巻線11の側面となる外周面に沿って配置される。取付部21は、内側縦スペーサS1或いは外側縦スペーサS2(図1では不図示)と円板巻線11の内周面或いは外周面とに挟まれた状態となり、かかる状態となることで折流部材20が円板巻線11に取り付けられる。
【0019】
案内部22は、取付部21の上端に連なって形成され、内側垂直冷却路16或いは外側垂直冷却路17を塞ぐように該上端から水平方向に延出している。案内部22は、取付部21との境界にて折り曲げて形成された平面状に設けられる。案内部22の水平方向の長さは、各垂直冷却路16、17の水平方向の幅寸法と概略同一若しくは若干大きく形成されている。よって、内側垂直冷却路16での案内部22の一端(図1中左端)は内側円筒12の外面に接触し、外側垂直冷却路17での案内部22の一端(図1中右端)は外側円筒13の内面に接触する。これにより、案内部22は、各垂直冷却路16、17における上方への流体の流れを妨げるようになる。
【0020】
延長部23は、案内部22における取付部21と反対側(内側円筒12や外側円筒13側)に連なって形成される。よって、案内部22の一方側に取付部21、他方側に延長部23が一体形成される。内側垂直冷却路16に設けられる折流部材20の延長部23は、内側円筒12の外面に接触する位置に配設される。外側垂直冷却路17に設けられる折流部材20の延長部23は、外側円筒13の内面に接触する位置に配設される。延長部23は、案内部22との境界位置から下方向(図3中紙面奥行方向)に向けられている。
【0021】
図3に示すように、案内部22及び延長部23には、各スペーサS1、S2の設置位置に応じて切欠24が形成されている。切欠24は、各スペーサS1、S2に沿う矩形状に形成され、各スペーサS1、S2を受容するように設けられている。これにより、切欠24の形成縁以外の案内部22及び延長部23が各スペーサS1、S2に対し非接触としつつ、取付部21に各スペーサS1、S2が接触可能な状態となる。切欠24は、上方から見て、円板巻線11の周方向両側から各スペーサS1、S2を挟むように配置され、切欠24と各スペーサS1、S2とが嵌合するようになって折流部材20の該周方向での位置決めがなされる。
【0022】
図4は、内側冷却路に設けられる折流部材の展開図である。図5は、外側冷却路に設けられる折流部材の展開図である。図4に示す折流部材20は、内側垂直冷却路16(図2参照)に設けられるものであり、図5に示す折流部材20は、外側垂直冷却路17(図2参照)に設けられるものである。図4及び図5の折流部材20は、シート状や板状の薄厚体Bを適宜な平面形状に形成し、該薄厚体Bの一部となる図4中破線で示す位置にて曲げ変形させて形成される。折流部材20の材質は、絶縁材であれば特に限定されるものでないが、セルロースを主成分としたクラフトパルプ、或いはアラミド繊維を原料とし、繊維を抄紙、積層、圧縮し、板状にしたプレスボード或いはアラミドボードを単層、又は2乃至3層重ねたものが用いられる。
【0023】
ここで、内側垂直冷却路16及び外側垂直冷却路17は上方から見て円環状に形成されるので(図2参照)、これに応じた曲率にて内側垂直冷却路16及び外側垂直冷却路17に設けられる折流部材20も円環状に形成される。本実施の形態では、1体の折流部材20を四分円弧状の平面形状に形成し、かかる折流部材20を4体接続することで円環状に形成して内側垂直冷却路16及び外側垂直冷却路17での流体の流れを妨げ可能に設けられる。
【0024】
図4に示す展開した折流部材20は概略四分円弧状をなし、その径方向外側から内側に向けて順に取付部21、案内部22、延長部23が形成されている。案内部22及び延長部23に形成される切欠24は、内側縦スペーサS1(図3参照)の設置位置に応じた箇所に形成される。また、図5に示す展開した折流部材20も概略四分円弧状をなし、その径方向内側から外側に向けて順に取付部21、案内部22、延長部23が形成されている。案内部22及び延長部23に形成される切欠24は、外側縦スペーサS2(図3参照)の設置位置に応じた箇所に形成される。折流部材20にて、取付部21は、円板巻線11(図3参照)の側面に沿う円周方向にて複数の切欠24を跨いで連続する領域を備える。また、案内部22及び延長部23は、該円周方向にて切欠24の形成位置で非連続となって断続する領域を備える。切欠24には上記のようにスペーサS1、S2が配置されるので、取付部21が複数のスペーサS1、S2を通過するように連続し、案内部22及び延長部23がスペーサS1、S2によって区切られるようになる。
【0025】
図4及び図5の破線で示すように、取付部21及び案内部22の境界位置と、案内部22及び延長部23の境界位置とが折り曲げ位置とされる。従って、かかる折り曲げ位置を介して取付部21と案内部22とが連なって形成され、案内部22と延長部23とが連なって形成されるようになる。また、折流部材20は、延長部23と案内部22との境界にて折り曲げて形成される。
【0026】
上記静止誘導電器の製造においては、巻線機上に内側円筒12を配置して心線を巻き、内側円筒12の外側に複数の円板巻線11を上下方向に積層するように巻線10を形成する。このとき、内側縦スペーサS1と心線との間に、内側垂直冷却路16用の折流部材20の取付部21を挿入するようにして該折流部材20を取り付ける。巻線機での巻線10の形成完了後、巻線10に外側縦スペーサS2を取り付ける際に、外側縦スペーサS2と円板巻線11との間に外側垂直冷却路17用の折流部材20の取付部21を挿入するようにして該折流部材20を取り付ける。その後、外側円筒13内に巻線10を挿入する、或いは、巻線10の外側に外側円筒13を被せ、外側円筒13内に巻線10が配置された状態とすることで、図1及び図3に示す静止誘導電器の構造として製造することができる。
【0027】
上述のように、内側円筒12と外側円筒13との間の空間SPにて上下方向複数箇所に折流部材20が設けられている。本実施の形態においては、空間SPにて、複数箇所の折流部材20のうちの一部となる最下部の折流部材20A(図1にて括弧書きで符号を並記)は、他の折流部材20と異なる構成とされる。具体的には、最下部の折流部材20Aにおける案内部22には、流体が通過する開口26が複数形成されている。
【0028】
本実施の形態では、最下部の折流部材20Aが内側垂直冷却路16に設けられる。なお、最下部の折流部材20Aは、内側垂直冷却路16及び外側垂直冷却路17の何れに設けた構成としてもよいが、ここでは、一例として内側垂直冷却路16に設けられる場合を説明する。
【0029】
図6は、最下部の折流部材の一例を示す展開図である。図6に示すように、最下部の折流部材20Aにおいても、図4に示す他の折流部材20と同様に、取付部21、案内部22及び延長部23が一体形成される。案内部22の面内には、概略正方形状の開口26が複数形成されている。具体的には、開口26は、上から見て円弧状をなす折流部材20Aの該円弧の延出方向に所定間隔毎に並んで形成されている。図6の構成では、折流部材20Aの該円弧の延出方向に隣り合う2つの切欠24の間にて、5つの開口26が形成されている。
【0030】
なお、開口26の形状は、種々の変更が可能であり、例えば、図7及び図8に示す構成に変更することができる。図7は、最下部の折流部材の他の一例を示す展開図である。図8は、最下部の折流部材の更に他の一例を示す展開図である。
【0031】
図7の折流部材20は、図6の構成に対して開口26の形状を長方形状に変更して構成される。図7の折流部材20の開口26は、円弧状をなす折流部材20Aの該円弧の延出方向に細長く形成され、該延出方向に隣り合う2つの切欠24の間にて、2つの開口26が形成されている。図8の折流部材20は、図6の構成に対して開口26の形状を円(真円)形状に変更して構成される。
【0032】
本実施の形態では、上述のように、空間SPにて上下方向複数箇所に折流部材20を交互に設けている。これにより、上下に隣り合う折流区間SEの水平冷却路15での流体の流れを左右で逆向きとし、上方に向かってジグザグに流体が流れて効率的に各円板巻線11を冷却可能となっている。しかも、最下部の折流部材20Aに開口26を形成したので、内側垂直冷却路16を流れる流体が最下部の折流部材20Aで所定量遮られつつ、開口26を通じて所定量の流体を上方に向かって流すことができる。これにより、最下位の円板巻線11の下方であって、流入部と反対側となる内側垂直冷却路16寄りの領域にて流体が淀んで滞留することを抑制でき、最下位の円板巻線11を効果的に冷却することができる。
【0033】
ここで、本実施の形態の流体による冷却効果を確認すべく、比較構造についてシミュレーションを行い、該シミュレーションの結果から実施の形態の構成について冷却効果を推定した。図9は、実施の形態における巻線の温度を推定したグラフと、比較構造における巻線の温度をシミュレーションしたグラフとを示す図である。図9では、図1と同様に示す断面図の上下位置に対応して巻線10の温度の変化がグラフによって示され、実施の形態の温度変化が実線、比較構造の温度変化が破線で示される。なお、図9のグラフにて実線だけで示される部分は、実施の形態と比較構造との温度変化が概ね同一となっている。
【0034】
比較構造は、実施の形態に対し、最下部の折流部材20Aに開口26を形成せずに、他の折流部材20と同様に案内部22を形成した構成とされる。かかる比較構造と実施の形態とについて、同じ条件で油入絶縁変圧器を稼働させた場合の巻線10の温度をシミュレーションした。その結果が図9に示される。
【0035】
比較構造では、最下部の折流部材20Aにて内側垂直冷却路16に流体が流れることが妨げられ、該折流部材20Aの下端周りSにて流体の流れが淀んでしまう。これにより、比較構造は、巻線10の最下位の円板巻線11を流体によって十分に冷却できなくなり、図9の破線のグラフで示すように、最下位の円板巻線11の温度が他の領域の温度に比べて著しく高くなる。よって、比較構造は、巻線10にて局所的に高温になる箇所が発生し、巻線10全体を十分に冷却できなくなる。
【0036】
この点、実施の形態では、最下部の折流部材20Aに開口26を形成したので、該折流部材20Aの下端周りSから開口26を通過して流体を内側垂直冷却路16に流すことができる。これにより、該折流部材20Aの下端周りSにて流体が淀むことを回避しつつ、該折流部材20Aの設置箇所と、円板巻線11を挟んで反対側の外側垂直冷却路17との流体の流量をバランス良く維持することができる。その結果、図9の実線のグラフで示すように、比較構造に比べ、最下位の円板巻線11の温度を大きく低下することができる。これにより、実施の形態では、巻線10の温度の均一化を図ることができ、巻線10全体としての冷却効果を十分に得ることができる。
【0037】
このように、上記実施の形態においては、上述した従来構造の下端周りSのように流体が淀む箇所が発生する場合でも、折流部材20に開口26を形成して流体の流量が増えるよう調整でき、流体の淀みの発生を抑制することができる。言い換えると、巻線10の一部において高温となり易い箇所にて開口26の形成により流体の流量を調整でき、巻線10のピークとなる温度を低下させて巻線10全体での温度のばらつきを小さくすることができる。以上のように、上記実施の形態では、開口26の形成によって過度の温度上昇が発生し易い部分の冷却効率を局部的に改善して巻線10全体の温度の均一化を図り、巻線10の冷却効率を向上させることができる。
【0038】
また、上記実施の形態によれば、板状の薄厚体Bを曲げ変形させることで、折流部材20の取付部21、案内部22及び延長部23それぞれを形成することができる。このように薄厚体Bとしたことで、案内部22に開口26を簡単に形成でき、ひいては、図6図8のように開口26の形状にバリエーションを持たせた折流部材20を容易に製作可能となる。更に、案内部22に対する開口26の形成数も種々のバリエーションを容易に持たせることができる。
【0039】
本発明の実施の形態は上記の実施の形態及び変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。更には、技術の進歩又は派生する別技術によって、本発明の技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。従って、特許請求の範囲は、本発明の技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。
【0040】
上記において、本発明の実施の形態及び変形例を説明したが、本発明の他の実施の形態として、上記実施の形態及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
【0041】
上記実施の形態では、上下方向にて複数箇所設けられた折流部材20のうち最下部の折流部材20Aに開口26を形成したが、これに限られるものでない。開口26が形成される折流部材20は、複数箇所の折流部材20のうち少なくとも一部であればよく、巻線10が温度上昇し易い箇所に応じて、複数の折流部材20や、全部の折流部材20に開口26を形成してもよい。
【0042】
このように複数の折流部材20に開口26が形成される場合、折流部材20の上下方向の位置に応じて開口26の形状及び開口面積の少なくとも一方が異なって形成されるようにしてもよい。例えば、空間SP内の流体の循環による巻線10の温度上昇の傾向等に応じ、折流部材20の設置位置が上に行くにつれて開口26の開口面積を漸次大きくし、開口26を流れる流体の流量を増やすようにしてもよい。このような構成によっても、巻線10の高温となり易い箇所の流体の流量を開口26の形成によって調整し、巻線10全体の温度の均一化を図ることができる。
【0043】
また、上記実施の形態において、1体の折流部材20により流体を遮断する領域が、上方からみて各垂直冷却路16、17の四分円弧状の領域とする場合を説明したが、これに限られず、各垂直冷却路16、17の周方向に延長若しくは短縮してもよい。例えば、各垂直冷却路16、17の半円弧状の領域としたり、周方向に隣り合うスペーサS1、S2間の領域としたりしてもよい。
【0044】
また、上記実施の形態では、板状の薄厚体Bを曲げ変形させることで折流部材20を形成したが、折流部材20をブロック状に形成しつつ流体の流れを妨げる案内部22の形成領域に開口26を形成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0045】
10 巻線(誘導電器巻線)
11 円板巻線
12 内側円筒
13 外側円筒
16 内側垂直冷却路
17 外側垂直冷却路
20 折流部材
20A 最下部の折流部材
21 取付部
22 案内部
26 開口
SP 空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9